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SRW-SEED_シャドウミラー氏_第01話

Last-modified: 2014-01-03 (金) 00:21:55

 宇宙空間に多くのデブリが浮かぶ宙域で一際大きなコロニーが存在していた。
 コロニーはかつての人々の生活圏であった賑わいは見る陰もなく、周りに浮かぶ宇宙にゴミと大差がなかった。だが発電機能は未だに生
きているのか、ガラス張りの窓から部分的に漏れ出る電光が人の居ない宇宙の故郷を寂しく強調していた。
 そのコロニーのある区画、薄暗く点る電灯が通路を淡く照らす中で音が響いた。
 既に大部分の稼動を停止したコロニーで生きている機能は空気を作り出す生命維持装置と僅かな電力のみ。音はカツン、カツンと間を空
けて一定の音を響かせ、部屋へと近付くたび次第に音が大きくなっていく。もし、このコロニーに人が居れば気付いただろう、それが足音
だという事に。
 そして、一つの部屋の前で彼が止まる。同時に先程まで響いてた音も止んで一瞬の静寂を生む。彼は懐の潜ませている銃と腰のホルダー
にある小銃を確認すると躊躇うこともなくその部屋へと入った。
 そこは通路と違い電気が通ってないのか完全ば闇で、中は通路から照らす僅かな光でしか様子を伺えない。だが、彼は気にすることもな
く奥へと進む。目を凝らして部屋を見回すと彼は少しだが部屋の全容を把握できた。
 電気が通らず使われなくなった電子機器、亀裂の入った大きなモニター、デスクに置きっぱなしにされたコーヒーカップ、そして何かの
研究をしていたのかファイルや手書きのメモなどが残っていた。
 主がいなくなった部屋、捨てられたコロニー、忘れられた思い出、その様に彼は哂った。くだらないと哂った。込み上げる哄笑が止めら
れずに声を上げそうになり、ある物が目に入った。デスクの隅に置かれたメモリーディスク。それはこの世界の規格にどこか似ていて何か
が決定的に違った。
 今まで彼が見てきたどの規格とも当てはまらない。本来ならば目に止めるほどの事ではない、単に自分が知らないだけだと無視すること
が出来る。が、彼にはそれがおかしいと興味を持ってしまった。
 それが、自身にとっての花の蜜であるように。
 それが、自分にとっての転機であるように。
 彼はデスクへと近付いて、ゆっくりと手に取ろうとして、

「やはり、それを得るか」

 背後から突然、声が響いた。

 彼は慌てはしなかった。逆にその声を聞いた瞬間に今までの疑問が氷解した。故に彼が選ぶのはこの場での争いではなく、この声の主と
の対面であると決断した。咄嗟に銃を握ろうとした手を収めて彼は後ろへと振り向く。
 彼の視線の先には通路を背にして人影が立っていた。しかし、どういう仕掛けかは分からないが人影を鮮明に見ようとすると逆に靄がか
かったように見えなくなる。彼はこの場で正体を知るのは無駄だと判断し、その意図を探ることにした。
「二つ質問がある」
 彼は影の動作を漏らすことなく観察しながら言葉を紡ぐ。
「一つ目は何故私をこの場に呼んだ? 二つ目はどうして私だった?」
 冷静だった声は険しさを帯びていき、視線は意識しなくても厳しくなっていく。それを自覚しながらも彼にはそれを止める術を持っては
いなかった。
 しかし、影は彼の質問にはすぐには答えなかった。それどころかまるで彼に絡み付かせるように視線を注いでいる。静寂は一瞬にも永遠
にも似た感覚。一生続くかとも思われたが影は彼への視線を逸らした。
「一つはお前が相応しいか判断する為、二つはお前の望みは実に純粋であり醜悪だからだ」
「なんだ、と」
 その答えに彼は動揺する。質問の答えにではない、彼の心の奥底で望むたった一つの願望を影は突く。
「そう。この世界、宇宙に絶望を抱いているお前は素晴らしい。だがそれだけではお前の望みは叶えられない……」
 影は彼へと一歩、また一歩と足を進める。
「故に、その為の力をやろう。そしていずれ来る未来を教えよう」
 彼は抗えない。まるで蛇に睨まれた蛙。そしてそれが悪魔との契約だと分かっていても彼にとって影の誘惑は耐え難いものだった。
「選べ。そうすればお前はお前の望むものが見れるだろう」
 気付けばいつの間にか影は彼の目の前に居た。手を伸ばせば届く距離、しかし逃げようと思えば逃げれることも可能だ。それでも彼は動
けなかった。

 そして、彼が選ぶ選択は――――

 デブリの宙域から離れて一機のシャトルが宇宙空間を飛んでいる。
 奇妙なのはそれは明らかに民間のものではない軍用のシャトルだ。そのシャトルのコクピット、自律AIに自動操縦モードに切り換えシ
ートに背中を預ける男が居た。
 男はどこか気だるげに自身の顔に手を当てて天井を見つめている。その横では無重力の空間でふわふわと顔の半分を隠すほどの仮面が浮
いており、小さなカプセルと瓶が散乱していた。
「……ん、ふっ……う」
 目に留まるほどの綺麗な金紗の髪が乱れ、口は半開きになって荒く不規則に空気を求めている。だがそれも長くは続かず、男は2、3回
ほどゆっくり深く息を吐いて身体に力を籠めた。数回ほど手を握って確かめると男はようやく自身の為に息を吐く。
 しかし、それもすぐに別の感情によって入れ替わる。自身の不完全を哀れな哂い、自嘲という笑みを。
「クッ、ハハハッ……厄介な身体だな、全く」
 吐き捨てる言葉には世界を呪わんばかりのものがあった。それは例外なく自分自身すらもだ。男は傍に浮いている仮面を手に取ると自分
の顔に付け始める。そしてシートから背中を離すと脱ぎ散らかした上着のポケットからある物を取り出す。
「あの男の言を間に受けるわけではないが……」
 手に握っているのは二時間前に渡されたメモリーディスク。そこには地球圏には存在しない技術と情報が記録されていたのは既に確認し
た。あの邂逅が男にとっての運命の分岐であった事は確かであり、世界の行く末を決めるものでもある事を。
「フッ……ハハハハ、クッハッハハハハハハ―――!!!」
 それが自身の手で為しえるという事実に男は笑った。それは誰かを呪い続けて生きてきた男にとって、初めて自分の為に笑う喜びの哄笑
だった。

 数ヵ月後。緊張状態にあったプラントと地球連合の均衡は崩れた。
 その背景には多くのコーディネイターが住まう農業プラントに地球連合軍が核攻撃を仕掛けた事にある。これによりプラントも自衛の為
に武装蜂起、連合と泥沼の戦争状態に陥ることになる。
 ただ一つ、連合側の核攻撃隊の中には所属不明の未確認の機体が混じっていた事が後に多くの騒乱を巻き起こす事に誰も気付かずに……。

 

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