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SRW-SEED_ビアンSEED氏_第67話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 22:26:36

ビアンSEED 第六十七話  破壊王の脅威

 無数のプラント群を守る防衛ラインを形成する、要塞ボアズ周辺の宇宙にはかぞえきれぬほどのMSの残骸が、わずか数時間の攻防の間に生み出されていた。仔細にそれらを観察しなくとも、構成比がザフト系の兵器で多くを占められている事に気付くだろう。
 無数に生まれ続けるオレンジの火の玉を散らした闇色の帳を背景に、白く輝く無数の星達の煌めきを照明にした舞台に立つ、漆黒の破壊神アズライガーの手によって生み出された無数の躯達である。
 両膝の超巨大回転衝角カラドボルグを撃ち尽くし、百メートル余というMSの四~五倍はあろうかという巨体は、それを操る搭乗者達の狂気と憎悪と破壊への渇望を陽炎のように滾らせている。
 ボアズ防衛部隊精鋭中の精鋭ラルフ・クオルドが率いる核動力MS部隊も、アズライガーの片手を奪うという戦果と引き換えにして隊員の半数を失い、隊長を務めるラルフもまた愛機プロヴィデンスを大破寸前にまで追い込まれていた。
 アズライガーの伸ばす破滅の魔手から、ラルフとボアズに展開するザフト宇宙軍を逃れさせたのは、エルザム・V・ブランシュタインと、ディバイン・クルセイダーズ特殊任務部隊サイレント・ウルブズ達であった。
 急遽アルテミス要塞から出港したスペースノア級万能戦闘母艦二番艦アカハガネが、大気圏離脱や緊急時に用いるオーバーブーストまで駆使し、かろうじてボアズ侵攻戦の決着がつく前に到達したのである。
 すでにボアズで暴れ狂う地球連合の圧倒的戦闘能力を持つ規格外MS、ないしは特機の報告を受けていたサイレント・ウルブズ司令フェイルロード=グラン=ビルセイアは、アカハガネの艦橋で指揮を取りつつ、保有する戦力の投入を即座に決した。
 即ち、A級魔装機“風の魔装機神”サイバスター、同じくA級魔装機“大地の魔装機神”ザムジード、推定ランクA級オーバーの超魔装機イスマイル、C級魔装機ブローウェル・カスタム、B級魔装機風のジャメイム、地のブラウニー、火のスマゥグの七機だ。
 フェイルの乗る超魔装機デュラクシール・レイはアカハガネ内でパイロット共々待機となり、善意の協力者であるシュウ・シラカワとグランゾンは、この戦闘には我関せずとアルテミスに残っている。
 サイレント・ウルブズ最強の二角こそ姿を見せぬものの、B級魔装機でも既に核動力機に肩を並べる性能を誇るし、C級魔装機のブローウェルも、名称の後にカスタムの四文字が付けば、その性能はA級魔装機に届きかねない。
 A級魔装機、いわゆる魔装機神や超魔装機に至ってはその性能たるや純粋なCE製MSでは、比肩し得るものはほぼない。ミーティア装備の核動力機が火力や最高速度などで並ぶか凌駕する程度であろうか。
 戦術レベルでなら、単独で戦局を変えうる化け物共が雁首を並べているのがウルブズと呼ばれる部隊の最大の特色なのだ。
 ただこの場合、アズライガーが、単独で戦局さえも左右するオリジナルのヴァルシオンや天下無敵のスーパーロボット、SRXクラスに名を連ねる化け物の親玉格である事が問題であるだろう。
 静かなる狼達の先頭を切ったのは、全ウルブズ中最速を誇る風の司サイバスターである。純然たる白銀に輝く装甲に虚空に瞬いては散華する命の火を移しながら、既に右手には冥府の刃ディスカッターを握っている。
 これまで地上、宇宙と何度か戦闘を重ね、戦争を心身ともに体感していたマサキではあったが、周囲を埋め尽くさんばかりに漂うMSや戦艦の残骸に、緑色の眉を寄せて眉間に皺を刻んでいた。
 なすすべもなく敗れ去る、というのはウルブズを敵に回した相手が大概は辿る運命であり、マサキとサイバスターに挑んだ多くの者達もこの場の死者達同様に躯を晒してきた。
マサキ自身も慣れはしないが装甲越しにもはっきりと分かる人の命を奪う感覚や、人殺しの自覚は嫌というほどある。
自分達のしている事が戦争であり、それが仕方のない事である諭されても、殺人への嫌悪と禁忌の念は拭えぬし、それを感じなくなったら、それはもうただの戦争中毒者か殺人鬼、機械の様に命令に従うだけの人形になった証拠だとマサキは思っていた。
だからボアズへ向かう中、時折紛れ込むボアズの惨状を伝える通信の内容と、送られてきた映像の中で暴れ狂うアズライガーの姿は、マサキの胸の中にたとえようもない嫌悪感を抱かせている。
映像越しにでもわかるのだ。あの巨大な破壊の巨人が、殺戮と虐殺を楽しんでいる事が。それはルオゾールへ向ける憎悪にも匹敵するほどマサキの心に苛立ちと怒りを沸き立たせていた
こいつの存在を許してはいけない。戦争という人の歪みが産み落とした人の悪意の塊のような存在であるこいつを!
オリジナルサイバスターの右腕と共にこのコズミック・イラの世界を訪れたディスカッターを片手に引っさげ、サイバスターの背の白銀の翼から翡翠の粒子が溢れる。
あらゆる空間に満ちるエーテルを取り込み、推進力へと変えて、サイバスターは操者マサキの激情と生体エネルギー“プラーナ”の脈動に応じて虚空を疾駆する。
MSとは文字通り桁違いの高エネルギーと超速を誇るサイバスターの存在を、アズライガーもまた同時に感知。
アードラー達が研究した段階ではすでに自我を消失していたはずのゲーザ・ハガナーの脳髄は、自ら=アズライガーに迫る白銀の麗騎士の姿に焼けた鉄の杭を突きたてられるような激痛を幻想する。

『ぐああああ!? てめえええええ、てめえが、おれを殺した奴かぁ!?』

 ゲーザ・ハガナーへと変えられる前、人間としての最後の時をもたらしたあの男と共にいた、別世界のサイバスターの姿が一瞬リフレインし、目の前の現実との境界を失って混濁する。

『死ねやあああ!!!』
「堕ちろおお!!」

 ゲーザとアズラエルの叫びが重なり、暗黒に走る五条の光。アズライガーの左の五指から迸る戦艦の主砲さえも凌駕するスプリットビームガンを、サイバスターは半月を描いて軽やかにかわす。

「いくぜ、アートカノン、カロリックミサイル乱れ撃ち!!」

 ディスカッターを握らぬ左手をかざし、永久機関によって増幅され、機体内部を駆け巡るプラーナとエーテルを放出するアートカノンと、カロリック(熱素)を錬金学と魔術の組み合わせによって弾頭状に加工し、発射するカロリックミサイルの弾幕で返礼する。
 一筋だけでも戦艦を沈めるスプリットビームガンと交差する無数の光の雨は、しかしアズライガーの巨躯に一発とて命中する事はなかった。

『ひゃはあ!』
「Eフィールド、TEスフィア!!」

 ゲーザによって動かされるアズライガーは必要最低限の動きで最大の回避行動を行い、同時にアズラエルに命じられたソキウス達が、Eフィールドとターミナス・エナジーによる防御場TEスフィアを展開。
 その巨体故に回避しきれぬ光の嵐を、異なる二種の光の壁が一切の通過を許さない。サイバスターの保有する魔術的射撃兵装のことごとくが通じぬ光景は、操者であるマサキよりも生みの親であるテューディの癇に障った。
 大地系の最高位である聖位『闇』の精霊にも匹敵する守護を強制的に受けさせた超魔装機イスマイルのコックピットの中、煉獄で燃えたぎる烈火の如き髪を持った妖艶なる美女は、ただでさえ普段から険の強い美貌に、不快な色を添えている。
自らのすべての技術と知識とプライドをかけて生みだしたサイバスターの攻撃が通じぬ眼前の光景が、どうしようもなく腹立たしいのだ。
鋭角のシルエットに闇の深さを溶かしこんだ装甲を持ったイスマイルへの絶大の信頼からか、パイロットスーツの類を身に着けぬままのテューディが、同じようにパイロットスーツを着込んでいないマサキに通信を繋げる。
アズライガーの放ってきたマイクロミサイルの弾雨の回避に神経を尖らせていたマサキは、意識のごく一部だけを割いて髪の色にも劣らぬほど気性の激しい恋人に答えた。

「なんだ、テューディ! わりいが回避で忙しい、手短にしてくれ」
「マサキ、イタクァを使え。私が許可する」
「なにい? だっておまえ、あれはまだ調整中だって」
「いいから使え。サイバスターの武装であの守りを突破できそうなのはアカシックバスター以外では今の所それしかあるまい」
「そりゃまあ、そうだけど」

 温度の低いテューディの声音に気付いたマサキが、一瞬の余裕を作ってモニターの片隅に移るテューディを見て、その場で神経に冷水を流されたような寒気に背筋を震わせた。
 怒りがある程度のレベルを超えると人間は口数を少なくし、表面上の激情を抑えるという。今のテューディがそれだ。
C.E.サイバスターの開発・製造にはテューディの妹ウェンディと共用していた知識と技術が、最大限に利用されている。そのサイバスターの無様な姿はテューディ自身のみならずウェンディへの侮辱にもつながる。
その存在に対して果てしない憎悪さえ孕むほどに相反していたはずのウェンディに対し、いつの間にか――この世界のマサキと出会ってから特に顕著に――テューディの感情は変わっていた。
同じ男を愛した姉妹。テューディの心情の大きな変化は、この世界のマサキに愛される事でその事に気づいた事、そしてウェンディがテューディに対して抱いていた姉妹の愛情に、ようやく気付けたことに起因する。
故に、ウェンディとテューディ、二人に対する侮蔑にも似た眼前の光景は、テューディの精神に許し得ぬ光景として認識される。
テューディの押し込めた激情が陽炎の如く立ち上る美貌に気圧されて、マサキはサイバスターを一度大きく離脱させてから、右腰部装甲に収納されている冷たく輝く白銀の輪胴式拳銃を、サイバスターの左手に握らせた。
ヤラファス島での対ヴォルクルス戦や、南米での対地球連合軍、対イズラフェールでの戦いでも使用される事はなかったサイバスターの射撃兵装だ。
外なる宇宙の神の神話を綴ったH・P・ラブクラフトのものした超狂気的神話群クトゥルー神話及びその高弟ダーレスによって大系化された邪神群に名を連ねる風の神イタクァの名を冠し、その製造に希少なオリハルコンを用いた魔術兵装でもある。
地上にも数えるほどではあるがオリハルコンを産出する鉱脈を持った国家があり、地上では用途の無かったオリハルコンを、DCは開戦以前から水面下の外交活動によって入手していた。
これは無論、ビアンが大破したヴァルシオンと共にこの世界に転移する前後に、オーブ領海内にオリジナルサイバスターの右腕が落着し、その装甲がこれまで利用する術が無く価値を見出されていなかったオリハルコンであると、後にビアンが発見した為だ。
開戦後は水の魔装機カーヴァイルと、C級魔装機ブローウェル及びジャメイムの量産型である風系C級魔装機ティルウェスの開発データと引き換えに、ユーラシア大陸西方のとあバルツフィームという王政国家からオリハルコンの供与を受けている。
その希少なオリハルコンを銃身に用い、サイバスターの装甲同様に分子レベルで魔術文字及び神秘数学的数式などを組み合わせ、物理法則そのものに干渉して極めて高い殺傷能力を発揮する魔銃が産声を上げる……筈だった。
邪悪、いや、人類が幾億幾兆集まろうともその深遠なる思慮思考に触れる事叶わぬ超越存在“旧支配者”の名を冠した事がサイフィスの癇癪に障ったのか、名前に宿る言霊による霊的干渉が発生したのか……・。
イタクァの実射テストは今に至るまで良好な結果を残せてはいない。
逆にデュラクシール・レイに装備された超超高熱プラズマを発射するクトゥグアは、超魔装機であるデュラクシールがもともと精霊との加護契約を結んでいない事がプラスに働き、制御に関して問題はない。
テューディの持つ錬金学の技術体系、地上の魔術・神秘学・呪術、ビアン・ゾルダークを始めとした異世界のオーバーテクノロジー、またゼ・バルマリィ帝国の科学的に解析された霊力に関する技術の総動員したイタクァは、魔術兵装という実験段階の兵器だ。
にもかかわらず、良好とはいえない結果の段階でも、現状の兵器関連の常識をはるかに凌駕する成果を残している。
精神感応という特性を持つオリハルコンの銃身内部で霊的コーティングを受けたエーテル弾頭は、射出者の意識と自らの弾道をリンクさせ、射出者の思い通りの軌跡を描いて飛翔する。
加えてあらゆる空間に満ちるエーテルを弾頭状に加工した為に、周囲のエーテルを取り込みながら無限に飛翔可能な弾頭は、射出者――この場合マサキの集中力が途切れぬ限り、半永久的に目標を追い続ける魔性の猟犬と化す。
飛翔と同時に周囲のエーテルを取り込み、サイバスターの風の属性を帯びて大気圏内、つまり風の存在する空間においては、決して目標を見失う事無く、風そのものが鋭敏なレーダーとなってマサキに目標の位置、状況を伝える。
無限の飛翔時間に、条件を満たせば絶対に目標を逃がさぬ特性の組み合わせは、MSレベルでの戦闘においては無敵に近い存在と言える。
テスト段階において、最長飛翔時間三百秒を超え、フェイズシフト装甲も破砕してみせる破壊力は、特筆に値するだろう。だが、これはあくまでも万全に用意を整えた上での話。
このようなアズライガークラスの強大な敵を前にしての使用は初となる。先程から加えられている、さながら年経た古の竜王の吐息のように放たれるアズライガーの火力の雨の中で、どこまでイタクァの制御が可能か、マサキにはあまり自信が無かった。

「もちろん、いきなり撃てなどとは言わん。私もサポートするから、ここぞという時には嫌というほどのあの悪趣味な機体にエーテルの魔弾をぶちこめ」
「それならなんとかやってみせるぜ。行くぞ、テューディ!」
「ああ!」

 イスマイルの全身に仕込まれたバスターキャノンやカーズといった武装が同時に解き放たれ、マサキは復讐の女神の名を冠する機神を操る恋人に背を預けて再びアズライガーへと突撃を敢行する。

「我々も続くぞ、ライディース!」
「了解だ、兄さん。あの機体、ここで落とす!」

 漆黒の姿へと変わったジャスティスを駆るエルザムが実弟ライディースと共に、サイバスターとイスマイルの援護に加わった。共にミーティアを装備し、防御能力で大きく劣るものの、火力と速度を生かせば正面からアズライガーとも戦う事の出来る二機だ。
 アズライガーは、その冷たい鋼の心臓に火がともってから、最強の敵を迎えようとしていた。

『ぎゃはははは、いいねええ、ゲームはこうでなくっちゃつまんねえってのお!!』
「来いよお前らあっ! 全員まとめて、そこらで死んでいるコーディネイター共みたいにぃい、この、ぼくがっ!!! お前達を!!! この世から消してやるよぉおオオオオ!!」

 世界を焼く終末の火を幻視してしまうほどに、強烈な、そしてなによりも無慈悲な光がアズライガーの胸部の砲口に集まる。

「させん!!」
「遅せえ!!」

 エルザムとマサキの声が重なり、ミーティアの左右から伸びる長砲身から高出力ビームが、サイバスターから射出された二基のファミリアレスが同時のタイミングでアズライガーの砲口めがけて殺意を殺到させる。

『そりゃ狙うよなあ! 見え見えの弱点だもんなあ!? だけどなあ、そんなのこっちもお見通しだってのぉ!!』

 猛るゲーザの声を聞く者は誰一人とていなかったが、アズライガーは光の速さで迫る猛攻を、機体の半身をそらす動きだけで回避し、残る腕のスプリットビームガンの出力を落とし、代わりに連射速度を上げ、エルザムのジャスティス・トロンベに照準を合わせた。
 エルザムは、その巨体故に旋回性能や機動性は決して高くないミーティアで、加速を生かし、光弾の着弾を受ける前にジャスティス・トロンベをその場から離脱させる。
さらに強引なスラスターの噴射で機体をほとんどその場で反転させ、数十門を超すエリナケウス艦対艦ミサイルの雨をアズライガーへと降り注がせる。

「我が返礼、否が追うにも受けて頂く!」

 エルザムに襲いかかるGは身体強化に特化したコーディネイターといえども瞬く間に気を失ってもおかしくないほどに強烈であったが、それにエルザムは見事耐えて見せた。
口の中に広がる血の味を感じながら、エルザムの目は噴煙を吹き出しながらアズライガーに迫るミサイルを追った。

『当たるほど鈍間だと思ったかあ!? ついでに、これが陽動だってバレバレなんだよお、ボケがあ!!』
「そらああ、落ちろお!!」

 アズライガーの背後から全長百メートルを超すビームソードを展開したライのミーティア装備のフリーダム。ミサイルの回避の為に機体に回避行動を取らせれば、その瞬間を狙って、傍らを通り過ぎざまにアズライガーを両断するつもりだったのだろう。

「気づいたか、だがこの距離ならば外さん!!」
『ひゃはあ!』
「無駄無駄あ!!」

 すでにアズライガーの胴に迫る長大な光の刃は、気づいた所で回避不可能な距離にある。本来の歴史におけるオルガ・サブナックとカラミティの如く機体を両断されて、爆発の中に散るのが運命というものであろう。
 だが、それに抗うものがたまさか存在する。たとえば、この悪逆非道の破壊王の様に。
 あろうことかアズライガーはその場で、両足後部と胴体前面にあるスラスターを噴射し、機体を縦に一回移転させて見せたのだ。ビームソードがアズライガーの胴体を切り裂くよりも刹那ほど早く機体を回転させるアズライガー。
 人間の曲芸師の如き軽技を、よもやヴァルシオンの二倍はあろうかという巨体の機動兵器がやってみせる現実は、目撃した番人の誰もが受け入れ難いものとして認識しよう。

――馬鹿な!?

 その一言を浮かべて凍るライの思考。しかし、それは即座に活動を再開させた。機体を回転させているアズライガーが、頭部のツォーン四門をこちらに向けているのを、類稀な反応速度を持つライは認識したからだ。

「ッ!!」

 アズライガーを両断するつもりで加速していた以上、このわずかな、それこそ一瞬という言葉よりも短い時間で回避行動に移るのは不可能。ライはひたすらにフットペダルを踏み込み、ミーティアに加速を命じていた。
 アズライガーの頭部より放たれる雷の短槍が、ミーティアの後部に着弾し、高出力のビームに撃ち抜かれたミーティアはたちまちフリーダムにアラートを鳴らさせた。

「ミーティアパージ。くっ、みすみすミーティアを失うとは!」

 搭載していたミサイルや推進剤を巻き込んで大爆発を起こしたミーティアをパージし、盾を構えながら噴煙から姿を見せたライのフリーダムに、さらに迫るアズライガーの追撃は、両腰に備えた470mmターミナス・キャノン。
 咄嗟にルプス・ビームライフルを構え、反撃を行おうと試みるライ。盾の防御は意味を成さないと瞬時に理解したが上だが、例え反撃を行えようともそれはアズライガーにとって蜂の一刺しにも劣るだろう。
 自分の運命の糸がぷつりと断たれる音を、この時ライは幻聴していた。そして、それをかき消す風騎士の咆哮も。

「冥府の刃! 烈風の如く!!」
『ああっ!?』

 ライの目を持ってしてもかすかに白銀の流れを認めるのが限度の、超高速で飛ぶサイバスターの一刀がターミナス・キャノンの砲身を二門とも切り裂いていた。
アズライガーのコントロールを奪ったゲーザは、複数のソキウス達の知覚を強奪し、荒々しく吹いた一陣の刃風を追う。風は、すでに数百メートルの彼方で白銀の道に翡翠の雪を降らしていた。
彼方の怨敵へ胸部のスーパースキュラを向け、そこで既に眼前に迫るサイバスターの威容に気付く。

――こいつ、速い!? 速過ぎる!!

「おらおらおらあ、喰らえ、奥義ダンシング・ディスカッター!!」

 ディスカッターをサイブレードへと昇華させるプラーナを斬撃に乗せ、高まるプラーナがサイバスターの躯体を躍動させる。TP装甲、PS装甲に依らずとも堅牢極まるアズライガーの装甲に、浅い斬痕が幾筋も重なり合って無数に刻まれてゆく。
 サイバスターを撃墜せんと巨体に搭載されているレーザー砲塔を稼働させ、EフィールドやTEスフィアを解除したが為に、展開する隙を与えぬサイバスターの神速の刃が切り込んでいるのだ。
 だが、ゲーザはサイバスターの神速にこそ驚嘆したものの、その攻撃には薄ら笑いを浮かべている。無論、浮かべるべき顔を失っている以上、心情的な意味合いになる。

「そんなおもちゃの剣で、このぼくのアズライガーが、斃せるものかよおお!!」
「くそ、なんて固い装甲だ!?」

 精霊界や荒れ果てた未来で修業したわけでもなく、ちょっとプラーナを乗せて数限りなく切りつけるだけの、その場の勢いで名付けたダンシング・ディスカッターではアズライガーに明確なダメージを与える事は出来なかった。
 アズライガーにダメージを与え、動きの鈍った所でイタクァのエーテル弾頭を撃ち込む気でいたのだが、これではあまり効果は見込めまい。

「こうなりゃ、もう一回……」
『なーにをやっとるか、マサキ・アンドー!! さっさとそこのデカブツを片づけてこっちの応援にこい!!』
「うるせえ、ヴィガジ!! 自分の尻ぐらい、自分で拭きやがれ!!」

 サイバスターのモニターに映し出された白目しかない禿頭に、マサキは怒鳴り返した。この二人の相性はよろしくない。流川と花道的な意味で。
 マサキ達がアズライガーと死闘を繰り広げている頃、本来登場しているはずのマシンから、B級魔装機に乗り換えていたインスペクター四天王の内三名は、アズライガーの守護を任された二機の巨人達と激突していた。

「ええい、あ、こら待てマサキ・アンドー!! 貴様、人の話は最後まで聞けと母親に教わらなかったのか!! お前の母ちゃん、デーベソ!! ……ええい、地球に伝わるという最大の侮辱の言葉に反応せんとは、マサキめ通信を切りおったな!」
「このタコヴィガジ! 馬鹿な事やってないで、こっちに集中しな!」
「……」
「ええい、わかっておるわ!」

 アギーハは、高速で飛び交う翡翠色のエネルギーを纏った打撃型遠隔操作兵器シックススレイブの猛攻を、ロングソードで捌きながら、アギーハがマサキと低次元の言い争いをしているヴィガジを怒鳴りつけた。
 一方のヴィガジも、通信に気を取られている間に迫っていた敵の振り上げた、巨大な白銀の聖刃ディバインアームを、とっさに掲げたスマゥグのバルディッシュで受け止める。

「この、ヴァルシオンにベルゲルミルだとお!? シャドウミラーの連中が残したデータにあったオリジナルほどではないが、この機体では!!」
「弱音を吐くんじゃないよ! あんたそれでも文明監査官の一員かい!? この機体だって悪かないんだ。男なら意地をお見せ! ウチのダーリンみたいにね!!」
「………………」
「ぬああ、やかましい!! 戦闘に集中させろ! こんのバカップルが!!」

 ヴィガジのスマゥグ、アギーハのジャメイム、シカログのブラウニーらが相対していたのは、アーウィン・ドースティンの量産型ベルゲルミルとグレース・ウリジンのヴァルシオン改である。
 この戦場に置いてイングラム・プリスケンが使用している真の力を発揮した場合のR-GUNパワードや、ヒューゴ・メディオの搭乗している極めてオリジナルに近いガルムレイドと並び、地球連合側では最強級のスペックを誇る。
 この二機に登場しているのがいわゆるニュータイプ的な感覚に目覚めつつある二人であり、パイロットの安全を配慮した簡易版とはいえゲイム・システム搭載機である事を鑑みれば、いかにインスペクター四天王の三人といえども苦戦は必至であった。
 シカログが絶妙なタイミングでブラウニーのブリッジトガンで牽制を加え、ヴァルシオン改はスマゥグから離れる。つづけてヴィガジもシカログの二撃目のブリッジトキャノンに合わせ、スマゥグにドラグショットを撃たせる。
 ともにプラーナを基とする魔術兵装だ。ヴァルシオン改の持つアンチビームフィールドやEフィールドも大きな効果を発揮する事はない。
だが、迫る火竜の炎弾と大地の巨人の砲撃を受けてなお、深い青を湛えた魔王は、その装甲に焦げ跡一つ付けず余裕さえみせる動きでそのすべての攻撃かわし、そればかりか背から延びる竜頭の様なパーツに青と赤の光が零れはじめる。

「ちい、クロスマッシャーか。メガ・グラビトンウェーブが無いだけまだましとはいえ!」
「……」
「口を動かす暇があるなら、腕を動かせ? 言われずとも分かっているわ、シカログ!」
「ん~~、なんというか愉快な人達と戦っているような気がしますぅ」

 ゲイム・システム用の顔の上半分を覆うヘルメットを被ったグレースが、どこか間延びした声で、声は聞こえずともなんとなく漫才みたいなやり取りをしていそうな雰囲気を感じ取り、そう呟く。
 あながちはずれでもない当たり、さすがニュータイプと評価すべきなのか、単なる勘というべきなのか。

「でもとりあえずは、クロスマッシャー♪ ポチっとな」

 眼を焼き潰すほどに輝きを増すヴァルシオン改の背より放たれる、二重螺旋を纏う白色の槍。たとえ特機といえども直撃すればただでは済まぬその一撃を、羽虫の様にさっとスマゥグとブラウニーは左右に分かれて回避する。

「ち、ガルガウかドルーキンがあれば、一撃や二撃は被弾しても構わずに突っ込めるものだが。この機体の火力と装甲ではどうにも決め手に欠けるか」
「……」

 黙したままのシカログではあったが、心中ではヴィガジの発言にある程度理解を示していた。今自分達が載っているB級魔装機も決して悪い機体ではない。
生前交戦したヒリュウ・ハガネ隊で運用されていたビルトシュバインや、アルトアイゼンなどと肩を並べるだけの性能は有しているし、自分達との相性もなかなか良好だ。
ただ、これらの機体に比して自分達の本来の乗機の方が数等上の性能を持ち、それらに乗っていたら、こんな苦戦はしないという確かな自負もある。故にヴィガジがついついそう漏らしてしまうのも仕方はないと、シカログは判断していた。
ただ、ヴィガジと違ってシカログが愚痴を零さないのは、人生が常に困難な選択を迫られ、こちらの用意が整った状態で迎えられる事など滅多にない事を知っているからだ。
ありとあらゆる困難も、持ちうる手札で撃ち破らなければならないと、この静かなる巨漢は心肝に刻んでいるのだ。迫る困難に常に最良最高の状態と豊富な選択肢を持った状態で相対できる事など、まずありはしない。
 シカログは臍の下“丹田”に意識を集中させ、体内で力を爆発させるイメージを思い浮かべる。わずかに間を置いてシカログのプラーナがブラウニーの全身を駆け巡り、機体の性能を底上げする。

「……!!」
「ぬ、シカログめ。大した気迫だ。おれも愚痴ばかり零してはおられんか」

 同じ魔装機乗り、そして文明監査官としての自尊心が刺激されたのか、ヴィガジはそれまでの無駄口を一切噤み、スマゥグの操者になって以来フェイルやテューディに受けさせられたプラーナのコントロールを行う。
 地上のヨガや古代中国の仙人に至る過程で発生した、修行を受けた万人の内、一桁しか生き残らないという古代借力(こだいしゃくりき)といった武術を強制的に受けさせられたせいで、確かにプラーナのコントロール技術は増していた。
新たにスマゥグから放たれる怒涛の気迫のプレッシャーは、グレースに頬を撃たれたような錯覚を覚えさせるほどに密度を濃くしている。

「ぬああああ!! 行くぞ、ヴァルシオン! いずれはあのビアン・ゾルダークの首も取らねばならぬかもしれんのでな! 貴様はその予行演習にしてやろう!」

 つるりと禿げあがった禿頭に青筋浮かべたヴィガジは、波に打たれながらも厳然とたたずむ巌のように険しく表情を引き締めたシカログと共に、グレースの駆るヴァルシオン改へと果敢に突撃した。

「うわ、なんかちょっと暑苦しいといいますか、思わず引いちゃうなにかがありますね~」

 パイロットだけで見れば、二十歳にもならない少女に襲いかかる禿頭の巨漢二人の図が出来上がるわけだから、ある意味グレースの発言は正しい。
 余裕があるからこそそんな軽口も叩けるのだが、実際にはグレースは時折脳に突き刺さる電流の針の様な痛みに、眉を顰めていた。ゲイム・システムによる脳への負荷が、グレースの限界に迫りつつあるのだ。

「すみませんけど、私も本気で行きますよ~!」

 どこか呑気とも取れる声の響きに、自身の破滅を告げる鐘の音が迫っている事に対する恐怖が隠れていると、聞きとる事が出来るのは、アーウィンだけだったろう。
 だが、そのアーウィンもまた、グレースの危機を感じ取る余裕はなかった。アギーハのジャメイムのみを相手にしている状況ならば、グレースの支援に駆けつける事も出来ただろう。
 しかし、彼の操る量産型ベルゲルミルの前に立ち塞がっているのは、風の魔装機のみではなく、峻険な大山脈の如き威厳と、彼方の見えぬ大地の様に雄大な迫力を湛える大地の魔装機神ザムジードがいたのだ。
 突貫で作り上げられたとはいえ、そこは希代の天才ウェンディ=ラスム=イクナートの実姉テューディの手掛けた機体だ。すでに宇宙用の調整も万全に済み、大地の精霊ザムージュからの加護も十分に機能している。
 背に負った大口径プラーナ砲エレメンタルバスターが、操者リカルドのプラーナを糧に極太の光の柱となって虚空を穿ち、その光の柱の中に二基のシックススレイブが飲み込まれる。

「本命は外したか。つれないねえ!」
「ちいっ、南米で確認されたDCの特機か!」
「そらそら、あたいから目を離すんじゃないよ」
「くっ」

 身を翻す量産型ベルゲルミルに迫るジャメイム。両手に握ったロングソードが、膨大なプラーナの光に包みこまれ、ジャメイムの持つ技の中でも威力では一、二を争う天空斬が放たれる。
 咄嗟に、左手の手首から肘に向かって伸びるビームサーベルを起動して天空斬をかろうじて受ける。気性の激しいアギーハのプラーナを烈火の如く滾らせた天空斬が、じりじりと光の刃の中へと斬り込む。

「ビームサーベルを切り裂く? ABCソードか!」
「死にな!」
「だが、それは油断だ」

 生き残っていたシックススレイブが、ジャメイムの背後で旋回する勢いも凄まじく、鎖から解き放たれるのを待つ猟犬の様に浮いていた。

「後ろ――!?」
「刻め、シックススレイブ!」
「ちょいな!」

 ジャメイムの背を切り刻むべく動きだしたシックススレイブを、今度はプラーナの光を纏ったザムジードの拳が殴り飛ばす。元飛行機乗りという経歴の故か、リカルドの視野は広く、熱を入れて狭窄的になりがちなアギーハを良くサポートしていた。

「悪いね、リカルド」
「いいさいいさ。相手がいても美人が死ぬのは世界の損失だからな」
「あはは、やっぱりあんた分かっているじゃないのさ。今度一杯奢ってあげるよ」
「上等なのを頼むぜ」

 アギーハ、今も文明監査官の矜持だのなんだのと口にするヴィガジに比べ、シカログと二人で過ごしたこの世界での穏やかな時間を愛している事を、認めている。
生来の気性の激しさは変わらぬが、文明監査官としての責務も半ば放棄したような状況である事もあいまって、DCに協力することや地球人と馴れ合う事に対する禁忌の念がまったくなくなっていた。
既にシカログという恋人のいるアギーハに対してはリカルドもさしてアプローチする事もなく、今は気心の知れた酒飲み友達というポジションに落ち着いている。

「任しときな。ついでに店を再開させたらしばらくはただ飯食わせてやるよ!」
「オッケー、だったら目の前のこいつをさっさとスクラップにするか」

 マシンナリーライフルを構え直し、三基に減ったシックススレイブを背のフレームに戻した量産型ベルゲルミルを前に、ザムジードとジャメイムは肩を並べる。アーウィンの神経を圧するプレッシャーは、流石は魔装機神というべきか。

「DCがこれほどの戦力を持っていたとはな。だが、ここでむざむざやられるようなおれではないぞ!」

 ゲイム・システムによる精神への負荷を感じながらも、アーウィンは戦意の炎に新たな薪をくべて、眼前に立ちふさがった機神達へと挑んだ。

「うおおおお!!」
『あひゃあ!!』

 マサキの咆哮に呼応し、大上段に構えられたディスカッターがプラーナの烈風を纏ってサイブレードへと昇華される。美しくも雄々しき刃より放たれる真・天空斬を、アズライガーの右肩で勢い激しく回転する巨大ドリルが迎え撃った。
 接触面から盛大にプラーナと装甲の火花を散らして衝突するも、サイバスターが螺旋を描くドリルの勢いに弾かれる形で、即座に決着がついた。
 そのまま繰り出されるアズライガーの握り拳の直撃を受けたサイバスターはあえなく後方に吹き飛ばされ、カバーに入ったライのフリーダムに受け止められる。

「大丈夫か?」
「あ、ああ。わりいな。しっかしとんでもねえバケモンだぜ、あの機体」
「確かにな。アレ一機にザフトのMSが百四十機、戦艦が十隻沈められた。いくら地球連合といえども、あんな機体を簡単に作れるとは思いたくはないがな」
「冗談! あんなのを量産されたらおちおち寝てもいられねえ」
「ふ、それだけしゃべる元気があるのなら、期待させてもらうぞ。DCの助っ人」
「分かったよ。まあ、任しとけ、損はさせねえぜ?」

 そう言うや、フリーダムに抱えられていたサイバスターは再び勢いよくアズライガーめがけて飛びだした。
別に長年肩を並べて戦場を共にした戦友の様に語り合うライとマサキの様子に、悪鬼羅刹も震えるかの如き冷たい笑顔を浮かべていたテューディに気付いたからではない。
現在、エルザム、ライ、マサキ、テューディというこの場ではこれ以上望むべくもない取り合わせの四人を相手にしてなお、アズライガーはその威容と脅威を維持していた。
今もエルザムの駆るミーティアから放たれる無数の火器の乱舞を不規則な回避運動でかわし、同等以上の火力で苛烈すぎる返礼を加えている。
肉体的な制限を失い、機体そのものとなった事と引き換えに、機動兵器の操縦能力という点において比類なき能力を得たゲーザの魔的な技量であった。
マサキもなんとかイタクァの全霊を賭した一撃を見舞おうと隙を窺ってはいたが、イスマイルの放つオメガブラストや、フリーダムのフルマット・ハイバーストを防御するのと同時に四方に向かって際限なくビームを走らせるアズライガーを捉える事が出来ずにいる。

「くそ、エネルギー切れって言葉を知らないのかよ、あいつは!!」

 今が崩せぬ破壊王の牙城に、マサキは焦燥に駆られた声を上げる。それが聞こえたのか、ゲーザのもはや正気の一片も残されてはいない、狂気を伴侶に選んだ叫びが木霊した。

『ああはははああああ。潰す潰す潰す! プチプチプチ、プチッてなああ!!!』