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SEED-IF_CROSS POINT_第41話

Last-modified: 2011-03-21 (月) 23:58:28
 
 

第41話 『手にしたもの』

 
 

キラの反乱から数年後の、ある晴れた冬の日。
ベルリンの街の一角にあるオープンカフェで、2人の男女が談笑していた。

 

「ふふ、それであの時2人は不機嫌だったんだ。女泣かせだなぁ……」
「いや泣きたいのはこっちなんですけど。なんで離れて見てた俺が大怪我してるのか未だに分からないし。
 画面暗転させれば何やっても良いってわけじゃないと思うんですけどね、俺は」

 

男性は小さな診療所を経営している街医者で、名前はアレックス=ディノ。
美形ではあるものの黒髪に黒い瞳、中肉中背の何処にでもいるような外見をしており
小さめの眼鏡を掛けている以外は特に特徴の無い青年だ。
今日は所用の為に外出した所なのだが電車発車時間までまだ間があった為、
コーヒーでも飲もうと馴染みの店に顔を出してみたら暇そうにしていた店の看板娘に捕まったところである。

 

「それでアレックス君はなんでこんな所にいるの?
 2人を誘って何処かに出かければ良いのに。せっかくの休日なんだから」
「それも考えたんですけど、ちょっと今日だけは1人で行かなきゃいけない場所があって。
 電車が出るまでもうちょっと時間があるもんで、顔を覗きがてらコーヒーでもと思って来た訳です」

 

そう説明しつつコーヒーを口にするアレックス。
首筋に触れる風は結構冷たい。そういや今夜は雪が降ると天気予報でも言ってたっけ。
鍛えている自分はともかく目の前の女性は寒いだろうと思い
自分に構わず中には入るよう勧めたが、寒いの好きだから気にしないでと言われた。
働かなくていいのかという自分の副音声は聞こえなかったようだ。
まあ美人とお茶できるんだから別に良いのではあるが。もう目の前の椅子に座っちゃってるし。

 

「あ、ディノせんせーだ! こんにちは!」
「この際だから私もケーキ食べようか―――え? 先生?」
「ん?」

 

話を続ける2人に、1人の小さな男の子が声を掛けてきた。
この顔は何処かで見たことがある気がする。声にも聞き覚え。先生と呼ぶからには診療所絡みだろう。
記憶を辿ると該当する人物が1人。

 

「ああ、こんにちは。あれ、君は確かこの間の……」
「あれ? 今日一緒にいるのは看護婦さんじゃないの? もしかしてせんせー浮気中?」
「何を言ってるの! 先生に失礼でしょう!?」

 

元気な子供に挨拶を返す。その後ろから付いてきた母親らしき女性には会釈を。
しかし冗談だと分かる内容に過剰反応されても困るのだが。
彼女の中では自分は浮気とか平気でする人間だと思われているのだろうか。
……思われてるんだろうな。年頃の女性2人と絶賛同居中だし。

 

「すみません先生。この子ったら…」
「別に気にしてませんよ。この年頃の子はなんにでも首を突っ込みたがるものですから」
「つっこみたがるものなのです」
「自分で言うんじゃないの!」

 

子供って本当フリーダムやなぁ。

 

「アレックス君、この子は?」
「患者です。腹が痛いって言って、この間ウチの診療所に搬送された。
 ……見たとこ、もうすっかり調子は良くなったみたいだな?」

 

置いてきぼりにされていた看板娘が会話に混ざる。
と言われても患者と医者の関係だとしか説明しようが無いが。
以前、日付が変わるくらいの時間にこの母子が自分の診療所に訪れたことがあったのだ。
熱もひどかったにも関わらず何件か断られたらしく、
容態が落ち着いた時には凄い感謝されたので覚えている。
めっちゃ眠たかったけれど。

 

「うん、貰ったお薬は苦かったけどね。凄く苦かったけど」
「2回も言うな。大体薬ってのはそういうもんなんだよ。良かったですね、お母さん」
「ありがとうございます。夜分に押しかけたにも関わらず、本当にお世話になって……そうだ!
 お礼といっては何ですが、今夜私どもの家で食事でもいかがでしょう?
 主人もお礼が言いたいと言っておりますし」

 

そう言ってくる母親。子供は面白そうに様子を伺っている。
他人の家の家庭料理に興味が無いわけではないが、それに甘えるのも憚られた。
第一、数回しか会った事ないし。

 

「いえ、これも仕事ですから。お気持ちだけで十分ですよ」
「そうですか……残念です…」

 

もしかして儀礼的なものではなく本気の誘いだったのだろうか。
言葉通り残念そうな顔をする母親。それを見た子供がはやしたてる。

 

「やーい! お母さん、フラれた!!」
「な!? こ、この子は!!」
「お母さん顔真っ赤~! 逃げろ~!!」
「待ちなさい!! ……すみません、失礼します」
「え? ああ、どうぞ。車には気をつけて」

 

走って追いかけていく母親と、こっちこっちと言いながら逃げ回る子供。
微笑ましくて笑みが零れてきた。こういう温かい光景は嫌いじゃない。
隣の彼女もそれは同感のようだった。

 

「意外だなぁ……ちゃんと先生やってるんだ。今度診療所を覗いてみようかな」
「別に構わないですけど。来たら茶と菓子くらい出しますし。
 まあ、おじいちゃんおばあちゃんに捕まって話し相手にされるだけだと思うけど」
「アレックス君もそうなの?」
「俺たち3人は見合い話ですね、大半が」

 

もしくは看護婦たちをけしかけてからかうとか。
まあ良くある話だ。

 
 

「もうこんな時間か。そろそろ行きますね、俺」
「うん、じゃあねシン君。今回の相談料は楽しみにしておくから。甘い物希望」
「甘い物なら自分の店のケーキ食べれば良いでしょうが……って相談料取るんですか?
 ったく……じゃあ駅裏にあるZEUTHって店のジャンボパフェでどうです?」
「あ、その店私常連だよ。ティラミスとロイヤルミルクティーも付けてね」
「はいはい」

 

何その3種の神器。スイーツ好きにも程があるだろうに。
考えただけで胸焼けがしそうであるが、そういや女性ってケーキバイキングとかできるらしいもんなぁ。
現にうちの2人こないだ行ってたし。

 

「そういえば見たい映画もあったなぁ……ついでに見に行こうか? 恋愛ものだけど」
「ま、まあスイーツ驕るためだけにあそこまで行くってのもアレだから、いいですけど」
「それで夜はディナーなんかも食べちゃったりして。
 シン君アーガマって店知ってる? 評判良いらしいよ」
「アンタ鬼か」

 

そいつはまた分厚い料理出しそうな店名だな。つか貧乏医者の安月給なめんなよ。
いや実際はそこそこの収入はあるんだけれど、最新式の機材の購入費と維持費で首が廻んないんだから。
難しい手術も幾度か経験して機材のありがたさを実感したのは良いが、
裕福じゃない人からもそれなりの報酬を貰ってるってのが今の自分の家の財政状況を表しているわけで。
本当は「金なんかいらねぇ」って言ってやりたいんだがなぁ。レオリオさんは遠いぜ。
それと最終的に全部消える院長としての取り分より
看護婦2人の給料の方が高いのは経営者的にどうなんだろう。

 

「あと、今の俺はアレックスだから間違えないでって何度言えば」
「ごめんごめん。じゃあね、アレックス君」
「ああ、それじゃまた」

 
 

笑顔で手を振る彼女に別れを告げて、アレックス―――シンは駅へと歩き出した。
周囲の店の男性従業員から放たれる嫉妬の視線。それを華麗にスルーしながら復興した街並みを眺める。

 

携帯を片手に通りを歩くスーツ姿の男性。
寒そうに店から出てくる学生たち。
犬の散歩をしている中年女性。
ベンチで肩を寄せ合いながら会話を楽しんでいるカップル。
幼い子供に手を引っ張られながら店に入る老人。

 

それはどこにでもある平和な風景。
かつての自分が必死になって求めた光景。
今はいない人達が、血に塗れても求め続けた光景。

 

ようやく、ここまで戻ってきたのだ。

 
 

かつての戦争の面影は完全に消え、大勢の人間が穏やかな営みを繰り返すベルリン。
いやその光景は今やベルリンだけのものではない。
世界は今、休息の時を迎えていた。

 

小競り合い程度の紛争ならばたまに見受けられるが、
それでも大規模なものに移行する前に自然と沈静化されていく。
その理由はただ一つ。たった一人の人間の名を挙げれば説明できる。
キラ=ヤマト。伴侶の死をきっかけに、一時的ながら世界の全てをひっくり返した男の存在である。
生きているのは偽者で本物が死んでいる可能性も否定できないが、
この世界は死んだ筈の人間があっさり表舞台に蘇ってくることが多いので油断はできない。

 

いつまたあの狂戦士が表舞台に姿を現すか。しかもこの世界にはもう、シン=アスカはいないのだ。
戦端を大きくすればキラが現れるかもしれない。
石を投げればクライン派に当たると言われていた時期もある。彼らの目的は争いの根絶だった。
自分の背後にいる仲間たちがクラインのスパイの可能性だとしてもおかしくない。
ゲリラやテロリストからすれば、自分たちの命を生贄したうえ
そんな男を再び野に放つのは御免だということのようだ。

 

そうなるとキラを崇拝していた者たちによる蜂起も危険視されそうなものだが、
そちらについても現状問題はないらしい。
死んでいた場合は戦うことなんて考えないだろうし、
生きていたとしてもプラントで行ったあの狂言が功を奏していた。
彼らはキラが自身に勝利したシン=アスカに対し、暗殺という報復を行った事に失望したのだ。
正面からの戦いで復讐するならともかく、よりにもよってラクス=クラインの死に方と同じ方法とはと。
これでは過激派がいてもキラの名を使っての反逆などできないだろう。
その辺りは自分たちの決着を 「綺麗過ぎた」 と評したイザークの狙い通りにいった。
ちなみにラクスの名を使ったものはキラの敗北で一旦終わっているので当面こちらもその恐れは無い。
1度外した目にもう1度賭けるやつなんてそうはいないし、
やったとしても今回以上のことはできないからだ。

 

正直これをやったら今後しばらく仲間にも逢えなくなるので自分は乗り気じゃなかった。
でも先日のザラ派の様にルナやコニールが自分がらみのゴタゴタに巻き込まれる可能性もゼロじゃない。
そうイザークに言われると自分はその案に協力するしかなかったのだ。
ちなみに戸籍はアスハがすぐさま用意してくれた。
今の自分はアスハ家の元SP、アレックス=ディノ。
過去の書類や写真の改竄も済んでいるので、誰かが調べても自分がシンである証拠は
出て来ないようになっている。
外出するにあたり黒のカラコンと眼鏡が手放せなくなったのが面倒と言えば面倒だが、
彼女たちが危険な目に遭うよりは遥かに良い。

 

イザークがキラの戦いを無駄にしたくないとこの策を提案した時はどうなることかと思ったが、
とりあえず結果的には何も問題はなさそうだった。
しいて言うならあの場に居合わせた面々に自分たち2人が怒られたくらいか。
いやーそりゃいくら議長直々の説明 (弁解) があっても
「これにはターゲットも苦笑い」 とはいかんわなぁ。
女の子には号泣されながら抱きつかれて30分くらい離して貰えなかった。
俺もあれで結構頑張ってたんだけどね。周囲に疑われないよう一時的に仮死状態になる薬使ったし。

 

そういうわけでこの世界、表立っては平和だった。
だがこれがいつまで続くか分からない。キラの名前にも限度があるし、何より人は忘れていく生き物だ。
平和であることの素晴らしさと混迷の時代の苦しさを、傷が浅かった者はそれだけ早く消し去っていく。
続ける努力をしなければならない。

 

『戦争』は終わったが、『戦い』はまだ続くっていう事だろ。これからは武器を持たない戦いだ。

 

そう言ったのは先日我が家に来たオーブの国家元首だったか。たまにはあの女も良いことを言う。
その数時間後には人の家で同居人たちと凄い取っ組み合いをしやがったから説得力は皆無だけど。
いや武器は確かに持ってなかったけどさ。なんか違うだろ、あれは。

 

「お、誰だ。……この番号はルナだな」

 

携帯が鳴る。画面に映るのは携帯番号と『マイハニー』の文字。
あんにゃろまた勝手に人の携帯弄りやがったな。もっと他の名前は無かったのか。

 

『もしも~し、シン? そういやあんた、今日はいつ帰ってくるつもり?
 外で食べるんなら私たちも合流しようかなって思ってるんだけど』
「夕食までには帰るさ。あともう人前じゃその名前で呼ぶなよ? この間だってお前」
『はいはい、悪うござんした。んじゃアレックス、黄昏るのもほどほどにしときなさいよ』

 

注意する間もなく切られた。
なんだか機嫌がよろしくないようだ。まあその理由は分かってるわけだが。
ボルテールのあの子がまた看護婦さんと一緒にうちに遊びに来ることになったからだろう。
でも 「近いうち遊びに行きますね! 2人とも決着つけなきゃいけないし」 と
楽しそうな声で言われちゃったらこっちも断るのも難しいわけで。

原因がこっちにあるので仕方ないと言えば仕方ないのだが、
自分を慰める事に慣れてしまった現状に溜息を吐きたくなる。
大体あいつらだって彼女たちが来た時こそ喧嘩するものの、なんだかんだで仲良くしてるくせに。
この前上記の4人にカガリ=ユラ=アスハが来た時でもそうだった。
殺意のSEEDに目覚めたカガリにファイナル・ルナにゴッド・コニールに
神人・オペ子(仮)に日焼けした看護婦さん。
この5人による夢の競演の結果は、画面暗転した後に現れたシン=アスカの見るも無残な姿でオチがつき。
加害者たちと言えばお風呂タイムと夕食での宴会、夜のパジャマパーティーで仲良くなった挙句
帰る時の空港での見送りではそれぞれ目を潤ませながら別れを惜しんでいた。
重傷の身体で料理やおつまみを必死に作り、死にかけな家主の自分には一瞥もくれることなく。

 

「なんか腹立ってきた」

 

普通ならもげろとか死ねとか言われても仕方ない境遇だろう。
しかし昨今のエセツンデレの如くフルボッコばかりでデレの無い現状には
流石に理不尽さしか感じないわけで。
ささやかな反撃としてとりあえず今の電話の主の名前を誤射マリアに変えておく。
流石にブタマリアにする勇気は無い。
この前酔っ払って口を滑らせたアスランが人間クレーターにされてたし。
つか今からこんな弱気で大丈夫か俺。

 
 
 

切符を買うと丁度電車が来たところ。駆け足で乗り込みベルリンを後にする。
電車に揺られて数時間。ようやく小さな駅に辿り着いた。
時計を見ると時刻は昼過ぎ。店で花束を購入して目的地まで歩く。
冷たい空気。弱々しい陽射し。自分以外誰も見かけない細い道。
時間が経つのが遅く感じるほど浮世じみた場所に、目的地はあった。

 

人気の無い小さな湖。
ここに彼女が眠っている。

 

「また来たよ、ステラ。あっちで元気にしてるか?」

 

応える者はおらず、その言葉に意味は無い。
けれどシンは花束をそっと水辺に置くと、湖の中心に向かって笑いかけた。
感謝の言葉を続けながら。

 
 

俺は、元気です。
君がいてくれたおかげで。

 
 
 
 

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