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SIN IN ONEPIECE 82氏_第03話

Last-modified: 2013-12-24 (火) 03:33:54

 時期としては、ウソップ編とバラティエ編の間で起きたジョリーロジャーイベントの時の話です。


 潮風がやさしく前髪を弄び、かもめの鳴き声が子守唄となって鼓膜を揺らす。
 波による揺れは赤子にとっての揺り篭のそれのように、ヒュプノスの誘惑をより強く逆らいがたいものにしていた……が。
 海原を進むゴーイングメリー号。そのマストの上の見張り台。そこに寝転がる男は、『眠り』という事象を一切拒否し、ひたすら思考の海にもぐっていた。

 彼が片手で弄んでいるのは、一本の短い棒切れにしか見えない物体だった。これがかつて、槍だった物体だ。それもあまたの賞金稼ぎを返り討ちにし、イーストブルー最速と謳われた男の、『相棒』の成れの果てである。
 ……先日の戦いで、キャプテンクロに無残に砕かれてしまったそれ。店で安く買った槍を自分で削って軽量化したという安上がりなものだった。武器としての価値ならば恐ろしく低いが、賞金首になってからずっと共に戦ってきた相棒だけに、感慨がある。

 一応、ウソップに見てもらったのだが、専門家ではない自分には修理できないと、にべも無い返事をいただいた。肝心要の刃の部分が砕かれたのが痛かった。

 『勺死!』

 思い浮かぶのは、あの海岸であの男が見せ、シンの相棒を砕いたあの技。
 シンの遥か高みを行く、攻撃対象すら判別できないほどの超高速無差別攻撃。
 そして、

 『ゴムゴムの鐘!』

 それをぶっ倒した。ルフィの勇姿だった。
 余りに圧倒的な戦闘だった。対するルフィも攻撃の瞬間相手の位置を見極め、その体を捕らえ、その後相手の体を捕らえてあの高速移動術を封じたのだ。
 それに比べて自分はどうだ? ろくに身動きも取れない状態では身をかわすのがやっとで、ナミと共に傍観者へ徹するしか出来なかった。

(俺は……弱い)

 強くなると決めたのは、いつの事だっただろう?
 マユを失ってからが始まりだった。長い年月で想いを高めていった。ステラを守りきれなかったあの瞬間から、想いはよりいっそう強いものになった。
 それでも……

(まだ、足りない……!)

 彼らに比べて、圧倒的に『何か』がたりない。
 実力もそうだろう。だがそれ以上に、自分には気迫のようなものが欠如しているのだと、シンは自覚していた。
 ルフィには『海賊王』という夢がある。ゾロには『世界一の大剣豪』という野望がある
……だが、シンには何がある?
 そもそもが、偶然の事故でこの世界に降り立った身だ。それですら、元の世界という枠に対する執着がシンにはないのだ。シンにとって、あの世界での出来事は全部終わってしまった事なのである。

(元の世界に戻る方法ってのも、なんかなぁ)

 ルフィ達という仲間に出会い、彼らに憧れ。
 そんな仲間達と海に漕ぎ出す事のほうが、元の世界にいた頃よりも何倍も愉しかったりする。
 この世界に来たときの状況……あの爆発では、いくらセーフティシャッターが下りたとしても助からないだろう。元の世界に戻る方法も、想像すら付かない。自分はもう、あの世界では死んだも同然の人間なのだ。

(レイやルナには悪いけど、俺はこいつらと一緒にいるほうが楽しいし……けど)

「どーだぁ~!」
「ん~……?」

 シンの思考をぶった切ったのは、真下から聞こえてきたルフィの雄叫びだった。ひょいと起き上がって覗き込んでみると……なんというか、デッサンが崩壊した奇怪なマークが視界に飛び込んできた。

「……ジョリーロジャー?」

 思わず、クエスチョンマークをつけたくなる気分。

「あ、シーン! お前も作るの手伝え!」
「っていうか、まだ作ってなかったんだな……」

 ルフィに呼ばれ、やれやれとシンは立ち上がり、見張り台から飛び降りた。常人ならばケガ必至の高さから、シンは軽やかな身のこなしで着地する。シンが見張り台から降りる際に見られる、いつもの光景である。
 最初は見るたびに悲鳴を上げていたウソップとナミも、今では慣れたものだ。

「あれ? シン、あんた服は?」

 ナミが気にしたのは、むしろシンの服装のほうだった。トレードマークの赤服ではなく、 白いシャツにルフィの短パンという出で立ちだったのである。
 今まで赤服姿しか見た事のないナミの網膜に、その姿はやたらと新鮮に映ったのだった。

「ん? ああ……」

 ウソップがジョリーロジャー製作に取り掛かるのを尻目に、シンは自分のシャツをつまみ、

「ウソップの奴が服の構造知りたがってんだよ。それで、調べさせるついでに修繕中」
「そっかぁ、クロにボロボロにされてたもんね……修繕ならあたしがやってあげるのに」
「有料だろどーせ。その点ウソップなら無料だ」
「そういやあ、アンタのあの服って、見た目の割りにやたら動きやすそうよね」

 自分が着たわけではないが、日頃のシンの動きを見ていれば、動きやすさなど一目瞭然だ。スーツのような見た目から受ける印象とは大違いの動きやすさなのだろうと、ナミは予想して質問したのだ。

「まあ、まがなりにも軍服だからな。薄くて軽くて丈夫だぞ」
「そうそう! 俺もびっくりしたんだけどよ!」

 旗を染め抜きながら、ウソップが二人の会話に割り込んだ。

「なんか、見た事もない素材で出来ててな……正直、どう修繕したもんか悩んでる真っ最中だ」
「なんでよ」
「そりゃあお前、変な素材で修繕したら、質が落ちるだろ」

 ウソップの言いたい事はわかる。シンの赤服はCEの科学力によって生み出されたものであり、この世界では作る事すら出来るかどうか曖昧な生地で作られている。それを普通の布で張り合わせるという事は、服を紙で修繕するのと同義だ。

「防御力はこの際気にしなくて良いんだ。とにかく機動性を重視してくれ。軽くて動きやすければそれ以上何も言わない」
「それは分かったけどよ。一番いいのは、同じ素材で作る事だぜ。本当に思い当たる節ないのか?」
「……ああ。多分もう、手に入らない」

 修繕に入る前に交わされていたやり取りを、今再び交わす二人。
 ウソップの問いに答えるまでに一瞬間が空いたが、ゾロはそこに突っ込まなかった。相手のほうから口にしだすまで言及しないのが礼儀だと考えたからである。

「あ、そうだ。ついでだからよ、あの服についてるマーク、全部ジョリーロジャーにしねえか?」
「え?」

 それは、余りにも唐突で予想外の申し出だった。

「修繕してて思ったんだが、あのマークの位置にジョリーロジャーつけたら、映えると思うんだよなあ」
「お!? いいなぁそれ! カッコイー!!」

 何故かルフィまでノリノリの乗り気だった。
 ……確かに、今シンが着ている赤服のマークはこの世界では無意味だ。ザフトなどどこにも存在しないし、マークを残しておく意味も無いだろう。
 しかし……

(本当にいいのか?)

 ザフトのシンボルのを海賊旗で塗りつぶす。
 それは、シンが『ザフトの赤服』である証拠を消し、本当の意味で『麦わらの一味の赤服』になるという事。
 あちらの世界に未練は無い。しかし……今までの自分を否定するようで何かが嫌だった。

 ……結局のところ、マークなどに頼らねばならないほど、自分のザフト時代の記憶は軽かったのか?

 答えは…… 否 だ 。

「ああ。わかった」

 人間の過去は変わらず、覚えていけばいい。決して忘れず、心の中に秘めておけば。
 何より……今のままでは駄目なのだ。
 今の自分では、永遠にルフィたちと同じ高みへはたどり着けない。
 『前の世界』などという逃げ場があっては、自分は永遠に成長できないだろう。

「ウソップ、上手く縫い付けてくれよ? つぎはぎのジョリーロジャーは嫌だからな!」

 覚悟を決める、そのために。前の世界という逃げ場を無くすため。
 シン・アスカは、ザフトのシンボルを捨てた。

「……よし! 出来た! ってあー、話してるうちに手が滑ってしまったー」
『マーク変わってんじゃねえか』
「棒読みだなオイ」

 叫んでウソップがかざした海賊旗は、なんというか、鼻も長く骨もパチンコと、いかにも『ウソップ海賊団』なシロモノで。
 それを見て、シンは先程の自分の決意を早くも後悔していた。

(これを服につけるのは嫌だなあ)

 と。

 結局、このシンボルはゾロとルフィに二人係で突っ込まれ、しぶしぶ書き直す羽目になったのだった。

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