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SRW-SEED_ビアンSEED氏_第62話

Last-modified: 2009-03-16 (月) 22:10:32

ビアンSEED 第六十二話  『凶鳥の主』

 

 ザフト所有の中継基地であるベルゼボを襲った地球連合艦隊は、当初三十隻余りと観測されていたが、これに加えて近辺に散在していた連合艦隊がわずかずつ姿を見せ、難攻不落の一つであったベルゼボがそれなりに苦戦している現状に、意気揚々と部隊を出撃させていた。
 ラクス・クライン一党とアークエンジェル・旧オーブ宇宙軍離反艦隊の合同部隊が、ザフトからすれば意図不明のまま助力してはいたが、いかんせん倍以上だった物量が三倍近くになり、防衛網をくぐり抜ける連合の部隊の姿も見受けられた。
 基地司令の暗殺及び同盟勢力であるディバイン・クルセイダーズ総帥ビアン・ゾルダークならびに副総帥ロンド・ミナ・サハクの負傷と、最悪のタイミングで起きた最悪一歩手前の事態に、ただでさえ指揮系統に関して、その軍事組織的構成から欠陥を抱えるザフトは、本来の能力を発揮できずにいた事も大きい。
 これに対して、ベルゼボから脱出しスペースノア級万能戦闘母艦タマハガネに移ったミナ副総帥と同艦艦長エペソ・ジュデッカ・ゴッツォ一佐が指揮を取るDCが、勇猛果敢に連合の大部隊との戦線を支えていた。
 主戦場を離れ、熱くなりすぎて優先すべき目的を忘れてしまったシンとゼオルートが抜けた穴は、忌々しいほどに大きく、特に連合艦達とベルゼボとの中間地点で見境なく大暴れしていたグルンガスト飛鳥の不在は、ジガンスクードと数機のエムリオンを直衛にしているだけのタマハガネに、相当数の敵機を取り付かせていた。
 四角や三角のブロックを組み合わせてできたような、単純な造りながら七〇メートル超の巨躯を誇るジガンスクードは、地球圏最強の盾の二つ名にふさわしい極めて強力かつ広域エネルギー・フィールドで脆弱なベルゼボやタマハガネを守り続けている。
 時に胸部の逆三角形のパーツから放つ高出力の光学兵器ギガワイドブラスターで二機、三機と纏めて敵機を撃墜し、続々と姿を見せるてん豪の部隊を牽制していた。
 そのジガンスクードのコックピットの中、パイロット適性検査によって不適応とされながらも、不屈の根性と幾分かの幸運で見事ジガンスクードの正パイロットに選ばれた少年――タスク・シングウジは、どこかで油を売っているシンとゼオルートに何とかコンタクトを取ろうと通信を試みていたが、今に至るまで報われていなかった。

 

 「シンの奴、どこで油売ってんだあ? ゼノサキス一尉もどっかいっちまうしよ。タマハガネとジガンのE・フィールドだっていつまでも絶対無敵の盾ってわけじゃないんだぜ!?」

 

 とタスクが愚痴る間も、タマハガネは船体各所にある近接防御用のレーザー砲塔と、対空爆雷を休む事無く稼働させ、主力兵装である連装衝撃砲及び副砲も間断なく連射されている。

 

 『ごめん! 何機かそっちに抜けちゃった』
 「合点承知!」

 

 タマハガネやジガンスクードよりも前に出て、ハリネズミみたいに武装を満載したラーズラングリフ・レイブンとランドグリーズ・レイブンに乗ったユウとカーラが、圧倒的な二機の火力を持っても抑えきれなかった連合の部隊が、向かった事を告げた。
 増加装備であるレイブンを装着した二機の火力は、バスターダガー一個小隊と同等かそれ以上とも言われているが、本大戦でも五指に入る火力を持って尚尽き止まぬ連合の物量はそれ自体が一種の兵器であり武器だ。
 ラーズアングリフ・レイブンとランドグリーズ・レイブンの弾も直に撃ち尽くすだろう。搭載する火力が圧倒的な分、その補充には時間が掛かる。ローテーションを組んで補充をしているだろうが、それでも片方が抜けた穴はかなり大きくなっている。

 

 「はやく本隊を叩いてくれよ~、レオナちゃん」

 

 タスクもまた襲い来るストライクダガーやコスモグラスパー、メビウスと言ったMA・MSの編隊からの一斉射撃を相棒の防御能力を頼みに防ぎ続けていた。

 

 「受けるばっかりだと思うなよ!」

 

 ガシャッと宇宙では聞こえぬ音を立てて、ジガンの両脚部側面、両肩後部、背部にそれぞれ急ごしらえで装備されたミサイルコンテナが開き、内蔵された無数のミサイル群が白い尾をひいて虚空の闇に乱れ飛ぶ。
 MSの四倍近い巨体に合わせて搭載されたミサイルの数は、タスクの視界を一杯に埋めるほどの物量で、防衛線を突破し来た連合のパイロット達を熱烈に労った。
 数珠の様に連なるオレンジ色の爆発の光は、無数に散華する命の数と等しかった。が、先を行く友軍の犠牲を無駄にすまいと迫る連合の後続部隊が、その炎の世界を突破し、ジガンスクードにビームの雨を降り注がせた。

 

 「やばっ!?」

 

 E・フィールドを展開し、大部分のビームは防ぐが数発のビームとミサイルの直撃を受けてジガンの巨体が大きく揺らいだ。並のMSなら二、三機は落ちてもおかしくない集中砲火に耐えて見せたのは、さすがジガンスクードと言うべきだろう。
 揺れる視界の彼方に映るダガーLに、反撃の一打を加えるべくタイミングを見計らっていたタスクの視界の中で、無数の小さな何かが黄金の軌跡を幾重にも描いたと気付いた時、そのダガーL達がすべて爆発した。
 乱れ飛ぶ金色から放たれた緑色のビームが、次々とダガーLやストライクダガー達の装甲を貫き、無残な残骸へと変えて行く。
 タマハガネから緊急出撃した金色の機体が、手に携えたオクスタンライフルから二種の弾丸を放ちながら、迫るMSの群れへと踊り込んだ。その機体の名をタスクが呼ぶ。

 

 「アカツキ――スティングか!」
 「待たせたな」

 

 ビアンの無事を確保し、心に余裕が戻ったのか、いつもと変わらぬ落ち着いたスティングの声が返ってきた。タスクが見た金色の軌跡は、連合のガンバレルを改良したDC初の遠隔操作兵器『ヤサカニ』のものだ。
 この上なく派手な色彩で目立つ機体をDCの新型と認めた残りの敵が、手にしたビームライフルの照準を合わせ、そろって引き金を引いた。十分に余裕を持って対処できる筈の射撃を、スティングは敢えて回避せずにアカツキに着弾させた。
 次の瞬間に起こった事は、アカツキの装甲の特性を知るタスクからしてもやはり信じ難いものだった。アカツキの金色の装甲を緑にビームが染めた、と見えたのと同時に、そのビームが全て射撃手であるMSへと弾き返されたのだ。
 光の速度で放たれたビームが同じ速度で返された時、射手にはそれを防ぐ手立てはなく、アカツキに命中したビームの数だけMSが一斉に爆発を伴いながら四散した。
 アカツキの金色の装甲に施されたミラーコーティングが可能とする反則的な現象であった。MS程度のビームライフルならほぼ確実に反射し、より強力な戦艦の主砲クラスでも反射は無理だが、ビームを弾いて威力を軽減させることは可能ときている。
 着弾の衝撃は殺せないし、当たる度に装甲が劣化するのもまた事実であるから、このアカツキの、ビームに対して無敵と言っていい装甲も、あくまで時間制限といくつかの条件の上に成り立つものではある。
 アカツキの背から射出されたヤサカニパックが、本体のアカツキと連動して残るMS部隊へと銃口を向ける。ビームを反射するという事態に動揺が広がってはいたが、中には携行していたバズーカやビームサーベルに持ち変えるものもわずかながらいた。

 

 「悪いな。おれだけ目立つと後でうるさい奴がいるんだよ」

 

 アカツキへとの対処に武装を変えたMS達には目を向けるだけで、スティングは静かにそう呟いた。後でうるさいと言うのは無論……

 

 「ブレイクチャーーージイィイイーーーーー!」

 

 アウルの駆るナイトガーリオンが、主兵装であるインパクトランスの外装を取り払い、ブレイクフィールドを形成してそのMS群に真っ向から突撃したのだ。大推力のブースターと強固なブレイクフィールドの相乗効果で、激突された端から微塵に砕け散って行く。
 いっそ哀れなまでの圧倒的な力の差での蹂躙であった。目の端に着いた機体全てを暴虐の突撃で破壊しつくしたアウルが、機体を停止させる。
 蜂の臀部の様なミサイルランチャーに、蟹や海老の鋏に似た脚部、刃の先端の様に突き出た両肩、騎士甲冑の兜の様な頭部。オリジナルガーリオンに手を加えたカスタム機を、更にカスタマイズしたアウルの相棒だ。
 メック・ウェアからパイロットスーツに着替え、怒りのままに戦場に飛び出たアウルは吐息荒々しくモニターの向こうを睨む。

 

 「次に掛かってくるのはどいつだ! 全部ぶっ壊してやる!」

 

 ビアン暗殺によってかき立てられた怒りは微塵も鎮まる事無く、鋼の相棒を駆るアウルは怒りの熱に身も心も委ねたままであった。間に合った二人の姿に、タスクが安堵の息を付き、“二人”しかいない事に気付いた。

 

 「おい、ステラはどうした? まさか」
 「ああ? あのおバカならまだタマハガネの中だぜ! さっさと来やがれってんだ。あのボケェ!」

 

 随分丸くなっていたアウルも、今は苛立ちのままに暴言を吐いていた。状況が状況ではあったが、それにしても言い過ぎだろう。スティングがモニターの向こうで溜息を吐いているのが聞こえた。
 だが、アウルの言う事ももっともだ。アウルと同じかそれ以上にビアンを慕うステラが姿を見せないと言うのは気がかりだ。もしやビアンの容態がおもわしくなく、それにつきっきりで寄り添っているのか?
 現大戦の山場が近いとどこでも言われているこの時期に、自軍の総帥の訃報というのは、ぞっとしない。タスクが事情を問いただそうとしたのを察してか、スティングが答えた。

 

 「ステラの奴、ビルトシュバインじゃなくてヒュッケバインに乗ろうとしてるんだよ」
 「ああ、それで。……はあ!? だってお前ヒュッケはアルベロ隊長かキャリー一尉が乗るはずの機体じゃねえか。それにあれ、一度パイロットの生体データを登録したら」
 「だからおれらも止めたんだけどよ。ヒュッケの方が強いって言う事聞かなかったんだよ。でもまあブラックホールエンジンが相変わらず不機嫌で動かないままだから、その内諦めてシュバインで出てくるだろ」
 「なら良いけどよ。ヒュッケはグルンガストと同じ虎の子だぜ? それを勝手に乗ったとあっちゃ後で大目玉だぞ」
 「おれの知ったこっちゃねえよ。それより目の前の連中片づけるぞ」

 

 新たに姿を見せたエール105ダガーの放ったビームライフルを、円形の盾からE・フィールドを発生させて防いでいるアウルの援護へと、スティングは向かっていた。

 
 

 一方、そのステラは今だヒュッケバインのコックピットの中でコンソールのあっちをいじりこっちをいじり、凶鳥の名を持つ鋼の巨人を動かそうと足掻いていた。ビルトシュバインに不満があるわけではない。だが、ビルトシュバインよりもさらに強力な力があるのに、それを眠らせておく気にはなれなかった。
 ビアンが傷つき、血を流した。ミナもまた多かれ少なかれ怪我を負っている。そして今、外では連合の部隊が襲い掛かってきている。これ以上ビアンやミナを傷つけさせない為にも、もっと強い力を。襲いかかる敵の全てを薙ぎ払うほど圧倒的な力を。立塞がる者全てを蹂躙する無慈悲な力をステラは求めていた。
 ディスプレイに浮かび上がる何度目かのエラーの文字に、かすかに眉を険しく寄せて、ステラはもう一度起動の手順を最初から繰り返し始める。ヒュッケバインの持つ60mmバルカンや八連装ミサイルランチャー、ロシュセイバー、リープスラッシャーらは全て装填済みだから、後は本体が目覚めさえすれば戦場に殴り込む事も出来る。
 メカニックやステラの行動を聞かされたオペレーター達の制止する声が時折ノイズの様にステラの耳に届くが、その全てをステラは無視した。うるさい、煩わしいと感じたきりだ。
 高速で動く指が停止。再び浮かび上がるエラーの文字。きり、とステラの口の奥で音が鳴った。奥歯と奥歯とが強く噛み締められ、擦り立てられた音だ。

 

 「動け」

 

 念じる様に、あるいは願うようにステラの唇が動いた。ヒュッケバインは動かない。冷めた水色の機体は、その瞳に力強い輝きを灯す事無く沈黙のまま。

 

 「動け動け動け」

 

 両脇に設置された操縦桿を握りしめ、それを何度も動かす。応じる者のない虚しい一人遊びの様だった。ヒュッケバインは動かない。ひとたび目覚めれば既存のMSを凌駕するべく与えられた力を発揮し、鬼神の如く暴れ狂う力は眠りつづけている。

 

 「動け、動け、……動けえええ!!」

 

 振りかぶられたステラの小さな拳が、ガツン、と重々しい音を立ててコンソールの一ヶ所を叩いた。じん、と手に痺れと痛みが広がり始め、ステラは失意にうなだれた。これ以上遅くなってはスティング達やアウルが何と言うか分からない。
 ビルトシュバインに乗り換えて……。

 

 「あ……」

 

 ブゥゥンと低い獣の唸り声のような音が聞こえた。明かりが落ちていたコックピットの中が照らし出される。メインモニターが格納庫の中の光景を映し出し、ステラの生体データがヒュッケバインに登録されてゆく。
 ヒュッケバインは応えた。ステラの願いに、想いに。

 
 

 「一つ、二つ!」

 

 レオナのガームリオン・カスタム・ラーが手にしたロングオクスタンライフルから放たれた実弾が、周囲を旋回していたメビウスを連続して二機撃ち落とす。
 ザフトとの長期の戦闘で対MS用の戦術が考案されたMSは、当初5:1とされたキルレシオを、3:1にまで縮めていたがMSの性能向上とソフト面の強化もあって、ジン以降の新型機相手だとやはり力不足であった。
 撃ち尽くした実弾のカートリッジを新たなものに変えながら、レオナは周囲の敵機の反応を探った。ジャン・キャリーのヒュッケバインMk-Ⅱとアルベロのフルアーマー・ガームリオン・カスタムは健在だ。
 こちらの機体の方が性能は上と言っても、第二世代GATシリーズやロングダガーやデュエルダガーの相手をこなした後ではメビウスも、直線での加速能力などではMSを上回るから面倒な敵になる。

 

 「今ので三十一機目か。エースにはまだ遠いわね」

 

 スコア更新を改めて確認しながら、レオナは疲労の影を帯びながらも精巧な西洋人形のように整った顔立ちに微笑を浮かべた。一般的に、MSを五機撃墜すればエースと言うのが、今現在連合やザフト、DCで言われている基準だ。
 それで言えば、レオナはまさしくエース・オブ・エースと言っていい位のスコアなのだが、これがクライ・ウルブズやサイレント・ウルブズなどの特殊部隊になってくると話が違う。
 DCの保有するエクストラ・オーバー・テクノロジーや異世界の技術を惜しみなく投じた装備と最高レベルのパイロットが集められた部隊であるが故に、ウルブズでエースを名乗るには撃墜スコアは最低五十機を上回る事が要求される。
 まだ後十九機ほど撃墜しなければならないが、このペースで戦闘を繰り返せば、あっという間にエースの条件は満たせるだろう。もちろん、それまで生き残る事が出来たらば、という大前提の上でだ。
 フルボーグ達との戦闘でフルドドのパーツがいくつか破壊され、本体のガームリオン・カスタムも左脚部が欠落していた。
 四肢の一つが失われた事で機体のバランスを保つのに余分に推進剤を消耗しなければならないし、携行していた予備のカートリッジも一つしか残っていない。
 見ればヒュッケバインMk-Ⅱも、チャクラムシューターの電磁ワイヤーが断絶し、機体の数か所に焦げ目が付いていた。アルベロの方も、カラミティとフォビドゥンを同時に相手にし、左肩のアーマーや背に負ったダブル・シールド・ブースターに大きな破損が見えている。
 バレルエムリオンの援護の元で一気に連合艦隊の喉元まで食らいつこうと牙を伸ばしたが、どうやら一度の攻撃ではまだ足りなかったか。それでも周囲に浮かぶMSの残骸の多くは連合のモノだ。
 ジーベルが引連れてきたMSの多くは撃破出来たと見ていい。アルベロはそれも踏まえた上で一度補給を受けるべきと判断し、ジャン・キャリーとレオナに指示を出した。自分も含めてタマハガネの代わりにレオナ達に続く形で前線に出ていたDC籍のナスカ級に戻る。
 他にもザフト籍のローラシア級とジン・ハイマニューバー2三機とゲイツ二機が同行している。これらの機体にはベテランのザフト兵が乗っているようで、機体性能で互角の105ダガーやダガーLを相手に奮闘していた。
 人機一体となったフルボーグ部隊を、アルベロ達が抑えていた事も大きいだろう。
 ナスカ級の格納庫で、コックピットに乗ったままAI1が知らせてきた戦況に目を通しながら、アルベロは喉を湿らせるためにドリンクを咥えた。開けたヘルメットのバイザーから、汗の玉が無重力のコックピットの中に一つ二つと浮かび上がる。

 

 「シンに独断行動を許したのは失敗だったか。フリーダムとジャスティスは思ったよりもやってくれているようだがな」

 

 AI1が、これまでの戦闘で分析した連合の機体に使われているOSのモーションデーターをパネルに表示し、それらをDCの各機にリンクさせる。これで少しは戦いやすくなるだろう。

 

 「スティングとアウルが出ればタマハガネは大丈夫だろう。後はこちらももう一踏ん張りか」

 
 

 エターナルとアークエンジェルは、シュリュズベリィと連携して迫る増援の地球連合艦隊を相手取っていたが、何機かのザフトMSが執拗に銃口を向けてきて、同時に二つの勢力を相手にする事を強いられていた。
 戦艦としては戦闘能力に脆弱な面を抱えるエターナルも、艦首に備えたミーティアという特殊な兵装の火力で、迫るMSの群れをことごとく返り討ちにする事が出来ていた。
 そのエターナルの艦長席で、隻腕隻眼のアンドリュー・バルトフェルドは険しいものを眉間に寄せていた。

 

 「DCとザフトの多くはこっちに手を出しては来ないが、一部隊、いや二部隊ほどぼく達を狙っている連中がいるな」
 「あのプロヴィデンスと一緒に出撃してきた部隊ですわね」

 

 ついこの間まで戦争の光景などとは縁の無かった歌姫が、バルトフェルドの傍らで答えた。今はドラグーンストライカーを装備したムウ・ラ・フラガのストライクがかろうじて抑え込んでいるが、フリーダム同様多対一を想定して造られたプロヴィデンスは、敵に回すと多量の出血を強いられるであろうことは容易に想像できた。

 

 「確かあのプロヴィデンスは、フリーダムやジャスティスなんかと違って都合三機しか組み立てられなかった筈だ。トリプルエースの二人、ラウ・ル・クルーゼとラルフ・クオルド、それに民間からの出向者用にね」
 「四機目が作られたという情報は入っておりませんから、やはりその三人の内の誰かでしょう」
 「ラルフの気性ならぼくらに仕掛けてくるのも分るし、クルーゼ辺りなら何を考えているか分からないからぼくらを狙うのも分る。ま、もっとも? 軍の重要機密を強奪した僕ら何だから、狙われるのが普通なんだがね」
 「キラとアスラン、あるいはククルさんやオウカさんを呼び戻しては?」
 「いや、そうするとベルゼボの守りが薄いな。それよりもウォーダンにそろそろ正気に戻ってもらった方がいい。なんだか人間離れした戦闘をしているみたいだけど、目的を忘れてもらっちゃ困る」

 

 手元のパネルに映したスレードゲルミルの戦闘の様子に、信じ難いものを見る思いをかみしめながら、バルトフェルドはあくまで自分達の目的を優先する事を忘れなかった。ウォーダンがシンに拘泥しなかったら、もっと楽が出来ただろう。
 ただそうなると怒り狂い、迷っていたシンのグルンガスト飛鳥がこちらに向かってくる可能性もあったから、ウォーダンとシンの激突が吉か凶かはいかんとも判別し難い。

 

 「よーし、まずは左舷のネルソン級を叩くぞ。各砲座照準あわせ! 狙いを外すなよ!」

 
 

 振り上げられた拳が思い切り振り降ろされ、重々しい音が艦橋に響いた。思うように進まぬ戦況に、こめかみを引くつかせたジーベルである。数はこちらの方が圧倒的に上。MSの質とてそう悪いわけではない。
 おまけに当初引き連れてきた以上の艦隊が集結していると言うのに、今だベルゼボやそれを守るタマハガネ撃沈の報告は入ってこない。

 

 「どこまで無能なのだ。貴様らは!」

 

 がなりたてて周囲に八つ当たりするジーベルを、クルーは振り返らずに心の中で舌を出して軽蔑した。自らの失敗を認める事が出来ないジーベルの態度は、ますますクルーとの間に溝を掘って行くのだが、それに気付くわけも無い。
 特にジーベルが特別にアズラエルに用意させたフルボーグ部隊や、モーガン・シュバリエを隊長においたガンバレルダガー三機が、ザフトの新型機に抑え込まれているのも気に食わない。
 今では貴重な空間認識能力者とやらも、所詮この程度かとジーベルは苦虫を口一杯に頬張ったように顔を歪めた。

 

 「ええい、こうなったらもう構わん。あのステーションを跡形もなく壊してやる。アレを用意させろ!」
 「は!? ですが、敵の防衛線を突破した友軍も巻き込んでしまいますが……」

 

 ジーベルの言うアレがなにか察したオペレーターの一人が悲痛な声を挙げるが、血走った目をしたジーベルは反抗の意見を一顧だにしなかった。

 

 「このまま戦闘を長引かせて出る死人の数よりはマシだ。それに、その死のお陰であの忌々しい基地とDCの部隊を葬れるのだ。死ぬ連中も本望だろうさ。さあ、さっさと工作艦の連中に命令を伝達しろ。衛星ミサイルをすべてあの宇宙ステーションに叩きこめとな!」

 

 衛星ミサイルというのは別段複雑な兵器ではない。極めて簡単に説明すれば、ロケット花火の先に小石をくっつけたモノをサイズアップしたようなものだ。宇宙に浮かぶ手頃な隕石にロケットを仕掛けて点火し、目標めがけて飛ばすよう細工したものである。
 複数のロケットを設置して遠距離からの指示である程度の軌道修正を行えるものもあれば、ただまっすぐにしか飛ばないものもある。
 ロケットによって不自然な軌道で動く隕石であるわけだから、熱反応もあるし、探知は容易だ。ただし、飛来する隕石のサイズと数が膨大なものになるとその全てを迎撃するのはいささか面倒になる。
 迎撃する側もNJの影響で誘導兵器の類が使用できないから要塞やステーションに設置されたビームやレーザー、事前にプログラミングされた航跡を飛ぶミサイルの他、戦艦やMSで対処する事になる。
 要塞などの攻略の際に、即座に占領して使用する事を考えなければその機能を奪うのにもってこいの単純かつ用意するのが簡単な兵器だ。ジーベルがこれを最初に使わなかったのは、迎撃されて効果が指して臨めなかった事と今の様にザフトの部隊を引きずり出した上でがら空きになったベルゼボを狙った方が効率が良い為だ。
 ただ、ジーベルにとっての悪い意味での誤算は、DCがこの基地にたまたま居て、ザフト共に猛烈な反撃をしかけ、ジーベルの乗艦ヒュプノシスのいる艦隊の目前にまで迫っている事。
 逆に嬉しい誤算は、彼の知らぬ所でビアンとベルゼボ基地司令が暗殺ないしは暗殺されかけた事で、ザフトとDC側の司令系統に混乱が生じ、緒戦は優位に戦いを進められた事だ。衛星ミサイルをその初戦のタイミングで打ちこめば、普通に初期に撃ち込むよりは戦果も上がったろう。
 どちらにしろ衛星ミサイルは、その破壊の規模の大きさから友軍と敵軍の入り混じる状況で使用する様な兵器ではない。本来ならば。だがジーベルの命じた、このタイミングでの衛星ミサイルの発射は、ある程度ベルゼボの防衛ラインに食い込んだ味方の被害を無視したものだ。
 躊躇いを見せるオペレーター達に、唾をまき散らしながらジーベルが重ねて怒鳴りつける。

 

 「なにをしている。さっさと命令を実行しろ! 貴様らはそれでも軍人かあ!?」

 

 逆らえばこの場で射殺されそうなジーベルの雰囲気に、ようやくオペレーター達が動き出した。それを見てから、乗り出していた上半身を艦長席の背もたれに預けて、ジーベルは荒々しく鼻を鳴らした。

 

 「ぐず共めっ、戦いは勝たねば意味がない。ならば勝つために何でもするのは当たり前の事だろうが。そんな事も分らんのか!」

 
 

 アルベロらクライ・ウルブズとそれに随伴したザフトの部隊以外は、DCもザフトもベルゼボとジーベルの艦隊との間の、ちょうど中間あたりで一進一退を繰り返していた。キラとアスラン、それにククル、オウカ、カナードらが愛機と共に雪崩れ込み、当初浮き足立っていたザフト・DCの部隊を援護していた甲斐もあり、状況が好転するのはもう間もなくと思われた。
 マガルガの徒手空拳でまとめて二機のストライクダガーの頭部を殴り潰していたククルが、不意に浮き足立ち始めた連合の部隊の様子に気付く。三十メートル超の機体サイズに似合わぬ敏捷性と一つの武道を極めた達人の動きに、ただの的の様に落とされ続けた現実への恐怖とは違う。

 

 「なんだ? オウカ、カナード。気を付けい。なにやらこやつらの様子がおかしい」
 「ええ。なにかしら? 戸惑っている風だけど」

 

 ラピエサージュのオウカもククル同様になにがしかの異変を察知していたようで、ククルの意見を首肯する。オーブ軍のヘルメットの奥で訝しげに寄せられていた柳眉が、それに気付いた。
 ベルゼボの周囲で巨大な質量が一挙に加速して動き始めているのを。

 

 「これは、そんなこんな距離で使ったら、味方ごと」

 

 オウカが気付いたのと同じ事を、カナードとククルも察する。

 

 「ふん、味方ごと、か。成果は上がるが兵の信頼は失うな。戦死者はこちらの方が連合よりは少ないだろうがな」
 「じゃが、この様な真似、悪漢外道の謗りは免れぬ。卑怯な将の元には似た者しか集まらぬわ」
 「で、どうする? この隕石共を砕くか、それともこのまま艦隊本体を叩くか?」
 「隕石を砕きましょう。私達の位置ならぎりぎり間に合うわ」
 「ふむ。ではキラとアスランにもそうするよう伝えておくか。我らが抜けても今なら大丈夫であろう」

 

 元々戦線から離れた箇所で工作を行っていたジーベルの部隊が、次々と命令に従って衛星ミサイルに点火し、まだ戦っている一部の友軍の存在を無視して命令は実行された。これに気付いた連合の部隊も、迫りくる多数の衛星ミサイルに気付き、ジーベルへの呪いの言葉を吐きながら、部隊を後退させる。

 

 「おい、なんでこんなタイミングであんなもんを使うんだよ、ナチュラルどもは!」
 「おれが知るかよ。くそ、あんな代物、一基だけでベルゼボを破壊できるぞ。ゾラ隊はベルゼボに引き返すぞ。衛星ミサイルを全部破壊するんだ」

 

 既にいくつかの部隊が衛星ミサイルの破壊に動き出し、ジーベルの命令に従ってそのザフトの部隊を叩く者や、逆に深くベルゼボの近くまで攻め込んでいた為に、急ぎ離脱する連合の部隊等が乱れあって、戦況はより一層混乱したものになっていた。
 もっともジーベルの艦隊近くまで切り込んでいたクライ・ウルブズは、アルベロとザフトの部隊長との間で数言交わし合い、自分達の位置からでは衛星ミサイルの迎撃に間に合わないから代わりに連合の艦隊を叩くと言う意見でまとまった。
 補給を終え、ナスカ級の船体中央にあるカタパルトに機体を乗せながら、アルベロがジャンとレオナに通信を繋いだ

 

 「ブラックウルフより各機へ。これより再度連合艦隊中枢へ突撃する。任務を果たし、必ず生きて帰れ!」
 「ホワイトウルフ了解。連合がこのような戦い方をするとはな。ナチュラル同士であっても犠牲を気にしないと言う事か。……ジャン・キャリー、ヒュッケバインMk-Ⅱ出撃する」
  「ブルーウルフ了解。タスク……無事でいるのよ。レオナ・ガーシュタイン、ガームリオン・カスタム・ラー、出撃します」

 

 新型機であるR-SWORDを加えたザフトWRXチームも同様に衛星ミサイルとの動きに気付いていた。すでに三機分のガンバレルの内、半数近くを失ったシュバリエ達はその隙に母艦へと後退したばかりだ。
 さんざっぱら撃ちまくり、背の五連砲身が熱を持ったままのR-2パワードのコックピットで、ルナマリアが慌てた声を出した。

 

 「ヴィレッタ隊長、どうしましょう!? 私達、随分前に出ちゃっていますけど」
 「ルナマリア、貴女は可能な限りベルゼボに引き返して衛星を狙撃しなさい。シホ、貴女もよ。R-2とR-GUNならそれを可能にするだけの力がある。後は貴方たちの腕前次第。そして、貴方達ならできるわ。私とイザークはこのまま前方の友軍と合流して連合の艦隊を叩く。レイ、残弾はどれだけあるかしら?」
 「全弾薬の残量37パーセントです。ミサイルは粗方撃ち尽くしましたが、レーザーキャノンを始め、ジェネレーター直結の武装は問題ありません」
 「なら、貴方もルナマリア達に加わって。R-3の機動力と残った武装ならまだできるはずよ」
 「了解です」
 「各機、健闘を祈る」
 「了解!」

 
 

 この動きはもちろん、エターナルやアークエンジェル側にも伝わり、彼らは急ぎベルゼボに迫る無数の衛星ミサイルの排除に追われていた。

 

 「ザフトの基地の近くでどうしてこれだけの数が用意で来たんだ!」

 

 アークエンジェルのブリッジでチャンドラが、ザフトの危機管理がなっちゃいないと罵るのを、艦長席にいたマリューが聞き、確かにと思案した。

 

 「あらかじめ用意してきたか、それとも付近で工作していても気付かれないようにザフト側で仕組んだ人間がいるということかしら?」
 「艦長、衛星ミサイル射程内です!」
 「あっ、ゴットフリート一番二番、艦尾ミサイル発射管斬門装填、バリアント、てええーー!」

 

 自分達の後方から姿を見せた連合の部隊を、友軍が抑えている間にアークエンジェルはその不沈艦の異名を勝ち取った要因の一つ、膨大な火力を惜しみなく晒して宇宙を飛ぶ衛星ミサイルに叩きつける。
 直撃すれば戦艦も沈める大口径ビームや、単装リニアカノンが次々と虚空に軌跡を描き、高速で飛来する衛星達を微塵に砕いてゆく。それでもなお衛星ミサイルの雨は止む事無く振り続ける。

 

 「切りがないわね。ローエングリンは?」
 「駄目です。敵と味方が射線上に多すぎます」
 「くっ、味方を犠牲にしてまでなんて。アラスカと同じじゃないっ」

 

 かつて自分達が捨て駒にされたアラスカでの戦いを思い出し、マリューが形の良い唇を歪めて怒りを堪えていた。
 そしてそれはエターナルのバルトフェルドやラクスも同様だった。

 

 「まったく衛星ミサイルなんてMSを出撃させて後で、おまけにそれなりに敵の基地に取りついた状況で使うかね普通。エターナルを転進させろ。ミーティアの火力はこう言う時に役に立つ。エルスマンとアマルフィを向かわせろ。あの二人の機体なら適任だからな。代わりに――」

 

 バルトフェルドの言葉を遮ったのはエターナルを襲った強い揺れの所為だ。直撃を受けたのか。

 

 「く、なんだ!?」
 「左舷に直撃弾を受けました」
 「連合の部隊か!」
 「いえ、しゅ、シュリュズベリィです。それだけではありません、シュリュズベリイのMS部隊もこちらに攻撃を!」
 「なんだと、アーチボルドか!」

 

 オペレーターからの報告通りに、ナスカ級シュリュズベリィからの砲撃によって、エターナルの左舷にあるフロートの様な船体部分が破損し、刃の様に連なっていた白い翼が半数吹き飛び、船体に穴があいていた。
 突然の裏切り行為に戸惑うラクス一党の隙を付いて、シュリュズベリィに所属するMS部隊は次々と数分前まで味方だった部隊に襲い掛かり、連合の部隊も予定通りだとばかりにシュリュズベリィの部隊と連携を取ってエターナルに襲いかかってきている。

 

 慌てふためくエターナルの艦橋に、シュリュズベリィの艦長であるアーチボルドから通信が繋げられ、メインモニターに丸眼鏡をかけた細見の男の姿が映し出される。シュリュズベリイの艦砲はすべてエターナルをロックオンしている。

 

 「どういうことだ。アーチボルド!」
 『どうもこうもありませんよ、バルトフェルド艦長。予定通りに全て進んでいます。予定通りにね』
 「貴様、最初から裏切るつもりで接触してきたと言う事か」
 『とんでもない。いわば表返ったのですよ。本来私が身を置くべき場所にね。シュリュズベリィはこちらで掌握させてもらいました。貴方方にはこのまま宇宙の塵になってもらいますよ』
 「アーチボルド!」
 『それに貴方の声は彼に似ていて聞くたびに苛ついていたんですよ。エターナルは特に念入りに破壊させていただきます。ところでラクス嬢』
 「なんでしょう?」
 『ふふ、この土壇場でも顔色一つ変えないのは御立派ですが。どうです? 貴女だけでも命乞いをされては? シーゲル・クライン元最高評議会議長の一粒種、そしてプラント市民の心を支える歌姫の貴女です。その首一つに計り知れない価値があると言っても過言ではない……。貴女が大人しくこちらの手に渡るなら、ついでに何人か助けて差し上げても構いませんが?』

 

 背筋を伸ばしアーチボルドを睨み返すラクスに差しのべられた手と甘言。無論アーチボルドがそんな取引に応じるつもりなど毛頭ない。アークエンジェルや出撃している他のノバラノソノの部隊への人質にはラクス一人で十分だ。
 第一ラクス以外も助けてしまったら、自分一人だけが生き残り、騙された事と利用された事に絶望して泣き崩れるラクスの姿が見れないではないか。この凛とした少女の顔が恐怖と後悔と絶望とで埋め尽くされるのが、アーチボルドの楽しみの一つだった。
 狂気的な性癖をおくびにも出さず、アーチボルドはあくまで余裕を持ち平静なままの顔で問い重ねる。

 

 『返答は?』
 「アーチボルド・グリムズ。私は貴方がいずれこうするのではないかと、初めから信用してはいませんでした」
 『ほう? 世間知らずのお嬢様の割には勘が鋭い。ですが、こうして何の対処も出来ていない所が詰めの甘さを露呈しています。疑った所で講ずる手段を持たぬ以上、疑わなかった者達同様に愚か者ですよ?』
 「ええ。ですから、私たち以外の方に、この様な時の為に手を打っていただけるようにお願いしておきました。貴方の耳がノバラノソノのどこにあるかは分かりませんでしたから」
 『なんですって?』

 

 ラクスの言葉を理解したアーチボルドが、わずかに眉を怪訝そうに動かした時、はるか遠方から高速で飛来した二機のMSが、エターナルの周囲を囲む連合のMSにいくつものビームを放ち、光の槍は装甲を撃ち抜いて内部の機器と搭乗者達を蒸発させた。

 

 『これは、黒いジャスティスにフリーダム! ブランシュタイン隊ですか』
 「ふっ、どうやら間に合ったようだな」

 

 電圧の調整によって黒を主体としたカラーリングになったジャスティス・トロンベと量産型フリーダムが、エターナル級二番艦ウィクトリアから全速力で駆けつけ、シュリュズベリィとエターナルの間に割って入る。
 ラクスと何時接点を持ち、このような場合の対処を託されたものか、トロンベのコックピットの中でザフトのトッガンの一人、エルザム・フォン・ブランシュタインは実弟ライディース・フォン・ブランシュタインと共に離反したアーチボルドの部隊へ漆黒の嵐の如く襲い掛かる。
 ウィクトリアのグラディス艦長と残してきたMS部隊には連合艦の相手を任せてある。エルザムとライは、シュリュズベリィの部隊にゆっくりと専念できる。ラクスはモニターの向こうの黒いジャスティスを見つめ、胸の中でほっと安堵の息を吐いた。
 正直な所、エルザムがどこまで自分を信じてくれるかは賭けに近いものだったが、どうやら勝つことに成功したらしい。エルザムもまたジャスティスのモニターの一つに映したエターナルの艦橋の向こうに居るであろうラクスに一瞥だけを向け、周囲を囲むMSを睨んだ。

 

 「兄さん、周りの雑魚はおれが片づける。兄さんは艦を頼む」
 「分かった。頼りにしているぞ、ライディース」

 

 フリーダムとトロンベが同時に動いた。改良されたマルチロックオンシステムと、天才と名高いライの実力が、同時に無数の敵機の正確なロックオンを行い、機体を縦横無尽に回転させてビームの雨を回避しながら反撃の業火を放つ。
 コックピットを撃ち抜かれた機体や、エンジン部分を撃たれ戦闘能力を奪われた機体があるいは爆発し、あるいは虚空に漂う。
 エルザムの駆るジャスティスは、黒き疾風迅雷の化身となって立塞がる敵を突破していた。すれ違いざまに抜き放った左手のビームサーベルで胴を割り、右手のライフルは休むことなく敵を捉え続ける。
 傍らを過ぎゆくビームやミサイルを振り返る事無く、エルザムはトロンベの性能を完全に引き出していた。

 

 「これはこれは。歌姫もなかなか腹黒い。仕方ありません、エターナルを落とし……」
 「敵機接近!」
 「っ、エルザム! こちらでも邪魔をしますかっ」

 

 三つ又の鉾の様なナスカ級の船体の内、右舷部にルプスビームライフルが立て続けに撃ちこまれ、瞬く間に船内から爆発が生じた。さらに右肩のパッセル・ビームブーメランを抜き放ち、船体下部にある主砲を切り落とした。エルザムの技量に応えるジャスティス・トロンベと、その性能を引き出すエルザムならではの早業である。
 アーチボルドに与した側のダガーL部隊がすかさず両者の間に割って入り、ジャスティス・トロンベを牽制する。

 

 『相変わらず見事な腕前ですねぇ、エルザム。それにライディースくん?』
 「この声は……!」
 「アーチボルド・グリムズ!!」

 

 ブランシュタインの兄弟達の口から、等しい憎悪の声が零れ出る。アーチボルドは、この世界でザフトに所属しているエルザムとライディースが、新西暦世界で自分を殺した二人ではない事を、クルーゼからの情報で確信している。
 だが、その人柄や腕前が自分のいた世界と変わらぬものである事などから、あるいは自分と接点があるのでは、と欠片ほどの可能性は考えていた。もし、彼らのいた世界にも自分がいたならば、彼らの死因にはおそらく自分も関わっているのでは?
 であれば、多少なりとも自分の言葉に動揺が見られるはず。
 そしてその考えが正鵠を射ていた事を二人が証明してみせた。

 

 「アーチボルド、貴様もこの世界に居たのか!」
 『ふふ、やはり君達は私を殺したお二人ではないようですねえ? ライディースくん。良かったじゃないですか。兄君の細君もご一緒で。最も父君はDCの側に着いた様ですがね』
 「なに?」

 

 ややこしい話になるが、このアーチボルドはビアンやマイヤらと同じ世界からの死せる来訪者だ。それに対し、このエルザムとライディースは極めて似通った歴史を持つ別の新西暦世界からの死人である。
 この二つの世界でアーチボルドとブランシュタイン兄弟には同じ因縁が存在する。アーチボルドは数年前(というのもおかしいが)にコロニー・エルピスで、毒ガスを用いたテロ事件を起こしている。
 そのテロによって住民全員と一族全員が殺されてしまったのが、エルザムとライらの世界。
 同じテロこそ起きたが、その場に居合わせず航宙戦闘機で駆けつけたエルザムによって、アーチボルドが取っていた人質ごと毒ガスを撃ち、コロニーの住人を救ったのがアーチボルドの世界。
 アーチボルドの世界におけるエルピス事件の際、毒ガスは取引を守る気の無かったアーチボルドが流した毒ガスによって、人質はほぼ全滅し、唯一残っていたエルザムの妻カトライアの懇願によって、エルザムは妻を殺す引き金を引いた。
 その事によってブランシュタインに連なる者から憎悪を向けられたアーチボルドと、エルザム、ライは戦乱の中で相対し、ブランシュタイン兄弟の連携攻撃によってアーチボルドは殺されたのだ。
 二つの世界で殺し殺された因縁の三人が、今、ようやく出会った。エルザムとライがアーチボルドの事を知っているのは、毒ガスによって次々と住人が倒れて行くエルピスの街に、何もできずに死んでゆく人々の姿を哄笑と共に見下すアーチボルドの姿が、放送されていたからだ。
 罪なき人々がゴミの様に死んでゆく様を、この男はこれ以上の快楽は無いと笑っていたのだ。

 

 「貴様、一体何が狙いだ?」
 『狙い、ですか? 逆に聞きましょう、あると思いますか? そんな大義や崇高な目的などが? この私に? どうです、エルザム』
 「なるほどな。そんな目的よりもその過程か。貴様が欲するのは!」
 『まあ、そう言う事ですよ。今の依頼主はなかなか楽しい方でしてね。前の依頼主よりもずっと楽しい思いができそうなので、邪魔はして欲しくないんですがねえ』
 「戯言を! 此処でおれ達に出会った不運を呪え、アーチボルド!!」

 

 エルザムに追いついたライが、フリーダムの持てる全火力を向けた。弟の激情に駆られたエルザムもまた、トロンベの背部に背負ったフォルティスビームキャノンとルプスビームライフルの銃口を向ける。

 

 「地獄に落ちろ、アーチボルド・グリムズ!!」

 

 シュリュズベリィを撃ち抜く光を、アーチボルドは最後まで笑みを浮かべながら見つめていた。

 
 

 ベルゼボに迫る衛星ミサイルを迎撃しきれなかったローラシア級に直撃し、巨大な花火に変わって散った。
 それを横目に、ジガンで衛星ミサイルを撃ち落とし、あるいは叩き落としていたタスクが、舌打ちを打った。多すぎる。まさかこの敵味方入り混じった状況でこんな無差別兵器の使用など!

 

 「てか数が多い! ああもう、今度はサークルブラスターだ! 持ってけ隕石!」

 

 残る衛星ミサイルを更にタマハガネや残る艦艇の艦砲で砕く。連合の部隊もまさかの攻撃に慌てふためき、急いで離脱しようとして戦闘を中断しているのがせめてもの救いだろう。
 タマハガネで状況を見守っていたミナも、流石にシンの独断をここまで放置していた事を後悔し始めていた。グルンガスト飛鳥の火力があればどれほどの助けになっていた事か。
 戦況に気付いているのかいないのか、変わらず超常的な戦闘を続けるシンに通信を繋いだ。モニターに映し出されたシンの顔は、悪鬼羅刹を思わせる形相だ。MSパイロットとしてはエースとしての腕前を誇るミナからしても常軌を逸した戦闘能力の代償がこれだろうか。
 既に何度も制止の声をかけているが、シンにはその全てが届いていないようだった。

 
 

 時折聞こえる声が、よく知っている誰かの声の様な気がしたが、シンはその意識を逸らした一瞬で首を落とされる、胴を断たれるぞ、と叫ぶ本能に呼び戻され、危ういところまで迫ってきた斬艦刀を受け、あるいはシシオウブレードをはじき返していた。
 体が熱い。脳が熱い。心が熱い。魂が熱い。
 この熱を感じ続ける為に、もっともっと、戦わなければ。
 既にファイナルビームやオメガ・レーザーの使用によってグルンガスト飛鳥のエネルギー残量が危うい領域にまで迫っている事にシンは気付いていない。ゼオルートの駆るM1カスタムの各関節が限界の悲鳴を上げ始め、徐々に速度を落としている事に気付いていない。そして、ぐるりと周囲を飛ぶ衛星ミサイルにも。
 だが、機体の状況が悪化しつつあるシンがそれでも互角の戦いを維持できているのは、シン以外の三人は今の状況に気付いていたからだ。シンと違い、既にある程度完成した実力と精神を有する二人は、超人の闘争のさなかにも周囲の異変を察知する余裕を残していた。
 それぞれに冷静な部分を残していた三人はこの剣戟を一時止め、それぞれの勢力の助けに入るタイミングを見計らっていたが、一人それに気付かず猛烈に斬撃を繰り出すシンが、そのタイミングを尽く邪魔していた。
 この瞬間、シンは宇宙一空気の読めない困ったちゃんだった。
 ゼオルートも自機の限界と迫る流星雨の如き衛星ミサイルに対処する為にシンを制止しようとするのだが、どうにもこの聞かん坊の耳には届いていない。

 

 (これは、参りましたね。戦い続ければ、こちらの負けが濃厚なのですがね)

 

 柔和な笑みを取り払い、一人の剣士としての仮面を被ったゼオルートは現況の打破の為に思考を巡らせていたが、とにもかくにもシンに現状を認識させる事が大前提だ。ほとんど暴走と言っても良いシンの狂奔さを、さてどうやって止めるか。
 思い悩むゼオルートの耳に、いよいよ限界まで怒りを溜め込み、逆に声を徹底的に冷え切ったミナの声が届いた。これに頼るしかないか、とゼオルートが一縷の望みを託す。

 

 『シン、そこまで私の声が聞こえぬか。いいだろう、ならばこちらも最後の手を遣わせてもらおう』

 

 コントロールでも奪う仕掛けが飛鳥にしてあったのだろうか、と訝しむゼオルートの予想は良くも悪くも……いや、多分かなり悪い方向で裏切られた。ミナは言葉でシンを止めて見せた。憎悪に捉われたシンをビアンが言葉で止めたように。
 ただ、随分と微笑ましい内容と言えた。

 

 『貴様がそういう態度をとるのならば……ステラの保護者として、ステラはお前の嫁にはやらんぞ!!』

 

 ミナの言葉をシンの脳味噌が認識したその瞬間、まさしく千分の一秒のレベルでシンが正気に戻り、飛鳥の振っていた獅子王斬艦刀が止まる。不意の動きにウォーダンとムラタが何事か、と警戒するものの、好機とばかりに離れた。
 脳味噌を直接ゆすられた位のショックを受けたシンは、喉よ破れよとばかりに叫んだ。

 

 「ええええええーーーー!!!」
 「ちょ、それで止まるのですか!?」

 

 これにはむしろゼオルートが驚いた。どうやらシンの脳味噌の中では『ステラ>>>>>剣』となっているらしい。残念な様な思春期の少年らしい様な情けない様な。
 とはいえ、シンが正気の戻ったのは……

 

 「ミミミミナ副総帥、正気に戻りましたから!」
 『現金かつ色ボケ小僧め』
 「……まあ、シンらしいと言う事にしておきましょう」

 

 ゼオルートからかつてないほど情けないという溜息をつかれているとは知らず、シンは狼狽してミナに言い繕った。その決定的な隙にウォーダン達が襲い掛かってこなかったのは、やはり彼等もこの戦いにこだわってばかりもいられないと判断したからだろう。
 ミナから状況を説明されたらしいシンが、飛鳥にぐるりと周囲を見回させて改め現状を認識した。

 

 「どうやらこの戦い、ここまでの様ですね。私とシンは衛星ミサイルを対処しなければなりませんので、残念ですが……」
 「水入りか。まあいい。決着が後に伸びたと思えばよい。おれはエターナルの方へ行く。一応、護衛対象だからな。ウォーダン、貴様はどうする?」
 「おれはあの衛星ミサイルをすべて斬り砕く」

 

 青く猛々しい斬艦刀を構え直し、ウォーダンはすでにスレードゲルミルに乱れ飛ぶ岩の塊達を見据えていた。ゼオルートとシンとの決着に未練はあるだろうが、実際の所必ずしも戦う必要のない相手なのである。
 シンの方はまだ歯を剥いてこだわっている様子だが、モニターの向こうのミナがことさらきつい視線を向けると、飼いならされた犬猫よろしく縮こまる。よく躾けられているらしい。
 シンは飛鳥のエネルギー残量にげっと声を漏らし、またゼオルートのM1カスタムの状況が傍目から分かる程にひどいものである事に気付き、あのまま戦っていたら負ける可能性が濃厚だったことにようやく気付いた。

 

 (……あのまま戦ってたら、また負けてた……のか?)

 

 獅子王斬艦刀を右上段に構え直し、シンは思考を切り替えて迎撃を割り振られた衛星ミサイルに意識を集中させた。大きさは直径200メートルほど。獅子王斬艦刀のおおよそ倍超の巨大さだが、斬って斬れない事はあるまい。

 

 「はああああーーーー!!」

 

 奇しくもウォーダンとシンの咆哮が重なった。肩を並べてそれぞれ左右に分かれて走る二機の巨人。姿雄々しく、気迫猛々しく。掲げた二刃鋭く重々しく、されどその一刀――

 

 「斬艦刀一文字斬り!」
 「獅子王斬艦刀!」

 

 神速なり。
 ずっと音を立てて縦一文字に走る斬痕が、やがてゆっくりと衛星ミサイルをロケットごと真っ二つに切り分けていた。如何に四十メートルを超す巨大人型機動兵器とて、機体の五倍近い巨大質量の隕石をこうも容易く斬って捨てたのは、やはりそれらを駆るパイロットの技量故か。
 真っ二つに分かれ、スレードゲルミルと飛鳥の後ろでロケットの爆発で砕ける隕石を背に、二機の巨神は振り下ろした刃を誇る様に掲げていた。

 
 

 タマハガネの連装衝撃砲の祝福を避け、ベルゼボへ迫る衛星ミサイル三基を、遠方から放たれた荷電粒子砲の二条の光が撃ち貫いた。精妙極まる精度で狙撃を成功させたユウとカーラの二人だ。

 

 「ちい、一基抜けたか」
 「ユウ、もう一発!」
 「いや、ここからではベルゼボに当たる」
 「でも、衛星ミサイルが当たるよりはマシだよ!」
 「ラーズはチャージが間に合わん。カーラ、グリーズはどうだ」
 「だめこっちもまだ。対艦ミサイル、ステーションからの迎撃は?」
 「あそこまで潜り込まれてはなっ」

 

 荷電粒子砲が強力な分、チャージに必要な時間が長い。速射性に欠けるのが兵器としての大きな欠陥だ。

 

 「アカツキ、ナイトガーリオンは別の衛星か!」

 

 あの一基の激突は不可避とユウとカーラが諦めた時、タマハガネからようやく出撃した青き凶鳥の嘶きが聞こえた。

 
 

 「ヒュッケバイン!? だがパイロット不在のはず」
 「どいて!」
 「ステラ!? あんた駄目じゃない、ヒュッケバインに乗ったってばれたら副総帥に拳骨されちゃうよ!」

 

 妹分の大胆な行動に、カーラが驚きの声を挙げたが、ステラは構わずヒュッケバインの右手に持たせていた砲身を股間部にあるジョイントと接続し、ヒュッケバインの誇るEOT利用による超動力機関ブラックホールエンジンのエネルギーが人造の血管を通って砲身に供給される。
 検知された異常なエネルギーに、ユウとカーラが小耳に挟んだヒュッケバインの最強兵装を思い出した。そしてそれは、ベルゼボやアークエンジェル、連合の艦隊の一部にも検知される。
 突如極局所的に発生した重力異常。それはたった一機の機動兵器が生み出すには脅威と言う言葉では足りない現象だ。
 ジョイントした砲身の先に、紫の雷を内部で蠢かせる黒い球体が産まれる。この世に生まれた鳴き声は、空間を歪ませる異常な重力という異形の赤子。
 ヒュッケバイン最強の兵装“ブラックホールキャノン”。ブラックホールエンジンのエネルギーをそのまま小型のブラックホールへと変換し、対象に衝突させて超重力によって敵機を原子レベルで崩壊させる、明らかにC.E.世界の技術レベルを超越した兵器であった。
 その暗黒の胎児がこの世で初めて出会った相手は、無骨な岩の塊であったが、それでも胎児は与えられた役目を果たすべく最大限に歓迎した。暗黒の球体が衛星ミサイルに衝突したのと同時に、一瞬だけ拡大されてその中に直径一〇〇メートルを超す衛星を飲みこみ、その暗黒の胎児がこの世から消えた時、世界には何も残っていなかった。
 破壊ではない。消滅である。跡形もなく、少なくとも人間に知覚出来るレベル以下にまで破砕されたのは確実だった。
 これまでの既存の兵器の常識を幾度も崩壊させてきたDCであったが、このヒュッケバインのBHキャノンもまた、C.E.に生きる者たちの常識を打ち破る一撃だった。