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SRW-SEED_ビアンSEED氏_第04話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 19:16:17

SRW-SEED_ビアンSEED氏_第04話
第四話 シン・アスカ

「うおおおおおーーー!!」
 それは恐怖を糊塗する為の雄たけびだったか、迷いを振り切る為の雄たけびであったか。エムリオンのコクピットの中、シンの咆哮は猛々しく響いた。
 聞く者がいたら、それは自分の弱さを知るが故に、自分を強く見せる為の、獣の吠える声の様だと思うだろう。
 シンは、ステラの駆る鋼の獣ランドエムリオンと銃火を交える五機編成のストライクダガーのうち、最も近い一機に襲い掛かった。
 オノゴロ島の海岸線沿いを少しだけ踏み入り、道路と木立がならぶ場所だ。
 これといって障害物があるわけでもない。砂地と道路と海岸で段差がある事くらいか。
 エムリオンの握る71式ビームライフル改から、金色の光が立て続けに放たれるが、わずかにそれたビームはストライクダガーの周囲を削っただけだった。
 ストライクダガーが反撃に57ミリビームライフルを放ち、シンは体の血が一気に冷えるのを感じながら、エムリオンを左右に大きく動かしてかわす。
「くそ、機体が重い!? 装備を詰め込み過ぎたのか!」
 初めての実戦に緊張したシンが、テンザンやスティングの忠告を耳に入れられず、あれやこれやと心配しすぎて、エムリオンに装備を過剰積載してしまい、バランサーの調整が合わなかったのだ。
 かわしたは良いものの、姿勢を取り戻すのに手間取り、ストライクダガーの撃つビームが機体を掠め、展開されたEFがそれを弾く。
「今の、バリアが無かったら! 死んでたまるか!?」
 上昇し、そこから背部のリオン・ユニットのサブアームに搭載されているレールガンと、右手のビームライフルを我武者羅に撃ち続ける。
 だが、冷静さと機体バランスを欠いた照準は、虚しくストライクダガーの周囲の大地を削るだけだ。
 新たなストライクダガーがエムリオンに照準を定めて、ビームライフルのトリガーを引く。
「シン!」
 それまで四機のストライクダガーを相手にしていたステラのランドエムリオンが、右手の大型レールガンでそのストライクダガーの上半身を吹き飛ばし、背中のミサイルコンテナから小型のミサイルを一斉に発射し、周囲のストライクダガーを牽制する。
 スティックリムーバーが凶暴な唸りと共に大地を削って駆け、駆け抜けざまにストライクダガーの胴を、M1部分の左腕に握ったアーマーシュナイダーで貫く。
 戦場以外のステラからは考えられぬ、戦闘の為に生まれたかの如き効率よく敵を倒す事にたけた動きだった。
 残るストライクダガーは3機。
「ステラ、ごめん」
「ううん。シン、気をつけてね?」
 打算の無いステラの気遣う声が、シンの心に悔しさを生んだ。
「おれだって、おれが、ステラを守るんだって、そう決めたんだ!」
 テスラ・ドライブに唸りを挙げさせてシンは右旋回しながら、ビームライフルとレールガンを先程よりは血の気の引いた頭で照準を着けて、トリガーを引き絞る。
 対ABコーティングの施された赤い盾がエムリオンのビームを弾くが、代わりに超音速で迫る小さな弾丸がストライクダガーを構えた盾ごと機体を吹き飛ばし、もんどりうたせる。
「やった!」
 喝采を挙げるシンに、警告を促す音が、釘を刺した。
「今度は、航空機か」
 連合の戦闘機が2機、ストライクダガーの支援にか、こちらに向かってきている。空ならばこのエムリオンの出番だ。でも、シンがこの場を離れれば、ステラは一機で三機のMSを相手にしなければならなくなる。
 迷いを持つシンに、ステラがはっきりと告げた。
「シン、空をお願い。MSは、ステラがやっつける」
「ステラ……。分かった。すぐにやっつけてくるから」
「うん」

「バランスが悪いってんなら元に戻せばいいんだろう!」
 ステラと二手に分かれ、コクピットの中で言うや否や、シンはエムリオンに装備をいくつか外させる。
 エネルギーを消費するビームサーベル、それにビームライフルも要らない! 相手のMSが持っているのはABCシールドだ。それならリオンのレールガンの方が効果的だ。
「それから、後は……ええい、出たとこ勝負だ!」 
 迫りくる連合のスカイグラスパーに向かって、次々と装備をパージしながら、シンの気迫が宿ったエムリオンは鉛色の疾風となる。
 機体から次々とパーツを落としながら向かってくるMSに、スカイグラスパーのパイロット達は故障か? と首を捻ったが、エムリオン胸部と頭部のイーゲルシュテルン、マシンキャノンのマズルファイアを視認すると同時に機体を散開させ、敵を改めて認識した。
「ギナさんとミナさんとビアンおじさんの地獄の特訓をこなしてきたんだ! おれだってええ!」
 自分で言っていてちょっぴり涙が出てきた。正面のスカイグラスパーのビーム砲を、機体をわずかにずらしてかわし、反撃とばかりに背部コンテナからミサイルを発射し、そちらに気を取られたスカイグラスパーの一機に、レールガンの照準を合わせ
「もらった!」
 そして、シンは、戦いの興奮に浮かされた脳裏に殺人の二文字を浮かばせる事無くトリガーを引いた。青空の下に咲く花火は、黒い煙と金属の破片をばらまき、長く尾を引いて爆音を轟かせた。
「もうひとつ!」
 撃ち尽くしたミサイルコンテナのパージと同時に、機体重量の変化を即座に読み取ってOSに反映させる。本来MSの操縦の片手間にできる芸当ではないが、シンが先ほど言った様な最終地獄な特訓の成果が、シンの潜在能力を引き出していた。
 並のパイロットを凌駕する類希なる才能を。それが戦いの中で活かされる事は、きっと悲しい事に違いないだろう。
 何度もバレルロールを重ね、そのGにも耐えきったシンが、スカイグラスパーの背後を取った。おそらく熟練のパイロットが乗っているだろうスカイグラスパー相手に、シンは勝利を確信して、レールガンを発射した。
 スカイグラスパー二機を撃墜し、冷めやらぬ興奮に浮かされたシンが、ステラの安否に思い至り、地上のランドエムリオンを探し求め
「!」
 ストライクダガー三機分のスクラップと、新たに現れたストライクダガーの撃ったグレネードランチャーの爆炎に飲み込まれる、ランドエムリオンの姿が目に焼きついた。
「ス、テ、ラ? ……ステラーーーー!!!」
 はにかむように笑うステラの顔が浮かんだ。柔らかくて小さな手の感触を思った。シン、と名前を呼ぶ声が、脳裏に響いた。
「お前、お前―――!! 何してんだよ!?」
 ランドエムリオンにグレネードランチャーを撃ち込んだストライクダガーに、シンのエムリオンは飢えた猛禽の凶暴さで襲いかかった。沸騰しそうなほど血が滾っているのに、頭の一部が凍ってしまった様に冷静な自分がいた。
 地上に激突するかの様な勢いでエムリオンを疾走させ、レールガンを立て続けに打ち込む。ストライクダガーのABシールドが弾かれ、体勢を崩したその右腕に二発、三発と撃ち込んでもぎ取る。
 着弾の衝撃と機体のダメージに倒れ込むストライクダガーのコクピット目掛けてさらにもう一発! 思考を憎悪に煮えさせたシンは、躊躇わなかった。だが、トリガーを引くのにあとわずかな力が加えられるその瞬間に、警告音が鳴り響く。
「もう一機か!」
 咄嗟に反応したシンの能力は瞠目に値したが、迫るビームはEFと衝突し、その衝撃に少なからずコクピットが揺れる。
「ぐ、くそ!」
 地獄の特訓の成果とコーディネイターという出自の恩恵があるとはいえ、まだ十四歳の心と精神は知らず疲弊し、しばし、荒い息を着いてしまう。
 勢いづいたストライクダガーは、EFを突破すべく更にビームライフルを連射してくる。
「調子に、乗るなああーーー!!」
 シンの中で、何かが芽吹いた。それは、まだようやく萌芽する程度ではあったが、シンに劇的な変化をもたらす。
すべての神経が剥き出しになったような鋭敏な感覚。機体のあらゆるメカニズムの駆動音。パイロットスーツ越しにも分るコクピットの中の空気の流れ。どこまでも澄み切ったクリアな視界に思考。敵パイロットの息遣いさえも感じ取れる気がした。
「ステラを、ステラを撃った奴なんかにーーーーー!!」
 ストライクダガーめがけて突貫するエムリオン。敵連合パイロットは少なからず驚いた。こちらの射線に飛び込むようにして向かってくる敵など滅多にいない、というより自身を晒すその姿は自殺志願者の様なものではないか。
 降り続けるビームの雨をシンはかわすかわすかわす。見る見るうちにモニターの中のストライクダガーが近づき
「はああ!」
空手だったM1部分の右腕が、アサルトブレードを引き抜き、モーション・データの中から現在の状況でもっともパイロットの望む剣撃データを一瞬で選択する。
 ストライクダガーの右肘を、左から右に流れた白刃が切り落とし、返す刃がその頭部を縦に割った。さらにM1で蹴りを一発くれてから、地面にあおむけに倒れたストライクダガーに、アサルトブレードの切っ先を突きつけた。
 ストライクダガーの機体から飛沫を上げるオイルが、シンのエムリオンを粘っこい黒で濡らしていった。
 と、敗北を悟った連合のパイロットは、素早くコクピットハッチを開いて、両手を上に向けて姿を見せた。ヘルメットをかぶっていて分からないが、その表情は一体何だろうか? 恐怖? 諦め? 媚? それとも無表情か?
 一瞬、生身の人間を目撃したことで、シンの中の殺意が揺らいだ。
「! でも、あんたたちは、ステラを」
 アサルトブレードの切っ先が振り上げられ、太陽の光に金色に染まる。
「シン!」
 それを、もう二度と聞けなくなったと思っていた少女の声が、止めてくれた。
「ステラ!?」
「シン、だめ。降伏した相手は傷つけちゃいけない決まり」
「あ、ああ、うん。でも、ステラが無事でよかった。おれ、撃墜されたのかと」
「Eフィールドがあったから」
 エムリオンのカメラはほとんど無傷のランドエムリオンを収めた。どうやらEフィールドの球状の力場にそって流れた爆発のけむりを、初陣の興奮で血の気が昇っていたシンが誤認してしまったらしい。
「シン、一回補給に戻ろう。バッテリーと弾薬、減ってきちゃった」
 現在DCの使用するMSは容量と効率を上げた改良型のバッテリーを用いている。ビアンは核融合ジェネレーターや、プラズマ・リアクター、プラズマ・ジェネレーターといったCE世界の技術の数段上を行く動力機関の技術を齎したが、あいにくと技術的な格差により、20メートルサイズの人型機動兵器に搭載できるほどの、小型・高性能エンジンの開発は難航している。
 それでも、連合のGATシリーズのストライクに採用された、ストライカーパックシステムを一部参考にして開発されたエムリオンには、M1とリオン部分にそれぞれ別個にバッテリーを搭載しているため、ジンやストライクダガーなどに比べ大幅に稼働時間が長い。
 テスラ・ドライブやEフィールド、PS装甲の装備が可能となったのも、コストはMS二機以下ながら、実質二機分の出力を誇るエムリオンならばこそなのだ。
 それに、現在開発されている後期生産型のエムリオンには新型の高出力エンジンの搭載が予定されているし、順次先行量産したエムリオンも動力を変える計画はある。それだけの資金と物資の確保が、DCにとっては頭痛の種ではあるが。
 自分のエムリオンもさんざん、パーツを外し、我武者羅に撃ちまくってレールガンの弾数が心もとない事を確認し、シンはステラの意見に賛同する。
 放り投げたビームサーベルやビームライフルを拾っていたシンが、投降したストライクダガーの扱いに思い至り、すこし首を捻った。
「あ、降伏した相手は?」
「……エムリオンの手に乗せて連れてく?」
 そうするか、とシンは納得して、外部スピーカーに音声をつないで連合のパイロットに伝える。パイロットは年端も行かぬシンの声に驚いたようだが、忌々しげにコーディネイターか、と呟いていた。幸い、シンには聞こえなかったが。