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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第12話

Last-modified: 2009-07-11 (土) 22:25:24
 

ディバインSEED DESTINY
第12話 炎の尖兵

 
 

 オノゴロ島港湾ドックに繋留されているスペースノア級万能戦闘母艦一番艦タマハガネの甲板上に簡易ゴールが設けられ、ペイントシールでざっとバスケットコートが描かれていた。
 船からは下りられぬが、下りられないなりに休息を満喫しているタマハガネ機動部隊の面々だ。
 トレーニングウェアや動きやすい衣服に着替えて、十人を二組に分けて思い切り体を動かす事を楽しんでいる。一抱えほどの弾力性に富んだボールは、バスケットボールだ。十代後半の少年少女がほとんどの面子にとっては、丁度いいリフレッシュの方法だろう。
 アウル・ニーダ、刹那・F・セイエイ、シン・アスカ、ステラ・ルーシェ、セツコ・オハラのA組と、スティング・オークレー、ティエリア・アーデ、タスク・シングウジ、ロックオン・ストラトス、レオナ・ガ-シュタインのB組だ。見学しているのは、デンゼル・ハマーとトビー・ワトソンにアクセル・アルマー、デスピニスである。アルベロ・エストとバラック・ジニンはエペソ・ジュデッカ・ゴッツォに付き添って報告に軍司令部に赴いている。
 機動兵器部隊の隊員ではないが、エウレカとレントン・サーストンも軍司令部からビアン・ゾルダークの肝煎りで開発されていた機体がロールアウトしたため、呼び出しを受けているから不在だ。
 バム、と音を立ててバスケットボールが弾み、小柄な体に似合いの俊敏さで、運動神経のよろしくないタスクを抜いた刹那が、ゴール目がけて猫科の動物の様なはしっこさで一気に走る。
 寸法などが目分量の為、正規の規格より幾分狭いコートだから刹那の足ならあっという間にゴールまで辿り着けたろうが、さっと横手から邪魔ものが現れたとあってはそうもいかない。
 流石にいつものカーディガン姿ではないティエリアである。レクリエーションへの参加を強く拒んだティエリアであったが、いいじゃねえか、日に当たらないともやしになっちまうぜ、とロックオンに半ば強制的に連行されてここに居る。
 まったく乗り気ではなかったティエリアであったが、負けず嫌いであったのか、刹那の行く手を阻む様子からは、手を抜くつもりはないという気合いが見て取れた。

 

「勝負であるからには、手加減はしない」
「そうか」

 

 そっけない刹那の返事の中にも、負けるつもりはないという響きが混じっている。普段無口無表情の仮面のみを被っている二人が、表情はそのままに、年頃の少年らしい負けん気を見せている様子に、ロックオンは小さく笑う。
 意外に単純というか、分かりやすい所があの二人にはある。それは、こちら側でも同じらしい。無理やりではあったが、ティエリアをここに引っ張ってきて正解だった。
 左右に細かい重心の移動を見せてティエリアを躱そうとする刹那のフェイントに惑わされず、ティエリアは落ち着き払った瞳で刹那の手と顔と重心を意識する。
 だむ、と甲板をボールが叩いた。踵を浮かしていた刹那の足の爪先に、ぐぅ、と体重がかかり、太ももとふくらはぎがバネの様に撓む。解放されれば目にも止まらぬ速さを保証するしなやかで強靭な筋肉のバネだ。
 雌雄を決する時! とはいささか言い過ぎだがそれ位に気合の入っていた二人だったが、あいにくとこのゲームは二人だけでしているわけではなく、目の前のティエリアに集中し過ぎていた刹那の横から、ひょいと伸びた手がバスケットボールを攫う。

 

「何っ!」
「一人でやるスポーツじゃないって、憶えておきな」

 

 薄く唇を吊り上げながら、刹那の手からかっさらったボールを弾ませて、スティングがあっという間に駆けだす。口惜しさに歯を軋らせ、刹那が慌てて背後を振り返ってスティングの背を追い駆ける。
 スティングを止めようと、セツコが両手を広げて立ち塞がっていた。背中の半ばほどまである黒髪を、動きやすいようにポニーテールにまとめ、黒一色の地味なスポーツウェアに着替えている。
 下半身がフレアスカートではなくなって露出は減ったが、グローリースターの軍服を脱いだ上半身の方は、口いっぱいに頬張っても余る様な乳肉が、スポーツブラか何かで抑えてはいるのだろうが、たぷたぷと揺れて否応に雄の目を惹く。
 さほど得意ではないのか、あるいは経験が無いのか、セツコの動きは何処かぎこちない。慌てた様子でやや前屈みになってスティングの前に立つが、スティングの方は余裕の笑みを浮かべている位だ。
 なるほど、スティングの余裕も確かなようで、セツコなりに必死らしいディフェンスをあっさりと避けるや、刹那のお株を奪う素早さで一気に走った。
 後遺症がなくなったとはいえ、元エクステンデッドであるスティングの身体能力は、セツコがどうにかできるものではなかったのだ。しかしここからが難問だ。スティングと同等の身体能力を持つステラと、それ以上に厄介なシンという二枚看板が残っている。
 遊びとは言え、やはりスティングも刹那やティエリア達と同じよう負けるつもりは欠片もない。バスケットに興じている彼らの姿はごく普通の少年少女にしか見えなかった。

 

   *   *   *

 

 タマハガネと同じくオノゴロ島の港湾ドックに繋留され、すっかり処女の様な肌を取り戻したミネルバの甲板上で、タマハガネの面々ほどリラックスしている様子が見られない二人がいた。
 手摺に手を置いて、果てしなく続く海面に目をやっているのは、ディアッカ・エルスマンとニコル・アマルフィの二人だ。ミネルバ隊所属のMS隊隊員であり、前大戦時にザフトを裏切った二人でもある。
 前大戦時終盤でのプラントへの貢献的な行動や、二人の親が最高評議会議員と言う事もあって重罪は免れ、このように軍への復帰も認められている。
 軍事工廠アーモリーワンで奪われた新型MS奪還の為に、アーモリーワンを出港したと思ったら、ユニウスセブン落下の事態となってそれの阻止に駆り出され、阻止できたと思ったら今度は地球に閉じ込められるという有様だ。
 一体何がどうなってこんな事になったのかと、無意味と分かってはいるものの自問せずにはいられない。

 

「こうしてさ、オーブの土を踏む事になるなんて思わなかったぜ」

 

 なあ? とディアッカが、声をかけてくるのに、ニコルは同意の笑みを浮かべる。ディアッカは、アークエンジェルとストライクを追って、ザラ隊のメンバーとしてオーブに潜入し、その後の戦闘で捕虜になった際と合わせて二度この地を訪れている。
 ニコルの場合は二度目が、オーブ近海での戦闘でオーブに回収され入院している間世話になった土地だ。二人とも、オーブ――今はDCだが――をもう一度訪れる機会に恵まれるとは思っていなかったが、こんな形で訪れる事になるとは、なんとも数奇な運命だ。
 頬に触れ、二人の髪をそよがせてゆく風や風景は変わらぬままの様に思えるが、ディアッカとニコルを取り巻く状況は大きく変化している。

 

「本当にどうするんだか。カーペンタリアと連絡は着いたけど、本国とは音信不通なんだろ? このまま一生地球暮らしってのは勘弁だな」
「そう言う割には、あまり動揺している様には見えませんね。ディアッカは」
「ベテランのおれらが慌てていたら、ぴーぴーの新人どもが騒いじまうからな。見栄だよ、見栄。まあ、ミリアリアも居るならこっちだろうしよ」
「何事も前向きに考えた方がいいのは確かですけど。それより、地球連合やDCはどう動くと思います? 地球も宇宙も、それぞれが独立して社会を維持していくのは難しいですし、下手に動く事はないとは思うんですが」
「どうだかな。むしろ、おれらザフトなんか地上の戦力だけじゃ弱小だぜ? 前ん時にインド洋に設営した海底基地が残っているのがせめてもの救いって奴? グラディス艦長や基地司令連中も頭が痛いだろうなあ」

 

 地上に孤立したザフト兵の多くが頭を悩ませている事がらを口にし、そうしてもどうにもならないと分かってしまって、ディアッカとニコルは頭の痛い思いを堪えねばならなかった。

 

「二人で内緒話?」

 

 声だけでも相当の美女が脳裏に思い描く事の出来る女の声であった。声の主に思い至り、ディアッカとニコルがこのした方へと振り向く。ザフトレッドの上衣にタイトスカートが、艶やかなラインの中にたっぷりと肉の詰めた豊満な体を包むアクア・ケントルムだ。
 神経をがりがりと削られる機体、インパルスのパイロットを務めるエリート中のエリートでもあるが、最近はストレスの所為か象牙の様に滑らかな肌が少し荒れて来ているような気がする二十五歳である。
 地球に降下してから、一度も出撃する様な事態にならなかったおかげか、インパルスで出撃する度にどす黒い疲労の影を刷いていた顔は、年齢よりも何歳か幼く見える美貌に似合いの輝きを取り戻している。
 たった三人きりのミネルバ隊MSパイロットがこれで勢ぞろいした事になる。全員が前大戦の激戦をそれぞれの陣営で戦い抜いた現ザフトでも生え抜きの精鋭だ。技量で言えばクライ・ウルブズの面子と同等のレベルを誇る。

 

「男だけの内緒話さ」
「そう言う割には暗い感じだったわよ」
「この空模様の所為さ。ザフトなら誰でもそうなんじゃねえの」
「アクアさんは、どうしたんですか? 風に当たりに?」
「艦の中に居ても、みんなこれからどうなるんだろう、どうすればいいんだろう、本国はどうなったんだろうって、そればっかり言っているからね。中に居続けたらこっちの神経がまいっちゃいそうなのよ」
「そーいうのを受け止めるのが、おれらみたいなベテランの役目じゃん? それを放棄していいわけ?」
「貴方達だって同じじゃない。それにトライン副長やグラディス艦長の役目よ。正直に言えば、それだけの余裕が無いって言うのも本音よ。
 DCの庭先を借りて今は休めているけど、カーペンタリアに行ったら大洋州連合との関係にも気を遣いながら過ごさないとだしね。自分の事で精一杯じゃない、みんな?」
「それを言われると辛いですね。DCが味方でよかったですよ。アクアさんとしては、ついでにインパルスの改修もお願いしたいんじゃないですか?」
「ニーコールー、それを言わないでよ。シンの乗っているインパルス見る度にそう思っているのよ? 必至でその思いを噛み殺しているのよ。DCはDC、ザフトはザフト、自分達の国で作った機体が一番、一番、ってね」
「はは、鬱憤が溜まっているってわけね。お、噂をすればなんとやら、クライ・ウルブズの連中、お仕事らしいぜ」
「連合が国境線にでも戦力を集結させているのかしら?」

 

 ディアッカが顎をしゃくった方を見れば、テスラ・ドライヴ搭載機である事を証明する翡翠色の粒子が、天空に尾を引いている。DC最強部隊の出動を要請する様な事態が勃発したようだ。
 バスケで心地よい疲労と良い汗をかいていた所に、突然出撃命令が下り、不満不平を垂らしながらバスケに勤しんでいた全員が乗機のコクピットへと大急ぎで飛びこんでいる。
 女性陣はシャワーを浴びたがったが、そこは緊急事態とあって黙殺されている。汗は拭ったが、熱を帯びた体の所為でパイロットスーツの中が否応にも蒸れる。
 特にクライ・ウルブズ所属パイロットの女性陣は全員がスタイル抜群(三人だけだが)だから胸の谷間が蒸れて仕方が無い。
 タマハガネはドックに残したまま、艦載している機動兵器のみでの出撃となる。バッテリー動力から核動力機へと移行して以来、母艦を伴わぬ作戦行動も増えていた。
 かつては、バッテリー機の稼働時間の短さから、必ずと言っていいくらい母艦や代替となる補給手段なりが講じられてきたが、核動力の普及が前大戦に比べてMS運用における戦術の幅を大きく広げている。
 既に前大戦における対MS戦闘の定石である、付近に存在する母艦の撃墜という手段は意味を失いつつあった。とはいえ大規模な軍事行動ともなれば必ず母艦が同伴するのは変わらぬし、母艦の撃墜は有効であるけれども。
 繋留中のタマハガネの甲板から、大急ぎで船内に戻り、眼に入りそうな汗だけを手の甲で乱暴に拭って、ガンルームで急ぎ着替えてヘルメットを被ったシンがDCインパルスのコクピットに収まっていた。
 体を固定する為のベルトを締めて、エネルギー・マルチプライヤーシステム、カルケリア・パルス・ティルゲムの起動を確認する。
 その最中、メカニックから、飛鳥シルエットがメンテ中で使用できない事を告げられて、少し太めの眉を八の字に曲げた。そうすると、途端に歴戦の勇士とは思えない子供っぽい顔立ちになる。

 

「飛鳥シルエットが使えないって、じゃあ、代わりに何があるんですか?」

 

 がらがら声のメカニックチーフが、怒鳴る様に答えた。

 

「お前、自分の機体の装備くらい目え通しておけや! 安土桃山シルエットに、縄文シルエット、奈良シルエットがあるだろうが」
「??? な、なんですか、ソレ!? 聞いた事無いですよ」
「冗談だ」
「はあっ!?」

 

 おちょくってんのか、と怒鳴り返そうとしたシンが、そう言えば若いメカニックに聞かされた話を思い出した。タマハガネのチーフは経験豊富で信頼できる職人気質の人物なのだが、パイロットを和ませようとする冗談が、ことごとく的を外すと。
 と言う事は、一応、自分を励ますとか、肩の力をほぐそうとしてくれているらしい。言いたい事をぐっとこらえて、シンは言葉を絞り出した。

 

「……実際には何があるんです?」
「おう、補助カメラ搭載の頭部ユニット二基と、サブマニュピレーター四本搭載の阿修羅シルエットだな。だが、六本になる腕の制御や各関節への負荷が半端じゃねえ。獅子王斬艦刀や斬艦刀が使えねえのが欠点だ。
 お前さんなら全部刀剣で揃えるだろうが、まあ、シシオウブレード状態の獅子王斬艦刀、ロシュセイバー、ビームサーベル、プラズマセイバー、ディバインブレード、シュベルトゲベール……もイケるだろう。
 対艦刀も斬艦刀系に比べりゃ小枝みたいなものだからな。ただし、飛鳥と違って運動性はちと厳しい。一対多を想定した近接戦闘用のシルエットだわな。
 ごちゃごちゃした乱戦ならお前さんの独壇場だが、まあ、今回みたいな哨戒っつーか、偵察任務には不向きなのは否めん。似たような代物で、馬頭シルエットや、四十本のアームにセンサーを内蔵した千手千慈眼シルエットもあるが、同様に不向きだ」
「じゃあ、他には?」
「じゃあ、はよせ。じゃあ、は。そうだな、UCシルエットシリーズのフォーミュラシルエットが出来あがっとる。試作のビームシールドとジェネレーター直結の可変速ビームライフルのヴェスバーを二門搭載しとる。
 ヴェスバーで戦艦並みの火力を実現し、新型の高性能小型テスラ・ドライヴ付きで、特殊なホログラフ投影装置と電子装備でちょっとした残像も作れる。戦闘速度や運動性、センサー系の機能も高いから、他のシルエットに比べればうってつけだろ」
「じゃ……そ、そのフォーミュラシルエットでお願いします」
「おうよ。ヴェスバーは一応取り外しが利くようになっているが、そうすると内蔵のコンデンサーの容量だと出力を絞っても一門七発が限度だ。ABCシールドも紙っぺらみたいに撃ち抜くが、使い方に気を付けろ」
「分かりました。フォーミュラでお願いしますから、換装作業に移ってください」

 

 おうよ、とチーフの返答を最後に通信が消え、シルエットシステム用に内部改修が施された格納庫の、作業アームが伸びてDCインパルスの周囲で忙しく動き回りはじめる。
 半月をさらに半分に割ったバックパックの左右に長砲身を二門備えたフォーミュラシルエットと、インパルスの左腕外部に掌サイズのビームシールド発生基部と、ビームサーベル内臓のサイドアーマーが腰の左右に装着される。
 ガームリオン・カスタム飛鳥以来接近戦に特化し続けたシンの機体にしては珍しく、近接戦用の刀剣がビームサーベルとフォールディングレイザーの計四本のみだ。
 DCのMSの標準武装となったオクスタンライフルを引っ掴み、発進準備が整った事をMS管制オペレーターから伝えられる。

 

「シン・アスカ、フォーミュラインパルス、行きます!!」

 

 フォーミュラシルエットの装着からわずかに遅れ、灰色に染まっていたインパルスの機体が、胸部がくすんだ青に、手足や頭部は白へと変わる。VPS装甲の起動を確認し、ぐん、と体に襲いかかるGに耐えて、タマハガネのカタパルトから空へと飛び立った。
 胎児と母胎を繋ぐへその緒の様なアンカーが切り離され、フォーミュラインパルスは先行するガーリオン・フライルーや、ジニンのアヘッドに追いつくべく、機体を加速させる。

 

   *   *   *

 

 地面に腹這いになって両手に折った木の枝を握り、馬鹿みたいにでかい体を必死に隠そうとして隠せていないイスペイルが、憎々しげに上空を旋回しているルイーナの機体を睨んでいる。傍らのイスペイル兵も同じようにして上空を見上げていた。

 

「あいつら、ずっとここに張り付いていますね」
「ふん、私の隠蔽処理を見抜けずにいるようだな。その所為でマイナスエネルギー収集装置の正確な場所が掴めておらぬのだ。たとえ見つけてもあれは地下深くに埋めておいたからな、掘り出すのも一苦労よ」
「埋めるのも大変でしたよね。ヴェリニー様もガズム様も手伝ってくださいませんでしたし、機体も使えませんでしたし、今どき人力はないでしょう」
「過去のことをほじくり返すな! 仕方なかろう、重機のレンタル代だって馬鹿にならんのだぞ。私が毎日頭を悩ませて、どんな思いで出納帳を着けているか、お前、知っているのか!?」
「八つ当たりしないでください。それがイスペイル様のお仕事じゃありませんか」
「なぬっ!?」

 

 少しは怯むか思ったら、きっぱりと言われてしまったものだから、逆にイスペイルの方がたじろいだ。こいつ、生意気な、と思うより確かに八つ当たりだったものだから、反論できない。図体がでかいくせに肝っ玉の小さい御仁だ。
 上空を旋回しているのは、先にアクセルとスティング、刹那達が交戦したベルグランデに加え、新たにアンゲルスと呼ばれる兵器の機影もあった。
 四肢や頭部はなく、首に埋もれる様にしてカメラ・アイが覗き、両腕の代わりに盾の様なパーツがあり、下半身は腰部アーマーから延びるテール・ブースターがほとんどを占めている。
 DCの監視網をどうやってくぐりぬけたのか、相当数の機影が南洋の空を占領している。その中に、手首から先はないが、背や両肩、足などから炎を噴き出しているような、まさしく炎の化身とでも言うべき機体があった。これが指揮官機であろう。
 時間が経つにつれて、イスペイル達が隠れている孤島を中心に動き回りはじめ、如何にイスペイルの高い技術力によって隠されているとは言え、装置が発見されるのは時間の問題だった。
 唐突に、ものものしく周囲を探るルイーナの機体の動きに乱れが生じるのに気付いたイスペイルが、彼方を見た。いくつかの光点が瞬き、それは太い光の柱となって上空を貫いていくつかの機体を飲み込んで爆発を生む。
 ティエリア・アーデの乗るガンダムヴァーチェが放った、バーストモードのGNバズーカによる砲撃である。
 莫大な熱量とエネルギーを放出した余韻で赤熱するGNバズーカの砲身を下げ、両肩のGNキャノンの四つの砲門を散ったベルグランデとアンゲルスへと向ける。

 

「GNバズーカ砲身冷却開始、GN粒子供給量安定……」

 

 ヴァーチェの背から噴き出る夕陽に血をぶちまけた様な色の粒子が輪舞する。ヴァーチェの傍らにロックオンのアヘッドSCがつき、フォローと味方への援護狙撃を開始した。

 

「刹那達が交戦した所属不明の敵か。何の目的でこんな所に居る?」

 

 アンゲルスの集団から放たれたパルスアローの回避と防御をハロに任せながら、ロックオンが次々とターゲットを照準内に捕えて引き金を引く。次の敵を捉えるのが恐ろしく速い。アンゲルスやベルグランデでは回避は難しいだろう早業だ。
 スター1ことデンゼルのバルゴラ一号機を筆頭に三機一個小隊で行動するグローリースターと共に、刹那のアヘッド7S、スティングのオオワシアカツキ、アウルのエムリオンRC、アルベロのビルトシュバインなどが一気に雪崩れ込んだ。
 なお、アクセルはオノゴロ島の施設に軟禁中だ。彼の処遇が決まるのは、二、三日先である。
 先に交戦したベルグランデに比べ、アルゲンスはパワーやスピードなどでも特に目を引く性能ではない。
 振り上げられたビームブレードを受けるまでもなく躱したアヘッド7Sが、左腰の合金鞘から抜き放ったGNドウタヌキで呆気ないほどアルゲンスの胴を両断する。刀身表面をコーティングした高濃度のGN粒子が、常に流動する刀身の切れ味は申し分ない。
 動きを止めず、刹那はそのままアヘッド7Sを操作して踊る様にアルゲンスや襲いかかってきたベルグランデのポールハンマーを、機体にかすらせもせずにその間を風の様に走り、瞬き一つの間に両断された敵機が爆発して吹き飛ぶ。
 サークルザンバーでポールハンマーを受けるビルトシュバインのコクピットから、アルベロの指示がシンに飛んだ。初めて使うフォーミュラシルエットに、少し戸惑っている様子が機体越しにも見て取れる。
 しかし、機体への順応性という点ではずば抜けて高い適性を持つシンは、そのうちにフォーミュラの癖や適切な操作方法をあっという間に飲み込む。

 

「シン、刹那、敵の指揮官機を抑えろ。可能なら鹵獲しろ。何らかの情報が欲しい」
「鹵獲しろったって」
「やるしかないだろう。今のままではやつらの目的すら分からない」
「刹那は真面目だな。仕方無い、突っ込むぞ」
「飛鳥シルエットじゃないんだ。あまり接近し過ぎるな」
「分かっているって!」

 

 GNドウタヌキとGNビームサーベルの二刀を握り、炎を纏う魔神のごとき敵指揮官機へと、刹那のアヘッド7Sが駆ける。敵指揮官機インペトゥスが操縦者の余裕を表す様に悠然とアヘッド7Sとフォーミュラシルエットへと振り返る。
 インペトゥスが億劫そうに向けた両手の先から、見た目を裏切らずに紅蓮の焔が大竜の如く生じ、大気を呑みこみ焼き尽くしながら迸る。
 ビームやミサイルと言った類の攻撃にはもはやたじろぐ事のない二人だが、初めて目にした慣れぬ攻撃に、一瞬刹那とシンの反応が遅れるが、攻撃速度はさほどではない炎を躱す事は不可能ではなかった。
 青と白のフォーミュラインパルスの装甲と、赤いアヘッド7Sの装甲を今にも燃やし尽さんとばかりに猛る炎の照り返しが、両機の装甲色を毒々しい赤色に染め上げる。
 十分に距離を取って回避した筈が、モニターに急速に機体の外部装甲温度が急上昇している事が表示された。
 直撃を受ければ機体それ自体は保っても、内部の繊細な機器やパイロットが耐えられないだろう。いや、長時間受け続ければ、機体そのものが融解する可能性もないとは言い切れない。
 フォーミュラシルエットのオプションであるビームバズーカと、オクスタンライフルを同時に構えたフォーミュラインパルスが、今も両手に炎を纏うインペトゥスへと連続で撃つ。
 運動性はさほどでもないのか、全弾回避する事は出来ずに、インペトゥスにプラズマ・リアクターから供給されたエネルギー弾の着弾が、二発、三発と続いて大きく機体を揺るがす。
 MSやAMをはるかに上回る巨躯を揺るがしたが、それきりだ。外装を穿つでもなく、機体を後方へ吹き飛ばすでもない。

 

「こいつ、ジガン並に硬いぞ」
「だが、そのサイズなら小回りは利くまい!」

 

 腰を落としたアヘッド7Sの、インペトゥスの両膝を斬りおとすべく振るった横薙ぎの一閃が、インペトゥスの右手から噴出した炎の剣に防がれた。剣状に固定化された炎は、打ち合わせたGNドウタヌキの刀身を瞬く間に赤熱化させる。
 刹那は咄嗟にGNドウタヌキを引き、GNビームサーベルでGNドウタヌキのやや下方からの一閃を加える。炎剣で一刀を防がれてからコンマ一秒とたたずに繰り出された二撃目が浅くインペトゥスの右膝の装甲へと斬り込む。
 より深く刀身を斬り込ませ、右足を斬り落とさんとした刹那の視界に、突きだされるインペトゥスの左手が映る。言うまでもなく灼熱の炎が剣を形作っていた。秒瞬の間も経たずにアヘッド7Sの装甲を蒸発させるだろう。
 炎剣の切っ先が、上半身を反らしたアヘッド7Sの左の角飾りを溶鉱炉の中の様に融解させる。刹那はそこからアヘッド7Sに上半身を捩じらせ様に、GNドウタヌキからGNショートビームサーベルへと持ち替えさせる。
 右後方へと捩じった上半身に、半螺旋の動きを加味して横一文字に並べられた大小のGNビームサーベルがインペトゥスへの胸部へ。左腕を胸部前にかざして、インペトゥスはGN粒子の刃を防ぐ。

 

「下がれ、刹那!」
「っ!」

 

 シンの声に反応し、刹那はアヘッド7Sの機体を後方へ下げると同時に、あおむけに倒れる様に下方へと落とす。
 アヘッド7Sの機体が隠れ蓑となり、その背後からフォーミュラインパルスが放った最大出力のヴェスバーの光槍に、インペトゥスは反応するのが遅れた。殺った、と確かな手応えを感じられる必殺のタイミング。
 しかし、トリガーを引いた直後、シンの視界にインペトゥスの前に別の影が割り込むのが見えた。近くを飛んでいたアンゲルスが自らを盾代わりにしたのだ。
 二門のヴェスバーから伸びた光の剛槍はアンゲルスの装甲などあってないものの様に貫き、その背後のインペトゥスにも襲いかかったが、まるまる一機の機動兵器が盾代わりになった事で威力が多少なりとも削がれていた。
 シンの視界からはちょうど盾代わりになったアンゲルスが起こした爆発によってインペトゥスの姿が見えなくなる。姿を見失った一瞬が命取りになるとこれまでの経験から知りつくしていたシンは、すぐさま機体を動かす。
 その矢先に、爆煙を食らう勢いで凄まじい勢いの炎が、まるで堤を破った洪水の様に襲いかかってきた。回避よりも、左手のビームシールドを起動させて受けることを選択する。
 発生基部から延びた緑色のビームは、縦に長い六角形の光の盾となった暴虐の炎から機体を守る。炎圧に押される様にして後方へと吹き飛ばされるフォーミュラインパルスの機体を即座に立て直し、目を離さずにいた爆煙の向こうのインペトゥスを睨みつける。
 今も炎を噴き出すインペトゥス目掛け、刹那が大上段から交差させたGNビームサーベルとGNショートビームサーベルを叩きつける所だった。Xの字を描き、煉獄から地獄の門をくぐって地上に顕現した炎の化身と見紛うインペトゥスへ振るわれる二刀。
 炎を吐く腕をそのまま振り抜き、アヘッド7Sを炎の流れの中へと飲み込み、“焼”滅せんとするインペトゥス。
 自らを生んだ母を焼いたというヒノカグツチもかくやと思わせるインペトゥスの、禍々しい炎を、鮮血色のGN粒子を纏う二刀が裂いた。四つに切り裂かれ、霧散する炎の中を、刺突へと変わった二つの切っ先が走る。
 インペトゥスの右肩から伸びる歪曲した角の様なパーツに突き刺さり、小枝でも斬るみたいに、GN粒子の光刃が落とす。切っ先を翻してインペトゥスの首を狙った刹那は、横殴りに襲い掛かってきた衝撃に、脳を揺らされた。
 インペトゥスの左回し蹴りがアヘッド7Sを直撃して、圧倒的な質量さによって弾き飛ばされてしまったのだ。食道を伝って込み上げてくる物を必死に堪え、刹那はこちらに向けられたインペトゥスの両手に気づき、とっさに機体を上方へと動かす。
 アヘッド7Sの爪先を焔の舌が舐め取り、どろりと溶けたガラス細工のように変わる。耐熱性の高いPS装甲やVPS装甲でも結果は同じだろう。大気圏への突入も可能なGNドライヴ駆動機の装甲をかくも容易く融解させるとは、途方もない熱量だ。
 刹那を庇うべく、シンは貫通性能を重視して調整したヴェスバーでインペトゥスを牽制する。インペトゥスの動きなら、これでも十分に命中させられると踏んだシンの判断は正解で、胸部、腹部と連続して着弾して堅固な装甲に蜘蛛の巣状の罅が走る。
 インペトゥスにようやく表出した明確なダメージを見逃さず、過負荷の加わった装甲目掛け、刹那が投じたGNコヅカが小気味よい音と共に深々と突き刺さる。内部に損傷が生じたか、インペトゥスの機体のそこここに内側から紫電と小さな噴火が噴き出る。
 このままダメージを与えれば、戦闘不能に追い込んで鹵獲も出来る、と刹那とシンが同じ思いを共有した瞬間、シンの背筋を悪穢な感触が駆け抜けた。目に見えぬほど小さな虫が、何十万匹もからだを外から内から這いまわる様な狂気的な感触。
 語るも痛々しい程の激烈な鍛錬の果てに磨き抜いた超感覚を有するが故に、一般人なら感じずに済むモノも感じてしまう。どっと全身の毛穴から油の様に粘っこい冷汗が噴き出るのを、シンは抑えられずにいた。
 シンがおぞましい感触に苛まれるのと同時に、足元の孤島で飛び交うビームやミサイルに、ぎょえ、のわぁ、だの叫んでいたイスペイルが、ずしんと耳ではなく腹に来るような重低音で叫んだ。

 

「ぬあああああっ!?」
「イスペイル様、どうなさったのです!」
「こ、これまで集積したマイナスエネルギーが、どんどん右肩下がりでへ、減っている!?」
「表現が古いですね」
「おま、お前はなにをそんな冷静に、あ、あの指揮官機の奴が吸収しているのだ!! ええい、そこの刀馬鹿、さっさと鱠斬りにせんかい!」
「いやぁ、他力本願ですねぇ。エンダークでもあればともかく、生身じゃ仕方ないですけれども」
「……お前、本当に落ち着いているな」

 

 こいつ、こんな性格だったかしらん? と訝しい思いで隣のイスペイル兵を見ている内に、なにやら尻の方が熱くなっている事に気づいた。いや、これは熱いなどと言うものではない。まるで焼き鏝を押し付けられているかのような――

 

「イスペイル様、燃えてます!?」
「何、ぬおう、私の尻がっ!!」

 

 背後を振り返れば、インペトゥスが放出した炎が燃え移った木々のひと枝が燃え落ちて、イスペイルの金属の光沢を放つ臀部でぱちぱちと爆ぜている。たまらず飛びあがって海水に尻を着けようとするイスペイルを、イスペイル兵が必死に抑え込んだ。

 

「いけません。今飛び出たらDCやらわけのわからん連中やらに見つかりますよ! 燃えているのは取り払いましたから、もう大丈夫ですってば」
「ぐおおお。な、なあ、火傷には何が効いたっけ?」
「さあ、でもイスペイル様の黒光りする鋼鉄のお肌なら火傷なんてできないしょうに。ところでマイナスエネルギーは?」
「それもそうだな。マイナスエネルギーは、むむ、流出は止まったが残量は五〇%だ。ぐぐぐぐ、これだけ集めるのにどれだけ時間がかかったと思っているのだ! おのれ、この恨み晴らさでおくものか!」
「とりあえず息を潜めてじっとしましょう。いま見つかったらやばいですよ。私達どう見ても不審人物ですし、テレビで知られた顔ですけど、なんでここにいるのかって聞かれたらどうしましょう」
「次回の撮影の為に適当な場所を探していたとでも言えば済むわ。……とはいえその意見には賛成だ。お前、ホントに冷静だな」
「世知辛い世の中を経験していますから。(有)イディクスを起業する時も今もしわ寄せは私達やヴェリニー様の所の兵士に来たのですよ」
「仕方なかろう。上には上の、下には下の役目がある。お前はそう言うが私だってなあ……。ヴェリニーとガズムもなあ、もうちょっと私に優しくしてくれてもいいと思わんか?」
「優しくしてもらおうとする前に、まずはイスペイル様が優しく接されてはいかがですか? 人に信じてもらいたい時は、まずは自分が人を信じる事から始める、とどこかで耳にしましたよ」
「まずは自分の前に人にか。難しいな、世の中」
「まあ、私らも拾った命ですし、色々と以前はしなかった事をしてみるのもいいんじゃないですか」
「そうだなぁ。しかしお前、本当に変わった奴だな」

 

 そうして二人はこそこそと茂みの中に戻っていった。とりあえずやるべき事は分かっている二人の様だ。とにもかくにも見つからぬように隠れることが先決であるからして。ちょっと情けないのは仕方が無い。

 

   *   *   *

 

 目の前で見る見るうちに機体の損傷が癒えて行くインペトゥスを前に思わず刹那は呆気にとらわれた。これまで様々な戦場を経験してきたが、損傷を自己修復する機動兵器など初めて目にする。
 一方でシンは、目の前のインペトゥスの様子に、かつての前大戦で苦汁を嘗めさせられ畏怖と畏敬に値する強敵を失う事になったAI1セカンドと、ヴォルクルスとの戦いが思い起こされ、胸中で吹き荒れる激情の嵐を抑えられそうにない。
 ごうごうと音を立てる激怒の炎と憎悪の嵐が、シンが常に行っている調息と練気、チャクラの回転にわずかな乱れが生じる。くっ、とシンの喉の奥で血を吐くような声が零れた。今ここで頭に血を昇らせるのは愚の骨頂。
 糸を紡ぐようにか細く息を吐き、乱れた呼気と脈流を落ち着かせる。強く意識して気を丹田に集める。瞬く間に下腹部が熱を帯びた様に熱くなる。瞬く間に気は清澄となり、自然と剣気を生じ破邪顕正の力を得る。
 左サイドアーマーから取り出したビームサーベルが、フォーミュラインパルスの左掌のコネクタと接続し、青白い光刃を形成する。しかし、刹那の目の前でその光はあざやかな黄金へと色を変じる。
 エネルギー・マルチプライヤーシステムが変換したシンの破邪顕正の気がコネクタを通じて、ビームサーベルの機能を借りて顕現したのだ。洪水の真っただ中に放り込まれたように、周囲に溢れるマイナスエネルギーの中に、黄金の輝きが一閃!

 

「ぬっ!?」
「っ!!」

 

 地に伏せていたイスペイルと、インペトゥスのパイロットが同時に驚愕の叫びを放つ。見えるものがいたならば、人々の苦悶の形相が川となったようなマイナスエネルギーの奔流の中で、黄金の刃が一閃するや、負の河は朝霧の如く霧散して消滅していた。
 周囲を穢していたありとあらゆる種の負の感情が清められ、辺り一帯は清浄な空気に満ち満ちている。マイナスエネルギーとは対極の力であった。

 

「なんなのだ、あの機体……」

 

 イスペイルが呆然と見つめる先には、金色の輝きから蒼刃へと戻ったビームサーベルを持つフォーミュラインパルスの姿があった。

 

『貴様、何をした』

 

 低く抑えられた声が、フォーミュラインパルスにつなげられた回線から聞こえてきた。聞く者の心胆を寒からしめる凶暴性を隠そうともせぬ男の声である。敵指揮官機からの声と気づき、シンがかすかに息を呑んで緊張に身を浸す。

 

「その機体のパイロットだな? 何が目的でここに来た。何のために戦闘行為を」
『せっかくの収穫を邪魔してくれた礼をせねばなるまい。おれの名前はイグニス!
 おれの名を土産に恐怖と絶望に染まりながら、奈落へと落ちて死するがいい』

 

 修復が中断したインペトゥスは、二割程度ダメージが残っている様子だったが、それと引き換えに機体から見えざる戦意が立ち上り、揺らめいて見えた。これからが本番と言う事だろう。
 シンと刹那とが改めて操縦桿を握る手に力を込め、いつでも戦えるよう気を巡らした瞬間、唐突に百度近くまで上昇していた外気温が急速に冷却していく。インペトゥスの炎を鎮静化する様なナニかが、この場に近づいているのか。
 新たな敵の出現かと、レーダーと自身の超直感を頼りにそれぞれ警戒するシンと刹那の予想に反して、インペトゥスは傍目からも露わに動揺を示していた。辺り一帯を見舞った冷却現象は、目の前の敵にとっても予想外らしい。

 

「そこかっ」

 

 シンの不可視の知覚網に羽毛のような感覚が触れる。柔らかだが、氷のように冷たい。だが、少なくともこちらへの害意は感じられない。やや希薄だが、人間らしい情動も感じられる。
 太陽を背に、その輝きの中に飲み込まれるようにして、新たな機動兵器の影があった。光量を自動調節したカメラに映し出されたのは、処女雪の様に輝く白を基調とし、青と緑の色彩に彩られた機体である。
 背には緑色のクリスタル状の物質を埋め込んだ翼の様に伸びる五本のパーツがあり、刃と一体になった円形盾を左手に、おそらく銃器らしい物体を右手に持っている。炎の様なインペトゥスとは対照的に氷雪を思わせる美しくも冷たい雰囲気を纏う。
 どことなくインペトゥスと共通する意匠を見つける事の出来る機体だ。まったくの無関係とは行くまい。アレが、この現象を起こしたのだと無根拠に悟ったシンと刹那が新たな機体を見つめる中、

 

『ラキ!!』
「ラキ?」

 

 イグニスの切迫した声が、新たな機体に向かってかけられる。それが機体の名称か、パイロットの名前かまでは分からぬが、執着の念が紛れたイグニスの声からしてパイロットの名であろう。
 応えは無く、ラキと呼ばれたパイロットの機体は颯爽と機体を翻すや、あっという間に彼方に飛び去り小さな点へと変わる。
 負傷を負わせたシンや刹那、捜索に赴いたマイナスエネルギーへの執着は捨て、イグニスは率いていた兵士達と共に飛び去ろうとするラキの機体を追いはじめた。戦っていたこちらが呆気に取られるような退きっぷりだ。
 遮二無二、と言う表現が似合うほどラキの機体を追ってゆくイグニスは、すでに追っても捕まえられぬほど遠ざかっていて、シンと刹那は追撃を諦めざるを得なかった。
 戦闘の結果は、タスクのジガンが多少被弾してはいたが、その他の機体には目立った損傷は見られなかった。まあ、いつもどおりの戦闘後の姿と言えばいつもどおりだ。
 撃墜した機体の残骸を回収し、すぐさまオノゴロ島の港湾ドックへと戻る。この付近一帯の捜索は、後ほど行われるだろう。
 去りゆくクライ・ウルブズの機影がすべて消えたのを確認してから、ようよう、砂まみれ土まみれで汚くなったイスペイルとお伴のイスペイル兵が、姿を現した。傷一つ負っていないのは悪運が強いという証左であろうか。

 

「ちい、収集装置を動かす必要があるかもしれん。これはヴェリニーとガズムにも話を通さねばならんな」
「……なんで見つかったんだってヴェリニー様が問い詰めてきそうですね」
「それを言うな。……爪で引っ掻かれるのは免れんがな」
「噛まれないだけましでは?」
「どちらにせよ、痛いものは痛いのだ」
「心中お察しいたします」
「じゃあ、代わってくれ」
「お断りします」
「即答で断る位なら優しい言葉なんぞかけんでくれ。変に期待するだろう」
「とりあえず現実を見ましょう。ここまで乗ってきたゴムボートは沈んでしまいましたし、どうやって帰りましょうかね?」
「本当か?」
「お気づきで無かったのですか?」
「はあ~~。イカダでも組むか」
「そうですねー」

 

 途方にくれる主従の影は、長い事その場にぽつんと佇んでいた。

 
 

(つづく)