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SRW-SEED_660氏_シン×セツコSS_05

Last-modified: 2014-01-03 (金) 00:18:27
 

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シンとセツコと愉快な変態達 その4『だきしめる』

 
 

 シン・アスカとセツコ・オハラの朝は、おおむね昨夜をどのように過ごしたかで起床時刻に大きく変動が起こる。特に昼近くまで寝て過ごす時は、大抵翌日が休日の時で、夜の間中、シンが自分の腕の中からセツコを離そうとはしないからだ。
 口では拒む言葉を出すセツコも、そっとシンの胸に押し当てた腕にわずかにしか力を込めていない事や、ダメ、と囁く唇から熱く濡れた吐息を零し、澄み切った湖を通して見つめているかのように潤んだ瞳で拒んでいては、説得力などというものは皆無に等しい。
 セツコの体をシンの腕が羽毛を運ぶような軽やかさでベッドの上に横たえ、MSの操縦桿を握れば比類ない戦闘能力を発揮するとは思えない指がセツコの首筋をなぞり、胸や腰、尻の上でピアノの名演奏者の様に淀み無く全身に緩急と強弱を合わせた刺激を与える。
 時にはシンの舌や唇が良く馴染んだセツコの体を這い回り、シンの舌が這った軌跡は窓から差し込む月光に照らされててらてらと艶めかしく輝いて、裸身を晒したセツコの体を覆い尽くし、気紛れに強く吸った唇の跡は所有を示す烙印となって無数に刻まれる。
 シンの指や舌が動き回る時間と唇の刻む烙印の数に比例して、セツコの体の中に眠る快楽神経を弄り貞淑なセツコの心の中に秘められた雌を揺さぶり起こし、体の内側から留まる事を知らぬ淫らな熱に冒されたセツコの体は、隠しようもない悦楽の朱に染まる。
 そうなればもう、シンもセツコも道徳や倫理を忘れたケダモノになり果てるまでに、時間はいらない。そうして夜の闇に沈んだ地平線が、黄金の朝日に照らされるまで、二人は二人だけの淫らで優しい世界に溺れるのだ。
 だから、休日ではない今朝は、わりと早い時刻に起きた。タオルケットに包まり、相手の裸体を抱きしめながら眠っていた姿勢から目を覚ます。
 大抵はセツコの方が早い。自分の腰や首に回されているシンの腕の確かな感触と、すぐ目の前にあるまだ幼ささえ残す想い人のあどけない寝顔に、じんわりと胸の奥が暖かくなり、意識しなくても穏やかな笑みが浮かぶ。
 そんな朝が来る事に、セツコは確かな幸せを感じていた。ベッドに体を預け、共用している枕に頬を預けて、四肢を投げ出したしどけない姿勢のまま、しばらくシンの寝顔を見つめる。
 瞼を閉じ、安らかな寝顔を見つめるて、かすかな寝息を聞いていると、シンを独り占めしているような感覚が、わずかな背徳の感情を交えてセツコの胸に喜びの感情の波を大きく起こす。
 罪悪感を感じるにはあまりにもささやかな、人間ならだれもが持っている愛しいモノへの独占欲。ただそれだけの事に、黒い罪悪感の一点を心のキャンバスに描いてしまう。セツコはそんな女だった。
 シンの瞼が震え、規則正しい寝息の中にん、んん、という声が混じりはじめる。そろそろ起きる頃かな? セツコだけが知っているシンの無防備な姿を独り占めできる世界の終りが、ほかならぬシン自身によって告げられようとしていた。
 それがさびしくもあり、同時にシンが自分を見てくれる、感じてくれる、求めてくれる、必要としてくれる――そんな、あまりにも幸福すぎて、現実の事なのかと信じられないような一日の始まりも意味していた。
 シンの瞼が開いた。ゆっくりと覗く鮮血色の瞳に真っ先に映るのが自分である事が、ひそやかなセツコの誇りであり、自慢だった。
 世界で一番好きな人に、その日で一番最初に見てもらいたい。そんな童女みたいにささやかで微笑ましい願いを叶え続けて居る自分に対する、まるで初めて恋を知った少女の様な、幼い喜び。
 シンの口元に確かな笑みが浮かぶ。いつも目を覚ました時に最初に目に映るのが、セツコである事が、どれほど心の中に喜びを生むのか、安堵の念を湧き起こすのか、きっとセツコは知らないだろうと、シンは思っていた。
 近く――それでは遠い、傍に――まだ遠い、隣に――それでようやく満足――居て欲しい人が、居たい人がいる事を一日の始まりの時に実感できる事の喜び。言葉に表せぬほどの幸福。
 だから、シンはいつも優しい、セツコにしか見せない恋人の為の笑顔を浮かべてこう言うのだ。

 

「おはよう、セツコ」

 

 だから、セツコはいつも愛しさに充ち溢れた、シンにしか見せない愛しい人の為だけの笑顔を浮かべてこう返すのだ。

 

「おはよう、シン君」

 

 言葉を交わした二人の口元が、やわらかく、慈しみに満ちた笑みを浮かべた。

 

 ベッドから揃って降りて、一緒にシャワーを浴び、セツコはシンの視線を気にする風もなくフロントホックのブラを身につけ、青いショーツに足を通し、緑のシャツと(有)ビーターサービスのロゴが刺繍されたツナギに腕を通した。
 すでに隅々までその魅力に充ち溢れた体を味わい尽くし、セツコ以上にセツコの体を知り尽くしたシンだが、毎朝見るその光景には不思議と胸が高まり、凶暴なまでの性欲よりも目の前の女性と自分が共に生き、愛し合っているという事実を夢のように感じている。
 仕事の朝に遅刻しないのは、手を伸ばせ届く距離で行われるセツコの着替えの光景に対し、シンが欲情よりも掌に間違って舞い降りた小鳥を愛でる様にセツコを待っているからだ。
 最後に背に掛かるくらい延ばされた茶の色を帯びた黒髪を後頭部の高い位置で結わえて、ポニーテールにする。無論、MSの操縦や修理屋稼業の邪魔にならないように、という配慮の為だ。
 最もそれが建前に変わるのはあっという間だった。普段シンはまっすぐに下ろされているセツコの髪を、飽きる事無く手で梳いたり撫でるのを好む。それこそ一日中そうして過ごしても一切公開する事無い位だ。
 そのシンが、セツコが初めてポニーテールや三つ編みの髪を披露した時に、見惚れて言葉を失ってから数秒して、ようやく『似合う』『きれいだ』と芸はないが嘘偽りの無い誠実さで褒めてくれた時の喜びは、色褪せる事無くセツコの胸の奥に残っていた。
 今も、シン君、そう思ってくれているかな? とゴム紐で髪をまとめながらセツコは自分の背を見つめているシンに対し、密やかな期待を抱いていた。シンが果たしてどのような気持ちでセツコの艶やかな後ろ姿を見つめていたのかは、無論語るまでもない。 

 

   ▽   ▽   ▽

 

 しかし、現実は無残である。残酷である。理不尽であり、時に絶望にさえ等しいモノが大顎を開いて待ち受けているものだ。
 宿を出て、滞在しているこの街で利用しているカフェテリアで、先に待っているランド達の所へ向かった二人を、とある青年がにこやかに迎えた。

 
 

「やあ、健やかな朝だね。悲しみの乙女、運命の君」

 
 

 ガルナハンにほど近い灼熱の街で、髪の色から足の爪先、指先に至るまで全身黒ずくめの美青年が、シンと同じ色の瞳に愉快気な光を浮かべ、コーヒーカップ片手にそう抜かしてきやがったのである。

 

「……………………」

 

 朝も早よから幸せメーターMAXだったシンとセツコのテンションが、一気に下がった。
 例えるならば気力限界突破持ちで気力170だったのに、たった一人の敵の増援の登場によって発生したイベントで、そこまで上げるのに費やした労力も虚しく気力が50にまで下がってしまったようなものだ。
 苦虫をまとめて百匹も噛み潰したみたいに、たちまち表情を曇らせる二人を尻目に、黒
 づくめの青年――アサキム・ドーウィンは優雅ともいえる仕草で右手のカップを傾けた。
 カップの中身もブラックかと思いきやカフェオレの茶色だった。味覚ばかりはこの青年の趣味に対して裏切り者であるらしい。

 

「どうしたんだい? 早朝の澄み切った空気で胸を満たし、蒼穹の空を仰いで見たまえ。今日も変わらずに照りつける太陽が美しく輝いている。その輝きを浴びれば、魂を縛る煉獄の獄鎖も自らに相応しい冥府の世界を思い出して、束縛を緩めるだろう。
 まずは席に着きたまえ。往来の真ん中で足を止めてはいけないという決まりはないが、最低限のマナーだろう。いかに君らが共にある事で陽光や月光さえも霞む光を放つ運命の恋人といえど、その程度の分別はあるだろう」
「……ランドさん、なんでアサキムがいるんですか」
「セツコォ、そんな恨めしそうな声出すなよ。いいじゃねえか朝飯ぐらい。今日はコイツと共同で作業に当たる予定だしよ」

 

 更なる絶望をセツコに与えつつ、ランドは厚切りのハムステーキとトマト、玉ねぎ、レタスのサンドイッチを二口、三口で片づけている。大きな体に相応しい、見ていて気持ちの良い食べっぷりだ。
 ぐびぐびとブラックのコーヒーも飲んではお代りをしている。コーヒーのお代わりは無料だからだ。隣のメールは、小さな体に相応しく、小ぶりな口でスクランブルエッグを口に運んでいた。
 傍から見れば倍ほども違う年齢に見える二人の関係は、ガキの頃にいろいろと『やんちゃ』をした男と、その『やんちゃ』をしていた頃に造った子供、と見えない事もない。
 二十七にしては三十越えの貫録を醸し出すランドの風貌と、実年齢よりも4,5歳幼く見えるメールの外見という真逆の要素を持つ二人の組み合わせなればこそであろう。
 あ~あ、なんだかな、あれだよねーという投げやりな雰囲気を全開で噴出させながら、シンとセツコも席に着いた。もうあれだ、なんか慣れた。悪い意味で。そう二人の背中が語っていた。
 とりあえず安上がりなモーニングセットを、愛想のいいウェイトレスのおばちゃんに二人前頼んだ。アサキムのお陰で、一日の活力たる朝食は灰色の憂鬱を帯びつつあった。

 

「どうしたんだい? 野に咲く花も恥じらうほど、所構わず桃色の風を振りまく君らが、まるで知人の死に際したように暗闇に陥っているね」

 

 お前がその原因だ、と無言で睨むシンとセツコの視線はどこ吹く風と、アサキムはどこまでもマイペースにカフェオレのお代わりを注文した。
 この調子で今日一日アサキムと付き合わねばならないのだから、シンとセツコはもうヤダァ、と早くも疲れを感じ始めていた。
 二杯目(ランドに聞いたところ実は五杯目)のウィンナーコーヒー(お代りの度に違うものを注文している)を音もなく、光景だけを切り取ってみればどこの王侯貴族かと見紛う優雅な仕草で、アサキムは喉に黒い液体を流し込んだ。

 

「ああそうそう。実は今日は共に肩を並べて仕事に励むという事で、詰まらないものだが、土産を持ってきた。特に傷だらけの獅子たるランドと運命の君であるシンには喜んでもらえると思うのだが……」
「兄弟が土産ねえ。なんかうまいもんか?」
「いや、食べ物ではないな。嗜好品、というよりは僕のちょっとした趣味でね。知人の間ではなかなか評判がいいんだが」

 

 なにやら懐の中に手を突っ込んでごそごそやり始めたアサキムを、ランドは興味深げに、シンは無関心さの上に、社交辞令程度に関心を乗せて見つめる。

 

「コレだよ」
「!?」
「ッ!!」

 

 アサキムの黒革の手袋に包まれた指先が懐から取り出した、長方形の薄い紙媒体。それが徐々に全容を現し、そのわずか50ページにも満たない紙の中にいかなる淫猥な世界が描かれているかを認識した瞬間、シンとランドが動いた。
 表紙には二次元で再現されたセツコの美貌と惜し気もなく晒され、乳房の先にある二粒の果実や、秘すべき女の宮の身を隠して、汗の球を全身に散らして輝く裸身。
 そしてその桜色に染まりつつあるセツコの体を幾重にも縛る赤い紐と、それを手に持ち、セツコ同様に半裸になりながら、恍惚と嗜虐の笑みを浮かべるツィーネが精緻極まる技量で描かれていた。
 いわゆる同人誌。しかもツィーネとセツコの女性同士の性交を題材にしたSM系の百合本らしい。それを認識するのを合図にシンとランドとアサキムの世界は文字通り加速する。
 ランドが勢いよく立ちあがり、彼方の青空を指さして大声で開口一番

 

「あーー、あんなところにTFOがーーー!!」
「え! ダーリン、それ本当!?」
「TF……、UFOじゃなくてですか?」

 

 根が単純なのと素直な幼女と美女の組み合わせが、揃ってランドの指さす方に目を向ける。閃光の速さで翻ったシンの腕がアサキムの指に撮まれていた本を奪い取り、二冊あったそれをまるで何度も予行演習を重ねていたようにシンのツナギの懐の中へ。
 シンとアサキムとランドの視線が交錯する。

 

 

(アサキム、お前、どこでこんな本手に入れやがった!!)

 

 と恋人を汚されて怒髪天を突くシン。これは当然の反応だろう。ここで0・01秒。

 

(そうだぞ、兄弟! どこで手に入れた、こんなすばらし……もとい青少年の教育にはまったく持って不要な、じつにけしからん大人の為の本を!!!)

 

 ある意味シンに匹敵する情熱を違うベクトルで燃やすランドが、鼻息も荒くアサキムに視線で問いかける。ここで0・33秒。

 

(ふふふ、サークル・グリーンリバーライトと増田照男をシクヨロ、ベイベ☆)

 

 紛れもない愉悦の笑みに口の両端を吊り上げ、アサキムは掴みかかる直前にまでヒートアップしたシンとランドに答えた。ここで0・48秒。

 

(グリリ……? 増田……お前のペンネームかあああ!! って、お前かああ、こんな本書いたのはアアア!!!!)
(なに、ツィーネは実に協力的だったよ。執筆の途中で我慢しきれなくなったらしくて宥めすかすのに少し腰が突かれた。まあ、途中でツィーネの好きに動かさせたしね。それに締切直前の徹夜には慣れているさ。僕の体を心配してくれなくてもいいよ)
(誰がお前の体の心配なんかするかああ! お前の頭の中身の方が心配だっつーの! この総天然ゴキブリ色ファッション野朗!!!)
(兄弟いいい!! おれにも一冊書いてくれえ!! というかシン一冊寄越せええ!! そんなお宝を独り占めしようなんざ、人類の宝の喪失だぞ! おれのリビドーへの理不尽な介入だ! 男の子なら誰だってそういうのに興味があるって解るだろ!?)
(ランドさんまでなに言ってんですか!! 第一あんた、もう男の子って年じゃないでしょう!? というか、セツコはおれの! おれのセツコだ!! 
例え本の中でだって、他の野郎に何か、裸を見せてやる気はない、というか見せるわけもない! こいつはおれが処分します!!)→0・73秒。

 

 がるるるる、とまるで餓えた獣の様に喉を鳴らして威嚇するシンの様子に、こりゃ本気だな、とランドも気付く。一方でアサキムはにやにやと薄ら笑いを浮かべているきりだ。

 

(一晩だけでいいんだが。……それでもダメか?)
(ダ・メ!!!!)
(…………)

 

 しょぼん、と巨体に似合わぬ落ち込んだ様子を見せるランドの肩を、アサキムが慰めるように叩いた。

 

(安心したまえ。ほかならぬ君の頼みなら僕は七十二時間眠らずに筆を取る事も厭わない)
(おお、アサキム。流石はおれのソウルブラザー……)
(なんなんだあんた達はああーーー!!!)→ジャスト一秒。

 

 というシンのこれ以上ないという魂の咆哮と共に

 

(時は動きだす!)

 

 

「なにやってんの、アサキム?」
「いや、なんでもないさ。ちょっと新しい決め台詞を考案中でね。五里霧中を長らく彷徨っていたが、少しいいものが思いついたよ」
「良かったね!」

 

 特に深く考えずメールは言った。アサキム相手に深く考えてもあまり意味が無い事を経験から知っているのだ。アサキム自身が物事をあまり考えていないからである。
 がっくりとうなだれ、テーブルに額を押しつけているシンの様子に気づいた、セツコが不思議そうに声をかけた。自分達が他所を向いている間に一体何があったのか、知らぬ方は幸せだろう。

 

「シン君、お腹でも痛いの?」
「いや、ちょっと今日は疲れるだろうなあ、と思っただけ」
「う~ん、否定は出来ないかな?」

 

 困ったように苦笑するセツコの声を聞きながら、シンは別の事を考えていた。はたして懐の中にある実にODEな本とセツコと、はたして今日はどちらを食べてしまおうかと悩んでいたのだ。性的な意味で。

 

(決してセツコに飽きたわけではなくて、二次元の中でもセツコを好きにしていいのはおれだけだから、断じてこんな本がほかの男の目に触れて良いわけはないのであるからして、これはおれが隠しておこう。うん、そうしよう。それがいい。
アサキムが書いたという事実にはあえて目を背けてこの本の中を熟読して今後のマンネリ対策の一環として活用するのも、円満な恋人関係には必要だろうから、別に読んでも浮気じゃないよな。中もセツコだし。ああ、でもなあ……)

 

 なんだかんだでランドと同類のスケベ根性は持っていたらしい。
 で、悩んだ末今日はやっぱりセツコを頂く事にしました。

 

   ▽   ▽   ▽

 

 その日の夜、美味しく頂かれた後、セツコはシンの胸に背を預けていた。シンの両腕が包み込むようにセツコの体の前面に回され、慎ましく窪んだセツコの臍の上あたりで指を組んでいる。
 直接触れるシンの手は暖かく、頂かれている最中とはまた違った感覚で、シンの存在を感じる事が出来て、セツコはささやかな幸福を感じながら、シンの胸に頭を預けていた。

 

「ねえ、シン君」
「うん?」

 

 ほのかに甘い香りのするセツコの髪ごとうなじに顔を埋めていたシンが、言葉は少なく、しかしどこまでも穏やかに返事をした。

 

「こうやってだきしめるっていう行為も二通りあるよね。こうして後ろからだきしめれば、二人は同じ方向を見る事が出来るけど、お互いを見つめ合う事は出来ない。
 お互いを向きあってだきしめると、お互いを見つめ合う事は出来ても、二人が同じ方を見る事は出来なくなってしまう。同じだきしめるっていう行為も、それだけでずいぶんと違うと思わない?」
「お互いを見つめ合うのと、同じ方を見る、か。セツコはどっちが好き?」
「私は、内緒。シン君が教えてくれたら教えてあげる」
「ずるくないか? でも、そうだな。おれはこうして同じ方を見ながら抱きしめるのも」

 

 セツコの体に回された腕に少し力が加えられ、セツコは自分のうなじを吸うシンの唇の感触に声を押し殺した。強く強く、鬱血する程に吸った跡を丹念に舐め回すシンの舌の感触も、労わる様に甘く啄ばむ唇も、どちらもセツコは好きだった。

 

「それから、こうしてお互いを見つめ合って抱きしめ合うのも」

 

 腕が離され、シンの右手はセツコの背中に、左手は細い顎にあてがわれて背中の方にあるシンの方を向けさせられた。セツコが上半身をねじって、シンと見つめ合う体勢だ。

 

「どっちも好きだよ、もちろん相手はセツコじゃないと嫌だけどね」
「シン君の答えもずるいね。でも、うん、私も一緒」
「どっちが? だきしめる向き? それとも相手の方?」
「どっちも。だきしめあうのはどっちも好き。相手は、シン君じゃないと嫌っていうのも、両方ともよ」
「そっか、一緒だな」
「うん」
「そうだな、それに、別にどっちかのだきしめ方しかしちゃいけないなんで誰が決めたわけでもないさ。いつでも、好きなようにお互いをだきしめればいいんだ。おれは、いつだってセツコの傍にいるんだから」
「私もよ。私も、ずっとシン君の隣にいるから」

 

 セツコは日課となった日記を綴る腕を止めた。後ろのベッドではシンがすでに眠りの世界に入り、穏やかな寝顔に変わっている。
 それを慈母と恋人とが半分ずつ混ざった笑みを浮かべて見つめ、セツコは今日の日記の最後の一文を記した。メールが日頃着けている思い出ノートという日記に触発されて、セツコも真似ているのだ。
 いつも最後は、セツコ・オハラと署名して書き終える。開け放たれた窓から吹き込む夜半の涼やかな風に揺れるレースのカーテンが、夜空に煌々と照る満月の白い光を淡く霞ませ、窓際の机に腰かけたセツコに月光と夜闇のドレスを着せているかのようだ。
 ふと、セツコが悪戯を思いついたように、日記に何かを記した。それから、シンの寝顔を見つめて、再び笑顔が浮かぶ。

 

「いつか、そうなるといいんだけど。こういうのは男の人の方から、なんだよね? シン君」

 

 セツコ・オハラと結ばれる筈の日記の文章には、オハラの文字を消してこう書かれていた。『セツコ・アスカ』と。
 セツコはいつかそうなれたら良いのに、となかなか期待に応えてはくれそうにない恋人に、少しだけ拗ねたような笑みを浮かべてから、その隣へと潜り込んだ。

 

「おやすみ、シン君」

 

 すでに眠っているシンの額に口づけて、セツコはゆっくりと瞼を閉じた。眠りにつく前も後も、その口元に浮かぶのは誰もが祝福したくなるような、そんな幸せそうな笑み。
 いや、幸せ『そう』なのではない。今、セツコは紛れもなく幸福の只中にあるのだから。シン・アスカと共に。

 
 

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