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SEED-IF_CROSS POINT_第21話

Last-modified: 2010-04-15 (木) 03:25:32
 

第21話 『折れた翼を羽ばたかせ』

 
 

「ディーヴァから出撃する機体を確認。ドムトルーパーが3、ストライクが5機」
「出撃した増援がたった8機だと…?
 搭乗しているのは元白服だとはいえ、随分と我々も舐められたものだな」
「更なる機体の出撃を確認、数は5機。合計は13です。機体は……なんだろコレ」
「相手によって戦術を変えるのは戦場の常だ、報告は正確にするように」
「はい、申し訳ありません艦長」

 

レーダーに現れた反応を見て、オペレーターの少女は思わず普段通りの言葉遣いに戻る。
戦場に現れた舞姫の名を持つ大型宇宙空母。
そこから敵のMSが出撃していくが、思っていたよりも数が少ない。
いや、それはそれで事実として報告すれば良いだけなのだが、新しい反応がMSにしては大きいのだ。
敵は連合のMAでも鹵獲していたのか。
そんな事を考えながらレーダーからカメラに切り替え最大望遠で確認する。

 

そして、見てしまった。

 

「MS…違う……そんな、これは!!」
「……ん、どうした」
「早く報告しないか!」

 

艦長は正確な報告を求めようとしたが、自分の表情を見て言葉を止める。
その代わりに自分を急かしたのは副長だった。
確かに混乱して止まっている場合じゃない。混乱するならするで構わないから、事実だけを述べなければ。
事の判断をするのは彼らだ、自分ではないのだから。

 

「で、ディーヴァから出撃してきたのはミーティアです!! 数は5機、自軍の前衛に急速接近中!!」
「何だと!?」

 

ディーヴァから発進したMSと接続される機体。従来のものより少し小振りだが、
間違いなくそれはミーティアだった。
ストライクがただのMSから単機で戦況を一変させる戦略兵器へと変貌し、
追撃のために突出した2隻の戦艦に襲い掛かった。
雨の様に降り注ぐミサイルと紅い矢を放つ主砲によってMS隊が瞬く間に一掃され、
そして戦艦に向かってビームソードが大きく伸びる。
2隻が炎に包まれるのに、大した時間はかからなかった。

 

「ヘルダーリン、ルソー共に交信が途絶えました!!」
「………なるほど、5機で足りるわけだ」

 

自分の報告を受けて納得した様に呟く艦長。だがそうやってのんきにしている場合ではない。
他の艦も即座に火線を集中させて迎撃に移るものの、ミーティアの攻撃はそれすら打ち破りそうだった。
せっかく手繰り寄せた勝利が瞬く間に遠ざかっていく。
そんな現実に顔を青ざめながら、少女は画面を見つめ続ける。
この状況、一体どうすれば良いのか。

 
 

『退くしかないだろうな。このままだと全滅しかねない』
「アスカさん?」

 

ブリッジに声が響く。発信源はデスティニーから。
シン=アスカが淡々とした声で撤退を提言していた。

 

「全滅……? 何を弱気なことを。敵の数は少ないし、此方のMSの数もまだ十分だ。
 キラ=ヤマトが戦闘不能な今となっては、戦いの流れはまだ我々にある筈。
 ミーティアどもを突破してフリーダムを落とすのも無理な話では」
「いや副長、あれが向こうの全軍だと言うのならば君の言う通りなのだろうが……。
 おそらくデーヴァの中にはまだかなりの戦力がある。
 そして此方は数こそいるが、練度が想像以上に低かった。
 動揺している今の状況で総力戦に持ち込まれたら負けは見えている。フリーダムももう届くまい」
『だから今は退くしかない。戦いは1度きりって決まったわけじゃないんだ。
 次の戦いのために。傷が浅いうちに』
「……むぅ」

 

横にいた黒服の副長が彼の発言を否定するが、続く2人の言葉に押し黙った。
この場にいる誰もが、つい先ほどまで敗色濃厚だったのを忘れていたわけではない。
もう認めるべきなのだ。今の自分たちでは彼らに勝てないということを。

 

「……で、でも」

 

最大戦力であるデスティニーも手負いだし、こちらに予備戦力は無い。
命あっての物種だ。2人がそう言うのならそれが事実なのだろう。だから自分も撤退自体に不満は無い。
しかしここで思うのは一つの不安事項。
退くと簡単に言ってはいるが、古来より撤退戦ほど難しい戦いは無いという。
果たしてそう簡単に逃げ切れるものなのだろうか?

 

「退くって言っても相手はミーティアですよ? 戦艦の足では逃げ切れないんじゃ……」
『俺が足止めする。アンタたちは早く撤退しろ。どうせヤツらの狙いは俺だ』
「ってええ!? そんな、無茶です!! 相手は普通の機体どころかミーティアなんですよ!?
 しかもデスティニーはもうまともに戦える状態じゃないじゃないですか!! 死ぬつもりですか!?」

 

思わず制止の言葉を叫んでしまった。そこは簡単に言うところじゃない。
それでなくても先程まであのキラと戦っていたのだ。機体の損傷も、彼自身の疲労も相当なものだろう。
この状況、いかに英雄シン=アスカといえども無茶だ。

 

なのに。

 

『いいから。任せろ』
「な、ちょ……」

 

何なのだろう、彼のこの言い切り様は。
死を覚悟したと言うわけでもなく、勝算がある様にも見えない。
ただ、自分がそうするのが当たり前の事のような表情。

 

「わかりました。お任せします。
 ……申し訳ありません、貴方は任務をほぼ果たしたというのに……。我が部隊の層が薄かったようです」
『こっちが勝手にやってることです。気にしないでください』
「艦長!?」
「時間が無いのだ。この状況での決断の遅れは、部隊の瓦解に繋がりかねん」
『そういうこと』

 

話はついたと言わんばかりに頷きあうシンと艦長。だが2人とも理解しているのだろうか。
それはこの場に彼1人を置いて逃げるということなのに。

 

「そんな、待って下さい、かんちょ…」
「我々は後退します。殿軍を頼みます」
『了解。……それと、ありがとな』
「アスカさんっっ!!」

 

最後に自分に向かってそう笑いかけると、彼は通信を切った。必死に呼びかけるが応答は無い。
それを気にした様子も無く、艦長は指示を出した。

 

「信号弾を挙げ、全軍に撤退を通達しろ。他の艦が十分な距離を取り次第、本艦も宙域を離脱する」
「待って下さい艦長……お父さん!!」
「……軍の中ではそう呼ぶなと教えた筈だが?」
「でも!!」

 

艦長に、いや自分の父に対して懇願する。
しかしいつもはなんだかんだで娘である自分に甘い人なのに、
こんなときに限って彼は取り合ってくれなかった。

 

「彼1人の命と部隊の全滅、秤に掛けるわけにはいかんのだ」
「そんな…いやぁ……アスカさん………!!」
「彼の無事を祈るくらいはしてもいいだろう。
 だが今お前がすべきことは、そうやって両手を組んで神に祈る事ではない。
 その手を動かして一刻も早くここから離れる事の筈だ。
 今は私たちの行動一つに部隊の者たちの命が懸かっていることを忘れるな。
 そして我々がもたつけば、それだけ彼自身の撤退が遅れるという事実もだ。
 お前は彼の足を引っ張りたいのか?」
「くっ…………わかってますよ、そんな事はっ!!!」

 

気付けばブリッジ内の全ての視線が自分たちに集まっていた。
皆シン=アスカの提案を受け入れざるを得ないという顔をしている。
そして本当は、自分でもこの方法しかないということはわかっていた。でも納得はできない。
勿論この状況で自分が彼を守ったり救ったりできるなど思ってはいない。
だが自分達は軍人で、彼は民間人なのだ。
それなのに自分達がやったことと言えば、危険な相手は彼に任せて敵の弱い方と戦い、
そしてそれすら落とす事ができず。
終いには彼を見捨てて逃げ出す始末だ。
緊張していた自分に気を使ってくれた、あの優しい笑顔を向けてくれた、彼を見捨てて。

 

信号弾が挙がる。数は3つ、退却の意味。

 

「ううっ…」

 

強く目を閉じ、吹っ切るように見開いた。今の自分がすべきことを。
彼の覚悟を無駄にしないために。
未だに戦いを続けている艦に通信を開く。

 

「こちらボルテール。デスティニーが殿軍を務めます。各艦後退しつつ敵と距離をとって下さい」

 

旗艦からのその通信を待っていたのか、急速に後進を始める戦艦たち。
それと入れ違いに1機のMSが真紅の翼を羽ばたかせながら前に出た。
デスティニー。その後姿を見た瞬間、彼女の目から涙がこぼれる。
広い漆黒の宇宙の中、彼らが放つ紅い光はひどく小さい。今にも闇に飲み込まれてしまいそうなほどに。

 

「まだ、私の名前教えてないんだから……伝えたい言葉もあるし、
 したかったことだっていっぱいあるんだから……!!」

 

滲む視界を気にせず、少女はもの凄い勢いでキーボードを叩く。
まるで怒りや悲しみ、自分の感情全てをその速度の対価にするように。
そう、彼女は怒っていたのだ。
彼を置いて逃げることが、自分が彼にできる唯一のこと。そんな自分が悔しかったから。

 

―――どうか。どうか、無事で

 

心の中で祈ることしかできない自分が、悔しかったから。

 
 
 

艦隊が敵から十分距離を取った後、ボルテールも後退を始めた。そしてMS達も追いかけるように逃げていく。
視線の先では丁度逃げ遅れた艦が沈み、所属のMSが爆発するところだった。
流石に最前線の隊までは逃げ切れなかったか。こっちも飛ばしてはいたものの、もう救助は間に合うまい。
その光景を視界の端で見ながらシンは意識を切り替え、愛機デスティニーの状態をチェックした。
正直あまり芳しくない。

 

フリーダムによって付けられた傷で、左腕とビームシールドは反応なし。
スコールは既に破壊され、右足も消失している。おまけに先ほどまでの戦闘で出力も若干落ちていた。
アロンダイトを回収できたのがせめてもの救いだが、絶望的な状況は変わらない。

 

「やれやれ、勢いづいちゃってまあ」

 

遠くに見える5つの流星。
なんとなく解る。あの動き、機体の性能だけではなくパイロットの腕も相当だ。
機体がまともならいざ知らず、今の状況でこのまま戦えば勝算はかなり低くなるだろう。
だけど不思議と心は落ち着いていた。
無様な敗走で敵は強敵、おまけに援軍の当ては無いというのに。

 

「さて、そろそろ行くか」

 

シンの想いに呼応するように、デスティニーは紅い翼を広げた。残された右手が輝き始める。
受身は性に合わない。いや、受けに回るとすぐにやられてしまうだろう。
そんなことでは殿軍の意味が無い。
奴らの喉笛に喰らい付く。それくらいやって初めて敵はその足を止める。
だから前に出る。結局の所、自分のする事はいつもと何も変わりゃしない。
遥か遠くから5機が同時にミサイルを発射した。蟻の這い出る隙間も無いほどのミサイルの群れ。
自分ごと退却する部隊を焼き尽くすつもりのようだ。

 

させるか。

 

デスティニーは残像を発生させながら高速移動。右手から散弾を乱射した。
ミサイル同士の位置が近かった為か、苦もなく全弾誘爆を始める。
左から右へ、ウェーブの様に爆発の光が起きた。
その隙にデスティニーの方向を変えて、視界の端に映った光の方へ機体を向けるシン。
視線の先には黒いグフがエターナル隊の残りと見られるストライク2機に襲われていた。
おそらく逃げ遅れたのだろう。見捨てるのも酷なので、一応救援に行く。
敵のストライクたちも退く機会を窺っていたのか、パルマを何発か撃つとすぐに退いていった。
見た限りグフに大きなダメージはない様だ。パイロットと通信を開く。

 

「おい、大丈夫か?」
『すまない、助かった…ってあんた、シン=アスカかよ!?』
「お前か…何をしている、信号が見えなかったのか? 早く撤退しろ」
『撤退信号!? わ、分かった!! でもあんたはどうするんだよ!!』

 

誰かと思えば以前自分に突っかかってきた金髪の少年だ。グフに乗ってたのか。しかも色持ち。
敵も精鋭とはいえ、色つきのグフが2機を相手に死にかけるようではまずくはなかろうか。
ハイネが生きてれば怒ってるところかもしれない。
まあ、今気にすることじゃないけれども。

 

「俺が殿軍だ。誰も行かせやしないから、早く艦に戻れ」
『俺が、って1人で!?
 何馬鹿言ってんだよあんたは! 危険すぎるだろ!!』
「うるさいから怒鳴るな。……俺は、英雄もどきなんだろ?
 もどきでもなんでも、英雄の名の付く奴はこういうこともしないといけないんだよ。困ったことに」
『こんの、かっこつけやがって……』

 

それは違う、格好をつけたわけじゃない。事実を言っただけだ。
だが否定する時間も惜しかった。

 

「悔しかったら強くなれ。俺が死んだ後で代わってやる」
『あんた…』

 

自分だけで敵軍を壊滅させたこともあった。
データだけで光の一切無い坑道を飛んだこともあった。
単機でデストロイの群れに襲い掛かったこともあった。
皆が言うようにかつての自分が英雄だとするならば、結局それらの事は必然だったのだろう。

 

「話してる時間が惜しいんだ。早く行け」
『ちょ……あ~もうくそったれ。わかった、戻るよ。
 でもあんたも絶対生きて帰れよ!! あんた死んだら泣くやつがいるんだからな!!』
「ああ、分かってる」

 

少年の捨て台詞を聞きながら、離れていくグフを見送った。俺も昔はあんな感じだったんだろうか。
多分そうだったんだろうな。生意気こそが自分の代名詞だと友人たちにも言われてたし。
上に楯突いてレイに叱られルナにフォローされ。ミネルバ時代の思い出が頭をよぎる。
もう戻れない過ぎ去りし日々。
そんな穏やかな記憶を一瞬で切り捨てながら、シンは前方のミーティア共を睨んだ。
そして自分に意識が向かうように、敵軍に向かって通信を開く。

 

獲物はこっちだぞ。

 

「おーい、クライン派ども。久し振りだな。アンタらの大嫌いなシン=アスカだ」

 

特に反応はない。当たり前だ。
この機体に乗ってるのが自分であることは、この場の誰もが知っている。
だから、これはただの決意表明。

 
 

「使い古された言葉で悪いんだが。―――――ここから先は通さない」

 
 

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