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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第27話

Last-modified: 2009-12-26 (土) 13:52:17
 

ディバインSEED DESTINY
第二十七話 失った記憶からの使者

 
 

 オーブ諸島の地下に設けられた広大な秘匿地下格納庫に渡されたキャットウォークの上で、青いパイロットスーツに着替えた刹那・F・セイエイは、ライトアップされたガンダムエクシアを一途な瞳で見つめていた。
 死の充満していたあの戦場で自分の運命を変えた存在ガンダム。そのガンダムの系譜に名を連ねるだろう機体が、いま、じぶんのものとなり、その威容を目の前にしている。
 自分自身にしかわからない心の最も深い所で沸き立つ感情の渦を、刹那は唇を一文字に結びながら噛み締めていた。

 

「刹那」

 

 刹那と同様のデザインだが、緑色のパイロットスーツを着こんだロックオン・ストラトスが、エクシアの隣に置かれたデュナメスに乗り込みながら、声をかける。
 時間の都合上、デュナメスのコックピットにハロを収納させるためのスペースが無いため、今回はハロ抜きでデュナメスの操縦を行う。
 返事はせず、顔を向けるだけの刹那に、ロックオンは搭乗を促した。わずか数時間で、エクシアとデュナメスの太陽炉交換作業とそれに伴うデータの書き換えは、超突貫で終了していた。
 擬似太陽炉と純正太陽炉の規格それじたいは、まったく同じものだった事は不幸中の幸いといえた。
 ロックオンにわずかに遅れて、刹那もまたエクシアのコックピットの中へと乗り込む。すでに太陽炉は稼働をはじめ、エクシアの全身に翡翠色の血流――GN粒子を行き渡らせ、鋼の肉体に力を与え始めている。
 整備員たちやビアンらによって万全の状態に仕上げられている事は分かっていたが、それでも刹那は機体の状態のチェックを始める。
 エクシアへの思い入れが溢れるほどある刹那でなくても、パイロットならば機体に搭乗したならまずする事ではある。
 エクシアとデュナメス以外の機影は無く、がらんと広がり荒涼の風情が漂う格納庫を映していたモニターに、隣室に下がったビアンの顔が映し出される。
 本来、戦端が開かれたと報告の入った現状で、ここに居ていい人物ではなかったが、ミナを先に司令本部へ行かせ、ぎりぎりまで太陽炉交換作業に従事していたのだ。

 

『エクシアとデュナメスには純正太陽炉以外に併設した補助動力は無い。が、その代り太陽炉には特別な仕掛けを施してある』

 

 トランザムシステムの事か、とこのオリジナル太陽炉の基礎設計を成したのが、イオリア・シュヘンベルグであると聞かされたロックオンは、元の世界でもオリジナル太陽炉に秘匿されていたシステムを思い浮かべる。
 DCの事だからプラズマ・ジェネレーター位は併設するかもとは考えていたのだが、ビアンの口振りから推察するに、それ以上のギミックが仕掛けられているに違いない。
 まだ時間は短いが、DCの開発するオモシロ兵器(兵器にオモシロという形容詞が着く時点で何かが狂っている)の事については若干なりに理解してきたロックオンならではの感想であろう。

 

『グラビコン・システムの扱いに関しては、二人とも型どおりのレクチャーは受けているな? エクシアとデュナメスの太陽炉に仕込んだ重力制御ユニットはヴァルシオンのものを小型化したものだ。
 メガ・グラビトンウェーブ、ブラックホールキャノン、Gインパクトキャノン、グラビトンブレードの使用が可能になっている。その代りどれもエネルギーを食う。多用はするな』

 

 ……ちょっとまて、ブラックホールて何だ? 確かに前大戦でDCの使った機体に人工ブラックホールを武器にしたものがあるとは、マティアスに聞いた事があるが、おれ達のガンダムに、だと?

 

 予想の斜め上を行ったエクシアとデュナメスの武装に、ロックオンは問いただしたい思いを喉の奥で噛み殺した。ロックオンの心中の思いを知らず、ビアンの説明はもう少し続いた。

 

『グラビコン・システムで生じさせた重力を太陽炉の粒子生産用のエネルギーに変換し追加する事も出来る。普段はそれを蓄えておけ。今回はそうは言っていられぬが覚えておいて損は無い。
 またGウォールの発生もそれぞれ可能だが、内側から武装を通す事はできん。あくまで防御一辺倒の装備だ。それと、エクシアとデュナメスには試験運用の終わった精霊兵装をそれぞれ装備させておいた』

 

 精霊兵装とは文字通り精霊の力の宿った武器の事だ。四属性の精霊と機体そのものに契約を結んだ魔装機技術の応用で、契約の範囲を武装に留める事で一応の完成を見た代物である。
 ヨーロッパに新婚旅行を兼ねて長期出張中のテューディが、向こうで完成させた品のデータを応用し、刹那とロックオンの二人に相性の良い精霊と契約を結んだ兵装を選んである。
 なんでここでいきなり精霊とかファンタジーな単語が出てくるのか、流石にロックオンだけでなく刹那も訝しく思ったかもしれないが、疑問や文句の言葉は挟まず、二人は黙ってビアンの言葉を待つ。
 なんかもう、口応えや質問をする事が馬鹿らしく感じられたのは小さいが確かな事実である。

 

『武装の詳細は二人とも道中で確認しておくように。お前達には現在待ち伏せを受けたクライ・ウルブズの救援に向かってもらう。最新のMSとMA、特機で固めた精鋭部隊に狙われたようでな、苦戦している』
「了解」
「あいよ。オリジナル太陽炉の実戦投入はぶっつけ本番だが、やるしかなさそうだな」
『戦場まではネオ・ドライヴで加速して向かえ。グランゾンの加速機能だが、グラビコン・システムを搭載したその二機なら使用は可能だ』

 

 

 背にX字を描く巨大な可動バーニアを背負ったクロスボーンインパルスは、一組の機動兵器との死闘へと突入していた。
 地球連合艦隊へ奇襲をかけるべく本隊と別行動を取ったものの、こちらの動きが読まれていたのか、待ち伏せをされ、強制的に戦闘へと突入してから既に二時間。
 対クライ・ウルブズ壊滅用に地球連合から抽出された部隊は、その技量・機動兵器の質のどちらをとっても、かつてない高水準を持っていた。その中でも指折りのパイロットが乗る機体と、シン・アスカは殺気を交差させている。
 右肩を跨ぐようにしてムラマサブラスターを構え、シンはビームライフルの銃口をぴたりとこちらに向けている、右肩が金色のハレルヤタオツーを最初の獲物と狙い定めて斬り掛かる。
 木星などの高重力下での運用を想定に入れたクロスボーンインパルスの大推力は、七〇〇メートルあった両者の距離を、見る間に零へと近づけて行く。

 

「速ええが、まっすぐ突っ込めばいいってもんじゃねえ!」

 

 肉食獣の笑みを貼り付け、ハレルヤは金と銀の妖美な瞳に、クロスボーンインパルスの姿を映し、右手の人さし指を添えたトリガーを引き絞る。
並みのパイロットであったら、目で追う事も出来ない敵機の速さに、迎撃よりも先に一瞬気を取られて致命的な遅れを生じもしようが、生まれも育ちも生き残る事と戦う事に根ざしたハレルヤにはあり得ぬ事であった。
脳量子波によって反射神経と神経の伝達速度を人体の限界値まで向上させられた肉体は、青と白と赤の入り混じる風と化したクロスボーンインパルスの姿を、鮮明に網膜に焼きつけている。
 触れたもの全てを切り裂く魔性の刃風と化すクロスボーンインパルスの姿を、ハレルヤはその目に焼きつけながら、引き金を引く――近い、残り五〇〇メートル――引いた。

 

「逝っちまいなっ!」

 

 必殺は確実。そう言い切れるタイミングで、ハレルヤはビームライフルを撃った。プラズマ・ジェネレーターのエネルギーを変換した光の矢は、容易く敵のコックピットを貫き、価値のない鉄屑に変える筈である。
 それが、独楽のように旋回したクロスボーンインパルスによって躱され、確実だったはずの未来は異なるものへと変えられた。
 ハレルヤやアレルヤ達超兵の戦闘能力を支えるのは、脳量子波の応用による超人の肉体のみに由来するものではない。他者の発する脳量子波を受信し、相手の行動を先読みできる事も強さの理由の一つに挙げられる。
 脳量子波を知覚できるからといって必ずしも相手の行動を完全に先読みできるわけではないにしろ、超兵としての肉体のポテンシャルと組み合わせれば、それは絶大な戦闘能力へと結びつく。
 この時も、ハレルヤは自身の能力を客観的に理解しているが故に、クロスボーンインパルスに攻撃をかわされた事に、若干ながら驚きを抱かずにはいられなかった。
 続くビームライフルの追撃も、歪んだ螺旋の動きを見せるクロスボーンインパルスの残影を貫くばかりで、本体には一撃もかすりもしない。
 すでに振り上げたムラマサブラスターの刀身が纏う莫大な量のビームが、眩しいまでの距離に近づいていた。瞬きを一つすれば、その間にタオツーが両断される。そんな距離。
 十四基ものビームサーベルの発振基部を有し、粒子系サーベルとして規格外の切断力を有するムラマサブラスター。それをシン・アスカの技量とDCインパルスの性能で振るえば、尋常な装甲で断てぬものは何一つないと言っていい。
 しゃら、と金属の擦れ合う音を一つ立ててハレルヤはタオツーの腰裏から引き抜いたカーボンブレイドでムラマサブラスターの袈裟斬りの一刀を受けた。
 Eカーボンに超硬化処置とハレルヤの希望によってアンチビームコーティング処理を施したカーボンブレイドは、ビームサーベルを受け止める事が出来る。
 平均的な出力のビームサーベルでなら、幾十度と切り結ぶことも可能だ。しかし、ハレルヤの目はカーボンブレイドの白い刀身に切り込む光の刃を映している。
 ハレルヤが受けた刃を振るっているのは、シン・アスカであり、刃もまた規格外の超大出力ビームサーベルなのだ。

 

「ち――」

 

 ぃ、と吐き捨てるよりも早く、ハレルヤはカーボンブレイドを手放し機体を後退させる。斬り裂くのではなく相手を叩き潰す分厚い刀身のカーボンブレイドを、容易くまっぷたつにするとは。
 ムラマサブラスターの出力がカーボンブレイドにABC処理を施した技術陣の想定を超えていたのか、それを操るシン・アスカの技量が異常なのか。両方というべきであろう。
 後退しざまハレルヤはビームライフルの銃口を、ムラマサブラスターを振り抜いたクロスボーンインパルスのコックピットに向けるが、その時には既にクロスボーンインパルスが機体を捻っている。
 ムラマサブラスターを振り抜いた勢いをそのままに、身を屈めるようにして下段回転斬りへと移行している。コックピットに付けた狙いを修正していては、こちらが斬られかねない。
 引き金を引くよりも機体に回避動作を取らせることを、ハレルヤの本能は選択した。天才ダンサーの華麗なバックステップの様に黄金の尾を引きながら、ハレルヤタオツーは後方へとブーストを駆けて後退させている。
 分厚い胸の装甲に横一文字が刻まれ、ムラマサブラスターは再びハレルヤタオツーを切る機会を失した。ならば、また新たな機会を作ればよいだけの事。
 シンはクロスボーンインパルスに振り抜く寸前で太刀を止めさせ、柄を矢のように引き絞り、ムラマサブラスターの刀身を顔面右横に引きつける。
 弓につがえた矢の様に構えられたムラマサブラスターの切っ先は、まっすぐにハレルヤタオツーのコックピットへ向けられている。
 機体ごとムラマサブラスターが雷光へと変わり、ハレルヤタオツーを貫くか、と思われた瞬間、ハレルヤのサポートに入ったアレルヤの牽制のビームがクロスボーンインパルスの周囲を貫く。

 

「ハレルヤッ!!」

 

 普段は柔和な瞳を細く鋭いものに変えて、アレルヤはタオツーのビームライフルの照準の中央にクロスボーンインパルスを捉える。
 が、同時に向こうもムラマサブラスター内部のビームガンの銃口を、こちらに向けている事に気づく。
 引き金を引く――同時に機体に回避運動を取らせ、右殴りのGが体に襲い掛かってくる。体の中を流れる血流が血管ごと押し潰され、筋線維同士のつながりが千切れかけ、骨が軋む音を立てる。
 完全なテスラ・ドライヴの搭載によってほぼ完璧な慣性制御が成され、Gの負担が極めて小さいシンに比べ、いまだ発展途上のテスラ・ドライヴのタオツーに乗るアレルヤにかかる負荷は大きい。
 アレルヤの攻撃の意思とビームライフルの銃口の向き、引き金に添えられたタオツーの指の動作を子細に見ていたシンは、銃撃のタイミングを完全に見抜き、クロスボーンインパルスを動かしている。
 右に動いたアレルヤタオツーの動きを鏡で映したように、クロスボーンインパルスもまた右へと動き、互いに逆時計回りの回避行動を取った両機の間を、無数のビームが行き交う。
 上下左右、短時間のバーニア噴射やスラスター制御によって四肢を振り乱し、必殺の狙いをつけた銃撃を躱しあう。高速で動き回る両機のモニターにCGによって再現される周囲の風景は、水で溶いた絵の具の様に溶けている。
 よほど訓練を積んだ人間でも、モニターに映し出される画像を正確には捉えきれず、襲い来るGに肉体的苦痛を与えられ、脳を冒す色彩の融け合った光景にめまいを覚えるだろう。
 それでも卓越した技量と身体能力を持つアレルヤとシンは、モニターの中から消えては映る互いの機体の姿を追い続け、引き金を引き続ける。撃たれる前にかわし、撃つ前にかわされる。
 これの繰り返しだ。当人達にとっては極限の緊張から一秒が一時間にも感じられる濃密な時が、いつ終わるともなく続く。
 パイロットの体力と集中力が途切れるか、あるいは機体が負荷に耐えきれずオーバーヒートするのが先か。自らの動きのすさまじさ故に撃墜されるよりも自滅する方が先かもしれない。
 その途中、この両機の戦いに加勢しようとした連合側のMSの数機が、あまりの速さに全く対応できず、撃ち交わされる無数のビームの一撃を受けて、次々と火球へと変わってしまう。
 今回の戦いの為に選抜された腕利きでさえ、足を踏み入れられないほどの人類の企画を若干はみ出した領域の戦いであった。

 

「このパイロット、ぼくらと同じ超兵なのか!?」
「ばかやろう、ヤロウが脳量子波をコントロールしてねえのは落ちつきゃ分かるだろうが」
「ハレルヤ、大丈夫かい」
「てめえは自分の心配だけしてりゃいいんだよ。気ぃ抜いたら死ぬぞ!」

 

 クロスボーンインパルスを相手に目の追い付かない超高機動射撃戦を展開中だから、さすがにアレルヤとハレルヤにも悠長に口を動かして言葉を交わす余裕はない。二人の間でだけ可能な脳量子波による会話であった。
 アレルヤにハレルヤが加わり、襲い来るビームの数が単純に倍になり、シンは呼吸する事さえ忘れてクロスボーンインパルスに神がかった回避行動を取らせる事に集中した。
 目まぐるしく瞳は動き回りコックピットに鳴り響く警戒音と、網膜に映し脳が認識した画像と、第六感に突き刺さる殺気の針をすべて同時に知覚し、生存の為の優先順位を決め、さらには反撃も行う。
 全身の皮膚を剥いだように神経を鋭敏化させ、赤色の種子を弾かせた状態のシンの能力を駆使してかろうじて回避が可能な、超兵二人の完璧な連携攻撃の嵐。
 コンマ一秒以下だろうと動きに遅滞が生じれば、瞬く間に火の玉に変えられてしまう。その瞬間に自分に襲い来るであろう死の恐怖と闘いながら、シンは機体の左手に左腰裏のグリップを握らせる。

 

 ――肩が銀色のティエレンが正面に、瞬き一つする間もなく視界の中を飛翔しながらビームを二射してきた。クロスボーンインパルスに左方向への側転をさせて躱すその背後に、今度は金色のティエレン。
 こちらの回避砲口を完璧に見抜いた動き、ビームライフルの照準はX字の可動バーニアの中心を捉え、鋼の糸で結ばれているようにぴたりと銃口を向けて不動。背筋を貫く雷光の針! 相手が引き金を引く一瞬前、ここだ!!――

 

 シンの心の中での叫びは、少年の体内を稲妻となって走り抜け、ハレルヤが引き金を引くよりもわずかに早く機体を急旋回、背後に居たハレルヤタオツーを正面に据える。
 ハレルヤタオツーの握るビームライフルの銃口から零れるビーム。大気をその熱量とパイロットの殺意で灼熱させたそれを、ムラマサブラスターのビーム刃が受けて刹那の煌めきに変える。
 と、同時に引き抜いたスクリューウェッブは、アレルヤタオツーの撃ったビームとABC処理済みのドリル先端部が衝突し、こちらもまたビームが無効化される。

 

「うおおお!!!」

 

 指先一つに至るまで見えない力と恐怖で拘束しようとする戦場の重圧を、シンは刃のように鋭い叫びで吹き飛ばす。
 細胞一つ一つが熱病を孕んだように熱い。シンの肉体は、まさしく血肉沸き立つという言葉通りの状態であった。戦場こそは真に生きる場所と知り抜いた戦士の血と肉と骨が形作る殻。
 シンはスクリューウェッブを引き抜く際に左大腿部から射出していたヒートダガーを、後ろへ大きく反らした右足で掴み取る。
 DCインパルスの足裏には作業などに使う為の機体固定用のクローが、つま先部分に二つ、踵部分に一つの、計三つある。νガンダムの足裏にもあるあの爪だ。
 シンはその爪を利用してヒートダガーを右足裏に掴み取るや、大きく背に着くほどに反らした足を思い切り振り抜き、遠心力と加速が最も熱い抱擁を交わす地点でクローからヒートダガーを開放する。
 赤く灼熱した短い刃を持ったヒートダガーは飛燕が消し炭に変わるしかない速度で、ハレルヤタオツーへと容赦なく襲いかかる。
 狙いは腰部関節部。分厚い装甲を持つティエレンといえども、上半身と下半身を繋ぐ関節部を狙われれば無事では済まない。
 ヒートダガーの刀身はずぶりと熱したナイフをバターに突き刺すように、ハレルヤタオツーのオレンジ色の装甲へと突き刺さり、内部機器を熱と刃でぐずぐずに崩壊させる。
 しかし、それはシンが狙った通りに腰の関節部を貫いたのではなかった。超兵ならではの人体の限界を超えた反射で、ハレルヤが咄嗟にタオツーの左腕でカバーしたのだ。
 だが、それでも戦場の時計は針を刻むことを止めない。右足でヒートダガーを投じ、姿勢を崩したクロスボーンインパルスの姿に、機体を傷付けられたハレルヤも、必殺の一撃を凌がれたアレルヤも攻撃を続ける。
 金銀妖眼の双子の撃ったビームが前後から襲い来るのを、シンは前方に投げ出した右足に機体を引き付ける様に動かす。恐ろしく段差のある階段を無理に上がろうとするような姿勢だ。
 一見すると股関節が馬鹿になりそうな姿勢から、シンはクロスボーンインパルスを斜め上前方へと跳躍させる。四つの可動バーニアが下後方へと下がって一気に白い火炎を吐き、機体を一気に押し出す。
 どちらかの撃ったビームが、クロスボーンインパルスの左爪先を掠めて融解させる。それに構わずクロスボーンインパルスは、右後方にムラマサブラスターの切っ先を流した姿勢でハレルヤタオツーへ!
 人間の規格を超越したハレルヤの身体能力ならばこそ、振り下ろされるムラマサブラスターの切っ先が鮮明に認識でした。無数のビームを束ねて刃となした大刀の威力の恐ろしさも。

 

「やべえな」

 

 ハレルヤは他人事のように呟き、自分のタオツーの左腕が呆気なく肩口から斬り飛ばされるのを見つめていた。

 

「はああ!!」

 

 振り下ろしたムラマサブラスターの返す刃で、ハレルヤタオツーの股間から頭頂部までを斬り上げに行こうとしたところで、シンは横殴りの衝撃に襲われて、大きく機体ごと弾かれた。
 咄嗟に感知した敵意に気づき、左腕外側に装着したビームシールドを展開し、半身を捻って防御の構えを取らせたが、腰溜めにビームサーベルを構えて突撃してきたティエレン高機動B型の勢いまでは殺せなかった。
 ビームサーベルはビームシールドで防げなかったが、左肩の装甲が融解するのも構わず敢行されたショルダータックルに、クロスボーンインパルスはピンボールよろしく吹き飛ばされる。
 三十メートルほど吹っ飛ばされたところで機体各所のスラスターを調整し、体勢を立て直したシンの目に、ハレルヤタオツーを背に庇う新たなティエレン高機動B型の姿が映る。
 合計三十機のティエレンタイプの指揮官らしい動きを見せていた機体だ。MSパイロットの腕も相当なものと、遠くから見ただけでも分かる鋭敏な動きをしていた。
 オレンジのタオツーのパイロットほどの動きの精妙さと異常なまでの動作の速さはないが、相手の動きの先を読む洞察力と視野の広さはシンの経験から見ても瞠目のレベルだ。
 後方のアレルヤの動きを、後方確認用のモニターと第六感で警戒しつつ、シンはムラマサブラスターの切っ先を右下段に下ろした――いちいち青眼に構えては突撃など出来ない。

 

「ハレルヤ、まだ動けるな?」
「斬られたのが腕の一つだけだからよ」

 

 東アジア共和国から本艦隊に派遣された部隊“頂武”指揮官セルゲイ・スミルノフ中佐が、泰然と落ち着き払った声でハレルヤに問いかけた。頑健なタオツーの造りならば、四肢の一つを失った程度なら、戦闘を続行できる。
 機体バランスの偏重を調整する手間はあるが、ハレルヤの能力ならそれは許容範囲の内だろう。

 

「中佐、ハレルヤ!」
「来るかっ」
「はん」

 

 クロスボーンインパルスの背を狙っていたアレルヤの声と同時に、再びムラマサブラスターを構えたクロスボーンインパルスが動く。状況は三対一。
 しかし三者に油断は無く、一人きりのシンの心に焦燥はあってもそれは諦めとは程遠いものだった。

 

 

 タマハガネ甲板上ではエキドナ・イーサッキの乗るラーズアングリフが、両手に構えたハルバート・ランチャーとガンレイピア、マトリクス・ミサイルによる、岩壁の厚みを持った弾幕を展開していた。
 スペースノア級の船体各所にハリネズミの如く施された各砲塔、ミサイル発射管は休むことを忘れて常時稼働しており、エキドナもまた艦の上で動く砲台の役割を与えられていた。
 対空砲火の網をかいくぐってタマハガネに取りつこうとするイナクトやフラッグ、ティエレンに牽制の火器を撃ちこみ、怯んだ所を周囲のエルアインスや艦の火器が捉えて一機ずつ火の玉に変えている。
 空になったミサイルポッドをパージし、付近に固定していた補給コンテナから新たな火器を引っ張り出す。コンテナ内部のサブアームが新しいミサイルポッドをラーズアングリフに固定する。
 甲板上に出す以上、このコンテナも分厚い特殊装甲を重ねて作った頑丈なもので、盾代わりにする事も出来る。いちいち艦内に戻って補給する手間を省くための処置の一つだ。
 MS位なら中に収納できる巨大なもので、無数の火器と弾薬、完全自動の武装交換補助のオートマシンがある。
 作業の終了までに要した時間は五秒。その間に、エキドナは熱を持って銃身が歪んだガンレイピアの代わりに、ピーコックスマッシャーと予備の弾倉を掴み取る。
 ピーコックスマッシャーとは、ビームライフルに弓に似た形状のパーツを取りつけ、一度に複数の射線を確保した広域攻撃用の武器である。ただその分弾数は少なく、頻繁に弾倉を交換しなければならない。
 本来はクロスボーンシルエットの強化パーツ“フルクロス”用の武装だが、フルクロスの増加装甲の補充が間に合わなかった事もあり、シンが持ち出さずに残しておいたものである。
 エキドナは、他のメンバーが呼吸と脈拍を荒いものに変えて奮戦する中、滑らかな肌に汗の玉一つ結ぶ事もなく、淡々と作業を繰り返している。与えられた役割を果たすことだけに邁進しているのだろう。
 艦の直衛にはタスクのジガンスクードが他に残っているばかりで、残りの隊員たちは敵機との乱戦状態に突入しており、エキドナのデータバンクをひっくりかえしてもそうは無い程の激戦を展開している。

 

「個々の兵士の力量は確かにすさまじいが、この物量ではな」

 

 この戦闘に参加している地球連合軍諸部隊の錬度と士気は高く、彼らが並のパイロットであったなら、戦闘の様相はここまでクライ・ウルブズ苦戦のものとはならなかっただろう。
 今回の戦闘に関して、シャドウミラーのヴィンデル・マウザー司令や創造主レモン・ブロウニングからは、クライ・ウルブズに不利益になる様に動け、といった指示は受けてはいない。
 そのため、エキドナは目下、DC側の兵士として取るべき行動を選択し、こうしてラーズアングリフと自己の性能を最大限に引き出して、恐ろしく精度の高い移動砲台として機能していた。

 

「アンジュルグ、W17か」

 

 エキドナがモニターの中でこちらに迫るある特機を拡大させる。地球連合艦隊にはガルムレイドタイプ以外にも、一機だけ特機らしき巨大な機動兵器の姿があった。
 ざっと40メートル前後の巨体は、白雪の如く眩い白と清純なピンク色の甲冑の様で、腰からは風にたなびくスカート状の特殊な装甲が裾を広げ、背には宗教絵画のなかで天使が雄大に広げるのと同じ翼が羽ばたいている。
 全身を甲冑で覆った天使か女騎士――ご丁寧に胸部には乳房らしきふくらみがある――というなんとも目立つ外見の特機アンジュルグ。
 シャドウミラーのレモンないしはW17が搭乗する特機である。クライ・ウルブズとのデータか、あるいは地球連合の誰ぞやにせっつかれて、ヴィンデルかレモン辺りが派遣したのだろう。
 アンジュルグは左腕のシールドからシャドウ・ランサーを連射し、迎撃に放たれた無数の空対空ミサイルを片っ端から撃ち落とし、エキドナのラーズアングリフを目指し翼を羽ばたかせてくる。
 接触通信を求めているのだろう――とエキドナは判断し、わずかに照準をずらしてピーコックスマッシャーを撃ち、無数の光条を優雅にかわし、アンジュルグはシールド裏側からミラージュ・ソードを抜き放つ。
 護拳付きの柄から放出されたエネルギーは刃を形作り、アンジュルグの巨体のパワーと背の翼が生むスピードを乗せて、ラーズアングリフへと斬り掛かる。
 鎧を纏った有翼騎士か、はたまた天罰を降す為に光臨した裁きの天使か。幻惑の剣を振り下ろすアンジュルグの姿は猛々しくも美しい。
 ラーズアングリフのコックピットのある頭部へと振り下ろされたミラージュ・ソードを、エキドナは慌てる素振り一つなく、ハルバート・ランチャーを手放しシザースナイフでこれを受けた。
 鋏としての機能も持ち合せた特異な形状のナイフだ。ギミックの多いものは大概脆弱さを抱えるものだが、出力を手加減されたミラージュ・ソードならば十分受ける止める事くらいは可能だ。

 

「W16、通じているな?」
「ああ。わざわざ連絡を取った理由はなんだ?」

 

 アンジュルグ同様に美しい女の声だった。エキドナとどこか印象の似通った声だ。一つの楽器のように澄んだ声なのに、それは人の口から発せられた者というには抑揚と感情に乏しい。機械の合成音声が世界一の美女の声で話したら、こんな響きになるのかもしれない。
 アンジュルグのコックピットの中で、うすく若草色を帯びたプラチナブロンドを長く伸ばした女――W17がエキドナと同じように顔の筋一つ動かす事なくモニター越しに、互いを見つめている。
 エキドナもW17、どちらも類稀な美貌を持ち姉妹とも言える間柄であると言うのに、雪の国の女王もかくやの冷たい表情を浮かべるのみ。

 

「アクセル隊長のことだ。お前と接触した筈だが、以後の連絡はどうなっている」
「何度か接触を試みたが、一時的な記憶喪失らしき症状を見せている」
「記憶喪失? 事実なら反応が無い事も納得は行くが、では不自然な接触は好ましくないな」
「そう言う事だ。転移した際の事故によるものだろう。それと艦内部での接触には限度がある。隊長の原隊復帰の時期がいつになるかは見込みがたたん」
「なるほど。しかし戦闘技能に問題は無いのだな?」
「ああ。ソウルゲインの操縦まで忘れてはいない」
「ならば、それを確かめさせてもらおう。フフ」
「なに?」

 

 W17が珍しく、そして不気味な笑みを一つ零すや、ラーズアングリフをアンジュルグが蹴り飛ばし、翼を大きく打ってくるりと向きを変える。訝しげに眉を寄せたエキドナは、アンジュルグの向かう先に目を向ける。
 そこには、テスラ・ドライヴの搭載で飛行能力を得たソウルゲインが、鷲掴みにしたウィンダムの頭部を握りつぶし、肘打でイナクトの胸に大穴を空けて、大暴れしている姿がある。

 

「隊長と戦う気か? W17と隊長の対戦成績は互角だったが、だからといって戦いを挑むなど無駄な事を」

 

 

「ちょいやっさ!」

 

 珍妙な掛け声一つ、アクセルは肩からまっすぐ最短距離を走る直突の連打で、目の前に展開されている光の多角形のバリアを粉砕する。
 ソウルゲインの巨体を前に立ち塞がっているのは、蜘蛛の様な下半身の上にダガータイプの上半身を乗せた変わった形のMAだ。前大戦までの地球連合軍の美的感覚からはちょっと想像できない形状をしている。
 両腕にビームライフルを持ったこのゲルズゲーというMAは、陽電子砲を完璧に防ぎ、ビームや実弾に対してもそれなりの防御性を持つ、陽電子リフレクターという防御バリアの一種を持つ。
 地球連合軍は、このゲルズゲーの他にも大型の四脚の蟹型のザムザザー、ドングリを横に倒して短足をつけた様な、ずんぐりむっくりとしたユークリッドというMAを開発し、実戦に投入している。
 いずれも重装甲に陽電子リフレクターを装備し、外見の奇抜さからは想像できない機動性と高い火力を併せ持っていて、複雑な操縦を複座式にする事で解決し、MSを超える高い戦闘能力を発揮する。
 MSクラスの火力ではアグニやオルトロスと言った高エネルギー長射程の火器で突破できない光の盾であったが、対ビームコーティングを施した武器には、バリアが遮断されて突破されてしまう弱点がある。
 またABC処理のされていない物体も、力づくで突破する事は可能だ。アクセルはソウルゲインの巨躯が誇るパワーを生かし、むりやりにゲルズゲーの展開した陽電子リフレクターをぶち抜いたのだ。
 敵機を近づかせない為にいくつかの火器を備えたゲルズゲーの火線をくぐりぬけ、懐魔にまで接近して見せたソウルゲインの動きの巧みさは、それを操るアクセルの体術の技量が極めて非凡なものである事を証明している。
 MAの重装甲と言っても、MAやPTでは対処できない敵を打倒する為に作られた特機を前にしては、硝子一枚くらいの安心感しかない。
 ソウルゲインが固く握りしめた拳の連打を受けたゲルズゲーは、一撃で頭がもげ、続く連打の前にあっという間に上半身が千切れて、無数の細かいパーツに撃ち砕かれてしまう。
 アクセルは数少ない特機乗りとしてMSの相手は極力さけ、敵艦隊を守る陣を敷きながら、高い火力でストーク級やタマハガネを狙い撃つMA群の撃破に動いていた。
 フィニッシュのアッパーでゲルズゲーの下半身を殴り飛ばした姿勢から、素早く両腕を構えなおし、アクセルはソウルゲインの数少ない射撃兵装の使用を選択する。
 ぼう、と闇夜に鬼火が灯るかの如くソウルゲインの手首から先を、増幅されたアクセルの生体電流を源とするエネルギーが包み込む。それぞれ半円を描いた両手は前方に重ね合わせて突きだされる。
 開いた五指の先には、獲物と狙い澄ました敵の姿が!

 

「青龍鱗、こいつがかわせるか!」

 

 アクセルの音声を認識したソウルゲインは、両手首に集中・増幅させたエネルギーを解放し、黒雲から迸る稲妻を何十本も束ねたのと等しい輝きの本流を放つ。
 技の名前の由来なのか、光の本流は青い鱗を持った猛る竜のごとく解き放たれて、得るアインのツイン・ビームカノンを陽電子リフレクターで防いでいたザムザザーの横っ腹を直撃した。
 一方向にしか展開できない陽電子リフレクターは使用の際に、必然的に操縦者達の意識を、攻撃を受ける方向に向けさせてしまう。その為、複数の相手を対処する時はこのように不意を突かれやすくなる。
 青竜鱗の一撃はザムザザーの左前後の脚部を吹き飛ばし、脚部の中間部分の装甲に大穴を穿っていた。
 これだけのダメージを受けては陽電子リフレクターの展開などできる筈もなく、エルアインスからの砲撃を受けて瞬く間に撃墜されてしまう。エルアインスとの共同撃破だ。
 このザムザザーでソウルゲインが屠ったMAだけでも六体を越すが、連合艦隊の空母や輸送艦のハッチが開くとまた新たなMAの巨体が姿を覗かせている。
 圧倒的な戦力の段階的投入による敵勢力の精神的・肉体的疲労を狙い、士気を下げさせる腹積もりなのだろうか。なかなか嫌らしい手段を選んでくれるものだ。
 拾われるままにDCに身を預けたが、これはなかなか苦労する判断をしてしまったものだと、アクセルは自嘲気に唇を吊り上げた。

 

「っと、休む暇はなしか。モテる男の宿命ってね」

 

 ソウルゲインの影を上空から覆う新たな影に気づき、アクセルはまっすぐ上を見上げる。そこには、エキドナのラーズアングリフとの接触を切上げたW17のアンジュルグの姿があった。
 見目麗しき有翼天使は、ミラージュ・ソードの切っ先をソウルゲインへとまっすぐに突きつけながら、高速でチャージを仕掛けていた。

 

「速い、だが見切れないほどでは!」

 

 一筋の矢となって迫るアンジュルグに気づき、ソウルゲインの腰をやや落とし、思い切り両肘を後方へ突っ張る。と同時にアクセルの操作に従って、両肘部分のブレードは、一瞬で長い刃を形成する。

 

「この切っ先、触れれば切れるぞ、舞朱雀!!」

 

 大気とテスラ・ドライヴの推力を足場と加速に使い、ソウルゲインはアンジュルグのチャージを回避するどころか自ら飛びかかる。
 猛禽の如く襲い来るアンジュルグの剣か、その首に牙を立てんとする獣の如きソウルゲインか。空中で交差する両者のどちらに勝利の女神はほほ笑むのか。
 アンジュルグの速度を完全に見切ったソウルゲインが、アンジュルグの正面、左、右とほんのわずかな時間差をもって、分身でもしたかのように出現し、肘のブレードで斬り掛かる。
 あらかじめ目を通していたソウルゲインの戦闘モーションをメモリーから照合し、W17はミラージュ・ソードと左腕の盾で左右の斬撃を受け止め、刃を流してソウルゲインのバランスを乱れさせる。

 

「っ!?」

 

 万全のモーションではなくなったが、アクセルは構わず刃たる朱雀の翼を振るう。対するアンジュルグは、ミラージュ・ソードをわずかに引き込み、三撃目のブレードにカウンターを合わせる。
 きぃん、とどこまでも澄んだ音が一つ。繊細な硝子細工をその繊細さに相応しくい慎ましさで鳴らしたように、天まで抜ける高い音。
天に肘を突きあげる姿勢のソウルゲインと、大海に剣を突き刺す姿勢のアンジュルグとが、互いの脇をすれ違って背を向けあう。
海面に激突する寸前、バーニアの噴射風によって海面を大きく乱して、水飛沫を全身に浴びながら、アンジュルグはわずかに爪先を海面上に浮かし、天のソウルゲインを見上げる。
振り上げた肘を戻し、腰を落とした構えにもどし、ソウルゲインは眼下のアンジュルグを見下ろす。緩く開かれた五指の先からは、目に見えない闘志が糸のように噴き出し、アクセルの眼光は鋭さを増している。
アンジュルグの右の翼を斜めに縦断する切り傷が一つ。切り口の淵に指をやれば、皮膚は血の球を噴くだろう。ソウルゲインの左肩には、かすったミラージュ・ソードの剣の持つ熱量によってわずかに抉られた跡が。

 

「こりゃまた、強い敵が出てきたもんだ。乗ってるのが髭面のおっさんじゃない事を祈ろうかね」
「……流石は隊長」

 

 エキドナに、アクセルとの不自然な接触は控えるべきかと言っておきながら、W17は称賛の言葉を投げかけていた。言葉ほどには感情が声に伴っていないのは相変わらずだ。

 

「ん? へえ、女がパイロットか。しかもこの声……二十歳前後のボインちゃんと見た」
「あまりおふざけになられませぬよう。レモン様のご機嫌が損なわれるかもしれません」
「レモン?」
「お忘れですか?」
「……いや、それだけは憶えている。誰のことかは分からんがな」
「そうですか」

 

 すうっとアクセルの雰囲気が変わる。重く冷たく沈み、ソウルゲインの纏っていた闘気の質が別のものへと変わった。
手足の配置、呼吸、重心の移動、眼差し、その全てが闘争に向けられた、人間の形をした人間ではない戦闘マシーンのそれに。

 

「答えろ。貴様、おれの何を知っている? エキドナといい、貴様といい、おれを隊長と呼ぶのはなぜだ? おれの失った記憶の中に答えがあるという事だな?」
「答えは自分の力で手に入れてください。私は私に与えられた任務以外の事は何も知りません」
「いいだろう、生意気な口を利く女に言う事を聞かせるのも、たまには悪くない、これがな」

 

 そこに居るのは、クライ・ウルブズの誰も知らぬアクセル・アルマーであった。

 
 

―――つづく。

 
 

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