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SEED-IF_CROSS POINT_第29話

Last-modified: 2010-09-28 (火) 00:41:13
 
 

緊急会議を開くので至急会議室へという連絡が入り、ヒルダ=ハーケンは自室を後にした。
通信の様子から察して何かヤバいことでも起こったらしい。
ザフトが再び動いたか、もしくは連合か。それともそれ以外の何かか。
自分ができる予想とすればそれくらいのものだ。
まああまり考えても仕方が無い。
自分は頭を使うのはあまり好きではないし、多少考えたところでたかが知れている。
それに平和を目指す集まりに所属している者が言う台詞ではないが、
個人的に戦いは望むところではあるし。

 

そう唇の端を持ち上げる自分の前方に、2人の人間の姿があった。
髪を伸ばした青年とその隣で跳ね回る小さな影。それだけで誰かすぐに分かる。
この艦に子供を連れている人間なんて1人しかいない。

 

「あ、ヒルダおばさん、こんにちは」
「『お姉さん』 な。キラ様も今から向かわれるところですか?」
「こらラクス、失礼だよ……ええ、バルトフェルドさんから通信が入って」

 

会議において最終的な結論を出すのは彼だ。だが言葉を聞く限り、その内容までは知らされていないらしい。
会議でいきなりというのは無いだろうから、おそらく会議の前にでもバルトフェルドから
聞かされることになるのだろうけれど。
教えて貰おうと思っていたので当てが外れてしまった。

 

「ねえねえ、はやくおやつのじかんにしようよ」
「これから大事な会議があるんだけどな。それが終わるまで待てないの?」
「まてるよ。まてるけど……だってケーキくれるんでしょ? はやくたべたいもん。
 ミリィやヒルダおばさんはぜったいにくれないし」
「『お姉さん』 な」

 

会話をする自分たちの周りをくるくると楽しそうにまわる少女。
微笑ましくて思わず笑みがこぼれてしまった。
自分は平穏より戦乱の方が性にあっているが、それでもこの光景は見ていて悪い気はしない。
隣の彼も自分と同様のようだ。困ったなと言いつつもその顔は笑っている。

 

「キラ様、最近よく笑うようになりましたね」
「え?」

 

思わずそんな言葉を呟いてしまった自分をきょとんとした顔で見つめるキラ。
無防備な表情がぶっちゃけ可愛い。
男相手に言ってはいけない台詞だとはわかっているので、流石に言葉にはしなかったが。

 

「最近の僕って、そういうふうに見えてました?」
「え?」

 

質問を返されて、今度は自分がきょとんとする番だった。
いやこんな発言に質問されるとは思っていなかったし。

 

「……一応今までもなるべく笑うようにはしてたつもりだったんですが」
「いや、確かに以前も皆に笑顔は見せている姿はよく拝見しました。
 でも最近はそれとは違って、心から笑っているように見えたので」

 

なんでこんなに食いつくんだろう。
意外な反応に訳も無く焦りながら、まるで言い訳でもするかのような口調で弁明してみた。
深い意味は無いんですよぉってな感じを言外に匂わせて相手の反応を待つ。

 

「……そうですね」

 

考えを整理しているのか、視線を下に落とすキラ。
深く息をついた後、ゆっくりと言葉を吐き出す。

 

「ラクスが殺されてからずっと僕は、正直立っているのも辛かった。
 戦っている時も、会議中も、そして寝ている時すらも、ずっと。
 でも僕が今行っていることの重大さは認識しているつもりです。
 そしてそんな僕に付いて来てくれる人がいる。
 上に余裕が無いと下にもそれが伝染するものだから、いつも笑っていた方が良いだろうと思って
 無理矢理笑顔を貼り付けていたんですけど」

 

口調を暗いものから明るいそれへと変えつつ、目の前の青年は頬を掻く。
少し照れくさそうに。けれど少し嬉しそうに。
そして、自分たちを見上げる少女を優しくみつめながら。

 

「貼り付いて、取れなくなったのかもしれません」

 

そうですか、という言葉が思わず口から漏れた。
年齢に見合わずいろいろなものをこの方は背負っていたんだなぁと今更になって気付く。
そして無理矢理作っていた暗い笑顔がいつのまにか自然なものになっていたと。
つまりはそういうことらしい。
それが誰のおかげかなんて言うまでも無い。

 

「そろそろ行かないと。……ところでヒルダさん」
「あ、はい。何でしょうかキラ様」
「この後の会議が終わったら、僕たちとお茶をご一緒しませんか?
 会議の内容はわかりませんが、出撃が決まったとしてもそれぐらいの時間ぐらいあるでしょう」

 

先に行くことに決めたらしい。じゃれつく少女の頭を優しく撫でた後、自分に誘いの言葉をかけるキラ。
その顔はまるで陽の光が差し込んだかのような温かい笑顔だった。
ヒルダは思わず顔を紅くしながらコクコクと頷く。
自分のその返事に満足したのか、では会議の後でと告げて彼は去って行った。
後に残されたのは自分とピンクの髪の少女だけである。

 

「……なあ」
「なに?」
「お前の保護者はキラ様だよな」
「うん。そうだよ」

 

まさかあんな優しい顔で誘われるとは思ってなかった。これがニコッでポッってやつなのか。
そして自分相手にそれが発動したということは、これってもしかして大チャンスなのではないだろうか。
午後の紅茶から夜明けのコーヒーへと至る道なのか。
どうせミリアリア=ハウが夜の相手をしてるんだろうなとか思っていたが、
そんなことはなかったぜ的な展開か。
いろいろ疑問は浮かぶがこの際それはどうでもいい。
神が放ってしまったこの失投。打席に立つ機会が無かったとはいえ、プロたる自分が打てぬ道理は無い。
そう、今まで自分の意思とは裏腹に守り続けてきたこのアイアンメイデンを開き、
ついにキラ様を招き入れる時が来たのだ―――!!
いやそれじゃキラ様死んじゃうんだけどね。

 

「つまりお前は、キラ様の子供というわけだ」
「こども? わたしが……?」
「保護者イコール親だろう。そんなに間違いじゃないとは思うが」

 

自分の言葉に目を大きく開き、困惑した顔をする小さなラクス。そして何ごとかを呟く。
よく聞こえなかったが、唇の動きから判断するにおとうさんとつぶやいたようだ。
もしかしたら父という言葉にしっくりこなかったのかもしれない。
まあ確かにキラ様はまだ若いから、親という言い方は無かったかな。
外見を見てもしっくりくるのは父よりも兄という言葉の方だし……って話がずれた。
今自分が言いたいのはそんな言葉ではなく。

 

「さて、ここからが本題なんだが。……お前、私をお母さんと言う気はないか?」
「ヒルダおばさん、けっこんしたいの?」
「『お姉さん』 な。……どうだろう?」

 

将を射んとすればまず馬を射よ。そんな意味を込めた自分の言葉。
それを聞いた少女はしばらく自分を見上げていたが、そのうちにっこりと笑って言った。

 

「ぜんぜん」

 
 

空気読めこのガキ。

 
 
 
 

第29話 『月は空の青さを知らない』

 
 
 
 

「レクイエム……か。
 シンやアスランだけならいざ知らず、まさかこいつまで戦場に戻ってきたとはね。
 人の業ってのは本当に深いもんだ」

 

ここはディーヴァの会議室。現在主要メンバーを集めて軍議の真っ最中。
大画面モニターの映像を見ながらバルトフェルドが出した呆れたような声に、
キラは頷くことで同意を示した。

 

彼らの前に映っているのは月の連合軍基地、月面から飛び出した新型のレクイエム。
つい先日此方の情報網に引っかかったものだ。
その巨大な砲塔は180度の角度変更と360度の横回転が可能であり、ヤタノカガミを利用した
巨大反射壁によっていくつもの中継点を通して偏向させていた旧式とは違い
1箇所あれば月の裏側以外何処にでも命中できる代物だという。

 

「ヤタノカガミの技術を盗まれているとは……オーブは何をやっているのだ!!」

 

今は既に敵である筈のオーブの不甲斐無さに、思わず白服の軍人が非難の声を上げる。
確かに数年前までヤタノカガミはオーブの独占技術だった。しかしキラは男の発言を肯定はしなかった。
何故なら連合は数年前の時点で既にビームを偏向させるゲシュマイディッヒ・パンツァーを
開発していたのだ。
その技術が進歩すればいずれヤタノカガミに行き着くことは自明の理である。

 

「それよりも、これからどうするのか。レクイエムを撃つか、撃たないのか」

 

キラと同じ考えに至っているのかクライン派の1人が騒ぐ白服を無視して声を上げる。
確かに今必要なのは原因追求よりも対応の決定である。
その言葉を皮切りに、会議室は議論の声で満ち溢れた。

 

「撃つに決まっているだろう、大量破壊兵器など放っておけるものではない!」
「そんな事は百も承知だ。私が言いたいのは今連合を刺激してはレクイエムの発射を誘う形に
 なりはしないかという事だ!」
「確かに、人は慣れるものだからな。一度放てば2度3度と続くだろう。
 我々に銃口が向いているうちはまだ良いが、その後撃つことに慣れた連合が
 レクイエムを何処に向けるのか」
「それにプラントも黙ってはいまい。最悪の場合また戦争が始まるということも」
「だが様子見をしているうちに放たれては遅いのだぞ!」
「戦争の根絶を叫ぶ我らが戦争を呼ぶ真似をして何とするか!!」

 

戦うのか、それとも一旦様子を見るのか。議論を交わすも結論は出ない。
ヒルダやマーズをはじめとする軍人たちは速戦を叫び、
補給や諜報を行っているクライン派は慎重論を掲げる。
見た限り人数は半々だ。どちらにも利点があり欠点がある。
このままではいつまでたっても平行線だろう。多分、皆もそれをわかってて言い合ってる。

 

自分が決めるしかないな。

 

何も言わずに椅子から立ち上がると、すぐに周囲が静かになった。全員固唾を飲んでこちらを見つめている。
おそらく自分が決めるのを待ってたんだろう。
バルトフェルドに視線を向けると彼は無言のまま軽く頷いた。―――お前が決めろ。
そんな表情の彼に頷きを返し、キラは視線を皆の方向に戻す。進むか、立ち止まるか。

 

「僕は、進軍を提案します」

 

既にその問いかけに対する答えは用意していた。自分の出した答えは戦い。
悩む時間なんてとうに終わっている。既に決めた、ならばやり通すのみ。彼女の教えに沿うならそれだ。
待機を主張していた者たちを説得するかのように言葉を続ける。

 

「様子を見るべきと言う方たちの意見も理解できます。
 ですが、レクイエムを再び手にした彼らが軽挙妄動に奔らないとは限らない。
 いや、むしろこの局面でレクイエムに手を伸ばすということは
 憎しみの目と心、そして引き金を引く指しか持たない者が月にはいるという事でしょう。
 そしてそんな人たちの存在を僕は認めない。
 暴力は恐怖をもって封じ、また想いを持つ人たちには結束を求める。

 

 僕は、その為にこの戦いを始めた」

 

まったくの嘘というわけではないが、本音とは遠い詭弁を口にしながらキラは別のことを考える。
脳裏を過ぎたのはピンクの髪と、自分の手を握る小さな手。
この戦い、非戦闘員は安全な場所に非難させた方が良いのは間違いない。
ならばしばらくは離れ離れになってしまうな。そんな想いを切り捨てて、最後の言葉を発した。

 

「これより月に急行し、レクイエムを破壊する。それが僕の結論です」

 

おお、という声があがる。
声の波は歓声へと変わり、いくつもの拳が天井へと突き上げられた。

 

「よっしゃ、ついに大一番ってわけだな! レクイエムなんて物騒なもんはぶっ潰してやる!!」

 

勢い良く立ち上がったマーズ=シメオンの勇ましい声が会議室に響いた。
沸き起こった歓声と拍手は未だ止むことは無い。
キラは彼らの声に微笑を持って応えた。
戦いを欲する気は随分前から無くなり始めていたが、己には戦いを始めて皆を巻き込んだ責任を
果たす義務がある。
つまり戦場では自ら負けに走らぬことと、なるべく味方の損害を減らすこと。
それが自分の成さねばならないことだ。
自分にはラクスの様に皆の意識をまとめるなどできないと思っていたが、
この光景を見る限り彼らに対する責任は何とか果たすことができそうだ。

 
 

そんな人々を見回すうちに、ふと視線が止まった。
歓声の中ただ一人、マルキオだけがいつもと変わらぬ笑みを浮かべてひっそりと座っている。
仲間たちの充実した表情に微笑んでいるわけでもなく、かと言って人々を嘲笑うというわけでもない。
ただこの場で彼だけ立つ位置が違うと感づかせるような笑み。
多分この男にとって、自分たちの大義名分などどうでも良い事なのだろう。おそらく目的は別にある。
それを知りたいなんて欠片ほども思わないし、知ったところでその意に沿うつもりはさらさら無かったが。

 

ほどほどに歓声を上げさせた後、キラは張りのある声で皆に静粛を求める。
時間は限られているし、やるべきこともまだあった。
人々が着座するのを待って、バルトフェルドが口を開く。

「決戦場所は決まったね。前大戦と同じ場所っていうのはどう思えば良いんだろう。
 人類が進歩してないと思えば良いのか、それともあの場所は最初からそういう運命にあるのか。
 尤もその言葉は、ギルバート=デュランダルを否定した僕たちが言う言葉じゃないかもしれないがね」
「この際言葉遊びは気にしないことにしましょうや、虎どの。それよりも連合相手にどう戦います?
 月の戦力は確かに多いが、あくまでそれなりだ。
 キラ様が行かずとも俺たち3人にいくつか部隊を預けてもらえれば、落とす自信はありますが」

 

ボルトを咥えたままヘルベルトがバルトフェルドに提案するが、彼が返したのは困ったような苦笑だった。
どうやら自軍の中には楽観論が蔓延しているというバルトフェルドの愚痴は本当のようだ。
自分ならともかく他の者が少数で基地を落とすなど、そんなに上手くいくものでもない。

 

「頼りになる言葉だが今回その案は却下だな。
 我々の戦いを世に伝える為にも、主役たるキラがいなければ意味を成さん。
 プラントも流石にレクイエムの情報は得ただろうから、これからザフトも動くだろう。
 下手をすれば挟撃される可能性もある。
 ……裏を返せば、目標が一箇所に集まってくれるという事でもあるが」

 

まとめて叩くという考え方もできるという考えを内包したバルトフェルドの言葉。
その場にいた人間の大半が関心を持ったようだった。
それぞれ口々に、戦いとその後のことを語り始める。敗北の可能性など考えもせずに。

 

「なるほど、後顧の憂いを絶つには丁度いいわな。ここはいっちょ派手に行くか」
「ならば我々の力を示す為に、全兵力をもって動くべきでしょう。
 我らは決して少数などではない、主流たりえる力があると全世界に認識させる為に」
「そうだな。どうせ今までもイタチごっこだった。
 キラ様がいなくなれば、なんて事を考えなくなるように私達の実力も見せなきゃならないだろう」

 

クライン派の言葉にヒルダが頷く。この戦い、いつもと同様に自分が突っ込めば少ない損害で終わるだろう。
しかし自分たち……いや彼らにとって今度の一戦は、自分たちの存在を世界に認めさせる戦いだった。
勝利は勿論のこと、日和見な傍観者たちをこちらに引き寄せる為に圧倒的な力を見せる必要がある。
そしてそれが反感を抱いている者たちの心を折り、争いを失くす事にも繋がる筈と考えているのだろう。

 

「願わくば、この戦いが最後とならん事を」

 

詭弁に過ぎないその言葉に、キラは哂いながら溜息を吐く。誰だって戦う前はそう思っているだろうに。
憎しみの目と心と引き金を引く指しか持たない者。
それは他ならぬ自分たち自身のことだ。

 

「あれ。この言葉って……」

 

そう言えば先ほどは随分と自然に出てきたが、この言葉は一体誰のものだったろう。
答えはすぐに弾き出された。揺れる金髪、白い仮面。
その下には怨念と絶望の表情。
今まで出会ってきた人の中で、最も自分を憎悪してきた人物。

 

―――いつかは、やがていつかはと……そんな甘い毒に踊らされ、一体どれほどの時を戦い続けてきた

 

ああ、そうか。貴方か。
嫌悪と憐憫、そして僅かばかりの懐かしさを覚えながらキラはその名を口にする。

 

―――この憎しみの目と心と引き金を引く指しか持たぬ者達の世界で何を信じる?

 

ラウ=ル=クルーゼ。
行動はともかく、貴方の言っていることは間違っていなかった。

 
 
 
 

「選りにもよってレクイエムかよ……」

 

ミネルバのブリッジにてシンたちは溜息を漏らす。
画面に写っているのは新しいレクイエムの映像。
プラント諜報部も既に月の連合軍がレクイエムを改修したことを掴んでいた。
ようやく、という言葉をつけても良いかもしれないが。
気付かないよりはマシではあるが、完成まで気付けなかったのでは意味が無いし。

 

おそらくキラたちもこの情報を入手しているだろう。となると彼らの次の標的は間違いなくここだ。
月の連合軍の数は多い。だから反乱軍は間違いなくフリーダムを最前線に配置しての中央突破を計るだろう。
そして、誰もその進撃を止められない。自分たちが介入しない限りは。

 

「これからどうするんだよ。ま、聞くまでも無い事だけどさ」
「することなんて一つしかないからな。―――ヤツらを待ち伏せる。連合の基地の前に部隊を展開して」
「ちょっとあなた、それってあの兵器を守るってことになるんじゃ……?」
『またかよ。しかも今回はデスティニープランの為じゃないってのに』

 

アスランの言葉にメイリンと画面に写ったヨウランが眉をひそめる。
かつてプラントを焼いた大量破壊兵器レクイエム。しかも今の所持者はデュランダル議長ではなく連合だ。
前大戦を経験した者ならこれらに対して嫌悪感こそあれど、進んで守ろうとする者はいないだろう。

 

「嫌いなのは俺だって同じだ。だけどレクイエムはもう2度と……絶対に撃たせてはならないんだ」
「なるほどね。1発でも撃てば次の引き金が軽くなる、それを防ぐためか。
 艦長としてはしたくないんだけどね……クルーを銃口の前に置くような真似は」
「確かに俺たちがキラと戦っているうちはレクイエムが撃たれることは無いとは思うけどな。
 一応あいつらを守って戦ってる形にはなるし、それでも撃って俺たちを巻き込んだら
 また戦争が始まっちまう」

 

アスランの言葉にディアッカが頷く。彼はこういうことに関して非常にドライだ。
しかし全員がその言葉に納得したわけではなかった。
クルーを危険に晒すことがわりきれないのか苦い顔のアーサー。
だからっつってもなぁとぼやいているのはヨウラン。
かつてジブリールを逃がしてしまったルナマリアは腕を組んだ姿勢で映像の中のレクイエムをみつめたまま。
元デュランダル派である彼らは割り切れない表情を崩さない。
何を好き好んで再びあんなものを守らにゃならんのかといった顔をしている。
その気持ち、自分はわからないでもないけれど。

 

くいくい。

 

「ん?」
「シンは、どう思うの……?」

 

そんな彼らを見て不安そうにシンの服の袖を握るコニール。
そういえばこの中で彼女だけがあの場にいなかった。
勝気な子ではあるが、なんだかんだで彼女は優しい。
いつもと違って暗い空気になっている自分たちを心配してくれているのだろう。
でも彼女にそんな表情は似合わない。だからなんでもないことの様に言ってやった。

 

「別に、気にする必要はないと思う。こんなの想定の範囲内だろ。
 それに皆も気付いてるんだろ? やらなきゃ後で、まず間違いなく後悔するって」

 

吐き出した言葉に嘘は無く、特に自分には思うところは無い。
レクイエムと俺のデスティニー、同じ人殺しの機械に何か違いでもあるのか。
似たような問いは前大戦の際に一度考えた事もあるし。

 

それにここで肝心なのはそれを守りたいのかという感情ではない、守るのか守らないのかという行動だ。
そしてその問いにシンは守ると答える。
力は更なる力を呼ぶ。連合がダイダロスに居座った時点でこのような流れになるのは必定だった。
だがまだ放たれたわけではない。
このまま自分たちがキラを抑えれば、そのまま撃つべき敵を見出せずにレクイエムは動きを止める。
後は国際社会の反応や政治手腕によって再び封印・解体へと持っていけばいい。
だからレクイエムの方はまだ、手遅れではないはずだ。

 

『……ハァ。馬鹿は強いな、こういう時。まあその方がお前らしいっちゃらしいけどよ』
「民間人のシンにそこまで言われちゃね。僕も覚悟を決めないといけないか」
「もう、仕方ないわね。それならそれでいいけど、キラの方はどうするの?」
「キラをどうするか? そんなの―――」

 

キラの力を心配するルナマリアの声にシンは考えを巡らせる。
他の相手を軽視しているようにも聞こえるが、それについては特に異論は挟まなかった。
確かにディーヴァには結構な数のMSが搭載されているだろうが、それでも数なら此方の方が多い筈。
ザフト基地も遠くないし。
そしてアスランにディアッカ、ルナマリア。ここにいるのは間違いなく精鋭だ。
だから周囲の戦況に関してはわりと楽観視できる。あくまでわりと、だが。
そういうわけで残る心配事はキラだけなのだが

 

「俺が止めれば良いだけだ」

 

それもそこまで深刻になるような問題とは思えなかった。正確には心配する気分にならなかった。
キラと再会してからずっと。ミネルバと合流してからはより強く。
なんとなくだが、心の何処かでキラに負ける事は無いと感じていたからだ。

 

「……大言壮語はしない方が良いと思うけどなぁ。こないだボロボロだったしさ」
「結構言うわね。何処から出てくるのよ、その自信」

 

まったくもってその通りである。前回の戦いでは死に掛けたし、恐怖も十分以上に感じてた。
それなのに何処から出てくるんだろう、この余裕は。
精神が麻痺しているというわけではなさそうだが。

 

「さてな。どっから出てきてんのかね」

 

一つだけ分かるのは、それが己の中から生まれ出でたものではないということだけ。

 

自分はそんな強い人間じゃないということに、シンはもう気付いていたから。

 
 
 
 

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