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SRW-SEED_11 ◆Qq8FjfPj1w氏_第14話

Last-modified: 2014-01-03 (金) 00:43:34

第14話「テスラ研脱出」

 

それは突然現れた。
黄金色を発するボディに、両腕の巨大なクロー、エメラルド色の眼に臀部から先に連なる尻尾。
怪獣。「それ」を評するのであればこれ以上に適切な表現はありえない。
その怪獣が持つ威圧感、見たものに与えるインパクトの強さはインスペクターの先遣隊と思しき
ガンセクトと全滅させて第二波を警戒していたテスラ研の面々に驚きを与えるのには十分すぎるものであった。

 

「何じゃ、あれは!?」
「あ、あの機体はギリアム少佐が言っていた……」
「インスペクターの指揮官機…!やはり本命を送り込んできたか!」
「…フン、目先のエサに釣られるのは地球人の特性だと言えるな。おかげで労せずにテスラ・ライヒ研究所が手に入るというものだ」

 

怪獣のコックピットで男が呟いた。
このガルガウと呼ばれる機動兵器のパイロットであり、文明監査次官、そしてインスペクター4天王の自称リーダーである。名をヴィガジという。
その頭皮は焼け野原となり、一本の毛髪さえも生き延びえておらず、任務遂行への意気込みと気合、敵対勢力への侮蔑から白目を剥いている。
だがそんなことは知る由もなく、たった今ガンセクトの部隊を殲滅し終えたカリオンとグルンガスト弐式が研究所付近に陣取るガルガウを排除すべく、その銃口を向けようとした。

 

「!?五月蝿い蝿どもめ、これでもくらえ!」

 

ガルガウから放たれたミサイルがまだ自機からは射程範囲外であったカリオンと弐式を直撃した。

 

「貴様らはそこで大人しくしていろ。…命が惜しければな」
「う、ああっ…」
「くっ、落ちてなるものか!テスラ研には兄様いる!!翼が折れようと飛ぶんだ!兄様を守るために!!」

 

ミサイルの命中による衝撃でカリオン、弐式それぞれのコックピットの中で2つずつの果実が揺れ動く。
しかしカリオンを駆るスレイ・プレスティの頭の中は研究所にいる最愛の兄フィリオ・プレスティのことのみで占められていた。
パイロットとしての直感で、今の彼女とカリオンでは目の前にいる金色の大怪獣ガルガウをどうにかすることは不可能であると無意識のうちに分かっていた。
だが、だからといって彼女が、彼女の心が折れることは決してない。
兄の夢見た星の海の航海、それを叶えるために彼女は全てを犠牲にしてきたといっても過言ではない。
兄の願いこそが彼女の生きる目的なのであり、兄の身に何かがあれば彼女は生きる目的を失ってしまいかねなかったのである。
だからこそ絶望が始まりかけたこの状況でもなお、星々への翼を羽ばたかせようとしていた。
その時であった。

 

「…その役目は私に任せてもらおう」
「何?!誰だ!?」

 

通信が入り、カリオンのコックピットを1人の男の声が駆け抜けたと同時に、スレイの問いに対する答えが発せられる間もなく、
戦場となったテスラ研周辺を黒き竜巻が駆け抜けた。
黒を基調としたボディの所々を赤と黄色で塗った竜巻は、背部に搭載していると思しきテスラ・ドライブで大空を突き進んでいく。

 

「黒いヒュッケバイン!?」
「あ、あれは!?」
「何者かは知らんが、俺の邪魔はさせんぞ!」
「フッ……それはどうかな」

 

自身ありげに言ったヴィガジを嘲笑うかのように男は告げる。
そしてヴィガジが攻撃態勢へと移る前に、漆黒の色を纏ったバニシングトルーパーが急速にガルガウへと向かってきた。

 

「むぅっ!」
「行くぞ、トロンベ!我が敵を切り裂け!ファングスラッシャー!!」

 

黒いヒュッケバインこと最新型のパーソナルトルーパーヒュッケバインMK-Ⅲトロンベは、ガルガウに迫りながら左腕に付いている卍型の分厚い手裏剣のような投擲武器をその右手に取る。
そしてその右手から放たれた卍手裏剣は、放たれると同時にエネルギーを迸らせつつ各先端から紫色の刃を形成し、大怪獣へと襲い掛かった。
MK-Ⅲの速度に不意を突かれたヴィガジはヒュッケバインMK-Ⅲの放つ牙、ファングスラッシャーに反応することができず、
エネルギーの刃を纏った牙がガルガウの右腹部に喰いつくと、2度3度その装甲を抉りながら、そのコックピットを大きく揺らした。

 

「チっ!味な真似を!!貴様、何者だ?」
「私の名前はレーツェル・ファインシュメッカー。そう覚えていただこう」
「『謎』?『食通』だと?翻訳機が壊れているのか?」

 

コックピットのモニターに映し出されるのは、「謎」「食通」という人名とはとても思えない言葉。
翻訳機が示す言葉の真の意味を知りえないヴィガジにとっては目の前に現れたヒュッケバインを駆る男が何者なのかを知る術はなかった。

 

「ま、間違いない!あの人はエルザ…」
「今の私はレーツェル・ファインシュメッカーだ。それ以上でもそれ以下…」
「遅れましたエルザム少佐!」

 

機体のカラーリング、落ち着き払った重厚な声、喋り方から知る人にとっては正体が明らかであることを知ってか知らずか、
正体を言い当てようとしたクスハの言葉を遮ろうとしたレーツェルの声を、シンの声が遮ると、戦場に一機の黒いガーリオンが現れた。
レーツェルのヒュッケバイン同様のカラーリングと装飾がなされ、DC戦争においてはエルザムの愛機のうちの1機として敵味方に恐れられた機体、ガーリオン・トロンベにシンは乗っていた。
なぜシンがガーリオンに乗っているのかというと、本来であればシンにも彼に適した機体を用意したかったエルザムであったのだが、
あいにくとエルザムの手元にはシンに適する機体はなく、かといって異星人の侵攻が予想されたテスラ研に向かわせるに足る機体が他にあるかといえば、残念ながらなかったためである。

 

「………今の私はレーツェル・ファインシュメッカーだ、シン」
「あ、そうだった!ってあれは!?」
「そうだ。あれが異星人インスペクターの機体だ。ギリアムから報告があった、月のマオ社付近に現れたものだな」

 

シンの目に映るのは金色の大怪獣。確かに、アニメーションなどでは地球を征服しに来た異星人の侵略兵器として十二分に合格点を取ることが出来そうな機体であり、ふざけていると言われうる外見は、一見しただけでは恐怖感を強く感じるものではなかった。
しかしその怪獣の外見ゆえに発せられる威圧感や衝撃、怪獣の主たる異星人が放っていると思われる殺気や闘気は確実にシン・アスカの精神を圧していた。
理性的な思考ではない。生物としての本能が、戦いの経験が、シンに大怪獣ガルガウと戦うことに警告を加えている。
だが状況は刻一刻と変化しており、離脱の準備が整えテスラ研の敷地から離陸した輸送機がシンの視界に入る。
そして敵の手に落ちてもテスラ研に留まり、先人の足跡と偉大なる天才の遺産を守ることを選んだ旧友らとの会話を終えたレーツェルから通信が入る。

 

「各機へ、脱出ルートはこちらだ」
「その方向は…?!」
「て、敵の指揮官機がいる方へ行くんですか!?」
「その通り。確かのあの機体は難物だが、逆に今のルートを守るのは奴だけだ」
「つまり、誰かがあれの相手をすれば脱出できると……!?」
「そうだ。その役目は私が引受けよう」
「勝手なことを言うな!お前のような男に任せておけるか!」
「フッ……その意気は良し。だが君の兄上の夢を壊したくなくば私の指示に従っていただこう」
「…」
「シン、君は輸送機の護衛に回ってくれ」
「了解!」

 

かけ声とともにシンはガーリオンを、輸送機を取り囲もうとする量産型ヒュッケバインへと向けた。
既に輸送機からはその防衛のために1機の戦闘機と思しき機体が出撃していた。
だが、パイロットのパーソナルカラーである銀色に塗装された、カリオンと呼ばれる戦闘機の動きは鈍かった。
とはいえ、動きが悪いわけではない。機体の整備不良があるなどではなさそうである。では何が悪いのか。
それが何かを考えたとき浮かんだこと。それはパイロットの気迫が足らないことであった。
気迫があればいいというものではないが、戦場において「敵を討つ」という覚悟よりも、襲い掛かる敵やその攻撃に、精神的に圧迫されている者がする動きだとシンは感じた。
敵のヒュッケバインから放たれた弾丸をなんとか掻い潜りカリオンは反撃のミサイルを撃つ。
しかしヒュッケバインは機体を上昇させてかわしてしまう。さらにそのヒュッケバインは手にしたライフルの狙いを定めた。

 

「しまった!?」

 

カリオンのパイロット、アイビス・ダグラスの驚きと死の恐怖が入り混じった声がカリオンのコックピットに響いた。
カリオンの正面やや上を取ったヒュッケバインの動き、手にしたライフルをカリオンに向けて放とうとする動作が彼女にはスローモーションとなって映っていた。
そして、異星人に鹵獲されその手先となったバニシングトルーパーの名を持つ死神が、目の前の存在を消し去ろうとしたときであった。

 

「ソニックブレイカー、突撃いいぃぃぃ!!!」

 

金色の大怪獣と刃を向け合うバニシングトルーパーとは別の黒き竜巻が駆け抜けた。
機体の両肩に展開させたブレイクフィールドを纏ったガーリオン・トロンベはライフルの引鉄に手を掛けた異星人のバニシングトルーパーをその照準内に捕らえる。
ガーリオンのブレイクフィールドはヒュッケバインの背中に突き刺さるとそのまま機体を貫き、
ガーリオンが距離をとり終えるのを待っていたかのようにヒュッケバインは爆煙に包まれ、その名の通りに消え去った。
数瞬してアイビスは目の前で起きた事象を、自分が救われたのだということを認識した。

 

「あんたは何をやってんだ!?戦う覚悟がないなら下がれよ!」

 

しかし、アイビスがその礼をするべく通信機に手を掛けようとする前にシンの怒鳴り声がカリオンのコックピットを揺らした。

 

「ご、ごめん…」
「謝ってるヒマがあるならさっさと下がれよ!今怖気づいてたら本当に死んじゃうぞ!」
「そ…そんなのはわかってるよ!でも…」
「その通りだ、アイビス。お前は早くここから離脱しろ。お前はここにいても邪魔なだけだ」

 

シンとアイビスの通信に女の声が割り込んで来た。
その直後、ガーリオンに向かってきていたヒュッケバイン2機がミサイルの直撃を受けて爆発に包まれる。
それと同時に黒みを帯びつつも情熱的な輝きを発する赤、緋色を纏ったカリオンがガーリオンの前に現れた。

 

「スレイ…!」
「わかっただろう、№4のお前では星の海を行くどころか目の前の敵を撃退することもできん。
 そこのガーリオンのパイロット、お前も私の邪魔はするなよ」
「え?ち、ちょっと待てよアンタ!あんたの機体だって…」

 

だがシンの問いかけを遮るように通信は切られてしまった。
カリオンが被弾していることはシンの目にも明らかであったが、そのダメージの影響がまるでないかのように、緋色のカリオンはなおも周囲を取り囲むヒュッケバインと戦闘機へ向かっていく。

 

「ったく、もう!」

 

文句を言いたいのは山々であったが、そんな場合ではないことはシンも分かっている。やむを得ず、カリオンの後に続く。
カリオンの動きはアイビスのものとは対称的に気迫に満ちたものに思える。
敵に抱いた怒りや憎しみ。それらが感応能力の類にはまるで縁のないシンにも伝わらんとするほどカリオンの動きは鬼気迫るものであった。
輸送機を阻もうとするヴィガジ、それを阻もうとするレーツェル。
黒い竜巻と四天王のリーダーの戦いはなおも続いていた。
機体をバックステップさせたガルガウの足元にグラビトンライフルの弾が突き刺さる。
生半可は攻撃ではビクともしない防御力を持つガルガウではあったが、
レーツェルの攻撃は巧みにガルガウの防御力の低い部分を突いてくるものであり全弾受け止める訳にもいかない。
他方で配下のバイオロイド兵達はカリオンとガーリオンに阻まれ輸送機に取り付けないでいる。
戦力差では圧倒的に有利なはずなのに思うように事態が進まずヴィガジの怒りのボルテージは徐々に上昇し、
それに比例するかのように白目をむいた顔面が興奮のあまり赤くなっていく。

 

「ええい!邪魔をするな!」
「いや、そうそう貴様達インスペクターの思い通りにはさせん!」
「少佐!輸送機の離脱コース確保できました!」
「よし、各機は私に続いて全速…」
「貴様こそすべて思い通りに行くと思うな!貴様の機体…ヒュッケバインの新型は貴様の命ごとそのもらい受けるぞ!」
「なんだと!?」

 

離脱の指示を出したレーツェルの一瞬の隙を突き、背部推進器の炎を吹かせながらガルガウがヒュッケバインMK-Ⅲトロンベに迫る。
レーツェルは咄嗟に機体を後退させながら、アイアンクローを構えて距離を詰めてくる金色の大怪獣にグラビトンライフルを撃ち込んだ。
しかし辺境の地球人の思惑通りにことが進むことは文明監査官としてのヴィガジのプライドが許さない。
ダメージ覚悟でグラビトンライフルを受け止めながら大怪獣が竜巻を捕らえようとしたとき、もう1つの黒い竜巻がいま一度、北米の空を駆け抜けた。

 

「アンタたちはいったい何なんだあああぁぁぁ!!!!」

 

シンの魂の叫びとともに、今度はアイアンクローを構える右腕の付け根の辺りにブレイクフィールドが突き刺さりガルガウの動きを殺す。
さすがにさきほどのヒュッケバインのように機体を貫くことは叶わなかったものの、最大速度での激突による衝撃は金色の大怪獣をぶっ飛ばして岩壁に叩き付けた。

 

「貴様ぁ!よくも俺の邪魔を!」
「異星人って言っていうからどんなのかと思ったらまるで茹蛸だな!」
「『茹蛸』?………………おのれ地球人めぇぇぇ!」
「シン、助かったぞ。インスペクターよ、我らは決して貴様達に屈したりはせん!それを覚えておいてもらおう!」

 

岩壁に叩きつけられたガルガウの正面にヒュッケバインMK-Ⅲトロンベとガーリオンが現れた。
それらの手にはグラビトンライフルとレールガンを構えられている。
ヴィガジがこれから起こる出来事を理解した瞬間、ガルガウの叩きつけられた岩山の上部目掛けて弾丸が撃ち込まれた。
岩壁は砲弾の着弾により崩壊を始め、いくつもの巨大な岩がガルガウを呑み込んで行く。
そして2つの竜巻はそれを見届けることなく、大怪獣が動きを止めた隙を逃さぬよう戦場から離脱していった。

 

「各機!この隙に離脱するぞ!」

 

改めてレーツェルの指示が出てグルンガスト弐式、アイビスのカリオンがヒュッケバインMK-Ⅲトロンベに続いて戦場から離れていく。
しかし、緋色のカリオンが逆にテスラ研のほうへ戻っていこうとするのにシンが気付いた。
とっさにカリオンの行く手をガーリオンで阻み、動きを止めたその隙にカリオンを両腕で抱え込む。
だがカリオンはガーリオンの手を振り払おうと、ガーリオンの腕の中で激しく動き回る。
それに業を煮やしてか、シンが再び怒鳴り声を上げた。

 

「何をやってるんだよ!早く離脱するぞ!」
「離せ!今ならまだ間に合う!テスラ研の人たちを…」
「冗談言うなよ!今のこのこと戻ったらあの怪獣の餌食だぞ!」
「まだあそこには兄様がいるんだ!」
「だからってそんな機体の状態で戻ったって何が出来るんだよ!?むざむざ命を捨てに行くようなもんだ!!!」
「うるさい!お前に理解できるとは思っていない!離せ!!私にとってはたった一人の兄様なんだ!?」
「だったら離すもんかよ!あんたは絶対ここから離脱させる!!」
「何!?」
「アンタが助けに行ったってアンタのアニキが喜ぶとでも思ってるのかよ!?」
「そんなことは関係ない!私が兄様を助けたいだけだ!」
「いい加減にしろよ!あんたが死んで一番悲しむのは誰だと思ってるんだ!?アンタが兄さんを思うのと同じように、アンタの兄さんもアンタのことを大事に思ってるんだぞ!?目の前で妹を亡くすアニキの気持ちがアンタには分からないのか!?」
「!?………お前………!」
「わかったら早くここを離脱するぞ。アンタの兄さんはまだ生きてるんだ。助けるチャンスは必ずある。だから兄さんを悲しませるようなことはするなよ…」
「…………(兄様…私はきっと…)」

 

連合軍によるオーブ解放作戦の中、キラ・ヤマトのフリーダムと連合のカラミティの戦闘の流れ弾によって、シンの両親、そして最愛の妹は命を失った。シンの目の前で。
目の前で家族や兄弟を亡くす悲しみ、絶望、後悔、喪失感、無力感をシンは知っていた。
だからこそ、このまま名も知らぬパイロットを行かせてむざむざと殺させるわけにはいかなかった。
自分と同じ思いを味わう人間を増やすことは彼にはできなかったのである。
他方、最愛の兄を悲しませることを理解したスレイはシンの気迫に押されたこともあってか、それ以上、抵抗することはなかった。
シンの言葉に、スレイは兄の救出を心に強く誓った。
しかし、兄への深海よりも深い愛情の一部は無力な仲間への憎悪へと姿を変えることとなる。
そして生まれた憎悪は、また異なる憎悪を再び燃え上がらせることとなる。