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SEED-IF_CROSS POINT_第33話

Last-modified: 2010-10-21 (木) 03:35:59
 

『まだ出撃命令は無し、か。上は何を考えているんだろうな』
『どうせ碌な事では無かろうよ。……どうする? 指揮官はお前だぞ』
「………」

 

クリーブランドの船橋に男たちの声が響く。
画面の前で腕を組んだまま目を閉じているのは、言わずと知れた本船の艦長。
今は艦隊の司令官である彼に、友人である他の艦の艦長たちが通信を入れてきたところである。

 

とは言っても、彼らが何を言おうと上の決定が覆るわけではない。
である以上勝手に動くことも出来なかった。
上は一体何を考えているというのか。部下たちの言う通り幾人かが裏で組んでいるのだろうか。
レクイエムを持ち出した時点でキラたちにとって自分たちの価値などないということに
気付かんのかあの馬鹿どもめ。
怒りは時間と共に溜まっていくばかり。眉間に刻まれた皺は、爪楊枝くらいなら挟めそうなほどである。

 

クルーの1人がチャートをスクリーンに映しだす。画面の中でぶつかり合う赤と青の三角形。
しばらく時間が経つと、青の三角形の形が段々と崩れていった。じわじわと後退しているようにも見える。

 

「ザフト、押されてきましたね」
「………」

 

副長のぼそりとした呟きにも言葉を返さず、艦長は前方の戦闘を見つめ続ける。
こうなるのはこの場にいる誰もがわかりきっていたことだった。
多数対少数もさることながら、どちらも寄せ集めとはいえ兵の練度が違いすぎる。
そしておまけにミーティア部隊。
開戦当初こそシン=アスカやアスラン=ザラの働きで五分の状況まで持っていっていたが
流石にそれも長時間は続かなかったようだ。

 
 

『貴様らは本当にザフトなのか!? 何故連合などに加担する!!
 それとも何か、レクイエムでプラントを焼かれる可能性を許容してでも、我らを討ちたいということか!!
 流石はあのデュランダルの手駒だっただけはあるな!!』
『ふざけんな! レクイエムを止めたいならもっと違うやり方があんだろ!!
 連合は大嫌いだけどお前らには殺らせない。こっから先は行かせないんだからな!!』

 

通信士が戦場の通信を傍受したらしい。
戦場ではお馴染みの光景である、両軍の罵り合いが静かなブリッジ内に響いた。
張りのある壮年の男の怒声とまだ年若い少女の声。会話の内容から察して少女の方がザフトのようだ。

 

「おい、今の声女の子だったぞ……」
「ザフトじゃそんなにめずらしくはないけどな。ってことは俺たちは女の子に守られてるってわけか」
「好き好んで戦場に行きたいとは思わないけどさ。流石にどうかと思うぜ。
 コーディとはいえ自分より若い女の子が必死で守ってくれてんのに、
 俺たちゃのんびり高みの見物ってのは」

 

クルーが好き勝手に雑談している。その軽そうな声が己を責める声へと自己変換され、最深部に突き刺さる。
不貞腐れて座っている自分と、その前で両腕を広げ庇うように立つ少女。
そんな絵を幻視した瞬間、己の手の中で何かが壊れる音がした。

 

「……お前ら、知ってるか。どこで聞いた言葉かは忘れたが……」

 

空のボトルを握り潰し周囲の部下たちに話しかける。眉間に刻まれた皺はもう無い。
もう我慢の限界だった。

 

「この世にはな、2種類の大人がいるんだ。
 自分の責任を果たせる大人と、責任を果たそうと努力する大人。その2種類がな」
「……責任を果たせない大人もいますよ」
「そんなやつは大人じゃねえ。体だけ無駄にでかくなった、甘ったれたくそ餓鬼だ」

 

気の入っていない副長の言葉に吐き捨てるような声で返し、艦長は再び通信を繋ぐよう命令を出した。
数秒後、画面に面倒くさそうな顔の中年が映る。何を平和な顔をしているのか。

 

『また君か。もういい加減にしたまえ』
「なに、一言で済むのでお気になさらず。……我らはこれより出撃し、ザフトの援護に入ります。では」
『な!? 何を勝手なことを言っている。こちらはそんな指示は出していないぞ!!』
「確かに、出されてりゃいつまでもこんなとこにいませんわな。
 だが生憎、こちらは政治ごっこや取らぬ狸のなんとやらには興味がないものでして」
『な……』

 

皮肉を言われ、怒りで顔を赤くする画面の中の男。
落ち着こうとして深く息を吸い、再び自分の目を見据えた。

 

『覚悟しておきたまえ。君にはおって、沙汰があるだろう』
「それくらいは覚悟していますよ。ただし、その時は今回の貴方の動きを報告させていただきます。
 いやあ、どんな策を講じていたのか楽しみだ」
『貴様、よくも上官に向かってそんな態度を……それでも軍人か!!』
「他人の背中に隠れて粋がる同胞よりも、同じ敵と戦うコーディの方がまだ尊敬に値するというものです。
 それに確かに軍に命を預けちゃいたが、品性まで捨てた覚えはないな。
 ……おい、バカがうるさいから通信を切れ」
「はい」
『待て、貴様――――』

 

画面が黒く染まり男の姿が消える。
通信士に全軍に発進準備を連絡するよう命令したあと、艦長は深く椅子に座り溜息を吐いた。
腐った連中の相手は疲れる。しかもそういう人間に限って地位が高かったりするのだ。

 

「……良かったんですか? しつこそうですよ、あの顔」
「知るか。計算ごっこか政治ごっこか知らんが、ガキの遊びに付き合ってやる時間も余裕も無いんだ。
 出世競争にはもっと興味が無いしな。
 俺は天涯孤独の身だ、殺されそうになったらプラントに亡命でもしてやるさ……全責任は俺が負う。
 全艦、全速前進」
『やっと腹を括ったか。遅いんだよ』
『よっぽどやばくなったときには俺たちも上にかけあってやる。生きてりゃの話だがな。
 それにしてもお前、相変わらず不器用なやつだな』
「うるさい」

 
 

基地から出撃したクリープランドに続く連合の艦隊。
命令を守って基地から動かない艦もあったが、別に構いはしない。
どうせ守備部隊は残さなければならなかったのだから、彼らが基地を守るだろう。
だから後顧の憂いはない。後は自分たちの思うがまま動くだけ。
彼らの考えていることはただ一つ。

 

「――――宇宙の化け物どもに、借りを返しに行くぞ!!」
「了解!!」

 

自分を助けに来てくれた者たちを。そして今、自分たちの助けを必要としている者たちを。
ただ助けに行く。それだけのことである。

 
 
 
 

第33話 『腹の底から君の名前を』

 
 
 
 

『ほらほらどうしたいルナマリア!! 威勢がいいのは口だけかい!?』
「クッ、調子に乗ってべらべらと……!!」

 

勢い付いたヒルダの声に、ルナマリアは苦虫を噛み潰したような声で言葉を返す。
ドムはバージョンアップがされているのか機体性能では若干向こうが上。
遠距離の撃ち合いもスクリーミングパスやギガランチャーなどむこうの武装が充実しているため此方が不利。
かと言って接近戦でも劣勢が続いていた。
ビームアックスは破壊力は十分だがその攻撃方法は打ち降ろすか薙ぎ払うに限定されることもあり
本来は一撃離脱の強襲がメインであるため、サーベルを持っているドム相手では
そこまで優位に立てないのだ。
乗っているのがインパルスならいくらでも決めるチャンスがあったのだが、
流石に無いものねだりは出来ない。

 

『甘い!!』
「ちっ……」

 

油断をしていたわけではないが、思考で僅かに動きの鈍った隙を突かれた。
ギガランチャーから放たれたビームを避け損ね、左腕が爆発を起こす。

 

「あうっ!!」
『はははっ、よく避けたねえルナマリア。でもそろそろ幕といこうか。
 あんたにはあの世でラクス様の話し相手をして貰わないといけないからねぇ!!』

 

反論も言い訳もできない。今の自分は劣勢だ。
このままでは間違いなく落とされる。間違いなく、自分はここで―――

 

言葉が終わるとドムは武器をサーベルに持ち替え、ザクとの距離を詰めた。
鈍重なビームアックスの一撃は脅威ではないと踏んだのか、
ヒルダが最後の攻防に選んだのは皮肉にも接近戦。
スラッシュザクの得意な土俵で倒すという意地悪な理由を選んだわけではなく、
ただ単純に確実に止めを刺すためだろう。
そして今の流れではその判断を否定する材料が無い。

 

負けるのか。こんなところで自分は死ぬのか。

 

以前いいようにやられたこの眼帯女に借りを返せずに。
コニールやあのステラとかいう強化人間との決着も付けずに。
結婚式も、ウェディングドレスや誓いのキスも、コニール目掛けてブーケを投げるのも何一つできずに。
そして、シンの子供も生まずに死ぬのか。
こんな結果ならベルリンで大人しく待っていた方が全然マシだったじゃないか。
なんで自分はこんな所に居るんだ。

 

「シンと……あいつと、いっしょに……」

 

そう、そうだ。自分は戦場に何しに来た。
守るためだろう、あいつの背中を。
昔の様に、あいつの隣に立つ為に。

 

「たたかうんだ……」

 

ぶつん。頭の中で何かがキレる音がした。
死ぬのなんてごめんだ。守られるのもごめんだ。
去っていくあいつの後姿を黙って見送るなんて、金輪際ごめんだ。
王子様のキスを待って、延々眠り続けるお姫様の役なんてやってられない。
王子様が逃げるのなら捕まえよう。嫌いだというなら自分に溺れさせよう。
足りないものがあると言うのなら、最高の女にまで登りつめよう。

 

ねだるな、勝ち取れ。さすれば与えられん。
それこそがルナマリア=ホークのプライド。

 

「たたかうんだ!」
『ぐぅっ!?』

 

ドムがサーベルを振り上げた瞬間、手にしていた突撃銃をカウンター気味に叩きつける。
続けざまに至近距離からショルダータックル。
衝撃で動きが止まったドム。その両腕を押さえると同時に、両肩のハイドラが回転速度を上げる。
零距離射撃、狙いをつける必要はない。ただ引き金を引くだけ。

 

そう、こんな年増に邪魔されてる場合じゃない。
わたしはこれからもずっと、あいつのそばで――――

 

『や、やめ………』

 

「シンと一緒にたたかうんだ!!! 邪魔をするなぁぁぁぁ!!!」

 
 

ルナマリアの絶叫が宙域に響き渡る。
同時に光がドムトルーパーの装甲を貫き、そのままヒルダ=ハーケンの肉体ごと呑み込んでいった。

 
 
 
 

『どうした……まだ俺は戦えるぞオラァ!!』
「チッ、なかなか粘るな……」

 

交錯する光。流れ弾にぶつかり爆発するデフリ。
ぶつかり合うアスランのセイバーとマーズのドムトルーパー。
満身創痍のドムに比べ、セイバーはその身体に掠り傷一つ付いていない。
どちらが優勢なのかは言うまでも無い。いや、むしろマーズがよくここまで粘っているというべきだろう。
舐めていたわけではないが面倒臭い相手だった。アスランは思わず舌打ちをする。

 

『邪魔をするなぁぁぁぁ!!!』

 

不意に、離れた場所で爆発が起こる。視線の先では紅いザクがドムを撃墜したところだった。
このまま月へ向かおうとしているのか、彼女はそのままこの宙域から離脱していく。
流石はルナマリア。ブランクのある身であのヒルダを討つとは並大抵の実力ではない。
元FAITHは伊達ではなかったか。

 

『そんな、ヒルダ!?』
『―――正気かよ!!!』

 

女戦士たちの決着は、残った2組の戦いの均衡が崩れるきっかけとなった。
ヒルダの撃墜に動揺し思わず動きを止めるヘルベルト機。
その隙を歴戦の戦士たるディアッカが逃すわけもなく。
気が付けば、ドムの中心を紅い閃光が貫いていた。

 

『ヘルベルトォ!!!』

 

爆散するドムを目にし、悲痛な声を上げるマーズ。
チームを組んでいた者たちがこの数秒の間でいなくなったのだ。無理も無い。

 

『よくも……よくも俺の仲間たちを!! テメェら絶対に許さねえ!!』
「許しは請わない。だが仲間を死なせたくなかったんなら、なんで戦場に出てきた。
 なんで再び銃を取った。……なんで近くに居たのにキラを止めようとしなかった!!」
『うるせぇぇぇ!!!』

 

残された左手でサーベルを握り、怒声と共に突貫してくるドムトルーパー。
怒りに呑まれ防御を考えていないその攻撃。
隙だらけなその姿に昔の自分たちの姿を見たアスランは、思わず奥歯を噛み締めた。

 

『うおおおおっっっ!!!』
「……いつか必ず、謝りに行く。だから」

 

許しは請えない。止めなかった彼らをこれ以上責める気も無い。今の自分に出来るのは一つだけ。
アスランは両手に握ったサーベルを頭上に掲げ

 

「さよなら」

 

無造作に振り下ろした。

 
 
 
 

『一つ、終わっちまったな』
「……ああ」

 

背後の爆発には目を向けず、アスランはディアッカの声に力無く答えた。
戦闘狂の彼らとは仲が良かったとは言い難かったが、かつては仲間として同じ敵と戦った時期もあったのだ。
道が分かれたとはいえ良い気分などするわけもない。心がずしりと重みを増した。
疲れた、早く帰ってメイリンを抱き締めたいという甘えの心をどうにかして振り払う。
まだ、それを考えるのは早い。

 

『じゃあ俺はミネルバの援護に行ってくる』
「俺はシンたちの方へ行く。そっちは任せた」

 

気を利かせたのかそれとも時間が惜しかったのか。おそらくはその両方だろう。
ディアッカのザクはバーニアから光を吐き出して去って行った。
アスランはどっと重くなった身体を動かし、セイバーを変形させる。
シンとキラが何処で戦っているのかはわからない。だがこの機体なら数分で追いつける筈だ。

 

「……ん?」

 

レーダーのレンジを変える為パネルを叩く。ルナマリア機の進行方向にフリーダムの存在が確認された。
ここからはそう大して離れていない。それは良い。
だが、キラと戦っている筈のデスティニーの信号が確認できないのはどういうわけだ?

 

『嘘だ……こんなの嘘だよ……!! シン、なんで返事してくれないんだよ!!』
『コニール、デスティニー以外の回線は全部こっちに廻しなさい!! 貴方はシンに声を掛け続けて!!』

 

ミネルバに通信を繋ぐと、妻と友人の余裕の無い声が聞こえてきた。
同時に、猛烈に嫌な予感が胸を支配する。
ちょっと待て、なんだこの声。これじゃまるであいつが―――

 

『アスラン、聞いているんだろ!? 君はシンの所に向かうんだ!! 急いで!!』
「りょ、了解!!」

 

余裕の無さそうな戦況に、先ほどまでの脱力感は吹き飛んだ。
セイバーを全速力で走らせてフリーダムの許へ向かう。
レーダーの様子は相変わらず。コニールとルナマリアの悲痛な声だけがコックピット内に響き続ける。
まだ戦いが始まってそこまで時間は経ってない。だからこの現実が信じられなかった。

 
 

まさか。
シンが敗れたって言うのか。

 
 
 
 

時を遡る事10分前。戦場を月面に移しながら、キラとシンの戦いは熾烈を極めていた。
機体の性質こそ違えどもその性能はほぼ互角。相対するはCEのパイロットTOP3のうちの2人。
そう簡単に決着する筈も無い。

 

『はあああああっっっ!!!』
「おおおおおおっっっ!!!」

 

自らを鼓舞し、相手を威嚇するかのようなキラの叫び。それに応えるかのようにシンも吼えた。
操縦者の感情に呼応し、デスティニーの主機関も爆音を響かせる。
片手でバーニアのスロットルの調整・敵の照準調整をしつつ、ロックオンと同時にトリガーを引く。
ボクサーが放つワンツーの様に時間差で突き出された両掌。そこから光弾が2発放たれるが

 

―――手応えはない、か。

 

土煙を上げる月面を背後に、フリーダムが接近してくる。
まるで漆黒の宇宙を切り裂くかのようなその鋭さ。
視界の隅でビームサーベルの光が見えた。咄嗟にフットペダルを踏み込むシン。
その瞬間、デスティニーが尋常ではない速度で後ろに跳んだ。
予想以上の衝撃に思わず意識が遠のくが、気迫でそれを繋ぎとめる。
丁度眼前をサーベルの刃が通り過ぎる所だった。両掌から散弾を放って距離をとる。
危ないところだったがなんとかしのいだようだ……しのいだ?

 

「こいつ、もしかして……」

 

先ほどから感じていた違和感。
気付いていなかったわけじゃない。だが今の攻防で確信した。
前回の戦いに比べて、今のキラには迷いがある。
いや迷いと言うほどでもないのか。無意識の躊躇いと言った方が近いかもしれない。
周囲の人間や機械にも計測できないほどの、僅かな攻撃の鈍り。
おそらくキラ本人も自覚してはいないだろう。

 

前回のキラなら踏み込んできた領域に、今のキラは踏み込んでこない。
確かにそこは危険な領域。一瞬のミスが命取りになるようなシビアな世界。
だが今までのキラなら平気で踏み込んできた場所だ。むしろそこを支配する事こそキラの真骨頂だったはず。
だからこそヤツは、誰も届かない高みにいられたのだから。

 

何故踏み込んでこない。恐れているとでもいうのだろうか。だが何を恐れているというのか。
死ぬ事か? ……まさか。キラに限ってそれは無いだろう。

 

『当たれぇぇぇっっ!!!』
「チッ……!!」

 

フリーダムからドラグーンが射出された。小刻みに動いてその攻撃をかわすデスティニー。
どうやら余計なことを考えている場合ではなさそうだ。
理由はどうあれ完璧じゃない。完璧じゃないなら、付け入る隙がある。
両肩のウェポンラックから、アロンダイトとスコールを取り出し構える。
一体何を迷ってるのかは知らないが――――

 

「その程度で俺に勝てると思うなよ、キラァッッッ!!」

 
 
 

なんで、自分はこんなにてこずっているんだろう。
頭のどこか、戦闘を行っている場所とは別の部分でそう考える。

 

キラ=ヤマトは焦っていた。

 

確かにシンは強い。
驚愕すべき反射神経と一瞬の判断力。そして勝負にかける執念。
だがそれは以前から分かっていたこと。
前回の終盤で何か吹っ切れたみたいだが、それでもここまで手こずる相手ではなかった筈だ。
あれからたかだか数週間。そんな短期間で人間が急に、腕を上げることなどできはしない。
ならば自分の腕が落ちているということか。しかし何故。
思考する暇も無く、デスティニーから光の雨が降り注ぐ。

 

「くっ!!」

 

前回はあれほど容易く回避していたマシンガンも、今では避けるばかりで反撃に移れない。
近接戦闘もシンの反応の良さとアロンダイトの破壊力の前にイニシアチブを取られてしまう状況。
自然とドラグーンに頼る戦い方になるが、既に4つほど落とされていた。
シンにはドラグーンは通用しない。
かつての宿敵であるラウ=ル=クルーゼの写し身、レイ=ザ=バレル。
その親友でもあった彼は全方位攻撃に耐性があるのか、
前大戦でも自分のドラグーンを全て回避していたのだから。

 

『その程度で俺に勝てると思うなよ、キラァッッッ!!』

 

圧力が増すデスティニー。反応の遅い身体。いつもより狭い視界。
これまでの戦いとはどこかが違う。もしかしたら、自分は本当にここで死んでしまうかもしれない。
アロンダイトの一撃、マシンガンのの乱射。
どれも命中すれば、確実にフリーダムを撃墜することができるだろう。
その場合自分はまず助からない。

 

以前の自分はそれを望んでいた。
戦って死ぬ。それは他のどんなことよりも甘美な誘惑だった筈なのに。
だけど今はそれが、とても。

 

ドラグーンを掻い潜り、それに合わせたライフルの一撃も避けて、ついにデスティニーが懐に入り込んだ。
アロンダイトをフリーダムに向かって振り下ろす。
完璧なタイミング。完璧な一撃。キラは思わず目を閉じた。
これで終わりか。
そう呟いた瞬間、瞼の裏に何かが浮かんだ。

 

楽しそうに笑う少女。嬉しそうに歌う少女。元気いっぱいに走り回る少女。
こちらを見て、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 
 

おとうさん。

 
 

「――――――ッッッ!!!」

 

その瞬間、死へと流されていた自意識が復活した。
幻聴、幻覚、それがどんなものだって構わない。その映像は折れかけたキラの精神を再び立ち上がらせる。
同時に頭の隅に血だらけの女性の映像が浮かぶ。しかしキラはそれを一瞬で振り払った。
申し訳ないが今はそれどころじゃない。
たとえ無様な姿をさらそうと、世界中の人間に嫌われようと、彼女に否定されようとも今は死ねない。
喪失、孤独。あの娘をそんな悲しい目には、もう2度と―――――

 
 

『避けた!?』

 

完璧なタイミングの一撃を回避されたデスティニー。シンの驚く声が聞こえる。
だがそれは当たり前のこと。
自分は彼女に教えた。あの少女の父であるキラ=ヤマトは、『すごく強い』のだと。
ならばこの程度で死ぬなどありえない。
それに自分にはもう一つ思い出したことがある。

 

「約束、したんだ……」
『何!?』

 

勝機は続いていると見たか、デスティニーが猛攻を仕掛けてくる。
吹き荒れるアロンダイトの剣嵐を、器用に両手のビームサーベルで流し、捌いた。

 

「あの娘と、約束したんだ……」
『何を言っている、キラッ……!?』

 

君のおとうさんは負けないって。
必ず帰るって。
だから。
だから――――

 

「僕は生きる!! 生きて!! 帰って!!

 

 ―――――あの娘を抱きしめてやるんだ!!!!」

 

眠っていた己の意思、生きようとする力が目覚める。
身体中がいつもの様にクリアになり、目の前の問題に対して最適解が即座に浮かんできた。
ようやく己を取り戻した事を全身が理解する。
思いだけではない。力だけでもない。
迷いの無い、かつてラクス=クラインに従って世界を統べた、あの頃のキラ=ヤマトを。

 
 

『なんだと……!?』

 

自分の言葉にデスティニーの動きが僅かに鈍った。
この隙は逃さない。今までの攻防とは逆に、デスティニーの懐に入り込んだ。

 

「だから僕は、君を討つ!!!」
『キラ、おまえ……ぐぁぁぁぁッッッ!!!!』

 

機体を回転させながらデスティニーを蹴り落とす。
月面に叩きつけられる機体。コックピットに衝撃が奔ったのか、一瞬デスティニーの動きが止まった。

 

勝機。

 

動かないデスティニーに向かって全砲門を開く。フルバースト。
襲い掛かる閃光はビームシールドで防がれた。だが構うものか、どうせ全身を覆うことはできない。
そのまま撃ち続ける。

 

「まだだ……まだだ……まだまだ…」

 

思い出すのはかつての戦い。シンに追い詰められた数年前。
幾度倒しても復活してきたインパルス。
まだ攻撃を続けるのは、あの出来事がトラウマになっているのかもしれない。

 

『やめてくれ……シンが死んじゃうよ……』

 

誰かの泣き声が聞こえる。だが攻撃の手は緩めない。
さらなる連射を。一心不乱の連射を。
シールドの防御の上から豪雨の様にビームを、レールガンを、頭部のバルカンを叩きつけ続ける。
砂埃の様に巻き上がる岩の破片。もう目視ではデスティニーは確認できない。
だがまだ攻撃の手は緩めない。
多分シンはまだ生きている。これくらいで死ぬとは思えない。死ぬ訳が無い。
彼は不屈。少しでも力が残っていれば、自分から勝利を奪うだろう。
だがそれだけは認められない。帰ると決めたのだ。勝つと決めたのだ。
自分の帰りを待っている彼女の為に。
まだまだ攻撃を加え――――――

 

『もう、やめろよぉ!!!』

 

コックピットの中に女性の声が響く。
発信元はミネルバか。思わず攻撃の手を止めてしまった。
再開しようと思ったが彼の反応は無い。これで終わったのか。
土埃が晴れていく。煙の中で、微かに輝く緑光が見えた。
そっと消えるビームシールド。全身の色を失い、灰色に変化していく機体。

 

デスティニーが、力無く横たわっている。

 
 

『シン!! いやぁぁぁぁぁ!!!!』
「――――落ち着いて。気を失ってるだけだ」

 

泣き叫ぶ少女に言葉をかけつつ動かなくなったデスティニーを見下ろす。
予想通り、シンは意識を失ったようだ。
そっと息を吐き出す。どうやら自分は勝つ事ができた。
デスティニーにはあちこち損傷はあるものの、意外にも致命的な損傷は無さそうだった。
だがそんなもの今から戦闘不能にすればいい。
アスランも残っているが、セイバーではフリーダムに乗った自分には絶対に勝てない。
あとはいつものように有象無象を狩って、レクイエムを破壊すれば終わりだ。
これで帰れる。彼女のところに。

 

「シン、本当にごめん。こんなの友達にすることじゃないよね。
 だけど君の行動は……君が戦場に戻ってくれたことは、絶対に無駄にはしないから」

 

動かないデスティニーにビームライフルを向ける。当然コックピットは狙わない。MSの四肢を破壊するだけ。
あれほどまでに攻撃しておいて今更だが、シンには死んで欲しくない。

 

「じゃあね。もう、戦わなくていいから」

 

ライフルが光を放つ。4連射。
デスティニーに向かって吸い込まれるように近付いていき―――

 

『それは、させない』

 

赤い影に、阻まれた。

 
 
 
 

『ルナ!! シンが、シンが!!!!』
『落ち着きなさいコニール!! 外傷は無いんでしょ!? 気を失っているだけよ!!』

 

女2人の叫び声を聞きながら、アスランはフリーダムにライフルを向ける。
間一髪なんとか間に合った。シンの護衛はルナマリアに任せれば良いだろう。
俺があいつの心配などしても意味は無い。
今はただ、目の前のフリーダムに集中する。

 

『セイバーか。邪魔だよアスラン、もう勝負はついたんだ。シンには悪いけど、彼の出番は終わった』
「……あいつは。シンはまだ、負けてはいない」
『この状況を見て、まだ君はそういうことを言うのかい? 後は止めを刺せば終わりなんだけど』
「それでもだ。これ以上、シンをやらせはしない」

 

フリーダムを睨みつけながら答える。
機体の性能差は大きく、自分は手負い。正直勝算など無い。
だが迷いも無い。やるべき事ははっきりしていたから。

 

仲間を。いや、友を救いたい。
セイバー。俺に力を貸してくれ。

 
 

「―――――俺が、させない」

 
 
 
 

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