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SEED-IF_CROSS POINT_第31話

Last-modified: 2010-10-31 (日) 19:49:25
 

月面のダイダロス基地。キラの襲来に備えて、基地の前方に守備軍が展開している。
しかしザフト・オーブ連合軍が戦闘を開始しても、彼らに動く気配は無かった。

 
 

「もう戦闘は始まろうとしています!!一刻も早く、出撃命令を!!」
『出撃は許可できない』
「何故です!?」
『君は上からの命令に従えないというのかね?』
「納得のいく説明が欲しいだけです、私は!!」

 

此処は連合の旗艦クリーブランド、そのブリッジ。
そこで自分たちの艦長が画面に向かって吠えている様を、副長はぼんやりと眺めていた。
艦隊司令とはいえ彼も軍人だ。上のご意向には従わなくてはならないのだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら。

 

「打算も結構ですがね。このまま彼らを見殺しにしても良いことは何もありませんよ。
 数に呑み込まれてすぐに我々の出番になるだけです。
 それならば今、共に戦った方が兵の損害も少なくて済むかもしれない」
『この件に関して君に意見を求めた覚えは無い。……だが他の命令が良いというなら変えても構わんが。
 今からレクイエムのエネルギーの充填を開始せよ。一撃でいい。
 ザフトごと、キラ=ヤマトのいる場所を吹き飛ばすのだ』
「な……」
「おいおい」

 

艦長がその言葉に絶句し、ブリッジ内がざわつく。この場にいる誰もがその言葉の意味を理解していた。
代わりの言葉にしては重すぎる。例え上の人間でも冗談でも言って良い言葉ではない。

 

「宇宙の化け物どもに守ってもらったあげく、その借りを無視して背後からそいつらを撃てと?
 間違いなく戦争が起こりますよ、良いんですか!!」
『ならば黙って待機していろ。これは命令だ。別命あるまで待機―――良いな?』
「お待ち下さい、それとこれとは………ええい、クソッタレが!!」

 

軍帽を画面に投げつける艦長。
それを見ていたオペレーターの青年が、近くの副長に囁きかける。

 

「副長、上の命令は確かに引っかかるものはありますが、大局的な見解としては間違っていないのでは?
 今のプラントはキラによってボロボロです。
 レクイエムも完成しましたし、これを機に一気に攻め落とすというのは戦略上の判断としては有りかと」
「何言ってるバカヤロウ、よく考えてもみろ。誰だって心の奥底じゃ正義ってヤツが好きなんだ。
 助けに来た者を敵ごと背後から撃つ。そんな事したら間違いなく地球の市民からハブられるだろ。
 民意が伴わなければ戦争ってのはそうそう続けられるもんじゃない。
 それに今の上にいる奴らを追い落とそうとする連中がそれを利用して、内紛が起こる可能性もあるんだ」

 

自分たち連合はロゴスに踊らされてた過去もあるため、それでなくても良いイメージを持たれていない。
しかも地域によってはエイプリルフールを忘れて連合よりザフトを評価しているところも沢山ある。
プラント討伐のために宇宙に上がったら内外の敵を同時に相手にするはめになったなんてオチは
考えたくも無い。

 

「でも……」
「それにあいつらご自慢のレクイエムだが、フリーダム相手じゃ正面から撃ったって避けられちまう。
 もともとアレを奴さんにぶち込むにゃ、誰かが自分ごと逃げ道を塞がなきゃならないんだ。
 上からすりゃ部下を捨石に使って人望を失くすよりも、コーディを利用できる今の方が
 都合がいいんだろうが……」

 

とは言っても元々レクイエムはラクス=クライン(の背後にある軍事力)によって
政治的主導権が地球からプラントに握られたため、それに対抗する手段として復活させたに過ぎない。
名目上の目的は無言の恫喝・誇示であるため、撃った時点で世論を敵に回すのは間違いないのだ。
それに気付かないほど上に馬鹿が揃ってるとは思えない。
わかってて言っているというのなら何が狙いなのか。

 

自分たちを止めてメリットなんてあるわけがない。
強敵に対する戦力の逐次投入が各個撃破に繋がるのは今や子供でも知っている常識であり、
彼らが負ければ次は自分たちの番だ。
なのにあの他人事のような反応………まさかとは思うが。

 

「なんだか上の連中がどっちにつくかを計りにかけているように思えてきてならないんだが。
 キラという勝ち馬に乗るか、それともザフトに恩を売れるタイミングまで待つか。
 まさかそこまで腐ってはいないと思いたいとこだがな」
「ありえないと笑うことは難しいですよ、あの態度見てると。
 ……もし仮にそうだとしたら、一体俺たちは何の為に命を懸けているんでしょうね」
「さあな」

 

軍帽を拾い、疲れた様子で席に深く座る艦長を見ながら2人は溜息を吐く。
死を恐れる心はあるが、自分たちは軍人としての覚悟を決めていないわけじゃない。
それが命令ならば死地だと知っていても出撃するだろう。

 

けれど、何の為に死ぬのか。
それだけははっきり認識して戦場に赴きたかった。

 
 
 
 

第31話 『いいさここらでちょっと 根性を見せてやる』

 
 
 
 

「……多いね、これは」

 

ミネルバのブリッジ、その作戦画面に写った映像。敵を表す光点は何度数えても此方の数より多かった。
それを見ながらアーサーはどうにか言葉を吐き出す。

 

「コニール君、ディーヴァに合流する艦の識別を頼む」
「了解、今すぐ映像に……出ました。
 敵旗艦に合流する艦艇が判明。ローラシア級7、ナスカ級4、アガメムノン級5、イズモ級2。
 冗談だろ……? ザフトだけじゃない、オーブ軍や連合の船までいるじゃないか」

 

オペレーターのコニールの呟きに思わず頷きを返す。その感想、自分も同感だ。
目の前の状況を受け入れることができない。

 

確かにラクス=クラインは世界中から愛されていた。
彼女の死を悲しむ者は地球にも多かったし、その夫たるキラに力を貸す者がいても不思議ではない。
しかし未だにブルーコスモスが多い連合の軍人までクライン派に引き入れていたとは。
それもザフトやオーブの諜報部に気取られずに。
クライン派、いや影のフィクサーと呼ばれているマルキオ導師の本領発揮といったところか。

 

「アスラン。これは、マルキオ導師の仕業かな?」
『……おそらくは。こんな真似をできる人間を、自分は他に知りません』

 

舌打ちと共に自分を責める。
ディーヴァを直接持ってくるくらいは予想出来ていた。
しかしクライン派の動かせる全戦力を持ってくるとは思わなかった。
いくらキラがヘブンズベースを単機で落とした過去があり、
そして彼らが今まで少数で潜伏していたからといって、
そのイメージに固執しすぎて今回も少数で来るなんて考えが甘かったか。
だが考えてみればそれは当たり前のことなのかもしれない。
シン=アスカと手負いとはいえアスラン=ザラ。そしてその先にはレクイエム。
ここにはキラを倒せる可能性を持った存在が集まっている。
そしてそれらが全て砕かれた場合、世界はキラと戦う事を諦める可能性が出てくるだろう。
つまりここでその二つの不安要素を排除できれば、彼らにとっての勝利が見えてくる。

 

『すみません、自分の考えが甘かったようです』
「いや、僕も納得した事だ。君に責任を押し付けるつもりはないよ。
 ミーティア部隊以外にも奥の手を隠し持ってたってことだろう。流石にこれ以上はないだろうけど。
 それよりもどうする? 退くか、戦うか」
『退くわけにはいかないでしょう。
 キラの撃破だけが目的ならともかく、ダイダロス基地の防衛もしないわけにはいきませんし』
「そうだね。ここまで来といて見捨てた場合、政治問題になりそうだ。
ミーティア対策として数だけは揃えたのがせめてもの救いかな……敵の本命の相手は任せるよ」
『了解』

 

アスランとの通信が消る。すると入れ替わるように敵軍から通信が入った。
通信席のメイリンが息を呑む。画面に映っているのは隻眼の男。

 

『こちらはディーヴァ艦長のアンドリュー=バルトフェルドだ。
 ザフト・オーブ連合軍、そちらの指揮官とお話がしたい』

 

砂漠の虎のおでましか。CE最高の艦長として名高い厄介な相手だ。
いや艦長職だけではない。MSの操縦、政治、軍事、正攻法、搦め手。全ての面で突出している男。
ある意味キラより性質が悪い。

 

「ミネルバ艦長のアーサー=トラインです。何の用でしょう、降伏勧告でもするつもりですか?」
『話が早くて助かるね。降伏とまでは言わない、ただ道を開けてくれるだけでいい。
 我々はキラほど上手くないんだ。こちらも無駄な殺生はしたくないんでね』
「無駄な殺生、ねえ。見逃してやるからここから消えろという事ですか」
『まあ掻い摘んで言うとそういうことになるな。
 勝利の為に命を懸けるのも結構だが、そんなものが命よりも大事だとは思わないだろう? 君も」

 

軽い口調に親近感を覚えないではなかったが、だからといって首を縦に振る事はできなかった。
正直に言うとその申し出を受け入れたい気持ちも無いわけじゃない。
いつまでたっても戦いは嫌いだし、ましてその中に大切なクルーたちを突入させるなんて
考えたくも無かったから。

 

「確かに勝利なんて下らない物の為に部下を殺させる気は、僕には無い。けどね」

 

だけど、それを受け入れるわけにはいかないんだ。
デュランダル派と呼ばれクラインと戦った僕たちは。
一度彼らに完膚なきまでに敗れてしまった僕たちは。

 

「前回の大戦で自由を叫びながらデスティニープランという檻を否定したかと思えば、
 今度は平和を叫びながら世界を力による檻に閉じ込めようとする。
 笑いたくなるほどのダブルスタンダード。呆れるほどの子供の理屈。
 ……もう付き合ってられませんよ。
 生憎、この世界は貴方がたのような子供の八つ当たりに構っている暇は無いんです」

 

画面の男の眼が鋭くなる。本気で怒っているのか、それとも士気を考慮したポーズか。
どっちでもいい。どうせ論破などできる筈も無い。

 

『言ってくれるね。なら君たちは何の為に戦う? 信念だとでも言うのか」
「違いますね。
 定められた運命を否定し、皆で明日を作っていく。そんな世界を望むという貴方たちの言葉を受け入れる。
 それをあの終戦の折に僕たちは決めたんです。
 ラクス=クラインが殺されたくらいでそれをやめるわけにはいかない。
 でなければ前大戦が、僕たちの敗北が、仲間の死が無駄になってしまう」

 

そう、だからこそ自分たちはまだプラントにいる。
抗戦やテロなどで新たな悲しみを振りまくのではなく、戦争によって生まれたこの結果を受け入れて。
敗北者として彼らの目指す道に従い、その先を見届ける為にだ。
それをコロコロと道を変えられてたまるものか。
ならあの戦いはなんだったんだということになるじゃないか。
彼らは自分たちから敗北まで奪おうというのか。

 

それだけは、絶対に許して良い事じゃない。

 

『言いたいことは分かった。だが君たちに勝機は無いだろう。こんな所で終わっても良いのかい?』
「ならそれが僕たちの運命だったってことでしょう。
 貴方たちの2枚舌に文字通り一生騙される、というね」
『結構。そこまでの覚悟ならもう言うことは無い』

 

通信が切れ、ブリッジ内の視線が自分に集まる。
言ってしまった。事実上の宣戦布告。
まさか自分の人生でこんな場面がこようとは思わなかった。
自軍の不利は否めない。仲間も大勢死ぬだろう。本当は撤退したかったがそれもできない。
覚悟を決めよう。もう迷う事は許されない。
自分は艦長、迷いや弱気を見せてしまっては他者に伝染する。
今は現実を受け止めて最善を尽くさなければ。

 

「MSを全機出撃させて。あと最寄りのザフト軍基地に入電を。援軍を要請するんだ、急いで!!」
「了解!!」
「わかりました!」

 

コニールとメイリンに指示を飛ばしながら考える。
機体の数では圧倒的に負けている。ましてや相手はミーティア、MSを出し惜しみする余裕は全く無い。
せめてダイダロスの連合軍が加勢してくれればまだ勝負は分からないが、
基地の連合軍は動く気配がなかった。
これはこちらが勝手にやっている事とはいえ、助けに来た自分たちを見捨てると国際問題になると思うのだが。
揉めているのか、漁夫の利を狙っているのか。向こうは向こうでいろいろ考えがあるようだ。

 

方針として、自軍は守備を固めて敵を引き付けつつシンとアスランがキラを倒す。
残存兵力は時間稼ぎの後に援軍と共に叩く。これしか考えられない。
結局のところシンとアスラン、2人の技量に託すしかない状況だ。

 

「彼ら頼りか、情けないなぁ。……いや、タリア艦長なら」

 

だが彼らだけに全てを任せるわけにはいかない。
自分は艦長だ。クルーの生存率を上げる為にも、できるだけの事をせねばならない。
尊敬していたかつての上司もそうしていたのだから。

 
 

「こちらは旗艦ミネルバ艦長、アーサー=トラインだ」

 

全艦に放送をかける。士気でも集中力でも死への恐怖心でも何でもいい。
彼らの生きる可能性が少しでも上がるのなら何だってやってやる。

 

「現在、最寄のザフト基地及びオーブから、援軍が此方に向かっている。
 連合の動きは不明だが、おそらく背後を突かれる事は無いだろう。
 この場における全ての責任は僕が取る。皆、思うがままに戦ってくれ」

 

そこまで言って息をついた。次の言葉は鼓舞の言葉。
少しでも彼らの心に届くようにと、強く願いながら叫んだ。

 

「相手は自分のせいで歌姫が泣いていることに気付こうともしない勝手な連中だ。
 これは一部の傲慢を阻止する、意義ある戦いである。犠牲は絶対に無駄にはならない。
 何としてもダイダロス基地を死守せよ。そしてザフト軍人の誇りを持って戦ってくれ。
 総員の、さらなる奮起を期待する!!」

 

煽った者がいるのか、船内に歓声と咆哮が響き渡る。通信士の様子からして他艦も似たようなものらしい。
勝利には士気の向上が不可欠。それを心得ている者が各所にいたのだろう。
今は素直に、名も知らぬ彼らに感謝する。

 

各艦及び船内の雰囲気が変わっていく。全員覚悟を決めたようだ。
ならば自分は道を示すのみ。帽子を被り直し前を見つめた。
視線の先、カタパルトから次々とMSが発進していく。

 

「ベルリンに戻って2人で高級料理食べに行く約束、忘れちゃ困るんだからな」
『忘れてないって、ちゃんと連れて行くから心配するな。シン=アスカ。デスティニー、行きます!』

 

「というわけで財布係、無事に帰ってくるように。スラッシュザクファントム、行って来い!」
『ったく素直じゃないんだからこの娘は。ルナマリア=ホーク、ザク、出るわよ!』

 

「帰ったら思いきり腕を振るいますから、何が食べたいか決めておいてくださいね。
 セイバー、発進どうぞ!!」
『君が作るものなら何でもいい。アスラン=ザラ。セイバー、発進する!』

 

「そういうのが一番困るんだけどなぁ。続いてネオジェネシススーパーフリー負債仕様」
『ディアッカ=エルスマン、ザクファントム、出るぞ!』

 

流石と言うか何と言うか。いつも通りの彼らに笑いがこぼれそうになる。
そうだ。やるべき事はもうやった。あとはいつも通りにこなせば良い。
どれだけ背伸びや逆立ちしたところで、じぶんはアーサー=トライン以上の何者にもなれないのだから。
他にする事があるとしたら、ただ祈るだけ。神などにではなく、自分の背を押してくれる存在に。

 

「さて。行くとしようか」

 

散っていった仲間たちよ、どうか彼らに加護を。
そしてタリア艦長、見ていてください。

 
 
 

『これは、また……』
『ここまで凄いと感心するしかないな。よくもまあここまで集めたもんだ』

 

シンやディアッカの呆れた様な声に、アスランは言葉を返すことが出来ない。
レーダーで見るのと自分の目で確認するとでは大違いだ。
自分たちの目線の先にはザクやゲイツは言うに及ばず、ダガーにアストレイ等のザフト以外の機体、
挙句の果てには旧式のジンの姿まであった。
そしてその全ての機体が白く塗装されており、彼らが誰のために戦っているのかを示していた。

 

「まるで十字軍だな」

 

十字軍。中世のヨーロッパで聖地を奪還するために派遣した遠征軍のことである。
聖戦を謳いながら各地で虐殺や略奪行為を行った侵略軍だとされているそれは、今の彼らによく似ていた。
彼らが掲げる神は今は亡き平和の歌姫、ラクス=クライン。
率いるは歌姫の伴侶にしてCE最強の聖剣、キラ=ヤマト。
自らの正義を疑いもせず、目の前の敵に襲い掛かる。
そして彼らの目には、力に溺れる己の姿は映っていない。力を振るうことに疑問も持たない。

 

やりきれなかった。
俺が、あの時止める事ができたなら。そう思ってしまうから。

 

『本人たちは三銃士の銃士隊のつもりだろうけどな……何沈んでるんだ? アスラン』

 

シンから通信が入る。まさか空気が読めないことが多い彼に気付かれるとは思わなかった。
傍目から分かるほど自分は沈み込んでいたんだろうか。ヘルメット被ってるのに。

 

「いや、ままならないものだなと思ってな」
『何がだよ』
「この世界のために、自分にできることをしよう。そう思っていろいろ足掻いてみたのはいいが。
 俺には結局世界どころか、親友1人止めることすらできないんだからな」
『親友? 惚れてる男の間違いじゃないのか?』
「俺はそっちの気はない。背後から撃たれたいのかお前は」

 

真面目な話だったのだが茶化された……てかガチでホモ扱いかこの野郎。今の俺には嫁だっているのに。
なんなんだろうな、最近の俺の扱いは。

 

『アンタもキラもクライン議長も。皆と変わらない、普通の人間なんだろ?
 ならできないことだって当然あるさ』
「それはそうだが……」
『自分の無力も過ちも、全部受け入れてさ。
 死んでからあの世で合流できたら、皆に謝りに行こう。
 殴られるくらいじゃ済まないだろうけど』
「……そうだな。それも、悪くないか」
『ま、今はその前にもう1人の馬鹿を土下座させなきゃいけないけどな』

 

画面の向こうの青年が苦笑する。自分も似たような笑みを返した。
謝りに行く、か。そうだな。
正直謝ったところでここにいない人たちに許して貰えるとは思わないが、
何をするかが決まったのは悪いことではない。
実際何かすっきりしたような気がする。
それにしてもシンは変わった。彼女たちのおかげなのは言うまでもない。

 

「なあシン、お前はこれ以上変わったりするなよ。
 もうお前と戦うのなんてゴメンだ。命がいくらあっても足りやしない」
『今の所、変わる予定は無いな。そういえばアンタには借りがあったっけ。今返してやろうか?』
「これが終わった後で良ければいくらでも付き合ってやるさ」

 

軽口を叩き合う。気付けば敵の軍勢が随分近付いていた。
先陣はミーティア。そして混成部隊。

 

『敵の第一波が来るぞ!!』

 

コニールの緊張した声がコックピット内に響く。
大丈夫だ、そんなに慌てなくていい。怯える必要もない。俺たちは負けはしない。
そう、今決めた。

 

『行くぞアスラン。ミーティアどもを薙ぎ倒して、兵の士気を高める』
「ああ、行こうかシン。お前となら楽勝だ」

 

デスティニーが翼を開く。右肩のウェポンラックからアロンダイトを引き抜いた。
セイバーのバーニアが光を放つ。右手にライフル、左手にサーベルを握り締めた。
パーティの準備はこれでいい。後は思うがまま、踊るだけ。

 

「遅れるなよ!!」
『アンタこそな!!』

 

加速し、味方を振り切るように突出していく2機。
先頭に立つミーティアに狙いを定めた。

 

「おおおおおおおおおおッッッ!!!」
『でやああああああああ!!!」

ぶつかる寸前でさらに加速、流星と化した2機がミーティアを貫いた。
両舷のアームが火花を放ちながら切り落とされる。
振り向きざま、迷うことなくライフルとパルマを同時に放つ両機。
放たれた光は吸い込まれるように直撃し、ミーティアが爆発を起こす。
慌てて連結を解除するストライク。その隙を逃す訳も無く、
デスティニーがビームマシンガンの照準を合わせた。

 

『これで……どうだ!!』

 

黄色の閃光が雨のように降り注ぐ。そして爆発。
まずは1機。だが気を抜く暇は無い。
セイバーをデスティニーの背後を庇う様に隣接させながら、敵軍に向かってライフルを放つ。

 

「シン、大丈夫か?」
『心配は無用だアスラン。それよりもフリーダムの姿が確認されてない』

 

襲い掛かってきたシグーをサーベルで貫きながら、アスランは全体を見渡す。
確かにストライクフリーダムの姿は確認できなかった。
あいつのことだから、味方の道を切り開くために先陣を切ると思っていたのだが。

 

「第一陣の中にはいないみたいだな。だがディーヴァもエターナルも此処にいる。そのうち出てくるさ」
『ならアイツが出てくるまで俺達は』
「ああ。お前が言った通り、ミーティアどもを薙ぎ払うだけだ!!」

 

運命の魔剣と守護者の剣。
2振りの剣は、流星の群れに飛び込んでいく。

 
 
 

「始まったか」

 

前線の方で火花が上がり始めた。
あの光が一つ起こるたびに何人か、それとも何百人かが命を散らしているのだろう。
それぞれが掲げた灯を華々しく、儚く、あっけなく咲かせて。

 

「ラクスが殺されたくらいで、か。そう思う人もいるってことはわかってたつもりだけど」

 

先程全回線で行われていた艦長同士の会話を思い出す。やはりそう都合は良くは無いか。
この世界で辛い目にあっているのは自分だけではないのだ。
後戻りはできないが、ここまで来てしまった自分を恥じる気持ちは少しあった。
認識したところで意味は無いのはわかっていたけれど。

 

『接近する熱源2。熱紋照合……デスティニーとセイバーが来ます!! 距離80!!』
『ミーティア部隊を前面に出して迎撃させろ。ドムトルーパーも直ぐ援護に向かわせる。
 アンチビーム爆雷発射。主砲とリフレクターの準備も急げよ!! ………キラ、準備はいいか?』
「はい」

 

バルトフェルドの声に頷く。感傷も後悔も今の自分には必要無かった。
この戦いに勝ちたいとは思わない。無論戦う以上は勝利を目指すが、それは義務であって欲求ではない。
戦いに敗れ、誰かに討たれたいとは思わない。かつて渇望していた死への欲求は希薄になっている。
だから自然と、自分の思いは一つに纏まっていった。

 

「キラ=ヤマト。フリーダム、行きます!!」

 

戦おう。ただひたすらに、今度は撤退なんて考えずに。
戦って戦って戦い抜いて、討たれて止まるか周囲に敵が居なくなるまで。
これまで自分が選んできた道の先に何があるのか。ただそれだけを知るために。
もう自分にはそれくらいしか無いから。だから―――

 
 

シン。
君に再び、逢いに行く。

 
 
 

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