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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第00話

Last-modified: 2009-05-03 (日) 21:52:14
 

ディバインSEED DESTINY
第0話『終わりの始まり』

 
 

 C.E.73。ヤキン・ドゥーエ戦役と呼ばれる戦争から一年と約半年の月日が流れた。
 戦争終盤における決戦兵器ジェネシスと核ミサイルの応酬という地球連合、ザフト間での度し難い絶滅戦が行われた戦争は、異世界からの招かれ人の思惑を交え、戦争に参加した全勢力が壊滅的な損害を受けた事でなし崩し的に休戦となった。
 C.E.72年に締結された休戦条約において、ザフトは地球上に確保した領土の内、ジブラルタルとカーペンタリアを除く地域から宇宙へと撤退し、地球連合もまた強引な手腕によって連合の傘下に加えた中立国などの再独立、自治を認める事となる。
 しかし、C.E.72~73に掛けて、地球上では小競り合いが絶える事はなかった。
 旧オーブ連合首長国を母体とする軍事結社『ディバイン・クルセイダーズ(DC)』が、アフリカ大陸、南アメリカ大陸を新たな領土として併合し、これに迎合する形で赤道連合がDCの傘下へと加わる。
 反地球連合勢力として、地球上における最大勢力となったDCの動向には、連合非参加国や、参加こそしているモノの決してその事態を甘んじて受けれ居ているわけではない国家の思惑などが絡み、地球連合を構成する大国にとって看過せざるものだった。
 一挙に勢力が巨大化し、軍の再編や統合した地域への政策、また戦争終期におけるDC総帥ビアン・ゾルダークの負傷とあいまって、この間DCは積極的な軍事活動は行わず、自国の軍備強化と抱え込んだ多量の難民や飢えた国民への対策に奔走する事となる。
 これにつけ込む形で地球連合軍も動きを見せたが、先の大戦における多量の死者と、今だ解決せざるエネルギー問題など彼らもまた至急迅速に解決すべき問題を多数抱え込み、迅速な行動には移れずにいた。
 よって、勃発する戦闘はあくまでも小競り合い程度と呼べるもので、この一年余りはそれなりの緊張感が漂うものの、大規模な戦闘は行われずにいた。
 しかし、徐々に復興が進みある程度の余裕が生まれると、やはり人は喉元を過ぎ去ったはずの熱を思い出し、一時忘却していた筈の事柄を思い出す。先の大戦では完全に着かなかった決着。
 地球とザフト、DC。地球圏の覇権を握るのはどれか一勢力で良いと、どの勢力の者達も再び考え始めたのだ。
 前大戦時、寡兵のDCが地球連合と渡り合ったのはザフトとの軍事同盟の他にも、テスラ・ドライブ、TC-OS、核融合ジェネレーターと言った超技術とそれらを用いた規格外の高性能機動兵器群を多数保有していたに他ならない。
 これは、『コズミック・イラ』と呼ばれる世界とは異なる別世界、ないしは別宇宙の死人達が揃って搭乗していた強力な機動兵器と共にCEへと転移し、その多くをDCが確保していた事。
 またDC総帥ビアン自身が極めて優秀な科学者であった事が、DCに強力な兵器の数々が短期間で配備された大きな要因となる。
 だが、戦争が終結し地球連合やザフトにもまたテスラ・ドライブなどの技術が流出し、異世界の死人達もDC以外の勢力に身を置く事によって、DCが独占していたと言ってもいい超技術の数々が広まり、DCとの技術水準の差を埋めていた。
 それでもなお超頭脳を複数名確保していたDCの技術的優位は確かなもので、また一挙に増大した国力によって、その戦力の総合計も跳ね上がったのは事実であった。
 埋められつつある技術力、埋める事の出来た国力。DCと地球連合、そしてザフト。三者の勢力図が塗り替えられる日がそう遠くはない事を、地球圏の誰もが、心のどこかでひしひしと感じていた。

 

   *   *   *

 

 ラグランジュ2(L2)と呼ばれる地球と月の引力の中和宙域に、小規模ではあるがコロニー国家と呼べるだけの力を持った国があった。
 ビアンがクーデターを起こして政権を奪った旧オーブの、次期後継者であったカガリ・ユラ・アスハが、前大戦時の混乱の隙を突く形で樹立しいつのまにやら地球圏各国に国家と認めさせた『正統オーブ政府』である。
 これには、ジン・ジャナハムを名乗る謎の人物の支援も大きかったと言う。
 廃棄されていた旧式コロニーや、ザフトに壊滅させられたL4の生き残りの難民たちなどを集めた烏合の衆の誹りを受けても甘んじて受け入れる他ない集団ではあった。
 しかし前大戦時に旧オーブのアスハ派の軍人や地球連合の脱走兵、傭兵、ザフトのクライン派の兵士達からなる武装集団『ノバラノソノ』の兵士達の多くが亡命と言う形で所属し、保有する戦力は決して侮れぬものがある。
 国家としての体裁を整えるのにおよそ一年、それからの半年間は外交と軍備の強化にあてられていた。
いまもなお地球圏に漂うきな臭さを鋭敏に察知するだけの嗅覚を、政府代表であるカガリは、これまでの体験から会得していたのである。
 父ウズミが根強いパイプを持っていた月の中立都市コペルニクスで、密かに新型機の開発を行わせ、またL2にある一つのコロニーを丸々兵器工廠として改造し、ノバラノソノが保有していた超技術から得られたデータをもとにした主力量産機の開発も並行して行わせていた。
 すでに地球連合やザフトでは、DCから流出していたTC-OS、核融合ジェネレーター、テスラ・ドライブを標準装備した機体の開発と配備が行われ、旧式のバッテリー機は廃棄されるか、後方に回されるか、民間に売り払われていた。
 オーブもまたカガリの肝煎りで大国の量産機に負けぬだけの高性能機の開発が行われている。戦力の大多数を旧ノバラノソノの参戦者達が持ち込んだ機体で構成していた状況であったが、L2の本国で開発した機体が早期にロールアウトしたため既に配備が進められていた。
 オーブで実戦配備が進められている機体は二種存在する。 
 現在正統オーブ政府軍軍部の重鎮であるカーウァイ・ラウ准将(昇進した)の愛機『ゲシュペンスト・タイプS』と、戦死したオウカ・ナギサの機体『ラピエサージュ』のデータバンクから得たデータを元に開発された機体だ。
 名前を『ゲシュペンストMk-ⅡM(Mass Prduct Model=量産型)』。
 高い汎用性と換装兵器による拡張性、また機体そのものの発展性から後続の機体の開発にも期待がもたれた傑作と言ってもいい。
 もう一機種が、旧オーブが開発を進めていた『M1アストレイ』の系列機『ムラサメ』だ。
 ラピエサージュのデータにあった『ビルトラプター』という人型と戦闘機への可変機構を持つ機体に着目した開発陣が提案した機体で、原型となったビルドラプター同様に可変機構を有し、他国の量産機とは一線を画す機動性を持つ。
 可変機構によってフレーム面での脆さや軽量装甲が問題視されたものの、これはEフィールドの装備によって解決されている。
 また一部のエースや指揮官用に通信機能や、推進力などを強化した上位機種である『マサムネ』が存在している。現在はEフィールドの装備によるコスト高や可変機構の整備性の問題から、ゲシュペンストMk-ⅡMが主力量産機として配備が進められている。
 そして事件は、一部のエースの為の特殊な機体の開発が行われていたコペルニクスで起きた。中立都市と言う名目を隠れ蓑に、各勢力の陰謀渦巻くコペルニクスのとある工場区画で突如、高エネルギーが感知されるや、爆発炎上。
 何者かが機動兵器による戦闘を行っているものと判断された。
 この現場にもっとも早く到着したのが、コペルニクスで開発中の新型機のテストパイロットを務めていた正統オーブ政府宇宙軍所属の、キラ・ヤマト三尉とアレックス・ディノ二尉であった。
 それぞれゲシュペンストMk-ⅡMの開発の際に試作した機体に乗っていた。キラは機動性強化型のタイプR。アスランは出力や装甲強化型のタイプS。
 爆発が生じた区画が、自国が密かに開発している新型機の付近とあり、急行した二名は、そこで対峙する二つの機影を認めたのである。
 この一年ですっかり体に馴染んだオーブのパイロットスーツに身を包んだキラは、前方で揺れる紅蓮の炎の中で対峙する機体を観察した。片方は特機と呼べるほど巨大な機体で、すくなくともオーブで提案された機体の中に類似したものもなかった。
 残る片方も、さして思い当たる節はなかったのだが、その両腕や両足を見てそれが見慣れたものである事に気づき、傍らのアレックスに声をかけた。

 

「アス……アレックス、あっちの小さい方は」
「ああ。あれはアルトアイゼンのパーツだ。強奪されたか、予備のパーツだとは思うが」

 

 ゲシュペンストMk-Ⅱとさして変わらぬサイズの機体の両手両足は、コペルニクスで秘密裏に開発されていた新型機の一つアルトアイゼンのものに相違なかった。
 一般兵の為の主力量産機開発が本土で行われていたのに対し、このコペルニクスはごく一部のエースの為の機体の開発が行われていた。
 オーブのみならず、地球連合やザフトでも、前の大戦において単機で戦況・戦局を覆す兵器が、複数存在した事実から、エースとの組み合わせによって圧倒的な戦闘能力を発揮する機体が求められたのである。
 そうした事情からオーブが開発したのが、アレックス・ディノ専用機『アルトアイゼン』と、キラ・ヤマト専用機『ヴァイスリッター』の二機種だ。和名を冠するオーブ軍の傾向に反し独逸語名が冠せられているのはオリジナルへの敬意によるものとされている。
 慣例に従っていたらアルトアイゼンは『コテツ』、ヴァイスリッターは『シロキシ』と名付けられていたらしい。
 どちらも相応の欠点を抱えつつもパイロットと機体の長所を生かした戦闘、及び連携が取れれば一個中隊相当の戦力と見ていいはずだ。実際には前大戦におけるアレックスとキラの戦果を鑑みればそれ以上の戦力とみる事もできるだろう。
 いずれにせよ、ようやく組み立て終えたばかりと言うアルトアイゼンのパーツが目の前の機体に使われている事に、アレックスとキラは不審げな色を瞳に浮かべる。
 どちらにせよ、早く目の前の二機を確保しないと他国の部隊やコペルニクスの事情を知らない者達に目撃されて、後々面倒な事になりかねない。
 二人は素早く目くばせし、機体を炎の海の中へと進ませた。
 開いた通信回線越しにどうやらそれぞれのパイロットがなにやら、問答を繰り広げているらしい。たまたま拾った声が揃って年若い少年少女のものである事に、アレックスとキラは気付いていた。といっても二人とてまだ十八歳の若者なのだが。

 

「そこの所属不明の機体。武装を解除して投降しろ」

 

 念のため外部スピーカーも合わせて呼びかけたアレックスに今気づいた様で、巨大な機体の方がパイロットの苛立ちも伝わる様子で、右腕を崩れかけている天井に向けるや、巨大なビームを放って撃ち抜き、巨体からは想像できない俊敏さで開けた穴から脱出してゆく。
 アルトアイゼンの手足を持った謎の機体も後を追おうとするが、特機モドキが脱出しざまに撃ってきたビームの回避に機体のバランスを崩し、立て直す間に取り逃がしてしまう。
 挙動を見るに、どうも機体に乗った経験があまりないらしい。
 逃した一機を堂々と追うわけにも行かず、さりとてこのままぐずぐずしているわけにも行かず、キラとアスランはそれぞれゲシュペンストMk-Ⅱで残った謎の機体の前後を固めて、逃がさぬ布陣を敷いた。
 アルトアイゼンもどきのパイロットも観念したのか、同行を請うアレックスに従う旨を伝えてきた。
 多少の抵抗は止む無しと思っていたアレックスが思わず安堵の息を突くくらい、大人しく謎の機体はこちらに従って来た。工場の惨状にはとりあえず眼を瞑るとして。急いてこの場を去らなければならない。
 とりあえず相手の名前くらいは聞いておくか、とアレックスは考えた。後で詳しい話を聞く事にはなるが、それ位は先に聞いておいて悪い訳もなし。

 

「おれはアレックス・ディノ。そっちがキラ・ヤマトだ。君と君の機体の名前くらいは教えて貰えるか?」

 

 少しの間を置いて、モニターに開いたディスプレイに映し出された謎の機体のパイロットの顔にアレックスもキラも、小さく息を飲んだ。
 まっすぐに伸びる極上の絹糸の様な髪は淡やかな桜の色を帯び、触れた指が心地よさに離れる事を拒絶しそうな褐色の肌、ともすれば氷の様に冷たく見える理知的な光を宿した瞳はどこか浮世離れした美しさであった。
 まだ二十歳にもならぬと見えた少女の美貌は、すでにこの世を去ったある少女によく似ていた。

 

「この機体はフリッケライ・ガイスト。私はアリエイル、アリエイル・オーグです」

 

   *   *   *

 

 太陽系のもっとも外側に位置していた旧冥王星に、別宇宙に存在した始原文明エスの古代都市を模した巨大プラントが存在していた。その内部に設けられたいかにも豪勢な邸宅のリビングにいくつかの人影があった。
 地球に降り注ぐ太陽光と全く同じ人工照明が柔らかく照らし出すリビングのソファの背に、やや行儀悪く腰掛けた少年が、リビングを後にしようとしている少年の背に声をかけた。

 

「ティエリア」
「なんだ? リジェネ・レジェッタ」

 

 あるかなしかの笑みを浮かべ声をかけたリジェネと言う少年と、反対に能面のように無表情のティエリアという少年は、まるで鏡に映したように同じ顔立ちをしていた。
 最高級のルビーを象眼したのかと見まごう瞳や、雪花石膏から二人といない名人が彫琢した芸術品の様に繊細で中世的な顔立ち。
 紫の色を帯びた髪をストレートに伸ばして肩口で切りそろえているのがティエリア、癖のある方がリジェネだ。
 他にはお互いに掛けた眼鏡のデザインくらいしか二人の外見で判別できる違いはない。一卵性の双生児であろうか。薄いピンクのカーディガンを羽織ったティエリアの無感情な瞳に射抜かれながら、リジェネは少し困った様に肩をすくめた。

 

「大変だね。いくらデュミナスの指示だからって、DCに行くなんてさ。デスピニスの手伝いをするんだって? 君、地球の重力は苦手だろ?」
「デュミナスの指示は絶対だ。デュミナス、ひいてはクリティックの理想を実現するために、私達イノベイターは生み出された。それは私達の試作タイプであるデスピニス達も同じだ。助力に向かうのに何の問題もない」
「君は真面目だね。まあ、GNドライブ搭載機までつけるんだ。デュミナスもよほどDCに関心があると見える。それとGN粒子の副作用を忘れてはいけない。戦場で負傷などしないように気を着けるんだよ。いくら抑制剤があるとは言ってもね」
「言われなくても分かっている。用件はそれだけか?」
「つれないなあ、君と僕はイノベイターの中でも兄弟の様なものなんだよ。心配をしてもいいだろう?」
「君の好きにすると良い。失礼する」

 

 やや憮然とした声音を最後に背を向けてリビングを退出するティエリアに、リジェネはやれやれと溜息をついたようだった。兄の言う事に反発する弟に困っていると見えなくもない。
 リジェネは、ソファの背もたれに腰かけたまま背後を振り返った。優雅に足を組みソファに深く腰掛けているもう一人の人物がいたのだ。
 目に鮮やかな若草の色を写し取った髪に、少年とも青年とも取れる曖昧な年頃の顔立ちだ。ティエリアやリジェネとは異なる造作だが、彼もまた整い過ぎるほどに整った顔立ちをしている。

 

「君からは何も言わないのかい、リボンズ?」
「必要はないさ。ティエリアは自分の役割をよく理解してくれているよ。君こそ、ティエリア以外の皆の事を心配したらどうだい?」
「ふふ、そうだね。地球連合の所に行ったティスには、ヒリングとリヴァイヴ、プラントに行ったラリアーにはブリングとディヴァイン、それにユーラシアの反政府組織の所にはアニュー。ここも随分と寂しくなったものさ。
 それにしても、良かったのかい? ティエリアとヴァーチェをDCの元に派遣して? DCの技術ならGNドライブの模倣位はやってのけるかもしれないよ」
「なに、すでにこちらの手のモノを潜り込ませているし、相応に手は打ってある。ヴァーチェの装甲くらいにしか彼らは触れられないよ」

 

 穏やかな声のリボンズの返答に、リジェネは満足したのか、そうかいとだけ言ってティエリア同様にリビングを後にした。自分一人になったことを確認し、リボンズは一人独白する。

 

「やれやれ、リジェネもティエリア離れが出来ないようだね。さて、デュミナス、そしてクリティックの予測通り間もなく地球圏は戦禍に再び覆われる。その時こそ、ぼくらイノベイターの真価が問われる時だ」

 

 そう呟くリボンズの瞳は金色に輝き、彼らが『GNドライブ』と呼ぶ、赤い粒子をまき散らす動力機関の生産過程を映し出していた。それは、本来『擬似』GNドライブと呼ばれるべき代物であった。

 

「さてと、ヒリングやディヴァイン達にもはやくガデッサやガラッゾを送ってあげたい所だが、それももう少し先か。ふふ、これからどうなるか、すこし楽しみだね」

 

   *   *   *

 

 地球連合参加国内でも、やはり各国家間における軋轢と言うものは存在している。地球連合の盟主とでも呼ぶべき大西洋連邦に、極東地域を統べる東アジア共和国、ヨーロッパ一帯を統治するユーラシア連邦。
 各国がそれぞれに独自のMS――この時代の三種の神器であるテスラ・ドライヴなどを搭載した新型の開発と配備を行っていた。それはやはり連合内部での、対プラント、対DCとの戦後の地球の覇権を握るのはどの国かと言う意識の表れもである。
 東アジア共和国の北方、一年の多くを氷雪に閉ざされる地域に、その基地はあった。
 一般的な軍の任務についている者には知らされない、いわば裏方に属する基地である。だが、それも今日この日までだ。苛烈な訓練に耐えた精鋭中の精鋭達が、長くつらかった訓練を乗り越え正式に部隊として発足した自分達に胸中で喜びをかみしめている。
 配備された東アジア共和国の最新鋭機『ティエレン(鉄人)』のテストに出ていた五人が、一番最後に基地に帰投した。ティエレンは四角形のブロックを集めて人型にしたような、ちょっと見は武骨な機体で、ザフト系列機に似たモノアイを装備している。
 おおよそ優雅さや軽快といった言葉とは無縁の機体に見える。しかし、如何にも重量感のあるその機体は、国民を守る堅牢さが感じられる。
 DCで言うところのウルブズに相当する特殊部隊“頂武”の隊長であるセルゲイ・スミルノフ中佐は、各機のパイロットに機体から降りるよう命じた。ティエレンのコックピットは一般的なシートではなく立ったまま搭乗する立座型と一風変わった形を取っている。
 セルゲイは顔面を完全にヘッドマウントディスプレイを外し、ティエレンのコックピットに横付けされた昇降機に移った。
 暗緑色のパイロットスーツ越しにも鍛え抜いた筋肉と天与の体格とが見て取れる堂々とした立ち姿だ。指先からつま先まで程良い緊張感が満ちて、今この場で敵に奇襲を受けても冷静さを保ち、即座に反撃の手段を講じるだろう。
 黒髪を綺麗に七三で分け、左半顔には痛々しい傷跡が走っている。この時代、十分に治せる範囲の傷跡であろうが、教訓としているのか、戒めなのかそのままにしているようだ。
 すでに四十歳を過ぎながら、この新しい兵器であるMSに対して並みならぬ適性を見せ、共和国内でも五指に入る操縦技術を持つ傑物である。いかにも骨太と言った顔のつくりにある二つの瞳は、あくまでも理知的だ。
 いささか近寄りがたい風貌ながら、精神は鉄でできた軍人の規範そのものと言った所か。
 セルゲイは背後の部下達のティエレンを見た。正確に言うならば、この場の五機はいずれも通常のティエレンではない。
 セルゲイが搭乗していたのはテスラ・ドライブ内臓の高機動パックを腰部に装備し、脚部にもジェット推進機構を組み込んだティエレン高機動型の、通信機能を強化した指揮官型だ。
 残る五機は、いずれも共和国内で数えるほどしか生産されていないティエレンの最上位機である『ティエレン・タオツー』だ。
 両肩のスラスター兼用の大型シールドや機体各所に増設されたスラスターによって通常のティエレンとは一線を画す機動性を持ち、通信情報処理機能も向上していて、頭部にはT字型のモノアイレールが追加されている。
 コックピットもセルゲイの様なヘッドマウントディスプレイタイプではない全周囲モニターが採用されている。
 ティエレンを大きく上回る共和国の最新鋭機だが、その分パイロットに掛かる負担もすさまじく、目下頂武に所属する四人の兵士が使用するのみに留まっている。
 タオツーとは中国語で『桃子』という意味だが、文字通り桃色なのは一機だけで、他の三機は薄紅色の機体と、橙色が二機となっている。橙色の方は区別する為か右肩を金に塗ったものと左肩を灰色に近い銀に塗られている。
 それぞれのタオツーから降りてきたパイロット達は、タオツー用の特殊なパイロットスーツに身を包んでいた。体のラインがはっきりと出るタイプで、それぞれやや蒸してきたヘルメットを小脇に抱えている。
 驚いた事に、その四人はそれぞれが双子であるらしい。女性二人に男性二人の組み合わせなのだが、それぞれが全く同じ顔立ちをしている上に、体付きまで瓜二つだ。
 女性は、濁りの無い銀の髪をまっすぐに伸ばし、前髪の部分は左右に編み込んでいる。まだ戦場に出るには早いと誰もが思う位に華奢だ。
 二人共に鏡の様に綺麗な金色をしているが、一人は見つめられた相手が固まってしまいそうなほど険しく、もう一人は見つめる瞳の優しさにふっと肩の力を抜けるような眼差しだ。顔も形も一緒だが、柔と剛と相反した印象を受ける。
 固い印象を受けるのがソーマ・ピーリス、穏やかな印象を受けるのマリー・パーファシーだ。桃色のタオツーがソーマ機で、薄紅色のタオツーがマリーの機体となる。
 対して男の方も同じように正反対の印象を与える二人だった。緑がかった黒髪でそれぞれ右目と左目を隠している。ソーマやマリーよりも頭一つは高く、セルゲイ以上に鍛えぬいた体格だ。
 両腋が閉まらないのは発達した上腕筋の所為だろう。右目を前髪で隠し、穏やかな印象を受けるのがアレルヤ・ハプティズム。反対に左目を前髪で隠し、今にも牙を剥いて獣も怯える殺気をまき散らしそうなのがハレルヤ・ハプティズム。
 四名ともが、共和国内で秘密裏に行われていた非人道的な実験によって、人間の限界を超えた身体能力や特殊な能力を得た一種の強化人間、あるいは超人的存在”超兵”だ。今は超兵の研究機関が解体され、行き場の無くなった彼らをセルゲイが預かっている形だ。
 セルゲイから見れば四人共が戦場に出すには大なり小なり躊躇を覚える年若さだったが、共和国上層部が近いうちに戦争が再び勃発すると考えており、それに対抗する為に優れた能力を有する彼らを放っておく訳もない。
 セルゲイにできるのは、自分の下に預かっている間は彼らが戦死する様な事が無いよう尽力する事くらいだろう。セルゲイは彼らの労をねぎらうべく、ゆっくりと歩き始めた。

 

   *   *   *

 

 ユーラシア連邦の支配地域であるヨーロッパの、旧オランダ王国地域を中心に反ユーラシア連邦政府に対する活動を行う軍事組織があった。
 元は反政府活動と言ってもデモやマスメディアにおける活動のみ、テロなどには手を下さない組織であった。
 しかしプラントとの開戦に前後してユーラシア連邦の一部の高官が一方的に武力を用いて、流血によって鎮圧活動を行った事や、大西洋連邦に唯々諾々と従う政府に対する反感が高まり、武力による抵抗を行うまでに至った。
 これには強烈なカリスマを持ったある人物の台頭とそのある男が引き連れた謎の機動兵器群の戦力によるところが大きい。
 『カタロン』と呼ばれる反政府組織は、ユーラシア連邦内における覇権争いに注意を向ける他国からの援助なども受けながら、日ごとユーラシア連邦の正規軍との小規模なMS戦を繰り広げていた。
 今日もユーラシア連邦の有するダガーLとストライクダガーの混成部隊を相手に、カタロン所属のジンやストライクダガーが銃火を交えている。
 なだらかな丘の続く遮蔽物の無い平原地帯を戦車部隊の援護を受けながら、ユーラシア軍のダガーLが整然と並んで錬度と兵器の質で劣るカタロンのMSを破壊してゆく。
 カタロンには元軍人も多いが、もっとも新しい兵器であるMSの正規の訓練を受けたものがそう多くないのか、一機、また一機と数を減らして行く。
 ほどなくカタロンの保有するMS部隊がすべて撃墜されるのも時間の問題かと思われた。三機一組で行動していたストライクダガーの胸部を、はるか遠方からのビームが貫いたのは、すでに歩兵などの掃討に移ろうかと言う時だった。

 

「な、どこからの!?」
「た、隊長っ」

 

 驚く小隊長もまた正確にコックピットを撃ち抜いたビームによって蒸発し、残った最後の一人が他の部隊に救援を求めようと思い立つのと、三射目のビームがその一人を貫くのはほぼ同時だった。
 ズシン、と重々しい音を立てて糸の切れた人形のように倒れ伏すストライクダガーをスコープ越しに確認し、彼方で膝立ちの姿勢で狙撃を行っていたM1アストレイが立ち上がる。
 手に持っているのは本来M1Aが使用する、最大射程400kmを誇るビームライフルだ。それを地上用に調整し狙撃用に改良を加えたものを使って、見事に三機のストライクダガーを仕留めたのだろう。
 コックピットの中で、地球連合のパイロットスーツに身を包んだ青年が、瞼に流れてきた汗を手の甲で乱暴に拭った。二十代半ば程の青年だ。北欧系なのか白い肌に彫の深い顔立ちで、やや癖の掛った茶色の髪をしている。
 援護に駆けつけた味方が全機撃墜されているのを確認し、忌々しげに舌打ちを一つ付いてから、ほかの生き残りについて情報を得るべく通信機に荒げた声を叩きつける。

 

「アニュー、他に敵は?」
「大丈夫よ、ライル。カークス将軍のエウリードが間にあったから」

 

 後方で待機しているアニュー・リターナーと通信で、他の救援は間に合った事を確認し、スナイパー仕様のカスタマイズを施したM1のパイロット、ライル・ディランディはやれやれと溜息を吐いた。
 カタロンのリーダーであるカークス・ザン・ヴァルハレビアの保有する専用機動兵器『エウリード』の戦闘能力は折り紙つきだ。あれならいま各国が配備している核融合ジェネレーター搭載機でも、容易く撃退できるだろう。
 これならあとは追撃部隊の時間稼ぎをするだけで済むかと、ライルは程良く肩から力を抜いて背もたれに体を預けた。

 

「なあ、アニュー」
「なに? ライル」

 

 ライルにとって今一番耳心地の良い声に、ライルはわけもなく笑みを浮かべた。カタロンに参加してから知り合った同年代の才媛の美女との関係は戦友以上恋人未満に落ち着いている。ライルとしてはもう少し深い関係になりたい所だ。

 

「この作戦が終わったら食事でもどうだ? 昔馴染みが新しく始めた店があってさ。招待されてるんだよ」
「もう、家に帰るまでが作戦よ、ライル」
「まあな。でもなにか御褒美があった方が生き残ってやろうって言う気になるだろう? そういうわけで、さ」
「仕方ないわねぇ」

 

 そういって生徒の思わぬ告白に困る新任女教師の様な笑みを浮かべるアニューの顔が簡単に想像できて、ライルはもうひと押しかな、と手ごたえを感じた。カークスがエウリードを用いてユーラシアの部隊を敗走させたと連絡があったのは、それから更に三十分後の事であった。

 

   *   *   *

 

 カークス・ザン・ヴァルハレビア率いる反政府組織カタロンが、ユーラシア連邦正規軍と戦闘を終えたのと同日の事。ユーラシアに属するとある地方に、世界を見渡してもめったに見られぬほど豪華な屋敷が建っていた。
 高い塀に囲まれ、切り取られた視界には警備の為に配置されたMSの姿が見える。
 サー・マティアスと呼ばれる経歴性別そのほか一切が不明の人物が、この屋敷の主であった。
 大理石の床も敷かれた絨毯も照らし出すシャンデリアも、廊下に並ぶ数々の展示品も、およそ目に着く全ての品が庶民とは、いや並みの大金持ちと呼ばれるたぐいの人種でも一生縁のない最上級の品ばかりである。
 最初はその豪奢さに感心した来訪者も、同じようなものばかりが連続すると無感動になってしまいそうだ。
 マティアスは三十代半ば頃の男性だ。黒い前髪で顔の右半分を隠す様にしているがなかなかのハンサムと言えるだろう。どこか女性めいた柔らかい所作が端々ににじむが、それも動作と外見から感じられる性別の違いに対する違和感よりは、品の良さへと繋がる。
 深くソファに腰かけたマティアスは、それまで口に咥えていた象牙細工のキセルをはなし、招いた客に目を向けた。
 吐いた煙が客に向かう様な事はない。もともと煙草と言うものは煙の味と香りを本人が楽しむものであり、その煙が他人に迷惑にならぬよう風向きを呼んで煙を吐く事が礼儀だ。
 それ位の知識と作法は何世紀も前に廃れてしまったが、マティアスは身に着けているようだ。
 とりあえずマティアスの煙草の煙の味を味合わずに済んだ招かれた客の内、背の高い方がマティアスに向かって口を開いた。纏う雰囲気は違うが顔立ちは驚くほどあのライル・ディランディに似ている。

 

「サー・マティアス、おれ達を呼び出した理由はなんだい? スポンサーのお呼びとあって大急ぎで駆けつけたんだがな」
「ふふ、ごめんなさいね、ロックオン。実は貴方達に折り入って頼みがあるの。ちょっと長い仕事になるわね」

 

 マティアスの女口調には慣れているのか、ロックオンと呼ばれた青年と先程から黙ったままの少年は、沈黙をもってマティアスに先を促す。マティアスは人当たりの良い笑みを浮かべながら、秘密を暴露する瞬間に似た楽しさを覚えていた。

 

「今までいろんな仕事をこなしてきてくれた貴方達に折り入っての頼みと言うのはね、私が懇意にしている所の軍隊に助っ人に行って欲しいのよ」
「おれ達に軍人になれってのか?」

 

 それまでどこか陽気の色を帯びていたロックオンの声がにわかに低くなる。黙ったままだった少年もかすかに眉を動かして納得のいかぬ事を暗に告げる。

 

「ちょっと違うわね。民間軍事会社からの出向と言う形でもいいし、善意の協力者という体裁を取ってもいいわ。向こうにはそういった前例もあるし、こちらの身元や素性を探らないという条件も飲んでもらっているしね」
「それで、おれ達にどこへ行けと言うんだ?」

 

 それまで黙っていた少年だ。くせ毛なのかあっちこっちに跳ねた黒髪に、まだまだ子供くささの抜けない顔立ちをしている。目鼻の高さや配置、やや褐色の肌から中東系の出身だろう。
 長身のロックオンが傍らに立っているから余計に細い体が目立つ。しかしどこか幼ささえ残す風貌に反し、その目つきは鋭い。そう、生と死の境が曖昧な戦場を何度もくぐった戦士のそれだ。

 

「相変わらずクールな瞳ね、刹那。食べちゃいたいくらいだわ。ふふ、貴方達に向かって欲しいのは、DC――ディバイン・クルセイダーズよ。私、あそこのビアン総帥とはお友達なのよ」
「DCねえ、そいつはこれからまた大きな戦争が起きるってことかい?」
「そうかもしれないわねえ、ロックオン。どう、刹那、行ってくれるかしら? 機体は向こうが用意してくれるわよ」
「分かった。DCへの出向任務了解した。ロックオンはどうする?」
「はあ、まったく勝手に決めやがって……。まあいいさ、分かった。おれも行くよ。機体に関してはちょっと注文付けるぜ?」
「それ位は任せて起きなさい。貴方達好みの機体を用意させておくわ」

 

 やれやれとロックオンは肩をすくめるが、刹那は何を考えているのか、鋭い瞳のままマティアスを見つめ返していた。