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SEED-IF_CROSS POINT_第4話

Last-modified: 2010-01-21 (木) 00:49:28
 

オーブ宮殿の代表室。2人の男女がテレビに映る映像を見ている。
画面の中には漆黒の宇宙。
そして次々に落とされていく多数のMSと航行不能になった戦艦が映っていた。

 

「………以上が、今回の顛末だ」

 

テレビの映像を止めて、金髪の女性、カガリ=ユラ=アスハが口を開く。

 

「もう、アイツの行動をこれ以上見過ごすことはできない」

 

悲しみと悔しさが混ざった表情で彼女は呟いた。話しかけられた男性は組んでいた腕を解き、溜息を吐く。
彼の名はアスラン=ザラ少将。
無限の正義、インフィニットジャスティスのパイロットにして
『平和の歌姫』 ラクス=クラインを飛翔させたもう一つの翼である。

 

「君にまで手を上げたか。アイツは本気なんだな。本気で世界に……」
「すまない。私たちでは……私では止めることができなかった」
「それは仕方ないさ。本気のキラと戦えるやつなんかこの世界には数えるほどしかいない。
 それよりもムウさんたちはどうなった?」
「フラガ一佐の傷は軽傷で大したことなかったから、もう既に退院してる。今回の作戦にも参加予定だ。
 だけどキサカや他のパイロットたちは重傷で、しばらく復帰は無理だろうな」
「そうか……」
「それよりもすまない。私がお前にプラントとの仲介役を頼んだりしなければ、
 お前抜きで説得に行かなければ、もっとまともな状況で頼めただろうに……」
「緊急事態だったんだ、しょうがないさ。
 それに正直キラ相手じゃムウさん以外は誰が側にいても足手纏いにしかならないだろうしな。
 心配するな、何とかやってみるさ」
「すまない……」

 

カガリは俯いたまま目を閉じ、強く拳を握った。覚悟を決めているのだろう。
しばらくして顔を上げた彼女の表情に、迷いは無かった。

 

「アカツキの修理と換装、それに軍の再編成が終わり次第行って貰う事になる。
 でもそれにはまだ時間がかかるから、アスランはそれまで自由にしていてくれ。
 訓練でもいいし、家族と共に過ごしてもいい。多少の融通ならきくと思うから」

 

そう言ってカガリは部屋を後にした。

 

一人だけ部屋に残される。
周囲がなんとなく暗く感じたので窓から外を見たが、太陽はしっかり出ており外は明るかった。
単に心境の問題なのだろう。
現に前まではそうじゃなかった。
進むべき道があった。たくさんの仲間がいた。
世界は光で溢れていた。それがずっと続くと思っていた。
だけど、こんなにもあっさりと終わってしまった。

 

溜息を吐き首を横に振る。感傷に浸るのは止めよう。今はこれからの事を考えなければならない。
リモコンを手に取り再生ボタンを押すと、宇宙空間でのフリーダムとオーブ軍の戦闘が映し出された。
いや、それは戦闘と呼べる物では無い。戦況が一方的過ぎる。
ムウのシラヌイアカツキでさえ1分掛かっていない。
強い。感想はその一言で事足りた。

 

「……勝てないな、コレは」

 

MSの操縦技能において、キラに敵う者はこの世界にいない。
周囲からはキラと同格と謳われている自分も含めてだ。
彼は、自らの父によってそのように造られてしまったから。

 

ふと思い出す。かつて自分の上司だった男は言った。
自ら育てた闇に喰われて人は滅ぶ、と。
ならば最高の存在として造られたキラに世界が支配されるのも、逃れられない事なのだろうか。
そして自分はまたアイツと戦わなければいけないのだろうか。
あの 「撃ちたくない」 と悲しげに呟いた、かつての少年と。
彼女の亡骸にすがって泣くことしかできなかった、憐れな青年と。

 

「これが、運命だとでも言うのか」

 

そうだと言うのなら、ひどく悪趣味なシナリオだ。
正直、脚本の書き直しを要求したい。

 

―――そういう君もこの 『運命』 というパズルの欠片の1つに過ぎんだろう、アスラン=ザラ

 

聞き覚えのある声。背後から誰かの声が聞こえたような気がした。
慌てて後ろを振り返る。

 

―――それともその自慢の剣で、全てを薙ぎ払ってみせるかね?

 

一瞬見知った姿を見たような気がしたが、そこには誰もいない。
全てを薙ぎ払う。キラを。この最悪の運命を。

 

だが、俺にそれができるのか?

 

「俺は…」

 

「俺は」 の後に続く言葉は何なのだろうか。
自分は何を言おうとしているのか。いや、自分は何がしたいのか。

 

「俺は………」

 
 

答えは見つからず。自分は未だ、迷っている。

 
 

第4話 『ザラ』

 
 

雲一つ無い満月の夜。シン=アスカは夜道を1人で歩いていた。

 

道に響いているのは2つの靴音。彼自身の物ともう一つ。
歩いている間一切口を開かず、かと言って周囲にも目を向けないシン。
彼はただ淡々と目的地へと向かう。
まるで何かに追われているかのように。まるで何かを誘い込んでいるかのように。
周囲から分かるのは、印象的な紅い瞳がひどく冷たい光を放っているということだけ。

 

「………」

 

目の前には下手な落書きが書き込まれた壁。
彼が立ち止まったのは人通りの無さそうな行き止まりだった。
隣の広場と道を分ける錆びたフェンスの近くには、あちこちに捨てられた空き缶が散乱している。
無造作にその中の一つを蹴飛ばした後、初めてその口から呟きが漏れた。
6人。

 

もう一つの靴音が止まる。彼の背後にはスーツを着た細身の男性の姿があった。
男は己の冷たい目を隠そうともせず、振り返ったシンに向かって話しかける。

 

「どうも今晩は、アスカさん。良い月ですね」
「ちょうど今、雲で隠れちまったけどな」

 

彼の傍には2人の男。真ん中にいる、シンに声を掛けた細身の男がリーダーの様だ。
それ以外にも周囲に何人かの気配を感じる。そして刺す様な視線も。
どうやら穏やかな話ではなさそうだ。
すぐに動けるよう身体の力を抜きつつ、目の前の男に尋ねる。

 

「んで、アンタ誰だ?」
「そうですね。今の世界に不満を持っている者、とでも言っておきましょうか」
「なんだ、ザラ派の残党か」
「………」

 

気取った自己紹介に答えを返すと、図星だったのか男が黙る。意外そうな顔をしてこちらを見た。
だが大した推理でもない。ただの消去法。
ブルーコスモスや連合はコーディを頼らない。今のデュランダル派は戦いに手を染めない。
ザフトはこの間勧誘に来たばかりで、キラが率いているクライン派は自分を必要としない。
残ったのは一つ、ただそれだけのことだ。

 

「黙るのは良いんだけど、用件があるなら早くしてくれ。腹が減って仕方が無いんだ」
「……分かりました。単刀直入に言いましょう。
 貴方には、これから我々と共に来て頂きます。拒否は認めません」
「いきなりだな。普通は熱意を込めて説得するもんじゃないのか?」
「こちらにも情報が流れてくるのです。プラントもオーブも、貴方を説得することができなかった。
 我々にも余裕は無い。聞く耳を持たないのなら、貴方が言うことを聞いてくれるようにするまで」

 

確かに付いて行く気は毛頭無いので、言っていることは全くの間違いではない。
だが展開が早すぎはしないだろうか。
そう話しながら少しずつ距離を詰めてくる3人。紳士的に事を進めるつもりは無いようだ。

 

「やれやれ、かつての栄華を取り戻すためならどんなことでも、ってことか。ご苦労なことだな。
 アンタらの主になるべき男はオーブに骨を埋める気まんまんだってのに。
 いつまでそんな無駄な事を続ける気だよ」
「我々を侮辱しているんですか?」
「もう消えろって言いたいだけだ。
 ブレイク・ザ・ワールドなんか起こしやがったくせして、まだ血が足りないか?
 世界はアンタらを必要としてないんだ。とっとと消えろよ」
「言ってくれますね……パイロット風情が」

 

男の細い目がさらに細くなる。虫か何かでも見るような目。
こういう目は嫌いだ。踏み潰したくなるから。

 

「元気があるのは結構ですがね。いい加減、ご自分の状況を理解した方が良いと思いますが。
 貴方だけではない、周りの人間にも危険なことが起きるかもしれませんしねぇ。
 確かルナマリアさんとコニールさんでしたかな? 綺麗な方たちだ」

 

ルナとコニール。不意に男の口から場違いな名前が出てきた。
この話の流れで出てくる理由は一つしかない。子供でも分かることだ。
フェンスの向こうから新たに現れた3人の大男に軽く視線を向けた後、
シンは興味が無さそうに言葉を返した。

 

「何が言いたいか、よくわからないな。はっきり言えよ」
「わかっているくせに。なに、生きていればそれで十分人質の役目は果たせると言うことです。
 ルナマリアさんは美人だ。そしてコニールさんにも需要は十分あるでしょう。
 彼女らを抱きたいと思う男は幾らでもいるでしょうな。
 ……例え、無理矢理にでも」

 

へえ。

 

「――――なるほど。つまりアンタ、死にたいんだ?」
「まさか。ただ貴方に対して有効な手を使わせてもらうだけです。悪いのは貴方ですよ?
 最初から素直に言うことを聞けば良いものを、こちらが下手に出ていることをいいことに
 調子に乗るからこうなる」
「いや、そのりくつはおかしい」

 

指を鳴らす男。同時に、シンの周囲を大柄な男たちが囲んでいく。
目の前の2人に今フェンスを乗り越えた3人で合計5人のボディガード。成る程、強気になる訳だ。

 

「少し痛めつけてやりなさい。MSの操縦に支障が無い程度にね。
 ――――彼女らを捕らえに行くのはそれからでも良いでしょう」

 

脅しだと思っていたが、どうやら先刻の言葉は本気らしい。
俺をいたぶった後、あの2人を攫う。んで2人を楯に俺を操る、と。
分かり易くて結構なことだ、ハハハ―――――

 

殺すか。

 
 

「ねえアスカさん? 女性が泣き叫ぶところを見るのは私も好きではないんです。
 土下座でもして忠誠を誓えば、もしかしたら私の気が変わるかもしれませんよ?」

 

何言ってるんだろうこいつ。テレビの見すぎだろ。
というかお互いの発言内容とこの状況を考えて、詫びを入れるのが何故に俺なのか。
それはもしかして冗談で言っているのか。

 

「悪い、何処で俺は笑えば良かったんだ?」
「何かおかしいところでも?」

 

背後から男が1人飛び掛ってきた瞬間、シンの脳内で何かが弾ける。
開かれる瞳孔、クリアになる全神経。身体中に分泌するアドレナリン。
シンがザフト最強の戦士だった所以である、SEEDが覚醒したのだ。
背後の男に振り向きざま右のボディを合わせる。深々と右拳が鳩尾に突き刺さった。
沈む顎にアッパー気味の左掌底。強烈な一撃に再び跳ね上がる上半身。
止めのオーバーハンドを振り抜く前にはもう、男は意識を失っていただろう。
倒れる男には目もくれず、シンは正面の男に視線を向けた。

 

「――――笑えないから聞いたんだ、雑魚が」

 

右手をぶらぶらと振りながら男に近付いていく。ボディガード達がその前に立ちはだかった。
気にしたそぶりも見せず、シンは薄く笑う。

 

「な、何してる!! 早く全員でかかれ!!」
「「了解!!」」

 

細身の男が声を張り上げる。その命令を受けて、残った男たちが同時に飛び掛ってきた。
シンを殺すわけにはいかないのか、どうやら銃器の類は使わないらしい。全員素手だ。
妥当な判断ではある。武装の変わらない格上の相手と戦う時は、数の力で押すしかないのだから。
呼吸を合わせ、身体共に気を練り上げ、最も充実した瞬間に一斉に掛かる。
それが弱者がとるべき唯一の戦法。

 

だが、それが正解であるとは限らない。現に、

 

「う…うあ……」
「………」
「……ぐ…」

 

シンの足下で呻いている3人の男たちがそれを証明している。
ガードのレベルから言って、どうやらこの細目は本当に下っ端のようだ。
いくら人材が足りてないとはいえ、重役ならもっとマシなボディガードをつけるだろうし。

 

「3人がかりでこのザマか。で、アンタは何を見せてくれるんだ?」
「おのれ、化け物が……!!」

 

仲間を倒されて焦ったのだろう。最後の男はナイフを抜いて構えた。
青く光る刃。その技量に自信があるのか、少しだけ顔に余裕が戻っている。
だが無駄なことを。

 

「先に忠告しとくぞ。俺にナイフで勝とうなんて思わない方がいい。
 元とは言え、ザフトの赤は伊達じゃないんだ」
「調子に乗るな!!」

 

せっかく忠告してやったのだが無駄だった。
ならば刃物を人に向けた以上、それなりの目に遭わせなければいけないだろう。
飛び込んでくる男が右手のナイフで突いてきた。そこそこ鋭い一撃。スウェーで避けながらその手首を掴む。
軽く跳ねるシン。左足は相手の後頭部にひっかけ、右膝を思い切り顔に突き刺した。
獣の顎が獲物に喰らいつくかのような攻撃。だがこれだけでは終わらない。
前に崩れ落ちる男の右腕を捻ると、ごきりという音と共に肩が外れた。
力の抜けたその手からナイフを抜き取る。

 

「はい、終了。……いや、アンタも居たな。お待たせ」
「あ……」

 

残ったのはリーダー1人。流石に余裕が無くなったのか、顔が引きつっている。
細い顔が更に細く見えた。

 

「どうした、そんなに顔を青くして。さっきまではあんなに余裕があったじゃないか」
「黙れ!! そ、それ以上私に近付くなッッ!! 近付いたら……」
「近付いたら……どうするんだ? 言ってみろよ」

 

返事をせずに男が胸元に手を入れる。その瞬間シンは既に駆けていた。
取り出された拳銃を左裏拳で弾き飛ばし、そのまま右肩で体当たりを決める。
壁にぶつかりバウンドする男を再度叩きつけ、その首にナイフを添えた。
チェックメイト。生かすも殺すも自分次第だ。

 

「ヒッ―――」
「アンタの飼い主に3つだけ伝えとけ。
 1つ、このベルリンの復興を妨げない事。
 2つ、過去現在問わず、俺の仲間と呼べる人間に手を出さない事。
 そして3つ目。ルナマリアとコニールに指一本触れてみろ。
 ――――嬲り殺しだ。
 お前ら全員、いやお前らの家族親友恋人全て、自分が生きている事を泣き叫びながら後悔させてやる」
「そ、そんなことが出来るとでも思って」
「できるさ。信じないのはアンタの勝手だけどな。なんならここで見本を見せてやろうか?
 アンタの言葉を借りるなら、口と耳が無事なら伝言の役目は十分果たせるんだしな」

 

少し爪の伸びた2本の指を男の目にゆっくりと近付ける。
背けようとする喉には、ナイフを食い込みそうなくらい近く。逃がしはしない。
男はこの時、ようやく自分が狩られる側だと理解したのだろう。顔を青くしながら懇願した。

 

「や、やめてくれ!! 頼む、私が悪かった!!だから……」
「なんだよ。さっき自分が言ってたことじゃないか」

 

眼球から数ミリの位置で二本貫き手を止めたまま、シンは冷ややかに笑う。
おそらく自分の目は笑っていないだろう。当たり前だ。
本気だろうがそうでなかろうが、あの2人を危険な目に遭わせるなど、絶対に許せるものではない。

 

「いいか。これから先あの2人に何かあれば、真っ先にお前らを殺す。
 地割れに落ちようが隕石にぶつかろうが、例え羽根クジラが地球を襲ってきてもお前らを殺す。
 正体がバレないなんて考えるなよ?
 お前らを殺す為にクライン派の犬になる選択肢だってあるんだ」
「わ、分かった…伝える、伝えるから……」
「約束だぜ?」

 

ゆっくりと手を放す。男の腰が落ちた。
土下座をするかのように手を地面につける。目を合わすことすらできない様だ。
だが同情はしない。ガタガタと震える男に呟く。

 

「人が怒る事を言わない。良い勉強になっただろ? アンタも」
「は、はい……」
「分かってくれれば良いんだ。それじゃ夜も遅いし、そろそろお休みの時間だな」
「え?」
「わかんないかな」

 

男の後頭部にそっと手を添えて、思い切り地面に叩きつける。
ぐちゃりという音が響き、男は動かなくなった。

 

「もう、寝ろよ」

 
 
 

「腹減った」

 

意識が戻りかけていた大男A~Eにしっかりと止めの蹴りをプレゼントして、シンは家への帰宅を再開した。
時間は意外と経っていたらしい。夕食をとるには少し遅い時間だ。
流石に2人はもう食べ終わってるだろうし、夕食はどうしようか。
冷蔵庫の中身を思い出しながらアパートを見ると、自分の部屋の明かりが点いていた。
出る時に点けっぱなしにした覚えは無い。あの2人まだいるのか。
階段を上がって部屋のドアを開ける。

 

「ただいま」
「遅い!! ってか帰るの遅くなるなら連絡ぐらいしろよな!!」
「おかえり。一体何してたのよシン? コニールと2人でずっと待ってたんだからね」

 

振り返るのは2人の女性。自分を咎める様子はあまり無い。
テーブルの上にはラップのかかった料理の皿が並べられている。
本当に待ってていてくれたのか。

 

「本当に悪い。でも、先に食べてても良かったんだけど」
「何言ってんだ。食事は皆で。それが私たちの唯一の決まりじゃないか」
「いや初耳なんだけど。何それ?」
「はいはい、そんな事はいいから早く食べましょ。あ~お腹すいた!」

 

何事もなかったかのように食卓に着く2人。シンも頬を掻きつつ席に着く。
理由を聞いてこないのはありがたかった。

 

「「「いただきます」」」

 

夕食が美味しかったのは、空腹のせいだけじゃないのかもしれない。

 
 
 
 

大人になったなぁ。やはり環境は人を変えるのだろうか。
食器を洗うメイリンを見ながら、アスランは思った。

 

視線の先には自分の妻の後ろ姿。背後から抱き締めたくなるような細い肩に色っぽいうなじ。
無論変わったのは外見だけではない。
料理や家事などしっかり妻の務めを果たしているのもさることながら、
軍では自分の秘書的な補佐もこなしてくれてるし。
プラントでは成人とはいえ、彼女はまだ二十歳いっていないのに。
まさかこんなに大人っぽくなるなんて思わなかった。
まあそれを言えば彼女と結婚するなんて出会った時には想像もできなかったけれども。

 

いや、今はそんなのろけてる場合じゃなくて。

 

「メイリン、今時間良いか? ちょっと話があるんだが」
「はい。なんですか? あなた」

 

タオルで手を拭きながら、メイリンはソファに座りかけた。
元々カンの良い子だ。真剣な話だと察知したのだろう。
真面目な顔でこちらを見ている。

 

「知っているとは思うが、俺は今回キラを説得しに行くことになった」
「……はい」
「勿論説得が成功すると信じているし、必ず成功させる。
 だけどもし説得が失敗してしまったとき……最悪の場合キラと戦うこともありえる。
 そうなった場合、俺にとってかなりハードな任務になるだろう。だから代表が俺に休暇をくれた」
「……そうですか」

 

メイリンの顔が曇る。彼女もキラを良く知っていた。気が沈むのは無理も無い。
だが自分は彼女のそんな顔を見たくない。自分が愛する、眩しいほどの笑顔が見たい。
大丈夫、説得は成功するに決まっている。だから今はこの降って沸いた休暇を最大限に楽しむべきなのだ。
そういう想いを込めて、次の言葉はあえて明るい声で切り出した。

 

「さて、それでここからが本題でね。君の意見が聞きたいんだ。
 戦いにはまだ時間があるから代表には自由にしていいと言われたんだけど、何かあるかな?」
「私の意見でいいんですか? 本当に?」
「俺じゃ何をするか思い浮かばないからね。できるかぎり君の希望にも答えたいし」

 

自分の意を汲んだのか、明るい声で返すメイリンに笑顔を向ける。
少しは考えるかとも思ったのだが、妻の答えは即答だった。

 

「それじゃ、お姉ちゃんやシンに会いに行きましょ! 特にシンとは結婚式以来会ってないし」
「シンか……。そんなに経つんだな、あいつとは」

 

ルナは何度かオーブに遊びに来たことがある。
シンと別れた頃だった為、夫婦揃って長い愚痴を聞かされたっけ。
だが確かにシンとは自分たちの結婚式以来会っていない。そう悪い選択でもないか。
前から顔ぐらいは見たいとは思っていたし、何より自分の妻がそれを望んでいる。
少し思いついた事もあるし、否定する理由は無かった。

 

「そうだな。行くか」
「決定ね、それじゃすぐ行きましょ!! 大丈夫、準備はもうできてるから!!」
「早いな」
「実はさっき、ムウさんが教えてくれてたの!!」

 

なんだムウさんが教えてたのか。まあ嬉しそうだからいいや。だがそれにしてもベルリンねえ。
紅茶を口に含みながら考える。
思い浮かぶのは不機嫌そうな仏頂面。

 

シン=アスカ。

 

アスランの元部下で、手強い敵でもあった少年。
戦後はフェイスという地位をあっさりと捨て、現在はいちボランティアとして復興作業に励んでいる男。
だがその強さは折り紙付きだ。
世界でも数少ないSEEDの所持者でもあり、自分やキラを落としたこともある。
もし彼が今回の件に手を貸してくれるなら、言うことは無いが……

 

「今は間違いなく世界の危機だ。なら、手段は選んでられないか」

 

あいつには申し訳ないが、世界の為に手を貸してもらおう。
実戦からはしばらく離れているだろうが、それでもきっと戦力になってくれる筈だ。
実際オーブの将軍として世界を回っている今でも、自分はあいつ以上のパイロットと会ったことがない。
自分にムウさんに、そしてシン。
これだけ揃えばいくらキラでもなんとか抑えることができる。

 

「よし。行こう……ベルリンへ!!」

 

こんな頭で良ければいくらでも下げてやる。覚悟は決まった。
だから後は残った疑問を解消するだけ。
目の前にいる、大きなバッグを抱えた妻に問うてみた。

 

「なあメイリン。すぐって……もしかして今から行くつもりか?」
「当然。お姉ちゃんにも連絡はバッチリです。あ、チケットとホテルを早く準備してくださいね」

 

準備て。今は夜ですよ奥さん。

 

「俺が? けど、もうこんな時間なんだけど」
「少将なんだからそれぐらい大丈夫でしょ? やっぱり利用できるものは利用しないとね!!」
「はあ……いや、そこまで言うならまあ、何とかしてみるけどさ」

 
 

大人になったなぁ。いやホント、いろいろな意味で。

 
 

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