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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第01話

Last-modified: 2010-07-09 (金) 12:07:33
 

ディバインSEED DESTINY
第01話『SRW × SEED DESTINY × OO』

 
 

 オーブ諸島のとある家のリビングで、最近大人気の特撮モノを熱心に見ている人影があった。小さい子は幼稚園児から大きなお友達までが熱烈に支持している番組だ。
 社員数二十三人という小さな有限会社イディクスが、国営放送の日曜朝07:00~07:30の時間枠で大絶賛放映中の『魔法少女マジカルレム☆』である。
 ある日、魔法の国からやってきた狐のヴェリニーをひょんなことから助けた少女レムが、クリスタルハートの力を借りて、悪の天才魔法科学者イスペイルと、『クルスの欠片』と言う魔法の水晶を巡って戦うという典型的な魔法少女ものである。
 いま、モニターの向こうでは主役のレムとイスペイルが作り出したヤガランデという巨大な機動兵器と激闘が繰り広げられている。
 普段は小さな子狐の姿をしているヴェリニーが、クルスの欠片の力で獣耳としっぽの生えた妙齢の美女に変身して、クリスタルハートの力で魔道装甲ゼナディーエを纏ったレムと一緒に戦っていた。
 ヴェリニーはその豊満な肢体を露出の多い服装で披露し、縦横無尽に飛び、跳ね、走ってはその乳房を魅惑的に揺らし、野性的な風貌と普段は短気で物騒な事も言うのに、時折見せる優しさにハマった人が多く高い人気を誇る。
 レムは十歳前後の美少女が、死神か悪魔めいた禍々しい外見のゼナディーエを纏った際のギャップや、時折吐く強い毒舌が大ウケしている。
 そんな魔法少女ものを熱心に見ているのは、アスカ家の長女マユ・アスカとその兄シン・アスカであった。
 可愛い妹の見ているテレビ番組が気になり、朝方の時間が空いていた事も相まって、シンは初めてマジカルレムを視聴していた。今はぼんやりと頬杖をついてテレビを見ている。
 ぼんやりとテレビを見ている様子からは、とてもDCで一、二を争う最強の機動兵器部隊のエースとは思えない。
 前大戦時の最終決戦において、瀕死と言う言葉の見本と言うべき重傷を負った後遺症で、半年近く車椅子での生活を余儀なくされたものの、その後のリハビリと以前にも増して密度を増した修行で、以前よりも逞しさを増していた。
 テレビ画面の中で、レムの放った必殺技がヤガランデを粉砕し、その爆発に巻き込まれてイスペイルが青空の彼方に吹き飛ぶと言うお約束のパターンで戦いの決着がついていた。
 イスペイルが起こした騒動の後始末のシーンが流れ、EDまで見終えると、マユが顔を上げた。

 

「ん~今日も面白かったぁ。お兄ちゃんもそう思うでしょ」
「そうだなぁ、でもレム役の子もマユとそんなに年は変わんないのにずいぶん乱暴なセリフを言うよな。マユは真似するなよ」
「はぁい。あ、そういえばお兄ちゃん」
「ん?」
「今日は早くから軍のお仕事があるんじゃなかったの? 新しい人が来るって言ってたよね?」
「……あ、やべ。すぐ行かなきゃ」
「もう、怒られても知らないよ~!」

 

 慌てて腰かけていた椅子に掛けていた軍服の上着を掴み取って、シンは玄関に向けて大急ぎで走った。乱暴に締めた玄関扉の向こうから、マユの呆れた声と、マジカルレムのEDソングがかすかに聞こえた。

 

   *   *   *

 

 オーブ諸島オノゴロ島の、とあるオフィス街にある雑居ビルに、有限会社イディクスはあった。社員総数二十三名。これには、タレントであるイスペイル、ヴェリニー、ガズムも含む。
 ワンフロアを借り切った事務所は、こぢんまりとしていてどこか寂れた感がある。一応社長室とだけ名札を掛けた一室で、(有)イディクスのトップ三人が定例会議を行っていた。
 リサイクルショップで購入したソファとテーブルに本棚と、すべて中古の品である辺りが台所事情の寂しさを物語っている。
 ソファに腰掛けている巨漢がイスペイル。何と表現すればよいのか、金色の尖った歯は剥きだしで鼻から上は黒い一本角の形をしており、眼の辺りに赤い丸が二つ並んでいる。
 古いSFに出てくるような昆虫人間を、サイボーグに改造したように体の表面に機械がいくつも露出している。ヴェリニーやレム役のガズムはほとんどテレビの中の格好とおなじだ。

 

「あーもう疲れた。ちょっと聞いてよ。あの国営放送のプロデューサー、私の事いやらしい目で見てくるのよ、ホント八つ裂きにしてやろうかと何度思ったと思う?」
「お前の格好が格好だからな」
「なによそれ、あんただってその格好で出歩いて何回警察のお世話になって、私達が迎えに行ったと思っているのよ。あんたに見た目の事でとやかく言われたくないわ」
「ぬぐ」
「下らん話はそこまでにしろ。イスペイル、資金はどの程度貯まったのだ?」

 

 愚痴を垂らすヴェリニーとイスペイルのやり取りに、ガズムが口を挟んだ。外見で言えば一番常識的で、立場も弱そうなものなのだが、二人が押し黙るほどの迫力を纏っている。口調から滲む威厳も、とても外見からは推し量れないものがある。
 イディクスの面々はもともとは特定の外見をもたない存在で、とある条件を満たした別の生命体に憑依しその肉体を支配している。ガズムの外見と雰囲気や言葉遣いが一致しないのもそのせいだ。
 ただ、ヴェリニーやイスペイルが生前の肉体共々こちらに来たのに対し、ガズムはやや事情が異なる。彼の場合、最後の瞬間は愛機ゼナディーエに憑依していたのだが、こちらに来た際にはその寸前まで使っていたレムという少女の外見をしていたのだ。
 ガズムが調べた限りではレムの肉体そのものではなく外見を模倣しているだけとの事だが、なぜ受肉しているのかは謎だ。
 さて、語るまでもないかもしれないが、このイディクスに所属する者達は皆、異世界からの来訪者である。イディクスとは彼らの所属していた組織の名前で、ヴェリニー、イスペイル、ガズムはそれぞれイディクスの幹部に相当する者たちだ。
 何の因果か地球と呼ばれていた二つの星と関わった事で滅びたはずの彼らは、揃ってこのコズミック・イラの地球で目覚め、どういった経緯でか起業して日々の糧を得ているらしい。

 

「うむ、まあ必要な機材の七割方はこれでそろうだろう。問題はエネルギー源だ。私が開発したマイナスエネルギー収集装置は順調に稼働しているが、いかんせん規模が小さい所為で集められる量が少ない。
ゲートを開くエネルギーとして着目したはいいが、必要量を集めるのにはまだ時間がかかるな。前の戦争の終わりにほとんどを何者かに持っていかれたせいだろう」
「あのね、そんなんじゃル・コボル様のいる次元に何時帰還できるか分からないじゃない。ちゃんと自覚はあるの」

 

 ばん、と強くテーブルを叩き、今にも噛みついてきそうな勢いでヒステリックに言い募るヴェリニーに及び腰になりながら、イスペイルが慌てて釈明を始めた。どうにも立場が弱いらしい。思わず座っていたソファの背もたれに抱きついている。実に情けない。

 

「わ、分かっている。だが、こちらにはタングラムがないのだ。そう簡単に別次元への扉が開けるものか。ただでさえ、こちらの宇宙には『欠片』が存在せず、我らの存在の密度を上げる事も出来ないのだ。できる手が限られていると、前にも話しただろう」
「んもう、だからっていつまでこんなお遊戯ごっこを続けるのよ。そりゃ、ゲート製造の為にいろいろと用立てなきゃいけないのはまだ分かるけど」
「仕方あるまい。戦時中のどさくさにまぎれて戸籍やらなんやらは誤魔化せたし、銀行の口座を書き換えて多少の資金は捻出できたが、それも既に勘付かれた痕跡がある。我々の異形の外見を誤魔化すにも、この仕事はうってつけだと思ったのだ」

 

 実際のところ、人気を博しているのは事実である。二人のやり取りに、疲れた様にガズムが溜息を吐いた。

 

「いずれにせよ、ゼナディーエやエンダークの維持費もバカにならん。しばらくはこの稼業を続けて金を稼ぐほかあるまい」

 

 この世界に来るに当たり、彼らの部下諸共に機体毎召喚されたようで、目下それらはイスペイルがおでんの屋台で一人酒を飲みながら愚痴を零していた時に懇意になった、とあるたこ焼き屋の主人に教えてもらった倉庫群にしまっている。
 もちろんイディクスの技術を総動員した隠蔽工作も施してあり、今のところDCに気づかれた様子はない。もっとも、ヴォルクルスの襲来時は、付近に出現した事もあってかなり危険だったが。

 

「それに戦争になればマイナスエネルギーも集めやすくなる。確か、あの地球でも似たような歴史だったはずだ。そう遠くないうちにまた戦争になるだろう。イスペイル、一刻も早く次元を繋ぐゲートを完成させるのだ。全ては原初のル・コボル様に帰還する為に」
「……分かっているとも」

 

 そう答えるイスペイルはどこか苦々しげだ。彼らイディクスとは、もともと惑星クルスと言う星の住人の意識が一つになったル・コボルという存在から派生している。
 同胞との戦いに敗れたル・コボルは一種のエネルギー体となって生物に宿り、戦いの勝者たちはそれに気づかぬまま宇宙に広がっていた。イディクスとは、その『欠片』と呼ばれる分散したル・コボルを再び集め、一つになろうとする集団だ。
 最も密度の濃い存在をル・コボルと呼称し、ガズムが次いで強大な力を持つ。イスペイルは三人の中で最も欠片の密度が薄く、ル・コボルの一部としての意識が薄いためか、自我が強く、自らと言う個の存続を企てている。
 まあ、目論見が失敗して斃されて、晴れて仲良くこちらの世界に転移してきたのだが。

 

(少なくとも、ル・コボルに対抗できるだけの力を蓄えるまで、向こう側への帰還を遅らせねばなるまい。いや、そもそもあちらに戻る必要などないのだ。こちらの世界を支配してしまえばいい。とにかく、今は雌伏の時だな)

 

 しかし、この世界の混迷の深さは、イスペイルを含め、イディクスの面々の想像を超えているものだった。それを彼らが痛感し、行動方針の転換を求められるのはいましばらく先の事である。

 

   *   *   *

 

 今も目を閉じれば鮮明に思い浮かべる事が出来る。
 神を讃え、神の為に、神の御心のままに、すべては神のおぼしめし。その生命の死を持って神を礼賛せよ、と語りかける男の声。
 今はまばらになった銃声の合間合間に、確かに聞こえてくる。ずしりとした重量が感じられる、手に持った機関銃を投げ捨ててしまいたい衝動に駆られていた。
 舞い上がる砂煙には、仲間達の血の粒子が混じり、黄色から赤に変わるのも時間の問題なのではないだろうか。
 精々が機関銃や、手榴弾位しか持たされていない少年兵達相手に、戦車やヘリまで持ち出すとはずいぶんと過大評価されているような気もする。
 いや、だからこそ自分達は置き去りにされたのだ。勝ち目がないと悟った大人達が逃げる為の時間稼ぎ。
 残された自分達の命全てを代価にする為に、『神の為に』と高らかに叫びながら、自分達に『神に捧ぐ聖戦』の戦い方を教えた大人達は逃亡している。
 胸から下を吹き飛ばされて息絶えた仲間の手に握られたラジオから、繰り返し神の為に、神の為にという文言が続いている。
 神の為に自分達の命を捧ぐのだと、戦いに赴く前に誇らしげに語りあっていた仲間達はすでにもの言わぬ肉の塊に変わり果てている。
 大人用のジャケットは、小さな自分の体には合わず、走りまわるのにいちいち袖が絡んでうっとおしかった。がちゃがちゃと、予備の弾倉を吊るしたベルトが肩に食い込み、その痛みが自分が生きている事を認識させた。
 砲撃で崩れた瓦礫の物陰に背を預けてずるずると座り込む。もう二度と立ち上がる事が出来なくなりそうなほど、体の細胞一つ一つが疲弊しきっていた。
 一方的な蹂躙に怯える心が、先程から繰り返し聞こえてくるラジオの言葉に、意識せぬうちに口を突いていた。

 
 

「神は、いない」

 
 

 肺が破れてしまいそうなほど呼吸が苦しい。荒い吐息が自分のものとは思えなかった。これまでの自分を、そして死んでいった仲間達を否定する言葉を口にしたと言うのに、まるで動揺はなかった。
 理解してしまった。分かってしまった。こんな事を求めるものが、こんな事を許す者が、神などである筈が無い。自分達が口にし、聞かされてきた『神』という存在は、少なくともここにはいないのだ。

 

「神など、居は、しない……」

 

 再び口を開いた時かすかなローター音が聞こえ、その方向に銃口を向けた先に鋼鉄の死神が居た。消音処置をはじめとしたステルス処理を徹底的に施された戦闘ヘリだ。ターレットが旋回し、二十ミリ機関砲が自分を捉える。
 十歳かそこらの子供が跡形もなく消し飛ばされるには十分すぎる。オーバー・キルという奴だ。神はいなくとも死神はいる。なんとも皮肉な話だ。
 たった一発、鉛の弾が発射されるだけで自分は死に、真っ赤なひき肉に変わるのには一秒と掛かるまい。
 嫌だ。死にたくない。こんな所で、意味もなく、誰にも知られることなく、何かを成す事もなく、殺されてしまうのか?

 

「死にたく――」

 

 ない、と言い終える前に迎えた筈の死は、頭上から降り注いだ光の矢が、戦闘ヘリを撃ち抜いて爆炎の花に変えた。
 確定していたはずの死が、唐突に生に変わった事態に対応しきれず呆然とする自分の視界に、次々と放たれる光の矢に気づく。それはこの戦場、いや、一方的な狩場の狩人であった者達を次々と貫いていった。
 やがて、動く者がいなくなったのか光の矢が絶えた。光の矢が降り注いだ天を仰いだ。背から血のように赤い、どこか禍々しい光の粒子を散布しあたかも紅の翼を背負った天使の様な人型が天に君臨していた。
 背を向けていたそれがゆっくりとこちらを振り返る。右手にはライフル、左手にはシールド。人間の使用するそれらをスケールアップしたものを持った人型が、この場にいた者達に断罪を下した死天使の姿だった。
 それを瞳に映したまま、時が止まった様に動けなかった。何も言葉を紡ぐ事が出来ない。先ほどまで死と争いに満ちていた戦場を、圧倒的な力で支配したその存在を前にして、類別できない感情が心を満たしている。
 我知らず、両眼の端から零れた涙が頬を濡らした。
 幼い自分を救ったその人型が、まだ存在する筈の無いMSと呼ばれる人型機動兵器であり、自分達を囮にした大人達が皆殺しにあったと知るのはそれからしばらく経ってからのことだった。
 そして、前大戦であの日見た巨人と酷似したMSが、ガンダムと呼ばれている事を最近知った。

 

「刹那」

 

 自分の名を呼ぶ声に、刹那・F・セイエイは振り返った。マティアスの用意したジェット機の席でいつの間にかまどろんでいたらしい。
 自分を覚醒させたのが、ここ一年ほどよく組んでマティアスからの仕事をこなしているロックオンだと、確認するまでもなく理解して、刹那は隣席に目を移した。
 ロックオンは少し変わっている。マティアスの紹介で初めて顔を合わせた時、まるで幽霊を見る様な眼でこちらを見て、何の反応もせずにいるとどこか寂しげに笑って、自己紹介しながら握手を求めてきた。
 刹那は自分自身がおよそ愛想が良いとはいえぬ性分である事は分かっている。あの戦場を生き延びてから、他人に心を許したこともほとんどない。
 頑なな刹那に、ロックオンはめげる事も飽きる事もせずに話しかけ、助け、気心の知れた仲間の様に接し続けてきた。今では、刹那もある程度の信頼を置いている。

 

「着いたぜ。オノゴロ島だ。あそこの地下ドックにおれ達の新しいお仲間がいるって話だ」
「ああ」

 

 とそっけないことこの上ない刹那の返事に、ロックオンはやれやれとばかりに肩をすくめた。返事が返ってきただけ、前よりはマシとしておこう。
 ロックオンは刹那がまた眼を瞑ったのを見てから、窓の外に広がる光景へ視線を移した。マティアスが用立ててくれた電子義眼は、生来のもの以上によく光景を映してくれている。
 こちらに来たばかりの頃は右半分の視界が死んでいたが、今では以前同様、左右共に良好な視界が広がっている。
 晴れ渡った青空に、綿飴を千切って浮かべたような雲。燦々と降り注ぐ陽光は万物に等しく降り注ぐ。
 南国に位置するオーブ諸島は、麗らかな陽気に包まれ一年を通して過ごしやすい気候にある。前大戦中、二度に渡って戦場になったと言うオノゴロ島やヤラファス島は、いまはその時の戦火の爪痕から完全に癒えている。
 幾万、幾十万もの人々が暮らす街並みを見下ろして、ロックオンは想う。
 あの日、あの時、ソレスタルビーイングのロックオン・ストラトスである事よりも、ニール・ディランディとして復讐を選んだ戦いで死んだはずの自分が、どういうわけかパイロットスーツ姿のまま地球に居た不思議の謎は今も解けぬままだ。
 だが、呼吸もしているし、腹も減れば眠くもなる。どうやら生きている事は確からしかった。そして、生きてみようかと思う理由もあった。
 このコズミック・イラと言う世界も、自分が居た西暦の世界同様に争いの絶えぬ世界だった。いや、むしろより凄惨な世界だった。
 前大戦では、何の誇張もなしに地球連合とザフトが、互いを滅ぼし合おうとするほどの戦いを行った世界。ナチュラルとコーディネイターと言う根深い差別問題。ナチュラル間でも大国同士の間に存在する対立意識。
 そんな世界と、どう向き合うべきか。
 最後のあの瞬間、ニール・ディランディである事を選んだ自分は、死んだ。変われなかったのだ。家族を奪ったテロへの憎しみに突き動かされ、テロを指示した張本人を前に自分がロックオン・ストラトスである事を忘れた。
 だから、今度こそは“武力介入による紛争根絶”、それを目指す私設武装組織ソレスタルビーイングのガンダムマイスター、ロックオン・ストラトスとして。
 たとえ共に戦うソレスタルビーイングの仲間はいなくとも、ガンダムが無くとも、ロックオン・ストラトスとして世界と向き合う。それが、ニール・ディランディの選んだ道だった。

 

「おっ、あれがDCの新型か」

 

 ロックオンの眼に、オノゴロ島の軍事施設で整然と並ぶ機体が映った。
 現在、DCは前大戦で主力としたエムリオンやガームリオンなどをはじめとするM1の生産ラインを流用した、AMとMSのキメラMSの生産をほぼ中止している。
 ビアンの提案以前にある程度整っていた生産ラインを生かす形での間にあわせの色合いが強かったエムリオンらは、戦後の急速な国力の増大も相まって見直され、またDCの優位を確保していた各種技術の流出も鑑み、より高性能の新型機が求められたのだ。
 エムリオンに用いていたリオンパーツの生産ラインはそのままリオンの生産に使われ、M1の生産ラインは一応、わずかにではあるが残されていたが、これは軍用ではなかった。
 余ったM1の余剰パーツなどを四割ほど使った作業用非武装MSレイスタを、軍事会社モルゲンレーテの、ユン・セファンという若い社員が設計・開発し、DCはこれをジャンク屋ギルドや友好国などに提供している。
 ジャンク屋ギルドなどではこのレイスタをさらに改造したシビリアンアストレイというタイプのMSも販売していた。
 なお、作業用MSとして実に優秀な性能を誇るレイスタではあったが、DC本土ではあまり見かけない品である。
 前大戦終期に開発されたボスボロットという準特機(疑問視する声が多い)が、作業用としてDC内部で広く普及しているためだ。
 風呂・トイレ・キッチン完備で、ジャンクパーツから簡単に組み上げられる極めて優秀な生産性と整備性に、車の運転よりも簡単と言われるほどのある意味オーバーテクノロジーじみた操縦の簡便性が高く評価されているのだ。
 さて、話を新型機について戻そう。求められた高性能機に提示された答えは、二つあった。
 南アフリカ統一機構と北アフリカ共同体を統合し、DCの傘下に置いたバン・バ・チュンの部隊が用いていた新西暦世界の純生PTの、最新鋭機エルアインスが採用されたのである。
 エルアインスは、WRXの原型となった新西暦世界の特機SRXを構成するR-1の量産型ともいえる機体だ。
 高性能のテスラ・ドライブは勿論、近・中・遠と全距離に対応する武装と優れた基本性能、また性能に比して優れたコストパフォーマンスを持つ。加えて稼働中の機体もいくつかあったため、生産配備が容易だったのだ。
 オノゴロ島の軍事設備で整然と並ぶ、エールストライカー装備のダガーLや105ダガーに似たエルアインスの列の隣に、もう一つの新型機があった。
 真紅の機体色に、四つのカメラアイが覗く独特の頭部。丸みを帯びた装甲の胴を持ったもう一つの新型機アヘッドだ。
 エルアインスが主力とした多数が生産されているのに対し、アヘッドはどちらかというと数々の新型装備の実験機としての色合いも強く、実験部隊や精鋭部隊に試験的に配備されている機体だ。
 特徴的なのが、背から延びるドングリの様な円錐のパーツだろう。今だ数少ないアヘッドにのみ試験的に搭載されている動力機関“擬似GNドライヴ”だ。
 旧冥王星に拠点を置くイノベイターのみが保有している筈の擬似GNドライヴを、どういった経緯によるものかDCは入手し、これを実用段階にまで持ち込んでいたのだ。
 稼働中のアヘッドが背から零す赤いGN粒子に、ロックオンの瞳がにわかに鋭さを帯びる。

 

「マティアスの話じゃ、この世界にイオリアはいないはず。となると、あの擬似GNドライヴは、おれと同じような身の上の奴が持ち込んだ代物か? 何にしろ、因縁て奴かね」

 

 忘れる筈がない。三大大国が合同演習と銘打って行った自分達ソレスタルビーイングのガンダム捕獲作戦で、窮地に陥った自分達を救った三機のガンダムが搭載していた擬似GNドライヴの紅の粒子を。
 ソレスタルビーイングの裏切り者によって、三大大国に齎された擬似GNドライヴ搭載MSジンクス達が、宇宙の闇に煌めかせていた緋色の粒子を。
 それを、死後もまた見る事になろうとは。二度目の人生も、やはり荒波の激しいものになりそうだ。
 今はもう、相棒に任せたガンダムデュナメスはない。だが、この命と言う最大の武器が残っている。さて、DCがどんな組織か、中から見定めさせてもらおう、とロックオンは小さく口の中で誓いの様に呟いた。
 滑走路に着陸したジェット機から降り、二人は私服姿のまま迎えにきたDCの兵士に連れられて、モルゲンレーテの地下ドックへと案内された。
 いまも地球圏最強の呼び声の高いスペースノア級万能戦闘母艦や、グルンガストやネオ・ヴァルシオンと言った特機を開発し、この世界に産み落としてきたモルゲンレーテの地下ドックは広大で、忙しなく通路を行き交う者達も多い。
 いかにも大切なものを隠していますよ、と暗に告げる厳重なセキュリティを越え、機動兵器運搬用の巨大エレベーターで地下深くへと降下してゆく。ロックオンの感覚で三分ほどエレベーターに乗っていると、ようやく停止して、目の前の重厚な扉が開いてゆく。
 案内役の兵士に従ってそのまま進み、メンテナンスベッドに何機もの機体が寝かされた場所に案内される。ちょうど、ずらりと並んだ機体の足もとにロックオン達がいる。
 見慣れぬ機体群の中に、見慣れた機体がある事に、ロックオンは思わず目を見張った。見間違える筈が無い。
 ティエレンよりもなお巨大な四肢をもち、如何にも鈍重な外見にきわめて強力な火力を秘めた、ソレスタルビーイングが保有する四機のガンダムの一つ、ガンダムヴァーチェ。
 西暦24世紀の世界で共に死線をくぐった仲間が使っていたガンダムが、ここにある事に、少なからずロックオンは狼狽した。まさか、ティエリアも自分同様に戦死してしまったと言うのだろうか。
 歩みを止めたロックオンをいぶかしんで、刹那が声をかけて来た。ロックオンはその声に、ようやく自分がヴァーチェに見入っていた事に気づき、何もなかった風を装って再び歩き始めた。
 案内された先にはDCの特殊部隊にのみ許される軍服を纏った団体が待っていた。その中にヴァーチェのパイロットであるティエリア・アーデの姿を認め、ロックオンはこちらの刹那と初めて対面した時を思い出していた。
 ティエリアの瞳がこちらを認め、何の関心も見せずに逸らされる。それだけで、ロックオンはこのティエリアが自分の知っているティエリアではないと悟った。言いようのない寂しさの様なものが胸中を過ぎ去った。
 もう、子供ではないが、少しくらい感傷に浸ってもいいだろう。そう、自分に言い訳をして、ロックオンをかすかな苦笑と引き換えに、自分が異邦人と言う孤独な存在であると改めて思い知らされた痛みを誤魔化した。
 待っていた団体には少年少女が目立つ。前大戦時、DC最強を誇った特殊任務部隊にはそう言った者達が多かったとは聞いていたが、まさか、目の前の彼らがそうなのだろうか。
 案内の兵が、待っていた髭面の男に敬礼して言葉を交わして、元来た道を戻って行った。髭面――クライ・ウルブズ機動兵器部隊隊長アルベロ・エスト少佐だ。
 なお、アフリカや南アメリカ合衆国、赤道連合の併合に伴って軍のシステムも改編され、階級制度も変化している。
 わずかに白いモノが髪に混じり始めてはいるが、全身から匂いたつほどの精気を滾らせ、それをコントロールする鉄の理性も伺える。私服姿のロックオンと刹那を、アルベロは値踏みするように頭から足まで見回した。

 

「良く来たな。お前達で最後だ。お前達は今日からDC特殊任務部隊クライ・ウルブズ預かりとなる。おれは機動兵器部隊隊長のアルベロ・エストだ」
「ロックオン・ストラトスだ。よろしく頼む」
「刹那・F・セイエイ」

 

 マティアスの話では民間軍事会社からの出向と言う形で二人はDCに預けられるらしかった。ロックオンは、人のよさそうな笑みを浮かべてアルベロの後ろで整列している人影を見回した。
 青い髪に、緑、金髪、黒と実にカラフルなメンバーがそろっている。しかも揃って二十歳にもなっていないようなものばかりだ。もっともそれはロックオンの傍らの刹那とてそうだ。
 あまり人の事は言えんな、と苦笑しつつロックオンはアルベロと握手を交わした。いかにも軍人らしい、分厚く力強さを感じさせる手だった。

 

「お前達とは別に、もう二人、別のPMCから出向になっている二人がいる。そちらとも挨拶は済ませておけ」
「へえ、同業者さんか。なら、仲良くしないとな」

 

 アルベロに促されて、ティエリアと、もう一人ロックオンのお腹位に頭のくる小柄な女の子が姿を見せた。ティエリアはともかく、これは予想外だったロックオンは、何の冗談だと眉をよせ、無関心を装っていた風の刹那もかすかに眉間に皺を寄せた。

 

「ティエリア・アーデだ」
「あの、デスピニス・デュミナスといいます。よ、よろしくお願いします」

 

 ティエリアはともかく――それでも外見からして十五、六の少年だが――、その傍らのデスピニスに至っては、ロックオンは自分の目を疑った。どう見た所で十歳かそこらだろう。
 縦にロールしている青い髪を止めているカチューシャも、身に纏っているちょっと風変わりなドレスも、少女の愛らしさを引き立てはすれども、戦支度と言うにはあまりに不足だ。
 デスピニスはおずおずと、一歩引いた様子で刹那とロックオンにちょこんと頭を下げた。傍らのティエリアが、名前だけ告げて黙ったままなのと比べるとずいぶん違う。
 ロックオンは、頭を下げるデスピニスに軽く手を挙げて返してから、険しい表情になってアルベロを睨みつけた。刹那も同じ気持ちらしく、剣呑な光が鋭い双眸に宿る。

 

「なあ、アルベロ少佐。いくらなんでもこれは冗談が過ぎないか? こう言ったらデスピニスには悪いが、こんな小さな子がどうしてこんな場所にいるんだ。仮にコーディネイターだとしても、限度っていうものがあるだろ」
「……」

 

 アルベロは黙って答えない。少なくともその態度からアルベロも納得がいっているわけではないと言う事は分かるが、だからと言って答えが得られたわけではない。
 特に刹那にとっては、かつての自分同様に洗脳されて兵士に仕立て上げられたのではないかという、ロックオン以上の不安と疑惑があった。もし、そうだと言うのなら、このDCという組織を許す事は出来ない。
 三人の沈黙を破ったのは、デスピニスだ。おずおずと手を上げながら、小さな口からか細い声を出した。

 

「あ、あのロックオンさん、刹那さん」
「なんだい、デスピニス」
「そんなにアルベロ少佐を苛めないでください。DCの人達は何も悪くありません。よくしてもらっています。私が、ここにいるのは私がお願いしたからなんです。ですから……」
「君が?」
「はい。私の、大切な方にDCの皆さんにお役に立つようにと言われて」

 

 人見知りが激しいのか気が弱いのか、時折つっかえそうになりながら、それでも必死な様子のデスピニスに、ロックオンは毒気が抜かれるよりもむしろ痛々しさを感じ、眉根を寄せた。
 そう思う様に洗脳された例など、人類の歴史を紐解けば吐き気がするほど出てくるだろう。仮にデスピニスの意思でこの場にいるのだとしても、こんな小さな子の選択が絶対に正しいものだと言えるだろうか? 間違った選択をした時、それを正すのは大人の役目だ。
 どうにも納得する様子を見せないロックオンと、無言ながらロックオンと同意見らしい刹那に、デスピニスはそれ以上言えずにスカートの裾を握ってもじもじとしてしまう。助け船は、意外にもティエリアが出した。

 

「貴方がどう捉えようと、私達の派遣はすでに決定している事だ。今さら変わる事ではない」
「なに?」
「そんなにデスピニスが戦場に立つ事が不安なら、貴方が彼女を守ったらどうだ? 幸い、貴方と同じ考えの者が、この部隊には多い」
「それはどういう事だ?」

 

 と、これは刹那である。腰を落としてデスピニスと同じ目線になって、まっすぐに見つめながら聞いた。デスピニスは少し躊躇してから口を開いた。

 

「私が今日来た時に、皆さんがロックオンさんや刹那さんと同じことを言われたんです。私みたいな小さな子が、戦場に出るべきじゃないって」
「そうか」

 

 少なくとも現場の面々は、上層部の判断に対し不服であるらしい。血の通った面子が揃っているようだ。刹那はまた腰を伸ばして、ティエリアを見つめた。ある世界では共に戦った仲間も、今は初めてであった他人だ。

 

「いいだろう。どうしてもデスピニスが戦場に立つなら、おれが守る」
「あ……」

 

 刹那の言葉に、デスピニスが驚いた様に口を開いた。かすかに頬が赤いようなのは気のせいと言う事にしておこう。刹那の言葉を聞いて、ロックオンは困った様に頭を掻いた。

 

「だから、勝手に決めるなって前から言っているだろう、刹那。やれやれ、分かったよ。どうしてもデスピニスが戦場に出るってんなら、おれも守って見せるさ。おれと刹那がナイト役じゃあ、デスピニスは不満かもしれんがな。どうだい、お姫様?」
「え、あ、あの、ありがとうございます」

 

 デスピニスは、恥じらうように眼を伏せながらまた頭を下げた。まだ小さいと言う事もあって、大人ばかりの周りに萎縮しているのかもしれない。まあ、それでも大人と言いきって良いのか判断に困る十代の方が多いのだが。
 ティエリアが、眼鏡の位置を右の人差し指で調整しながら口を開いた。

 

「君達が五人目と六人目だ」
「何がだよ?」
「デスピニスを守ると言ったのがさ」
「なに?」

 

 ティエリアがふっと鼻で笑う様にして呟いた言葉の中に出てきた数字に、ロックオンは先程から自分達のやり取りを見守っている少年兵達の数を数えた。一、二、三、四……なるほど。

 

「あそこの連中も全員同じことを言ったってわけか」
「そう言う事だ」

 

 子供を戦場に出す事は気に入らないが、この場にいる連中は信じる価値はありそうだと、ロックオンは思った。刹那は、と隣を見るとまだ信じ切れていないのか瞳を向こうの連中に向けたままだ。
 いがみ合い寄りは多少空気が柔らかくなった所で、アルベロがこの話題を切り上げた。ティエリアの言うとおり、現場が文句を言った所で上層部の判断が覆るわけでもない。
 それに、アルベロはビアンからティエリアとデスピニスに対して警戒する様に、忠告も受けている。二人とも、決して外見通りの存在ではない、と。

 

「まだ納得はいっていないだろうが、そこまでにしてもらおう。他の連中の挨拶もまだ済んでおらんからな」

 

 アルベロが顎をしゃくり、待っていたシン達が各々挨拶をしていった。
 現在クライ・ウルブズに所属している筈のユウキ・ジェグナンや、リルカーラ・ボーグナイン、レオナ・ガーシュタイン、タスク・シングウジ、テンザン・ナカジマ、ジャン・キャリーは別任務に従事しているため、今回は顔を揃えてはいなかった。
 よって、この場にいるのはアウル・ニーダ、スティング・オークレー、ステラ・ルーシェ、そして三人に比べてやや遅れて到着したシン・アスカの四人だ。
 これにアルベロとロックオン、刹那、ティエリア、デスピニスを加えて機動兵器部隊は現在九名となる。だいたいクライ・ウルブズ結成当初の人数とそう変わらない。
 DCとそのほか各国との技術格差が埋まったとはいえ、前大戦の戦績を考慮すれば、シン達五人だけでも三倍程度の戦力なら互角以上に戦えて当然の筈だ。

 

「おれはシン・アスカ、階級は少尉、よろしくな」
「ああ」

 

 と、シンは刹那に対して差し出した手が握り返されず、仕方なく手を戻した。戦争に関わる職業とはいえ、同世代の仲間が出来てちょっとした喜びを抱いたのだが、なかなか気難しい仲間らしい。
 先に挨拶をすませたティエリアにも同様の印象を覚えたが、とりあえず背中を安心して預けられる程度には信頼関係を素早く構築する必要があるだろう。
 根が陽気な性質なのか、ロックオンがにこやかにあいさつを済ませて行く中で、ティエリアは一人、このオノゴロ島に来る時に見たアヘッドについて考えていた。
 自分達イノベイターのみが持っている筈のGNドライヴをどうしてDCが保有しているのか、この疑問があったからだ。デュミナスの指示によるものか、それとも予測にないイレギュラーによるものか。
 いずれにせよ、DCに身を置くと言う選択肢は、その疑惑の答えが出るまでは継続しなければなるまい。

 

   *   *   *

 

 ユーラシア連邦のとある軍事基地で華やかな式典が行われていた。東アジア共和国のティレン、大西洋連邦のフラッグ、そしてDCのエルアインスという新型MSに対抗するために開発したユーラシア連邦期待のMSのお披露目の場である。
 MSの開発に先んじた大西洋連邦や、工業力と技術力では一歩先を行く東アジア共和国に遅れた形ではあるが、ユーラシアもついに独自の次世代MSの開発に成功したのである。
 基本的に、ウィンダムと呼ばれる新型量産機が地球連合各国に配備され、それとは別に力ある国は独自のMSを保有しているのが現状だ。
 たとえば、東アジア共和国ならウィンダムとティエレン、大西洋連邦ならウィンダムとフラッグが、主力の量産機となる。
 ただ、地球連合参加国でも発言力の小さい国などはウィンダムさえ碌な数を確保できず、完全に型落ちとして扱われる前世代の機体を使用する他ない。
 TC-OSや核融合ジェネレーター、テスラ・ドライブ搭載機の開発・生産は芳醇な資金と高い技術力が無ければ実現できないのだ。
 ユーラシアの各軍需企業や軍や政府の高官達が見守る中で、国家の威信をかけて開発された新型機イナクトが、模擬弾を次々と現れるターゲットに命中させ、また仮想敵からの攻撃を軽やかにかわして、その性能を披露している。
 腹部のドラム状フレームを中心に、か細い両手足を持ち一見すると華奢だが、それに見合う以上の機動性を持っている。また可変機構を搭載していて、特に空戦ではジェットストライカーやエールストライカーを装備したウィンダムを上回る性能を誇る。
 薄い緑色のカラーリングに、一発のペイント弾の着弾も許さず、イナクトは十二分に次世代主力MSたる性能を見せつけていた。
 しかし、今、式典が行われている上空から、この基地めがけて降下しつつある機影に気づいた者はまだいなかった。
 大気圏を突破したその機体の中で、パイロットはゆっくりと舌で唇を舐めた。高揚した気分を紛らわす為の所作である。嬲り殺した敵の返り血で染めた様な真紅のパイロットスーツの奥の顔は、見たものの心胆を寒からしめる邪悪な笑みを浮かべている。
 パイロットの目の前にホロスクリーンが開き、この仕事を依頼してきた得意先が顔を覗かせた。

 

『やあ、どうだい、調子は?』
「は、最高よ。こっちでも戦争がやれるんだからな。派手に花火上げてやるぜ」
『頼もしいね。ただやり過ぎには注意してほしいな。人的被害はほどほどにしておいてくれよ。生き証人がいないと困るからね』
「あいよ。ま、“ほどほど”にな」
『ふふ、ではよろしくお願いするよ』
「任せておきな」

 

 そういって途切れた通信から目を離し、パイロットはメインモニターに映る式典の様子を見つめた。

 

「どういうわけだから知らねえが、こっちでもイナクトにティエレン、フラッグまでありやがる。おまけに大将までいるたあな。別人みたいだが……まあいいさ。ここが地獄だろうと異世界だろうと、おれはおれだ。楽しませてもらうぜ!!」

 

 オレンジの色を帯びた紅の粒子を零す機体は、パイロット――アリー・アル・サーシェスの狂気的な闘争本能を反映するように一層加速し、動き回るイナクトめがけて飛翔した。
 アリーを鋼鉄の子宮内に抱いた機体アルケーガンダムが基地に接近するにつれ、GN粒子によって発生した異常に基地が慌ただしさを増しだした。
 そんな中を、悠々とアルケーはイナクトの前に降り立った。
 細長く弧を描いた様な手足に、黒みを帯びた紅一色の機体。右手には盾と見まごうばかりの巨大なGNバスターソードを持ち、背からは絶えず血を噴霧するかのようにGN粒子を放出している。
 アルケーに、イナクトのパイロットも気づき、イナクトのメインカメラをUNKNOWNへと向ける。
 軍人にしては長い赤茶けた髪を持った男――パトリック・コーラサワーは、へ、とこのよきせぬトラブルを楽しむように笑い飛ばした。なかなかのハンサムだが、ガキ大将めいた子供っぽさがそこそこに滲んでいる。軍ではさぞかし問題児扱いしている事だろう。

 

「おいおい何処の機体だ? ザフトか、DCか? ま、どっちにしても他人様の領土に土足で踏み込んだんだ、ただで済むわけねぇよな?」

 

 ゆっくりと目の前に着陸したアルケーが、こちらを見ようともせず立ったままなのを、コーラサワーは余裕の表れ、あるいはイナクトなど、ひいてはコーラサワーなど眼中にないと言われているようで頭に少し血を昇らせた。

 

「貴様。俺が誰だか分かってんのか? ユーラシア連邦のパトリック・コーラサワーだ。模擬戦でも負け知らずのスペシャル様なんだよ!」

 

 抜き放ったビームサーベルを構え、コーラサワーは一気にイナクトを突撃させた。数歩走って加速させ、一気にテスラ・ドライブの出力を上げて急加速。なまなかなMSパイロットでは回避できない攻撃だ。

 

「知らねえとは言わせねえぞ」
「知らねえな、兄ちゃん」

 

 に、とアリーが小さく笑った。同時にアルケーの四つのカメラアイが毒々しい赤色に光り、右手に握っていたGNバスターソードが無造作に斬りあげられる。アルケーの細腕では到底扱いきれぬと見えた大剣は、いとも容易くイナクトの左腕を斬り飛ばしていた。

 

「てめえ、分かってねえだろ!?」

 

 振り上げられたGNバスターソードが、ひゅ、と風を斬る音と共に振り下ろされる。金属を断つ甲高い音が、一つ。同時に宙を舞うイナクトの右腕。

 

「おれは……スペシャルで……二千回で……模擬戦なんだよ!!」
「知るかよ、はーはっは!!」

 

 心から楽しげな笑みを浮かべるアリーの声と共に、イナクトの頭部が無残にも斬りおとされて、背から倒れ込む。
 ユーラシアの威信をかけて多額の開発費をつぎ込んだ機体が、得体の知れぬ謎のMSにいとも容易く葬られる様に、観客席のあちこちから悲鳴が聞こえた。

 

「大将が擬似GNドライヴとこっちの核融合は大して差がねえっていうからどんだけのもんかと思えば、は、なんてことはねえ。もっと歯応えのある奴はいねえのか、ええ、ユーラシアさんよぉ?」

 

 そういうアリーの瞳は、ようやく出撃した警備部隊のウィンダムとダガーLの混成部隊を映していた。

 

「さあ、来な。ド派手な戦争の幕開けだあ!!」

 

 ユーラシア連邦の新型MSイナクトが、謎のMS一機によって撃破され、警備に当たっていたMS二十機余りが全機撃墜された事件は、ほどなくして全世界に知れ渡り、世界により一層危険な暗雲を立ちこませることとなる。
 新たな戦争の足音は、もうすぐそこまで迫っていた。