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SRW-SEED_ビアンSEED氏_第60話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 22:19:26

ビアンSEED 第六十話 集う剣

 

 シンの乗るグルンガスト飛鳥に通信を送るや否や、気を失って倒れたビアンを医療スタッフに任せ見送ったミナは、ビアンの姿が見えなくなってもしばらくそのまま佇んでいた。
 司令室から脱出したミナ達は、当初の予定であった医療室では無くDC所属のスペースノア級万能戦闘母艦タマハガネにいた。ザフト内部の何者かが仕込んでいた爆弾や刺客とビアンの容体を鑑み、最も安全と判断できる自軍の船へと向かっていたのだ。

 

「ミナ様」

 

 パイロットスーツに着替え終えた三人のソキウス達を代表し、ワン・ソキウスが人間の声と言うには欠落したものが多い声をかけた。それでも以前よりもずっと人間らしさを増している。

 

「分かっている。アウルとスティング、それにステラは?」
「アウル様とスティング様は既に機体に搭乗しています。ステラ様はやや遅れているようですが」
「そうか。兵達にビアンと我々の無事を伝えよ。ただしザフトには極力まだ伝わらぬように」
「了解です。我々は?」
「お前達はフェアリオンでステーションの防衛にあたれ。私はこのままタマハガネに待機する」

 

 ミナの言葉に反論する事の無いソキウス達への指示を手短に終え、ミナはタマハガネの艦橋に足を踏み入れた。何人かのクルーがDC副総帥であるミナの姿に気付き、敬礼するのを手で制し、艦長席のエペソの隣のオブザーバーの椅子に手をかけて足を止める。
 艶やかな光沢が、本物の翡翠を思わせる髪と瞳を持った異星の人造の忠将は、振り向く事はせず冷淡な視線だけでミナを見た。

 

「思わぬ所で鼠に噛まれたな」
「貴様はもう少し労わりの言葉を学べ」
「ふ、出撃させたかと思えばすぐ呼び戻されたのだ。その労を労う言葉が先にあってもよかろう? ……というのはいささか場違いだな。それでビアンの容体はどうなのだ?」
「しばらくは動かせん。タマハガネの防御フィールドをステーション防衛の盾にするつもりだったが、ビアンを運び込んだ以上そうもいかなくなった」
「確かにこの艦の戦闘能力は折り紙つきだがその分狙われやすくもある。ツクヨミや他の艦と言う選択肢は無かったのか?」
「連合でもザフトでも既に単機で艦を沈めるMSも姿を見せ始めている。となると従来の艦艇では万が一の時に対処が遅れる。ザフトの動きにも気を付けなければならぬぞ。直接撃っては来ぬかもしれんが、敵を通す位の事はしかねん」
「ラクス・クラインとアークエンジェルはどうする? 先程から敵対の意思はないと吹聴しているが?」
「火の粉がかかれば払えばよい。それまでは無視して構わぬだろう。最も、シンは自分から挑んだようだな」
「余計と言えば余計な真似か。……各員第一種戦闘配置。湾口から出ると同時にEフィールドを展開。シングウジのジガンスクードに本艦の盾になるよう伝えよ。その間にMS隊を発進させる」

 

 地球連合艦隊の母艦を叩くべく突出したクライウルブズの一部の部隊だったが、彼らは意外な苦戦を強いられていた。周囲のザフトの部隊も苦戦を強いられ、機体の四肢を失ったものや戦闘続行が不可能なダメージを負って後退する者も多い。
 アドバンスドタイプの増加パーツを装備したアルベロは、コックピット付近にオクスタンライフルのEモードをぶち当ててようやく撃墜したレイダーの残骸に、一瞥をくれてからAI1に周囲の状況を報告させる。

 

「第二世代Gとはいえ、核融合炉搭載のガームリオンでここまで手こずるだと? 地球軍め、どんな手品を使った?」

 

 カラミティとの砲撃戦の果てに、ようやく上半身を吹き飛ばして勝利を得たレオナのガームリオン・カスタム・ラーの姿を視界の端に映した。どの陣営でもエースとして通用するレオナの腕前に加えて機体の性能を合わせて考えれば、そうそう苦戦するはずはない。
 レオナと砲火を交えていたカラミティの動きに、アルベロは自分が倒したレイダーとの共通項を見出していた。あまりにも動作が滑らかすぎるのだ。MSは人の形をした極めて精密な機械だ。人の形をしている以上人の人体が可能な動作を模倣する事が出来る。
 人間が出来る事はMSにも出来る、とはMSの操縦訓練を受ける者なら一度は耳にする言葉だが、これはやはり大仰な言葉だ。人型をしているとはいえやはりMSと人間の肉体構造はまるっきり別のモノ。
 OSの補助があるとはいえ数十年間使ってきた生身の肉体と、あくまでもプログラムに沿って稼働する鋼の四肢とでは勝手が違い過ぎる。
 どれだけプログラムに手を入れても、どれだけMSの機体構造を人間のものに近付けるにせよ、現行の技術の限界もあるし、人間と完全なまでに同じ動作を可能にするメリットとデメリットのバランスと言うものもある。
 人間はディンやレイダーの様に自分だけの力で空は飛べないし、宇宙空間でMSの様に体のあちこちから推進剤を噴射させて体の向きを変える事も出来ない。
 人間にはできない事を可能とするのもまたMSならではの拡張性であり、人間の動作を模倣する必要性の有無を左右する要素でもある。
 だが、今アルベロらが相手にしている連合MSのごくわずかな者達は、まるで最初からMSとして生まれた生物の様にごく自然に動作を行っている。
 機械一辺倒ではない人間の介入あればこその、非論理的な直感などによる先読みや動物的な回避行動、はたまた油断や隙といったマイナス要素まで。
 無論、MSの操縦が人間の手で成される以上、アルベロやレオナといったエースクラスでもMSの動作にそれぞれのクセとして良くも悪くも反映されるものだ。だがそれを考慮してなおアルベロが戦う相手達はあまりにも、人間的すぎる動作で戦っている。

 

「こいつらは一体?」

 

 フォルテストラを装備したロングダガーが、ビームサーベルを抜き放ち斬りかかってくるのを、左手で抜き放ったプラズマカッターで弾きながら、アルベロは連合の繰り出した新たな手札に警戒を強めた。
 今、アルベロやレオナ、ジャン・キャリーに苦戦を強いているのは、ジブラルタル攻略戦の折に、初めて実戦に投入された全身義体――フルボーグ達が操るMS部隊だった。脳と脊髄、それらに付随する一部の神経だけを残した最もコンパクトな『ニンゲン』達。
 血と骨と肉と皮とで構成された肉体の代わりに、MSという現代の巨人の肉体を得た人でなしたち。アルベロがあまりに人間的すぎると判断したのもむべなるかな。
 正しく、フルボーグ達にとってMSとは新たな自分達の肉体だったのだ。MSそのものと化したフルボーグ達は人間の肉体の限界を超えた、機械の反応及び機能を生まれ持った生物の如く駆使し、痛みも恐怖も感じる事無く戦場を闊歩しているのだ。
 少数ながらジーベルの艦隊に配備された脳髄だけの姿になり果てた元人間達が、生身の肉体の代償として得た力で、また一機、また一機とジン・ハイマニューバーやゲイツ、エムリオンを撃墜していた。

 
 

 投入されたフルボーグ達の性能は、味方である連合側のパイロット達の注意も引いていた。もっとも、この戦場でそれだけの余裕がある連合側の生身のパイロットは、極わずかだ。
 その極わずかがまとめて三人ほど集められた部隊があった。ガンバレルストライカーを装備した105ダガーで構成された小隊だ。
 使い手を選ぶガンバレルストライカーを自在に操り、MSの操縦そのものに関しても高い技量を誇るパイロットらしく、コーディネイターの操るゲイツやメディウス・ロクスといった最新鋭機を相手にしても互角以上に渡り合うほどであった。
 周囲の敵機を掃討し、モニターの彼方で暴れ狂うフォビドゥンやバスターダガーの姿を見ていたパイロットの一人がおっとりとした声で、驚いているんですよーとアピールする。

 

「うわぁー、見てくださいウィン~。あのフォビドゥン、コーディネイターよりも早く反応してますよー」
「言われなくても分っている。強化人間の類か? ミステル大佐がブルーコスモス過激派のシンパだとは聞いていたが」

 

 ジーベル・ミステル艦隊屈指のエース、グレース・ウリジン少尉とアーウィン・ドースティン少尉である。
 昨年のC.E.71年に任官したばかりのヒヨッコながら高いMS適正が認められ、加えて希少な空間認識能力者である事から、高級機である105ダガー及びガンバレルストライカーを早くに支給され、見事に使いこなして戦果を挙げてきた歴戦の勇士だ。
 延びした口調が特徴の、明るいピンク色の巻髪の若い女性がグレース。オレンジの髪に端正な顔立ちに知性の輝きを宿す青年がアーウィンだ。
 士官学校からの付き合いで何かと縁があり、ナイトメーヘン士官学校を卒業後、同じ基地に配属され、それ以来転属先でも一緒になり、ここまでずっと同じ戦場で戦ってきた仲間でもある。

 

「んーでもぉ~人間が乗っているというよりは~、MSが人間そのものみたいですねえ~」

 

"何を馬鹿な事を。そんな馬鹿な事があってたまるか"と喉まで出かかった言葉を、アーウィンは自分でも知らず飲み込んでいた。
有り得ないとグレースの言葉を否定する自分と、彼女の言う通りあれではまるでMSという生き物のようだ、と感じている自分を理解していたからだ。

 

 おっとりしているように見えてグレースの頭は、普通の人間よりも早く回る。頭の切れが良すぎてかえって、ああいう風に鈍そうに見えてしまっているのを、アーウィンは付き合いの中で理解していた。
 それに誰よりグレースを理解しているのは自分だ、というささやかな自負もある。
 それゆえに、グレースがそう評価するという時点で信憑性はぐんと高まる。

 

(MSが人間そのもの動きをする? 構造上の限界はあるにせよ、そう感じさせられているのは確かだ。では、それを可能にするパイロットは一体何者だ? 無人機ではあるまい。まだそこまで人工知能の発達は及んでいない筈だ。
それとも『人間が乗っている』のではなく、それ以外の形でMSに『組み込まれている』のか? 強化人間達が生体CPUという扱いを受けている以上、それもある……か)

 

 自分の想像が当たってしまっていたなら、あまりの行為の無残さにアーウィンは自軍に対する不信感と嫌悪で心を満たす所だ。だが、今いる場所は戦場だ。そのような推測を確かめるべき所ではない。

 

「……味方としては当てになる。グレース、おれ達はこのまま敵を迎え撃つぞ」
「分かりましたぁ~」
「グレース、アーウィン、新手が来たぞ。北天、ナスカ級一、MS五機だ」
「了解です」
「じゃあ~先制攻撃、行きますぅ~」

 

 三機目のガンバレルダガーのパイロット、"月下の狂犬"モーガン・シュバリエ大尉の一声で、三人はすぐさま迎撃のフォーメーションを組み直す。
 MSの戦略・戦術運用の基礎を組み立てた人物としても知られるモーガンだが、やはり連合内でも希少な空間認識能力者兼エースパイロットとしての腕前は高く買われ、今回はジーベル艦隊のエースの筆頭としてグレースとアーウィンを率いていた。
 既に四十代半ばを過ぎ、初老の域に手が伸びていると言うのにMSを自在に操るエースクラスの腕前を支える身体能力は、ナチュラルとしては極めてまれだ。
 前衛を務めるグレースに続き、アーウィンとモーガンがその後方の左右を固め、三角形の形のフォーメーションで新手に向かう。まずは牽制のライフルで相手を散開させて、とグレースが考えた時、機体のコンピューターがライブラリに照合した敵機を映した。

 

「あらら?」

 

 何時も通りのすっ呆けた声の中に、アーウィンだけが密かに走る緊張を聞き取っていただろう。

 

「大尉~。新手さん、ザフトのRシリーズみたいですうー」
「プリスケン少佐のRシリーズと同一の機体とかいうアレか?」
「はいー。ん? あ、一機未確認の機体がありますねぇ? あ、敵機発砲。回避お願いしますー」
「もう少し緊張感を持って言え!」
「砲撃機、R-2かっ」

 

 上がモーガン、下がアーウィンである。ひょい、と言いたくなるような動作で左に除いた、グレースのガンバレルダガーの向こうから、十条に及ぶターミナス・エナジーの光の槍が、強い輝きを放っていたのだ。
 ω特務艦隊が何度か交戦したというザフトの超高性能機動兵器部隊だ。先頭を走る鋼鉄仕掛けの銃棺"デス・ホーラー"を装備したR-1。続いて下半身をMAと結合したような大型の機体R-3パワード。
 両肩から伸びる超砲身が特徴的なR-GUNパワード。五つの砲身を束ねたハイ・TEランチャーから、余熱を放出しているR-2パワード。
 そして、それらの後方にいる未確認の機体は、Rシリーズの開発に先んじたザフトがようやく完成にこぎつけた、R-GUNパワードに続くRウェポンシリーズ二号機にして、Rシリーズ開発責任者ヴィレッタ・バディム専用機の、R-SWORDパワードであった。
 機体色は白を中心に頭部や肩、脇腹に青い色をあしらい、頭部はR-GUNと同じバイザー状のカメラアイを持っている。機体のシルエットも良く似ておりR-GUNのデータを土台に開発した系列機であるとその外見から推察される。
 ハイ・ツインランチャーの長い砲身の代わりに、両肩から腕よりも長い巨大な片刃を装着している。おそらくそれがメインウェポンに相当するのだろう。
 R-SWORDパワードの主動力であるTEエンジンと核分裂炉のエネルギーを巨大な刃状に形成し、アガメムノン級戦闘空母も一刀両断するツインブレードだ。
 通常はそのまま肩から外して両腕部のアタッチメントに接続して実体剣として使用するか、ターミナスエナジー・ランチャーとして用いる。
 他に頭部に60mm近接防御機関砲二門、背部のメインバックパックに小型のビームキャノン二門を装備する。またWRXチームの指揮官機としての運用も想定されているから通信機能も従来機に比べて大幅に強化されている。
 ベルゼボから出撃しダガータイプの群れを突破したWRXチームとその母艦ドルギランである。
 先程の砲撃の成果が敵機損害ゼロである事を確かめ、TE制御用のDFCスーツに身を包んだ赤毛の少女――ルナマリアは悔しいったらありゃしないと、苛立たしげに呟いた。
 それでもなかなか愛らしいのは、恵まれた才能や外見を『持たされて』生まれたコーディネイターならではか。

 

「ああ~もう! 外れた! 一機位は落とせると思ったのに」
「そう言うな。予想は外れていない。元から当たるとは思っていなかったからな」
「ちょっと、レイ! その言い草はひどいんじゃない?」
「気にするな。おれは気にしない」
「私が気にするっていうの! 前にも言ったでしょう」
「前も狙いを外したからな」

 

 片方だけが子供っぽい言い争いを仲裁したのは、R-GUNパワードのシホ・ハーネンフースだった。社交的で快活な性格のルナマリアと、自分の感情をめったに表に出さないレイのコンビは、何かと言い合う――というよりはルナマリアが一方的に言い詰め寄る――事が多い。
 士官学校からの付き合いの長さからだろう、と周りの面々は思っている。

 

「まあまあ、二人とも。ガンバレルストライカータイプのダガーですね。連合でも数少ない適合者が小隊を組んでいる以上、強敵なんだからあまり油断しないで」
「シホの言う通りだ。数ではおれ達が上だが、そう油断するなよ。すぐに周りから増援が来るぞ」

 

 副隊長格としてそれ相応の責任感が芽生えたイザークも、シホに便乗して二人を諌める。WRXチーム専用のパイロットスーツのバイザーに映る三機のガンバレルダガーは、既にこちらを迎え撃つべくそれぞれが四基、計十二機のガンバレルを展開している。
 実体弾だったメビウス・ゼロのガンバレルと違ってビームを搭載しているから、PS装甲のRシリーズも、そうそう耐久性を当てには出来そうにない。
 もっともザフトの最新技術と、ヴィレッタ考案の先進的な技術を惜しみなく投じたRシリーズだ。動力からしてバッテリーのダガータイプと核動力との差は大きい。
 イザーク自身も、油断をしないよう注意こそしたが、性能で負ける点はないと確信している。後はMSを操るパイロットの技量の勝負だ。
 そして技量ならば負けぬだけの自負がイザークにはある。すでにデス・ホーラーから抜き放った規格外大型自動拳銃ライトヘッドとレフトヘッドの照準は、先頭にいる左肩をピンク色に染めたガンバレルダガー――グレース機に合わせてある。

 

「隊長、仕掛けます!」
「ルナ、レイ、バックアップを。シホ、イザークのファーストアタックと同時に左右に展開しなさい」
「はい」

 

 メディウス・ロクスからR-SWORDパワードに乗り換えたヴィレッタが即座に、必要最低限の指示を出し、こちらも両肩のTEブレードを手に持ちかえ、ランチャーの砲口をモーガン、アーウィン両機に据えていた。
 ターミナス・エナジーの採用にあたりヴィレッタもまたDFCスーツの着用の必要が求められたのだが、こちらは新型のTEエンジンの採用とあって元から着用していた胸元の開いた赤と黒の、体のラインにフィットしたパイロットスーツのままだ。
 これにはむろん、ルナマリア、アクア、シホの三人から猛抗議があったのだが虚しく却下されている。
 なおWRXチームに配属されたアクア・ケントルムだったが、サーベラスのデータと機体の再調整データ取りを行いたいという本国からの要請があり、一足早くプラントに戻っている。
 ガンバレル全十二基とライトレフトの双頭、ツインブレードが一斉に火を噴いたのは同時だった。
 互いの部隊間で指向性を持たされ束ねられたビームが行き交い、それを掻い潜ってヴィレッタとイザークが一気に機体を加速させた。
 すでに周囲の連合のMSがこちらに何機か向かっているのをレーダーで確かめ、ヴィレッタは四方八方から撃ちかけられるガンバレルのビームを回避し続ける。
 接近戦でもっとも威力を発揮する武装を生かす為に、R-SWORDパワードに与えられた加速性能は、核動力機と比べても群を抜く。性能ばかりを追求した仕上がりになったR-SWORDパワードは、それだけパイロットを選ぶ機体になってしまっている。
 正確な狙いを付けてこちらに向かって放たれたライフルの光を繊細な操縦でかわし、零れたビームの粒子が装甲をわずかに焦がす。
 瞬く間に懐近くまで飛び込んだヴィレッタを、上下左右から囲んだガンバレルの十字砲火が妨げた。きりもみ回転をさせ、優雅なバレエの跳躍の様に機体を操作しその火線のすべてを回避してみせる。
 その勢いを殺さぬまま、回転途中で一挙にブースターに火を噴かせ、振り抜いた巨大な刃からターミナス・エナジーが緑に輝く光刃となって伸びた。

 

「ハイ・ツインブレード、デットエンドスラッシュ!」
「きゃあ!?」

 

 延髄に氷の針を差し込まれるような悪寒に突き動かされ、咄嗟に機体を後退させたグレースは、かろうじて光の刃の刃圏から逃れ左手のABシールドを真っ二つにされるだけで済んだ。

 

「あらぁ、シールドが真っ二つですぅ。これは~ちょっとヤバヤバですねー」
「グレース!!」

 

 更にグレース機に迫るツインブレードの二の太刀を、悲鳴にも似た叫びを上げたウィンが、ヴィレッタの真下から二基のガンバレルを回り込ませて割って入る。

 

「ウィン、ありがとうございます~」
「礼は良い。何とか距離を取って闘うんだ」
「は~い。でもやっぱり核で動く機体相手だと、正直厳しいですね~。火力とか機動性とかぜんぜん違いますよ~」
「言っても仕方がないっ、く、グレース落とされるなよ!!」
「はい。ウィンのお嫁さんになるまでは~絶対に死にませんよ~」
「な、なな何を」

 

 グレースの不意を突いた言葉にしどろもどろになったウィンの声は、その途中で断絶した。やはり向こうは向こうで苦戦を強いられているのだろう。グレースは、先ほどから目に見えぬ重圧を伴って襲い来るR-SWORDを見て、おっとりとした顔立ちをほんの少し強張らせた。

 

「う~ん。さっきから何か貴女の考えみたいのが聞こえますね~。超能力に目覚めちゃったんでしょうかあ、私? とにかく、ウィンをお婿さんにするか~お嫁さんになるまで死ねません~。だから、今回はいつもより本気ですよ~」

 

 口調ばかりはそのままに、盾を失って重量が減ったと前向きにとらえ直したグレースは、星でも輝いていそうな大粒の瞳に、似合わぬ鋭い光をきらめかせてR-SWORDへとガンバレルを撃ちかけた。

 

 一方、アーウィンはMSとMAの折衷案みたいな形状のR-3パワードを相手にしていた。
 あの巨体だから近づけばこちらのものだ、と分かってはいるものの、流石にあれだけの機体を任されるだけあってパイロットの力量も高く、機体に搭載された無線誘導式の兵器もあって上手く近づく事が出来ずにいる。

 

「モーガン大尉も手一杯か。グレースをやらせるつもりはないのでな! 悪いが敵に容赦はせんぞ!」

 

 レイの操るR-3パワードはミサイルコンテナから射出した多弾頭ミサイルの雨を、ガンバレルの集中砲火で一つ残らず撃ち落とし、今だ爆煙晴れぬ視界の向こう見えない敵機の影を見たアーウィンは、立て続けに五度ビームライフルの引き金を引いた。
 グレースやモーガンと出会った時から芽生え始めた異常な直感とでもいうものが、レイを前にしていよいよ冴え渡り、グレースが感じているのと同様にレイの思考を手に取る、とまでは行かぬが大筋で感知していた。

 

「くっ。この感覚役に立つと言えば立つが。向こうもか!?」

 

 アーウィンの吐き捨てた通り、グレースやアーウィンよりも先にこのニュータイプ的な感覚に目覚めていたレイは、より繊細に、より詳細にアーウィンの思考を感じ取る。
 機動性で勝るガンバレルダガーの攻撃を回避し、また当たるにせよ損害の低い箇所になるよう機体を操作している。
 手持ち式のレーザーキャノンの反撃の一射が、撃つ前に回避されているのを再確認したレイは、この少年なりに敵に対して戸惑いの様なものを覚えていた。

 

「メンデルの時と同じ……。ラウやムウ・ラ・フラガとはまた違った感覚だな。どちらかと言えばラウに近い。だが、何かが違う。第一ラウは貴様ほど気障ではないぞ!」

 

 アーウィンの思考のどこを感じ取ってそのような思考に辿り着いたのかはレイのみぞ知るが、一層アーウィンの乗るガンバレルダガーへの返礼の光の雨は、その激しさを増した。

 

 そして――

 

 天を覆い尽くす億万の星の輝きを切り裂く銀の弧月。
 闇夜を切り裂きその奥に秘された世界をさらけ出すかの如き蒼の軌跡。
 かたや獅子王の爪牙持ちて全てを切り裂く銀刃。
 かたや星を薙ぎ艦を斬り行く道を阻む者全て斬り捨てる蒼刀。
 折り重なり絡みあい噛み合い鍔競り合い、数えれば遂には三十合目に至った。
 真っ向からの一刀同士が、その触れ合った箇所で雷が迸ったかの様に紫電を迸らせて弾き合う。
 黒い胴に白い鎧を纏った巨神スレードゲルミルの携えたる刃"斬艦刀"を構成する自律金属細胞マシンセルが、そのナノ単位の個々の細胞を斬り裂かれ崩壊する瞬間に放つエネルギーの表れであった。
 崩壊し最後の輝きとして零れる紫電の花を咲かせる"獅子王斬艦刀"もまた、刃の形に形成された液体金属をわずかずつ失いながら、幾度も弧を描き、一筋の矢と成り、風に遊ぶ燕の如く軌跡を描いていた。
 一瞬の煌めきが目に焼き付いて離れぬほどに鋭く、美しくさえある。ただ相手を斬るという行為が技量によって"美しさ"を得るものであったなら、刃を交える両者の技量は正しく達人の域にあり、入神の域に至る階段に足をかけてさえいるだろう。
 互いの振う刃がそれぞれの命を狙った殺人の刃でありながらかくも美しくあるのは、その刃が散らすモノが、命であるが故か。
 青い巨体に右肩に白く『飛鳥』と名人の筆で墨痕淋漓と書かれた装甲を後付けした、巌の如き顔貌を持った超闘士グルンガスト飛鳥が、両手で振りかぶった巨刃獅子王斬艦刀が、獲物に襲い掛かる百獣の王者の迫力で振り下ろされる。
 左眼を覆う装甲が失い、眼球を露わにし傷ついた巨人戦士スレードゲルミルは操者の流儀"不退転"を表す様に王者のひと振りを下方から斬り上げた一刀で受けた。
 二つの刃がぶつかり合う時、艶やかに咲き誇り一瞬の開花の後には無常に散るマシンセルと液体金属の花達。
 スレードゲルミルの胸で、腹で、肩で、額で。グルンガスト飛鳥の首で、脇腹で、心臓で。ぶつかり合う刃の一瞬の交差の刹那のみ咲き誇る花達は、いくつもいくつも生まれては斬り結ぶ巨人たちを彩り続けている。

 

「ちぇえええーーーーいい!!」
「ぬぅおおおお!!」

 

 鏡に映したように互いに右に流した斬艦の刃を振り抜く一対の剣神共。神魔の争いとして語るに不足なしとさえ見える。
 人の足が月の大地を踏みしめ宇宙に人造の世界を作り出し、そして人型の巨人を造り出してなお争い合う人間の業の深さよ。
 しかし、しかし、生命に死を与える放射線に満ちた暗黒の世界宇宙で繰り広げられる剣撃を見よ。剣舞に見惚れよ。剣光を恐れよ。刃の軋りを聞け。斬り結んでは離れる剣達の憎悪の歌を聞け。
 片時も離さず絡み合う両者の視線の苛烈さに目を焼かれよ。
 無音の世界を震わせる巨神達の雄たけびに耳を破られるがいい。
 漆黒の虚無を満たす煉獄の様な闘争の気配に血肉を滾らせよ。
 そして、訪れる結末をただ目して受け入れるがいい。

 

「ウォーーーーダンンン!!」
「シン・アスカァ!!」

 

 巨人が手にした刃の代わりに操縦桿を握りしめ、虚空を踏み抜く足の代わりにペダルを踏みこみ、数十、数百メートルの空間をゼロに変えるべく巨人の背で爆発するブースターの炎。
 なにより機体越しにも世界に向けて放射される両者の心の叫びよ、魂の咆哮よ。何故ここまで昂るのか、何故ここまで我を忘れ剣に没入するのか、何故ここまで二人は決着に拘るのか。
 二人にも分るまい。二人でも分からない。ただただが、刃に心を没し、機体に自らの血肉を同一化させ、精神そのものを鋭く研ぎ澄ましている。その先に何があるかも分からず、どちらかの、あるいは二人の死だけが待っているのかもしれぬと言うのに。
 すれ違った両者は雷光の速度で振り返り、手にした刃を右蜻蛉に構える。二振りの斬艦刀は緩やかな速度で半円を描き、静謐の中で止まる。
 途端世界は静寂に閉ざされる。ウォーダン・ユミルにとって、シン・アスカにとって世界とは刃をかわし合うわずかな空間のみへと変わっていた。いや、剣を握る自分と剣を握る眼前の敵のたった二つの存在だけだろう。
 ビアン・ゾルダークもラクス・ラクインもステラ・ルーシェもククルも誰も彼もが二人の精神から霞のように輪郭を溶かし、消え果てていた。
 目に映るのは互いの姿のみ。感じ取るのは確かに手に分身たる機体が手に持った刃の重み。そして――"斬る"というもはや全身の血流に乗って流れていてもおかしくはない超濃密な一念。
 斬った後の事など知らぬ。何故斬るのかも知らぬ。何故斬らなければならないのかも知らぬ。何故斬りたいと思っているのかも知らぬ。知る必要も無く、知らずにおいてもまた支障なく、故に二人は互いの存在と刃のみに意識を注ぐ。
 注いで込めて念じて、遂には両者そのものが斬るという人型の概念へと昇華される。
 今しか思慮に置かぬ巨神の争いに人々は何を思う?
 詩人は一行の詩にいかなる物語を紡ぐだろう。
 画家は一筆に己の芸術の全てを込めて争い合う巨人の姿を描くだろう。
 楽士は手にした楽器の一音で奏でるべき音の選定に、そして如何に弾けば良いのかに眠れぬ夜を重ねるだろう。
 彫刻家はささいな指の角度の違いも許さぬ厳しさで岩を削り土を捏ね木を彫り、魂に刻印した巨神の争いを全身全霊を込めた終生の策として残すべく寝食を忘れ果てるだろう。

 

「けぇえああ!!」
「ぬん!」

 

 びょう、と風切る轟音が顔を叩く一刀が足を止めた両者の間で振われた。びしりとグルンガスト飛鳥の鼻筋から左頬に刻まれる横一門字。頬を掠めた斬艦刀の、その切っ先わずか一ミリの仕業である。
 VG合金を切り裂いた一ミリの切っ先の斬痕からゆっくりと溢れるのは黒血。熱く迸る人間の鮮血の代わりに流れる機械の血、オイルであった。
 逞しい胴体と頭を繋ぐ太い首の喉にぱっくりと開いた傷。魔女の爪が着けた後の様に妖しく開いた一筋の傷は、獅子王斬艦刀の一太刀がわずかに通り過ぎた跡。ぱらぱらと薄く剥がれるのは、機能を完全に失ったマシンセル達。
 鮮血の代わりにオイルを。
 生皮の代わりにマシンセルを。
 互いの一刀が与えた刻印はただそれきり。
 刃を振う度にTGCジョイントによって数百トンの負荷に耐えるグルンガスト系列の両機の間接は、断末魔に似た悲鳴を上げる。たった一刃が暴れ狂えばその刃の振われた圏内に何物も残らぬは斬艦刀。連なる刃の無尽さ軽妙さに凄絶な鋭さを伴う疾風は、獅子王斬艦刀。
 五十を超える斬撃の宴の中、ウォーダンはシン・アスカへの賞賛をより強いものへと変えていた。
 分る。刃を交える度に分かる。右袈裟の一刀を斬艦刀で受け流し、つい数合前の刃よりもさらに重くなった一撃に感嘆の溜息を堪える。
 さっきよりも速い、前の一刀よりも重い、おお鋭さがさらに増している。まだ、まだ、まだ強くなるのか、まだ成長するのか、まだ高みを目指すのか。
 かつては全身全霊を込めねば振るえなかった一刀限りの刃が、今は無数の刃全てとなり、スレードゲルミルに襲いかかっている。
 刃をかわし合う中で如実に感じ取れるシン・アスカの成長が、ウォーダンの『心』をたまらなくさせる。我が子の成長を喜ぶ親の様に。弟を見守る兄の様に。弟子を慈しむ師匠の様に。
 ああ、違う。そうではない、もう半歩踏み込むのだ。そう、そうだ。む、それは見事、しかし左肩を捩じるのが早い。もうコンマ二秒、堪えるのだ。そうだ。それでいい、シン・アスカ。お前はまだまだ強くなる!!

 

「チェストオオ!!」
「ちぃ、くそ!」

 

 歯を食い縛りスレードゲルミルの全重量を機体関節の捩りと捻りを駆使して乗せた大上段からの振り下ろしを、獅子王斬艦刀の刃を滑らせるも、威力の全てを殺す事叶わず退かぬと決めた足を、二歩退いてしまう。
 シン・アスカもまたウォーダン・ユミルの成長を感じ取っていた。それに対して強敵を剣を交える事の剣士としての喜びは覚えても、親や兄弟の様な歓喜は覚えていないのが二人の違いだ。
 ウォーダン・ユミルは、ウォーダンが存在した本来の世界に置いて高名な軍人であるゼンガー・ゾンボルトの人格・肉体データを元にして製造された人造人間だ。
 人間が生まれ備える血肉の代わりに人工筋肉や、耐G耐弾耐衝撃性など人間のものとは比較にならぬ耐久性を持つ肉体に、人為的に設けられた神経群は人間の限界を超えた速度で反応を可能とする。
 そしてなにより従来の人間――天才と呼ばれる者達も凌駕する超高演算機能を持った電子頭脳がある。ウォーダンを生み出した製作者の趣味から人間の情緒を発芽する可能性を持たされたために、機能に不安定なものこそ持っているがその学習能力は人間の比ではない。
 自我を確立しながらも確立できなかったと意気消沈し、しかし守るべき人を託した安堵の果てに辿り着いたこの世界で、今その学習能力を発露しシン・アスカとの死合いで能力を最大に機能させる。
 シンの一太刀を学習し自らの機能に反映させ、ウォーダンがスレードゲルミルを通じて繰り出す刃は振われる度に精密さを増し、鋭さを増し、破壊力を増し、恐るべき魔剣へ、抗う術無き超絶の一刀へと進化する。
 生身と人造の人間と。出会うはずの無かった一人と一体は刃を交える度に成長し互いを学習し振う剣技を進歩させ、いずれは『進化』の領域へと辿り着くだろう。
 幼い剣士と人造の剣士との出会いは、運命さえ思わせる唯一無二の出会いだった。

 

(我が半身スレードゲルミルよ。我が魂斬艦刀よ。今少し、今少し堪えてくれ。今この決着が尽きるまで、代償に我が命の火が絶えるとも、それまでは!!)

 

 悲鳴を上げる半身と魂たる刃に願いながらウォーダンは斬艦刀を振るい続ける。ウォーダンの愛機たるスレードゲルミルは、こちら側の世界に転移する以前に負った傷の大部分はそのままだ。
 頭部と頭部の二か所のマシンセル制御機能は失われたまま。今手に握る斬艦刀を形成すマシンセルだけが数少ない正常に機能する部位であった。
 元となったグルンガスト参式のTGCジョイントやプラズマ・リアクターなどの性能もかろうじて機能してはいるが、本来の機体性能と比較すれば、今のスレードゲルミルは目も当てられぬほど性能を落としている。
 斬艦刀究極の一太刀"星薙ぎの太刀"も本来の威力で振るえるのは、よくて一撃。二撃目はあるまい。
 それでもなおこの世界では核動力MSを上回る超絶の兵器足り得たが、ジャスティス・トロンベ、ガームリオン・カスタム飛鳥との連戦、更にイーグレット・フェフの失踪により調整不足と悪条件が重なり、メンデルでの戦闘時からさらに性能を劣化させていた。
 もし、ウォーダンの力量がラクスのエターナル強奪時と変わらぬものであったなら、成長し続けるシンの振るった獅子王斬艦刀の刃を、一度二度は受けていただろう。
 そうならずにいるのは、シン・アスカと同等以上に成長するウォーダンの性能に依る所が大きい。

 

(シン・アスカよ。幼くも雄々しき剣士よ。我が全霊を持って貴様への礼とする!)

 

 右胴を薙ぎ払うべく斬艦刀は剣の神に愛された無双の剣士の一刀と化して迸る。

 

(ごめんなグルンガスト、獅子王斬艦刀。……おれが未熟なばっかりにお前達に迷惑かけた。でも、もう目は覚めた。
おれの所為で負けた飛鳥、おれの所為で折れたシシオウブレードと同じ様な事はもうごめんだ! あんな思いはもうしたくない。お前達にはさせたくない。だから……)

 

「行くぞ『飛鳥』ッ、吼えろ獅子王斬艦刀ッッ!! おれの全てでお前達と一緒に、あいつに、ウォーダン・ユミルとスレードゲルミルに」

 

 右胴へと迫る蒼い稲光の如き刃を純銀の刃で受け止め、シンはウォーダンの一刀の勢いをそのまま利用し機体を左に流し、装甲の軋る音を飛鳥の機体越しに聞きながら雪崩の如き重圧を持って襲い来た刃を受け流して見せる。
 既にシンの赤い瞳は薄闇の幕を下ろし、思考の全てが冴え渡って全細胞に至るまで自分の意識が清水の用に染み渡り、肉体の全てがシンの精神の支配下にある事が分かる。
 脳裏で弾ける種と波紋を挙げる水面のイメージが何時浮かんだのかは覚えていない。

 

「勝つ!!!」

 

 受け流したまま右後方に流れた刃を引き戻し、流れる刃はそのまま両手で握りしめたまま天を指して止まる。流された斬艦刀は地上であったならば大地深くまで埋没させていただろう刃をぴたりと停止させ、手首を返す。
 一瞬にも満たぬ時が凍てつく。
 それは二人の時間的感覚の錯覚。万分の一秒が一秒にも十秒にも一分にも感じられる。二人は止まった互いの刃をはっきりと視認し、それが動く虚の瞬間も認めた。
 後に思い返しても、いつ自分が刃を振い、相手が振るったのか思い出せぬほどの神速をなんと表せば良い? 風か、雷か、光か、それともやはり神速か。
 それはウォーダン・ユミル最大の怨敵宿敵の振う至高の一刀、雲耀の位まで届くかと見える刃。
 かたや星ごと立ちはだかる敵の全てを薙ぎ払う光雷の太刀さえも断ちかねぬ、ウォーダン・ユミル全霊の一刀。
 真っ向からの激突。世界を震わせる轟音さえ立ててもおかしくないはずの激突は、しかし刃を握る両者の姿だけであった。コマ落としのように刃を構えていた両者が、今はその刃を噛み合わせている姿へと変わる。
 剛剣と轟剣の激突の静謐は、しかしその激突が虚弱であると言うのではなく、むしろその逆を意味するものであった。
 刃を振う二人の技量と気迫の相乗効果が、刃に触れる者以外への力の伝播を防ぎ切り、余計な破壊を生みださぬのだ。それこそ、がらんどうの空間に衝撃さえ逃がさぬほどの。
 ばぎりと歯を砕けんばかりに噛み締めるグルンガスト飛鳥とスレードゲルミル。
 別々の世界で生まれた兄弟とも言える二機の巨人達は、まさしく主そのものと化して存在の全てを賭けてなお物足りぬと戦鬼の形相で、しかしどこか荘厳な雰囲気さえ伴って飽くなき激突を続ける。
 退かぬ。断じて退かぬ。命尽きて刃折れ、魂朽ちてなお退かぬ。それほどの決意。壮絶な意地。絶対的な信念。
 ぶつかり欠損した刃を互いの斬艦刀に食い込ませ、じり、じり、と獅子王斬艦刀が斬艦刀に食い込み、斬艦刀が獅子王斬艦刀に斬り込んで行く。
 退かぬ、退けぬ。しかしこのままでは千日手か。退くという選択肢があり得ぬならば、このまま押し切るのみ!
 奇しくも、いや、必然的に両者の思考は同じ所へと帰結する。
 斬り込みあう刃を互いに跳ね上げ、二振りの斬艦刀は両機の頭を超えて切っ先が背中に流れる。胸を張り、両足を根が張ったかの如く広げ、型も何もない両手で握った刃を振り下ろす体勢に変わる。
 いっそ原始的なまでの構え。だが、これではどちらかが生き残るという結果はあるまい。グルンガスト飛鳥を、あるいはスレードゲルミルをどちらの刃が真っ二つに斬り裂いても、斬られた方も死の使いを迎える最後の瞬間に残る力を使い果たし、相手を斬り裂くだろう。
 そう、相討ちしかあり得ぬ。どちらかが生き残るなど有り得ぬのだ。ここまでいたれば二機と二人の骸を晒す以外の未来などあるものか。

 

「一刀……」
「一意……」
「両断!!!」
「専心!!!」

 

 グルンガスト飛鳥とスレードゲルミルと、武神の介入も許さぬ両者必滅の一刀を、しかし許さぬ魔剣が一振り。あるいは、両者の喪失を憂いた武の神、剣の神が遣わした使者であったか。
 見よ。活目して見よ。噛み合った獅子王斬艦刀と斬艦刀を、下方から抑えるあまりに細く、惚れ惚れするほどに優美な弧を描く一本の刀を。獅子王斬艦刀と酷似した美しい刃紋を持った、銀の刃を。
 かつてガームリオン・カスタム飛鳥が手にしていたのと同じ名を持つ業物。シンの手から失われたシシオウブレードであった。
 シンとウォーダンの意識の外から介入した異物は――

 

「無明!? あんた、ムラタかっ」
「ふん、随分……面白い事になっているな」

 

 赤胴色の機体、武者風の追加装甲と増設されたスラスターとブースター。グルンガスト飛鳥とスレードゲルミルと比べればあまりに矮小なガーリオン・カスタム無明。
 だが見よ。柄尻を左手で握り、斬り上げたシシオウブレードの刃で二振りの斬艦刀を抑える神業とも魔技ともいうべき、途方も無い所業を。
 誰知ろうか。ウォーダンを倒したゼンガー・ゾンボルトの駆るオンリーワン特機ダイゼンガーと、ガーリオン・カスタム無明で互角以上に渡り合った男がムラタであると。
 正確に言えばその『ムラタ』とCE世界に転移してきた『ムラタ』は別人であるが、その力量に置いて遜色はないようだ。
 マルキオ導師の使いと出会い、ラクスへの助力を依頼されたムラタであった。

 

「ゼンガー……ではなく、ウォーダン・ユミルだったか。貴様、ラクスの剣なのだろう? あまり頭に血を昇らせぬ事だな。」

 

 そういう間も、噛み合う三刃毛筋ほども動かない。機体の馬力では明らかに劣る無明で互角に抗しているのは、ムラタの技量がシンとウォーダンの二人を上回ると言う事の証明か。

 

「ムラタ、あんた……。今度はラクス・クラインに力を貸すのか?」
「傭兵稼業の常だ。昨日の味方が今日の敵、今日の敵が明日の味方、といった具合にな」
「おれは何も聞いていないが?」

 

 隙あらば何時でも必殺の刃を振うウォーダンだ。ムラタが通信を繋ぎ、ゼンガー・ゾンボルトそのままのウォーダンの顔を見る。

 

「後で確認しろ。さて、このままでは二対一だが、貴様らの死合いを見物していると、余計な横やりとしか思えず参っておるわ。貴様らの思うままに死合わせるか、依頼を遵守してラクス・クラインの戦力を守る事を選ぶべきか……」
「っ」

 

 地球圏脱出の宇宙船へ改造されたKCGを巡る戦いで、ムラタの狂気的なまでの剣への渇望を知る故に、シンはムラタの口にする葛藤が本当だろうとは思う。だが、この状況の危険さを理解する。
 ウォーダンとの一対一の状況とて勝機が見えぬ熾烈な戦いだと言うのに、ここにきてこの魔剣ムラタが加わるとは。

 

「さて、どうしたものか」
「では……」

 

 含み笑いと共に唸るように、実に楽しそうに言うムラタを、シンの良く知る声が遮った。同時に、ムラタの顔に浮かぶ歓喜の波、思慮外の朗報への歓迎の思念。
 鋼の機体に涼やかさえ湛え、コックピットシートに座し浮かべる微笑さえシンには見える。その人は

 

「二対二、ではいかがです?」
「くはは、忘れておったわ。貴様が居たなあ!! ゼオルート!」
「いや、持ち場を離れるのはまずいかな、とは思ったんですが。これは少し見過ごせそうにもありませんでしたから」

 

 剣の皇帝――剣皇と称えられし異世界屈指の大剣士、参戦。