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SRW-SEED_ビアンSEED氏_第47話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 21:58:53

 ビアンSEED 第四十七話 燃えよ天山 吼えよ隆聖

 
 

 低軌道ステーション『アメノミハシラ』。旧オーブを母体とする軍事国家ディバイン・クルセイダーズ宇宙軍の本拠地であり、宇宙における二つしかないDCの拠点の一つだ。
 DC宇宙軍総司令マイヤー・V・ブランシュタインをはじめDC副総帥ロンド・ミナ・サハク、DC総帥ビアン・ゾルダークらといったDC首脳陣が一堂に会す場でもあった。
 シン達に持ち込んだ新型機を渡した後、マイヤーやリリー・ユンカース、ロレンツォ・ディ・モンテニャッコを始めとした主要人物達が集っていた。アメノミハシラの中にある一室に、ビアンとミナが最後に到着する。
 三人のソキウス達の他にも重装美に身を固めた警護の兵士達が周囲を固めている。
 しかし、その場にコンバットベストを身につけてヘルメットを被った、熊の様なネズミの様な着ぐるみがいては、場違いと言うものだろう。
 戦闘に特化した量産型ボン太くん部隊である。
 ルオゾールの強襲によって破壊されたオノゴロ・ヤラファス島の復興に活躍している地上のボン太くん達の、局地戦闘を想定した改修版に当たる。
 鉄片手榴弾やチャフ・グレネード、スタン・グレネード、チューブにいれたプラスチック爆弾各種をベストのポケットに収め、七・七六ミリ機関銃と二十三ミリグレネード・ランチャー、五ミリレーザーライフルを組み合わせたコンビネーションガンを肩からベルトで吊り下げている。
 これらに加え、輪胴が大人の握りこぶしほどもある五五口径回転式拳銃オーディン1と最大五〇〇〇ボルトのスタン警棒に、戦車の複合装甲も切り裂く特殊合金製のアーミーナイフが標準装備となっている。
 ふもっ! という台詞と敬礼を行うボン太くん達とソキウス達の警護を抜けて入室したビアンに、その場にいた全員の視線が集まる。

 

「待たせたな」
「構わん。主賓の到着を待たねば始まらぬからな」

 

 ビアンに答えたのはマイヤーである。ビアンより十歳近く年上だが、対等な友人、あるいは盟友の様な関係にある。
 これまで連合との小規模な戦いが頻発していた宇宙で、DC宇宙軍の損害が軽微なのは、マイヤーの手腕による所が大きい。
 その場を見渡せば、モニター越しの参加者の姿もあった。
 ヤラファス島に残り、突然の戦傷に混乱する国民をまとめる役を任されたウナトとユウナのセイラン家の親子をはじめ、前オーブ代表ホムラ、ギナとミナの養父であるコトーなどをはじめとしたDCの政治を司る面々。
 北アフリカ共同体をまとめあげ、ジブラルタルから逃げのびたザフトの戦力を吸収し、地球連合勢力である南アフリカ統一機構と交戦を続けている、新西暦世界からの招かれ人バン・バ・チュン。
 切り裂きエドや白鯨ジェーンと共に南米に潜伏し、かつてザフトが秘密裏に行っていた南米独立支援作戦を引き継ぐ形で暗躍し、南アメリカ合衆国系の地球連合軍兵達に呼びかけているローレンス・シュミットである。
 マイヤーの傍らで秘書の様にひっそりとたたずむリリーが、盗聴防止システムの完璧な作動を確認して公私共に慕う上官に細い首を縦に振った。それを確認したマイヤーが口を開く。

 

「さて、今現在我々DCが展開している作戦の内、デザート・クロスとサザン・クロスについてだが、これまでも両作戦の発動時期については幾度も論議を重ねてきた。
 これを行えば今後の戦争スケジュールに多大な影響が出る事は明白であり、同時にそれらを行う戦力が不足していたからだ。
 だが、リオンシリーズの生産とジブラルタルから脱出したザフト軍、旧南米系諸兵の参加が確実とされ、戦力的な目処は整ったと言えるだろう。今後の宇宙での行動も見据え、諸君らの忌憚のない意見を望む」
『我々北アフリカ共同体は現在、ライセノラス級陸上戦艦三隻を中心に、オノゴロから送られてきたリオンシリーズとザフト兵の戦力もあり、戦力的には問題はない状況にあります。ビクトリア・ポートを押さえれば、地球連合の宇宙戦力への補給を断つ事が出来るでしょう』
『我々もバン中将と似た状況にあります。特に元南アメリカ合衆国系の兵達の参加が予想よりも多く、蜂起すればその数はさらに増えるでしょう。エドワード・ハレルソンやジェーン・ヒューストンと言った協力者のネームバリューもあります。総帥のご指示があれば、我らは何時でも叛旗の狼煙を挙げる用意はできております』

 

 褐色の肌にいくつもの傷が走り、まさしく歴戦の闘将と言った風貌のバンと黄金の輝きを零す髪にアイスブルーの瞳が貴族的な気品を湛えたシュミットが、それぞれ雌伏の時には飽いたとばかりに、決意を促す言葉を報告に添える。

 

「しかし、両作戦のどちらかでも行えば連合の目は地上に戻るでしょう。そうすればザフトは戦力を整える時間を得るものの、我々は膨大な連合の地上戦力を一手に引き受けなければならなくなる。
 ザフトに協力を求めてもカーペンタリアからどれほど援軍が出るかどうか、分かったものではない」
「だが、現在地球連合の上層部に食い込んだブルーコスモスの盟主ムルタ・アズラエルはコーディネイター殲滅主義者だ。拝金主義者的な面もあるが、私情を優先してプラントの制圧を優先するのでは?」
「NJCの生産状況次第だろう。それよりも現状、NJCをザフトと連合の両陣営は手にしているが我々の手にはないのは問題があるだろう。核融合炉こそ我々の独占技術だが、NJCによって核分裂炉の封印が解かれた今、我々と連合との国力は開く一方だ」

 

 列席者達から頻繁に意見が提出され、その度に議論は紛糾し白熱していった。最終的な判断はビアンに任されてはいるが、誰もが最善と思える意見を口にし、互いの欠点を指摘する。
 オペレーション『デザート・クロス』は北アフリカ共同体を中心とするバンの勢力が、近隣諸国の反地球連合勢力と連携し、一挙に蜂起してビクトリア・ポートの制圧を目指す作戦だ。
 対してシュミットらが行っている『サザン・クロス』は、地球連合に武力で組み込まれた南アメリカ合衆国の再独立と復権を目指し、パナマのマス・ドライバーの制圧を狙うものである。
 両作戦に向け長い準備の時を掛けた現在、第一の目標であるマス・ドライバーの制圧を可能とするだけの戦力は整っているが、問題はその後だ。
 マス・ドライバーの制圧により、宇宙への補給路を大きく断たれた連合が事態を重く見て、地上敵性勢力の制圧に総力を挙げるのか。はたまたザフト壊滅を優先し、月を中心に集められた宇宙の戦力がプラントを目指すのか。
 それ次第で南米と北アフリカに投入した戦力と時間、資金、人材の行く末が決まり、宇宙での連合、ザフトとの決着にも大きく影響を与える事は火を見るよりも明らかであった。
 ほぼ意見と推測と情報が出尽くした果てに、重々しくビアンが口を開く。

 

「デザート・クロス、サザン・クロスの両作戦の発動を承認する。また、サザン・クロスにはサイレントウルブズを援軍として既に送っている。デザート・クロスにも、オノゴロから出せるだけの機体は送る。
デザート・クロスとサザン・クロスの両作戦は、我々DCの最終オペレーション『SRW』の成否に関わる。バン、シュミット、より一層の奮起を期待する」

 

 肯定と否定、妥協と追従、諸々の感情や思惑を顔の下に隠した参加者達は黙って首肯し、ビアンの言葉に応える二人の強い返事が、室内に響き渡った。オペレーションSRW、それは新西暦世界において白き魔星の侵略者らに対し、地球側が行った決戦の名称であった。
 エアロゲイターと地球側が呼称していた異星からの侵略者の拠点となった直径四十キロメートルに及ぶ巨大な人工衛星『ネビー・イーム』。そしてエアロゲイターとの彼我戦力差六対一という絶望的な戦いに与えられた名前、それこそがSRW――Super Robot Wars。
 偶然か必然か、CE世界における決戦に向けて、DC側が名付けた最終作戦もまた同じ名を冠していた。

 
 

 昔々、そのまたずっと昔から、大地に立つ人々は月を見上げてきた。
 空に広がる青い闇に、燦然と輝く星達の白光と共に降り注ぐ黄金のカーテン。その源たる天空に座す天体。
 ある者は月を天上人の住まう極楽の世界だと言った。
 ある者は神のなれの果てだと言った。
 いずれにせよ、古来人々は陽の光が落ちると共に姿を見せる月の姿に、さまざまな幻想を抱き、夢を見、いつかはそこに辿り着く事を願い、そして叶えた。
 初めて人類の足が月の大地を踏みしめてより幾星霜――かつて人々が焦がれた月の世界には、鋼の街が築かれ人類の繁栄の版図に加えられていた。
 地球連合が月に持つ大規模な基地の一つ、プトレマイオス・クレーターの地下施設の奥深くにある日のある夜、鬼畜の業を嬉々として行う外道の笑い声が木霊していた。
 苛烈な白い人造の電子の灯りが映す影は、形こそ人のそれであったが、揺れ動くそれは時に悪魔の如く禍々しく変わっていた。幼子が見れば、その影に恐怖を覚え、引き付けを起こして両親のいる寝室に掛け込むだろう。
 巨大な格納庫であった。あちこちに設置された照明が闇を追い払い無慈悲な光で照らしだしている。戦艦の建造も可能なのではと思えるほど広く巨大だ。端から端へと渡されたキャットウォークの上に人影が三つ。
 三十初め頃の男、二十代後半と思しい美女、七十代頃と見える老人の三人。
 地球連合を影から牛耳り、コーディネイター殲滅を謳うブルーコスモス盟主ムルタ・アズラエル。
 オウカ・ナギサを始めとした少年少女達の記憶や精神を操作して、有能な兵士へと仕立て上げた外道にして、この世界に転生し若返ったアギラ・セトメ。
 DC副総帥としてビアン死した後に地球連邦打破と世界制覇を狙った野心家であり、そしてアギラも所属していた兵士養成機関スクールを主催した老獪な狂人アードラー・コッホ。
 地球上からのザフトの主戦力の掃討をおおよそ終えて以来、宇宙に上がったアズラエルは今もこうして月に留まり、ザフト、ひいてはプラントに住まうコーディネイター殲滅の為にアズラエル財団の資金力、ブルーコスモス盟主としての政治的影響力を駆使していた。
 今、彼が見上げているソレもまたそういったアズラエルの努力の賜物であった。
 全長百メートル余に及ぶ途方もない鉄巨人だ。地球連合の保有する人型機動兵器に関する全ての技術と、アードラー、アギラ、そして今この場にはいないミタール・ザパトの知識を総動員して生み出された地球連合最強となるはずの機動兵器である。
 動力にはNJCの製造により稼働が可能となった核分裂炉及びTEエンジンを使用、機体素材にはTP装甲と、ミタールが製造に成功した再生機能を有する自律金属細胞ラズナニウムをわずかながら用いている。
 なお、NJCの製造に必要となるベースマテリアルは大変希少で産出量も少なく、大西洋連邦が独占と言う形で入手している。
 現在は地上のライフライン復興の為に優先的に原子炉復活の為に製造されていて、MSの動力用に作られている数はそう多くはない。
 その希少な機動兵器用の小型核分裂炉を惜しみなく投じられた破壊巨人の持つ災厄は以下の通りである。
 両肩と両膝に装備された大型回転衝角『カラドボルグ』四基。
 胸部5000ミリ複列位相エネルギー砲『スーパースキュラ』三門。
 頭部200ミリ短射程エネルギー砲『ツォーン』四門。及び76ミリ対空レーザー近接防御機関砲が機体各所に総数20余。
 また、背部フライトユニットのコンテナには218発の小型ミサイルを内蔵したマイクロミサイルが六基と陽電子破城鎚『ローエングリン』二門。
 更にNJCによって無線使用が可能となった改良型のガンバレル十二基(115ミリレールガン及び57ミリビームカノン各二門ずつ装備)。
 加えて腰部の両サイドには、砲撃時に砲身を展開して使用する470mmターミナス・キャノン二門。
 MSも簡単に握りつぶせそうなほど巨大な両腕の五指は、それぞれが五連装のマニュピレーター型のスプリットビームガンとなっている。
 アークエンジェル級を凌駕する火力と防御能力を有し、戦術レベルを超えた戦略レベルの戦闘能力を誇る本機は本来、一部の上層部の妄想に終わるはずであったが、アギラ、アードラー、ミタールという三人の異邦人達の知識と技術、そしてそれに目を着けたアズラエルの狂執が、夢想のまま眠らせはしなかった。
 対ヴァルシオンクラスの特機との交戦を想定した地球連合製の特機であり、MSと比べてあまりにも巨大なサイズや過剰な武装、投入された最新技術の数々から、どれだけアズラエルがこの機体に情熱を注いでいるかが分かる。
 ガルムレイドに続く地球連合製の二機目、WRXを含めれば三機目となる特機の完成の場に、アズラエル達は集ったのである。
 その特機は四肢が太く全体的に直角的なラインで構成され、力強さを誇示している。背に巨大な鋭角三角形の翼の形をしたスラスターを持ち、頭部はGタイプのそれに近い。
 大きくせり出した肩に装備された巨大な回転衝角は、特機クラスとの近接戦闘か対艦戦闘を想定したものだろう。
 アズラエルの顔には、傍目にも明らかな喜びの笑みが浮かんでいる。隠し通そうとしても湧き起こる喜びを抑えきれないのだろう。ひどく子供じみた、それだけに無邪気で残酷な笑みと映る。
 この男をこうまで喜ばせると言う事は、すなわちコーディネイター達に対する脅威である事は間違いなく、その力が彼らの蹂躙に振われるのは明白であった。

 

「ふふふ、素晴らしい機体が出来上がったじゃないですか! 所で、機体の性能が素晴らしいものである事は分りますが、この機体ちゃんと動きます?」
「当り前じゃ。ソキウスとかいう奴らがおったじゃろう? あやつらの脳髄を機体制御やTEエンジンの出力調整、ガンバレルの制御に用いてあるからの。極端な話、ずぶの素人がコレに乗っても、戦闘用コーディネイター並の戦闘能力を発揮できるわい。
 積んでおいたゲイム・システムも専用に調整したソキウスを使っておるからの。わしの知る限り最高の機体制御システムが出来上がっておる。まあ、機体と人がこれほど融合しているモノは他にあるまいて。
 ラズナニウムの自己修復能力はいまいちじゃが、TP装甲とDCの鹵獲機から解析したエネルギー・フィールドを搭載してあるし、戦艦の主砲が直撃しようが落ちやせんぞ」
「ん~、それは吉報ですね。流石に量産するのは難しいですが、もう二、三機欲しい所ですよ。イングラムに任せてあるWRXとミタール博士のガルムレイドも仕上がりそうですし……そろそろ戦力も充実してきましたネ?」
「討って出させるつもりかの?」
「ストライクダガーや105ダガー、それに温存する予定だったダガーLも使うつもりです。フルボーグ連中も五十は用意できましたしね。数なら、そうですね、ザフトの三倍くらいは用意できていますし、核も配備出来ていますから、そろそろ、ですねェ」

 

 ニタリと粘つくような音を立てて、アズラエルの造りの良い唇が酷薄な形に吊り上がった。
 死刑執行を心待ちにしている執行者とて、これほど殺戮の予感に喜びを覚えはすまい。
 迷いの無い殲滅の意思は、アズラエルの心の奥深くに根を張っているのだ。
 それ自体にはさしたる感慨が無いのか、アギラとアードラーは関心の薄い溜息を一つ吐いただけであった。
 取り敢えず、といった感じでアギラが口を開いた。皺に塗れていた唇は、今は二十代の張りと艶を取り戻し、赤い口紅が良く映えている。

 

「所で、アズラエル理事、こやつの名前はどうするのじゃ? たしか、形式番号だけで正式なコードネームは決めておらんかったの。またぞろ、神話か何かから引っ張ってくるのかえ?」
「そうですねえ、実はもう決めてあるんですよ。ちょっと子供っぽい発想だったんで気が引けていたんですが、アズライール。ぼくの家の姓にもなっていますが、イスラム教における天使ですよ。
 四つの顔と七万本の足、七千を数える翼を持ち、この世の人間と同じ数だけの目と舌を持つと伝えられています。
 この世全ての人間の名が乗った本を持ち、人間に死期が訪れた時、アラーがその名を記した木の葉を落とし、アズライールはそれを読み取り四十日後に魂を抜く。
 アズライールのはばたきは死を告げる別れの音であり、終末のラッパを吹く天使の一柱でもある。
 コーディネイター共に終末を告げる存在、故にアズライールと名付けようかと思いましてね。まあ、多少顕示欲が混じっているのも認めますけドネ」
「それ位の権利はあるじゃろなあ。なにしろ理事の所からの出資金が無かったらコレは完成せんかったからの。とはいえ、そのままだとあんまりじゃろ? 多少捻ってはどうじゃ」
「そうですか? では……アズライールの語尾を変えてアズライガーとでもしておきますか」
「変わっておらんようなものじゃの」

 

 開発者のお墨付きをもらったから、という分ではあるまいが――第一この男の性格ならば、他の誰がどう言おうと自分の意見を通しただろう――アズラエルは嬉々としてアズライガーを見つめ続けた。
 同じ名を持つ男の青い瞳に見つめられ、アズライガーの漆黒の装甲は白い照明の光に黒白のコントラストを描いていた。
 その機体中央部に備え付けられたコックピットの奥、溶液に満たされた水槽状のガラス容器に納められた複数の脳髄の内、機体制御を司るアズライガーの中核とも呼べる脳髄が、人の言葉ともとれるノイズを発していたのを、この場にいた誰もが気がつかなかった。

 

『頭が、頭が……いてえ。許さね……え、あい……つら……』

 

 その脳髄は、現在リュウセイの乗機となったヴァイクルと共にこの世界に転移してきた男――ゲーザ・ハガナーであった。
 アズラエルの手の者に回収され、アードラーのラボにサンプルとして運び込まれたこの男の運命の末路が、この機体制御システムの一環として組み込まれた脳髄の姿であった。
 もはや自分の名さえも忘れ果てたゲーザは、延々と壊れたテープレコーダーの様に絶え間ない痛みと共に増す憎悪のみを思い続けていた。
 誰が、自分を、どうしたのか。それさえも分からぬままに。

 

 
 月の奥深くで、その舞台となる天体の神秘的な輝きに反するように暗く邪悪な笑みが木霊していた頃、WRXチーム母艦ナスカ級高速艦『ドルギラン』とDC所属のアガメムノン級戦闘母艦の姿が、暗礁宙域にあった。
 シン達がグルンガストを始めとする新型機を受領していたのと時刻を等しくしていた時、アルベロらを始めとするクライウルブズの面々と、WRXチームが共同でテストを行っていたのだ。
 プラスパーツを装備し、予定されていた本来の姿となったR-2パワード、R-3パワード、R-GUNパワード。
 更にデス・ホーラーという複数の兵装を詰め込んだウェポンコンテナを、背に装備したR-1と一部のエースに配備されている高性能機メディウス・ロクスが、フォーメーションを組んで虚空を飛んでいた。
 ヴィレッタ・バディム率いるWRXチームの面々である。専用のパイロットスーツに身を包んだイザーク達も、だいぶ機体に慣れた様子で、ヴィレッタが次々と出す指示に従って訓練メニューをこなしている。
 肌の露出がやけに目立ち、白い肌とそれを締め付ける黒い生地の間からむっちりと若い女の肉をはみ出させているルナマリアが、R-2パワードに搭載されているTEエンジンの調整に四苦八苦しながら、ヴィレッタに通信を繋いだ。
調整しながら通信を行う程度の余裕は持てるようになったらしい。

 

「あの、隊長」
「なにかしら? ルナマリア」
「いくら、DCとは軍事同盟を結んでいるからと言って、最重要機密であるRシリーズのテストに同伴させているのは問題があると思うんですけど……」

 

 ルナマリアばかりではなく、レイやシホ、イザークらも口にはしないものの心の中で思っていた事だ。
 ザフトの地球連合との戦争において切り札となるべく開発されているRシリーズの姿を、第三者の目に晒すのは如何なものか? 
 プラスパーツを装備する前には共闘もしているが、かといって今回の様に堂々と晒すのは得策ではあるまい。

 

「それはあちらも承知の上よ。DCの方も新型機のテストを私達と一緒に行っているでしょう? お互い暗黙の了解の上の事よ。それに、WRXの真価はプラスパーツを装備したその先にあるわ」
「じゃあ、腹の探り合いって事ですか?」
「端的に言えばそうなるわね」

 

 ルナマリアの搭乗しているR-2パワードは、太く四角い機体の両肩に対ビームシールドを兼ねる装甲と、背に巨大な五つの砲身が束ねられたハイ・TEランチャーが二門装備されている。
 黙々とフォーメーションの維持をこなしているレイのR-3パワードは、機体の下半身を巨大なコンテナの中に埋め込んだシルエットに変わっている。
 ドラグーン制御による無線誘導小型ミサイルを無数に搭載したミサイル・コンテナの他に、長砲身レーザーキャノン一門が追加されている。フリーダム、ジャスティス専用の追加装備であるミーティアをベースに、R-3用に調整・改良したパーツである。
 小型艦艇クラスの大推力と火力を詰め込んだ機体だけに繊細な機体コントロールの技術を要求される。さしものレイも、慣れぬ機体の把握に四苦八苦しているのだろう。
 シホのR-GUNもプラスパーツが装備され、機体名称にパワードが加えられている。背部に大推力バーニアと両肩に機体全高を上回る長大な砲身をそれぞれ一門ずつ装備し、R-GUNの大火力を効率よく使用できるハイツインランチャーの使用が可能となっている。
 ヴィレッタの言葉に、半分納得半分不信のルナマリアは、気分を切り替えようと先程から沈黙を伴侶にしている銀髪の副隊長について話題を変えた。矛先は同じ露出過剰コスチューム仲間のシホ・ハーネンフースである。

 

「あの、シホさん。なんでジュール副隊長は黙りっぱなしなんです?」
「さあ? あのウェポンコンテナを受領してからやたらと口数が減ったのは確かだけど……」

 

 シホの言う通り、R-1の追加装備としてデス・ホーラーの受領に立ち合ってから、激しやすく語気を荒げる事の多かったイザークが、まるで別人みたいに口数が少なくなり、妙な渋みを醸し出し、親指を立てたり人の頭を撫でたりとボディランゲージを多用するようになっている。
 何か悪いものでも食べたのか、それともイザーク限定で効果を発揮するウィルスにでも感染したのか、と馬鹿らしい推測まで流れる始末である。
 とはいえ生来の直情径行が治るわけもなく、かっとなった時にはいつものイザークなので、チームの皆はあまり気にしていない。
 一部のメンバーには、沈黙を選び少年の青さから大人の錆を醸し出しつつあるイザークが中々に好評である。

 

「ああいうイザーク副隊長も、私は嫌いじゃない、かな」
「ふ~ん。結局シホさんてイザーク副隊長に弱いんですよね」
「!? きき、聞こえてたの!」
「ふふふ、口に出てましたよ。私は副隊長とシホさんは結構お似合いだと思うけどな」
「るるる、ルナマリア!」
「二人とも、それ位にしておきなさい」
「やばっ」
「ヴィレッタ隊長も聞いていたんですか!?」

 

 作戦行動中の私語は厳重に注意しなければならない所だが、こういった気軽さもWRXチームの強さの一つだと考えるヴィレッタは、軽く窘めるに留めた。
 二人が大人しくなったのを確認し、モニターの片隅に向けたヴィレッタの視線の先には、アガメムノン級から発進したクライウルブズの機体の姿があった。アルベロ、レオナ、タスク、テンザン、ユウキ、カーラの六人だ。
 シン達と母艦であるタマハガネをアメノミハシラに残し、ビアンらより先に搬入されていた新型機や装備のテストに出ていた。
 タスクのジガンスクードには新型のEフィールド発生装置とテスラ・ドライブの装備が行われ、アルベロとレオナの搭乗しているガームリオン・カスタムは若干シルエットが以前とは異なっている。
 アルベロのガームリオン・カスタムには追加装甲が装備されていた。連合やザフトのフォルテストラ、アサルト・シュラウドを参考にして開発された増加装甲である。
 胸部、腰部、四肢に装着された装甲はT・ドットアレイを応用した重防御システムの一環であり、Eフィールド発生機構を組み込んである。
 レオナの乗るガームリオン・カスタムは、モルゲンレーテ社に記録されていたエールストライカーのデータから改良・製造されたトライ・ブースターが装備されている。
 ガームリオン・カスタムの背に増設されたバックパックの左右に二基の可動式ユニバーサル・スラスター・ポッドと、大容量のプロペラントタンクを兼ねたテール状出ルム・ブースターを搭載している。
 機動性と加速性は常軌を逸した数値を叩きだすものの、その分扱いは難しくパイロットに掛かる肉体的負担も大きい。
 高い技量を誇るレオナだからこそテストを任された機体である。

 

「トライ・ブースターの調子はどうだ。レオナ」
「多少じゃじゃ馬ではありますが、良い装備です。ただ、やはり乗り手を選んでしまいますけれど」
「まだテスト段階のものだからな。とはいえ、扱いの難しいそいつに乗ってその程度の感想で済むのは、流石は元トロイエ隊のメンバーだけの事はある。
 しかしおれのフルアーマーも重量と推進力のバランスに微妙なずれがある。いっそアーマリオンと同じ方向でガームリオンを改造するよう具申するのもありかもしれんな」

 

 メイン・ディスプレイに表示されている、AI1が分析し随時更新している機体ステータスに目を通しながら、アルベロが片手間作業の要領でレオナと互いの機体の意見を交換した。
 予定していたメニューの九割は消化してあり、後はアメノミハシラに戻っても問題の無いテスト内容となっている。
 増加装甲やトライ・ブースターの他にも、アルベロ、レオナの両機が携行しているオクスタン・ライフルに装填された弾丸のテストも行っていた。
 弾丸一つとっても、いちいちMSクラスの兵器に使用される薬莢を生産していては、もとより乏しい鉱物資源が底を突くのは明白であったから、特殊プラスチックを元にしたプラ薬莢が採用されている。
 射出時の熱で瞬時に蒸発するこのプラ薬莢は即燃性であり、弾頭射出時の銃身内温度は七千度にも達するため即座にガス化し、排莢時に薬莢が詰まる危険性はない。変わりにあまり長く使い続けていると燃えカスがこびり付き、スムーズな装填の妨げになるリスクもある。今回はその平均値を取るメニューも含まれていた。
 他にこのプラスチック薬莢の他にも、弾頭内に更に弾丸を装填したダブルブリッドや粘着溜弾――HESH、成形炸薬――HEAT弾のテストも兼ねている。
 HESH弾やHEAT弾は、元は旧世紀で戦車の複合装甲に対抗するための弾丸を、現在の戦争に合わせ対MS用に改造したものだ。
 既にマドラスやオーブ領海での戦闘でも採用されていたが、今回は炸薬の配合を変えた最新型だ。
 HESH弾の場合は、装甲板内部に衝撃を貫通させ、内部の装備や人員にダメージを与える事で対象の撃破を行うものだ。
 対してHEAT弾は弾頭先端部の凸から内部の炸薬が爆発・噴出し、命中した対象に数万度のジェット噴流として襲い掛かる。
 リアクティブ・アーマーに対して効果は薄いが、幸か不幸かザフト、連合ともにMSサイズでのリアクティブ・アーマーは採用されていないし(強いて言えばフォルテストラやアサルト・シュラウドが該当するか?)、それを打破するための二重タンデム弾頭も開発済みだ。
 HESH弾は、言ってしまえば『硬いだけ』のPS装甲を内側から破壊し、HEAT弾は熱に対する高い耐性を持つPS装甲相手でも効果が期待できる弾丸だ。
 今はダブルブリッド、HESH弾、HEAT弾のローテーションを組んだマガジンを装填してある。
 全機の状態をAI1にモニタリングさせながら、アルベロは、WRXチームの機体にも注意を配っていた。異邦人であるアルベロだからこそ如実に感じ取れる違和感。ヴァルシオンやヴァイクルと同じ、『この世界に有る筈が無い』と感じる雰囲気をRシリーズは持っていた。
 白の中に混じった灰色、青い空の中にぽつんと漂っている黒い雲を見つけた時の様な、目をそらせばそのまま忘れてしまう、そんな些細な違和感に過ぎない。過ぎないが、それは確かに『違う』という認識をアルベロの中に植え付ける。

 

「ザフトにもおれ達同様の死人がいると言う事だろうが、連合にも同じ事は言えるか。サーベラスとガルムレイドとなると、ミタールとエルデ・ミッテ。
ミタールはまだ俗人故に考える事は想像がつくが、エルデ・ミッテは厄介だな。はたして、おれ達と共に死ぬはずだった奴かどうか。貴様はどう推測する、AI1?」
『…………』

 

 AI1は答えない。元より擬似人格などがプログラミングされてはいないから当然かもしれないが、時折アルベロはこのAI1に明確な自我を感じ取る事がある。
 かつての世界で、悪魔の名を冠した機動兵器との戦いの時、調律を行わんとする者との戦いの時、そしてアルベロにとっても生涯最後の戦いとなる筈だったあの時にも、AI1は独自に思考し結論を導き出し、アルベロと共に戦った。
 最後こそエルデ・ミッテの手によって暴走させられたが、AI1は結果的にせよ、戦いを終結させ世界に平和を齎す事を選択した形になる。アルベロと共に数々の戦場に立ち、そこで学んだ何かは、AI1をどのように育て上げたのか?
 かつては行き届き過ぎるAI1のサポートを毛嫌いしていたアルベロも、今は奇妙な関心を、この0と1の列によって構成される人工知能のパートナーに抱いていた。
 アルベロが柄にもない事を考えている間にも、クライウルブズの面々は新たな力を少しでも早く自分のモノとする為に、予定のテストメニューを次々と消化していた。
 アルベロとレオナの新型装備のガームリオンの他には、ユウのラーズアングリフとカーラのランドグリーズの改装が目立つだろう。
 両機とも背のバックパックにテスラ・ドライブとジェットエンジンを搭載した大型ブースターパックを装備し、ラーズとグリーズの欠点であった飛行機能の欠如と機動性の確保の他、長所であった火力と砲撃戦能力の増強が図られている。
 元々、リニアミサイルランチャーや、リニアカノン、マトリクスミサイル、ミサイルファランクスなどをはじめ実弾系の装備が充実していた機種であったが、マドラス戦後にビーム兵器の搭載とテスラ・ドライブの装備を行った『改』タイプと変遷を経て、今回の改装で完成系となる。
 ヘビィリニアライフルを持ち、フォールディングソリッドカノンの砲数を二門に増やし、更に大口径高出力の荷電粒子砲を装備したユウのラーズアングリフ・レイブン。
 オクスタン・ライフルを装備し、二門になったリニアカノンと近距離戦闘に用いる光学迷彩投擲武器である『ステルスブーメラン』を装備したカーラのランドグリーズ・レイブン。
 共に強力なEフィールドとPS装甲の採用に踏み切り、多少のコストには目をつぶってビームコートの実装に至っている。
 この堅固な防御能力に加えてカルケリア・パルス・ティルゲムの装備により機体の追従性が格段に上昇、パイロットの操作にほぼタイム・ラグなしで反応するなど、機体の運動性限界値も向上している。
 ブースターパック自体にもツインリニアカノン、ツインフォールディングソリッドカノンの他にも、350ミリガンランチャーや、ランチャーストライカーの装備であるアグニなどの火器が搭載されている。
 今回のブースターパックの装備に伴う機体各所へのアポジモーターの増設によって強化された機動性・運動性・加速性にも十分に応える高性能機に仕上がっている。
 近接戦闘には弱いという弱点は残しているが、それに対応すべくシザーズ・ナイフの他にも手首にビームサーベルを仕込み、近接防御用の機関砲を胸部や頭部に装備する事で対応する方向を取っている。
 もっとも、この二機に泣きを見るのは整備員だろう。何しろ積載する装備の数が半端ではない。それの補充にどれだけの手間が掛かる事か。
 全身火器まみれの状態は、被弾時の誘爆の危険性が強まったとも言えるが、そこは装備したEフィールドと機体重量と外見に反する高い機動性、パイロットの回避能力に依る形で解決とされている(目を瞑ったとも言う)。

#br  
「数が二倍なら威力も二倍、てね。ラーズとグリーズいい感じだね。ユウ」
「ああ。もともとキャパシティの多い機体だったからな。今回の動力の変換で機体出力にも余裕ができた。それを活かせる改修といっていいだろう」
「あ、でも、折角前より速く飛べる様になったんだから地球の方が良かったかな?」
「なぜだ?」
「だって~、“空はいい……”って、悦に浸りながらユウ言っていたじゃない」
「な!? き、聞いていたのか」
「そりゃもう、ユウの公私共に頼れるパートナーだもん。どんな小言も聞き逃さないよう~」
「……」

 

 ニシシ、とモニター越しに笑うカーラにユウは何も言い返せなかった。
 確かに、空はいい、と呟いたのは紛れもない事実であったし、下手に言い返せば倍になって返ってくるのが、このリルカーラ・ボーグナインという少女なのである。
 とはいえ、シン同様についこの間まで機動兵器のパイロットになるなど夢にも思っていなかったであろうカーラが、ここまで生き抜いて戦火に身を置いている事、そしてエースと呼ばれるまでに実力を高めている事は、否定のしようが無かった。
 ここまで来てしまっては、もうカーラはDCから離れる事は許されまい。
 結局、カーラを軍から抜けるように説得し続けてきたユウの努力は報われず、彼女は血と鋼の戦場に居続けている。
 ほんの、ほんの小さな溜息がユウの唇が零れ落ちた。

 

「ユウ、ひょっとしてあたしの事で負い目感じている?」
「……なぜそう思う?」
「ユウは真面目だからね。あたしの事をずっと気にしてくれているのは分かっていたよ。一応、心配掛けないようにしていたつもりなんだけど、やっぱりユウには分かっちゃっていたんだよね」
「おれはお前のパートナー、だからな」
「初めて、ユウの方からパートナーって言ってくれたね」
「口にしなかっただけだ」
「前から、そう言う風に思っていてくれたって事?」
「……」

 

 モニターの向こうのユウはそっぽを向いていた。心なしか、カーラの視線から逸らした頬はほんの少し赤いようだった。
 まったく、この男は素直じゃないなあ、とカーラの口元には笑みが浮かぶ。もっとムードというものがあるだろうに、慣れない事を口にするからだ。

 

「うう~ん、ユウにそこまで言われちゃったら、あたしも覚悟を決めようかな!」
「なんの覚悟だ?」
「またまたあ、あんなプロポーズしておいて惚けちゃってえ~。ユウはあたしのパートナーなんでしょ~。式はやっぱり六月? 純白のウェディングドレスは憧れだよね」
「ちょっと待て! なぜそんな話になる!? あれは別にそう言う意味ではないぞ!」
「はいはい、ツンデレツンデレ――ちょっと違うかな? まあいいじゃん! ユウとあたしがパートナーってのは変わらないんだし。あ、ユウ、子供は何人欲しい?」
「そうだな、ニホンには一姫二太郎という言葉があるという。やはり三人は……何を言わせる!?」
「うんうん。三人かあ、ユウってなんだかんだでムッツリだよね。でもユウが頑張ってくれるなら、あたしも『色々』頑張るよ。……ポッ」
「口で『ポッ』などと言うな!」
「あー……まる聞こえだぜ。ユウ、カーラ」

 

 と、これはタスクである。タスクの言葉にユウはぴしりと石像の様に固まり、カーラはにたにたと笑いを深くしている。
 どうやら分かっていてやったらしい。どうにもこうにもユウはカーラの尻に敷かれる運命らしかった。
 部隊の特殊性なのか、アルベロ、エペソと厳格な二人が揃っていながらクライウルブズは、実に軍隊らしくない雰囲気の部隊であった。
 精緻極まる――しかし微妙に情けない表情をした石像みたいに固まったまま、なにやらぶつぶつ言い始めたユウを尻目に、タスクはレオナに声をかけていた。背筋を柔らかく撫でられるような猫撫で声である。タスクの頬は緩み鼻の下は伸びていた。

 

「レオナちゃ~ん。おれ達もユウ達にあやかってすとろべりい~な会話をしようぜ」
「一人でしてなさいな。今は任務中だと言う事を忘れているのではなくて」
「いやいや、顎を動かしてないとおれ眠たくなっちゃうからさ。あ、でもレオナちゃんの子守唄なら是非聞かせて欲しいかな」
「……二度と目覚めない子守唄なら聞かせてあげても良くてよ」
「そ、それは勘弁。でもさ、おれとレオナちゃんの愛の結晶が産まれたら普通に聞かせてやってくれよ。やっぱ三人位? おれは最初は女の子がいいかな~」
「な、何を言っているの。不謹慎よ! 自粛しなさい!」
「まあまあ、そう言わず、レオナちゃんは最初の子供は男の子と女の子ならどっちがいい? いやー、きっとおれのユーモアとレオナちゃんの美貌を受け継いだ良い子が生まれるぜ」
「わ、わた、私は……」

 

 口ごもるレオナの言葉の続きは、しかし残念ながらタスクの耳には届かなかった。
 クライウルブズとWRXチームのいる宙域に接近する熱源を、ドルギランとアガメムノン級が捉えたからだ。

 

「接近する大型の熱源? 戦艦クラスか。アルベロ三佐、どうするのかしら?」
「迎撃する。ちょうど実戦のデータが欲しかった所なのでな。そちらはどうだ? ヴィレッタ隊長」
「ええ、こちらも貴方と同意見よ。問題は敵の規模ね。おそらく地球連合だと思うけど」

 

 ヴィレッタのメディウス・ロクスのモニターの、はるか彼方で瞬く光こそが彼らの敵であった。
 一方、ヴィレッタらがレーダーに捉えた敵達もWRXチームの存在に気付いていた。
 イザークの乗るR-1に酷似しているが、背にフィンの様なパーツを数枚装備した赤いR-1と、レイのR-3パワードと似たウェポンキャリアーと合体したR-3パワードのパイロットがそれぞれ口を開いた。

 

「イングラム教官! この前のザフトのWRXチームだよ」
「あのモドキ共かよ。プラスパーツのテスト中だってのに」

 

 まだあどけなさの残る、透き通った高い声に、苛立ちを含んだ男の声が重なった。
 シホの乗るR-GUNパワードと全く同じ機体に乗った男は、ムジカとグレンの言葉を静かに吟味していた。
 ゆるく波打つ青い髪に、怜悧さが伺える端正な顔立ちの青年――WRXチーム隊長イングラム・プリスケン少佐だ。
 黒い生地に赤い装飾と金属製のプレートアーマーのついた特徴的なパイロットスーツに身を包み、最大望遠の中に捉えたザフトWRXチームの機体に視線を送っている。

 

(あちらもRシリーズの開発は予定通りの様だが、今回の遭遇は予定にはなかったな。おれとヴィレッタが引き合ったせいか? それともリュウセイのヴァイクルに搭載したカルケリア・パルス・ティルゲムとT-Linkシステムの力か)

 

 彼らがこの宙域にいたのもまたアルベロらと同様に、新装備のテストを行う為だ。イングラムらの戦力は、WRXチーム四機とリュウセイのヴァイクル、それにカイ・キタムラのデュエル、オルガ・サブナックのカラミティ、シャニ・アンドラスのフォビドゥン、クロト・ブエルのレイダー。
 母艦としてレフィーナ・エンフィールド中佐が艦長を務めるアークエンジェル級ゲヴェルと、WRXチーム母艦である新型輸送艦シルバラードの二隻だ。数でみれば両者の差はほぼ無いと言っていい。
 しばし黙考していたイングラムだったが、ゲヴェル艦橋に通信をつなげ、赤毛の才媛をモニターの向こうに映した。

 

「レフィーナ艦長、既にあちらは戦闘態勢に入っています。迎撃の用意を」
『分かりました。総員第一種戦闘配置、イーゲルシュテルン起動、キタムラ少佐、イングラム少佐は敵MSの迎撃を』
「了解。キタムラ少佐、連合のWRXチームは我々が引き受けます。ガームリオンタイプはそちらに。リュウセイ、お前はキタムラ少佐の指揮下に入れ。ムジカ、グレン、ジョージー、用意は良いな?」
「何時でも行けるよ」
「問題ありません」
「こっちもだぜ。少佐」
「良いだろう。では状況開始」

 

 白光の尾を引いて、イングラムのR-GUNパワードを先頭にムジカ達がイザークら目掛けて動き出す。
 それに続き、緑色の追加装甲を肩に装備したカイのデュエルカスタムも、オルガらの次世代GATシリーズらと肩を並べて動き出す。
 現在、ゲヴェルとドミニオンは月総司令部直下の特務艦隊として通常の指揮系統に属さない独立遊撃部隊の任を与えられている。
 本来、ゲヴェルに配備されているのはスウェンらのストライクなどなのだが、プトレマイオス・クレーター基地で大手軍事企業のアクタイオン・インダストリーによる改修を受けている最中の為、今回はオルガ達がゲヴェルに配属されていた。
 徹底的なチューンが加えられたカイのデュエルに比べ、オルガらのカラミティなどは特別強化は施されておらず以前の仕様のままである。デュエルのコックピットの中、カイは相変わらずきかん気の強い自分の部下達に釘を指していた。
 ブーステッド・マン故にさまざまな人体実験に晒されたシャニ達の人格崩壊は、一応の歯止めがかかり、出会った頃から更に破綻が進んでいる様には見受けられず、そこそこにカイの言う事にも従う。
 カイ個人としては、クロト達を部下として隔たりなく扱ってはいるが、個人的にはブーステッド・マンとそれを生み出した上層部に対しては反吐が出る思いだった。人間を一個の生命として考えず、自分達にとって都合の良い駒の様に利用し弄ぶなど正気の沙汰とは思えない。

 

「オルガ、クロト、シャニ、レフィーナ艦長の指示は聞こえていたな。おれ達はあちらの特機とMSを相手にする。オルガはゲヴェルと連携し砲撃支援に専念しろ。クロト、シャニ、間違ってもお互いを打つような真似はするな。まかり間違ってもそんな真似をしたら容赦せんぞ」
「ち、おれだけ後ろかよ」
「はいはい、少佐の言う通りにするよ」
「……面倒」

 

 三人らしいそれぞれの返事に、こいつらのこう言う所は変わらんなとカイは溜息を吐いた。
 まあ、以前に比べれば艦や基地のクルーとコミュニケーションもとるようになっているし、文句は言ってもカイの言う事には従う以上マシになったと前向きに考えるべきだろう。
 デュエルカスタムのセンサーが、敵機に捕捉された事を告げ、カイの険しい瞳の中にアルベロのフルアーマー・ガームリオンが映る。黒を基調にしたカラーリングに、カイの脳裏にはメンデルで戦ったガームリオン・カスタムの姿が想起された。

 

「あの時の奴か?」

 

 デュエルカスタムの放ったビームを、悠悠とかわしアルベロのFAガームリオンもEモードのオクスタン・ライフルで返礼とばかりに撃ち返す。
 カイの操縦技術に見合うレベルまでチューンされたデュエルカスタムは紙一重で見切り、宇宙に一筋描かれた光の軌跡から外れる。

 

「リュウセイ、お前はヴァイクルで各機の援護を行え! その機体の装備なら可能な筈だ」
「了解!!」

 

 ゲヴェルに曳航されていた白い巨体が、爆発的な推進力で加速し、巨体の内部に積載されている思念による誘導操作兵器『カナフ・スレイブ』を起動させ、数十以上あるそれらを周囲に展開する。
 中央にぽっかりと穴の空いた花弁の様な十字は、リュウセイの思念に従って縦横無尽に乱舞し、戦場を舞い始める。
 ヴァイクルに搭載されていた量子波動エンジンと言った動力機関をはじめ、各種のEOTは地球連合にとって宝に等しい。
 イングラムを始めとした地球連合構成国の中でも極めて優秀とされた技術陣によって解析が進められた本機は、動力が戦艦と同じものに変えられカルケリア・パルス・ティルゲムを、イングラムが複製し改良したT-Linkシステムが搭載されている。
 既に主だった箇所の解析とデータ取りが終了した事もあり、このEOTの塊が実戦に投入されているのだ。

 

「おらおらおらおら、くたばっちまいなあ!!」

 

 猛り吼えるオルガに応えてか、カラミティの背に装備されたシュラークとプラズマサボット・バズーカが立て続けに火を噴いて、Eフィールドを展開しているタスクのジガンスクードに直撃する。

 

「へ、こちとら最強の盾だ。そんなんじゃ落ちないぜ!」
「Eフィールドを展開していては攻撃できないのだから、あまり大口は叩けないのではなくて?」
「そ、そこで突っ込みっすか」

 

 MA形態に変形したクロトのレイダーと砲火を交えながらのレオナだ。
 余裕がある、というよりは思わず口を出してしまったのだろう。
 実際、トライ・ブースターによってレイダーと同等以上の機動性を手に入れたガームリオンTBではあったが、操縦性に難があり、クロトとの戦いは決して余裕のあるものでは無かった。

 

「ターゲットインサイト! 落ちなさい」
「へっ、ちょこまかちょこまか、落ちろっつーの! そら、滅殺!!」

 

 ガームリオンTBの放ったオクスタン・ライフルのビームがレイダーの左可変翼を掠め、レイダーの口部からはツォーンの高エネルギーがガームリオンTBの左脚部の装甲表面を焼く。
 当てられた事への不快感から、絵画に描かれた姫君の様に端正な眉を顰め、レオナの宝石から加工したように煌びやかな瞳は、神話の怪物半鳥半人ハーピーの様な姿のレイダーに静かな怒りを燃やす。

 

「この私に当てた事は褒めてあげても良くてよ!」
「うらああああ!!」

 

 MAからMSへと瞬時に姿を変えたレイダーの右手が振り上げた破砕球ミョルニルをかわし、MSさえ容易く破壊して見せる鉄球に繋がるワイヤーの周囲で螺旋を描きながらオクスタン・ライフルの弾幕を張る。
 TP装甲やPS装甲は多少なりともビームに対する耐性を持っていないではないが、核融合ジェネレーターから供出される膨大なエネルギーが相手では、装甲としての役目は果たせない。クロトもまた正確無比なレオナの射撃に、舌打ちを零しながらレイダーを駆り続けた。

 

「ユウ!」
「こいつはおれに任せろ。お前はカラミティを叩け! あの機体の火力では母艦が沈みかねん」
「分かった。無茶しないでね」
「善処する!」
「うざいよ、お前」

 

 ラーズアングリフ・レイブンの砲火をかわし、フレスベルグやフォルムマイヤーで撃ち返しているのはシャニのフォビドゥンだ。
 ユウのラーズアングリフ・レイブンとシャニのフォビドゥンが激突する中、カーラのランドグリーズ・レイブンは、ユウの指示に従ってカラミティ目掛けてブースターパックの火を噴かす。
 フォビドゥンは最大の特徴である偏向装甲ゲシュマイディッヒ・パンツァーによってビーム兵器に対する絶対的な防御能力と、実体弾に対してはほぼ無敵のTP装甲により、ラーズアングリフ・レイブンの圧倒的な火力に晒されても機体は無事だった。
 加えて、シャニのブーステッド・マンとしての反応速度、肉体的耐久力が、高い機動性も併せ持ったフォビドゥンの性能を引き出し、高い回避能力を発揮している。
 放ったマトリクスミサイルが、中に収納していた無数の小型ミサイルを吐き出し、それはミサイルの雨となってフォビドゥンに降り注ぐ。
 カーキ色の、笠の様な形状をしているゲシュマイディッヒ・パンツァーでは防御できない。
 そのまま突っ込んでも良かったが、着弾の衝撃で偏向機構に問題が起きる可能性も小さくない。
 そう判断したシャニは、ゲシュマイディッヒ・パンツァーに増設された二十ミリ対空防御機関砲四門で迫りくるミサイルを撃ち落としながら、機体を下方に動かし直撃を避ける。
 だが、シャニの考えはそこまでだ。とりあえずミサイルを回避する、で止まり、その後の事を想像するだけの思考力はもう無くしてしまっている。
 だから、フォビドゥンの機体を逃がした先で、ヘビィリニアライフルの弾丸が立て続けに直撃した瞬間、驚きに襲われていた。何の事はない。
 ユウがマトリクスミサイルを使用する前に、ミサイルの雨から敵機が回避可能なコースを設定しておき、そこに予測通りシャニが逃げ込んだため、そこにライフルを打ち込んだだけだ。
 種を明かせばどうと言う事もないのだが、そのどうという事もない事を理解する理解力がシャニには失われて久しい。
 バランスを崩す機体を立て直す間に、更にラーズアングリフ・レイブンからの砲撃は続く。何を考えてこんな重武装にしたのだと、後に連合やザフトの諸兵から呆れられる重武装が次々とシャニのフォビドゥンに襲いかかる。
 時に回避されて虚しく虚空を行き過ぎ、時に機関砲の弾幕で撃ち落とされ、時に直撃するもTP装甲が立ちはだかり致命的なダメージには至らない。

 

「てんめえええ!!」
「機体が砕けるまで撃ち続けるまでだ!」

 
 

「皆苦戦してんな」

 

 ヴァイクルに乗ったリュウセイが、友軍と互角に戦っている敵軍の実力に油断ならぬものを感じ取っていた。
 なにより、メンデルの戦いの時同様に不思議な感覚――共感の様なものが先程からひっきりなしに脳裏に沸き起こっている。
 一体自分の体に何が起こっているのだろう? そんな疑問もまた湧いたが、そんなのは後回しだ。先程から操作しているカナフ・スレイブ達に新たな指示を送る為に、精神の統一を図る。
 それを、彼方から迸った苛烈な光の奔流が遮った。咄嗟に操縦桿を倒し回避行動を取るが、七十メートル以上ある巨体の半分を呑みこんだ光は、回避行動と共に展開された念動フィールドによって阻まれる。
 人間ならば誰もが持つ『念』の力を、とくに強く発現させたリュウセイの念をヴァイクルの、カルケリア・パルス・ティルゲムとT-Linkシステムが増幅し、かすかに翡翠の色を刷いた透明な膜を形成する。それが念動フィールドだ。
 搭乗者の念動の力いかんで出力が変動する事が欠点でもあり長所でもある念動フィールドの防御を貫いたビームであったが、念動フィールドが展開していた時間の間に、既にヴァイクルはビームの軌跡から外れていた。

 

「なんて威力だ。どっから撃って来やがった!? な、ヴァイクルだと!」

 

 コックピットで毒づくリュウセイの目に移ったのは、アガメムノン級から姿を見せた本来は白い装甲に赤い鶏冠の様な頭部の装甲が特徴的な機体であった。自身が乗るヴァイクルと同じ機体。
 ジェニファー・フォンダが搭乗していた半壊状態のヴァイクルである。修理とデータ取りが終わり、エペソから供出されたゼ・バルマリイ帝国のデータを用いている分再現率はこちらの方が上だろう。

 

「な、なんであいつらがヴァイクルを持ってるんだよ!?」
「ほっ、驚いてる場合かっての!」

 

 ヴァイクルのコックピットの中で、慌てふためいている様子があからさまなリュウセイを嘲笑うのはテンザンであった。
 ヴァイクルに搭載されていたカルケリア・パルス・ティルゲムの特性を考えればタスクやレオナ、ユウかカーラの方が望ましかったが、テンザンのたっての希望があり正パイロットにはテンザンが選ばれていた。
 メンデルでの戦いで、リュウセイのヴァイクル一機にユウ達と複数で挑みながら勝てなかった事がよほど尾を引いているらしい。

 

「この間の決着を付けてやるっての!」
「くっ、まずはこいつをどうにかしないとかっ」

 

 メンデルでの戦いでの雪辱(少なくともテンザンはそう感じていた)を果たす為、テンザンは、黄色をメインにしたパーソナルカラーのヴァイクルで、リュウセイのヴァイクル目掛け、無数のカナフ・スレイブを展開させながら猛攻を仕掛けた。
 別世界の因縁が、この世界にも適応されるのか、同じ機体に乗ったこの二人は他者の入る隙の無い激戦の幕を開いた。