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SEED-IF_CROSS POINT_第27話

Last-modified: 2010-06-22 (火) 22:04:28
 

座席に身体を深く預け、キラはモニターに映る宇宙を見つめる。
ラクスに逢いたいな、と思った。
首元のジッパーを横に引っ張りヘルメットを外す。
目の前にはMSの残骸。それをいつもの様に生存者がいるであろう方向に軽く蹴飛ばした。
母艦に向かって機体を奔らせながら、彼はこれからの事を考える。

 

これからの事といっても大したことじゃない。
自分の部屋で待たせている小さな同居人。
少し前まで喋る事ができなかったが、今ではすっかりおしゃべりな少女。
そんな彼女に何をしてあげれば喜んでくれるだろうか。その程度の事だ。

 

きっと彼女は自分の部屋で、絵本でも読みながら待っているだろう。
きっと自分が部屋に戻ると、笑顔で跳び付いてくれるだろう。
きっと自分は彼女を優しく受け止めて、ぶんぶんと抱きしめながら振り回すだろう。

 

その後自分は少女に何をしてあげようか。どんな事をすれば、もっと笑ってくれるだろうか。
そんな思いを描く自らの頬を軽く撫でる。やはりと言うか何と言うか。口許は笑みの形を作っていた。

 
 

だが視線の端、僅かに画面に反射された自分の顔が己を責める。
キラ=ヤマト。何故お前は今、『ラクス』の事を考えていないのか。最愛の女性の筈だというのに。
憎しみはどうした。怒りはどうした。悲しみはどうした。
彼女を失ったお前がどうしてそんな表情をしているのだ。

 

そんな疑問への回答はできていた。

 

「やっぱり、そうなのか」

 

己は 『ヒト』 に戻ってきている。自分の中の 『狂戦士』 とやらが眠りにつきかけている。
心を覆っていた憎しみと言う名の炎は消え去り、そのかわりに確かな温もりが自分の心を包んでくれている。
気障で陳腐な言い方だが、それが最も今の自分の状況を正確に表していた。
自分は今嬉しいのか、それとも悲しいのか。よく分からない。
シンなら教えてくれるだろうか。
刃を突きつけ合ったあの日。自分とは違って光を沢山手にしていた彼ならば教えてくれるのだろうか。

 
 

そう、自分は光を求めていた。
自らが放つものでも良い、自分を照らすものでも良い。
自分だけの光を。

 

彼女が死ぬまではそれがあった。
自分は皆から照らされていると、自分は光を放ち皆を照らしていると。そんな実感があった。
だが今思うとそれは、まやかしだったのではないかと感じてしまう。
人々が崇めるのは剣の持ち主であって剣自身ではない。
つまり、あの時まで自分は 『ラクス=クラインにとっての剣』 でしかなかったのだ。
無論彼女はそんな事を思っていなかっただろう。
だが自分はそれに気付かぬうちに、その座に甘んじてしまっていた。

 

楽しかった。彼女が示した正義の道を歩くのは。
心地良かった。歩を進める彼女の横で、共に喝采を浴びるのは。
酔っていた。彼女から与えられた力で敵を叩き伏せ、正義を問いかけるのは。

 

彼女の。彼女が。彼女から。
自分が持っていたものは、他者によって歪められたこの 『素材』 のみ。
その身から生まれ出でたものなど何一つとして無い。
その錆付きかけていた素材を鍛え、研ぎ、意味を与えてくれたのは彼女だったというのに。
それなのに自分はその切れ味を、美しい装飾を自分のものだと誇り、そして驕っていた。
そしてその驕りを抱えたまま、自分は彼女を失った。

 

愛を。
友情を。
生きる意味を。
力の使い方を。

 

自分に全てを無条件で与えてくれる女性。

 

母のように。
姉のように。
恋人のように。

 

自分の全てを包み込んでくれる女性。

 

そんな彼女を自分は失った。
だから憎んだ。世界の全てを。
だから壊したかった。自分に思い通りに行かなくなったこの世界を。
自分にとって文字通り全てだった、彼女を殺した世界を。

 

とどのつまりは八つ当たり。
そんな情けない本心を、包装紙にすら劣る薄っぺらい言い訳に包んで自分はここまで来た。

 
 

ディーヴァに着艦し、急いで部屋に駆け戻る。開かれるドア。
部屋の中には息を弾ませる自分を呆れたように笑う友人と、ピンクの髪の少女。
予想通り飛び込んできた少女を優しく受け止め、ぶんぶんと振り回すように数回転しながらキラは笑った。
少女には微笑を。自分には嘲笑を。

 

救いや赦しを求める事はできない。そんな資格は無い。
これから自分が得られるとすれば八つ当たりを貫いた先にある何かか、冷たい死のみ。
ただ、今この手の中にある温もりくらいは貪ってもいいんじゃないだろうか。

 

今の自分が縋っているのはそんな情けない甘えだということに、キラは自身でも気付いていた。

 
 
 

第27話 『星の降る場所で』

 
 
 

最近、キラが変わりつつある。
アンドリュー=バルトフェルドは、確かにそう感じていた。

 

いつからだろう。おそらくデスティニーと、いやシン=アスカと戦った後からだ。
戦場に出る回数も減り、彼の妻と同じ名前を持つあの少女、ラクスと一緒にいる事が多くなった。
彼女の前だけでなく、最近では自分やヒルダにも笑顔も見せるようになってきている。
ミリアリア曰く、小さなラクスに対してツンからデレに移った挙句、今はバカップル期間に入ったとのこと。
言ってる意味はおぼろげながらにしか分からないが、今の状況はキラにとって良いことだ。素直にそう思う。
文字通り無限の可能性を秘めている青年が、ただ死を求めて戦いに明け暮れるよりは遥かに良い。

 

そう、個人の思惑はともかく、今の自分たちはキラの死を前提とした流れの元に動いていた。
他でもないキラがそれを望んでいたからだ。
だが今、自分はその流れを否定したがっている。

 

確かにキラは今、世界中に多くの悲しみを振りまいている。
彼の行く先は地獄のみ。今更あの少女との幸せな暮らしなど、世界は許しはしないだろう。
それはキラ自身もよく分かっている筈だ。
自分の犯した罪から目を背け、誰も知らない場所で穏やかに過ごす。
与えた痛みの清算もせずに。

 

だが、それの何が悪い。

 
 

かつて世界は滅びかけていた。
ラクスとキラがいなければ、核ミサイルとジェネシスの撃ち合いで
人類の数はもう半分は減っていたのは間違いない。
それを考えれば、正義を含んでいる今の彼の行動など罪に問われるほどでもなかろう。
周りの人間の意向を無視して巻き込んで、自分たちの都合だけで紛争を起こすような輩は
いずれ誰かに撃たれなければならない。
キラはその手を汚す役を、率先してやっているだけに過ぎないのだから。

 

「ま、それも今さらだがね」

 

もう既に彼は歩き出していた。それを止めることはできまい。
ならば自分がやるべき事は一つ。
世界を救った彼に。自分が修羅道に引きずり込んでしまった彼に。せめてもの幸せを。
それには力が必要だ。死ぬことが救いなんて認められない。
勝って勝って勝ち続け、自分が敗れる事を諦めさせる。それと同時に生きがいも見つけさせる。
惚れた女1人幸せに出来なかった自分の頭では、それぐらいしか考えつかなかった。

 

「やはり一番の不安材料は彼か」

 

机の上のキーボードを叩く。画面に眼つきの悪い黒髪の青年が映った。
シン=アスカ。
キラの友人であり、敵味方から
『デスティニープランの象徴』 『戦いの申し子』 『運命の魔剣』 と呼ばれ恐れられた戦士だ。
かなり短い期間だが自分の部下だったこともある。
軍属時にはプラントと地球の全ての兵士を探しても、
彼に勝てるのはほんの数人だろうと言われたほどの強さを誇っていたが
ラクス直属のFAITHという職をあっさりと捨て、一市民として戦いから距離を置いていた。
そういう男は怖い。大切なものを見極めさえすればその為に全てをかけられる、捨て身の強さがあるからだ。
そんな彼が、再びキラの前に立ちはだかった。退いてくれることはまずないだろう。

 

「デュランダルめ…厄介な子を育ててくれたもんだよ。
 しかも選りにも選ってこんなタイミングで現れるんだからね」

 

傍らに置いていたコーヒーを手に取り口に運ぶ。
自慢のブレンドの筈だったがあまり美味しく感じられない。
完璧に掌握できない自軍。キラへの葛藤。そしてここまで自分たちを流した世界の悪意。
無力感が全身を浸す。

 
 

『2人とも、ケーキ食べるわよ。今日は特別に2個まで取って良し』
『こんなじかんに2こもたべたらふとるよ?』
『良いのよ、甘い物は別腹っていう古からの言葉があるんだから』
『医学的根拠が全く無い、女性にとってそれ言ったら最後の滅びの言葉みたいなもんだけどね』
『ばるす!!』
『2人とも喧嘩売ってる?』

 
 

眉間に皺を寄せて考え込むバルトフェルドの耳に、隣の部屋から楽しそうな声が入ってきた。
どうやらキラが部屋に戻ってラクスとたわむれ始めた模様。途端に自室の重い空気が吹き飛ばされる。
ここで悲しんだり苦悩したりしても始まらないかと思い直して立ち上がるバルトフェルド。
天岩戸じゃないけれど、楽しそうな声に重い扉を開けてしまうのは人間の性である。
甘いものにはコーヒーと相場が決まっているし、自分の自信作を持って行ってやろう。

 

『それに私は少しくらい体重増やしても太って見えないって言われたことが』
『だれに~?』
『ミリィのプライベートの為に実名は伏せるけど、昔の彼氏にDアッカさんって言う人がいてね。
 大喧嘩の末に自分から振ったくせに未だに未練が』
『誰があんなやつ…って伏せてないじゃないその言い方!!
  あとラクス、にやにやしながらこっち見んな!!』
『きゃ~、おこった~!!』
『ミリィ。一度こいつだと決めたら、自分が選んだ男なら決して迷うな。
 迷えばその隙を他者に突かれる。選んだら進め。進み続けろ』
『絶対にノゥ!!!』

 

なんか隣の部屋が別の空間になってないか。
まあいい、どうやら生きがいの方は見つける目途が立ったようだ。
あの2人にはいずれ妻や母親が必要になるだろう。
もしこの戦いに勝利することができたら、自分が探してきてやるのも良いかもしれない。
ミリアリアが駄目ならヒルダとかどうだろう……いや、断るか。眼帯だもんな。
でも彼女をそそのかして本気にさせたら面白いかもしれない。
追っかけまわされて困り果てるキラの姿は容易に想像できるし。
楽しそうな未来に思わず頬が緩んでしまった。でも別にいいじゃないか想像するの楽しいんだから。

 

「となると、やっぱり彼だね」

 

机の引き出しからコーヒー豆を引っ張り出しつつ目の前の画面に再び視線を向ける。
持てる力を全て使ってでも、彼を止める覚悟が必要だった。
ミーティア隊やドムトルーパーはおろか、自分が出撃しても彼に傷一つ付けることは敵うまい。
さてどうするか。

 
 

「……それと」

 

もう一つの懸念事項。脳裏に過ぎるのは嫌っている男の顔。胡散臭い盲目の男。
陰でコソコソ動いているのは感付いていたが、あの男も一体何を企んでいるのか知れない。
碌な事じゃないのは分かりきっているし、そろそろ自分も本格的に動いた方が良いだろう。
ザフトや連合に比べて少数派である自分たちが内紛を起こすなんて馬鹿らしい話だ。
しかし腐った膿は早めに出すに限る。
そして、自分は裏事も不得手ではない。

 

まあそれも今考えることじゃないかなと結論付けた後、
バルトフェルドは豆とお茶菓子を片手にドアを開けた。
あんな暗い男の話なんてどうでもいい。今は自分もこの明るい空気に浸されたかった。

 

「やあみんな、楽しそうだね。自慢のブレンドを持ってきたから僕も混ぜては貰えないか……」
「調子に乗るのもそこまでよキラ。それ以上言ったら無理矢理カラオケで歌わせてやるんだから。
 なんならまた微妙な歌を叫ばせてあげようか? シャニティアッーー!! って」
「ミリィ!! 僕はたった今、不殺の誓いを捨てるぞ!!」
「ぜんべいがないた」

 
 

……帰った方が良いかなぁ。

 
 
 
 
 

さて、砂漠の虎が子供の教育について悩んでいる今この瞬間。
さっきまでの悩みの種だったシン=アスカは現在何をしているかというと。

 

「やっぱ宇宙って、星がよく見えるな、シン」
「そりゃそうだろ」

 

現在女の子と天体観測中。
戦士と呼ぶには程遠い時間を過ごしていた。

 
 

これ~いじょお~、なくし~たくな~い……結局全てを失くしたけどな」

 

頭にタオルを引っ掛けたまま、のん気に持ち歌を歌いつつ廊下を歩くシン。
シャワーを浴びた後部屋の冷蔵庫に飲み物の買い置きが無いのに気付き、自販機まで買いに来たところだ。
目の前で点滅するスイッチを見ながら、ポケットから小銭を取り出し考える。さて何を飲もうか。
まあアイスコーヒーでいいやとコインを突っ込もうとした瞬間、見知った顔が視界の端に入った。
ぼんやりとベンチに腰掛けて外を眺めている少女。行動を中断して声を掛ける。

 

「コニール、お前こんなとこで何やってるんだ?」

 

いつものポニーテールではなく、何故か彼女は濡れた髪を下ろしたままだ。
自分と同じくシャワーを浴びた後外に出てきたんだろうが、何をこんな所でぽかんとしているのやら。
このままだと風邪を引いてしまうので、髪をタオルで優しく拭いてやった。
タオルはさっきまで自分の頭に掛かっていたものだが、
さっき新しく出したばっかりだし、乾いてるし、まあ特に問題は無いだろう。
甲斐甲斐しく髪を拭くシンに抵抗もせずに、そのままされるがままのコニール。
彼が髪を拭き終わってから彼女はようやくぼそりと呟いた。
仕方ないだろ、考えてみたら宇宙に来るの初めてなんだから。

 

「いやいや、そんなこと忘れてんなよ。気付くだろ普通」

 

初めてなら結構なイベントだと思うんだがなぁ。あれから何日か経ってるし。
ちなみに自分は例外だ。家族を亡くしたあの時はそんな余裕なかったし。

 

「お前が言うか。ここんとこ、その事を忘れるくらい切羽詰ってたとは考えないのかこのバカ」
「すいませんでした」

 

やぶへびだ。言うんじゃなかった。
やべえといった表情のシンをしばらく怒った目で見つめていたが、
そのうち彼女は視線を目の前の宇宙に戻した。
真剣に見ているようにも見えるし、ぼけっと呆けてるようにも見える。傍からではどちらなのかわからない。
一つだけ言えるとしたら、この光景に意識を奪われていると言うことだけだ。
無理も無い。いかに人類が宇宙に進出した時代だとはいえ、あのままガルナハンやベルリンにいたのでは
旅行でもしない限り宇宙になんて来る事はなかっただろう。
だからここは邪魔することも無い。無いんだけど

 

「コニール」
「なに?」

 

座ったままの彼女に手を差し出す。ただ一つ言うことがあるとすれば。
そんな貴重な初体験をするのならこんな沢山の灯りが邪魔をする場所ではなく、

 

「展望室行くぞ。多分、もっとよく見えるから」
「……うん」

 

握り返してくる小さな手。
シンはそのまま展望室まで、コニールを引っ張っていった。

 
 
 

「うわぁ………」
「今までは気にしなかったけど、こうして見てみると結構なもんだな」

 

展望室には誰もいなかった。ベンチに座って感嘆の声を上げるコニール。
2人を照らすのは星明りのみ。まさに天然のプラネタリウムだ。
強化ガラス越しに広がる星空は、冬のベルリンやガルナハン以上に澄んでいる。

 

「まさか、こんなところにまで来るとは思わなかった」
「そりゃそうだろうな。……紅茶で良かったか?」
「ありがと」

 

カップを手にベンチに座る2人。目の前の星たちは人間の存在がちっぽけに感じるほど雄大で。
そしてなんか時の流れが遅くなっているように感じるほど圧倒的だ。

 

「ほんと、綺麗だよな……。心が落ち着いてくよ。
 ……なあシン、もうちょっとそっち寄っていいか?」
「別に構わないけど、どうした? 」
「なんか存在の規模が違いすぎてさ。見とれてるんだけど、同時に飲み込まれそうで不安になる」
「そっか。わからんでもない」

 

触れ合う肩の体温を感じながら、2人は星を見上げていつもと変わらない話をする。
会話の内容はくだらないことばかりだった。それでも別に構わないけれど。
そもそも会話自体に意味は無い。
ただ空白を埋めるため、不安になっている彼女の意識をここに繋ぎとめるため。
今の己は、例えは悪いが崖を下りる時の命綱みたいなものである。

 

そういやルナは何してんだろ。
メイリンや他の女性クルーと盛り上がってたな、そういえば。
紅茶はレモンよりミルクが良かったな。
今更かよ。
そう言えば前から気になってたんだけど、あの星ってなに? お前知ってる?
アルコル。見えているのかお前、かわいそうに。
かわいそうにとか上から目線で言うな。最近そうやってルナにさんざん見下されてるんだ。
なしてよ?

 

……貧乳はステータスだと思うんだ。

 

失笑。
無拍子で肘打ち。
来ると思ってたので防御。
そのまま裏拳へ。
人中に直撃、悶絶。
呆れたような溜息。

 

んで、また星空を見上げる。

 
 

広大な宇宙。いつも見てきた筈なのに、その闇は広く深い。
飲み込まれそうと言った彼女の気持ちもわかる気がした。
そして、なんとなくだが彼女がこんな戦場にまで付いてきた理由も。
知人がこんな深い場所に断りも無く向えば、そりゃあ不安にもなるというものだ。
まして自身が知らない場所だとくれば、尚更。

 

そっと少女の手が伸ばされ、シンの右手に僅かに触れた。掌を開くとおずおずとその中に忍び込んでくる。
己の中にある空気リード機能が告げていた。俺は多分、この子の隣にいるだけで良いんだろう。
大丈夫だと優しく握ると、ようやく彼女の表情から僅かな緊張が消えた。
そして再び宇宙に見入る。今度は純粋に目の前の光景の美しさを目に焼き付けようとしているようだ。
自分も彼女に倣うことにした。
5分。10分。20分。

 

しばらく、飽きそうもない。

 

「あれ、何かな。何か光が流れてる」
「……どこだよ?」
「ほら、あそこ。さっきから動いてるんだけど」

 

展望室に来てから30分後、ようやく彼女が口を開いた。
彼女の傍に身を寄せて、指し示す指先の延長線上を見る。
見えたのは動き続ける小さな光点。多分あれは衛星だろう。
そう言おうと彼女に目線を向けると、息が掛かるほどの位置にお互いの顔があった。

 

「………」
「………」

 

頬を僅かに染めたコニールが目を閉じる。
そのまま身体を寄せてくる彼女の両肩を、シンはそっと受け止めた。
応えてやりたいと思う。その緊張で震える身体を優しく押し倒したいとも思う。
けれど今、軽々しく彼女の想いに応える訳にはいかない。
できない。

 

「悪い。俺、まだ何も答えを出していないんだ。キラとの決着も、2人のことも」
「わかってるよ。こんな真似しといてなんだけど、私も今どっちを選ぶかを決めて貰う気はないんだ。
 あんなやつだけど、ルナとは一応友達だし。
 ……ただ、今は条件が揃ってるなぁって思ったから」

 

条件とな。

 

「何の条件が揃ってるんだ?」
「………ふぁーすときすってやつだよ。女にそんなの言わせるな、ばか」

 

こちらを見ないままぼそりと呟く少女。その顔はもう真っ赤である。
気付かない振りが武士の情けかと天体観測を再開しようとしたシンだったが、
焦れた彼女によって沈黙は破られた。
うん、やっぱりここは流すところじゃないよな。アホだ俺。

 

「ねえシン。やっぱりお願いしちゃ、駄目か?」

 

自分を見上げながら服の裾を掴んでくるコニール。星明りが優しくその顔を照らす。
彼女とて年頃の女の子だ。ロマンチックな雰囲気に酔っても不思議ではない。
満天の星空の下、ベンチに2人きり。確かにシチュエーションとしては申し分ないのだろう。
難を言うなら、こんなのは自分のキャラじゃないという事くらいか。
そう、自分の中に断る理由があるとすればそれだけ。
前にアスランにも言った事があるが、彼女は良い女だし。
後ひっかかるのはルナへの想いくらいで………あれ、なんか俺って嫌な男になってないか。

 

「頼むから黙らないでくれよ。……やっぱいきなりこんな事言っても迷惑だよな。
 ごめん、今の聞かなかったことに 「コニール」 ……なに?」

 

黙っていたのが堪えたのか撤回を申し出るコニール。
その言葉を遮り、シンは彼女の頬に手を添えた。男たるものあんまり女に恥をかかせるもんじゃない。

 

「今回だけ、だからな」
「!! ………うん」

 

再び目を閉じたコニールに顔を寄せる。向こうに任せたら歯と歯がぶつかるなんてことになりかねない。
胸板に触れる手を握りながら唇を重ねる。
10秒程度で離れると、コニールはぼんやりとした表情のままシンの胸に額を押し付けた。
どうやら感情のコントロールが上手くいかないらしい。

 

「ファーストキスの感想は? お姫様」
「なんだよそれ……。とりあえず、お前がこういうのに慣れてるのがすっごい悔しい」
「まあこの年齢だし。それに今気にすることじゃないな、そこは」

 

もう一度。そうねだる彼女に苦笑しながら、再び顔を寄せる。
体重を預けてきたので背中に手を回して抱き寄せた。
一応これが2回目だという事を認識させるため、先ほどよりも深く唇を重ね合わせる。
流石に舌を絡ませるのはやめておいた。彼女が今求めているのは官能ではなく思い出だ。
なるべく優しく、この空気を乱さないように。シンは心を込めて彼女の唇を吸う。

 

そして数分後、彼女の頭はシンの肩の上にあった。

 

「ここ、気に入ってくれたか?」
「うん、来て良かった………ほんとに」

 

口の中に残る紅茶の味をなんとなく気にしているシンと、指先で唇を撫でているコニール。
ぴったりとくっ付いたまま星空を見上げる2人。
彼らを覗いているのは、今もなお瞬いている星くらいのもんだろう。

 
 

「やっぱ宇宙って、星がよく見えるな、シン」
「そりゃそうだろ」

 
 
 
 
 

キラ。ラクス。バルトフェルド。シン。コニール。
美しい星空の下で、彼らは今という時間を笑顔と共に過ごした。

 
 

この穏やかな時間が、もうすぐ終わる事を確信しながら。

 
 
 
 

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