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SRW-SEED_ビアンSEED氏_第76話

Last-modified: 2013-12-26 (木) 22:58:16
 

ビアンSEED 第七十六話 汝、誰が為の剣か?

 
 

 際限なく生まれ出るメディウス・ロクスの群れを相手にするザフト・DCの戦闘を目に映しながら、ゲヴェルの周囲で警戒態勢にあるガルムレイドのコックピットで、ヒューゴ・メディオは奇妙なデジャ・ヴュを覚えていた。
 MSとは異なり、数人が入ってもまだ余裕のあるコックピットの中は静寂ばかりが満ちていて、ヒューゴの呼吸音がいやに大きく響いている。
 乱れ交ってはビームと銃弾、そして破壊の意思と殺気を交差させているメディウス・ロクスを目にする度に、脳の奥でチリチリと何かが焼けるような感覚を覚えている。
 メディウス・ロクスそのものは以前に交戦した事があったが、その時にはこのような感覚は覚えなかった。
 だが、突然こちらの通信に介入してきたあの女と、AI1と呼ばれたモノに乗っ取られたジェネシスを目にした時、一際強く心臓が鼓動を打ち、一瞬にも満たない時間、脳裏にとある光景が浮かんだのだ。
 どことも知れぬ宇宙で、地上で、すべてが混沌の渦に飲み込まれてゆくような空間で、数限りなくガルムレイドに、あるいはザフトの開発したサーベラスに乗り、誰かと共に戦う自分の姿と、声を。

 

――多少の無茶は
――承知の上よ!

 

 自分の言葉を継いで共に戦う『彼女』は一体誰なのだろう。そして、なぜ自分はこんな白昼夢を見る? どうして幻聴が聞こえるのだろう?
 ガルムレイドの操縦桿を強く握りしめながら、ヒューゴは、炎の様な形をしたオレンジ色の眉を寄せて、今にもガルムレイドを突撃させたい衝動を抑えながら、ジェネシス破壊に動くザフト・DC、ノバラノソノ達の戦いを見つめていた。

 

   ▽   ▽   ▽

 

「受けるがいい、ビッグバン・ウェーブ!!」

 

 ビアンの容赦の響きを捨て去った声に応じて、ネオ・ヴァルシオンの胸部に連なった三つの白銀の球体の一つが輝きを増し、宇宙開闢を引き起こした現象の名前を持つ広域攻撃兵器を起動させる。
 ビッグバンの鬼の超エネルギー、とまでは行かぬが、戦場で浴びせられるのは御免被りたい莫大なエネルギーが白い光と共に、ネオ・ヴァルシオンの前面に放射される。
 光の速さで放射される破壊の波をモロに浴びて、ネオ・ヴァルシオンの周囲を取り囲もうとしていたメディウス・ロクスがまとめて十機ほど消滅する。破壊されたのではない、消滅したのだ。
 ビッグバン・ウェーブの超高出力エネルギーの直撃が、塵芥を残す事さえ許さなかったのだ。シュウのネオ・グランゾンが装備するゾヴォーク星間共和国の技術を、この真紅の大魔王に移植していたようだ。
 天地創造のごとく光芒を煌めかせて、爆砕し散るメディウス・ロクスの様を見ながら、ビアンは周囲に視線を巡らせる。識別機能を持たせた広域先制攻撃兵器を搭載していない事を、今ほど悔いた事はない。
 ワーム・クロスマッシャーや通常のクロスマッシャーなどはともかく、メガ・グラビトンウェーブやビッグバン・ウェーブ、オメガ・ウェーブなどは、味方を巻き込みかねない。
 誤射を防ぐ安全装置やシステムは無論あるが、それを補助する人間の方に問題がある。ビアンの時折混迷する意識が、ネオ・ヴァルシオンの操作を危ういものにしてしまいそうになる。
 パイロットの安全を考慮した緊急医療システムを起動させ、コックピットシートからせり出した細い銀色のロボットアームが、先端に備えた無針アンプルをビアンの首筋に打ち込み、増血剤や各種の栄養剤・興奮剤を投与する。
 同時にシートに微弱な電流が流れて、ビアンの神経系に作用し強制的に意識を覚醒状態にする。過剰な投薬の副作用を抑えるセーフティーを、ビアンはすでに外している。戦闘が終わった後に襲い来る負荷の数々を、ビアンは考えない事にしていた。
 ニュートロン・ジャマーの妨害作用など問答無用で機能する重力センサーや空間測定レーダーが映し出す、さらにジェネシスから生まれるメディウス・ロクスとは異なる熱源反応を睨む。
 緑と赤の二種の塊。いずれも地球の昆虫などを元に、悪夢のような色彩の変貌と形状の変化を与えた様な、吐き気を催す姿をしていた。それぞれシニストラ、デクステラという名の、大本を正せば調査用の機械だ。
 メディウス・ロクス内に残っていたデータを、ラズナニウム装甲で再現し、さらに強化を施したものだ。エルデやアルベロが生前、最後の戦いを繰り広げた世界でも、同じモノが生み出され、マグネイト・テンの面々と激闘を繰り広げている。
 メディウス・ロクスの量産よりもコスト的な面で増産しやすいのか、メディウス・ロクスの生産比率が変わり、シニストラとデクステラの数が加速度的に増している。
 その背後で、ようやく変形を終えて、人類の心の中で常に邪悪なささやきをしてきた悪魔が現れた様な姿へと変わった、AI-1セカンドの姿と生み出された三種の機動兵器達の共演する光景は、地獄の底から湧いてきた悪魔の群れを思わせた。

 

「ふん、プロジェクトURの成果の相手がプロジェクトMXか。面白い」

 

 出力を最大にしたクロスマッシャーを、群れなす赤と緑の魔物どもへと放ち、ビアンは先陣を切った。
 ネオ・ヴァルシオンに追従するシン達も、新たに姿を見せる敵の影を絶えず撃ち抜き、破壊し続けている。ステラはヒュッケバインのブラックホールキャノンこそ温存しているものの、マイクロミサイルや八連装ミサイルはすでに撃ち尽くしている。
 アウルは近接戦闘主体の機体故にインパクトランスとビームサーベルで戦っているが、臀部のミサイルランチャーはとうにエンプティだし、胸部のマシンキャノンも残弾が心許ない。
 スティングのアカツキは、オクスタンライフルのBモードのカートリッジは既に無く、メディウス・ロクスのディバイデッド・ライフルの光弾を、シン達を庇って数度受けたヤタノカガミも、今は軋む音を立てている事だろう。
 そして、シンは

 

「っ!」

 

 声を絞り出す事も出来ず、音声入力を切り、半ば本能的な操作のみでグルンガスト飛鳥を駆り、明らかに鈍った反応でかろうじてシニストラやデクステラと戦っている。
 脊髄反射的な戦いでも、それだけ戦えるのだから大したものだが、本来のシンを知る者からすれば無残と見える戦いぶりだ。シンがこのざまでは、ムラタも相手にしようとは思わないだろう。
 シンのフォローに意識を割きながら、スティングは同時にビアンの容体にも気を配らねばならなかった。なにしろ一勢力の頂点が、自ら最前線に赴くという戦闘における最悪とも取られる選択肢を選んでいる。
 ビアンの容体が万全なら、乗機であるネオ・ヴァルシオンの非常識ない性能とあいまって、スティングもさほど心配はしなかったかもしれないが、今のビアンは撃墜される可能性よりも、コックピットの中でひっそりと息を絶える可能性の方がはるかに高い。
 戦闘以外に肝を冷やさねばならない対象が二人も居る状況で、スティングは上手く戦えていたといえよう。
 対AIセカンド戦の先鋒を務めるビアン達の周囲に、味方の識別信号が増えた。ビアン直属の親衛隊ラストバタリオンである。LB仕様のガームリオン・カスタムやバレルエムリオンが編隊を組んでビアン達の周囲に群がるメディウス・ロクス達と交戦を始める。
 ひときわ巨大な熱源反応に、ビアンが目を向けた。ビアンのオリジナルヴァルシオンを元にして、C.E.の技術で再現したヴァルシオンシリーズの特機“ヴァルシオン・ギナ”である。
 返り討ちにした勇者の血で濡れた様に赤いネオ・ヴァルシオンと比べれば、夜の帳を燕尾服の様に纏った貴公子然としたヴァルシオン・ギナことギナシオンが、ネオ・ヴァルシオンの隣に並ぶ。
 さらに後方からテスラ・ドライブの光の尾を引いて、鋼の戦乙女ミナシオーネと従者である超音速の妖精フェアリオンたちも姿を見せる。スティングはおい、と頬が痙攣するのを意識した。
 ギナシオンとミナシオーネのパイロットはそれぞれ、ロンド・ギナ・サハクとロンド・ミナ・サハクDC副総帥の両名だ。よりにもよってDCのトップ三人が最前線に顔を並べているのだ。
 自分達が万が一にも撃たれる事態をまるで想定していないのかと、スティングは説教を垂れたくなっても無理はないだろう。

 

「なんと言われようがお前について行かせてもらうぞ」

 

 とミナ。ヴァルシオーネタイプ用の専用パイロットスーツに身を包みながら、どこか憮然と告げる。置いて行かれるのは心外だとばかりに告げる表情であった。

 

「ふ、総帥を討たれたとあってはDCの名折れだ。ラストバタリオンの名誉にも関わるのでな、私も轡を並ばせてもらうぞ」

 

 ギナが隊長を務めるラストバタリオンは、ウルブズに並ぶDC内の最高戦力集団だ。とはいえ、二つのウルブズに続きラストバタリオンまで前線に出ては、マイヤーの居る主力艦隊の安否が気遣われる。そういう疑問を顔に浮かべたビアンに、ミナが答えた。

 

「トロイエ隊にロレンツォ、それにエリカ・シモンズの調整した疑似人格コンピュータ搭載の無人MS部隊も配置してある。背後の連合艦隊に挟撃されようが、容易くは落ちん」

 

 疑似人格コンピュータ搭載MSは、以前から開発していた戦闘用AI搭載型MSの発展型だ。要するにジャンク屋ロウ・ギュールの所に居る『8』というコンピュータとほぼ同じモノと言っていい。
 アルベロと共にコズミック・イラに来たAI1などを元に開発されたAIで、戦闘以外でも日常的な会話をこなす器用さも見せている。開発者達の間では、ほとんど人間と同じ扱いを受けているという。

 

「我らは後方を気にせず、ただただ眼前のクズ鉄どもを蹴散らし、蹂躙し、粉砕すればよいのだ」

 

 傲慢なまでのギナの口調に、むしろ頼もしさを覚えてビアンは薄く笑った。サイレント・クライの両ウルブズは、先行するビアンよりかなり後方に居る。このままネオ・ヴァルシオンとLBの戦力で一気にAI1セカンドの喉元まで突っ切るのも手か。
 そう思案しながら、ザフトのWRXや残った核動力機部隊との合流を図る中、ジェネシス破壊に動くビアンをはじめとした全員の機体に、アルベロのガームリオン・カスタムからデータリンクが成された。
 予備機のガームリオン・カスタムに乗り換えたアルベロが、彼方に見えるAI-1セカンドを見て、苛立たしげに舌打ちを打った。
 この世の産物とは思えぬ異形の姿に変わり、おぞましい咆哮を今にも上げそうな姿へと変わったAI-1セカンドの姿は、生前の世界で見た憎むべき仇敵デビルガンダムを思い起こさせた。
 アルベロが隊長を務めていた本来のクライ・ウルブズを壊滅させ、一度シャッフル同盟によって倒されながらも、ある者たちの目的の為に蘇り、マスドライバーと融合したデビルマスドライバーを。
 さしずめデビルジェネシスとでも呼ぶべき姿に変わったジェネシスと、先程のエルデ・ミッテの通信で、アルベロは消えた筈の復讐の火種が燻り始めるのを感じていた。答えはないと知りつつも、アルベロはAI-1に問いかけた。

 

「見ろ、AI-1。貴様の生みの親があそこに居るぞ。おれ達同様に、やはりこの世界に来たらしいな。あの世界での敗北で、お前は兵器としての在り方を学び、そしてそれを受けいれた。
 だが、奴は何も変わらなかったようだな。死してなお妄執からは逃れられなかったようだ。ならば、おれの手で生の辛苦ではなく、死の恐怖を奴に選ばせる。良いな?」

 

 AI-1はやはり答える事無く、アルベロの指示によってDC、ザフト、ノバラノソノの全機へのデータリンクを続行している。
 かつてMXの世界での最後の戦いで、ラ・ムーの星を取り込み暴走したAI1が記録していた戦闘データを共有する事で、オリジナルメディウス・ロクスに残されていたデータを反映させたAI-1セカンド軍団との戦いを有利なものに変えるためだ。

 

「その動きは、カミーユ・ビダン! そっちはヤマダ・ジロウか、そしてこいつらはガンダムチーム」

 

 ふん、と嘲りの笑いと共に、アルベロは時に敵として、最後に味方として戦ったあの世界の戦士達の動きを思い出しながら、彼らの癖を思い出し、的確に機体を操作して反撃をする。

 

「動きそのものは確かに奴らのものだ。だがな、やはり貴様は学ばなかったか、エルデ・ミッテ。機動兵器の性能を最大に、いやそれ以上に引き出す最大の要因が、『人間』である事を!」

 

 そのアルベロの言葉を証明するように、本来のパイロット達であったなら苦戦必至のエース達のデータを忠実に反映したはずの写し見達を、見る間に撃墜してゆく。
 機械は機能を百パーセント引き出せる。だが、人間は百パーセントを超えるものを引き出す。それを、今まさにアルベロは実演して見せているのだ。
 シン達に追いついたアルベロに、ステラが嬉しそうに声を上げた。厳しくて怖い部隊の隊長というよりは、熊みたいなお髭のおじさん、とステラの中では認識されている。どうにも中年との相性がステラは良いらしい。

 

「アルベロ!」
「”隊長”を付けろと言っているだろう、ステラ。お前達も無事なようだな。あの女の頬を張り倒しに来たか。ふん、エルデ・ミッテめ、あそこまで突き抜ければいっそ見事という他ないかもしれんな」
「なに、隊長、知り合いなわけ、あのオバサンと? ていうかさ、隊長のAI-1て名前同じじゃねえ? どういうわけだよ」

 

 これはアウルだ。若干疲労の色は見えるが、まだまだ溌剌とした活力を輝かせていて、このまま長丁場の戦闘が続いても最後まで、軽口を止める事はないだろう。

 

「軍の極秘プロジェクトで色々と関わり合いがあってな。以前、おれが引導を渡し損ねた相手だが、確かに冥土送りになったはずなのだが、ここでもう一度止めを刺してくれる」
「因縁のある相手だったか」

 

 以前、アルベロから聞かされた話を思い出したビアンが、短く呟くのも大儀そうに言った。AI-1やアルベロの居た世界の話を聞いた時に聞かされた中に、エルデ・ミッテの名は何度も出て来たのだ。
 ビアンの声色に危険なものを聞き取り、アルベロは浮かべた獰猛な笑みの代わりに、険しい表情を浮かべた。何度も戦場で聞きとった、死の手に掴まれた者の声に極めて似た響きだった。
 ビアンでさえこれでは、より重い怪我を負ったというシンなど、いつ落命してもおかしくはない状態に違いない。我が身を可愛いと思う神経は、この二人に期待してはならぬようだ。
 さらにリカルドのザムジード、インスペクター四天王の三人、ザフトのブランシュタイン兄弟、ノバラノソノのアスランが駆るジャスティス、さらにサーベラスも加わり出す。
 ムウやディアッカ、三人娘らはすでにノバラノソノ艦隊へ戻り、カーウァイの指揮下で襲い来るAI1セカンドの生産部隊と激戦を繰り広げている。ザフトの方も、ホーキンス隊やサトー隊といった精鋭部隊が獅子奮迅の戦いぶりを見せる。
 相手がわけのわからない気が触れたとしか見えない女であっても、それが本来守るべきはずだった決戦兵器ジェネシスであろうとも、戦わねば故郷は守れず家族を守れない。
 その一点が、プラントに所属するコーディネイター達の精神に闘争の焔をごうごうと燃やす。彼らの戦いぶりは故郷を守る誇りに満ちた戦士達のものだった。

 

「AI-1に奴らの戦闘データをお前達の機体にリンクさせた。これでずいぶんと戦いやすくなるはずだ。さあ、一気に蹴散らしてあの女に人間の底力というものを見せ付けてやれ!」

 

 鬨の声を挙げるアルベロに応え、ネオ・ヴァルシオンを旗頭にした軍勢は、デビルジェネシスを支配するAI-1セカンドと、その狂気の根源エルデ・ミッテを討つべく銃火をさらに激しいものへと変えた。

 

   ▽   ▽   ▽

 

 AI-1セカンドとの魔戦を繰り広げる戦場からわずかに離れた虚空の闇で、自由と神の意思を冠する二つの機体が、因縁に決着を着ける為の戦いを繰り広げていた。
 人類最高のスーパーコーディネイターとして生まれ、異世界の因子を取り込み、その想定されたスペック以上の数値を叩きだす進歩を始めたキラ・ヤマトと、その愛機フリーダム。
 その生まれからして人間の業の産物たる己を憎み、世界を憎み、破滅を望む絶望の影を背負った男ラウ・ル・クルーゼと、その力プロヴィデンス。
 虚空に乱舞するプロヴィデンスのドラグーンは、すでにその数を五つにまで減らしていた。
 宇宙に適応した知覚能力を発芽させたクルーゼの操るドラグーンは、本来の歴史における彼の技量をはるかに上回る威力を発揮していたが、キラの成長はそれ以上のものであった。
 終焉の運命を覆した銀河で戦い抜いた『キラ・ヤマト』の記憶が刻印された、この世界のキラ・ヤマトは、数多の戦友と師に恵まれた事もあって、シン・アスカ同様に驚くべき成長を遂げていたのだ。

 

「あんな人まで世界を滅ぼそうとしているのも、貴方の望みどおりだというんですか!?」
「ふん、私にとって予想だにしなかった事態ではある。どうやらエルデ・ミッテの望みは全てをあのAI-1とかいう化け物に取り込ませることらしいが、それもまた人類の破滅の形だ」
「だったら、それでも構わないと!?」

 

 フリーダムのルプス・ビームライフルとプロヴィデンスのユーディキウム・ビームライフルとがお互いをセンターマークに捉える。引き金を鋼の指が引き切り、同時に回避行動に移っていた両機の背部ユニットをかすめた。
 左腰アーマー側にマウントされているクスフィアス・レールガンの砲身を展開して、キラはフリーダムに横滑りさせながら、立て続けに超音速の砲弾をプロヴィデンスめがけて見舞った。
 背部ウィングユニット内のバラエーナ・プラズマ収束砲は、高機動形態では使用できないし、クルーゼの張る重厚な光の網から逃れるには、フリーダムを常に動き回らせるしかないから、使用していない。同じ理由でハイマット・フルバーストも論外だ。
 放たれるキラの殺意に脳を刺されるような痛覚を覚え、クルーゼは絶妙なタイミングで宇宙空間を穿つ様に襲い来る超加速弾頭をかわす。到底人間の視力では認識できぬ、音速をはるかに超えた弾頭も、放たれる前から避けていれば当たる道理もない。
 それを可能とするのは、クルーゼが目覚めたニュータイプの感覚によるものだ。だが、その感覚と、ナチュラルとしては極めて優れた天才の部類に属するクルーゼの身体能力を持ってしても、今のキラが相手では互角がようやくといった所であった。
 果たして、何を持って気付いたのか、キラは背後に回り込んだドラグーン二基を振り返りもせずに、ルプス・ビームライフルを肩越しに背後に向けて二射するだけで撃ち落として見せる。
 かすかな熱源反応? それともドラグーンが噴き出す推進の炎が目に映ったのか? あるいは、ドラグーンが弾いたスペース・デブリの動きに気づいたのか? クルーゼのドラグーンの操作の癖を覚えたのか?
 どれ一つとっても、ちょっと人間離れした芸当だが、キラが成したのはその全てが理由であった。終焉の銀河世界の戦いすべてで得た経験値を手にし、強化されたキラの能力は、今まさにこの世界で最強のレベルにまで達していたのである。
 ようやく互角と称したクルーゼとキラの技量だが、それは、やはり撤回しなければならないだろう。
 なぜなら、今またドラグーンを失い、プロヴィデンスに軽微な傷を負っているクルーゼに対し、キラの操るフリーダムには一切の損傷が無い。パイロットであるキラの疲労は別にして、今だフリーダムは無傷なのだ。
 戦場での戦闘経験でははるかに自分が上回る筈だというのに、この現実を前にして、クルーゼはやはりスーパーコーディネイター、自分達をはじめとした数多の代償を引き換えにして生み出された存在か、と半ば自嘲するような思いを胸に抱いた。

 

「願わくば、この私の手で人類の終幕劇の幕を下ろしたかったがね。あの女ただ一人が生き残るというのも腹立たしい。だが、ジェネシスが破壊されてはこれまでの喜劇が水の泡だ。万剋の涙を飲んで、あの女のもたらす破滅で妥協するさ」
「喜劇? これまでの人死にも、全部、そう言うのか!? 貴方は、そこまで人間を憎んで!」
「憎まざるを得なかったのだよ。愚かな人間の振る舞いを見れば、体験すれば、誰だって私の様になるさ。そんな世界を作り出した人間の歪みを私は憎むのさ。その最たる象徴、スーパーコーディネイター!! 君は、君だけは、私の手で討つ!」
「そこまで貴方が僕を憎むというのなら、僕は貴方の憎悪を真っ向から受け止めて見せる。僕は貴方が思うほど優れた存在じゃないけれど、貴方の憎悪を受け止める位の度量と覚悟は、ある!」

 

 図った様に二機の動きが止まる。残った三基のドラグーンが、エネルギーを再チャージする為にプロヴィデンスの元へと戻り、接続される。ひゅ、と細い呼吸の音を立ててキラが息を飲んだ。
 フリーダムめがけて、三方へ散るドラグーン。同時にクルーゼは真正面からビームを撃ち、キラはフリーダムの半身を反らせて回避。間一髪の回避は、わずかにフリーダムのPS装甲を焼く。
 正面からのビームに遅れて三方から襲い来たドラグーンのビームは、回避後全スラスターと、バーニアを全開にしてプロヴィデンスめがけて突撃したフリーダムが、一瞬前まで居た空間を貫いた。
 クルーゼの眼には、ドラグーンのビームがフリーダムの残像を貫いたと映った。見る見るうちに大きくなってゆくフリーダムの機体が、こちらへ向けてルプス・ビームライフルの銃口を動かすのが、いやにゆっくりと見えた。
 クルーゼの思考もまた、この極限状況で最鋭敏化し、最速に至る。思考と肉体はほぼタイム・ラグなしに連動して見せた。ドラグーンの子機を失ったバックパックをパージしたかったが、メインバーニアでもある為、そうもゆかぬのがもどかしい。
 ビームがプロヴィデンスの右肩アーマーを貫いて融解させるのと同じくして、弾かれる様にプロヴィデンスもフリーダムめがけて真っ向から突撃した。

 

「おおおおおおお!!!」
「あああああああ!!!」

 

 二人の喉から迸る原始的な叫び。胸の奥に蟠る激情の全てを、憎しみを、悲しみを、恨みを、妬みを、二人の人間が心の底に積らせ育てていた感情という名の獣が、叫ぶのだ。
 互いに向けあった銃口から何度も光の矢が放たれる。ただまっすぐに突っ込みあっているように見える二人は、最小限の回避行動をとり合い、必中必殺を狙った互いの攻撃を回避し続けた。
 傍から見たものが、激突しばらばらに砕け散る二機の姿を思い描く勢いでぐんぐん近づく二機が、ほぼ同時に空いていた左手を動かした。
 プロヴィデンスはシールドと一体化したビームサーベルを振り上げ、フリーダムは左腰にマウントしてあるビームサーベルを逆手で抜き放つ。
 光で描かれた上弦の弧月が、プロヴィデンスが横薙ぎに振るった光の刃を受ける。正確には、プロヴィデンスのシールドのビームサーベル発生器の基部を見事切り裂いて見せたのだ。
 キラは振り抜いたビームサーベルを、プロヴィデンスの左側頭部へと突き立てる。反応する間もなく頭部を貫かれ、メインカメラが死ぬが、サブカメラに切り替わるよりも早くクルーゼは散ったドラグーンを動かした。
 残る三基がフリーダムの背中を狙って同時にビームを放つ。後ろに目が有ろうとも回避できるとは思えぬその攻撃を、キラはフリーダムを飛び込み前転をさせる要領で機体を半回転させ、左手のシールドで受け、クスフィアスの三射で破壊する。
 シールドが光の矢三本を受け止めた時、すでにフリーダムの右手にライフルは、プロヴィデンスの胴を狙い、プロヴィデンスのライフルもまたフリーダムのコックピットを正確に狙っていた。
 息つく間も、瞬きをする間もない一瞬の攻防は、目まぐるしく攻守所を変え続ける。同時に放たれたお互いのコックピット狙いの一撃は、虚しく虚空を貫いた。
 再び離れる二機。肺いっぱいに吸い込んだ息を吐くより、キラは銃口を向ける事を選び、それを牽制するように彼方から降り注いだビームを回避した。
 突如出現したAI1セカンドに誰もが眼を向けて、キラとクルーゼには誰も眼をくれなかったが、ここにきて例外が生まれたらしい。
 その正体を見て、キラの眼が大きく見開かれ、聞こえてきた声に、クルーゼもまた驚きに目を見張った。

 

「あれは、確かWRX!? ザフトのスーパーロボットか」
「ラウ!」
「レイ、君か」

 

 血の絆故か、クルーゼと自分にとっても因縁のある相手キラの存在を感知したレイがイザークやルナマリア、シホらを説き伏せて――いや懇願して、この場に急行したWRXであった。
 地球連合を除く全ての者達がデビルジェネシスに注意を向ける中、当然WRXもそちらに向かうべきであったが、イザークやルナマリアらかしても初めて目にするレイの必死な様子に折れて、こうしてこちらに向かったのである。
 ヴィレッタやシホ達は先に対AI1セカンド戦線に向かっている。
 フリーダムの姿に、アラスカで呼びかけてきた少年を思い起こし、イザークはわずかに眉を寄せた。あの時の少年とは限らぬが、こんな状況で戦っている場合ではないだろう。

 

「ラウ、怪我は!?」
「損傷は貰ったが、私自身は無事だよ。その機体、たしかイザークも乗っていたな」
「クルーゼ隊長、お久しぶりです」
「いや、助かったよ。危うく討たれる所だった。君も立派になったものだな、特機を任されるとはね」
「いえ、ですが今はあのフリーダムを。相手にするよりもジェネシスとの戦いを優先すべきでは?」
「そうも行かぬのだよ。私にとって、そしてレイにとっても」
「レイに? どういう事よ、レイ」

 

 WRXに合体した状態での出力制御に四苦八苦していたルナマリアが、クルーゼの言いぶりに含む所を聞き取り、戦友に問いただした。
 レイは、クルーゼの声の奥底に秘められた怨念を感じ取り、目の前のフリーダムのパイロットに思い当たり、麗美な顔立ちに深い嫌悪の情を浮かび上がらせる。

 

「まさか、キラ・ヤマト!」
「そうだ、レイ。あのキラ・ヤマトだよ」

 

   ▽   ▽   ▽

 

 二人から向けられる憎悪を、肌に突き刺さるプレッシャーとして感じながら、キラは目の前に立ちはだかった新たな敵の姿に、脅威を感じ取っていた。
 クルーゼ一人でもメンデルの時とは段違いの実力に苦戦していたというのにザフトがその威信をかけて作り上げた機体と、それに相応しいパイロットが乗り込んでいるに違いないWRXを同時に相手にする事は、敗北に直結している。
 それでも、恐るべきはキラ・ヤマトといえた。WRX単体とでなら、フリーダムで互角に戦えるほど、終焉の銀河の戦闘経験を完全覚醒させたキラの技量が卓越しているのだ。
 だが二対一、加えてクルーゼとの戦いで神経を減りすらし、AI1セカンドの出現で気が急いてもいる。二機がかりで来られては、一分も保つまい。
 フレイとの約束を胸に、まだ死ぬわけにはいかないと、気力を振り絞るキラであったが、死の横槍はさらに続いた。それまでこちらに向かってこなかったシニストラやデクステラの大群が、大量発生した蝗の様に襲いかかって来たのだ。
 狙いを着けていないかの様にでたらめに放たれるビームや、高速で襲いかかる体当たりを、とっさにその場に居た三機が回避する。

 

「こいつらあ、撃墜するよりも増殖する方が速いのか!?」
「ラウ、下がって、おれ達が一気に片付ける! ルナマリア!!」
「分かっているわ。TE、フルドライブ! 全火器のファイアリングロックオープン!
イザーク隊長、照準お願いします!」
「分かった、行くぞ! 貴様ら全部、まとめてデブリにしてくれる。この、WRXでな! WRX……フルッバァアーーストッ!!!」

 

 破壊の光を灯すWRXの両手十指、ゴーグル型のメインカメラ、内蔵したミサイル弾頭を開放する脚部、肩部のデス・ホーラーも内蔵火器を解放する。
 一斉に放たれた光が襲い来る敵機を、イザークの宣言通り一瞬で破壊し尽す。
 ザフトの技術の結晶と呼ぶにふさわしい、途方もない戦闘能力である。さしものクルーゼも一瞬呆気に囚われ、キラもクルーゼの存在を忘れていたかもしれない。
 宇宙の一角を光の絨毯が覆う中、最大火力を放ち、機体全体にかかる負荷に動きをとめるWRXへと襲いかかる影に、クルーゼだけが気付いた。いち早く彼が気付いたのは、単なる偶然だったろう。
 光の絨毯の中から飛び出て来た半壊状態のメディウス・ロクスが、残った右手のコーティング・ソードをWRX目掛けて突き出しながら、突っ込んでくる。
 気づいたイザークが、回避しようとするも、最大出力での砲撃に、機体の反応が鈍っていたWRXは、イザークの操作に誤差を生じて反応した。

 

「くそ、間に合わ」

 

 イザークが、WRXを貫くコーティング・ソードの衝撃に備えようとした時、二機の間に割り込む別の機影があった。プロヴィデンスである。
 深々とプロヴィデンスを貫いたコーティング・ソードの切っ先が背から抜け出るのを、レイは、いやにゆっくりとアイスブルーの瞳に映していた。
 プロヴィデンスのビームライフルが、やや窮屈な角度からメディウス・ロクスの胴を貫いて沈黙させる。コーティング・ソードに貫かれた箇所から、白い雷の花を咲かせはじめるプロヴィデンスの様子に、レイが気付いた。

 

「あ、ああ、ラウ!」
「無事だな……レイ?」

 

 ひどく苦しげなクルーゼの声が、レイに返ってきた。プロヴィデンスのコックピットには、貫かれた際の衝撃で小さな爆発がいくつも起き、クルーゼも内臓のどこかをやられていた。
 口の中に溢れる血の味を感じながら、クルーゼは、自分の行動に疑問を覚えていた。確かに、レイは自分にとって唯一家族と呼べる存在だ。だが、だからといって、こうして身を張ってまで庇うなど、自分には信じられなかった。
 自分自身のみならずレイさえも含めて人類の破滅を望んだのが、このラウ・ル・クルーゼではなかったか。なのにレイの危機を目の当たりにするや、機体を盾にして庇うなど、まるで矛盾している。

 

(なぜ……私は、レイを、庇った?)
「ラウ、ラウ!?」
「隊長、今助けます、コックピットから脱出してください!」
「内臓をやられた。どの道助からんよ……」
「ラウ、そんな……」
「くっ」

 

 ノイズを交えながら、かろうじて生きているモニターに、くしゃくしゃに顔を歪めたレイが映っていた。かつてのクルーゼと全く同じはずの端正な顔が、流した涙で濡れていた。

 

(泣いているのか、レイ。誰の為に? 私の為に?)

 

 それは、こんな時だからこそ、クルーゼに大きな驚きを与えた。自分の様な存在の為に涙を流すものが居るなど、例えそれが自分の半身とも呼べる存在であれ、信じられなかった。自分の命さえ駒にするような自分の死を悲しむ者が居るなど。

 

「レイ、泣いて、いるのか?」
「ラウ、当たり前でしょう……。貴方は、おれの、家族なのだから」
「そう、か。私は君の家族か、そう、だったな……」

 

 ふっと、自分の口元から力が抜けるのをクルーゼは感じた。“家族”、だからか、自分が体を張ってまでレイを守ろうとしたのも、レイが涙を流すのも。
 今際の際に悟ったその事実に、クルーゼは不思議と穏やかな気分になっていた。

 

「レイ」
「ラウ……?」
「君は、君だ。私ではない。……君は君のなりたい自分になりたまえ。アル・ダ・フラガでもラウ・ル・クルーゼでもない、レイ・ザ・バレルに、他の……誰が何と言おうとも、君は世界にただ一人の君なのだから」
「ラウ、そんな、そんな事」
「ふふ、ああ……そう……だ。キラ・ヤマト」

 

 クルーゼに声を掛けられたキラは、ひどく固い声で答えた。はたしてこの男が、死の間際に何を言い残そうというのか。それが呪いの言葉の様な気がして、キラは思わず身構えてしまう。

 

「そう身構える事もあるまい。君に忠告しておこう……マルキオ導師に気をつけろ」
「え?」
「正確には”奴に憑いたモノ”に、だ。奴自身、どうにかしようと足掻いてはいるが、無駄な……努力だ。世界が、このまま、憎悪に進めば……鍵が開く。門の、鍵が……」
「ラウ・ル・クルーゼ!?」
「ラウゥゥゥゥゥ!!」
「ああ、レイ、どうか、私の様には、なるな。そして、私の……分まで」

 
 

 “生きろ”。

 
 

 そう言い遺して、狂気の道を選んだ男は、新たに生まれた爆発の中に飲み込まれ、消えていった。
 こんな気分で死ねるのなら、悪くない――そう思うクルーゼの想いの残滓と、生きろという言葉が、レイに残されたクルーゼの全てであった。

 

   ▽   ▽   ▽

 

 大口径プラーナ砲エレメントバスターの一撃が、シニストラの群れを掃射し、ブリッジトカノンもそれに続く。LBのガームリン・カスタム部隊のオクスタンランチャーの一斉射撃も加わり、AI1セカンドを守る壁が、徐々に削り取られてゆく。
 絶えずマシンガン・ポッドを撃ち続け、時にコーティング・ソードで切り結ぶサーベラスのコックピットで、アクア・ケントルムはヒューゴと同様のデジャ・ヴュに襲われていた。
 サーベラスのパイロットとして、開発者であるエルデ・ミッテとはそれなりに親交があったが、先程の強制通信で見せつけられた狂気は、その時には片鱗もなかった。
 アクアがWRXチームと行動を共にするようになってからは会う機会もなかったが、その間にあの狂気を育んだものか。どこか背筋にうそ寒いモノを感じながら、アクアは懸命にプラントを守る為に戦い続けていた。

 

『あぁら、まだ死んでいなかったの、アクア・ケントルム?』
「ミッテ博士!?」

 

 サーベラスだけにつなげられた回線から、鼓膜にべっとりと張り付くような声が聞こえてきた。映し出されるのは狂気を孕み、産み落とした女の美貌。

 

「貴女は、こんな事をしてまで、AI-1を成長させたいのですか!?」
『そうよ、そうよそうよそうよそうよ!!! 私のAI-1が、世界すべてを内包し、頂点に君臨する! これが、これに勝る至福があって!? 最も貴女には理解できない事は分かっているわ。
貴女なんかにはこれっぽっちも価値を認めてはいないけれど、そのサーベラスに搭載したTEエンジンには多少の価値があるの。感謝しなさい、貴女も、このAI-1の一部にしてあげるわ!!』
「狂ってる!」
『あはははは、私の望みが狂気だというのなら、それで構わないわ。この幸せを否定するものが正気だというのなら、私は全ての正気を否定し尽すまでよ!』
「貴女という人は!?」
『じゃあ、さようなら、アクア・ケントルム。すぐにAI-1の一部になるでしょうから、その時、また、ね?』

 

 そう言って、ぶつん、とモニターが消える。暗黒に変わるモニターを睨みつけ、アクアは嫌悪を露わにした顔で吐き捨てた。

 

「貴女の思い通りになんてさせないわ」

 

 コーティング・ソードを一振りして、貫いたシニストラの残骸を彼方に打ち捨てて、アクアはモニターを埋めるAI-1セカンドの巨大な影を睨んだ。
 無論の事だが、アクアのサーベラスのみならず、ビアンをはじめとしたDC部隊も、ザフト部隊も決死の覚悟でAI1セカンドと死闘を繰り広げ、その膝元までじりじりと迫っていた。

 

「ぬおおおおお!!」

 

 投与した薬物が効を奏し、鮮明な意識を取り戻したビアンはネオ・ヴァルシオンの性能に巻かせた力押しで、一気にAI-1セカンドを守る壁の突破を敢行した。単調な力押しは愚策だが、それ最善の策となる時もある。
 今は最善となる場合だった。ビアンにギナ、ステラ、シン、スティング、ステラ、アウル、さらにアクアとアルベロも続く。
 ぽっかりと開いた穴を埋めるべく、残ったシニストラやデクステラが集まった所で、ミナシオーネが最大出力のサイコブラスターが押し留める。さらに、リカルドのザムジードも、二発目となるレゾナンス・クエイクで群がる敵を砕く。

 

「行け! 行って、あの女の顔面に拳を叩きこんで来い!」
「あと、ここにはいない連中の分もまとめて頼んます!」
「全力の一撃を見舞ってくる!」

 

 ミナとリカルドにビアンが答え、突入した八機がAI-1セカンド目掛けて各々の武器を振りかざした。

 

『来たわね、脆弱で愚かな人間達! AI-1と一つになる幸せを否定する哀れな子羊。さあ、自分達の無力を知って、嘆きの中でAI-1と一つになりなさい』
「うるせえ、ババア! おれ達はおれ達のまんまでいいんだよ」
「ステラは、皆が好き。一つになれたらさみしくなくなるかもしれない。でもステラはステラのままでいたいの。皆は皆のままでいて欲しい。ステラと違う皆、皆と違うステラ。だから楽しいって思えるんだと思う」
「おれの言いたい事はアウルとステラに言われちまったんでな。アンタを斃す事だけにしとくぜ」
『ふふ、子供の戯言よ。AI-1の中で一つになってから、それを拒んでいた事を後悔しなさい』

 

 クライ・ウルブズの子らが叫び、それにギナとシン、アクアとアルベロも続く。

 

「子供らでさえ異常と分かる貴様の語る狂気の夢など、耳にするだけで汚らわしい。我が前から消えよ」
「アンタに言う事はない。斬る、それだけだ!」
「エルデ・ミッテ、貴女の夢は夢想のままに終わりなさい!」
「ふん、死んでも学習せんとはな。馬鹿は死ねば治るというが、貴様はそうでもなかったか」
『その声、アルベロ・エスト!?』
「久しぶりだな、エルデ・ミッテ。それが貴様の新しいAI-1か、ではおれの所にあるAI-1はお前にとってなんだ?」
『あはははは、貴方もこちらの世界に来ていたとはねえ。なら、その失敗作が一緒なのも分かるわ。私がメディウス・ロクスの残骸と一緒だったように、貴方は失敗作と一緒だったのね』
「失敗作だと?」

 

 狂気そのものの愛情を注いでいたAI-1を、失敗作と断じるエルデに、アルベロがいぶかしげな声を出した。

 

『そうよ! ただの機動兵器として在り続けようとするなんて、私が愛し、育て、創り上げたAI-1ではないわ。
私の言葉に耳を塞いで自己の消滅を受け入れ、究極の高みに登ろうとしなかったソレは、ただの、失敗作よ! 今度こそ私は、真のAI-1を育て上げるの。貴方達はその生贄になりなさい』
「ふん、結局は自分の思い通りに動くおもちゃしか認めぬというわけか。いいだろう、その狂気、今度こそこのおれが、この世界で終わらせてやる」
『やってみせなさい。そんな貧弱な機体と、AI-1の失敗作如きで人間が出来るものならねえ!』

 

 エルデがアルベロに荒げた声を浴びせるのと同時にAI-1セカンドの表面に、鋭い爪を備えた触手と、砲口を持った触手が無数に伸び出して、一斉にアルベロ達に襲いかかる。周囲に展開していたシニストラらを巻き込むのも厭わず、狂ったように連射される。
 AI-1セカンドが健在である限り無限に戦力が生み出される事を思えば、無謀な攻撃方法ではなかった。その巨体に相応しい無数の砲口は、狙いを着ける必要などないほどに膨大な数であった。
 回避行動を取ったその先にも襲い来るビームと触手の一撃に、休む暇など一秒たりとも与えられず、一層激しくなる攻撃を前にして、シン達もさすがに攻めあぐねた。
 突破したメディウス・ロクス達はLBとミナが引き受けているが、それを上回りかねぬ攻撃の嵐であった。
 広域に展開した空間歪曲場と重力偏光場で、襲い来る攻撃の全てを跳ねのけていたネオ・ヴァルシオンのコックピットで、ビアンが叫ぶ。言うべき事は全て子らが語った。ならば、親たる自分は子供らの未来を塞がんとする眼前の敵を討ち滅ぼすのみ。

 

「行くぞ、ネオ・ヴァルシオン! あの女に、単独で戦局を覆すスーパーロボットの真骨頂というものを教育してやるのだ」

 

 ネオ・ヴァルシオンの前方の空間に、ワーム・クロスマッシャー使用時に展開する歪曲空間の黒い穴が開き、ネオ・ヴァルシオンの巨躯がその穴に飛び込んだ。抜け出る先はAI1セカンドの、頭部に当たる個所のすぐ目の前だ。
 ジェネシス本体と換装ミラーの中間地点にあたる。歪曲させた空間を通過する事によって、一種のワープ現象を引き起こしたのだ。AI1セカンドを目前に置き、ネオ・ヴァルシオンの胸部装甲が開く。
 展開された胸部から、三種の破滅の嵐が吹き荒れ始めた。

 

「オメガ、ビッグバン、メガ・グラビトン、フル出力! 受けよ、ドライ・ウェーブ!!」

 

 ビアンが口にした通り、オメガ、ビッグバン、メガ・グラビトンの三種の波状攻撃を同時に放ち、それぞれの威力を相乗的に増幅させて対象を破壊し尽すネオ・ヴァルシオンの必殺の一撃である。
 ドライ・ウェーブの放射を受けたAI1セカンドのラズナニウムとPS装甲の複合装甲が、見る間に形を崩し、砕かれてゆく。波紋のように広がるそれが、瞬く間にAI-1セカンドの巨躯を穿ち始めた。
 ヤラファス島でのヴォルクルス分身体との戦いでは、例えディバイディングドライバーの形成したバトルフィールド内であっても、強力すぎて使用を控えた兵装であった。
正常な細胞を侵食する癌細胞の様に、見る見るうちにAI-1セカンドの巨躯を、漆黒と黄金と緋色が混ざり合う破壊の嵐が蹂躙してゆく。
悪魔そのものの存在と化したと言えるAI-1セカンドに、こうも容易くダメージを与えるとは。

 

『私のAI-1に、傷を!? よくもやってくれたわね、ビアン・ゾルダーク!!』
「貴様は狂気の夢に沈んだまま命尽きてるがよい!」
『言ってくれるわね、けれど、私のAI-1はこの程度の進化では終わらないわ。その機体も、貴方の頭脳も取り込んであげる!』

 

 目下の強敵はネオ・ヴァルシオンと見定めたエルデが、膨大というも虚しいAI-1セカンドのエネルギーを、ドライ・ウェーブを受けたラズナニウム装甲へと集中させる。
一方的に破壊されるだけだった装甲が見る間に癒着し、新たな装甲を装甲が生み、破壊と再生が拮抗する。

 

「む!?」
『あははははははは、見るがいい。AI-1は不滅、AI-1は永遠、AI-1は究極! 誰にも何を持ってしても、このAI-1を滅ぼす事などできはしないのよ!! 抗うのも諦めるのも好きになさい。結果は同じなのだから!』

 

 エルデ・ミッテの哄笑も無理はなかった。ネオ・ヴァルシオンの攻撃の中和に多くのエネルギーを割きながら、展開するTEスフィアとラズナニウムの再生機能、さらにPS装甲の対物理、ビーム耐性によって、他の機体の攻撃もほとんど効果を見せていない。
 群がる蠅の鬱陶しさを笑う様なエルデの狂い笑いが木霊する。

 

「ぬ、く、機体よりも先に私が保たんか」

 

 度重なる投薬の効果も薄らいだのか、ふいに眩暈を覚えて、ビアンは重くなる瞼をかろうじて堪えながら。唇を噛み破って意識の覚醒を促した。噛み破った唇から溢れて、口の中に満ちる血を飲み下し、目の前の敵を睨み据える。

 

「いざとならば、この身と引き換えにしてでも……」

 

 ネオ・ヴァルシオンの動力に用いているEOTから開発した超動力源の暴走を引き起こし、相討ちに持ち込む事も厭わぬ覚悟を決めた。

 

   ▽   ▽   ▽

 

 ひっきりなしに放たれる光の矢と触手の嵐の中で、もっとも動きが鈍っていたグルンガスト飛鳥が、最初に捕まり始めた。機体を何度も打ちつけ、穿とうと襲い来る衝撃に、シンは必死に歯を食い縛って絶えた。

 

「シン!?」
「ぐあ、く、しまった!」

 

 ステラの悲鳴と共に、振るわれた触手の先にの鉤爪に、飛鳥の左腕が肘関節から破壊され、両手で構えていた獅子王斬艦刀が左腕ごと彼方へと飛んで行ってしまう。
 ウォーダンとスレードゲルミルによってシシオウブレードを斬り砕かれた時に、二度と手にした刃を落とさないと、砕かれるような事はしないと誓ったのに、今、自分は刃を手放してしまった!
 その事実の認識は、途方もない後悔をシンの胸に湧き起した。

 

「くそ、また、おれは!?」
『あははは、どうしたの? 貴方達に出来る抵抗はその程度なのかしら? それっぽっちの力しか持たないのなら、生きている価値もないでしょう。AI-1の糧となる事を光栄に思って……』
「黙れ!!」

 

 快刀乱麻を断つかの如く、エルデの言葉を遮った口上に、後悔に焼かれる意識の中で、シンが反応した。

 

「この声、ウォーダン・ユミル!?」
『なにがっ』
「ぬおおおおおおおお!!!」
『これは、さっき取り込んだ特機!』

 

 ぼこり、とAI-1の装甲のある一点に隆起が生じ、それは宇宙をどよもす轟の様な声と共に一気に内側から破裂した。上半身にラズナニウムの残骸を生物の臓物の様に纏いながら、傷ついた戦神――スレードゲルミルが姿を見せた。
 右手に斬艦刀を握り、いまだ下半身はAI1セカンドの内部へと埋もれながら、ラズナニウムに取り込まれる事無く、姿を現したようだ。

 

『なぜお前が……。ラズナニウムの特定部位の再生にエネルギーを集中させたせいね? それでお前を取り込むのに障害が出たんだわ。
それにその機体、機能は停止寸前だけれど、ラズナニウム同様の自律型の金属細胞で構成されている。同種のラズナニウムに取り込まれた事でわずかに活性化した様ね』
「それ以前に、貴様のような者の手に下るなど到底受け入れられる話ではなかったのでな」
『あらぁ、そんな口が利ける状態かしらねえ?』
「……」

 

 エルデの弄う様な声には相応の理由があった。今はAI1セカンドの制御装置の一部と化したエルデには、スレードゲルミルのコックピットで、侵入してきたラズナニウムに侵されつつあるウォーダンの状態が、手に取る様に分かっていた。

 

『機械仕掛けのお人形が、一人前の人間の真似をするなんて傑作ねぇ? 大人しく元の鉄屑に戻りなさい』

 

 どんな難関辛苦にも、厳然とした表情のまま立ち向かうであろうウォーダンの顔に、苦痛の色が広がっていた。人工筋肉や疑似神経、電脳の最深部へと、じわじわとラズナニウムが浸透し、ウォーダン・ユミルを構成する人造の肉体とメモリーを食らい始めている。
 ウォーダンのみならずスレードゲルミルもまた同様にラズナニウムの極彩色の触手に、その雄々しい巨躯を汚されている。汚汁とぬめぬめと金属らしからぬ光沢を放つ触手に絡め取られた姿は、古えの魔物との戦いに敗れた神代の戦士の様だ。

 

「なるほど、確かにおれは神ならざる人間の手によって作られた偽りの命、虚構の意思、仮初の心かもしれぬ。だが、このおれを突き動かす、この衝動を、熱く昂った精神の鼓動を、決して偽りとは言わせぬ!!」

 

 ウォーダンの血を吐くような叫びと共に、スレードゲルミルは右腕に絡み付くラズナニウムの触手を引きちぎり、大きく振りかぶるや、手にした斬艦刀を思い切りグルンガスト飛鳥へと、最大の好敵手シン・アスカへ目掛けて投じたではないか。

 

「受け取れ、シン・アスカ! 我が魂、斬艦刀を!!」
「ウォーダン!?」

 

 まるで飛鳥を串刺しにするように投げられた斬艦刀を、シンは見事隻腕となった飛鳥で柄を掴み、その手に蒼茫と濡れた刃の大剣を握らせた。あまりに高速で投じられた物体を掴んだ反動が、飛鳥の関節にかすかな軋みを立てさせる。

 

「斬艦刀を手放すなんて、どうして!?」

 

 砂嵐が混じった様に乱れる小さなウィンドウの向こうに映った、ウォーダンが小さく笑うのがシンには見えた。灰銀の髪の下で、岩の厳しさに確かな優しさを秘めた男は、ひどく澄んだ笑みを浮かべていた。

 

「どうやら、おれはここまでのようだ」
「な、何言ってんだよ。あんなに強いあんたが、その程度で弱音なんて吐くなよ!」
「出来れば、お前との三度目の決着を着けたかったがな……」

 

 さみしげに呟くウォーダンは、自分の腹部を背後から貫いたラズナニウムの触手を見下ろした。ウォーダンの体内に侵入したラズナニウムが、人間でいう五臓六腑へと細い触手を枝のように伸ばし、ウォーダンの存在を内側から蝕んでゆく。

 

『ウォーダン!!』
「ラクス、か」

 

 ジェネシスの付近に居た為に、メディウス・ロクスやシニストラらの攻撃を受け、大きな損傷を受けたエターナルの艦橋に居るラクスであった。この世界に転移してきたウォーダン・ユミルを見つけ、その仮の主となった少女。
 世界の行く末を憂い、自らの行いの愚かさを知りながら、この道を選んだ少女が、本当はどこにでもいる普通の少女に過ぎない事を、ひどく脆い面を持っている事を、傍らで見守り続けてきたウォーダンだけは知っていた。
 口の端から人工血液を滴らせながら、ウォーダンは愛娘を見る慈父の眼差しでラクスを見つめ返した。

 

『ウォーダン、いやです。貴方がいなくなるなんて、そんな、貴方はずっと、私のそばに居てくれると、私は……』
「すまんな。できればおれもそうしてやりたかったが、それは叶わぬ夢であったらしい。ラクス、お前と会えた運命に感謝しよう。達者でな」
『ウォーダン!!』

 

 オブザーバーシートから身を乗り出し、涙で頬を濡らしたラクスの姿を映すウィンドウは、唐突に閉ざされた。より一層深くラズナニウムがスレードゲルミルとウォーダンを侵食したのだ。
 ごぶ、と嫌な水音を立てて口から鮮血の流れを零したウォーダンは、息も絶え絶えに、呟いた。

 

「最後は、笑顔を見たかったが、これも修羅の道を言った者の末路か。……スレードゲルミルよ、我が最大の戦友よ。お前を付き合わせてしまってすまんが」

 

 そのまま言葉を続けようとするウォーダンを、低く重く唸るプラズマ・リアクターの音が遮った。まるで、そんな言葉はお前にもおれにも相応しくはないと告げる様に。

 

「ふ、ふははは。そうだ、そうだな。おれにもお前にも謝罪の言葉など似合わぬ。地獄の底までも共に行こうぞ、友よ!!」

 

 凄絶な笑みを浮かべるウォーダンに答え、スレードゲルミルは固く食い縛った口を開き、さしものエルデでさえ、慄くほどの咆哮を挙げた。神々の黄昏を前にした勇猛なる戦士の如く。

 

『な、なにを、死に損ないのスクラップの分際で!』
「黙れ!!」
『!?』
「そして聞け。我はウォーダン、ウォーダン・ユミル。我は……」

 

 同時にスレードゲルミル背部の二基のドリルが一気に最大回転に達し、周囲のラズナニウムを掘削しながら、その内部へと射出される。斬艦刀を手放し、空となった右手は、大きく振りかぶられて、あろうことか、スレードゲルミルの胸部へと叩きつけられた。
 手首まで沈みこんだスレードゲルミルの右手は、その中に熱く激しく脈打つ心臓を握りしめていた。臨界寸前まで稼働したプラズマ・リアクターを。
そのまま右拳は、ブースト・ナックルとして、ドリルが穿った空洞を飛び、AI1セカンドの内部へとスレードゲルミルの体を貫いて飛翔し、その最深部で一気に秘めたエネルギーを解放させた。
プラズマ・リアクターとジェネシスそのものの動力源が連鎖反応を起こして生じた大爆発のエネルギーを背に感じながら、ウォーダンは高らかに叫んだ。己の存在を告げる様に。自分という魂の存在を歌うように。

 
 

「我は―――――剣なり!!」

 
 

 そうして、溢れた爆発の中にスレードゲルミルとウォーダン・ユミルは飲み込まれ、ただの一欠けらも残さず消滅した。