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SRW-SEED_ビアンSEED氏_第01話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 19:17:45

SRW-SEED_ビアンSEED氏_第01話
第一話 DC新生

 地球連合が中立国家オーブに突きつけた戦端を開く時刻をわずかに残したその時、オブザーバーとして連合艦隊旗艦に悠々と座す金髪の男は、自分こそがこの一方的なゲームの支配者であると信じて疑わぬ声で、攻撃の開始を命じた。
こちらから突きつけた時刻を前にしての、不意をついての先制攻撃だ。
 戦場での騙し討ち、背信、裏切りなど当たり前であると知る艦隊の提督も、楽しむように命じる男には少なからず反発を覚えていたが、このムルタ・アズラエルという男に逆らえぬ事は知っていた。
コーディネイターの殲滅を本気で臨む狂信者。ブルーコスモスの盟主。地球連合に多大な影響力を持つビジネス界の麒麟児。
 三十路になったばかりとは思えぬ二十代の端正な顔に、残酷な遊戯を前にした子供の笑みを浮かべるアズラエルの表情は、しかし各艦艇から射出されたミサイル群が、オーブ本島オノゴロ島からさかしまに奔った青と赤とが螺旋を描く雷にひとつ残らず撃墜された瞬間であった。
 優雅に足を組み座っていた席から立ち上がり、自分の目の前で起きた事が信じられずに凝然と目を開く。
 それは艦橋にいる、いや、この仕組まれたオーブという生贄を食らい尽くす現代の魔女狩りに参戦した者たちすべての思いであった。

「! 高エネルギー反応を確認。先程の光の発信源を特定しました。映像、来ます!」

 一人の女性オペレーターの挙げた、悲鳴に似た声に、誰もが正面モニターを見つめる。

「なんだ、あれは? なんなんだよ、あれは!? MSなのか!?」

 誰よりも早くアズラエルが理解できないと叫びを挙げた。今、彼らの目の前に映し出されたのは。
 鮮血に濡れたような、禍々しく、装甲の全てが鋭く研ぎ澄まれた刃の様で――
 装甲の所々に施された金の細工は、ソレがまるで鮮血に染められた魔界の王の威厳を表しているかの様で――
 手にした巨大な銀の刃は、死神の振るう鎌よりも鋭く、今にもモニター越しに自分の首を刈り取られそうで――
 モビルスーツの優に倍はあろうかという巨体は、緑に光る瞳でこちらを見つめているようで――。
 誰も彼もが、その姿に圧倒されていた。ただその姿に、心が打ちのめされていた。
 戦場において有り得ざる静寂。誰もがトリガーを引くのを忘れ、攻撃を命じる事を恐れた。その報復が、紛れもなく自分達の命によって購われると理解できたから。

「これはっ、強力な電波が、こちらに割り込んできます。あの機体からです!」

「なんだと!?」

『地球連合艦隊に告げる』

 地の底から響くかの様な声。その声に滲む覚悟、決意、信念。その重厚さに、アズラエルは我知らず冷や汗をしとどに流し、濡れた金髪が不快な感触で彼の頬に張り付く。

『ただちに軍を引き、オーブ領海から撤回せよ』

「何をふざけた事を! 分っているのか、この物量差をどう、覆すと言うんだ!!」

 聞こえてなどいない相手に、アズラエルは唾を飛ばして叫ぶ。モニターの向こう、逆立てた青みを帯びた黒髪と猛々しさを印象付ける美髯。
 意志の強さをなによりもあらわすのはその瞳だ。その眼光を前にすればなまなかな決意や虚栄などたちどころに剥がされてしまう。
 厳しく引き締められた一文字の唇は、アズラエルの事など気に止める風も無く、強い意志と精神力に支えられた圧倒的な威厳と支配力を併せ持った声で告げる。

『さもなくば、このヴァルシオンと、我ら新生オーブ“ディバイン・クルセイダース”が、お前達を物言わぬ骸へと変えるだろう』

「ディバイン・クルセイダース? 聖十字、軍? ばかな、オーブ内部でクーデターでもあったというのか?」

『私、ビアン・ゾルダークはここに宣言する! ここに、旧体制たるオーブ首長連合を解体し、新たな秩序、新たな力を持つ新生オーブ“ディバイン・クルセイダース”の結成を!   
 腐敗を押し進め、地上に秩序では無く愚かな内部抗争ばかりを覆す地球連合にも、連合国家だけでなく、中立国家さえもニュートロンジャマーという最悪に巻き込み、多くの人々を苦しめ、同胞たるコーディネイターさえも苦しめるプラントにも属さぬ、力が、存在が我らである! 
 だが、我らは無用な混乱と破壊を望むものではない。これ以上の尊き人命の損失と、母なる地球、そして静寂なる宇宙をかき乱し、疲弊させる戦乱の終結を望むものである。
 このような時機にかような宣言、我らを新たな混乱をもたらすものとして忌避し、また恐れるのも無理はない事だろう。
 しかし、我らが求めるのはただ、飢える事無く、凍える事無く、戦火に怯える事無く明日を過ごせる未来である! 
 我々に賛同する者達よ、己れの胸にある正義を恥じるな! 義憤を燻らせるな! 我々は、正義を行う為に悪を成す。幸福な明日を子供達に残す為に破壊を行うだろう。死を生むだろう。その罪は許されるものではない。
 己が命の付きる時まで背負わねばならぬ十字架だ。それを恐れぬ者たちを、私は勇者と呼ぼう! 
 故に、今このオーブの大地に立つ勇者たちを恐れぬならば、かかってくるがいい。代償は自分達の命と知った上で尚、その理不尽な暴力、謂われなき暴力の腕を振り上げるのを止めぬというのならば、我らは一切の容赦をせん』

「これは、世界中にこの映像が流されています! 世界規模の電波ジャックです!?」

「なんだと! ふざけるな。おい、今すぐあのふざけた男を黙らせろ! こんな、こんなふざけた事があってたまるか!!」

「MSを出せ。全艦隊に通達、これより……」

「愚かな」

 今まで屠ってきた勇者たちの血で自らを染め上げた真紅の魔王の如くオーブ海岸に立つ、『究極ロボ』ヴァルシオンのコクピットの中、ビアンは分かっていた答えを、しかしほんのわずかばかり、悲しげに呟いた。
 ヴァルシオンに一歩を踏み出させ、迫る地球連合の艦隊の相手をせんとした時、モニターの一つが新たに灯り、長い黒髪と妖しいまでの赤い唇が目を引く美女が映し出される。

「総帥が直接手を出すまでも無い。我らに任されよ」

「ミナか」

「ソキウス達には迎撃に当たらされる。総帥はそこで見ていてほしい。貴方が望んだこと、我らが望んだこと、我らの理想の始まりを」

「……好きにするがいい」

 次々と上陸する地球連合の上陸艇や輸送機が、大量の連合製MS『ストライクダガー』。抵抗らしい抵抗も無く、あの真紅のロボットからの攻撃も無いため、連合のMS達はなんの犠牲も無くオーブへと上陸していった。
 数々の戦場を渡り歩いた一部のベテランたちだけが感じ取っていた。あのロボの出現以来、オーブに立ち込める死の気配を。それが現れるのが自分達の目の前であり、もう、すぐそこまで迫っている事に、気付いてもいた。どうしようもない事も。

「美しく舞え。我らDCの門出に相応しく」

 次々と上陸するストライクダガーの群れのまっただ中に、超上空から高速で迫る物体があった。NJの影響でお粗末な機能しか発揮しないレーダーがようやく反応を示した時は、やはり、取り返しのつかぬだけの時間が過ぎていた。
 それを見た連合兵たちは、あのヴァルシオンという異形のMS(?)を見た時と同じか、それ以上の驚きに脳裏を白く染め上げた。
 なぜならそれは――女性だったからである。いや、正確に言うならば、生身の女性の顔とシルエットを持った、人型の機動兵器、なのだろう。多分。
 排熱機構を兼ねる人工毛髪は闇夜の漆黒を孕んだ絹糸の様――
 漆黒の装甲は確かに胸部で膨らみ、腰はくびれのラインを描き――
 その顔は、まぎれもなくビアンに連絡を入れた妖艶な美女ロンド・ミナ・サハクそのものだった。
 背の堕天使の様なウィングから、青いスラスターの噴射光を雪の結晶の様に零しながらストライクダガーのど真ん中に降り立つや、驚くべき事にそのミナの姿をしたロボットは、嘲りさえ交えた笑みを浮かべた。

「我が化身ヴァルシオンシリーズ三号機、ヴァルシオーネ・ミナの初陣の相手に選ばれた栄誉を、死後の世界で誇るがいい。受けよ、サイコブラスター!」

 コクピットの中、ミナの叫びと共にそのミナロボットの全身から漆黒の光が嵐の如く吹き荒れて、周囲のストライクダガーを巻き込み、無慈悲な死神の吐息が作り出したかのように、その四肢を、胴を砕き平等に撃墜してゆく。
 遠く、海岸線に産まれる無数の爆発が、すべて自軍のもののみと知ったアズラエルは凍てついた表情を浮かべる事しかできなかった。
 なんだ、これは?
 バカな、馬鹿な、ばかな、バカナ、馬鹿ナ、ばかナ!!

「……つらを出せ、あいつらを出せえ!! さっさとこの茶番劇を終わらせろ! ふざけるなふざけるなふざけるな」

「! 確かに、それしかないか。あいつらを出せ!」

「む? 連合め、早くもカードを切ってきたか」 

 サイコブラスターの効果範囲の外にいたストライクダガーを、ハイパービームキャノンとディバインアームで次々と屠っていたミナが、彼方から迫る三つの光点に気付いた。

「情報では、連合の作った強化兵が乗っているはず。イレブン・ソキウスとセブン・ソキウスが逃走した理由たちか。因果な事だ」

 黒い機体を伝説に語られるハーピーの様に変形させたレイダー。
 青い機体から突き出た二本の突撃槍の様な砲身と全身に備えた火器が目を引くカラミティ。
 傘を被ったような格好に、鈍く光る超振動の鎌を持ったフォビドゥン。
 それを操るのは連合や人体操作技術と生物工学の粋で造り上げた、ナチュラルでありながらコーディネイターを凌駕する強化人間、クロト、オルガ、シャニの三人だ。

「なに、あいつ? 生意気」

「はん、おれが跡形も無くぶっ壊してやる」

「るっせんだよオルガ。人の機体のうえでごちゃごちゃいうんじゃねえ!」

 気だるげなシャニに続き、破壊への衝動を隠さぬオルガと、オルガのカラミティに乗られた不機嫌なクロトが、ヴァルシオーネ・ミナを前にして罵り合う。
 ミナはあくまで優雅に泰然と、腕さえ組んで待っていた。