Top > SRW-SEED_ビアンSEED氏_第43話
HTML convert time to 0.011 sec.


SRW-SEED_ビアンSEED氏_第43話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 21:55:20

 ビアンSEED 第四十三話 破壊去りて

 

 灰色と黒が渦を巻いて覆う空から、差し恵むわずかな光があった。
 どんなにこの星の空が分厚い雲に覆い隠され、地上からその上を見上げる事叶わなくとも、変わる事なく真空の暗黒天で燃え盛る太陽の光であった。
 金色に橙色の暖かみを帯びた陽光は、空を過ぎ去って大地に降り注ぎ二つの存在を照らしだしていた。
 一つ、巨大な爬虫類に似た頭部に無数の関節を持った節足を両脇から生やし、首狩り鎌の様な腕と、背に能面の様な無表情の、しかし美しく、故によりおぞましさを強調している巨大な女性の腰から上を生やした異形の生命。
 少なくとも、この世界の法則に則った生物とは言い難い。数十億年に及ぶ生命の進化の過程の全てを無視したようなその姿は、この存在がこの世界に適した生物ではない――異世界の存在であると明示しているかの様だ。
 異なる世界の異なる次元に存在する地底世界ラ・ギアスにて、恐怖と共に謳われる破壊の神サーヴァ・ヴォルクルスの、知性持たぬ分身体である。
 二つ、地に降り立ちヴォルクルス地上体と対峙する、陽光を吸い取り血の赤に変えて跳ね返す鋼の鎧を纏った、魔の王の如く禍々しく威厳を放つ機械仕掛けの巨体。
 見る者全てに膝を屈する事を強要する威圧的な風貌。頭部や両肩、背のバックパックからいくつも伸びる鋭い角の様なパーツ。全身に纏った深紅とも鮮血色とも言える装甲に施された精緻極まる金の装飾は、凡百の存在には触れ得ざる遠い存在の様な威厳を与えていた。
 後頭部と繋がっていた背の装甲や両肩の装甲は、可動部分が大きく取れる様に手を加えられていて、両肩に背負った伝説に謳われる悪龍の鉤爪か妖鳥の嘴のようにも見えるバックパックには、折り畳まれた巨竜の翼を思わせるウィングが二枚一対装備されていた。
 かつて新西暦と呼ばれる時代に、希代の天才科学者ビアン・ゾルダークが、異星人の齎した超技術EOTを参考にして造り上げた究極ロボ・ヴァルシオン。
 全高57メートル、重量550トンの機神は、今新たな姿へと生まれ変わっていた。
 古代の怨念が形を持った邪神と人が生み出した巨神の対峙。
 すでに一体のヴォルクルス地上体を屠ったネオ・ヴァルシオンは、ほとんど無挙動でその巨体を加速させた。
 瞬時に両肩のウィングが展開しテスラ・ドライブの光が千分の一秒にも満たぬ時間で最大出力に届く。
 同時に、その右手は左腰アーマー内に収納されていた柄を抜き放つ。
 柄から先はなく、その形状からディバインアームである事は一目で分かる。振り上げられる一瞬で柄から流れ出した液体金属は即座に設定されている形状へと変わった。
 刃先が単分子の厚みしか持たぬこの世で最も鋭利な液体金属剣へと変わったディバインアームだ。
 たちまち分厚く長く波打つ四十メートル以上の片刃の大剣と化したディバインアームは、ネオ・ヴァルシオンの機械の挙動とは思えぬ迫力を漲らせて振り下ろされる。
 破壊しか知らぬヴォルクルスの分身体は、それ故に殊戦闘、殊破壊に関してはまさしく神がかった反応を見せる。無数の節足、触手が一斉にたわみその場から疾風の如く飛びずさる。
 足場とされた大地が砕け散る程に込められた膂力。それは異形故か神故か。
 ディバインアームの刃圏からヴォルクルスが外れるのを認めた瞬間、ビアンがフットペダルを更に踏み込んだ。
 ネオ・ヴァルシオンはビアンの思考にタイムラグなしに答えた。
 レプリカに過ぎないが、バイオセンサーやオーラバトラー、魔装機系に使用される有機的機関――オーラマルスやプラーナコンバーターを使用した機体は、時に操者たるビアンの思考よりも早く動く。
 振り下ろされたディバインアームは雷光の速さで翻りヴォルクルスの顎先を縦に真っ二つに割り、青黒い血と緑の体液を零す。大地に滴り落ちたそれらは紫の煙を挙げて大地を溶かして行く。
 苦痛の絶叫はすべてを吹き飛ばす咆哮に取って代わられた。MSの装甲などものともしない無音の破壊はネオ・ヴァルシオンのかざした左手から発生した空間歪曲場の表面を流れるに留まった。
 ネオ・ヴァルシオンを中心として円形状に壊れゆく大地を尻目に、ビアンの瞳は凍える怒りでヴォルクルスを見据えていた。
 瞳の中で燃える自責と悔恨は、より強くヴォルクルスへの敵意に変わる。
 守るべき大地の蹂躙。戦火に巻き込んだ人民を守ると宣言してこの様か!

 

「喰らえい! ワーム・クロスマッシャー!!」

 

 左手甲部に装備されたクロスマッシャーの砲口が覗き、その前方の空間に黒い穴が穿たれる。
 それは歪められた空間であり、同時にヴォルクルスの周囲を覆い尽くす様に同じ歪みが生まれる。
 なぜか歪みは祭壇に捧げられた生贄を求めて群がる魔物の笑みの様だった。
 ヴァルシオンが誇る超破壊光線クロスマッシャーが、開いた空間の歪みに飲み込まれ、ヴォルクルスの周囲を取り巻く穴から出現し、一発のクロスマッシャーが無数の砲撃に変わり、同時に十個の風穴をヴォルクルスの巨体に開いた。
 わずか一瞬で瀕死に追い込まれた異形の邪神は、今にも消え入りそうな嘶きと極彩色の体液を漏らしている。
 ヴォルクルスの危機に呼応してか、ネオ・ヴァルシオンの足元から無数の腕が生まれ、宝玉上の目を幾つも持った怨念の土巨人――デモンゴーレムを生み出す。
 巨体に反して、あるいは相応しく桁外れの推進力を与えられたネオ・ヴァルシオンは、ディバインアームの無造作な一振りで無数のデモンゴーレムの上半身を呆気無いほどの鋭さで切り裂き、そのまま左肩からヴォルクルスに体当たりを敢行した。
 グラビコンシステムが作り出した黒い重力の膜が、ネオ・ヴァルシオンとヴォルクルスとの境目に生まれ、従来の法則から外れた重力の楔はシールドバッシュやショルダータックルの要領で破壊神の醜悪な巨体を彼方へと弾き飛ばした。
 目にすれば、触れれば、聞けば、嗅げば、その端から存在を汚されてしまいそうな化け物が宙を舞う姿は、やけにコミカルだった。
 ネオ・ヴァルシオンの背と両肩のバックパックやウィングから再び灯るテスラ・ドライブの光。
 紅の魔弾と化して飛翔した巨体は、ヴォルクルスの女性形をした胴の部分に思い切り開いた五指を抉りこませた。
 巨大な掌の下で、ぐちゃりと柔らかいものが潰れる音がした。体内にまで潜り込ませたネオ・ヴァルシオンの左手に宿る破壊の光。零距離からの――

 

「クロォスマッシャアアー! 止めだ……存分に味わい、そして滅っせい!! オメガ・ウェーブ!!」

 

 いくつもの生物の特徴を持ちながら如何なる生物にも当てはまらない異形の血肉は、内部から迸った三色の光に一片の細胞に至るまで焼き尽くされ、更に、バルマー系の兵器から解析した強力な兵器オメガ・ウェーブの赤と紫が混合した破壊の波が残るヴォルクルスの肉体を消滅にまで追い込んだ。
 オメガ・ウェーブの発射態勢のまま、ネオ・ヴァルシオンは滅びゆくヴォルクルスを傲慢に、不遜に、そして圧倒的なまでの威厳で見届けた。

 

 眼下で行われた一方的な戦いの終幕に、マサキはごくりと唾を呑みこんだ。
 DC総帥ビアン・ゾルダーク。あのオーブ全土に響き渡ったクーデターの宣言で、初めて目にした男が、今同じ戦場に居る。
 奇妙な違和感の様な、あるいは現実感を伴わない感覚が、不意にマサキの胸に湧き起こった。
 今日までただの学生であった筈の自分がロボットに乗り、オーブ政権を転覆させた男と同じ戦場で、理解のできない異形の怪物と闘っている。
 小説やテレビの中の世界でももう少しマシな状況の説明をしてくれるだろうに。
 意識を逸らしたマサキの頬を、風が撫ぜた。サイバスターのコックピットの中に吹く筈の無い風であった。
 よそ見をしてはいけないと優しく窘める母の手の様だとマサキは思った。
 ヤラファス島上空で、マサキ達を相手に死闘を繰り広げるヴォルクルス飛行体から垂れ下った触手のいくつかが、巨大な鉤爪を繰り出そうとしていた。
 咄嗟にサイバスターに回避行動を取らせ、穢れた鉤爪がサイバスターの傍らを過ぎ去るのに合わせ、カウンターにカロリックミサイルとアートカノンを、残弾を全て打ち尽くす勢いで叩き込む。
 直径二十メートルはあろうかと言う触手は半ばから千切れ、落ち行くその先端を、テューディのイスマイルがバスターキャノンの集中砲火で消滅させる。
 全身に砲を仕込んだイスマイルの火力を最大限に活かし、再生を上回る速度でヴォルクルスの五体とは言えぬ巨体を吹き飛ばし続けている。
 イスマイル自身も極めて強力な再生能力を持っている為、ヴォルクルスの攻撃による機体の損傷は既に癒えている。機体に問題はない。
 だが操者たるテューディには先程ヴォルクルスを吹き飛ばした時に使ったマー・ノー・ウォーの影響でプラーナの消耗がそれなりにある。
 大なり小なり魔力や精霊の力、プラーナに依存しているラ・ギアスの機動兵器の例に漏れないイスマイルだが、こちらの世界に来てから改修を進め、こういった事態に備えてパイロットに負担をかけない兵装も採用している。
 フルカネリ式永久機関以外にもいくつかの補助動力を積み、プラーナの消耗が激しい時にはそちらからのエネルギーを使用する様に切り替える事も出来るし、プラグマティックサイトを中心に、全身の装甲内に内蔵したミサイルや炸裂弾を装填したガトリングガンでカバーする。

 

「呆ける暇はないぞ、マサキ! さっさとこの汚物を滅ぼすっ」
「ああ、すまねえ!」

 

 生来の気性に加えて妹の中で生き続けた幼児期の死後の過程と相まり、テューディの気性は激しい。
 髪の色が連想させる真っ赤に燃え盛る炎がそのまま心の在り様を映しているのだろうか。
 テューディの叱咤で己が戦場に立っていることを思い出し、マサキは球形のコントロールスフィアを握る指に込める力を強めた。
 高位精霊サイフィスの加護を受けし白き機神騎士は、ディスカッターを再びサイ・ブレードへ昇華させ、空を塞ぐ悪意へと切っ先を向ける。
 純銀の輝きは雲間を通り抜けた陽光の祝福を受けて眩く煌いた。マサキはすうっと小さく浅く息を吸う。肺に溜めたそれを吐くと同時にサイバスターの背が青いフレアを盛大に噴き、切り裂く風となってヴォルクルスへと向かう。
 空には邪魔をするデモンゴーレムがいない分、ヴォルクルスとの戦いに余計な介入はない。
 ヴォルクルスに突っ込むサイバスターを、援護する為にシルベルヴィントも、ヴォルクルスの繰り出す触手の群れを両手の高周波ソードで次々と切り裂いていた。
 光学兵器を吸収するヴォルクルスの体組織の所為で、シルベルヴィントのフォトンビーム砲が使えず、高周波ソード位しか通用出来る装備が無く、また、エラーの表示が次々と浮かび始めたモニターを睨み、アギーハは険の強かった口元をきつく噛み締めた。
 悔しいが、ヴォルクルスは不調のシルベルヴィントでは打倒しえぬ相手だ。必然的にサイバスターとイスマイルに頼らざるを得ない。
 地球人如きに――オーブでの暮らしで随分と下火になっていた地球人への侮蔑や軽蔑、優越感がわずかに蘇った。
 だがそれが、自分達の日常を破壊された悔しさを自分の手で晴らせぬ事への悔しさの現れであり、かつての様な心底からの感情とは趣を異にするものであると、本人でさえ気付いてはいなかった。
 サイバスターの命を受けたファミリアレス達がブレイクフィールドを纏ってヴォルクルスに次々と体当たりを敢行して、その巨大な翼や髑髏の様な胴体に次々とダメージを積み重ねてゆく。
 サイバスターの掲げた左手前方に展開した魔法陣の中央で風が渦を巻き、人の生命の息吹を纏った清廉なる風は、その名をアストラルバスターに変えて一際強烈な純白の光を纏った砲撃に変わる。狙い過たず風の砲撃はヴォルクルス頭部の左角を吹き飛ばす。
 破壊の対象をサイバスターに向けたヴォルクルスの右頚部を、異星から吹いた翡翠色の風が切り裂いていた。
 シルベルヴィントのコックピットの中、欝憤を晴らすかのように――いや、事実そうなのだろう――アギーハは声も高々に吼えた。

 

「美人を忘れるなんて礼儀知らずな化け物だね!」

 

 ぶしゅっと音を立てて曇天の陽下にしぶいた破壊の神の血潮は、地上の同胞と同じ様にこの世のものとは思えない無数の色に染められたものだった。
 見よ、秋雨の如く噴き出した血は暗い日差しを灰に、黒に、橙に、青にと次々に色を変えながら風を汚して止めどなく噴き出す。
 その異形の血の一滴も浴びれば拭えぬ汚辱に晒される。本能的にその場に居た三人の魂が感じていた。
 既にヴォルクルスの全身は自らの血潮にまみれ、その体から伸びていた不浄な肉鞭や鉤爪、人々の良き感情も希望も夢も命さえも摘み取る為に広げられていた翼の被膜も大きく切り裂かれ、もはや翼としての役目を果たさずにいる。それでもなお空にこの邪神が浮かんでいるのは、霊的な力によって重力の鎖を遮断しているのだろう。

 

「あの頃の私なら、貴様の存在も都合よく利用していたかも知れんが……今の私はお前の存在を認める事は出来ん。破壊の後の荒涼たる世界を、もう私は望んでいないのだっ! 消えろ、破壊の神よ」

 

 疲弊したはずの体に意思の力が巡った。テューディの叫びは心からのものだったろう。少なくとも、サイバスターにマサキが乗ったその瞬間からは。
 妹ウェンディの中で過ごした二十年余の時の果て、テューディは誰も気付いてくれない、誰も見てくれない、誰も知ってくれない、誰も理解してくれないという想いを抱き、遂には世界の破滅を望んだ。
 自分を必要としてくれない世界など私には必要ない。
 誰も私の事を知らないのなら、誰が死のうと構うものか。
 何が壊れようと構うものか。
 いや、なにもかも壊れてしまうがいい。
 誰も彼もが消えてしまうが良い。
 その為にイスマイルを作り出し、その為にウェンディの体を奪い、その為にテューディは戦った。
 それは、暗闇に一人残されてしまった幼子が、光溢れる場所で待っている父母を探し求めているような戦いだった。
 そしてテューディは倒された。風の魔装機神の操者マサキ・アンドーとその仲間達の手によって。
 テューディが傷をなめ合うだけの存在に過ぎないと切って捨てた『仲間』という存在によって。
 自らの存在が消えゆく最後の瞬間、テューディは精神の奥底に封じ込めた筈のウェンディに教えられた。
 手は、差し伸べられていた。声は、掛けられていた。ぬくもりは、与えられていたのだ。
 それに気付かなかった。その声を聞こうとしなかった。そのぬくもりを求めるだけで、与えようとはしなかった。
 だから、だから良き奇蹟か、それとも悪意を持ってかは分からないが新しい生命と体を持って訪れたこの世界では、同じ過ちを繰り返さずに生きてゆけるかと、もがいた。 結局の所、戦いに携わる形でしかたつきの糧を得る事はできなかったが、それでもなんとか生きてこれた。
 イスマイルと共にこの世界に来たテューディは、宇宙でとあるジャンク屋達に拾われ、そこでこの世界の世界情勢や情報を手にした後、なぜか死んだ筈の時期を別にする筈のフェイルやオールトらと出会い行動を共にしていた。
 フェイルらからすればよく知る才媛の錬金術士を彷彿とさせるその容貌と、魔装機である事は確かだが見知らぬ機体を携えていたテューディは容易には信用できぬ相手だった。
 イスマイルはラングラン王国王都防衛用の機体であり、魔装機計画で造られたオリジナル魔装機の十七番目に当たる機体だ。
 もろもろの都合で開発は凍結されていたが、それをテューディが予定されていた性能をはるかに上回る形でカスタマイズしてある。
 フェイルらがそれがイスマイルである事に気付かなかったのも無理はない。
 今は遠く地球圏を離れた地球圏脱出コロニー船キング・クリムゾン・グローリーで出会った際にテューディから語られた故国ラングランの、引いてはラ・ギアスの激動の歴史を、フェイルはただ静かに聞いていた。
 語るテューディが不思議に思うほどに落ち着き払った態度だった。だが、最後に、マサキの話を終えた時に浮かべたモノをテューディは羨ましく思った。
 自分の命を賭して試したマサキの意思。それが、自分の死後も変わらずに、折れる事無く曲がる事無く、かといってそれだけに縛られるわけでもなく在った事が、フェイルにはこの上なく喜ばしかった。
 フェイルが浮かべた笑みに含まれた言葉では言い表しきれない感情を、そしてそれを抱ける程に絆を繋いでいたフェイルとマサキに、どうしようもないほど嫉妬を覚えたのだ。
 そして――今。テューディはイスマイルのモニターに映る自分の手で造り出したサイバスターに乗る“この世界のマサキ”を思った。
 あの少年は妹ウェンディが、そして自分自身が求め愛した少年であって、少年ではない。
 理性は冷徹なまでにソレをテューディの心に告げている。なのに、どうして――こうもマサキが気になるのか? これが――愛、だろうか。
 それを口にしてしまえばそのまま儚く消えてしまいそうな気がして、テューディは口を噤んだ。
 その代わりと言うわけではあるまいが、イスマイルの砲という砲を開き、そこから溢れた無数の光がヴォルクルスの巨体を穴だらけに変えた。
 誰が見ても致命傷と見える。強敵の最後を感じ取り、マサキは少年の感性を高ぶらせた。神経を削り、魂を疲弊させた戦いに終幕を降ろせる。言葉にすればこうだが、実際にマサキが感じたのは脳を痺れさせる『止め』への意識だった。
 テレビゲームで苦労して辿り着いたボスキャラクターへ最後の一撃を加える。そんな感情だった。
 サイバスターの動きに気付いたテューディの制止の声はわずかに遅れた。

 

「待て、マサ……」
「こいつで止めだ!! 行っけえ、サイフラァァアッシュ!!!」

 

 サイバスターの、錬金術によって加工されたズフィルードクリスタルの総身から溢れ出し、ずたずたに変わり果てたヴォルクルスの魔肉と邪血を浄化してゆく白き光風。
 良く言えば高まったマサキのプラーナによって、悪く言えば調子に乗ったマサキの精神によって威力を増したサイフラッシュは残るヴォルクルス分身体の存在の痕跡を残さず消滅させる。
 マサキは、サイフラッシュの光の中に飲み込まれてゆく破壊神の姿に、よっしゃあとちいさくガッツポーズを取った。

 

「……あ?」

 

 握りこぶしを作った右腕を突き上げ、左手でパシッと肘の裏を叩いた所で急速な貧血に襲われた。
 貧血と言うよりは、全身から力そのものが抜け落ちてゆくような感覚だ。指先一本を曲げるのも、瞼を開いている事さえできなくなる。
 テューディが言っていたプラーナの急激な消耗による意識喪失だと、マサキは思いつく前に意識を暗黒の中に投げかけ、サイバスターのコックピットシートの背に体を預け、瞼を閉じた。

 

 DC本拠地となったヤラファス島に降り立ったヴォルクルスの分身体が事如く滅びる中、オノゴロ島に現れたヴォルクルスもまた同様の運命の中にあった。
 白き風騎士サイバスター、紫紺の魔神グランゾン、新たなる鎧纏いし真紅の大魔王ネオ・ヴァルシオンによって討ち滅ぼされたヴォルクルス分身体達。残るは一体。

 

「ぬ、ぬおおおおお?! ええい、ガルガウ、気合いを入れんか!!」
「……」

 

 真っ向からヴォルクルス地上体の体当たりを迎え受けたガルガウとドルーキンは、機体各所から鋼の軋みを挙げて、火を上げ始めていた。
 今こうして戦っている事さえ奇蹟に等しい損傷を受けているガルガウとドルーキンは、地上に降り立った地底世界の異形の相手をするには厳しい状態であった。
 零距離から巨大な顎を開いたヴォルクルスの様子に、無色の衝撃波の兆候を見て取ったヴィガジは、回避の不可能を悟り、ならばとガルガウの胸部装甲を展開させメガスマッシャーの砲身をヴォルクルスの頭部に突きつける。

 

「咆哮を挙げろ、ガルガウ!!」
「…………!」

 

 肩を潜り込ませてヴォルクルスの巨体を弾き上げて、咄嗟に離れる。
 バニッシュレーザーもフォトンビーム砲も通じぬゆえに片手一本で手繰るハンマーをヴォルクルスの横面に叩きつける。
 緑色の出来の悪い恐竜の様な顔面から、赤い目玉が飛び出し、超至近距離からのメガスマッシャーはその上顎を消し飛ばす。
 殺った――必殺の確信にヴィガジの口元に浮かぶ笑み。だが、それは、油断と呼ばれるべきものだった。
 ああ、下顎のみになったヴォルクルスの頭部の喉の奥が蠢きこれまでにないほどの威力を伴った衝撃波を放つとは!

 

「ぬぐああああ!?」
「……!!」

 

 ゾヴォーグの優れた科学力が生み出した大型マシン二体のコックピットの中、機体損傷度が危険領域に入ったことを示すモニター表示に、顔を照らされながら二人は襲い来るすさまじい衝撃に歯を食いしばって耐えた。
 ぼぎりと音を立ててガルガウの右腕が咄嗟に盾にしたアイアンクローごと肩の根元から折れ、ドルーキンも全身に大きな罅が無数に走る。
 事なる星の技術体系が作り上げた動力は絶命に等しい唸りを挙げた。
 まずい――明確な敗北の予兆に、歴戦の戦士足る二人は揺れるモニターの向こうの邪神を睨んでいた。
 その、上空

 

「フルカネリ式永久機関最大出力。砲身内温度臨界点到達。スペルモーター回転数最大、砲身展開、照準固定……焼き尽くせ! 『クトゥグア』!!」

 

 ガルガウのドルーキンのモニターを染め上げる『閃光』。
 そう閃光だ。ヴォルクルスの醜悪な姿ではない。第一、地上体のヴォルクルスには強烈な光を発する様な攻撃手段はない。
 膨大な光量を機体が処理するのと同時に、桁外れの熱量が発生しヴォルクルスを呑みこんでいた。
 輝く小太陽を落としたのは、二機と一体の背後に居た灰銀の装甲に緑の宝球を埋め込んだ壮麗にして手に入れたモノに道を間違わせてしまうほどの強大な力を持った機械の巨人デュラクシール・レイ。
 今、その左肩に備え付けられた燃えたぎる溶岩に血の赤を配し、絶対の破壊の意志を体現するが如き漆黒の砲身が、内部から伸びた長砲身がスライドし砲身そのものが上下に展開する。
 超高出力プラズマ砲『クトゥグア』。
 フォーマルトハウト星の神性の名を冠した絶対の破壊焔を放つ滅亡の砲が、凶悪な獣の開いた顎の如き砲口から、晴天に輝く太陽さえ霞むほどの眩さを持つ小さな太陽が破壊の神へと落とされたのだ。
 かろうじてガルガウとドルーキンを巻き込まぬ効果範囲ではあったが、あまりの膨大な熱量はガルガウとドルーキンの装甲表面を融解させつつあった。
 ヴォルクルスが一瞬前までいた大地はすり鉢状に抉れ、熱量の凄まじさに表面がガラス状に変わっている。
 この時、クトゥグアの一撃は瞬間的にではあるが数億度を超える熱量を放っていた。
 デュラクシール・レイのコックピットの中では、クトゥグアに持っていかれたプラーナの喪失感に、フェイルが顔を青褪めさせていた。
 額に浮かぶのは玉の汗だ。有機的なパーツを用いられた体内の諸器官が、残る生身の部分をサポートし、体内に入れられたナノマシンや高濃縮栄養剤が体調を整えるべく稼働し始める。
 自らの体内で生まれ持ったのではない肉体の器官が確かに動く感触を感じ、フェイルは自嘲に近い笑いを小さく零した。
 投薬、限度を超えた修行、遂には人体を人造の器官に置き換えた。今の自分を見たら、セニアはどう思うだろう? モニカは? マサキは?
 故郷で今も生きていると信じる肉親達と、年下の戦友の顔が、脳裏に浮かぶ。荒くなっていた息はすでに整っていた。
 周囲でエムリオン部隊の指揮をとりながらデモンゴーレムを一掃していたオールトが気遣わしげにデュラクシール・レイに通信を繋げてきた。
 死してなお変わらぬ忠誠を捧げてくれる忠臣に報いるべく、毅然たる態度であろうとフェイルは背筋に鉄杭を通す気分で背筋を伸ばした。

 

「お加減はいかがでございますか? 陛下」
「思ったよりは辛くない。どうやら、今ので打ち止めの様だな」
「はっ。そちらのお二方もご無事ですかな?」
「当り前だ。それほど柔ではない!?」
「……」

 

 目の前ヴォルクルスを消滅させたデュラクシール・レイの絶対と言っても良い火力に内心で畏怖を抱きながら、ヴィガジの口からは強い言葉が突いて出る。
 が、それも途中で遮られた。
 ぼすん、とどこかくぐもった音を立ててガルガウの機能が停止してしまったのだ。
 ゾンビーMSの掃討とヴォルクルスとの死闘。余波とはいえクトゥグアの熱量を浴びてしまったのが、死者に鞭打つが如き非情さでガルガウの心臓に止めを刺してしまったようだ。
 傍らのドルーキンも同様にうなだれる様にして動きを止め、ハンマーも取りおとしている。
 かろうじて通信機能は生きているようだが、これでは両手足を縛られたようなものだ。

 

「ええい、くそ、動け! 動かんかガルガウ」
「…………」
「どうやら、貴公らの機体も限界の様だな。一応恩人だ。歓迎はするが?」

 

 ヤラファス島の決着がついたことを確認したフェイルは、視線をヤラファス島に向けたまま他人事のようにヴィガジ達に告げた。

 

 現れたヴォルクルス全てを滅ぼすのと時を同じくしてゾンビーMSとデモンゴーレム達の出現が止まり、世界を包んでいたあまりにも濃厚な、不純物の無い悪意と邪気が薄れてゆく。
 自らも手を貸したネオ・ヴァルシオンの過剰すぎる戦闘能力を見届けたシュウは、満足げに頷き、一度そうしたように天を仰いだ。
 姿を隠していたルオゾールに語りかけた時と同じだと、肩のチカだけが気付く。
 果たして、ネオ・ヴァルシオンの傍らに降り立ったミナシオーネや三機のフェアリオン。ゆるゆるとサイバスターを抱えて降り立ったイスマイルに、あちこちから煙を上げて軟着陸をしたシルベルヴィント。オノゴロのデュラクシール・レイ、ガルガウ、ドルーキン、ブローウェルカスタムの登場者達全てに、かの男の声が届く。

 

『いやはや、お見事お見事。見事我が力を退けましたな。多少なりとも貴方方の事は認めて差し上げましょう』

 

 どこまでも余裕を満たした声。己が絶対的に優位にある存在だと信じて疑わぬ声。足元を這いまわる蟻達の営みを嘲笑う人間の傲慢を湛えた声。
 信奉する神の写し身を滅ぼされてなお怒りの片鱗さえ見せぬ声は、かつてヴォルクルスに対して絶対の忠誠と信仰を寄せていた魔神官の者と同じでありながら明確に違っていた。
 もはや――ヴォルクルスとは報じる神に非ず。自らそのものであると言外にその声が告げている。

 

「手持ちの駒が尽きた、というわけではないのでしょう? ルオゾール」

 

 この場で、いや、この世界でもっともルオゾールと縁が深く互いに滅ぼさずにはおかぬと滅殺を誓う存在シュウ・シラカワが、グランゾンの中で、常と変らぬ冷笑の響きで問うた。
 肩のチカは沈黙している。この場で口を開く事は出来ぬと、このやかましく下世話な使い魔は理解していた。

 

『そうですな。たびたび告げてはおりますが、クリストフ。貴方を葬るにふさわしい舞台ではありませんのでな。貴方の惨めでむごたらしい最期は、この星の終わりを告げるファンファーレとして与えて差し上げるつもりですので。さて、DCとやら、私からの誠意は受け取っていただけましたかな? 詰まらぬものですが、またいずれ差し上げるつもりですので、その時は存分にお楽しみくだされ』
「確かに大した誠意の表し方だったな」

 

 ヴォルクルスを葬った姿勢のままネオ・ヴァルシオンの中から、ビアンが感情と言うものをどこかに置き去りにした声で答えた。
 ルオゾールも、シュウが地上で接触していた男だったと記憶していた為に、わずかばかり注意を向ける。他とは少しばかり色合いの違う虫を見つけた。その程度の反応だった。

 

「だが憶えておけ、邪神とやらを騙る『人間』よ。いや、人間である事さえ捨てて堕ち果てた哀れな亡者よ。貴様が見下し取るに足らぬと蔑む存在である人間に、貴様は足を掬われ、倒れ伏した頭と心臓に杭を打たれるのだと言う事を」
『はっはっは。なるほどクリストフが無条件に協力したと言うのもむべなるかな。卑小な存在にしてはなかなかに大言を吐く。神を葬ろうとした驕り昂った人間は同類を求めると言う事でしょうな。
 よろしい。私がクリストフに神罰を下すその時まで生き延びていたなら貴方をその次に我が供物としましょう。ビアン・ゾルダーク、神に指名された事をこの上なく栄誉とするがいい。では、背信者クリストフ。愚かな人間の代表者ビアン・ゾルダーク。遠からずまたまみえる時までお健やかに――』

 

 最後まで人間を越えたという自負がもたらす自信を崩さずに、ルオゾールの声は遠ざかって行く。
 同時に、二つの島の天を余す事無く覆い尽くしていた可視の暗雲と不可視の禍々しい空気そのものが潮が引くように消えてゆく。
 天を見上げていたシュウに、ビアンが無言で問いかけた。奴は本当に退いたのか、と。半ば確認作業の様なものだ。
 モニター越しにシュウは頷いて返した。少なくともシュウの魔法的な知覚領域の中からは、ルオゾールの気配は消えている。
 シュウの答えにビアンもまた頷いて答えた。

 

「そうか。取り敢えずは退いたと言った所か。そろそろディバイディングドライバーの効果が切れる。全機退避せよ」

 

 歪曲された空間が正常に戻ろうとし始めている。
 次々と空中に逃れるDCのMS達。無傷な少ない。多くの機体が傷つき、パイロット達が失われ、多くの国民の命が奪われた。
 今回のルオゾールの襲撃による被害を癒すには、長い長い時が必要となるだろう。
 ふと、ネオ・ヴァルシオンがヴォルクルスの分身体を屠ったままの姿勢で固まっている事に気付いたシュウが、ビアンに訝しげに問いかけた。
 桁外れのエネルギー量を誇っていたネオ・ヴァルシオンの反応が今はほとんど無い。
 それまで稼働していた余韻として残っているエネルギー量だけでも大したものだが。CE純正の機動兵器ではもはや倒す事は不可能に等しいだろう。
 ビアンのDC蜂起の真意の一つを考えれば、かなりやり過ぎてしまったと言うべきだろう。

 

「どうしました? ビアン博士」
「うむ。……システムダウンだ。やはり、まだ実戦を行うには早過ぎたらしい」
「なるほど。グランゾンも起動と調整には手間取りましたが、ネオ・ヴァルシオンはそれ以上の様ですね。やはり色々と積み込み過ぎたのでしょう」
「そうだな。ミナ、すまんが手を貸してくれ」

 

 ソキウス達と先に空中に逃れていたミナが、ビアンの頼みにやれやれと溜息をついてからミナシオーネをネオ・ヴァルシオンの傍らに降り立たせた。
 なんだかんだでビアンの頼みを断れないらしい。
 なんとなく二人の関係を思い、シュウはビアンの愛娘であるリューネが二人の様子を見たら何と言うだろうかと考え、そんな自分の思考に小さな驚きを憶えた。

#br 
 正常に帰したヤラファス島の基地設備にサイバスターとイスマイルが降り立った。
 プラーナの消耗によって気を失ったマサキの安否を気遣うテューディは、転げるようにイスマイルのコックピットから飛び出してサイバスターのコックピットを目指した。
 シートにぐったりともたれかかるマサキの顔色は病人の白に近く、血の気が引いてうっすらと青ざめていた。
 呼吸はある――慌てふためく感情とは別に冷徹な理性はマサキの命の息吹を確かめて安堵する。
 マサキの体を休ませるにしても、その前にプラーナの補給をしておいた方が彼の命を救う確率は高くなる。
 消耗したプラーナへの応急手当。それを考えたテューディは、辿り着いた方法に、いささか白皙の頬を羞恥の薄桃色に染めた。紫のルージュを塗った唇に、わずかに力が込められる。
 冷徹な光を浮かべる事の多い瞳は、どこか熱を帯びてマサキの半ば開かれた唇を見つめていた。
 意識を失っていたマサキは不意に暖かい何かを感じた。どこかから自分の体の中に優しくぬくもりに満ちたモノが流れ込んでくる。
 身体の中に鉛を入れたように重かったのが、その流れが満ちるにつれて羽根の様に軽くなり、マサキの張りつめた心を優しく愛撫する。
 飢えた子供の様に、マサキはその暖かさを欲した。
 口――口からぬくもりは伝わってくる。ぼんやりと夢うつつの最中を彷徨っている意志木のまま、マサキは無意識に、しかし貪るように口を動かした。
 なにかで濡れた暖かい二枚の肉を、マサキの下がかき分けて、犬や猫がそうするようにぴちゃぴちゃと下を動かす。

 

「……ッ!!」

 

 若い女の驚く声の様なものが聞こえた気がした。何かが自分の体の上に覆いかぶさっている。優しい手付きで、自分の頭を何かが抱えているようだった。
 自然とマサキの腕は自分の体の上に覆いかぶさっているモノに回り、右手は左手よりやや下の方のモノを掴んだ。
 手に返ってくるのは確かな質感を持った柔らかく、握り込む指や手を跳ね返す弾力に満ちたモノだった。
 円やかな球形をしているようで、そのモノをマサキの右手は歪な円を描きながら何度も何度も撫でる。触れば触るほど、撫でれば撫でるほど右手に痺れるような快感が返ってくる。

 

「ン……!?」

 

 また、声がした。
 二枚の肉片をかきわけた舌は、その先にあった小さな板の様なモノやそれを支える濡れそぼった肉を乱暴に舐めまわし、その先にあった長いモノに絡んだ。
 マサキの舌よりも小さいそれに触れる度に流れ込んでくる流れの熱さが増し、それが心地よくてマサキはそれへの刺激を続ける。

 

「ンン、ンムウウ……ンん!!!」

 

 小さい衝撃が、マサキの胸で連続した。
 マサキの拳よりも小さななにかが、弱弱しく胸板を叩いている。
 だがそれも、マサキの貪欲な貪りが続くうちに無くなって行き、そっとマサキの胸に押し付けられて動きを止めた。
 こくん、と喉を鳴らす音がした。マサキの喉で。マサキに覆いかぶさるモノのノドで。互いの唾を交換し合い飲み下し、マサキはようやく送り込んでいた舌を戻した。
 飢えを訴える腹を満たした時以上の満足感がマサキの脊髄を満たす。
 体の末端に至るまで満たされ、ようようマサキは閉じていた瞳を開いた。
 開かれた翠色の瞳が真っ先に認めたのは、頬を真っ赤に染めて瞳を潤ませるテューディの艶姿だった。離れた二人の唇を銀の糸が繋いでいる。

 

「…………………………………………」

 

 たっぷりと間が空いた。思考が停止する事数十秒。
 マサキは自分の左手がテューディの細い腰に、右手がその尻を撫で回し続けている事に気付き、光もかくやと言う速さで頭に血を登らせた。

 

「てゅ、てゅ、てゅ、テューディ!?」

 

 手に残るテューディの尻肉の張りと弾力、ぬくもり、折れてしまいそうなほどにくびれた腰。
 その全てがマサキの思春期の感性に渾身の右ストレートと左フックを叩き込んでKOした。
 シートにもたれかかったマサキの上に覆いかぶさったテューディを左手で抱きよせ、右手で逃げられぬように尻肉を抑えつけている態勢だ。
 鼻と鼻がくっつきそうなほど――というよりも唇と唇が触れあう距離に互いの顔がある。
 熱く濡れたテューディの吐息が、かぐわしくマサキの鼻梁を刺激していた。
 自分とテューディの唇を繋ぐ銀糸。手に残る快楽。唇に残る暖かい感触。胸板の間で潰れている、抱き寄せたテューディの二つの果実。まっすぐに見つめてくるテューディの瞳の潤み。
 それらが先程までのマサキの夢の様な快感が、なにをして得ていたものだったかを教えている。
 プラーナの補給法でもっとも効率的なモノの一つ『粘膜の接触』即ち、キスを行ったテューディを無意識の内に抱き寄せて腰に手を回して、右手で尻肉を存分に捏ね回して弄び、テューディの口の中を凌辱していたのだ。
 ファースト・キスを濃厚なディープ・キスで済ませたらしい。しかも自分から。

 

「テュー……」
「あ……」

 

 テューディに何と言えばよいのか。思わず口を開きかけた時、我に返ったらしいテューディが身をひるがえしてマサキの体から離れた。
 自分の手から離れた温もりに、おもわずマサキはテューディの背に手を伸ばした。
 だが、その手は届く事無くテューディはサイバスターのコックピットから飛び出した。

 

「…………」

 

 視界から消え去ったテューディの姿に視線を向けたまま。マサキは言葉なくそのまま硬直した。
 自分が何をしたのか。してしまったのか。ヴォルクルスとの死闘など、宇宙の果てに忘れ去っていた。
 我知らずマサキは自分の唇を舐めた。品の良いルージュの味と、テューディのつけている香水の匂いが、わずかに残っていた。
 ラッキースケベ二号マサキ・アンドー誕生の瞬間だった。