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SRW-SEED_11 ◆Qq8FjfPj1w氏_第34話

Last-modified: 2014-01-03 (金) 01:00:15

「この世界だけではなく……戦いを望む者には、どこにも居場所などないのかも知れません。特に…私のように、そのためだけに生まれた者には」
「どうかしらね。これからの戦いが……それを証明してくれるでしょう」
「では…行きます」

 

紅などは塗られていないものの、美しく整った唇から別れの言葉が紡ぎ出され、とある一室で交わされていた、美女二人による会話が静かに終わろうとしていた。
1人は若草色の髪を背中まで伸ばし、両肩と太腿を大胆に露出させた衣装を纏っている。
そして、その衣装の布地は胸元の部分が力強く押し上げられ、凄まじい強さで自己主張をする、極上の甘みを有していそうな最高級のマスクメロンが2つほど実っていた。
もう1人はウエーブの効いたボリュームのある髪を、赤紫色を微かに織り込んだ桃色に染め、
ゆったりとした紫色の衣装に身を包みながら、部屋から出て行こうとする美女の後姿を眺めている。
前者の名はラミア・ラヴレス。彼女はシャドウミラーにより作られた人造人間Wシリーズの中でも最高級の能力を持っているだけでなく、
絶世の美しさと、大多数の雄の視線と興味を容易く引き付ける肉体的色気をも併せ持っている。
後者の名はレモン・ブロウニング。シャドウミラーの事実上の№2であり、ラミアを始めとするWシリーズの造物主であるという、ありきたりな言葉を使えば天才科学者である。
さらに不慮の事故でCE世界から転移してきた覇王の、自らがいた世界においては出会うことができなかった、絶対に相互理解をなし得ない宿敵となった女性でもある。
そして彼女らの不仲が後にさらなる事態の変化をもたらすことは未だ誰も知らない。

 
 

ハガネのブリッジ占拠を命じられながらもその命令に背いただけでなく、機体を自爆させてツヴァイザーゲインやヴァイスセイバーに多大な損傷を与えたラミアは、幸か不幸かコックピットブロックごとレモンのヴァイスセイバーに回収され、ある意味致命的な損害を受けていた言語機能その他の機能の修復を受けていた。
その後、目を覚ましたラミアは自分の意思で造物主レモンの元を離れることを決めたのだった。
自分の意思による判断、つまりラミアは自我の確立を成し遂げたということを意味しているのだが、それは造物主であるレモンがどうしてもなすことの叶わなかったことでもある。
それが偶然か必然かは不明であるが、皮肉なことにレモンが願って止まなかったWナンバーズの自我の確立は、彼女が目指したプランとは全く反対の方向で実現されてしまった。
組織人としては忌むべきことでありながら、科学者としては強く望んでいたことでもあり、ラミアの出奔はレモンにとってはさしずめ親鳥の元からの巣立ち、子供の親離れにも等しくもあった。
複雑な心境のレモンであったが、この場では自分のエゴ―研究者・科学者としての静かな喜びと成長した我が子にも等しい存在の1人立ちを見ての覆い隠しきれない寂しさが彼女の心を埋め尽くしている。

 

「…後部格納庫に修復したアンジュルグがあるわ。それに乗っていきなさい」
「!?レモン様…」
「ふふ、自爆装置は取り外してあるから安心していいわよ。あ、それと…」
「?」

 

レモンが何か悪戯を思いついた子供のような笑顔をふと浮かべ、思わせぶりな言い方がそれを聞くラミアをわずかに困惑させた。

 

「留置室にお客さんがいるのよ。回収されたあなたを助けるために単機で突っ込んできた突撃坊やに思い当たる節があるでしょ?」
「え…?」
「紫のビルトビルガーのパイロットに心当たりはない?今は知り合いだとかいう口煩いデコっ禿げとWシリーズよりも人形みたいな顔した、ちょっと可愛いひょろめな子とお話中なんだけど」
「…彼は共に戦ってきた大切な仲間の1人です。エクセレン・ブロウニングと同じく、私に色々なことを教えてくれたと思います」

 

一寸の沈黙の後に重い決意を伴って紡ぎ出された言葉は、ラミアの表情を明るくさせ、瞳を真っ直ぐ前を向かせ、堅固な決心とは裏腹に穏やかで柔らかく、そして暖かい笑顔を作り出した。

 

「そう、じゃあそのお仲間も一緒に連れて行ってもらえるかしら?あなた達じゃなくも使えるようにコックピット周りを改修して、後は登録認証をするだけのヴァイサーガがあるからそれもついでに」
「それはどういうことでしょうか…?」
「娘を立派に育ててくれことへのお礼、っていうことじゃ説明不足かしら?」
「…ですが、ラクシズ…いや、歌姫の騎士団はシャドウミラーにとっては友軍では?」
「そうよ、ヴィンデルとノイエDCの連中が余計なことをしてくれたおかげでね」
「それではどうして?」
「あの不愉快な寸胴根暗電波女に悔しがる顔をさせてみたくなったからよ」
「ず、寸胴根暗電波…」

 

自我を確立したとはいえ、やはり未だロジックと合理性に大きな比重を置いた思考を行うラミアにとっては、利敵行為に等しい行動を唆すレモンの真意を図りかねていた。
ハガネ・ヒリュウ改にいたときもエクセレンのトンでも発言に度肝を抜かれたことがあったラミアだったが、彼女がまだレモンやエクセレンのする「あそび」を十分に理解し切れていないのだということを
表情とリアクションから読取ったレモンは唇をやや尖らせて上を向いてどうしたものかと言う表情をしながら口を開く。

 

「女には世の中に絶対に相容れずに敵対する相手っていうのがいるのよ。それは理屈とか法則というもの全てを超越して存在するわ。それが女っていう生き物なの」
「…私にはまだ理解しかねますが、記録しておきます」
「そんなのいらないわ、あなたが成長していけばきっと判る時がくるもの。まあ、そんな相手には出会わないのが一番だけどね」
「つまりレモン様はラクシズの女が気に喰わない、ということですね」
「そういうことよ。でもいくらあなたでも今度戦場であったときは…わかってるわよね?」
「はい」

 

ラミアの返事を聞き、いよいよ巣立ちの時がやってきたことを覚悟したレモンは、おもむろにラミアの頭部に両腕を回すと自分の胸元に優しく彼女を抱き寄せた。
きょとんとするラミアの後頭部を撫で下ろし、暖かく彼女を包み込むレモンの顔は、まさに無償の愛情を以って子供を慈しむ母親のそれと違うところはない。

 

「…いってらっしゃい、ラミア・ラヴレス」
「…はい」

 

ラミアの返事を逃すまいと耳にとどめ、彼女を解放したレモンは愛娘の手に留置室のキーを持たせると再び穏やかな表情を浮かべる。ラミアはそれを自らの視覚を通じて記憶にインプットすると、表情を引き締めて部屋の自動扉のスイッチに手をかけた。無機質な音とともに扉が閉まると、レモンの視界からラミアの姿は当然のことながら消えていたが、レモンの心はどこか暖かく、満たされていた。

 
 

ラミアが巣立ちを終えた少し前、シロガネ艦内のまた別の場所でシン・アスカも目を覚ましていた。
ラミアを乗せたアンジュルグのコックピットブロックを奪還すべく単機でシャドウミラーの部隊へ突っ込んで行ったまではよかったものの、予想外に登場したアスラン・ザラのインフィニットジャスティス、スクールとDCでの非人道的な研究の産物ともいうべきゲイム・システムに対して、並ぶ者なきほどに高い適応を遂げたスーパーコーディネーターキラ・ヤマトの4人目が駆る
ラピエサージュに敗北し、シロガネへと連れ去られてしまったのである。

 

「ここは…」

 

自分の体は仰向けになったまま、どこか見覚えのあるような天井がシンの目に映っている。続いてゆっくりと体を起こそうとすると、わずかな気だるさが残りながらも体は正常に機能し、上半身が起き上がった。さらに続けて辺りを見回すと目の前には垂直に伸びた鉄の棒が一定の間隔で並び、自分のいる部屋と同じようなつくりの部屋が幾つもあり、シンは自分が捕虜などの留置施設の鉄格子の中にいるのだということを理解した。
そしてすぐに、アスラン・ザラたちとの戦闘で敗れたことを思い出すと、自分がアスラン達に囚われてしまったのだろうと予想した。

 

「目が覚めたか」

 

聞き覚えこそあるものの、聞くだけでシンの心のうちの不快指数を急上昇させる声が室内に響く。
声のした方向に目を向けると案の定、室内に足音を響かせながら頭部毛髪生え際の進行を青い前髪で隠した元上司が近付いてきた。

 

「アスラン…!」

 

出来ることならば2度とその顔を見たくもなかった人物を、シンは忌々しげな視線で刺し殺すように睨み付ける。
それに気付いた上でまったく意にも介していないのか、それとも向けられている敵意に気付いていないのかは不明であるが、アスランは鉄格子越しにシンの姿を見ると、
まるで手のかかる子供を半ば呆れながら眺める大人のような顔をしながら口を開いた。

 

「いくら言ってもお前は俺の言うことを聞こうとしないからな。悪いが力づくで連れてきた」
「アンタの言うことならもう散々聞かされた。聞いた上で到底理解も同意も賛同もおまけに納得もできないっていうだけだ」
「シン!お前…!それが…!!………いや、いい。これでようやく話ができるんだからな」
「お生憎様、俺にはもうアンタに話すことなんてないね。わかったらさっさとどっかに行ってくれ」

 

CE世界で重ねてきた戦いに加え、新西暦の世界に来てからこれまで行ってきた3回の戦闘を経てシンとアスランの間にはそれなりに相当な言葉が交わされている。
新西暦の世界において繰り広げられた口論をかいつまんで要約すれば、いい加減に目を覚ませ→目なら覚めてる→連邦はスクールの出身者を…だからアギラ様は…→冗談じゃない、それはDCの仕業だろ→だからお前は騙されてると言ってるんだ。お前は騙されやすい、議長にも…→別に俺は騙されてなんかいない、自分で考えたからアンタ達と戦ったんだ、
という水掛け論にも近い争いが戦いながら幾度も繰り返されており、もしもアンドロイドを連れた黒服の交渉人がいたならば、とっくにショータイムに突入しているであろう。
だが今回はそこに加わろうとする第三者兼火薬庫へ飛び込んでいこうとする火種がいた。

 

「待って、アスラン」

 

どこかでかすかに聞いたことがあるような声に訝しい顔を浮かべるシンと、耳に溶け込んでくる心地よい声を聞いた途端に恍惚とした顔を浮かべたアスランとが視線を向けた先から、1人の男が歩いてきた。シンやアスランとさほど変わらない身の丈、耳を隠す位にまで伸びた茶色がかった髪をしたその男には、アスランだけでなく、シンにも見覚えがあった。
ユニウスセブン落下によるブレイク・ザ・ワールド直後にミネルバがオーブに立ち寄ったとき、シンはオーブの海岸にある慰霊碑で1人の男と会ったことがある。
慰霊碑の周りに咲いた花が波をかぶってしまったのを見たシンはその時、いくら誰かが花を植えてもきっと人は吹き飛ばすと言ったが、それを聞いたその男はそれ以上何も言わなかった。

 

「キラ!」
「キラだって!?じゃあ…こいつが…フリーダム…!」
「そうだ、フリーダムのパイロットのキラ・ヤマトだ」
「………そのフリーダムのパイロットが俺に何の用だ」
「君と話がしたくて、ね」
「俺と?」

 

テロ旅行をしながら世界を歩き回る前に話の1つでもしようとしたのか、お前がいきなり戦場に乱入してタンホイザーを撃ち抜いて何人の仲間が死んだと思ってやがるんだ、せっかく錯乱していたステラに戦闘をやめさせ、話が出来そうになって、もう少しで救出することができたかもしれなかったのにお前がでしゃばってきたおかげで全てが台無しになったんだ、アメリカでアカシックバスターの業火にストライクフリーダムごと飲み込まれて爆炎の中に姿を消したお前がどうして生きているんだ、と喉まで出かかったが、それを何とか堪えてシンが聞き返した。

 

「君は…どうして戦うの?」
「ハァ?!」
「答えろ、シン!」
「何だよ、世界をテロして回ってた奴が取調べでもするつもりか?」
「シン!」
「五月蝿いな、ギャーギャー喚くなよ。そんなに聞きたいなら教えてやる!シャドウミラーやDC、アンタたちラクシズみたいな連中を好き勝手にさせないためだ!これで満足か!?」
「お前、よくも!!」

 

アスランの両腕が鉄格子を鷲掴みにした。その顔は怒りに満ち溢れ、怒りに任せた両腕に掴まれた鉄格子は音を立てて震えている。
アスラン・ザラにとってはキラ・ヤマトの言葉、考え、存在が最も重要なのであり、キラ・ヤマトへ寄せられる想いの性質・内容はともかくとして、強さは凄まじいほどのものであった。
だからこそ、エンジェルダウン作戦後にも、ミネルバの艦内にて、それも大声で「キラは敵じゃない!」と叫ぶことができたのである。
だが想いを寄せられているキラ・ヤマトはここではそれについてメンションはせずに、シンとの会話を続ける。

 

「でも僕達は世界のために戦ってるんだ…連邦が正しいとは思えない」
「へえ、やっぱりシャドウミラーの親玉が言ってた永遠に戦いが続く世界ってのがデスティニープランに反対したアンタ達、テロ屋の正しさってわけか」
「そんなことはない!」
「じゃあ『世界のため』に戦ってるっていうアンタらが、どうしてシャドウミラーの連中と一緒にいるんだよ!」
「きっとあの人達だって何かを考えてるはずだ!じゃなきゃラクスが手を貸すはずがない!!」
「アンタはどうなんだよ!!」
「ラクスは『想いだけでも、力だけでも』って…だから…」
「だから、何なんだよ!」
「きっと…僕達は…そう…君は花が咲いても誰かが吹き飛ばすっていうけど…僕達は吹き飛ばされてもまた花を植えるよ。駄目、かな…?」
「キラ…」

 

自分に何一つやましいことがないと考えているからこそ作り出せる無垢な微笑を浮かべたキラ・ヤマトから差し伸べられた手が鉄格子の中のシンへと徐々に近付いてくる。
そしてその光景をアスラン・ザラはこの世で最も美しいものを見ているかのような、恍惚とした表情を浮かべながら見ていた。
だがキラ・ヤマトの腕がシンの前へと到達する前に、突如としてシンの目が大きく開く。
歯を喰いしばり、目を最大まで大きく広げ、彼の戦いの原点ともいうべき怒りを宿した赤い瞳が無垢なる薄紫の瞳に音のない負の言葉を浴びせかけ、それに続けて口が開く。

 

「当たり前だ!死んだ人達はもう帰ってこない!」
「え…?」
「父さん母さんも、マユも…ミネルバのみんなもステラも…いない!みんなだ…みんなお前が殺したんだぞ!わかってるのか!!!」

 

シンの中で限界まで張り詰められた何かが、ブチッという鈍い音を立てて切れ、堰を切ったように積もりに積もった言葉があふれ出した。
ここにいるシンが転移してくる前にいた世界とは異なる、とある平行世界では見目麗しい男を愛する邪神にどこまでも呪われたがためにシンはアスラン・ザラに無様な敗北を喫しただけでなく、仲間だと思っていたルナマリアには突如として土壇場で戦いをやめろと言われ、疑心を抱きながらもそれ以上に信じることが出来る者がいなかったがために手を貸したギルバート・デュランダルと、CE世界の狂気の産物でありながらももう1人の自分とは正反対に世界の存続を願ったレイ・ザ・バレルの死を知り、心をズタズタに引き裂かれてもはや生きる気力を失った。
そんな平行世界のシン・アスカには、キラ・ヤマトの言葉に対して何かを、一言ですらも言い返す気力も体力も、精神力ももはや残っていなかった。

 

だが、この世界のシンは違った。ブリットやキョウスケ、エクセレン、ラミアらATXチームを始め、タスクやリョウト、SRXチームやアラド、ラトゥーニら旧スクール出身者、彼らの影となって密かに戦い続けているゼンガーやレーツェルといった、新しく出会った、心から信頼できる仲間がここにいるシン・アスカにはいた。そしてシンのいた仲間は彼らだけではない。
平行世界とは異なり、尋常ならざる強い意志とある少女の気まぐれから新たな命の火を得たレイも、記憶を失ってはいるものの間違いなく生きている。
これらのことが気付かぬうちにシンの心の支えとなり、信じられるものを作り、育み、戦い続ける意思の火を守ることとなった。
幾つもの世界が1つとなった多元世界に存在した、ギリシャ神話に登場する神の名を冠した部隊の仲間達が担った役割を、ハガネやヒリュウ改の仲間達が果たしたのだともいうことができよう。
そして、シンは渾身の力を込めて握った拳を壁に叩きつけ、なおも言葉を紡ぎ続ける。

 

「俺は…絶対に戦うのをやめない!俺は…ハガネやヒリュウ改のみんなと一緒にアンタ達を戦い続ける!俺に戦う心がある限り…いつまででも!」
「シン!どうしてお前は憎しみに任せて…お前が欲しかった未来は俺達と一緒のはずだ!」
「大切な人の仇を憎んで何が悪い!それに俺は憎しみだけで戦ってるわけじゃない!」
「君は…どうして…でも…僕達は…世界を……それなのに……」

 

キラは言葉に詰まって、声の出ぬまま口をぱくつかせていた。そんな状態を作り出したシンはアスランにとっては戦犯ともいうべき存在であり、アスランから繰り出された怒りの視線がシンへと突き刺さる。だが一歩も引かないシンもアスランを睨み返し、三者が沈黙したまま数十秒ほどの時が流れた。
論を言葉で述べることにあまり長けていない3人であるが故に、永遠に続くかとも思われた沈黙であったが、それからしばらくして響いてきたドアをノックする音と用件を告げる声が沈黙を破った。

 

「捕虜の食事を持ってきました」
「…僕が行くよ」

 

そう言って扉の方へキラは歩いていく。このまま沈黙が続くことは誰しもが望んでおらず、どうにかしてこの状況を突き崩す必要があったが、鉄格子を挟んでにらみ合いを続けるシンとアスランに比べれば、次の言葉を探していたキラが一番動きやすかったのである。
そしてカギに手をかけ、自動扉が開いた次の瞬間、キラの視界は何かに覆われてしまった。
さらにキラが自分に起きた出来事を理解する前に、鳩尾部分に凄まじい衝撃が加えられて後方へ吹き飛ばされる。

 

「キラ!」

 

キラが後方の壁に背中から叩きつけられた音で入り口の方へ目を向けたアスランが見たのは、ジャケットのような上着を顔に被せられたまま地面に座り込むキラと、若草色の長い髪を靡かせながら自分の下へ猛スピードで突っ込んでくる1人の女らしき人影であった。
それ以上のことはアスランには認識する必要がなかったのである。
キラ・ヤマトに攻撃を加えた時点で対象は十中八九敵であり、それ以上のことを把握しようとすれば自分の身に危険があると本能で察したのである。
そしてその本能に対して十二分に体の動きが応えることができたのは、彼がザフトのアカデミーでトップガンの証である赤服を獲得し、月面都市コペルニクスにおいては覇王暗殺を狙った刺客達を尋常ならざる動きで瞬く間に返り討ちにしたほどの驚異的な身体能力と戦闘能力がアスラン・ザラに備わっていたからに他ならない。
身を低くした相手から突き出された空拳を、アスランはガッチリと合わせた両腕で受け止めると同時に動きを止めた相手に蹴りを放つ。
これだけの動きを瞬時に遂げただけでも普通ならば十分なのだが、ここでアスランにとって不幸だったのは、彼の相手がアスランにも劣らない、今までに戦ったことがないほどの凄腕だったことであろう。
カウンター気味に放たれた蹴撃に対して女は即座にさらに身を低くして蹴りを回避しつつ、アスランの体を支えているもう片方の足に思いっきり足払いをかける。
アカデミーの教官からも喰らったことのない強さの衝撃から態勢を支えきれなかったアスランは床に倒れ込みながらも受身を取ろうとするが、さらにそこにすらりと伸びた瑞々しい肉付きをした足がアスランへと襲いかかり、彼を吹き飛ばした。
そして女はアスランが態勢を整え直す前に素早く鉄格子脇にあるカードリーダーにマスターキーを通すと、シンを閉じ込めていた牢獄の扉が空気音とともに開かれる。
一方シンは扉が開けられる前から、アスランに向かっていく若草色をした柔らかくなびいた長い髪、その胸元にたわわに実った最高級の果実を見た瞬間から、そこに現れた人物が誰なのかがわかっていた。

 

「ラミアさん!」
「話は後だ!ついて来い!」

 

初めて聞くラミアの荒っぽい声にやや驚いたシンであったが、開け放たれた扉から出てきてすぐに部屋の外へ向かって思いっきりラミアに手を引かれた。
だがそれによりやや態勢を崩したことがシン達にとっては幸いなこととなった。
体勢を崩したシンには、音もなく懐からアーミーナイフを取り出し、こっちにむかって床を蹴り出そうとするアスランの姿が目に入ったからである。
そこで咄嗟にシンは、目の前にあったラミアの太腿にベルトで固定されたナイフに手をかけた。
アスランの手に握られた兇刃は真っ直ぐラミアの左胸部へ迫っていく。
だがシンに意識を向けていたためにラミアは反応が遅れてしまい、さらに迫ってくる刃に対する回避行動が間に合わないことを即座に認識する。
しかし彼女の予想に反し、迫り来た兇刃は横から飛び出してきたもう1本の刃に弾かれて軌道を逸らされ、ラミアの頬のすぐ横を通り過ぎていった。
そしてすぐにアスランとシンのナイフによる鍔迫り合いが始まり、押し付けられあう刃が耳障りな音を立て始める。

 

「後ろから刃物で女に襲いかかるなんて、意外とハードなんだな!」
「シン!邪魔をするなっ!」

 

侮蔑の眼差しを向けられたアスランであったが、命の取り合いに男女の違いなど全く関係のない戦場での行動としては、兵士としての彼には微塵ほどの非もない。
とはいえ、ともにいたキラ・ヤマトがラミアに喰らった蹴りによって伸びている状況において、仮にもザフトレッドになるくらいの実力はあるシンと、Wシリーズの最高傑作と造物主に呼ばしめたラミアを同時に相手にしたことだけは、アスランのアカデミー時代からの友人以上に迂闊なことであったといえよう。
ナイフを握った腕は伸びきっている状態でボディや顔面はガラ空きなのに、ラミアは自由に動ける状態となっている。

 

「しまっ…」
「もう遅いっ!」

 

素早くアスランの横に回りこんでいたラミアの鉄拳が繰り出され、アスランの顎を殴りつけた。
モロに入った拳はアスランを吹き飛ばしたが、それだけにはとどまらなかった。
殴りつけられてなおアスランは立ち上がろうとするが、強靭な肉体を持つ彼であっても脳を揺らされて思うように体が動かない状態となっている。
そんなアスランを見て、彼がすぐに自分達を追跡することはできないだろうと判断したラミアは再びシンの手を引いて走り出した。

 

「ち、ちょっとラミアさん、どこに行くんですか!?」

 

短い期間であったが滞在していたことのあるシロガネの、見覚えのある風景が続く艦内の廊下をまだラミアに手を引かれたまま走り続けているシンが問いを発する。

 

「後部格納庫だ!」
「え!?な、なんでそんな所に…」
「置いてある機体で艦から脱出する」
「あ、なるほど…そういえば今日のラミアさん、喋り方がすごく普通ですね」
「機能障害を起こしていた言語機能を修復してもらったからな」
「修復?」
「さあ、もうそろそろ格納庫だぞ」

 

ラミアが人造人間であることは先日の戦闘での話でなんとなく知ってはいたが、ここまで露骨な説明を受けるとさすがに苦笑いを浮かべざるを得なかった。
とはいえ、そんなことを悠長に考えている時間はなく、2人は素早く格納庫の一角へと到達しようとしていた。実際のところは、レモンが格納庫周辺のWシリーズに対して密か指示を出してWシリーズらが忠実にそれに従ったために、シン達は誰かと遭遇することもなく格納庫へと到達することができたのであったが、到達した格納庫でまずシンの目に入ってきたのはピンク色と白を基調として、さらに腰部から膝下にかけてをスカート型のアーマーで覆った女性的なフォルムと天使の白い羽を模したウイングを持った特機アンジュルグであった。
ラミアの手により自爆しながらも、レモンの手による突貫作業で修復された上、各武装も密かに強化されたことはまだラミアですら知らない。
そしてアンジュルグの横には格納庫の床に横たわった特機サイズの機体があるのがシンの目に入ったが、コックピット部分を除いて機体全体をシートで覆われているためにその姿形をうかがう事はできない。
そんな中、2機の特機を眺めるシンをよそに愛機アンジュルグのコックピットにラミアは既に到達しようとしていた。

 

「そこの機体に乗れ!」
「え!で、でも俺まだあんまり特機に乗ったことがないんですけど…」
「大丈夫だ、乗れば分かる!早くしろ!」
「は、ハイ!」

 

反論の余地なく、言われるがままにアンジュルグの脇で横たわる特機のコックピットに飛び込んだシンであったが、そこで彼の目に映ったのはどこか見覚えのある構造をしたコックピットであった。
これは、レモン・ブロウニングが嫌々ながらもキラやアスランでも使うことが出来るようにコックピット周りを、予め提供を受けたザフト・クライン派の技術とレモン・ブロウニングの技術を融合させて改造した結果である。
まさかの思わぬサプライズで戸惑いながらも計器にシンが手をかけると、電子音声が生体認証を行うための登録開始を告げ、それを終えると次々に各種計器に火が灯り、目の前のディスプレイにアルファベットの文字列が映り始めた。

 

「DARK‐KNIGHT…ダークナイト?」
「その機体の開発コードだ。VR-02、機体名はヴァイサーガという」
「ヴァイサーガ…」
「武装は列火刃というクナイに両腕の鉤爪水流爪牙、それと腰に下げている五大剣で幾つかの技が使える。音声入力システムもあるから安心しろ」

 

辺りを見回すと、言われた通りにシート脇に簡易マニュアルと思しき薄い冊子があった。
素早くそれに目を通すと、シンは深く息を吸い、続けて息を吐き出し、コントロールスティックに手をかける。
2度も惨めに敗れた相手であるアスラン・ザラが乗ろうとした機体をいただくことになるとは、実質的な所有者の1人とも言うべきレモンの承諾によるとはいえ、アスランやレモンの事情を知らぬシン(乙女座)にとっては僥倖とも言ったら大げさであろうか。
2度も敗れただけでなく、さらに捕獲されて生き恥をさらした甲斐があったのかもしれない。
だが今のシンにそのようなセンチメンタルなことを考える時間も余裕もなく、ただ機体を動かすことに意識を集中しようとしていた。そして起動を宣言すべく口を開く。

 

「機動!ヴァイサーガ!!」

 

シロガネは先発部隊が制圧を完了した連邦軍の基地へ入港しようとしていた。
艦全体を大きく揺らす衝撃がシロガネを襲ったのはそんなときであった。
後部に大きく開けられた穴からは黒い煙があふれ出してきており見る者の視界を奪うが、そんな黒煙の中で何か2つが赤く輝き、目にも止まらぬスピードで艦の外へと飛び出していく。
何事だと怒鳴るヴィンデルの脇で、シロガネのブリッジから外の光景を見ていたレモン・ブロウニングにはホワイトピンクの天使の如き天使と、操縦しているパイロットと同じ真紅の瞳を持ち、全身のほとんどを覆っている強い黒みを持つ青色と黒色の装甲を持つ、西洋の騎士を連想させる近接戦用と思しき特機であった。
そして、かつてシンが乗っていた運命の名を冠した機体のように、黒色系統の色で覆ってはいるこの特機であったが、手にした剣は機体とのコントラストを形成するかのように、降り注いでいる太陽の光を反射して、閃光を宿す刃となっている。
それはまるで、一部の者が歌姫の騎士団と呼ぶラクシズに反逆し、戦い続け、仮にCE世界のコーディネーター達の持つ価値観を基準にしたのならば、暗黒面に堕ちたのだと言われるかもしれぬ騎士の持つ、強く、そして優しい心に対し、手にした刃のみが光を以て応えようとしているかのようであった。

 
 

つづく