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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第20話

Last-modified: 2009-10-16 (金) 19:00:19
 

ディバインSEED DESTINY
第二十話 争乱の宇宙

 
 

 地球と月の元となった巨大な隕石二つが衝突した時の残骸によって、形成されたというデブリベルトに、DSSDの誇る二大プロジェクトの成果を追いこみながらも、地球連合製WRXのメインパイロットの顔色は陰っていた。
 清らかな水の流れの様に美しい水色の長髪を専用ヘルメットの中に押し込み、大粒の瞳に小さな造りの唇や鼻と、実年齢よりもあどけない印象の、美人と言うよりも可愛らしい容貌の少女であった。
 軍人稼業に身を置く人間とは思えぬ華奢な体つきも、いまだ女として欄熟の時期を迎えてはおらず、二年近くを経てなお地球連合最強の機動兵器と名高いWRXのメインパイロットを任された女傑とは信じられない。
 イングラム・プリスケンおよびヴィレッタ・バディムによって、『念動力を有さないパイロット用として再設計されたSRX』であるWRXのパイロットに抜擢された、精鋭中の精鋭、ムジカ・ファーエデン少尉だ。
 前大戦時は友軍に畏敬の眼差しで見つめられたWRXチームも、いまや便利屋か使い捨ての駒程度に冷遇されていて、今回のDSSD襲撃に駆り出されていた。
 スウェン・カル・バヤンらに囲まれて退路を断たれたアルテリオンやベガリオンを、ムジカは気まずげに見ていた。
 今回、自分達が行った作戦が、大衆に胸を張って誇れるようなたぐいのものではないと意識しての事だろう。
 代々軍人の家系に生まれたムジカだ。上層部からの命令がいかに軍と言う組織の中で、絶対的なものであるかは理解している。
 地球連合という空前の規模の大組織の末端にすぎぬムジカらに、作戦に異議を唱える権利はないし――命令が正規のものであるか確認する位は出来るとしても――、すでに行動に移しているのだ。
 いまとなっては彼らが抵抗せずに大人しく降伏してくれる事を祈るばかりである。
 すでにDSSDステーションは、内部の工作員と特別工作部隊チーム・ジェノバをはじめとした複数の部隊の投入によって既に占拠が済んでいる。
 スウェン、シャムス・コーザ、ミューディー・ホルクロフトらが、スターゲイザーらに油断なく銃口を向ける中、ゲヴェル艦長レフィーナ・エンフィールドが降伏勧告を告げ始めた。
 本作戦のブリーフィング時も、ムジカと同じように幼さを残した美貌に暗い影を刷いていた事を、ムジカは思い出していた。

 

『プロジェクトTDおよびプロジェクトスターゲイザースタッフ、応答願います。アークエンジェル級三番艦ゲヴェル艦長、レフィーナ・エンフィールドです。本艦は武力を持って貴方がたを拘束する権限を与えられています。
 これ以上、抵抗するのであれば、不本意ではありますがその権限を行使します。貴方がたの生命の安全は私の責任を持って保障します。武装解除し、投降してください。すでにDSSDのステーションは制圧しています。貴方がたに帰る場所はありません』

 

 アルテリオンらのパイロットに動揺が走るのを、ムジカは宇宙空間越しに感じた様な気がした。前大戦に参加してから、妙に勘が鋭くなって、他者の思考や感情と言ったものを鋭敏に察知できるようになっていた。

 

「大人しく投降してくれるかな?」

 

 確認するというよりは、そうして欲しいという感情が濃く滲み出たムジカの声に、WRXを構成するR-2パワードのパイロットを務めるグレン・ドーキンスが、厳しい声で答える。

 

「するんなら、ああまでスウェン達相手にドッグファイトを繰り広げたりはしねえさ。機体もそうだが、パイロットの腕も確かだ。それに、投降したらしたで自分達の技術がどう扱われるかも分かっているだろうしよ」
「でしょうね。軍が本作戦を敢行したのもDSSDの持つ技術を独占し、DC、ザフトの新型兵器に対抗する為でしょうし、パイロットも……」

 

 R-3パワードのパイロット・ジョージー・ジョージは言葉尻を濁す。プロジェクトTDのスタッフ達の行く末が、戦争に利用されるだろう事を案じたからだろう。
 一部上層部が、狂気的民族浄化思想に汚染されている地球連合が、彼らの身柄をただ拘束するだけで済ますとは到底思えない。戦後の処遇や身の安全と引き換えに、戦争に協力を強いるのは十中八九間違いないだろう。
 アルテリオンらのパイロットもそれを理解しているだろうから、最後まで抵抗するのではないか、とジョージーは無言の内に告げているのだ。
 ムジカにもそれは簡単に想像がつく。だからこそムジカは本作戦に対し不満と上層部への疑惑を抱いてしまう。
 DSSDは、確かに地球連合寄りでもザフト側でもない中立の立場を取っているが、旧オーブの様な武装した独立国家ではないし、あくまで学術的な目的を戴く集団だ。
 彼らの研究の成果が人類全体にとって益となるものである事は、多くの人々が知っている。
 大本はザフト資本である事や、コーディネイターが多数在籍しているために、敵視する者もいるにはいるが、それでも理性のある者なら、彼らに手を出すのは末期的状況に追い込まれた組織位だと嘲るだろう。
 まだ明確に戦端が引かれたわけではないが、戦争を優位にする為の準備行動と、今回のDSSD襲撃は位置付けられる。それほど戦争を再開させたいのだろうかと、ムジカはチャームポイントである太めの眉を寄せた。

 

「投降して……」

 

 そう願うムジカの声は、込められた痛切な狙いに反して、運命を決める何者か、そしてアイビス達には届かなかった。届く筈もないと、ムジカ自身理解はしていただろう。

 

『エンフィールド艦長、こちらはプロジェクトTDチーフ、ツグミ・タカクラです。投降の申し手ですが、お断りします。私達には行くべき場所があり、それは叶えるべき夢でもあります。
 DSSDの皆の願いと夢、そして存在意義を、武力で持って理不尽に制圧しようと言う地球連合に屈するわけにはいきません。プロジェクトのスタッフであるアイビス・ダグラス、スレイ・プレスティも同じ意見です』
『プロジェクトスターゲイザーのセレーネ・マクグリフです。私達もタカクラチーフと同じ意見です。我々のプロジェクトが求めた技術を、軍事目的に利用させるわけには行きません。最後まで私達は貴方がたに抵抗します』

 

 レフィーナのツグミらへの返事は、極めて事務的だった。

 

『……残念です。イーゲルシュテルン起動、バリアント、ゴッドフリート照準合わせ、ミサイル発射管対宙拡散溜弾装填。
 カル・バヤン中尉、ファーエデン少尉、目標アーマードモジュール及び、モビルスーツの無力化を行ってください』

 

 嘘偽りのない最後の一言を皮切りにして、スウェン達は素早く動いた。スターゲイザーを主に、アルテリオンとベガリオンは臨機応変に狙ってゆく積りか。

 

「ムジカ、手を抜こうなんざ考えるなよ!」
「……分かってる。ぼくだって、軍人なんだ」
「エンフィールド艦長より、全武装使用許可が下りました。ムジカ様、ハイフィンガーランチャー、脚部マイクロミサイル、ガウンジェノサイダー、ブレードキック、全ファイアリングロック解除しました」
「うん。行くよ!」
「おおっ!!」

 

 大量の推進剤に点火し、爆発的な勢いでWRXが動いた。クルーズ・フィギュア形態のアルテリオンと、大型MAに見間違えられそうなベガリオンが、ムジカのメインモニターに映し出されている。
 流石にDSSD肝入りの機体とあって、その機動性、加速、運動性、現行の機体のほとんどを上回るものであることは、スウェン達との一戦の様子から良く分かる。
 ムジカはWRXの十指を広げて、大きく射撃角度を取りハイフィンガーランチャーをアンロックのままぶっ放した。
 戦艦の主砲級の砲撃を毎分二百発で撃つ事も可能なハイフィンガーランチャーの高エネルギーが、雹の如くアルテリオン・ベガリオンへと降り注ぐ。
 WRXが蛇行する様な機動を取りつつ、数を頼みに射撃されている。撃たれる側のアイビスとスレイにとっては肝が冷えるなどと言うレベルではない。
 一撃でアルテリオンとベガリオンが航行不能になってもおかしくないエネルギーが、雨霰と自分達めがけていつ止むともなく降り注いでくるのだ。
 明確に狙いをつけず、大雑把に自分達の後を追っての射撃とは分かるが、機体の付近をかすめるだけで大きく揺さぶられ、その度に神経に小さな牙を突き立てられるようにガリガリと削られて、集中を大きく妨げられる。
気乗りしない様子であったムジカとは思えぬ容赦のない殲滅行動に見えて、その実、可能な限り出力を落とし、ベガリオンらに直撃弾があってもそう簡単には落としてしまわないように配慮してはある。
スウェン達が武装の出力を落としてアイビスらを追いまわしていたのと同じだ。

 

「速いな、あいつら」
「ジョージー、ジェネレーターの温度は?」
「冷却は間に合っています。許容範囲内です」
「ムジカ、マイクロミサイル、ばら撒くぞ」
「アルテリオンの予測機動方向、2・5秒後位置に!」
「分かっているって!」

 

 真空の空間ゆえ、がしゃん、と音を立てる事もなくWRX脚部の側面装甲が開き、技術の進歩から威力はそのままに小型化して、装弾数が五割増しになったミサイルの三分の一が、グレンの照準に従って白煙の尾を引いた。
 行く手を塞ぐミサイルの軌道にいち早く気付いたツグミのナビに従い、迎撃のためにアイビスとスレイがミサイル群、GGキャノンの弾幕で撃ち落とすも、爆発の余波と広がった爆煙が一瞬彼女らの視界を遮る。
 機体の操作にわずかな鈍さが生じた隙に、ムジカは機体出力を推進システムに振り分けて、一気に距離を肉薄させる。
 足の甲に伸びた白い三角片の噴射口からは、ブレードキック発動の為のエネルギーが解放の時を今か今かと待っている。

 

「ちい、流石にかつては地球連合の切り札と言われただけの事はある」

 

 アイビスがまだ機体のバランスを取り戻すのに手古摺る間に、機体を立て直したベガリオンが、レフトテールノズルから、ひときわ強い光を発して機首を急角度で曲げ、WRXと向かい合う。
 超加速されたGブレイクドライバーの人体の限界を超えた超高速弾頭を、ムジカは額の内側に走った弱い電流に従い、WRXに半身をずらす最小の動作で回避させる。
 電流にはスレイの敵意と破壊衝動が混じり、ムジカは顔も声も知らぬ女性の思惟を、明瞭に感知していた。
 前大戦時に芽生えた超直感ないしは直接に意識を感じ取る繊細な感覚は、約二年を経た今、ムジカの内側で太い根を張る大樹の様に育っていた。
 WRXが巨体に似合わぬ風に舞う蝶の様な軽やかな動きでかわすのに、スレイは少なく無い衝撃を覚えたが、その指は休まずCTM-07プロミネンスのトリガーを引いている。
 さらにベガリオンの装備するCTMシリーズで最も広い射撃範囲を持つCTM-05プレアディスも、残っていた虎の子の一発を撃つ。
 異なる弾頭のミサイルの津波の様な二射に、WRXは怯む様子さえ見せず、頭から向かっていた姿勢をくるりと変え、脚部をアルテリオンらに向けて一気に加速した。
 ブレードキックの態勢だ。宇宙の闇を切り裂く光の筋となったWRXの機体を、展開されたターミナス・エナジーが攻防を兼ねる翡翠色のフィールドを形成する。
 このフィールドプラス、異邦人達の言う所のニュータイプたるムジカの超人的危機察知能力、反射神経、爆発的なWRXの加速、これらが回避行動を取らずに攻撃を敢行する理由か。
 はたせるかな、WRXに群がる鋼の飢えた肉食魚の群れの中を、WRXは一筋の流星となって駆け抜けて、光が通り過ぎた後には無数の爆裂が数珠繋がりに発生し、宙域を赤々と照らす。
 瞬きする間にモニターの中で巨大になるWRXがベガリオンの直撃コースを取っている事を察し、スレイは危ないと意識が警告を発すると同時に操縦桿をかすかに傾けていた。
 脳を大きく揺さぶる衝撃は、ベガリオンの左の主翼の先端を粉砕していった。

 

「ぐう、狙いは、アルテリオンか!?」

 

 大きく傾ぐ機体バランスを立て直したスレイは、WRXがブレードキックを敢行したのは、ベガリオンとアルテリオンが一直線に重なった瞬間を狙ったのだと咄嗟に見抜いていた。
 ベガリオンに回避されても得た加速を生かしてそのままアルテリオンへ、斬撃力を伴う蹴撃を見舞うつもりなのだろう。

 

「アイビス!!」

 

 スレイの絶叫に、アイビスはよく応えた。

 

「こんのおおお!」
「いっけええ!!」

 

 CF形態の加速を、DFへの可変による重心移動によって急激に方向を転じて、かろうじてブレードキックを躱す。寸前を過ぎ去ってゆくWRXの纏う高エネルギーの余波によって、アルテリオンの円錐形の胸部先端装甲がひしゃげた。

 

「胸部90mmGGキャノン発射口が歪んだわ。機体それ自体へのダメージは胸部装甲のみ。機体制御に問題はない」
「了解、機動性ならアルテリオンの方が上なんだ。ヒットアンドウェイに徹すれば!」

 

 CTM-02スピキュール、さらにつづけてCTM-07プロミネンスと、アイビスはアルテリオンに細かい機動を取らせながら、スレイが先程仕掛けた様なミサイルの壁を形成して、WRXに叩きつける。
 迫りくるミサイルの半数をムジカの反射と知覚器官によって回避し、残りを胸部のメガネの様なゴーグルから放たれたビームが横薙ぎに振るわれて、一瞬でミサイルの残数をゼロにする。
 ミサイル群の迎撃を終えたWRXを、数発の着弾が大きく揺らして、Eフィールドを貫通した弾丸が装甲を砕いた。ミサイルの発射に時間差で放ったGアクセルドライバーの高加速弾頭である。
 揺れるコクピットの中、アルテリオンを視界の中央に捉え、歯を食い縛って衝撃に耐えたムジカは、即座にWRXの姿勢を安定させて再度アルテリオンに機体正面を向ける。
 緋色の軌跡を描いてこちらに迫るベガリオンも忘れてはいない。ベガリオンとアルテリオンそれぞれにハイフィンガーランチャーの指先を向け、散弾モードにしたエネルギー弾を発射する。

 

 * * *

 

 WRXが意外な苦戦を見せる中、スウェン達三人を相手にするスターゲイザーは苦戦を強いられていた。
 戦闘用の訓練を積んでいないソル・リューネ・ランジュとセレーネ達に、スウェン、シャムス、ミューディーらと互角以上に戦えと言う方が酷であったろう。
 かろうじて被弾こそ免れてはいたものの、ヴォワチュール・リュミエールの副産物であるビームリングの多用によって、エネルギー残量はすでに半分を切り、連戦による疲労も極限状態を前に危険な段階になっている。
 荒くなったソルの吐息がヘルメットの内側を白く曇らせている。セレーネは気丈にも弱音を吐く様な事は無かったが、大粒の汗がやわ肌に幾つも浮かびあがっている。
 アイビスらは健闘していると言ってよかったが、スターゲイザーの撃墜か鹵獲はもう間もない事かと思われた。
 なんとかパイロット達の命だけは助けられないものかと、レフィーナが心中で思案する中、オペレーターの一人が、困惑した様子で報告を告げる。

 

「現宙域に急速接近する機影を確認。数は一」
「後続の艦隊ではないのか?」

 

 レフィーナの隣に立つ副長テツヤ・オノデラ大尉に、オペレーターは首を振って否定した。

 

「アンノウンです。約50メートル、は、速い、まもなく視認領域に入ります」
「これほどの速さで動ける機体、リュウセイのヴァイクルでしょうか?」
「彼との合流は予定にありませんし、いまは月軌道艦隊に転属している筈です」

 

 レフィーナ達がアンノウンの正体を訝しむ間に、それが姿を見せる。人型と言うにはいささか歪なシルエットだった。白い装甲に円盤に近いボディ、獰猛な獣が牙を剥き出しにしたような顔面に、額からは緑色の角が十字に広がっている。
 アンノウンの中で、削いだ頬と鋭角に曲がっている白銀の髪に、冷酷な印象の強い青年パイロットが、WRXの姿を捉えて肉付きの薄い唇を吊り上げた。
 ゲヴェルから発せられる警告を一切無視し、アンノウンは止まることなくアルテリオン、ベガリオンと高機動戦闘を繰り広げているWRXへと急速に接近する。

 

「え、な、なに!?」
「ふん、これがWRXとやらか。おれのヴァイクランの贄となるがいい!」

 

 アンノウン――ヴァイクランの機体から、四基の小型砲台が射出された。ドラグーンと同じような無線誘導式の砲台ガン・スレイヴだ。
 前大戦最終決戦において、ネオ・ヴァルシオン、グルンガスト飛鳥、ヒュッケバイン、ナシム・ガンエデンと融合した冥府の銃神が持つ武装と同系統のものであろう。
 青白く発光する光球が次々と発射されて、とっさに回避行動を取ったWRXの至近距離を通り過ぎてゆく。

 

「ちい、ムジカ構わねえ、一発ぶちかましてやれ」
「艦長からも交戦許可が下りています。アンノウンを敵性勢力と断定」
「っ!!」

 

 グレンとジョージーに言われるまでもなく、ムジカは襲い来るヴァイクランとそのパイロットが手強い敵であると根拠無く理解していた。
 彼女に芽生えた直感的な察知能力、理解力が猛烈に放射される敵意を痛いほどに受け止めていた。
 だからこそ照準をつけるのは容易い。使用許可の下りていたマイクロミサイル、ハイフィンガーランチャー、ガウンジェノサイダーが最大出力でヴァイクランへと殺到する。
 ムジカが殺意を迸らせたのは、対峙するヴァイクランとそのパイロットの危険性をこの場の誰よりも強く理解していたからだろう。

 

「はははは、ぬるい攻撃だな!!」

 

 ヴァイクラン機体前面に展開された超強力な念動フィールドが、WRXから放たれた武装のほとんどをシャットアウトし、ガン・スレイヴから放たれた雷光の弾丸は反対に次々とWRXの巨躯を捉えて行く。

 

「きゃあああああっ!」
「悲鳴を上げられるのも今日が最後だ!」

 

 アルテリオンやベガリオンには目もくれず、ヴァイクランの猛攻はWRXを捉えて行く。一方でムジカが果敢に行う反撃は、ヴァイクランの超重厚な念動フィールドに阻まれてわずかな傷を与える事も叶わない。
 念動力を有さぬパイロット運用を前提に置いたWRXとはいえ、こうも一方的にヴァイクランに圧倒されるのは、機体性能の差であろうか。

 

「貴様以外にもザフトのWRX、そして二機のヴァイクルを破壊せねばならんのでな。貴様らはとっとと消えるがいい。ゲマトリア変換、食らえ、ベリア・レディファー!!」

 

 ヴァイクランに搭載されたシステムによって変化させられた暗黒物質が、オウル・アッシャーの念波を受けて一時意識を混濁していたムジカとWRXに容赦なく襲いかかり、世の万色を溶き合わせた様な極彩色の渦が、WRXを上下に挟み込む。
 空間そのものが捻られたように旋回する渦が次々とWRXの装甲を、乾いた土を砕く様に呆気なく粉砕して行く。
 合体機構搭載機ゆえ、結合部に脆弱な部分を残すWRXの各所から、紫電と爆炎が一斉に噴き出して、WRXの両脚部、左腕、顔の左半分が無残にも破壊されていた。
 前大戦時、ヴォルクルスを相手に勇猛な戦いぶりを見せたWRXが、こうも簡単に破れるとは。

 

「カル・バヤン中尉、WRXの回収を! パイロットが危険な状態です」
「DSSDの機体は?」
「WRXの回収を最優先にしてください。責任は私が負います」
「……了解。シャムス、ミューディー、行くぞ」
「特機相手かよ」
「言っても仕方ないでしょ?」
「ふふん、虫けらに何ができる。このハザル・ゴッツォの敵ではない!」

 

 自在に飛翔していたガン・スレイヴが列を成して一斉に雷光を放つ。
 スウェンらはそれに当たる様な事は無かったが、動きのとれぬ状態のWRXに用意には近づけないように、ハザルがガン・スレイヴを展開し、オウル・アッシャーの念波も際どいタイミングで放たれる。
 理不尽とも思える武装や能力を持った存在との戦いは、ヴォルクルス戦で免疫ができていたので動揺する事は無かったが、面倒な武装を備えた強敵相手にスウェン達は思う様にWRXに近づく事も出来ずにいる。
 時折ヴァイクランからの攻撃の合間に、ビームライフル・ショーティーやレールガンが放たれるも、ヴァイクランの巨体にそぐわぬスピードとハザルの強念者としての資質、念動フィールドを前に牽制にもならない。

 

「艦砲でアンノウンを牽制します。バリアント、ゴッドフリート、発射!」
「ふ、どんくさい戦艦の砲撃など、かすりもせんわ」

 

 やすやすと迫りくる超高速実弾とビームを回避し、ヴァイクランが従えるガン・スレイヴ二基がゲヴェルへと飛翔し、追い払わんとハリネズミのように撃ちかけられるイーゲルシュテルンの75mm対空溜弾の網の目をくぐる。
 ネームドシップ艦となったアークエンジェル同様純白の装甲に、次々とガン・スレイヴからエネルギー弾が撃ち込まれ、直径数メートルほどの穴が開いてゆく。

 

「何だか知らないけど、いましかないわ。スレイ、アイビス、セレーネ、この隙に現宙域を離脱するわよ!」
「確かにチャンスではあるが……」

 

 言葉尻を濁したスレイだが、確かにツグミの言うとおり先程までのゲヴェルMS隊による包囲網は、突如乱入してきたヴァイクランによって崩壊している。
 この場を逃げ出すのに、いまほど都合の良いタイミングは無いだろう。追い込まれつつあったスターゲイザーのソルとセレーネからも同じように離脱を促す。

 

「そっちはまだ動ける? スターゲイザーはまだ何とかいけるわ」
「離脱ルートの算出は終わっているよ」
「アイビス、アルテリオンの推進機関にも問題はないわ、急いで!」
「……分かった。スレイ、ソル、付いて来てよ」
「お前の方こそはぐれる様な事はするなよ」

 

 純白と白銀と緋色の流星に、ハザル・ゴッツォは興味がないようで、彼女らが離脱してもガン・スレイヴ一基を向ける事もなく、ゲヴェルと半壊したWRX、ストライクノワールらへ猛攻を加える。
 船体全体を揺らす大きな振動に襲われる中で、レフィーナが声を張り上げていた。
 彼女や傍らのテツヤからも、急速に戦場を離れて行くプロジェクトTDの機体の事は、思考から抜けていた。
 作戦目標であるアルテリオンらの鹵獲どころか、自分達が星の海に散りかねない、抜き差しならぬ窮状に追い込まれてしまっていたから。

 

「イーゲルシュテルン二番から七番、十二番、十五番沈黙、バリアント一番基部破損、右艦尾ミサイル発射管全門沈黙、さらに居住ブロックに被弾、火災発生! 機関出力安定しません」
「ダメコン班急がせろ、隔壁下ろせ!」
「WRXとカル・バヤン中尉達は!?」
「アンノウンに阻まれて、動けずにいます。本艦との距離、七〇〇」
「艦長、ローエングリンでスウェン達とアンノウンの中間を撃っては? 当たらなくても離脱の隙は作れるかもしれません」
「スタンバイ中に被弾すれば艦に甚大な損傷を負います。それにアンノウンから射出された小型誘導兵器だけでも、大きな脅威ですし、後続の艦隊が来るまでなんとか耐えるしか」
「消極的な策しかとれないということですか」
「艦長、インディゴ8-3-1、デルタ3-4方向より接近する機影、1!」
「またアンノウンですか?」
「いいえ、識別信号は友軍です。データバンクに照合するデータあり! これは、R-GUNパワードです」
「R-GUN!? では、行方不明になっていたイングラム・プリスケン少佐?」

 

 ストライクノワールの左手から射出したワイヤーでガン・スレイヴの一基を巻きとり、ミューディーに撃ち落とさせていたスウェンは、モニターに新たに映し出された機体に気づく。
 両肩後方から斜め前方に向けて長く伸びる砲身が特徴的な機影は、記憶の中にあるR-GUNパワードのモノと寸分の狂いもない。ザフトにも全く同じ機体が存在していたが、スウェンは根拠無く、イングラムのものかと感じていた。

 

「プリスケン少佐の機体、か?」

 

 自分でも気付かないうちに零したスウェンの独白に、答えがあった。前大戦時に轡を並べて冷たい印象の端正な男の顔が、サブモニターに映し出される。波打つ長い髪に、切れ長の怜悧な瞳に、変化は見られない。

 

『スウェンか、変わりないようだな』
「やはり、貴方か。見ての通り、WRXが撃破された。ムジカ達の意識レベルが危険だ。早急に医務室に運ぶ必要がある」
『時間稼ぎはおれがしよう。しかし、いままでどうしていたとは聞かんのか?』
「今はムジカ達の命が最優先だ。それに、その質問はムジカやリュウセイ達がすべき質問だ」
『お前は少し変わったようだ。おれがあの機体を足止めしよう』

 

 何を考えているか分からぬ所がある、とスウェンはイングラムを内心で評していたが、意外にあっさりとこちらの思い通りの言葉を返してくれた事に、小さな驚きを覚える。
 とはいえせっかくの申し出である。どのような理由があって行方を晦ましていたのかは、いずれ追及しなければなるまいが、ゲヴェルとWRXの状況を鑑みればその暇さえ惜しむ必要がある。
 スウェンがその判断を下すのよりも早く、ゲヴェルの方でもテツヤが具申した撤退をレフィーナが聞き入れていた。突如出現したアンノウンの圧倒的な戦闘能力の前に、なすすべがない現状を考えれば仕方のない事ではあるだろう。
 ストライクノワールとブルデュエルに左右から支えられたWRXを、ハンガーに固定し、殿を務めていたヴェルデバスターがゲヴェル後部船体に着地して、大部分が沈黙した砲塔代わりを務める。
 イングラムの真意の誰何や目的を問う事もなく、レフィーナは素早く艦を転舵させて後続の艦隊との合流を決意していた。

 

「ファーエデン少尉、ドーキンス少尉、ジョージー少尉達三人は?」
「今、医務室に運びこまれました。詳しい容体は不明ですが、軽視出来る状態ではないようです」
「……プリスケン少佐は?」
「アンノウンと戦闘を始めました」
「分かりました。機関最大、本艦は現宙域を離脱します!」

 

 後方を映すモニターに、背を向けて離脱してゆくゲヴェルの姿を確認して、イングラムは完全に意識を目の前のヴァイクランに集中する。

 

「貴様はアウレフか、バルシェム共のオリジナル!」
「おれをアウレフと呼ぶのか。その機体、やはりバルマーのものだな」
「ふふ、ゴラー・ゴレムの人形どもが貴様を目の前にしたらどうするか、興味はあったが、いまここでこのおれとヴァイクランが消し去ってやろう」
「やれるものなら、な」

 

 ツイン・マグナライフルとガン・スレイヴ、オウル・アッシャーが両機の間で絶え間なく放たれはじめる。
 失踪していた間、イングラムがどのような時間を過ごしていたのかは謎だが、少なくとも機体の整備が出来る環境ではあったらしく、軍から持ち出したR-GUNパワードは完全に機能を発揮している。
 左手で投じたT-LINKブーメランが、ヴァイクランの念動フィールドと接触し、双方の思念が翡翠色の飛沫に代わって刃と壁の間で幾百も溢れる。
 高速旋回するブーメランの刃に亀裂を刻まれたフィールドに、イングラムが正確な狙いでツイン・マグナライフルを連射して、これまで鉄壁を誇ったヴァイクランの防御を破った。
 手元に戻ってきたT-LIMKブーメランをそのまま左手に握らせ、イングラムはツイン・マグナライフルの連射と共にR―GUNパワードをヴァイクランへと突っ込ませる。
 念動フィールドの再構築よりも早く、ヴァイクランにダメージを素早く蓄積させるためだろう。

 

「この程度で、父上から賜ったこのヴァイクランに傷がつけられると思うか!」
「自慢するだけの事はあるようだな」
「余裕ぶったその顔を、恐怖で歪ませてやろう。ゲマトリア変換!!」
「ほう、この念動力、予想以上の完成体だな」
「深く暗い闇に沈め、アウレフ・バルシェム! ベリア・レディファー」

 

 WRXを大破せしめた兇悪な思念と共に放たれる空間の変異現象に、R-GUNパワードは逃れる術なく飲み込まれたかのように見えた。長大な砲身も含めてR-GUNパワードの機体は、残らず渦の中に消えた。

 

「ふん、アウレフといえどこの程度、か。所詮はユーゼス・ゴッツォの作ったおもちゃに過ぎんか。ふふふ、ふはははっはははは!!」

 

 勝ち誇ったハザルの哄笑がヴァイクランのコクピットの中に木霊する中、R-GUNパワードを飲み込んだ渦の中から、紅色の魔法陣が大きく展開した。
 オカルティックな、血で描かれた悪魔召喚の魔法陣のようである。それを肯定する様に魔法陣から発せられる重圧は、ハザルの念者としての感性に言い知れぬ恐怖の黒雲となって感じられる。
 それはハザルから勝者の余裕をはぎ取り、浮かべていた笑みを凍らせて狼狽を露わにした。

 

「なんだ、これは……クロスゲートか!?」

 

 見通せぬ紅の魔法陣の中心から、イングラムの声が暗黒の宇宙空間に響き渡る。人類の営みなどちっぽけなものと見下す、強大な力を持つ魔王の嘲笑の様に。

 

「出でよ、R-GUNリヴァーレ」

 

 ベリア・レディファーの残滓が晴れたその後には、R-GUNの名を冠しつつも、まるで名残を見つけられない巨大な人型兵器の姿があった。
 赤紫色を主な装甲色とし、背には悪魔のものとも天使のものとも見分けられぬ翼が広がり、掌の先には指一つなく、手持ちの兵装は一切見受けられない。R-GUNよりもはるかに巨大化し、PTから特機へと変貌したかの様である。

 

「機体を呼び寄せたのか? だが、どんな機体だろうとこのヴァイクランには及ばぬ」
「アストラナガンほどではないが、このリヴァーレ、やすやすとは倒せんぞ」

 

 不敵なイングラムの囁きが、ヴァイクランとリヴァーレの魔戦の幕引きとなった。

 

 * * *

 

 ヴァイクランの乱入によってかろうじて離脱出来たアイビス達チームTDとスターゲイザーだったが、ゲヴェルにヴァイクランの脅威が襲いかかって来たように、彼女達にもまた休む暇は与えられなかった。
 行く当てもなくかろうじて命を拾えた事に安堵の息を吐こうかという時に、無数の敵影がアルテリオンらを取り囲んでいたのだ。
 敵を察知でき無かったのは、敵が優秀なステルス装備を有していた事もあろうが、アイビス達の体に貯まっていた疲労のせいもあったろう。
 スターゲイザー達の周囲を飛び回り、ビームの雨を降り注がせているのは、かつてDSSDステーションを襲撃したハリネズミことガロイカである。
 ウニかハリネズミよろしく四方に突起が伸びた特徴的なシルエットは見間違えようが無い。
 すでに一戦交えた相手とあってアイビス達も対処法は心得ていたが、操縦桿を来る手の動きは鈍く、瞳は霞んで焦点をうまく結べずにいる。
 咄嗟の瞬間に生死を分ける判断力は鈍り、機体の機動に体は大きく持っていかれて更なる疲労が、体の内側に溜まってゆく。

 

「アイビス、ソル、セレーネ、聞こえるか、例の指揮官機を狙うぞ。この状況を突破するにはそれしかない」

 

 スレイの言うとおり前回の戦闘で指揮官機と認識されたゲイオス=グルードが一機、ガロイカの群れの中に姿を見せていた。
 サイズこそ二十メートル前後だが、その性能はMSの比ではない。堅固な装甲に支えられた高い耐久性、パワー、機動性に至るまでが特機レベルの性能を誇っている。
 スターゲイザー、アルテリオン、ベガリオンの三機がかりでも、周囲にはゲイオス=グルードを援護するガロイカは無数にあり、ましてアイビス達のコンディションは劣悪である。
 ゲイオス=グルードに攻撃を仕掛けるのは危険な賭けと言う他ない。しかし、これ以上戦闘を続けても状況が悪化するだけとあっては、その一か八かの賭けすら打てなくなる。

 

「分かったよ、アルテリオンはベガリオンに合わせる」
「スターゲイザーはVLであいつを真っ二つにするつもりでいてくれ。あれの重装甲では私達の機体の武装では、致命打を与えにくい。頼んだぞ、ソル」
「分かった。責任重大だね」

 
 

 アイビスらが自分達の生死を賭け金にした博打を打とうとしている間に、ゲイオス=グルードのパイロットであり、ガロイカ群の指揮官であるジュスティヌ・シャフラワースは、アルテリオンらの動きを察知し、深く息を吸った。
 ジュスティヌ――愛称セティは、艶やかな光沢を放つ髪をショートにまとめた妙齢の美女である。ふっくらと膨らんだ唇に理知的な目元、左目には網膜投影式のディスプレイを装着した若き女将軍が、セティの正体だ。

 

「ゼブの報告通り、あきらめが悪そうな相手ね」

 

 そうは言いつつも、嫌いではない、と口調が告げている、愛機がまだ修理中の為、数段性能の劣るゲイオス=グルードでの出撃となったが、幸い狙いの獲物はひどく消耗している。
 手負いの獣は生を掴むために最後の最後まで足掻くから恐ろしい。その事を念頭に入れて、相手をせねばなるまい。
 しかしこちとら白い流星や赤い彗星をはじめとした変態パイロットやら、ゲッター線の使徒やら、魔神皇帝やら、炎となったトップ兵器やらを相手にして戦ったのだ。
 並大抵のパイロットと機動兵器が相手なら対して、驚くにも値しない。プロジェクトTDなどの機体は、確かにこの世界の機動兵器としては破格の機動性を持っている。パイロットもそれをうまく活かしている。
 しかし、撃たれる前に回避行動を取っているわけではない。脳波コントロールの無線誘導兵器との神がかったコンビネーションがあるわけでもない。
 一撃で戦艦どころか艦隊が消滅する様なふざけた火力があるわけでもない。機動兵器の集中砲火に耐える物理法則を無視しているのか、と言いたくなる装甲があるわけでもない。
 それならば、心胆を寒からしめてまで恐れる相手ではない。油断はないが、過度に警戒する必要もない。デュアルレーザーソードを一振りし、セティは螺旋の動きを見せるアルテリオンらに細めた眼を向ける。
 ガロイカ達に三機一組の正体編成を取らせ、四方八方からガトリングビームが光弾の檻を作る中を、アルテリオン、ベガリオン、スターゲイザーは目を見張る機動で回避して見せ、見る間にセティのゲイオス=グルードに襲いかかる。
 残っていたわずかなミサイルのすべてを撃ち尽くし、Gアクセル・Gブレイクドライバーの両砲も、正確な狙いをつける間も惜しんで放たれる。
 数機のガロイカを盾にして砲撃の半数方を防ぎ、爆炎のど真ん中を突っ切って襲い来たアルテリオンが、目前でCFからDFへ変形した勢いをそのままに、大きく展開したソニックセイバーを、ゲイオス=グルードへと叩きつけてくる。

 

「これなら!」
「これ位の攻撃は、慣れっこなの」

 

 セティから見て右側に機体を動かし、アルテリオンの左ソニックセイバーをデュアルレーザーソードで受け流すその一瞬で、ゲイオス=グルードの左足をアルテリオンの脇腹にたたき込む。
 砕けた破片と共に、アルテリオンがピンボールの様に大きく後方に弾かれて、たちまちの内にガロイカに囲まれる。
 息つく間もなくゲイオス=グルードめがけて降り注ぐ110mmGGキャノン、Gブレイクドライバーの連射を、セティはデュアルレーザーソードの刀身を盾代わりにして初弾をかわし、ベガリオンへと機体を走らせる。

 

「こいつ、戦い慣れている!?」
「ロンド・ベルに比べれば、貴方達は可愛い相手よ」

 

 先の戦闘で機体左部に損傷を負っていたベガリオンは、刹那の攻防に対応しきれず、ゲイオス=グルードの振るった輝線に機体を斬られて、緋色の装甲が無残にも抉られる。
 セティは左目の網膜に投影された画像データに従い、ゲイオス=グルードに次の行動を取らせる。セティの目には、光輝く輪が幾重にも重なって見えていた。それは、美しいとさえ言える光景であった。
 単純な三機の連続攻撃だが、即興の連携にしては及第点か。

 

「ジェット・ストリームアタックと言った所かしら、ね!」

 

 ソルの付けた狙いよりもはやくゲイオス=グルードは動いて見せる。
 搭載された優秀な慣性制御装置が、ゲイオス=グルードにジグザグの機動を許し、真ゲッターほどではないにせよ、テスラ・ドライブ機でもそうは行えぬ直角の動きで光輪の合間を縫う。

 

「ソル、来るわよ」
「く、ビームガンで止められる相手じゃあ」

 

 ない、と続けようとしたソルは、ゲイオス=グルードから放たれるダブルキャノンやドライバーキャノンの回避に神経を割かねばならなかった。先ほど相手にしていたヴェルデバスターさえ生ぬるく思える大火力である。
 軍事技術への技術転用という点での発想力こそ、セティの所属する国家は地球に大きく劣るが、基本的な技術においては上を行く。それはこのC.E.世界でも同じ事が言える。
 特機など極一部のイロモノキワモノ機体を除けば、セティやゼブらの集団の方が、運用する兵器の質は数段上であった。

 

「ゼブの失点もこれでカバーできるわね」

 

 ダブルキャノンの直撃がスターゲイザーの左腕を吹き飛ばし、機体の挙動が乱れた隙を狙ってセティはデュアルレーザーソードを、白雪のように滑らかで美しい装甲の胸部へ突き込む。

 

「セレーネ!」

 

 咄嗟に後部座席のセレーネを振り返り、ソルは庇おうと体を固定しているベルトを外そうとした。

 

 ゲイオス=グルードによって与えられた損傷が原因で、機体の姿勢制御に狂いが生じたベガリオンは、よたよたと頼りなく動くきりでスレイには見ているだけで何もできなかった。
 アルテリオンは猟犬に追い立てられた獲物のように、ガロイカに周囲を十重二十重に囲まれて、助けに行くどころか自分達が撃墜されないようにするので精一杯だった。
 救いの手はもはや伸びる事はないかと思われた。しかし、デュアルレーザーソードがスターゲイザーを貫くよりも、飛来した一条の光が、ゲイオス=グルードの右手を貫く方が早かった。

 

「良いタイミングで乱入してくるわね!」

 

 かすかな苛立ちを込めたセティの呟きは、乱入者の耳へは届かなかっただろう。

 

「ヒュッケバイン? バニシングトルーパーがどうしてここに!?」

 

 セティの目には、前大戦時ステラ・ルーシェによって運用されて大きな戦果を挙げたヒュッケバインの姿が、そこにあった。
 ただしカラーリングはブルーではなくグリーンで、搭載されている動力機関も、ブラックホールエンジンではなく、プラズマジェネレーターである。ゲイオス=グルードに向けた右手にはフォトンライフルが握られている。

 

「ヒュッケバインという事は、DCかしらね?」

 

 右手首から先を失ったゲイオス=グルードを、スターゲイザーから遠ざけながら、セティの目はガロイカの残余戦力を確認しつつ、新たな敵影の戦闘能力の分析に努めた。
 生前の対ロンド・ベル戦でもヒュッケバインとグルンガストの戦闘能力には、散々煮え湯を飲まされた経験がある。その同型機とあれば、セティも否応にも警戒心を掻き立てられる。
 更に姿を見せたのはヒュッケバインのみならず、その後方から400メートル近い巨影が現れたのである。セティが知る限りどこの組織にも無い船影で、なおさら奇々怪々な兵器を作る傾向のあるDC製であろうと、確信を深める。
 見れば見るほど異様な戦艦だ。船首にはクワガタの様な小さな黄色い角が伸びている。船体に砲塔らしきものはほとんど見受けられないし、機動兵器を搭載する格納庫もないし、カタパルトらしきものもない。
 三年前からMSの運用を前提とした戦艦類の設計・建造が行われているというのに、まるで運用意図が外観から見取れぬ奇妙な船である。
 所属不明のこの艦は、《デストロイドアグレッサー》という。最近完成したばかりの新造艦であるが、ゲイオス=グルードとチームTDらとの戦闘に割って入ったことからすれば、アイビスらに与するつもりなのだろう。

 

「一体、どこの船なのかしらね、名前を教えてくれない?」

 

 セティが地球の国際救難チャンネルに合わせてデストロイドアグレッサーに言葉を投げかけたが、まさか答えがあると思っての事ではない。

 

『名無しのままではいささか不便か。ふ、ではレーツェル・ファインシュメッカーと覚えて頂こう。そのヒュッケバインは』
『………………ミルヒー・ホルスタインだ』
「『謎の食通』に『牛乳・牛』? 翻訳機が壊れたのかしら? 名前にしてもどう考えても偽名じゃない」 

 

 ミルヒーと名乗った方の青年の声は、ひどく不機嫌そうである。名乗りたくて名乗ったわけではない事は、その声音だけで分かる。名乗るのを楽しんでいるようなレーツェルに対し、正反対の反応だ。

 

『フロイライン、我が友の夢たる星の海を行く船と星を見る者を、君達に渡すわけには行かん。横やりを入れてでも妨げさせてもらおう』
「やっぱり、邪魔ものって事ね」
『ミルヒー、アルテリオンの援護を。指揮官機と敵主力は私が叩く』
『了解。…………その名前、何とかならないのか?』
『ふ、代案があれば聞くが?』
『……』

 

 代案は無いらしい。ミルヒーと名乗った金髪の青年は、ヒュッケバインをガロイカに追い立てられるアルテリオンへと向け、援護すべく動き始める。

 

「ヒュッケバインの相手はガロイカに任せるとして、戦艦を落とさせてもらうわよ」

 

 もとの船体色が何かは分からぬが、真っ黒に染められた戦艦にセティは残ったガロイカの三分の一を差し向けた。ベガリオンは機能不全を起こしたのか、動きが定まらずスターゲイザーが守る様にして寄り添っている。
 あれならそうは動けないだろうから、しばらくはこの闖入者に集中しても大丈夫だろう。ゲイオス=グルードの右手は使いものにはならないが、それ以外に問題はないし、戦闘能力もさほど低下したわけではない。
 このゲイオス=グルード一機でも十分に戦艦の一隻、二隻、星の海の藻屑にするのはどうと言う事は無い。

 

「それなりの秘密が無いと、すぐに落ちてしまうわよ!」
『では、このデストロイドアグレッサー・トロンベの真価をお見せしよう。トランスフォーム!!

 

 デストロイドアグレッサーの艦橋で、レーツェルと名乗った男がそう叫ぶのを聞き、セティの心の中でトテモイヤナヨカンが鎌首をもたげた。
 この手の気合いの入った叫びは、敵対する者にとって極めて厄介な代物である事は、いやになるほど痛感している。
 船体をいくつかのブロックに分けて接続して構成していたようで、セティの目の前で、デストロイドアグレッサーは船体の一部を回転させ、あるいは付け替えて見る間に形を変えて行く。
 我を取り戻したセティのゲイオス=グルードとガロイカから、砲撃が遅まきながら放たれるが、あのレーツェルと名乗った男の手腕によるものか、変形中でありながらデストロイドアグレッサーは、回避機動を取り命中弾は数えるほどしかない。
 船首と思しかった部位は背に回って、かろうじて人型? と言えなくもない姿に変わった異形の戦艦が現れた。変形したデストロイドアグレッサーはなんと、ほぼ二頭身のロボットへと変わっていたのである。
 三本爪の両手の甲の部分の、右手側には二本の砲身の間に矢を装填したパーツ、逆の左手には万力みたいなものが装備されていた。頭部はモノアイでザフトのゲイツに似ているが、額から一本角が伸びているのが特徴的だ。
 しかし、実に400メートル前後の戦艦が機動兵器に変わるなどと馬鹿げた代物に、セティも一瞬我を忘れた。
 まあ、七キロメートルの宇宙戦艦とか二〇〇メートルの合体ロボとか相手にはしたし、暴走したエヴァンゲリオン初号機が使徒を食った場面に遭遇した時など、驚きを通り越して恐怖さえもした。

 

『フューラーザタリオン・トロンベェ!!』

 

 大見栄を張って威風を露わにするフューラーザタリオン・トロンベを前に、・にしていた目を元のパッチリとした瞳に戻して、思い切り叫んだ。

 

「……だからイヤなのよ、地球の連中を相手にするのって!!」

 

 いまや、セティの前にいるのは鈍重な戦艦ではなく、未知の力を秘めた巨大人型機動兵器であった。

 
 

 ――つづく。

 
 

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