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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第07話

Last-modified: 2009-05-30 (土) 20:17:52
 

ディバインSEED DESTINY
第07話 『蠢く影』 

 
 

 白銀の砂時計の様な形をした軍工廠コロニー、アーモリーワンの近海で今、赤紫の鮫の様な形をしたMAと深紅色のMS達が一瞬の光芒を幾重にも煌めかせ、閃光のタペストリーを織り描いていた。
 アーモリーワンへ奇襲を仕掛けた謎の機動兵器部隊の隊長を務めるネオ・ロアノーク大佐の駆るMAエグザス。そしてエグザスへと斬り掛かる真紅の人造巨人はサキガケ。刹那・F・セイエイの駆る接近戦特化型の擬似GNドライヴ搭載型MSだ。
 アーモリーワンを襲った謎のMSに対抗すべく、ザフトの警備部隊に先んじて出撃したDC特殊任務部隊クライ・ウルブズの各機は、ガーティ・ルーから出撃してきた敵性MS部隊を相手に猛烈な攻撃を仕掛けていた。
 旧式に属するMSであるダガーLを主戦力とする敵部隊は、核動力ないしは同等以上の性能を誇るクライ・ウルブズMS部隊相手に劣勢に立たされていたが、その中で唯一対等に渡り合う戦力を備えていたのが、このエグザスであった。
 エグザスが敵の要と判断した刹那は、速度では劣るが機動性・運動性では勝るサキガケの性能を持って、一挙に距離を詰めて斬り捨てんと攻め込むが、エグザスが有する四基のビームガンバレルが絶妙な連続攻撃を加え、後一歩が踏み込めずにいる。
 サキガケ唯一の射撃兵装であるGNショートビームガンは、もともと牽制程度の性能しか持たないし、刹那自身がさほど射撃が得意ではないと言う事もあって、絶えず高速で動きまわるエグザスの残像に触れる事さえできない。
 真正面から迫ってきたビームガンバレルの両脇に出力したビーム刃を右手一本で握り直した大型GNビームサーベルで受け流し、わずかな時間差を置いて背後上方から放たれたビームガンバレルからのビームを、脇差型のGNショートビームサーベルで受ける。
 後方への危険信号に気づき、とっさに大型GNビームサーベルの柄から左手を放し、GNショートビームサーベルを逆手で抜き放ったのだ。わずかにGNショートビームサーベルの軌跡がそれていたら、ビームがサキガケの首の辺りを直撃していた。
 シミュレーターでドラグーンやガンバレルを相手にした事はあったが、刹那が今敵対している相手の技量は、シミュレーターのものとは比べ物にならない。
 接触してから十二分、ここまで刹那が生き残っていたのは、刹那自身の力量よりもサキガケの性能と、ロックオン・ストラトスの援護があればこそだった。
 ビームガンバレルの攻撃を捌きこそしたものの、動きを止められたサキガケめがけて、エグザスの機体下部に備え付けられたレールガンが三連射され、一発は外れたが捻ったサキガケの機体の胴体と左肩に命中する。
 大きく機体内部に走る振動に歯を食い縛って耐える刹那は、これ以上サキガケの動きを鈍らせたままでは危ういと、操縦桿を必死に動かして迫り来る四基のビームガンバレルの砲口から逃げる。
 ビームガンバレルを囮に、エグザス本体の火器でサキガケを狙ったネオは、背筋を撫でる様な悪寒に従って機首を起こし、エグザスの下方から迸った幾筋かの光線を避けた。

 

「さっきから、邪魔をして!」

 

 冷たい仮面の奥の瞳は、モニターの一つに映しだした機体を苛立った瞳で見つめた。長銃身のGNオクスタンスナイパーライフルを構え、メインカメラを覆う様にスライドしたスコープでエグザスを狙い撃つアヘッドスナイパーカスタムだ。

 

『ハズレタ、ハズレタ』
「いい勘をしていやがる」

 

 ハロのからかう様な言葉に、ロックオンは言い返さずエグザスを追ってライフルの銃口を絶えず動かし続けた。

 

『すまない、ロックオン』
「いいって、それより気を抜くなよ。何度も戦いたい相手じゃないからな、ここで決着をつけるぞ」
『了解した』

 

 言葉短かい刹那の返答を耳にしながら、ロックオンは周囲の戦況にも意識を裂いた。どうやら、気にする必要はなさそうだ。
 ザフトの部隊が襲撃から立ち直り反撃を始めた事で、敵の部隊が文字通りの意味で壊滅する可能性も大きくなっている。
 再びエグザスへと視線を戻す。外した時間は、一秒にも満つまい。その間に事態は動いた。ザフトでもDCでもない識別不明な多数の熱源反応が出現し、それらの約半数の機体が持つ背の砲が火を噴いたのだ。
 無数のリニアカノンとミサイルが雨の如く降り注いで、ザフトの警備MSや艦艇に着弾し帯のように火の玉が連なる。ミラージュコロイドか高性能のステルスシステムを搭載したらしい新たな敵に、クライ・ウルブズ各員がかすかに息を呑む。
 緑色のブロックを集めて機体を構成した様な直線的なラインの機体だった。分厚いシールドを両肩に備え、脚部には地上を高速で走破する無限軌道、背には大口径のリニアカノンと多連装ミサイルポッドを備えていた。
 繊細な電子機器を搭載し、キャノピーの奥にパイロットが鎮座する頭部やその巨躯の形状からして、DCとその支配地域の一つであるアフリカで、広く運用されている砲戦用機ランドグリーズに間違いなかった。
 それだけではない。青い曲線を描く装甲に、赤いバイザーの奥にツインアイを隠したパーソナルトルーパー、量産型ゲシュペンストMk-Ⅱも同時に出現していた。
 タマハガネ艦橋で、突如二十機以上姿を見せたランドグリーズとゲシュペンストMk-Ⅱに、タマハガネ艦橋のエペソ・ジュデッカ・ゴッツォとビルトシュバインのコクピットの中のアルベロ・エストが険しい色をそれぞれの顔に浮かべる。

 

「鹵獲機、というには数が多すぎるか? それともおれ達とおなじ来訪者か?」
「タマハガネをアーモリーワンの司令ブースの盾にせよ。新たに現れたランドグリーズはすべて敵であるとザフト側に通達。いらぬ誤解を抱かせるな」

 

 ランドグリーズは高い砲戦能力に比して低コストで生産可能な優秀な兵器だ。鹵獲するなり開発データを盗用して自国の兵器にする可能性は十分にあるし、南アメリカ共和国などでもライセンス生産しているから、数を揃える事は不可能ではない。
 ゲシュペンストMk-Ⅱは現在正統オーブでのみ運用されている筈の機体だが、コズミック・イラとは異なるいくつかの世界で量産・開発されている機体だ。エペソやアルベロの様にこの世界を訪れた何者かが製造したものかもしれない。
 敵として現われたランドグリーズやゲシュペンストMk-Ⅱの所属を推測する事も結構だが、それ以上に今は敵として姿を見せた以上、相応にもてなす事が先だろう。エペソとアルベロは、友軍機の出現かと戸惑っていた各員に戦闘の続行を重ねて命令した。

 

   *   *   *

 

 エペソらからの指示を聞きながら、バルゴラ一号機を駆るデンゼル・ハマーとバルゴラ二号機を操縦するトビー・ワトソンは、別の事にそれぞれ思考の一部を割いていた。

 

『チーフ、この状況、あの時と似ていますがどこまで同じですかね!?』
「アーモリーワンの襲撃は同じだが、おれ達を始め状況が異なるからな。それに、あのランドグリーズなどの増援はあの時はなかった」

 

 ランドグリーズのリニアカノンの砲撃をかわし、バルゴラ一号機のガナリー・カーバーが運用を担当する、高出力ビーム砲レイ・ストレイターレットの反撃で撃墜し、デンゼルはトビーと生前経験したC.E.世界との相違を考えていた。
 もともとデンゼルとトビーはU.C.0087年時の地球連邦軍に所属していた別世界の軍人だ。
 それが反地球連邦政府組織であるエゥーゴとの戦闘の最中に発生した時空転移に巻き込まれ、この世界と酷似したC.E.73年の世界の、アーモリーワンへと転移した。そこではちょうど、今の様に新型MSの強奪事件が勃発していた。
 行きがかり上ザフトに協力し、まもなく同じようにして転移してきたティターンズ、エゥーゴの艦隊との接触を得る事となった。その過程で経験した事態が、この世界でも同様に起こりうるとして、事前にDC総帥ビアン・ゾルダークらに話は通していた。
 ビアンがプラント政府に警戒心を抱かせると承知の上でタマハガネに搭乗し、アーモリーワンを訪れたのも、デンゼルらの経験した通りに新型MS強奪が起こる可能性を考慮した上での判断だ。
 同時に主にジャンク屋ギルドが厳重に管理している筈のユニウスセブンの監視の為にも、部隊を派遣してある。ユニウスセブンに何か異常事態が生じるにせよ、それはコズミック・イラの世界が本来たどるはずだった場合とはなにかしら変化がある筈だ。
 あのスチールブルーの戦艦や、赤紫色のMAなどはかつてデンゼルらが体験した事態でも遭遇した相手だが、ランドグリーズやゲシュペンストMk-Ⅱなどの出現は、デンゼルが口にしたように起こらなかった事だ。
 場合によっては、デンゼルとトビーがかつて遭遇したユニウスセブンの地上落下と言う事態よりも、悪い何かが進行しているのかもしれないし、またその逆の可能性も否定しきれない。

 

「いずれにせよ、まずはこの場を切り抜けてからだ。スター3、状況はどうだ?」
『こちらスター3、被弾なし、機体に損傷ありません』
「よし、上出来だ。ジェネレーターの温度に気を付けろ。この乱戦でオーバーヒートしたら目も当てられん」 
『は、はい。……大丈夫です』

 

 セツコ・オハラの返答に若干の間があったのは、どうやら本当にデンゼルに言われたとおりにジェネレーターの温度を確認したからだろう。
 素直なのは悪い事ではないのだが、戦闘中に自己判断で確認するならともかく、言われたからという理由で確認したのなら迂闊な行為だ。
 セツコの操縦技術それ自体は、目を引くような反応や機動を見せるものではないが、危なげない丁寧な動作で、紙一重で避けるような事はしないし、なにより同じミスを繰り返す事がほとんどない。仮にあっても、二度目三度目は今のところない。
 一度犯した失敗を二度としないようにと、何度も何度も反復し、訓練を重ねているからだろう。まだ実戦に出て日は浅いが、デンゼル達のみならずアルベロやシン・アスカ、スティング・オークレーらとのシミュレーターや模擬戦での経験が着実に実際の戦闘に反映されている。
 アーモリーワンを襲った敵との戦闘が始まってから、デンゼルやトビーがセツコをフォローするような場面もほとんどなく、セツコの操縦技術が少しずつではあるが上達している事の表れであろう。

 

『チーフ、アーモリーワンが』
「内側から壊された? 奪われた新型が出てくるぞ」

 

 アーモリーワンの自己修復ガラスをはじめとした複合外壁の一角が、内側から加えられた膨大な熱量に赤熱化し、グローリースターの面々の視線を集めながら、ついに内側から真空の宇宙が広がる外側へと弾けた。
 飛び散るアーモリーワンの外壁の残骸に紛れて、ネイビーブルー、モスグリーン、ブラックとそれぞれに異なるカラーリングの三機のMSが飛び出してくる、いわずもがな、オルガらに奪われたカオス、ガイア、アビスである。
 ザフトやクライ・ウルブズの不意を突くような形で混戦状態の外に出た三機は、一瞬動きを止めていたザフトのゲイツRやジンアサルトシュラウドらを目標に、手持ちの火器を容赦なくぶっ放して、ガーティ・ルー目掛けて機首を巡らしていた。

 

「予定より遅いじゃないの。手強い相手でもいたのか?」

 

 刹那とロックオンを同時に相手取っているネオが、三人のリーダー格であるオルガ・サブナックと通信を繋いだ。オルガは、苦々しげに答えた。

 

『るせえ、四機目の新型がいるなんて聞いてねえぞ! DCとザフト両方で運用しているってのものなあ』
「なに?」

 

 カオスとアビスがビームやレールガンを、自分達が開けた大穴めがけて撃っている事に気づき、ネオの視線がそちらへと動く。
 カオスらが撃ちこんだビームの返礼か、爆炎の内側からガイアやカオスめがけて幾筋かの光条が、地から天へと逆しまに走る雷のように連続した。

 

「逃がすかよっ!」

 

 爆炎を割いて姿を現したのはシシオウブレードを片手に握るシンの飛鳥インパルスと、シルエットを装備していない状態のアクア・ケントルムの駆るザフトインパルス。そしてニコル・アマルフィとディアッカ・エルスマンのスラッシュザクウォーリアとブレイズザクウォーリアだ。
 腕ききの乗る四機のMSの内、二機のインパルスの存在に気づきネオはオルガらが予定時刻に遅れた理由を悟った。
 まさか、ザフトで開発されている新型MS“三機”が、実際は“四機”だったとは。しかもオルガの言葉を信じるなら、その四機目はDCとの関わり合いのある機体だと言う。なら、あれの見た目はMSでも中身はスーパーロボットだと思って対処したほうがいい。
 オルガの声は続いて言った。

 

『ネオ、あっちの刀馬鹿の機体、グルンガスト野郎が乗ってやがる。あいつに近づくんじゃねえぞ!』
「前大戦で活躍した時代遅れのソードマンか。こりゃお前らがてこずるのも納得だ」

 

 オルガの目はしっかりと、飛鳥インパルスの右肩に刻まれた『飛鳥』の二文字を捉えていた。メンデル・コロニーで交戦したガームリオン・カスタムや、ヤキン・ドゥーエ攻略戦で目にした特機の右肩にもあったあの二文字。
 戦後、それらの機体のパイロットが同一人物であり、地球連合、ザフト、DCすべて含めた上で指折りの近接戦闘技能者であると聞かされていた。直接、対決した事はなかったが、戦闘の様子を直に目にした事もあり、その実力が侮れない事をオルガは理解していた。
 オルガいわく刀馬鹿と直接対決し、言葉を交わしたこともあるシャニ・アンドラスは、一人で突っかかる事もなく、あくまで敵として烈々とした攻撃を加えていた。勝手に突っ込んで返り討ちにされていないだけ前よりマシだ。
 ブレイズザクウォーリアがブレイズウィザードから射出したミサイル群を、カオスのビームライフルの連射ですべて撃ち落としたクロト・ブエルが今度はネオに声を荒げた。

 

『おい、ネオ、さっさと逃げるんじゃないのかよ。というかあの緑と青いの、味方なのかよ!』
「ああ、大事なおれ達の同志さ。間違えて落とすなよ」

 

 クロトが水を向けたのは、ザフト・DCに散々に落とされていた友軍を援護する、ランドグリーズとゲシュペンストMk-Ⅱの集団の事だ。彼らの出現を、クロトやオルガらは知らされてはいなかったのだろう。
 仮面の奥の瞳にどのような色を浮かべたかは分からぬが、ネオもさして歓迎しているような素振りではなかった。

 

「出来れば連中の力を借りずにすませたかったんだがね。ぐっ!」

 

 気を緩めたわけではないが、思わぬ近距離まで踏み込んでいたサキガケの一刀に、ビームガンバレルとエグザスを繋ぐ有線を二本切断され、慌ててネオは操縦桿を手早く操って距離を取り直す。
 エグザスの後を追う様に走るアヘッドSCからのビームが、尾翼の端をかすめた。サキガケに気付くのが、コンマ五秒遅ければエグザスをちょうど真ん中のあたりで縦に二つにされ、さらにはビームに貫かれて確実に撃破されていた所だ。
 機体を奪ってきた部下をねぎらう暇も与えてはくれないらしい、とネオは微苦笑を口の端に浮かべていた。

 

   *   *   *

 

「きええええ!!!」
「がぁっ」

 

 シンの喉から波涛の如く迸る示現流独特の気合と共に縦に振るわれた一刀が、ガイアの掲げた機動防盾よりも早く漆黒の左肩を捉えた。ヴァリアブルフェイズシフト――VPS装甲に阻まれたシシオウブレードが、火花を散らして弾かれる。
 獅子王の一刀が、迅雷の苛烈さで走るも装甲を断つこと叶わず、引き戻した刃はVPS装甲の継ぎ目を狙い、ガイアの頸部へと切っ先を翻して糸のように細い一筋の光に変わった。
 鍛え抜かれた獅子王の刃を半身になってガイアは避ける。

 

「何度も何度も、斬られてたまるかよ!」
「くそ、まだ呼吸が合わない」

 

 至近距離からシンの駆る飛鳥インパルス目掛け、ガイアのビームライフルからビームが連続で放たれ、上半身をねじり首を傾けてかわし、放たれたビームは彼方の宇宙へと尾を引いてゆく。
 くん、と身をかがめた飛鳥インパルスの右手が、オルガの視界から霞む。最盛期にはいまだ及ばずとも、並のエースクラスでは斬られてから斬られた事に気づく神速の斬撃である。
 MSながらグルンガストタイプに使用されるTGCジョイントを採用して間接の耐久度を上げ、グルンガスト飛鳥にも採用していた数々の試験機能を搭載してシン専用機となった飛鳥インパルスは、この時代最高峰の追従性や運動性を誇る。
 その飛鳥インパルスの性能が最大限再現したシンの一撃は、ガイアから見て左ひざから右肩へと抜ける軌跡で奔った。一筋の光がとおり過ぎ去ったあと、ガイアのビームライフルが銃身の半ばほどから斜めにずれ落ちる。
 懐に飛び込んだ飛鳥インパルスの腹部へとガイアの右膝が動く。本来精密機器の塊であるMSで、どの部位にせよ直接打撃を加える事はパイロットとしては愚かな行為だ。物理的衝撃に対しては無敵に近いPS装甲だろうと、その内部の危機は繊細な電子機器なのだ。
 マニュピレーターアームで相手を殴れば、五指を破損し手持ち火器の類は使えなくなるし、脚部で行えば地上での走行や宇宙空間でのAMBACに支障を来たす。伝播した衝撃がフレームを歪めて、傍目には損傷が無くとも内部に酷い損壊を被る事とてある。
 その危険を冒してまでオルガに膝蹴りを敢行させたのは、目の前の敵に対してあらゆる攻撃手段を取らねば、こちらの命が失われると言う危機感の故であった。
 しかし、そのガイアの右膝は、下方へとスラスターを動かして機体をスライド移動させた飛鳥インパルスにあっさりかわされる。
 前大戦時に飛躍的に向上したシンの第六感による危機察知能力に加え、中国内家の武術を学んだ成果もここにきて発揮されていた。
 中国内家拳法とは、呼吸、服気の調息によって丹田に満たした体内の気を、閉塞して飲み込み、練気を繰り返し、その気を四肢に巡らし常人には到る事不可能な深淵の領域へと人を高める武術大系の一つだ。
 前大戦終了後のリハビリを終えてから、内家武術のひとつ戴天流剣法は短期間しか学ぶ事は出来なかったが、最初の師から学んだ念法と極めて似通った思想や修行法であったため、非常に良くシンに馴染んだ。
 戴天流の師曰く、内家以外の者が攻撃を繰り出そうとした時、すでにその一撃の“意”は、攻撃よりも早く放たれており先んじて放たれた“意”の後を遅れて攻撃がやってくるという。
 今のシンにとって、“意”から遅れてやってきた攻撃を払う事はさして難しい事ではない。
 放たれる殺意の察知という点では、ニュータイプと呼ばれた宇宙の環境に適応した人類に似たものがある。ニュータイプと呼ばれた人種が先天的に備えているのに対し、戴天流の場合は血反吐を吐く鍛錬に依るものという違いはあったが。
 くるりとスラスターの噴射と四肢の重心移動によってその場で前転した飛鳥インパルスの右足の踵がしたたかにガイアの頭部を叩き、頭部に積載した電子機器のいくつかに不具合が生じる。
 機体バランスを崩したガイアめがけ、右手一本に握ったシシオウブレードを弓弦を引くように引き絞った飛鳥インパルスの腕が動いた。限界までたわめた鉄のバネが跳ねる様な勢いであった。

 

「じゃっ!」
「っそがあ!」

 

 ガイアの頭部と胴を繋ぐ首めがけ放たれた刺突を、流石にオルガは生体CPUとして強化された能力とこれまでの戦闘経験を最大限に発揮し、ガイアの首を落とされる所を左半分を裂かれるに留め、機動防盾を杭の如く飛鳥インパルスの胴へと叩きつけた。
 優れたGキャンセラーを始めとしたパイロット保護機能を持つ飛鳥インパルスだったが、衝撃を殺しきれずシンの全身を大きく揺さぶり、両者の距離が離れる。
 体の内側をシェイクする振動を、呼吸と血流の操作、丹田に練り込む気で尋常なものに整え、シンは二秒ほどで揺れる視界を元の状態に戻した。一方のオルガは支障をきたしたメインカメラがサブに切り替わるまでの間、ガーティ・ルーへと機体を向けていた。
 慣れないガイアで戦うには、危険の多い相手だ。オルガ達のアーモリーワン脱出を察知して、ゲシュペンストMk-Ⅱやランドグリーズがこちらへの援護に動いている。それに乗じてガーティ・ルーまで後退するしかあるまい。
 ガイアに背を向けさせるや、その前方を極太のビームが薙ぎ払っていった。驚きを噛み殺してビームの源を探れば、そこには先程までの姿とは大いに変わったザフトインパルスの姿があった。
 それまで何も背負っていなかった背中に筒状のポッドと接続された長砲身を二本備えたバックパックが装着されていて、トリコロールだったカラーリングは胸部と肩が黒と暗緑色、四肢は白へと変わっている。
 カラーリングの変化は背に負ったモジュールによって電気消費量が変化する為で、消費電力の最適化によるものだ。従来の相転移装甲(PS装甲)に対して可変相転位装甲(VPS装甲)と呼称されている。
 ザフトのインパルスや、ガイアやカオス、アビスにも採用されている装甲だ。PS装甲に比べ通電電力次第で強度が増し、また稼働時間の延長が可能となる。もっとも核動力が一般化した昨今では稼働時間についてはあまり利点とはいえないかもしれない。
 砲戦用モジュール“ブラストシルエット”に換装したブラストインパルスと呼称される状態だ。オルガがシンを相手にしている間にアクアがミネルバに要請し、ミネルバから射出された飛行ユニットから分離したモジュールが、インパルスの背部へと接続されたのだ。

 

「あの機体、換装して姿を変えるのか!? なにが新型だ、ストライクのパクリじゃねえかよ。ザフトの猿真似野郎どもがっ!」

 

 地球連合がヘリオポリスで開発させていた五機のGの内ストライクに採用されていたストライカーシステムを、ザフト式に洗練し実用化させたものなのだろう。サーベラスでの操縦経験から、アクアは中・遠距離戦に高い適応性を持つ。
 アーモリーワン内部では使用制限の多かったザフトインパルスの各モジュールや武装も、この状況でならさほど制限はない。
 ブラストシルエットに搭載されている分も合わせ計四基のプラズマジェネレーターの出力調整に、大きく神経を削られながら、アクアはカオスとアビスへとケルベロス高エネルギー長射程砲二門の砲口を合わせる。
 特機の運用も可能なプラズマジェネレーターを複数搭載しているのは、前大戦の最終決戦時に出現したAI1セカンド、ヴォルクルスとの戦いでザフトの有する機動兵器のほとんどが戦力足り得なかった事に対し、ザフトの技術陣が重大な危機感を抱いた事に起因する。
 決戦を想定して開発された核動力機も、決定打を浴びせられる事は叶わず、DCが保有していた機動兵器によって勝ち得た勝利であったと言う印象が拭えなかったのだ。
 ネオ・ヴァルシオンや精霊憑依状態(ポゼッション)のサイバスター、ネオ・グランゾンと言った単独で一勢力を壊滅し得る戦闘力を有していた規格外機動兵器がなければ、人類の命運が尽きていたのは明らかだった。
 そのネオ・グランゾンやサイバスターさえも窮地に追いやった真ナグツァートを斃す決定打になった、ディス・ヴァルシオンの存在もまたザフト――ひいてはプラント政府に多大な危機感を与えたのである。
 軍事同盟をこそ締結しているものの、世界征服を標榜しているDCがプラントと矛を交える可能性は低くなく、それに対抗する力がプラントにあるのかと自問すれば、その答えはNoとなる。
 厳密にはネオ・グランゾンとパイロットであるシュウ・シラカワはDCに所属してはいないが、それでもシュウから多くの技術のノウハウは供与されているし、領土拡大を得ること叶わなかったプラントにとって、技術・国力に大きく溝を開けられているのが現状だ。
 地球連合とザフトを同時に敵する事はDCにとって上策とはいえないだろうが、底の知れないDCの戦力なら、地球連合とザフトとの多面戦争を選択しないと誰に言い切れよう。
 核動力を上回る高性能機の希望であったターミナスエナジーアブソーバーも、開発者であったエルデ・ミッテの反乱と言う事態に開発が凍結されてしまい、苦肉の策として光明が当てられた計画の一つが、核動力炉の複数搭載機であった。
 インパルスの機体を三分割し分離合体機構を導入したのは、ダメージコントロールを容易にし、パイロットの安全性を確保しつつ、ウルトラ級エースに長時間戦線に出てもらうための措置だ。
 と同時に、各機体構成箇所にプラズマジェネレーターを搭載し、DCや地球連合の特機に対抗する性能を得ようとした。
 ザフトでもWRXなどの特機級の大型機動兵器を開発し、そちらに導入すべきでは、という意見もあったがそれをザフトに根付いているMS万能主義が阻害し、あくまでもMSという形に則った機体の開発にゴーサインが出されてしまった。
 前大戦時にスレードゲルミルをはじめとした、ラクス・クラインと肩を並べた者達の特機や機体のデータがあったことは幸いだったろう。
 それらのデータが新型機開発に活かされ、晴れてMSサイズで特機を打倒する事をコンセプトとした新型機の一号機としてインパルスはロールアウトした。
 しかし、シルエットを装備すれば最大四基にもなるプラズマジェネレーターの搭載は、出力制御や搭載する機体のフレームをはじめとした各パーツの耐久性、廃熱処理などに大きな問題を残し、四基すべての出力を最大にすれば機体は三分と保たないのが実情だ。
 コストパフォーマンスは劣悪、操縦性も出力制御があまりに困難な為これまた劣悪、性能も開発陣が求めた水準には達していないと散々な結果である。それでもカタログ通りのスペックなら、フリーダムやジャスティスが可愛いと言うレベルなのだが。
 もっとも求められた水準が、精霊憑依状態のサイバスターやネオ・グランゾンなのだから、そこまでの性能を要求するのはあまりに酷というものだろう。
 欠陥機と言われればその烙印を消すのが難しいというか不可能なザフトインパルスは、パイロットであるアクアにターミナスエナジーの制御が楽に思えるほど繊細な作業を要求し、ケルベロス一発撃つだけでも、機体ステータスの変動が激しかった。
 アクアもテスト段階では分かっていた、分かってはいたのだが、このインパルスは果たして実戦に投入して良かったものかどうかと疑念を持たざるを得ない。
 テストパイロットとして選ばれた時はDFCスーツとさようならが出来ると言う喜びもあったが、実際乗ってみたら泣きたくなった。
 なんだろうか、四基すべてのプラズマジェネレーターを稼働させてほんの四、五回戦闘に出たら胃潰瘍にでもなりそうな、このストレス過多な機体は。
 実のところ、プラズマジェネレーターを一基のみ稼働させている状態の方が、もっとも性能を発揮できるというのが、アクアの感想だ。今もシルエットに換装時自動で四基起動するプラズマジェネレーターを、急いで三基カットした所だ。
 自動起動の設定を、コアスプレンダー搭載分のみに設定しておいたはずなのに、メカニックが気を利かせたつもりで元に戻したのだろうか。
 いや、ミネルバのMS技術スタッフリーダーのマッド・エイブスをはじめとした皆には、アクア自身がなんども頭を下げてお願いしていたから、設定を戻すような真似はしないだろう。
 となると、DC総帥であると同時に天才科学者として名の知れたビアンのアーモリーワン訪問にいきこんだ、インパルスの開発陣が事前にチェックしてアクアの設定を元に戻したのかもしれない。
 実際に乗る人間の事やMS運用方法の事など、碌に考えずに設計開発をしているに違いないと、アクアは心底プラント開発陣を呪った。
 何度か地球連合の鹵獲機やDCの機体に乗る機会に恵まれたが、OSといい機体のコンセプトといい、なぜ他勢力は搭乗者に配慮した機体を開発しているのに、最初にMSを造り出したザフトはパイロットに優しくない機体を造る発想や技術に恵まれているのだろう?
 ただでさえザフトは保有する人員の数が少なく一人一人の兵士に対する負担が大きく、失った人員を補充する地力だって乏しいのだから、兵士の生存を優先する開発思想が主となってしかるべきだろうに。
 愚痴を言っても仕方ないとアクアが気分を切り替えると、カオスの背からパージされた機動兵装ポッドが一斉に火を噴くのに気づき、アクアは慌ててブラストインパルスに回避行動を取らせる。
 至近弾に機体を揺さぶられながら、デリュージー超高初速レール砲とファイヤーフライ誘導ミサイルを一斉に放って弾幕を形成し、動力炉を三基カットした事で格段に操縦性が増した機体を操り、爆炎の下方を回るように動かす。
 爆炎の最大幅をくぐった時、目の前にビームランスを構えたアビスの姿があった。爆炎を隠れ蓑に接近して――と同じことを考えていたようだ。
 ブラストインパルスの腰後部にあるデファイアントビームジャベリンを既に両手に握らせていたアクアは、躊躇う素振りもなくビームジャベリンをアビスのコクピットめがけて突きこんだ。
 図らずして互いの捕獲と言う選択肢を放棄していたアクアとシャニは、互いのコクピットを目掛けて互いの獲物を繰り出し、ビームランスとビームジャベリンの穂先が衝突し、ビームランスは実体刃部分を、ビームジャベリンはビーム発生機を破損する。
 カオスはディアッカとニコルが抑えてくれているはず。五つ、六つ年下の戦友たちを信じ、アクアはじゃじゃ馬どころではないブラストインパルスの手綱を握り、アビスとの戦闘に集中した。

 

   *   *   *

 

「船籍不明の艦と敵ですか。取り押さえられますかな? デュランダル議長」
「無論、我がザフトの兵士達はその為に全力を賭してくれています。DCの方々のご協力に応えるためにも、捕えなければなりますまい」

 

 艦長席の後部に設けられたオブザーバー席でそのような会話を交わすギルバート・デュランダル議長と、ビアン・ゾルダークDC総帥に、タリア・グラディスは艦橋に上げたくはなかったと五回目の愚痴を心中で零していた。
 新型MS強奪さるの報告が進水式を控えた新造艦ミネルバに通達され、艦載予定であったインパルスが交戦状態にあると知り、急遽二機のザクウォーリアを発進させた時に幸か不幸か二人もの国家権力の頂点に位置する人物がミネルバへと避難してきてしまった。
 二人の身柄の無事自体は喜ぶべきことなのだがその二人が折悪しく、まるで嫌がらせなのかと勘繰りたくなるように艦橋に同席しているのは艦を預かる身としては余計な口を挟まれるかもしれない上に、VIPの命の責任まで負わなければならないと遠慮したかった。
 結局はオブザーバー席にデュランダルとビアン、ビアンの護衛であるステラ・ルーシェを同席させてしまったが、今さらそれを言っても仕方がない。
 オペレーターのメイリン・ホークからの報告で、DCからの援軍と奪われた新型MS達がアーモリーワンの外部へと移動した事を聞き、タリアは若干の躊躇を覚えないではなかったが、ミネルバで追撃する事を決めた。
 戦闘になる事をデュランダルとビアンに尋ねたが、流石の胆力と言うべきなのか両者ともに落ち着いた様子でタリアの意思を尊重し、ミネルバの出撃を認めてくれた。
 ビアンの傍らの少女が、分かっているのかいないのか、ぽやっとした顔をしていたのが、ささくれだつタリアにかすかな笑みを浮かべさせた。
 コンディションレッドを発令し、全長350mの船体を誇るミネルバが進水式を迎えぬままに戦闘態勢を整える。ミネルバはこれまでザフトが建造してきたローラシア級や、ナスカ級、エターナルとはだいぶ意匠の異なる外見をしている。
 ザフトの船と言うよりは、地球連合やオーブ系統の船に近い外見と言えるだろう。前大戦で獅子奮迅の活躍を見せたアークエンジェル級を参考にしていると言う意見が、兵達の間で流れたがタリアも心のどこかでは同意見だった。
 ミネルバの前方へと突き出した馬蹄の様な船首の両脇に、弓のように湾曲した三角形の翼が広がる。グレイを主色とし船体下部や翼端は赤に塗り分けられている。
 直線的なシルエットを描き、船体中央部にはカタパルトがあり、両舷にはMS発進用のハッチが見受けられる。
 インパルスをはじめとしたセカンドシリーズに分類されるMSとの運用を前提に設計された新型艦だ。本格的な運用は宇宙を想定しているが、大気圏内でも運用可能で高い戦闘能力も有する。
 艦長を務めるタリア・グラディスと副長であるアーサー・トラインは、前大戦時にザフトのトップエースであったエルザム・V・ブランシュタインの率いるブランシュタイン隊の母艦、エターナル級ウィクトリアの指揮を任された歴戦の猛者だ。
 エルザムとその妻カトライア、実弟ライディースが謎の失踪を遂げた事で解散となった所を、これまでの戦績と能力を見込まれてザフトの威信をかけた新造艦ミネルバの艦長と副長と言うポストに収まっている。
 予定通りならば進水式を迎えたのち月軌道艦隊に配属となるはずだったのだが、まるでヘリオポリスで起きたクルーゼ隊による地球連合のMS強奪をなぞる様な事態を迎え、処女航海へ半ば流されるような形で漕ぎ出す事になるとは。
 まったく、何が起きるか分からないものだ。その言葉だけを口の中で呟き、タリアは手早く指示を飛ばした。すでに船体下のハッチが開き、ミネルバは宇宙空間へと初めてグレイの巨体を委ねていた。

 

「索敵急いで、インパルスとザクの位置は?」

 

 艦長席のタリアから見て前方下部にずらっと並んで座るブリッジクルーの内、索敵担当のバート・ハイムが応える。

 

「インディゴ五三、マーク二二ブラボーに不明艦一! 距離一五〇。ボギーワンです」

 

 直後、モビルスーツ管制担当のメイリンが多少上ずった声で叫ぶ。

 

「ど、同一五七マーク八〇アルファに、DCインパルス、アカツキ、エルアインス、インパルス――アクア機、ザク――エルスマン機、アマルフィ機です。カオス、ガイア、アビスと交戦中」
「他の敵は?」
「ランドグリーズ十機、ゲシュペンストMk-Ⅱ八機、ダガータイプ四機、更にデータベースにないモビルアーマーが一機、艦船はボギーワン一隻のみ確認」
「……ボギーワンを討つ。艦橋遮蔽、進路インディゴデルタ、加速二十パーセント、信号弾及びアンチビーム爆雷発射用意――アーサー、なにしているの!?」

 

 艦橋がゆっくりと降下し、下階の戦闘指揮所へと直結する。最新鋭艦の機構をビアンに見せるのは多少問題が無い気がしないでもなかったが、タリアはデュランダルが黙っているのを黙認と解釈する事にした。
 ビアンは、艦橋が移動する様を見て資料で見た異世界の戦艦であるラー・カイラム級の機構に似ているかと、感想を抱いていた。
 タリアの近くでぼーっと突っ立っていたままのアーサーは、怒鳴りつけられると慌てて指示を出し始めた。スイッチが入ると普段とは別人のように的確な指示を出すようになるのだが、そのスイッチが入るのが遅いのはブランシュタイン隊の頃から変わらない。

 

「うあっは……はいっ! ランチャー一番から四番、ナイトハルト装填。トリスタン起動、一番、二番、照準ボギーワン!」

 

 艦橋遮蔽システムは戦闘ステータスへの速やかな移行を可能とすると同時に船体突端に位置する無防備な艦橋を防護する機能でもあった。
 スペースノア級なども艦橋が無防備に晒されているが、DCでは船体全体を保護するEフィールドとは別に、防護用の局所Eフィールドを何重にも発生させて対応している。
 これが地球連合のアークエンジェル級になると、艦橋後部に設置された迎撃用のミサイルやイーゲルシュテルンで対応する事になる。割と無防備と言えるだろう。
 次々と武装システムが起動していく中、タリアの背後のデュランダルが声をかけて来た。

 

「彼らを助けるのが先じゃないのか、艦長?」

 

 タリアは少々うんざりしながら振り返る。モビルスーツ戦に移行している味方に対して艦砲をぶっ放して掩護するわけに行かない事くらい、分からないのだろうか。
 しかし彼らを助ける為にボギーワンを撃つのだと告げようとしたタリアは、メインモニターに映る光景に気づいて口を噤んだ。
 クライ・ウルブズ各機が敵MS部隊と交戦する中に、連装衝撃砲やミサイルを構わず連発しているタマハガネの姿が映っていたからだ。
 後ろに目でもある様に艦砲をかわし戦闘を続行するDCのMSもMSだが、誤射も構わず撃ちまくる艦長の神経をタリアは疑った。
 パイロット達を単なる消耗品とみているのか、それとも腕を信頼しているのか。エペソ本人に尋ねれば、若干の間の後に後者と言う答えが返ってくるだろう。
 目前でこんな光景を見せられては、デュランダルがタリアにそう尋ねるのも無理はなかった。
 単にDC側の方がいろいろな意味で――おそらくは悪い意味で――非常識なだけなのだが、そのDC総帥を目の前にしてデュランダルにDCが非常識なのだと言うわけにも行くまい。
 ビアンに逆恨みめいた気持を抱きつつ、タリアは唇を開いた。何度かデュランダルと重ねた事のある肉感的な唇であった。

 

「そうですよ、だから母艦を撃つんです。敵を引き離すのが一番早いですから、この場合は」

 

   *   *   *

 

 ネオは、刹那とロックオンにビームガンバレル二基落とされながら、新たに出現した大型熱源が、ライトグレイの戦艦である事に気づいた。奪った新型が搭載されるはずだったザフトの新鋭艦だろう。
 真っ向から渡り合うには今の状況は非常にまずい。ランドグリーズとゲシュペンストMk-Ⅱの援軍があるとはいえ、続々とザフトの援軍が集まりはじめ、これ以上この場で戦闘を続ける事は自分達の首を絞める結果にしかならない。

 

「チッ……欲張り過ぎは元も子もなくすか」

 

 潮時と言う言葉は今使うべきだろう。ネオはこれ以上時を浪費せずに、エグザスの機首を巡らして後退させる。
 ビームガンバレルの全方位からの攻撃に対して驚異的な速さで対応し始めていた刹那や、同種の攻撃に経験のあるロックオンは突然背中を見せたエグザスに反応するのが遅れた。もともと速度ではMAの方がMSよりもはるかに速い。
 あっという間に距離が開き、ロックオンが咄嗟にGNオクスタンスナイパーライフルの照準内にエグザスを捉える。
 取った、とロックオンが確信と共に引き金を引くその寸前に、両腕を失ったランドグリーズが射線軸に割り込み、圧縮されたGN粒子がランドグリーズの腰部を貫いて爆散させた。ライフル型の専用コントローラーをロックオンが、苛立ち気に押し戻した。

 

「命に変えてでもかよ。意気込みはご大層だがな」

 

 周囲の状況に目をやれば、カオスやガイアらも同様にランドグリーズやゲシュペンストMk-Ⅱが盾となった事で逃げ切っていた。生き残りのダークダガーLも姿を消し、ランドグリーズなどを除く機体はすべてガーティ・ルーに戻ったようだ。

 

「あとはエペソ艦長とザフトの艦艇に任せるか。刹那、怪我はしていないか?」
『ああ。ロックオンは?』
「かすり傷の一つもないさ。DCの連中は全員無事だが、ザフトはかなりやられたな」

 

 ザフトのお手並み拝見と、ロックオンはミネルバの動きを見守る事にした。
 ランドグリーズやゲシュペンストMk-Ⅱは捨て駒にするのか、収容する様子を見せずに回頭するガーティ・ルーが、ミネルバから放たれた複数のミサイルをイーゲルシュテルンで迎撃し、爆発したミサイルのあおりを食らってガーティ・ルーの船体が揺らぐ。
 ブラストインパルスやディアッカらのザクウォーリアを収容したミネルバは、トリスタンや副砲イゾルデ、ミサイル発射管を休まず稼働させ、ガーティ・ルーの船体に穴を穿つべく互いの間にある空間を埋め尽くしていた。
 足の速さではミネルバの方がわずかに上の様で、徐々に距離が詰まるその途中、ガーティ・ルーの両舷部にあるタンクがロックしていたアームごと切り離され、慣性のままにミネルバへと流れてゆく。
 重量を軽減する為に切り離したのか? そう疑問を抱いたロックオンは、すぐに違和感を覚えた。ハロがコクピットのディスプレイに拡大した映像には、付き出した支柱の先に噴射口があり、基部の付近をタンクが取り巻いている。あれはまるで――
 ミネルバの艦橋に座したタリアとロックオンがその物体か何であるかに思い至るのは、ほぼ同時のようだった。火線の絶えなかったミネルバが、唐突に対空砲をはじめとしたあらゆる火器の撃ち方を止めたのだ。
 素早い判断と称賛に値するだろう。だが、それはわずかに遅かった。ミネルバの鼻っ面で、ガーティ・ルーの予備推進タンクが真っ白い光と共に炸裂し、乱気流に飲まれた木の葉のようにミネルバの船体が揺らぐ。

 

「あちらの方が一枚上手、か」

 

 至近距離の爆発で大きく船体を揺らがせるミネルバを見つめながら、エペソが他人事のように呟いた。あの艦に搭乗している自軍の総帥の安否を気にせぬあたりが、この人造の将らしい。
 オペレーターの報告に耳を傾ければ、あの爆発の隙を突いてボギーワンは反攻に出るのではなく、逃げの一手を選択していたようだ。船体重量が軽減したボギーワンは、見る見るうちに小さくなってゆく。
 残されたランドグリーズやゲシュペンストMk-Ⅱらもこの一瞬の騒ぎに乗じて、再びステルスシステムを再起動させたようで、鹵獲した機体を除いてすべてこの場から姿を消している。
 水際立った手際のよさであった。錬度と装備の質の高さとが釣り合った敵の様だ。戦闘中のデータを手元のモニターに映し出しながら、エペソが鼻の付け根を右手の人差指でこつこつとタバするように叩いた。考え事をする時の癖だ。

 

「ランドグリーズにゲシュペンストを用いる部隊……後はコクピットにパイロットの姿が無ければ、あの者が告げた『影の者達』になるか。となればユニウスセブンを落とさんと目論むは必定だな」

 

 おそらくミネルバはこのままあのボギーワンの追跡を優先するだろうが、さて同乗しているビアン達は下船出来るだろうか。
 ランドグリーズらの増援が現れるまではこのまま自分達も同行してMS奪還に協力する事になる、とエペソは踏んでいたが、今はその考えを撤回しなければならないかと考えていた。
 ユニウスセブンには十分な戦力を派遣したと思っていたが、見込みが甘かったかもしれない。
 一方ミネルバでは、推進タンクの爆発の隙を突いて敵の攻撃が来るとした判断が誤りであった事を悟ったタリアが、苛立ちを隠さずにシートのアームレストを握りしめていた。

 

「やってくれるわ! こんな手で逃げようなんて」
「……だいぶ手強い相手の様だね」

 

 背後から口をはさむデュランダルの声音が、決して楽観的なものではない事に気づきながら、タリアは睨みつけるようにデュランダルを振り返った。

 

「ならばなおのこと、逃がすわけにはいきません。そんな連中にあの機体が渡れば……」
「ああ……」

 

 インパルスもそうだが、ザフトではMS一機当たりの性能を持てる技術の粋をつくして、性能を高める風潮に在り、対特機戦をも想定したインパルスのみならず奪われた三機も、文字通り一騎当千の性能を与えられている。
 その機体が奪われて敵方に渡る事は、情報漏洩の危機のみならずパワーバランスの変化にもつながる危険性を孕んでいた。

 

「議長、いまからでは下船していただくこともできませんが、私はこのまま本艦がアレを追うべき、と判断します。ですがビアン総帥は……」
「ふむ。確かに私どもの問題にこれ以上ご助力いただくのも申し訳ない。ビアン総帥にはあちらの艦へお戻りいただいた方がよろしいでしょう。いかがですか?」

 

 深刻な顔のまま、デュランダルは傍らのビアンへと眼差しを向ける。この破天荒な所のある男なら、このままDCに協力を申し出るかもしれないが、これ以上恥部とでも言うべき事態に他国の人間を関わらわせるわけにも行くまい。
 顎髭を一撫でして、ビアンはエペソと同じようにユニウスセブンと奪われたガイア達を天秤にかけていた。どちらを優先すべきかは、考えるまでもないだろう。

 

「タマハガネから迎えを寄越させよう。お気づかい感謝する。では、私は貴方がたの健闘を祈ることとしよう」
「我々こそとんだ事態に巻き込んでしまい、なんとお詫びすればよいか」
「気にしないでいただきたい。一刻も早い事態の解決を心からお祈りする」

 

 ユニウスセブンで起きる事態を事前に知っていなければ、このままクライ・ウルブズを同行させる判断を下したかもしれないが、そうもゆくまい。ビアンはあくまで丁重にデュランダルらに、下船する旨を伝えた。
 ボギーワンを追跡する為にもあまり時間をかけるわけにも行かないから、すぐさまシンの飛鳥インパルスをはじめとした数機がミネルバへ着艦し、ビアンやステラをはじめとしたDCの関係者達をコクピットの中に収容する作業に移った。
 飛鳥インパルスのコクピットの中に、ビアンとステラが乗り込む。わざわざ見送りにまでデュランダル議長が出向いている事に気づき、シンがヘルメットの奥で少なくない驚きを覚えた。
 自分の座るシートの右側に腰を落ち着けたビアンに、シンが問うた。

 

「良かったんですか? このままミネルバと別行動に移って……」
「構わん。この程度の事態を収拾できぬようであれば、盟友と呼ぶ価値もあるまい」
「……分かりました。総帥、ステラ、しっかり掴まっていてください」
「うむ」
「うん」

 

 シンが最後にミネルバから飛び立つと、アクアから電文が届いていた。“気をつけてね”と短いが、こちらを気遣っている事がシンには分かった。本当に、アクアやレイ、ルナマリア達と戦う様な事にならなければいいのに。
 数分とかからずタマハガネに着艦し、最大戦速でボギーワンを追うミネルバの映像を見つめ、シンはあの船に乗るアクアの健闘を祈った。
 そして、ビアンやエペソ、デンゼルらの危惧は現実のものとなり、この時、ユニウスセブンに派遣されていたDCの監視部隊は突然の奇襲を受け、壊滅していたのだった。

 
 

 ――つづく。