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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第11話

Last-modified: 2009-07-11 (土) 21:58:42
 

ディバインSEED DESTINY
第11話 破滅 > 破滅

 
 

 格納庫内部へと収容されたソウルゲインを見上げ、メカニック達はシニカルとも取れる笑みを浮かべていた。グルンガストをはじめとした特機の運用も行えるスペースノア級の格納庫だから、ソウルゲインの巨体も問題なく収容は出来る。
 出来る、が

 

「チーフ、最近、ミシィ、ミシィって歩く度に音がする様な気が済んですけど、どう思います?」

 

 ニキビ面の若いのが、碁盤みたいに四角い顔の中年のベテランに言う。特機がソウルゲインだけとは言え、ずらりと並ぶMSの壮観な姿に感動を覚えるよりも、格納庫の底が抜けるんじゃないかと心配する気持ちの方が最近はとみに強い。
 不精者らしく、ところどころ、頬や顎にぽつぽつと残ったそり残しの髭をいじりながら、中年メカニックは、

 

「下らねえこと言うんじゃねえ。ムゲンシンボの積載許容範囲内の重量だ。後一千トンはイケるわ。それよりもだ、このブツのデータ取りはどうでえ」
「はあ、データバンクん中にあったのと大体同じでしたわ。どういうわけなんすかね? DCってこう言う事、たまにありますよね。見た事も聞いた事もない筈の機体のデータが、既にあるって。これも実はゾルダーク総帥直属の開発班が造ったとか?」
「さあな。自己修復装甲に、ダイレクト・アクション・リンク・システム、搭乗者の生体電流を機体出力に反映させるシステムか。シン坊主の機体に役立ちそうなモンが目白押しだな」
「アスカっすか。機体にちょっと、つーかかなり無理させる癖ありますけど、戦果はバケモンすね。おれより三つも年下だってのに、連合やザフトでもあいつと同じ年であれだけ戦える奴っていないでしょうね」
「け、斬艦刀の出力調整を過剰にやり過ぎて、電装系イカれさせるようなざまじゃあ、一流のパイロットとは言えねえやな」
「厳しいなぁ~。DC屈指のエース相手にその評価ですかい」
「てめえはべらべら喋り過ぎだ。手ぇ動かせ、手ぇ!」
「はいはい」

 

 スパナを握った手を振り上られて、若いのはやべ、と舌を出して言われたとおりに手を動かし始めた。

 

   *   *   *

 

 問題になっていたソウルゲインの搭乗者であるアクセル・アルマーは、SMGを構えた保安員や阿修羅を腰に刷いたシン・アスカに周囲を固められて、連行されていた。
 戦闘能力を考えればアウル・ニーダやステラ・ルーシェ、スティング・オークレーでも問題はないが、シンの持つ野生の獣以上の超直感なら、アクセルがこちら不意を突いて暴れる前に察知して対処できると判断されたのだろう。
 ただの木刀と侮るなかれ。九十センチほどの木刀に込められた最初の師の念と、二人目、三人目の師から学んだ剣の技が加われば、音速の壁を越え、風を巻いて唸り、MSの装甲も斬り裂く妖刀の切れ味を帯びる。
 アクセルが通されたのは、エペソ・ジュデッカ・ゴッツォの待つ艦橋だ。アームレストに肘をついたままアクセルを迎えたエペソは値踏みする為に、爪先から頭のてっぺんまでを見回した。エペソの露骨な視線に、むず痒さを覚えたが、アクセルは堪えて口を開いた。

 

「あー、あんたが艦長さん? アクセル・アルマーだ。よろしく」
「ふむ。バン・バ・チュンの報告通りだな」
「なんか言ったか?」
「聞き間違いであろう。記憶喪失というが、本当か?」
「純度95%の記憶喪失さ。残り5%は、ソウルゲインの操縦方法や整備の仕方と、おれの名前、一般常識に女の愛し方さ。こいつがな」

 

 エペソの瞳をまっすぐ見つめて、面白がるように肩を竦めるアクセルに、ふむ、と頷く。感心しているのか興味が無いのかなんなのかさっぱり分からない。
 辺境銀河で異星文明と長い事戦争をしていると、ポーカーフェイスが上手くなるらしい。ま、ここ二年は別世界で人間同士の戦争に加担しているのだが。

 

「臆した様子は欠片もなしか。怯濡に塗れた男ではないようだな。ではあの機体の開発元や、貴公の所属する軍隊も記憶が無いと?」
「生憎ときれいさっぱり。頭ン中を消しゴムで消されたみたいにな」

 

 あっけらかんとしたアクセルの声の調子は、ひょっとしてこの男記憶が本当はあるのではないか、あるいは、記憶を取り戻すつもりはないのではないかと思わせる。
 ずっと前に国家ではなくなった極東の島国の、女形という役者でも通用しそうなエペソの細面に、一瞬だけ興味深げな色が浮かんだ。これは、バンからの報告になかった事態だ。
 思いがけぬ、ともすればこちらの首を絞めるかもしれないカードが手に入ったのかもしれない。最悪、パイロットを始末して機体だけ手に入れるのもありだろう。

 

 それから更に十分ほどの短い尋問が行われて、アクセルは医務室へ行って診察を受ける様にと指示を受けた。
 アクセル本人がそれでいいのかねえ、と思う様な簡単な話で済ますものだから、首を捻り捻り、保安員達に囲まれながら船内の通路を歩いている。保安員達は石から彫琢した石像の様に硬い表情のまま、前後を固めている。
 ベルトで肩から下げたSMGだけでなく、手首に巻いた腕時計型モジュールの中には単分子ワイヤーや、水牛も一発で眠らせる麻酔薬入りの直径一ミクロンのニードルガンが仕込んである。
 保安員達の両手を覆う金属製の手袋らしいのは、小型バッテリー内臓で、最大一万ボルトの電流を流すEグローブという品である。およそ生物相手なら無敵と言える装備だ。
 いかにアクセルが達人クラスの技量をもっていても、おいそれと斃せる相手ではない。ましてやここにはシンがいる。
 MS登場以前に戦場の花形であったパワードスーツと真っ向から対峙しても、最悪でも相討ちには持ちこめるだけの戦闘能力を誇る半人外なのだ。これでまだ全盛期の体のキレには、ちょっと及ばないなあ、とかシン本人は考えている。
 彼の師匠連中はそれ以上の大化け物なので、シン自身には自分が強いという実感が今一つない。三人の師匠それぞれが、剣一振り持って小規模な軍事基地なら、殴り込みをかけて本当に攻略出来てしまいそうな連中なので、仕方が無い。
 シンがいま一つ自分の実力を過小評価しているのは、中身が思春期真っただ中の普通の少年と言うのもある。一日の三分の一位はステラやセツコ・オハラ、前にアメノミハシラの風呂で網膜に焼きつけたDC女性陣の裸の事を考えていたりするし。頭の中は桃色だ。
 そんな事ばっか考えているものだから、自分が常識はずれの実力の持ち主だとか考えないらしい。ある意味で厨二病と言う奴と縁がある様な無い様な。う~む。面倒くさい奴だ。
 シンが緊張を四肢の末端にまで巡らしていると、前方の通路から聞き慣れた声と感じ慣れた気配とを感じた。クライ・ウルブズのむさっ苦しい男共にとっての潤いたるセツコやステラをはじめとした女性陣だ。
 最近仲良くなったエウレカや、オペレーター関係の若いのも一緒だ。パイロットの比率が男に多く傾いているから、良く顔を合わせて話をするオペレーターに多く女性士官が採用されている。そのため、艦内の女性同士の交友だと、大体上記の構成となりやすい。
 二十歳前後の若い女性、しかもいずれもが美人揃いと来て、自称女の愛し方は覚えているというアクセルが、おひょ、となんというか間抜けな声を出した。色好きのおっさんの様な声だったものだから、シンや保安員は呆れた表情をした。

 

「あ、シン」
「え、シン君?」

 

 飼い主の匂いを覚えている犬よろしく、視界には入っていなかった筈のシンの存在にステラが気付き、くるりと首を巡らしてシンの名前を呼び、つられてセツコもシンの方を向く。セツコの心中でもシンの存在は少しずつ大きくなっている為の反応だろう。
 シンに反射的に駆け寄ろうとするステラを、保安員達の姿に気づいたセツコが慌てて首根っこを捕まえて止める。親犬に首筋を甘く噛まれて止まれた子犬みたい。これがまた可愛らしいもんだから、一緒に居た女性陣がほわん、と頬を綻ばせる。

 

「う~~」

 

 と、ちっとも怖くない唸り声と顔でステラは、自分の襟を掴み止めているセツコを振り返って睨んだ。こんな声と顔とでは泣いている赤ん坊が泣きやんで笑いだすだろう。戦闘時でないステラは、人畜無害という言葉の化身となる。
 可愛いなあコンチクショウ、とシンも多分何百回目かになる感想を抱いていた。そんなステラの額を、ちょん、とセツコが人差し指で突いて、眉根を寄せてお説教を始めた。こちらもまた怒っていても全然怖くない。見ている方が微笑ましくなる姉妹姿であった。

 

「めっ! シン君は今忙しいんだから、邪魔しちゃだめよ」
「……どうしても?」
「どうしても」
「だめなの?」
「だめなの。シン君の為なんだから我慢できるでしょう、ね?」
「ふぅう……うん。我慢する」

 

 ゆっくりと小さな子供に言い聞かせるように優しいセツコの説得を聞き入れたステラが、しゅん、と肩を小さく落としてから、シンに向かってにこっと笑いながら手をにぎにぎ開いたり閉じたりする。
 他の人達の目線が槍衾みたいにシンの心と体に突き刺さるわ、エウレカや他の女性陣が笑いをこらえているわで、恥ずかしいったらありゃしない。
 穴があったら入りてえ、と心の底から思うシンを振り返り、にやにやとした笑みを浮かべていたアクセルがからかう。

 

「ステラちゃんにセツコちゃんねえ。そっちの薄緑の髪の子もガールフレンドかい? シン君とやら。色男め」
「なっ」

 

 何言ってんだ、とアクセルの言葉を遮ろうとしたシンの声は、ステラのセリフによって遮られる。

 

「エウレカはレントンのだよ」

 

 何気ない爆弾発言であった。エウレカは、という言い方だと、逆に自分はシンのだよ、と言っているようにも解釈できる。この場合、ステラはセツコもシンの、と思っていたかどうかは謎だ。
 とはいっても、エウレカは“そっち”方面には疎い様でステラの言葉の意味が分からず、頭の上に?を浮かべている。周囲の女性陣や、慌ててステラの口を閉じようとするセツコだけが反応している。

 

「はっはっはっは、そうかそうか、いや、ここは愉快な船だな! 気に入ったよ」

 

 げらげら大笑いするアクセルに、シンははあ、と重た~い溜息を吐く。どうにもこうにもこちらの調子が狂う男であった。

 

  *  *  *

 

 今にも圧し掛かってくるよう重苦しい曇天の下で、芝居がかった仕草で両手を広げ、おもむろに胸の前で指を組み、切なげな表情を浮かべて、一人祈るように言葉を紡ぐ人影があった。

 

「ああ、アクセル。どうしておれはアクセル・アルマーなの?」
「……なにしてんの、アクセルさん」
「お、シンか。愛してはいけない男を愛してしまった女の苦悩を、記憶の無いおれに対する苦しみに置き換えてみたのさ。これがな」
「一人でロミオとジュリエットね。そこら辺の記憶と言うか知識はあるんですね。こう言っちゃなんですけど、そんな事より出身地とか家族の記憶でも覚えていた方が良かったでしょうに」
「そうでもないさ。少なくともシェイクスピアの作品に目を通す環境にあった事は確かだしな。あるいは、ロミジュリみたいな恋愛をしていたのかもしれん」
「前向きなんですね」
「で、お前さんはどうしたね? セツコちゃんやステラちゃんが一緒じゃない所を見るとデートってわけでもないようだし、おれの監視かい? デートっつっても、戦艦の甲板じゃムードもへったくれもありゃしないわな」
「はは、まあ、なんというか」

 

 腹芸の『は』の字もないシンの曖昧な笑みに、やれやれとアクセルは肩を竦めた。一見するとシンはどこにでもいる様な少年に見えるし、纏う雰囲気も年相応のものだ。
 だが、何気ない足運びや目線の配り方、機械的なまでに正確な呼吸が、シンがただの少年ではない事を暗に告げている。軍服のベルトに剥き出しの木刀を刷いた姿は異様だが、それを握った時が、シンの本性の一つが出る時だろうとアクセルは見当をつけている。
 また、そう言った事が分かる程度には自分自身も武術なり格闘技なりを齧っていると判断する事も出来る。それだけでも白紙の状態から一歩進めたわけで、大人しくスティングの勧告に従って、タマハガネに着艦した甲斐はあったわけだ。
 エムリオンRCとサキガケに両脇を抱えられる形でタマハガネにソウルゲインを収容させた後、アクセルは医務室で診察を受けた後、さらに機動部隊の隊長陣――アルベロ、ジニン立ち会いの下小一時間ほど簡易尋問を受けている。
 その後記憶喪失であるという本人の弁を確かめる意味もあって、医務室での診断の結果、記憶喪失は本物とされた。
 それから、先程艦内をある程度で歩いて良いという許可が与えられるまで宛がわれた個室で寝転がっていたが、ゴロゴロするのも飽きたのでこうして潮風に当たりに来たわけだ。
 シンは、ユニウスセブン破砕に際して、細かい調整なしに戦闘中に最大出力で斬艦刀究極奥義・星薙ぎの太刀を使用した反動で、飛鳥シルエットとチェスト部分や、コアスプレンダーの電装系に問題が生じた為、スティング達が出撃している間艦内で待機していた。
 現在も飛鳥シルエットと斬艦刀、インパルスのマッチングの為の調整作業中で手が空いていた事と、生身での戦闘能力を買われてアクセルに張り付いているようにアルベロに命じられ、こうしてアクセルの傍に居る状況に至る。
 人類の規格を外れかけているような師匠達に鍛えられたシンの目から見て、アクセルは高度な体術を身につけているのだろう、という事をなんとなく感じていた。アクセルがシンの戦闘能力をなんとなく察したのと同じ理由による。
 それに加えて、メカニック達が、ソウルゲインが搭乗者のモーションを機体の動作に直接反映させる特殊な操縦システムを搭載しているらしいと話をしているのを耳にしていた。
 刹那達に見せてもらったソウルゲインの戦闘映像とメカニック達の話を統合すれば、アクセルは並みならぬ戦闘技能の保持者である事は容易に察せられる。
 口の軽い、どこまでも陽気なお調子者のように見えるが、それが果たしてどこまで真実なのか、まだ付き合いが一時間にも満たないシンには判じ得ないが、記憶喪失は本当らしいと言う医師からの報告と、直感を信じるなら悪い人間ではないと思う。
 そんなシンの複雑な心境を知ってか知らずか、アクセルはふんふん鼻歌を歌いながら、おれの鼻歌を聞けぇー、などとのたまっている。緊張感の無い人だなぁ、というシンの胸中をよそに、アクセルの鼻歌は徐々にヒートアップしていた。
 はあ、とシンの口からやや疲れた溜息が零れたのも、無理はない。しかしまあ、器用に鼻歌を歌うものだ。音楽でも齧っていたのかだろうか?

 

   *   *   *

 

 船内にある艦長室に、エペソとアルベロ・エスト、バラック・ジニンの異世界からの来訪者兼クライ・ウルブズの上層部三人が集まっていた。スティング、アウル、刹那・F・セイエイが拾ってきた記憶喪失の青年アクセル・アルマーの処遇に関する話し合いがもたれている。
 もっとも、この部隊に入って日の浅いジニンはともかく、エペソやアルベロはすでに判断を半ば決めているようなものであった。今は宇宙に居るビアンならば、どう判断を下すかと言う事もおおよそ見当がついている。
 このままオノゴロ島へ戻って、直属の上司であるロンド・ミナ・サハクへアクセル以外の事も含めて報告するわけだが、アクセルに関してはこちらの言い分をミナが認めるだろう。
 同じような境遇の連中の集まりと言う事もあるが、類は友を呼ぶと言うべきか、異世界から来たもの達は引かれ合う様にして出会う事が往々にしてある。その多くが戦場や、軍に関係する場所であるのも、作為的なものが感じられるほどだ、
 というよりは、呼び込まれる人間が直接・間接を問わず戦争に関係のある人物であり、生前の世界の技術や知識、機動兵器をこのコズミック・イラの世界に持ち込んで休息に戦火を拡大し、軍事技術を向上させてきたのが、これまでの過程だ。
 前大戦後も続くその現象が、さらに続けばこの混迷した状況とあいまって地球圏の軍事技術は飛躍的に向上してゆくのは間違いない。アクセルとソウルゲインもその膨大な氷山の一角として呼ばれた存在であろう、というのがエペソとアルベロの見解であった。
 厳密に言えば、必ずしもアクセルが異世界で死んだ身とは限らぬという可能性も、二人の脳裏にはあった。その可能性を確認する様に、ソファに腰掛けていたジニンが手の中のハンドコンピュータの画面から顔を上げる。

 

「アフリカのバン代表からの情報によれば、アクセル・アルマーはシャドウミラーと呼ばれる特殊部隊の人間と言う事ですが、やはりスパイでしょうか?」

 

 ジニンの懸念は当然のことと思いつつ、エペソはその可能性を否定する言葉を口にした。

 

「いや、軍医からの報告では記憶喪失というのは間違いないとの事だ。わざわざ記憶を失った状態でスパイを送り込むとは考えづらい。あるいはこちら側へ来る時の転移でアクシデントでも生じたのかもしれん。いずれにせよ、しばらくは我らの懐の内で飼うしかあるまい。
 それに、あの男を手元に置いておけばシャドウミラーの方からの接触もあるだろう。あるいはアクセルが記憶を取り戻して裏切るかもしれんが、その時はその時だ」

 

 何も考えていないのか推し量れぬ深謀深慮があるのか、なんとも分かり辛いエペソの鷹揚な発言に、眉を顰めてジニンが質問を重ねた。

 

「リスクが大きすぎるのでは? 場合によっては部隊の壊滅につながりかねません」
「貴公の懸念も理解はできる。バン代表のノイエDCが壊滅した要因も、かのシャドウミラーにあるのだからな。我らが二の轍を踏まぬとも限らぬ。かといってどこぞに幽閉しておくのも難しい。
 連中は潜入工作のエキスパートだ。内外のいざこざに追われるDCの内部に置いておいては、みすみす救出を促す様なものよ。我らの手の内に置いておく方が何かと都合が良いのだ」
「艦長のお考えは分かりました。しかし、総帥の居ない今、DCにとって我々クライ・ウルブズの戦力は欠くべからざるもの。アルマーへの警戒は怠らざるべきでしょう」
「肝に銘じておこう。アルベロ、貴公の見解はいかがか?」
「どちらの言い分もわかる。すでにシャドウミラーの連中がこの世界に深く関与している事は、ユニウスセブン落下の時に明らかになっているし、警戒しておいて損はあるまい。
 それに状況が状況だ。本土に戻ってもしばらくは落ち着く事は出来んだろう。アルマーの正式な処分が下るのは暫く先になる算段の方が大きい。とりあえずはあいつと実力行使で干渉してくるだろうシャドウミラーの連中への警戒を密に、と言った所だ」
「こうなると、バルツフィームにサイレント・ウルブズを派遣したのが惜しまれるな。あそこにはリルカーラ・ボーグナインとユウキ・ジェグナンが出向中であったか。サイバスター以外の魔装機神も近く完成すると聞いた」
「ヴィガジ達が抜けた分の補充に出て、もう二カ月になるな。ヴィガジ達が機体と共に抜けたという事は、インスペクターの連中の親玉か上官がこちらに現れたという事だろう」
「ゾヴォーグの文明監査官……。DSSDのステーションを襲っていた部隊もそちら側であろう。それに、地上・宇宙各地で部隊単位での失踪事件が発生している。彼らの所業であろうから、地球人類以外の脅威の出現も、そう遠い未来ではないな」

 

 現在、DCが真っ向から敵対している勢力が、地球連合(大西洋連邦・東アジア共和国・ユーラシア連邦)。これから本格的に戦闘状態に移行するであろう敵性勢力がシャドウミラー、ゾヴォーグ。
 それに今日、スティングらが戦闘した謎の機動兵器群に、デスピニスやティエリア・アーデらを陰で操る者達。今は同盟関係にあるザフト及びプラントとも、戦況次第では敵対するだろう。そうなった時に大洋州連合がどちらにつくか。
 また宇宙で独自の勢力を築き上げた正統オーブに、前大戦最終決戦時に姿を現したガンエデン一派と、闘争をおこなう相手には事欠かないのが現状だ。
 アフリカ大陸や南アメリカ大陸、赤道連合を傘下に収め人員や資源が爆発的に増加しDCの国力と戦力を持ってしても、名前を挙げたすべての勢力と事を構えるのは無理無茶無謀の三つの言葉に尽きるだろう。
 味方と言えるのが神聖バルツフィーム王国とその周辺国家に、反ユーラシア連邦政権・反地球連合を掲げる反政府組織カタロン位か。DCが把握しているだけでもこれだけの勢力への対処を考えなければならない。
 中立勢力は、スカンジナビア王国に汎ムスリム会議。スカンジナビア王国は、カタロン・バルツフィームとの共同戦線がユーラシア連邦との戦いを優勢で推し進めれば、こちら協力させるのも容易くなるだろう。
 汎ムスリム会議は、アフリカの戦線を北上させてジブラルタルの辺りまでDCの勢力下に治めれば、こちらが働きかけずとも接触は求めてくるだろう。
 実質上、地球圏でも最もMS関連の軍事技術に遅れているし、すでに石油資源は枯渇しているから国を潤す基盤となる資源にも乏しい。宗教的な問題という極めて厄介なものが付随してくるが、アラビア半島の統治権を委ねるとでも約定すれば交渉の仕様はある。
 上記した勢力以外にも尻尾を掴めずにいる相手もいるだろうから、これから安息の日が訪れるのは何年、あるいは何十年先になるか分かったものではない。恒久的な冷戦状態も、この情勢を利用すれば実現可能と思えるような世界であった。

 

   *   *   *

 

 ミネルバを引き連れたタマハガネがオノゴロ島の造船ドックに入港し、ユニウスセブン落下阻止の戦闘から受けた損傷を、修復に掛かるのに合わせて、クルー達に休息が与えられる。
 港には輸入された資源を最大限に利用して多数建造されたストーク級空中母艦やキラーホエール級などが、ずらりと並んでいる。
 タケミカズチ級や、タケミナカタ級の空母も前大戦から現役続行中で、護衛のイージス艦や駆逐艦、Eフィールド搭載の特装艦も顔を並べている。いずれも飛行能力を得たMSとの戦闘を想定して対空火器の充実が図られていた。
 それらの並ぶ中に威容を収めたタマハガネとミネルバの下へ、ビアン・ゾルダーク不在の情勢下で、一手に国政と軍事を担うロンド・ミナ・サハク副総帥がユウナ・ロマ・セイランと護衛のソキウス達を伴って迎えに来ていた。
 前大戦時から最も多くの軍功を挙げ、DC内で英雄的な扱いを受けている彼らの心労を労う為と、実際にユニウスセブン落下に居合わせた彼らに地球と宇宙の通信が断絶された現象について心当たりが無いか確認しよう、という腹積もりもあるだろう。
 タラップを降りてきたエペソを、黒衣の美女が迎える。190センチの長身は変わらず体の中に鋼鉄の芯を通したかの様に一部の隙もない。踝まで届く夜の闇から切り取ったような漆黒のマントも腰に届くまで延された深い色合いの黒髪も二年前から変わらない。
 ぽつんとそこに浮かんでいるような紅唇は、かすかに笑みの形を浮かべている。未曽有の天変地異に対して各国や国民への対処で寝る間もあるまいに、影の軍神と称され畏怖される女傑のかんばせに、疲れの影は見えなかった。DC副総帥ミナである。

 

「ご苦労だったな。エペソ」
「わざわざ副総帥自ら出迎えてくれるとはな。時にアメノミハシラと連絡は着いたのか?」
「いや、そちらは未も不通のままだ。DCだけでなく地球上の全国家が同じ事態に陥っているようだ。これではせっかくのマスドライバーも何の意味もない。宇宙からの物資が途絶え、これから先の事態に恐慌に陥るものも少なくない。
 そう言う意味では、地球からの資源が絶えた宇宙の方が一層深刻ではあろうがな。ともかく、今は疲れを癒すがよい。嫌が応にもこれからお前達には働いてもらわねばならぬ」
「組織の歯車である以上は避けられまいな」

 

 皮肉をたっぷりと聞かせたエペソの冗談に、ミナはそう言ってくれるな、とわずかに苦笑した。階級を無視したやりとりに驚く者はいない。エペソが、DC内で総帥や副総帥と対等に近い関係にある事を、知らぬ者はこの場にはいなかった。

 

「それで、地球連合とザフトの動きはどうなっている。すぐさま軍事行動に移るとも思えぬが、そうも行かぬかな?」
「ユニウスが落ちなかった事で地上に被害は出なかったが、ユニウスセブンを落とそうとした者達の映像は地上に流れてな。ザフト軍がユニウスセブンを落とそうとしている映像が、だ」
「……なるほど、我々もそれに一枚噛んでいる事にされたわけか」
「そうだ。ユニウスセブンは、DCの支配地域には破片が落下しないよう計算された上で落とされた、とな」
「信じ難い話だが、しかし信じ難きを信じやすくするには十分な状況にあるな。終末思想が蔓延してもおかしくないような空模様だ。それをユニウスセブン落下の所為にし、荒れる人心の矛先を我らに向ける。うまくやれば効果的だ」
「も~、エペソ大佐も副総帥も、何でそんな他人事みたいに言えるのさ! うちの傘下に収まっている国からも嫌な眼で見られているんだよ!」

 

 ややヒステリックなユウナの叫びに、エペソとミナがちらっと眼を向けるが、それだけでまた目線を前に戻す。ウナト同様にDCの政治を支える有能な人物だが、肝の小ささがいまだに変わらない。
 彼自身が全ての責任を負って先頭に立たねばならぬ窮地に陥っていないためだろう。それが幸か不幸かはまだ分からぬが、いずれDCの未来を担う人材なのだから、このままではちと困る。
 というのが、ミナの考えで、武人肌のエペソはさほどユウナに期待はしていない風だ。エペソの場合、DCに対しての執着というものが強くないのが理由の一つだろう。DCという地球人の集まりの輪から外れ、外から地球人達を眺めるのも一興と考えている。

 

「それをどうにかするのが貴公らの役目ぞ。余は余の役目は果たしているのでな」
「そう言わないでよ。ただでさえ総帥やギナにマイヤー総司令との連絡がつかないってのにさぁ。他の国もおんなじだからまだ救いはあるけど。でもなんかインド洋とか太平洋で動きがあるんだよ。
 防衛ラインと部隊の再編成もしなきゃだから、君らにも働いてもらわなきゃなんだよ。他人事とスマした顔していても、無関係じゃいられないんだからね」
「ふむ、子狸が喋るな。まあよい、向かってくる敵あらば尽く海の藻屑に変えてくれる。それでよかろう。しかしDC本土を狙うなら地球連合の保有する艦隊を引き換えにする覚悟が必要になる。
 それをしては、地球連合内部での抗争や地球のザフトとの戦闘に差し障りがある。それを成すには時期尚早。狙いはカーペンタリアか、大洋州連合への恫喝か。カーペンタリアと言えば、ミネルバの事、よろしく頼むぞ」

 

 今まで忘れていたらしい。ミナとユウナが、分かったと短く答えた。ザフトの最新鋭艦とMSにさほど興味が無いらしい。自軍が使っている兵器の異常性を熟知しているための反応だろう。
 主力兵器であるMS、PTの性能とコストが極めて高い水準を維持し、また数も十分に揃っているというのもあるが、やはりなんといっても特機系の充実ぶりだろう。
 ラストバタリオンをはじめとした精鋭部隊にはヴァルシオンの量産型、ヴァルシオン改が配備されているし、一般部隊にもグルンガスト弐式の配備が進んでいる。
 グルンガスト系列はシンのデータを参考にしているから、だいぶ近接戦闘に特化しているが、特機用の大出力火器のオプションも配備しているから釣り合いは取れている。
 前大戦で大破したネオ・ヴァルシオンの大改修も予定の八割を消化しているし、ヒュッケバイン、ヒュッケバインMk-Ⅱに続く新たなヒュッケバインシリーズもじきにロールアウトするだろう。
 それを任せる人材も十分にいるから運用には困らない。とはいえ、だ。世界中の敵意を向けられる事になる国民の感情は決して穏やかな筈もなく、不安、不満、恐怖といったものが高ぶった民衆が暴動を起こすことだってあり得る。
 地球上のどの国とて、地球が断絶された状況は歓迎せざるものであるが、DCの場合はさらにその要素が強い。一番状況が辛いのは、たった二つしか軍事基地が存在せず、互いに連絡を取る事が困難なカーペンタリアとジブラルタルのザフトだろう。

 

「地球連合が動くのを待つか、我らから仕掛けるか。とりあえずはクライ・ウルブズにはミネルバを無事カーペンタリアまで送ってもらう事になるだろう」

 

 ミナがビアンの不在の間代わりの主となっている執政室にエペソを案内し、手ずから淹れた茶を振る舞った。桃花茶という、古代殷王朝で飲まれていたという、厄除けの効能もあるお茶だ。
 立ち昇る香りを楽しみながらのミナのセリフに、エペソが面白げに答える。

 

「ついでに大洋州連合への脅迫も兼ねてか?」
「ふ、交渉だ。あくまでもな。大洋州連合も苦しかろうがな。もともと非プラント理事国と言う事もあって、プラント側の立場にあった。
 昨今は我々DCとの関係に頭を悩ませ、プラントから我らに鞍替えしようと考え始めた途端、ユニウスセブンの落下事件でそのDCとプラントが地球の敵にされた。DCとプラントどちらに加担した所で、他国や国民から槍玉に挙げられるだろうな」
「かといって、今さらDCやプラントから地球連合に頭を下げても冷遇されるのは目に見えているな。いずれにせよ進退窮まったか。どうすると思う? 覚悟を決めて我らかプラントとあくまで歩調を合わせるか。地球連合に膝を屈するか」

 

 喉を熱いものが流れるのを楽しみ、エペソがミナの言葉を促す為に視線を向けた。水晶から整えた様に涼やかな瞳は、ミナの大粒のルビーを思わせる瞳を見つめている。

 

「大洋州連合で開発している新型兵器のお披露目には招かれた。つい数時間ほど前にな」
「随分と早い決断だな。プラントを見捨てるか」
「どうかな。あるいは宇宙と連絡のつかぬうちにプラントと決着を着けておくのも一考の価値はある」
「アメノミハシラが落とされるとは考えぬのか?」
「まさか。地球連合とザフトが手を携えても難しい事だよ、それは。マイヤーほど経験に富み、兵の心を掴んだ将は地球連合やザフトにはそうはおらぬ。……持久戦に持ち込まれると危ないがな」
「ヒリュウ級も就航間近だったな、そう言えば。余としてはビアンと連絡が取れた時、笑われぬよう屍の山と血の河を築くまでの事」
「お前、最近血の気が多いな? 鬱憤でも溜まっていたのか」
「久しぶりに戦の匂いを嗅いだからもしれん。これからいくらでも嗅げるかと思うと、血が疼くのだよ」
「いくさ人と言う奴か。救い難い」
「まったくだ」

 

 雪解けの季節に吹く風の様に爽やかに、エペソは笑った。

 

   *   *   *

 

 オノゴロ島やヤラファス島から離れた小ぢんまりとした無人島を飾る木々の中に、身を伏した人影が、空を舞う巨大な影に気づき、息を潜める。およそ尋常な人類とは思えぬ外見である。
 機械のガイコツと言えばよいのか、額のあたりから上がそのまま黒光りする角になっていて、巨体のあちこちにはパイプやら鈍色に光る装甲が目立っているし、まん丸い瞳はぼんやりと輝いているし、尖った牙だけが並んだ口は歯茎が剥き出しだ。
 今も小さな子供達が大好きな特撮ヒーローやヒーローアニメの中に出てくる、サイボーグか何かの悪役みたいな姿である。突然こんなのが目の前に現れたら、十人中十人の子供がひきつけを起こしそうだ。
 実際テレビ画面の中で毎度魔法少女に吹き飛ばされるマッドサイエンティスト役を、絶賛熱演中の、【イディクス】幹部イスペイル様である。
 ユニウスセブン落下に際し、突如地球を覆った空間の断層や、南極に突如流れ込み始めた負のエネルギーに気づき、密かにイスペイル印のマイナスエネルギー収集装置を秘匿したこの無人島へ、様子を見に来たのだが

 

「ぬぬぬ、なんだあいつらは!?」
「さあ?」

 

 腹ばいになって地面に伏して、空を見上げながらのイスペイルのセリフに、付き添っていたイスペイル兵が首を捻って答える。
 有限会社イディクスの平社員二十四名は、ヴェリニーとイスペイル子飼いの兵十二名ずつという内訳で、今回、イスペイルは、自分の兵の一人を供に選んで連れてきていた。
 イスペイルよりは小柄の、これまた悪の組織のロボット兵士、という見本みたいな外見の兵士は、上空を飛び交う謎の機動兵器を目で追った。

 

「イスペイル様もご存じないので?」
「ううむ、私の中の記憶を全て掘り出しても該当するものはない。だが、なぜか近しいものは感じる。我らイディクスを形作る欠片に似た何か。
 奴らも精神生命体なのかもしれんが、ええい、この状況では詳しい事までは分からんわ。エンダークを持ってくればよかったわ」
「そうしたらDCに見つかってしまいますってば」
「ぬぐ。だがこれでは下手に動けん。奴ら、私の開発したエネルギー収集装置が目当てか? 明らかにこの島を中心に辺りを探っているぞ。く、背に腹は代えられん。ヴェリニーやガズムに助けを呼ぶか」
「通信機はさっき落として壊してしまったじゃないですか」
「なにぃ!? な、何をしているんだ、お前はっ!」
「ヤシガニに足を挟まれて驚いたイスペイル様が海に落としたんですよ」

 

 そう言えば、足元を見ずに歩いていたら、間違えて踏んづけたヤシガニに思い切り右足を挟まれて、ぎゃあっと叫んだ時に落としたのだ。

 

「……」
「…………」
「ええい、ヴェリニー、ガズム、同じ欠片を持つ者同士、こう、シンパシーとかテレパシー的なもので私の危機に気づいて駆けつけんか!?」
(あ、誤魔化した)

 
 

(つづく)