Top > SRW-SEED_660氏_シン×セツコSS_02
HTML convert time to 0.006 sec.


SRW-SEED_660氏_シン×セツコSS_02

Last-modified: 2014-01-03 (金) 00:15:29
 

 鮮やかなまでの青い空に、時折浮かぶ白い雲。燦々と降りしきる太陽の光にじりじりと肌を焼かれながら、シンは時折体を撫でて行く風の心地よさに口元を綻ばせた。
 場所は地球。暦は初秋を迎えつつあった。吹きゆく風は夏の活力から秋の物静けさへと、伝えるモノを変えていた。
 とある辺境のコロニーでデブリスイーパーの職を得たシンであったが、運悪くプラントの治安当局と反ラクス・クライン派の地下組織の抗争が勃発し、コロニーの建造作業とデブリの除去作業が無期限の中断となった。
 その影響でようやく得た仕事仲間達も解散し、また新たな職を探す羽目になった。今は、とある修理屋の世話になり、かつての大戦で廃墟が大量に増えた地球で仕事に精を出している。
 今もデブリスイーパーの職と軍に在籍していた頃に、まったく手を着けていなかった給料をはたいて購入したワークスジンで瓦礫の除去作業に勤しんでいた。集めた瓦礫を一か所に集め、一休みするかとワークスジンに膝を着かせる。
 もとから開け放っていたコックピットから降り、ワークスジンの作る日陰に腰をおろしてぼんやり空を見上げた。
 そういえば、ここはガルナハンに近い。コニールは元気にしているだろうか?
 まだ、餓鬼の様に力を求め、力さえあれば守りたいもの全てを守れるのだと思っていた頃に出会ったが、レジスタンスの少女を思い描いた。
 地球連合の過剰なまでの支配に反し、多くの犠牲を出しながらもシン達ミネルバ隊の助力もあって自由を取り戻したガルナハンの人々。
 当時の自分は手に入れた力で、理不尽に苦しめられていた人々を、弱者を助ける事が出来たと無邪気に喜んだ。
 だが後になってガルナハンの人々が地球連合の兵士達を見境なく私刑に掛け、現地との関係も深かったザフトの部隊が来るまでに死体の山を作ったという話を耳にした。
 その時は、連合の兵士達がそうされるだけの事をしたのだから当然だと思ったが、本当は自分が守ろうとした弱者が立場を変えれば、残酷なまでに無慈悲な強者へ変わる現実を認められなかったのだと思う。
 自分にされた仕打ちを、理不尽な暴力を、怒りを、憎悪を決して忘れず、それを与えたものに同等以上の苦痛を与える事を望む、人間のどうしようもない本質を目の当たりにされたことから目を背けたかったのだ。
 今はオーブを中心とした勢力が地球を席巻する昨今、ガルナハンの人々ははたしてどうしているのだろう。日に焼けた褐色のコニールの顔が、ぼんやりと頭に浮かんでは離れなかった。

 

「…………」
『シン君』
「ん」

 

 道端に咲いた一輪の花をぼんやりと見つめていたシンは、腰のベルトに吊るした通信機から聞こえてきた声に注意を向けた。今のシンにとって、誰よりも大切でいつまでも笑顔を浮かべていてほしい女性の声だったからだ。

 

『そろそろお夕飯にしよう。ランドさん達と待っているから、早く来てね』
「分かった。すぐ行くよ」

 

 よっこらしょっと腰を上げ、再びワークスジンのコックピットへラダーに足をかけて戻り始める。
 世界中に刻まれた戦争の爪痕はいまも鮮明に、そして深く残されている。シンは、今はそれを修理する道を選んでいた。

 
 

 ドン、と樫の分厚いテーブルに、良く冷えたビールのジョッキが荒々しく置かれた。水滴がいくつも滴るジョッキは、仕事終りの人々にとっては伴侶にも等しい存在だろう。

 

「ぷはあっ、やっぱり仕事の後のビールは最高だな!」

 

 四人掛けの丸テーブルに腰かけたシンの左隣の大男が、これ以上の至福はないとばかりの笑顔で言う。口元にはビールの泡でできた即席の髭ができていた。
 170センチ前後のシンに比べ頭一つか二つは大きい。タンクトップからにょきっと生えた両腕は、魔法瓶みたいに太く筋肉の瘤を纏っている。太い首に太い腕、分厚い胸板と体つきは野性味に溢れているが、どこか人懐っこい、親しみを感じさせる顔。
 毛先が黄色に染まる赤髪の三十前後の男だ。さんざん太陽に焼かれてきたのか、隆々とした体は褐色の色に染まっている。タンクトップを押し上げる分厚い胸板も、ジョッキを握る指も腕も太く、シンの倍くらいありそうにみえる。
 シンが世話になっている修理屋ビーターサービスを経営するランド・トラビスだ。
 ランドの隣には、シンの胸くらいまでの背丈しかない小柄な少女がいる。短めのピンク色の髪に、くりくりとよく動く快活そうな大粒の瞳。小粒にまとまった鼻や唇は、若いを超えて幼い造作ながら、内から溢れる活力で眩く輝いている。
 ランドの自称婚約者メール・ビーターだ。外見からすると十二、三歳にしか見えないが実際は十六歳と花も恥じらう乙女の年で、シンが戦場に出た時と同じ年齢だ。ビーターサービスでは営業兼経理に加え、社長代行も務める。

 

「もう、耳元で大声を出さないでよ!」

 

 ジョッキを叩きつける様にテーブルに置いた音と、その後の大声にメールが柔らかそうな頬をリンゴみたいに真っ赤に膨らまして抗議するが、当のランドは気にした様子も無く、悪い悪いと呟いて、軽くあしらっていた。

 

「ふふっ」

 

 儚さと慎ましさが形になったように薄い唇に指を当てて、控えめな笑いを零したのは、シンの右隣に座る女性だ。
 年は二十歳前後。光の当たり加減で茶の色を淡く帯びる黒髪に、不世出の名職人が、腕の限りを振るって翡翠の塊から削りだした様に美しい、緑色の瞳。
 ビーターサービスのロゴが入った野暮ったい実用性一辺倒のツナギを着ているが、ふっくらとツナギの生地を押し上げる胸の二つのふくらみや、まろやかな尻肉の曲線、何より風に楚々と揺れる一輪の花の様に儚げな白い美貌が目を惹く。
 シンと夢破れた敗残者という同じ共通点から、ただ馴れ合う様に傷を舐め合う日々を過ごしていただけだった筈の女性。
 でも今は、シンにとって世界のすべてを輝かせる、世界で一番大切で愛しい女性セツコ・オハラだ。
 二人で費用を出していたアパートを引き払い、ザフトと反ラクス派のレジスタンス達の抗争に襲われた辺境コロニーを逃げる様に飛び出て、何とか地球行きの便に乗り、宛てもなく途方に暮れていた所をランド達に拾われてから二ヶ月が経っていた。

 

「ランドさんは、本当に美味しそうにビールを呑みますね」
「セツコとシンは飲まないんだっけな。おれからすれば人生の半分は損してるぜ」
「ランドさんを見ているとそうかもしれないなって思います。昔、私の知り合いにも冷えたビールがとても好きな人がいて、生きていたらランドさんとはいい友達になったと思います」
「そうかい。ま、味の分かる大人ってのはそう簡単になれるもんじゃねえ。シンもまずは酒の味から覚えるこったな」

 

 そういってぐっと左の親指を立ててシンに向けて左手を突き出し、浅黒い肌とは真逆のまっ白いを歯を輝かせた笑みを浮かべ、ランドが右目でウィンクした。

 

(暑苦しい)

 

 ランドいわくヒートスマイルとかなんとか言う、ビーターサービス特有の笑顔らしい。今までに何度か見て来たものの、いまだにこの暑苦しさには慣れない。
 まあ、ランドとメールが、紛れもなく善人である事はこれまでの付き合いから分かってはいるから、今の境遇に不満はない。

 

「別に、酒の味なんてわからなくても困った事はないから構わないよ」
「そういうな。無事仕事が終わったって事でおれが一杯奢ってやる。久しぶりにまとまった金が入ったしな」
「そうそう。二人がMSの操縦がすごくうまいお陰でダーリンと私だけだった時よりも仕事が捗るし、名指しの依頼も増えたんだから。
これまでは修理屋やジャンク屋というよりも、マフィアだの地上げ業者とかと普通の人の抗争の助っ人に呼ばれる事の方が多かったくらいなんだから。これも全部、ダーリンがザ・ヒートじゃなくってザ・クラッシャーなんて呼ばれてるせいだったんだからね」
「メール~~、だからおれはザ・クラッシャーじゃなくてザ・ヒートだって何回も言っているだろう?」

 

 ザ・ヒート、というのはランドが自称する彼の通り名だ。炎のように熱い男、とかそういう意味合いで使っているのだが、同業者や無法者たちの間ではザ・クラッシャーの通り名で知れ渡っている。
 ランドの過去にも起因しているらしいが、修理屋としての仕事よりも民間レベルでの抗争や傭兵まがいの仕事の依頼を受けた時の暴れっぷりが凄まじいのが理由らしい。
 実際にランドの暴れっぷりを見たシンも、ザ・クラッシャーの方がよほど似合うと思っている。歴戦のエースとして修羅場をくぐったシンの目から見ても、ランドはナチュラルとはとても思えない戦闘能力を披露したのである。
 そんなわけで、修理屋稼業の方がいまいち成果の上がらない(実力は一級品なのだが)ビーターサービスも、ザフトのトップエースだったシンと、地球連合のMS実験部隊に携わっていたセツコという、民間レベルでは最高の操縦技術を持つ二人の入社により、修理屋としての評判も上々になってきている。
 これには経理を務めるメールも喜びの声を上げている。今もまだ地球にも宇宙にも修理を必要とする壊された場所は多く、修理屋稼業の需要は後を絶たないのだ。実際に、支払っている二人分の給料を引いてもビーターサービスの収益は黒字の右肩上がり状態だ。

 

「さあさあ、今日はお仕事ご苦労様! ダーリンも、シンも、セツコさんもい~~っぱい食べてね!」
「おおし、食うぞぉ!」
「ほら、セツコもちゃんと食べないとだめだぞ?」
「うん、分かってる。でもランドさんの食べっぷりを見てたら、お腹一杯になっちゃうかも」
「なんふぁいっふぁか(何か言ったか)?」

 

 口いっぱいにこの地方独特の、香辛料をたっぷり使った羊肉のローストを詰め込んだランドが、セツコにそう言った。冬に備えて食糧を蓄えるリスよろしく頬が膨らんでいたが、それを暑苦しい男がやるのを見せられるのはとても愉快とは言えなかった。

 

「あんたって、そういう所は子供だよな」

 

 しみじみと呟くシンに、ランドはごくりと喉を鳴らして羊の肉を呑みこみ、

 

「子供の心を忘れない大人はかっこいいだろう?」

 

 とどこか分かった風に、あの暑苦しい笑顔で言った。

 
 

 翌朝、昼間近までたっぷりと惰眠を貪り、昨日とは別の地区の廃墟の撤去にビーターサービスの面々は向かっていた。
 ランドとメールが乗る、ビーターサービスの看板工具ライアット・ジャレンチの他に杭打ち銃や巨大スパナを携帯している複座式のカスタムレイスタ。
 シンは、知り合いのジャンク屋に特別にチューンしてもらったワークスジン。
 セツコは馬力を強化し、火砲の代わりにクレーンやレッカー、作業用のドリルを装備したバクゥだ。
 以前にユーラシア連邦領内で発生した独立運動の際に、ユーラシア連邦と独立勢力との間で大きな戦闘が起きた場所で、今もあちこちに使い物になる兵器のジャンクや、廃墟となった街並みが続く場所だ。
 ここら辺一帯を鎮圧した親オーブ派国家の依頼で、複数のジャンク屋や修理屋が作業に当たっている。

 

『ん~~? なんか見覚えのある片づけ方だな?』
「なんか、実体剣で叩っ切られた跡がいくつも残ってるな」

 

 疑問符を上げるランドにシンも賛同し、近くの廃ビルを斜めに横断して真っ二つにしている斬撃の後を見る。ビームサーベルなどの熱量で焼き切る類の跡ではない。
 かといってジンタイプの持つ重さで斬る実体剣でもない。105ダガーやダガーLなどが使用する対艦刀シュベルトゲベール? にしてもこれほど鮮やかな跡が残るかどうか?
 シンのワークスジンに、ものっすご~く嫌そうなセツコの声が聞こえてきた。

 

『シン君、これってひょっとして』
「……たぶん、そのひょっとしてだとおれも思う」

 

 シンとセツコのその嫌な予感は的中した。視界を遮るビル群の向こうから、盛大な破壊音と共にシンとセツコが会いたくない人物トップ5にノミネートされている男の声が聞こえて来たのである。

 

『魔王の剣、疾風の如く! アハハハハハ、ハハハハハハ!!!』

 

 あちゃ~という表情を浮かべるシンとセツコに比べると、メールとランドはそれほどでもなく、ああ、あいつか、という程度で済んでいる。ほどなく、シン達の目の前の十階建てのビルに無数の銀閃が走り、三十メートルを優に超すビルが、瞬く間に解体される。
 ビルの倒壊によって発生した夥しい灰塵の向こう側に、両刃の長剣を携えた漆黒の巨人のシルエットが浮かび上がる。

 

『おや、傷だらけの獅子に悲しみの乙女か。こんな処で出会うとは奇遇だね?』

 

 声の響きだけでも、どこか愁いを帯び美麗な雰囲気を醸し出す若い声。そこにどこか老人の様に疲れ果てた一抹の寂が加われば、どんな女も耳元で囁かれる甘い言葉の誘惑には勝てまい。
 シンの赤い血を連想させる瞳と似て非なる、どこか妖しげな光を薄霧の様に纏う鮮血色の瞳。闇の魔性の吐息で編んだような、艶を放つ漆黒の衣装を纏った、ともすれば少年と見間違えそうな、繊細な顔立ちの青年である。
 名をアサキム・ドーウィン。セツコやランドらとはそれなりに深い付き合いの男だ。アサキムが搭乗し、シン達の目の前に現れたのは降り注ぐ陽光さえも漆黒の中に飲み込んでしまいそうな、黒い機体だ。
 地球連合がアクタイオン・インダストリーに開発させたGAT-Xナンバーのストライクの改修機ストライクノワール。
 決して一般人が使えるような機体ではないのだが、アサキムはどういう経緯でかこの機体を入手して使用している。ノワールの右手には、巨大なルビーを練磨して血の色を写し取ったような実剣が握られていた。
 先ほどの魔王の剣云々と言われていた、アサキムが特注で鍛造させた剣ディスキャリバーである。こういうセンスは、同業者の間でも失笑と妙な尊敬を集めている。

 

『やはり僕と君たちはどこにいようとも巡り合う運命。呪いにも似た歓迎すべき縁だね』
「単に仕事が被っただけでしょう」

 

 セツコには珍しく嫌悪を露わにした声だ。以前にも何度かアサキムと仕事が重複した事があったのだが、どうにもアサキムとセツコとシンは相性が悪いのか、アサキムの言動は一々セツコとシンの神経に爪を立てて不愉快さを煽ってくる。

 

「それと、その悲しみの乙女とか傷だらけの獅子とかいうのはやめてくださいと前にも言った筈です」
『すまないね。君達と初めて会った時からその言葉が脳裏から離れないんだ。これもまたなにかの縁と思ってくれ』
『おれはわりとかっこいいと思うけどな』
「ランドさん!」
『そんな顔で睨むなって』

 

 セツコとは反対にランドやメールはさほどアサキムを嫌っていない、というよりは友人として迎え入れている。時折ランドとアサキムの二人で酒を飲みに出掛けたりもしているらしく、損得勘定を抜きにした付き合いをしているようだ。

 

『ふっ、あまり怒らない事だね。乙女ともあろうものが好いた男の前で怒りの顔を露わにするなど、相応しい行為ではないだろう』

 

 男を知らぬ清らかである事を肉体的な意味での乙女、誰にも心を奪われた事がないのが精神的な意味での乙女を指すならば、セツコはとっくに心身ともに乙女ではないのだが。
 ワークスジンの中のシンは、むすっと下唇を突き出した表情でアサキムに言い返した。

 

『あんたの顔を見て喜びたい気分にはならないね。おれだってセツコと同じ気分さ』
『なるほど、すでに身も心も一つか。素晴らしいね。甘美な悲鳴を夜毎乙女に挙げさせているんだね』
「アアアア、アサキム!! その口を閉じなさい!」
『そうだ! 毎夜じゃなくて朝でも昼でもおれはOKだ!! むしろ大歓迎だぞ』
「シシシ、シン君!?!?!?」
『うわあ、シンとセツコさん爛れてる……』
『セツコ』
「メールちゃんまで、ひどいです。……うぅ、なんですか、ランドさん?」

 

 羞恥に頬を染め、メールからうわぁ、という目線を向けられたセツコは、くすんと薄く涙を浮かべながら、ランドからの通信を繋げた。
 ニッコリと口からのぞいた白い歯が眩く輝き、ぐっと力強く立てた親指を伸ばして片目をウィンクしながらの、あの暑苦しい笑顔でランドはこう言った。

 

『子作りは計画的にな!』
「……」

 

 味方が誰もいない事を、セツコは悟った。

 
 

 戻る