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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第32話

Last-modified: 2010-01-31 (日) 15:21:33
 

ディバインSEED DESTINY
第三十二話 小休止

 
 

 ボズゴロフ級ガレーナ、ゴルデン、カムリア三隻から出撃した二十七機のMSとミネルバ所属の六機の、合計三十三機の機動兵器部隊は北方へ針路を取るロアノーク艦隊へ猛攻を仕掛け始めていた。
 艦艇数とMSの数で言えばロアノーク艦隊の方が上回る数字であったが、いかんせん激戦の直後であり、編隊を大きく崩されて残った部隊が本来の戦闘能力を発揮する事は出来ずにいた。
 無傷で残っているMSの数の方が損傷機よりもはるかに少なく、ゲルズゲー、ザムザザーといったMAの数は片手の指ほどしか残っていないし、ガルムレイド部隊はヒューゴの機体の他には二機のみである。
 水中から攻め立ててくるザフトのアッシュ、空から逃すまいと襲い来る鋼鉄の猛禽の如きバビ、ザクウォーリアを相手に展開される迎撃の砲火は精彩を欠き、射線もまばらである。
 MAの盾を突破された事でタマハガネとストーク級空中母艦カイゼルオーン、ジャピトスの艦砲、ヴァーチェやデュナメス、バルゴラ一号機の長距離砲撃が艦艇を襲った事で、ろくな防御行動が取れない。
 ザフト出現のタイミングは、ロアノーク艦隊にとって呪いの声を上げたくなるほど厄介なタイミングであった。
 そのような状況下、周囲の、疲弊して機体の挙動や制御に乱れが生じるロアノーク艦隊のMSとは別に、緒戦と変わらぬ見事な動きで退く味方を守るわずかな機体の姿がある。
 ひとつはユーラシア連邦の次期主力量産機として開発されたMSイナクト。一般仕様のイナクトを駆るのは赤毛の青年パトリック・コーラサワー少尉だ。
 クライ・ウルブズ機動兵器部隊隊長アルベロ・エストのビルトシュバインに一撃を見舞わんとした所を、デュナメスの長距離狙撃で落とされたのだが、そこから見事復活を果たして殿を務めている。大したバイタリティといえよう。
 幸いデュナメスの一撃はイナクト胴体の上を貫いたので、ドラムフレームの中にあるコクピットは無事だったためコーラサワーに怪我は無い。
 緊急脱出機構によって外部に開いたコクピットから這い出した所を、別のイナクトに拾われたコーラサワーは、艦に帰還せずにそのまま救出してくれたイナクトのコクピットに潜り込んでシートを奪った。
 普通のパイロットよりもスペシャルな自分が戦線に復帰する方が部隊の為になるし、たまたま不意を突いて幸運にもおれ様を撃墜したと勘違いしている奴に、痛い目を見せてやらなければ、と判断したためである。
 コーラサワーにヘルメット越しにげしげしと蹴られた哀れなイナクトのパイロットは、コクピットの後ろの方で窮屈そうに体を縮こまらせている。

 

「こ、コーラサワー少尉、貴様、はやくシートを明け渡さんか! 人の機体を勝手に……」
「おなじ少尉だろうが、おれに命令すんな!!」

 

 自由人コーラサワーは、仮にイナクトのパイロットの方が階級が上であってもまるで問題にはしなかっただろう。

 

「おれの方が貴様よりも先任だ!」
「先任だろうが最先任だろうが、おれが乗った方が強いから問題はねえ!!」

 

 ぎゅん、と横殴りに襲い掛かった旋回のGによって、本来のイナクトのパイロットはコクピットの横壁に叩きつけられて、言葉を遮られた。
 コーラサワーの発言は色々と軍隊的には問題のあるものだが、唯一、コーラサワーの技量の方が勝るという点だけは事実である。
 コーラサワーに操縦桿を握られたイナクトは、搭載されているTC-OSがコーラサワーに適したものではないにもかかわらず、軽技のように軽快な動きを見せて撃ち掛けてきたバビの射撃を躱す。
 回避機動はそのままに周囲の敵機の動きを広い視野の中に納めて、コーラサワーはイナクトのビームライフルの銃口を動かす。
 MA形態に変形しているバビの旋回半径を一瞬で見切り、脳内で本能的に時期との相対位置と未来位置の予測を叩きだす。後はその結果に合わせて銃口の位置を変えてトリガーを引くだけだ。
 きっかり二度コーラサワーが引き金を引くと、ほとんど間を置かずして胴体を貫かれたバビ二機が爆発炎上し、オレンジの炎を伴う黒い爆発の花びらに変わる。確かに言うだけの実力がコーラサワーにはあった。

 

「やいトロッコ! てめえもさっさと働け」
「誰が炭鉱の滑車か」

 

 コーラサワーの声に律儀に応じるのはジ・OⅡのパプティマス・シロッコ大尉である。通常のMSの数倍はあろうかという巨体のMSを駆りながら、恐るべき事に機体には損傷一つない。
 一般に人間は天才と凡才に分けられる。だが天才の中にも二種類の人間がいる。非凡な天才と平凡な天才だ。平凡な天才は、なまじ自分が優秀であるからこそ非凡な天才に対して越えられぬ壁を感じるだろう。
 天才と凡才の間にある見えない壁よりも、天才同士の間に聳える壁の方がはるかに高いのだ。そしてパプティマス・シロッコが属するのは後者――非凡な天才であった。
 パイロットとしての力量はもちろんニュータイプとしての鋭敏な感性と他者の思念に押し潰されぬ確たる傲慢なまでの自我、独自の発想に基づく機動兵器の開発を行うだけの知識と発想力と多分野に特化した稀有な人材である。
 総合的な能力で言えばビアン・ゾルダークに匹敵するか、あるいは上回るポテンシャルを持った男と言えるかもしれない。
 もっともその天才も、独特過ぎる世界に生きるコーラサワーと相対すると、どうにも勝手が違うようだ。
 コーラサワーの茶化す言葉に言い返しながら、シロッコの薄紫の瞳は勢いをかって攻め立ててくるザフトのカトンボどもを嘲りと共に見つめ、コーラサワーに対する苛立ちを乗せて思い切り引き金を引いた。
 ジ・OⅡの構える大型重機関銃から、MSの装甲を数射でボロクズに変える大口径銃弾が連続して放たれて、ファイヤーフライ誘導ミサイルを目に映る端から叩き落とし、編隊を組むブレイズザクウォーリアを鉄屑に変える。

 

「遺伝子を弄った程度の存在が、私の手を煩わせるなど、身の程を知れ!」

 

 ホバー走行で後進するジ・OⅡの周囲に巨大な黄金の薬莢がばら撒かれ、重機関銃としてはありえない精度で空中のMSを捉えて行く。
 コーラサワーのイナクトのどこか洒脱さを感じさせる動きと、比較的被害の少なかった機体がなんとか防御線を構築して、ザフトの追撃をシャットダウンしている。
 特に脅威なのはミネルバのインパルス三機とセイバー二機、それにラリアーの乗っているヒュポクリシスだ。
 インパルス三機はガイア・カオス・アビスが相手をして抑え込み、残りの三機はここでロアノーク艦隊を完全に壊滅させてはならないという意図があるから、味方に怪しまれぬ程度に攻撃の手を控えている。
 クライ・ウルブズが追い込まれてから異常な粘り強さと猛烈どころではない反撃の牙を剥いた事で、ロアノーク艦隊の機動兵器が大きな損傷を負ったように、今度は深追いをしたザフトに被害が増え始めている。
 もちろん疲弊に塗れ傷に覆われた連合側のMSや損傷艦も次々と落伍し、海面に叩きつけられて無残に砕け散っているのだが、ザフトMSの被害の数値はあっという間に大きなものになっていった。

 

 * * *

 

 クライ・ウルブズを主軸とするDCの部隊は、旗艦の役割を担っていたタマハガネが推進機関に損傷を負って、足を止めていることもあり後を追う様子は欠片もない。
 要救助者と損傷した機体の収容、各艦が沈没しないように状態を維持するので精一杯なのだ。船首モジュールに多大な損害を負ったタマハガネでは、後部艦橋に所属機動兵器が着艦を始めている。
 比較的損傷が少ないのがビルトシュバイン、ガーリオン・カスタム、バルゴラ一、二、三号機。
 機体の四肢の一部の損失や内部電装機器などに無視できない負荷を受けているのが、ステラのエルアインス。
 ほぼ損傷が無いのがGNフィールド持ちのヴァーチェとそのヴァーチェとペアを組んでいたデスピニスのエレオス、ニルヴァーシュ、ガンダムエクシア、ガンダムデュナメスの五機。
 大破に近い損害を受けてしばらくは戦闘に参加できないレベルの機体は、ジガンスクード、エムリオンRC、インパルスの三機である。
 コアスプレンダー以外のパーツを交換すれば、さほど修理と整備に時間のかからないインパルスはともかくとして、エムリオンRCは廃棄決定、ジガンスクードは稼働可能に持って行くまで数日は必要だろう。
 カイゼルオーンとジャピトスに搭載されていた機動兵器部隊も、残存機はランドグリーズ・レイヴンが四、エルアインスが二、と合わせて六機だけだ。
 当初両機種合わせて二十四機を数えていたというのに、四分の一までに減らされている。残った六機とて、戦場に再投入できる良好な状態にあるのは一機か二機あるかないかと言った所。
 幸いクライ・ウルブズの機動兵器部隊は、長くても数日以内に再戦が確実視されている第二次オーブ解放作戦地球連合艦隊に八割強の機体が参戦出来る見通しが経っている。
とはいえISA戦術思想の要である母艦が使い物にならなくなっているから、クライ・ウルブズの機動兵器部隊はしばらくよその艦に間借りする事になる。
 特機級の大型機体が今は無いとは言え、スペリオルドラゴン然り、ニルヴァーシュ然り、インパルス然り、運用に特殊な設備なり何なりが必要となる機体ばかりだ。通常の空母や輸送艦では効率的な運用は望めない。
 エペソが被弾を艦首モジュールに集中するよう差配を振るった事で、タマハガネ本体に及んだ損傷は小さいとはいえ、タマハガネの再運用可能な状態を待つわけにも行かず、悪条件なりの運用で目を瞑るほかないだろう。
 そしてタマハガネの後部艦橋では、刹那とロックオンが警戒に当たる中、スペリオルドラゴンとステラのエルアインスに抱えられたクロスボーンインパルスが、ゆっくりと床に下ろされようとしていた。
 クロスボーンインパルスだったものと言うべきかもしれない。武装のほとんどは喪失し、ビームシールドを備えていた左腕とスクリューウェッブを振るっていた左足だけが無事で、右腕と右足を失っている。
 胸部や腰アーマーにも擦過傷や焦跡が留まっており、どれだけの苦闘を繰り広げたのかその姿から十分に推し量れるものだろう。
 これがハレルヤとアレルヤ、そしてセルゲイのティエレンタオツーと死闘を繰り広げながら、戦闘不能にまで追いやった代償であった。
 痛ましい姿のままうつ伏せに安置されたクロスボーンインパルスの周囲には、念の為にコクピットを切り開くナノチェーンソーやレーザーバーナーを持った整備班と、医療班が待機している。
 これだけ機体に損傷を負っている以上は、パイロットもなにか怪我を負っている可能性が高い。場合によっては、機体は帰還、パイロットは死亡などという事態とてありえる。
 先に帰艦していたアウルやスティング、セツコやデスピニスと言ったシンと親交の深い者達が、それぞれの顔に心配そうな表情を浮かべてコクピットを外部から開く作業を見守っている。
 クロスボーンインパルスの対面にビークル形態に変形してコンパクトになったニルヴァーシュが鎮座し、コクピットから降りたエウレカとレントンも心配そうに――若干様子は違うが視線を向けている。
 今回の激戦が初陣であったというのに、エウレカの方はまるで堪えた様子はなく、ニルヴァーシュの変則機動に上下左右前後斜め方向に引っ掻き回されたレントンは、反対に青白いばかりの顔色である。
 一応ニルヴァーシュを祖とするLFOは、ヘッドギアだけ着ければ私服でも操縦可能な簡単な仕様なのだが、従来の兵器とは異なる変則的な機動を行う機体なので、耐G使用のスーツの着用がお薦めだ。
 MSと比べて小型の機体である事と、テスラ・ドライヴの機能をボードと変則機動に割り振っているので、パイロットに掛かる負荷を他の機体ほどに減殺できていないのだ。
 ヘッドギアだけ着けていたエウレカに対し、きちんとパイロットスーツを着用していたレントンは、戦闘中に吐くものが胃液しかなくなるまで嘔吐していたが、ヘルメットの吸引機が作動し顔を汚さずに済んでいた。
 それでも口周りが胃液と鼻水で汚れているし、いまも魂が口からはみ出しているような状態だ。クロスボーンインパルスの方を向いたのも、特に意識しての動作ではなくエウレカがそちらに視線を送ったのにつられただけだ。
 自分達も相当疲弊しているだろうに、ステラ達はシンの安否を確認するまでその場を梃子でも動かないと決めている様子。
 メカニックの一人が外部操作でインパルスのコクピットを開き、中を覗き込んでうなだれているシンの姿を見つける。
 力無くぐったりとしている姿から、前大戦時にスレードゲルミルとの二度目の決闘で血塗れになって倒れた時のことを思い起こし、メカニックは慌ててコクピットの中へと体を入れた。
 自分より一回り年下の少年の身を心配する純粋な気持ちと、DC有数のエースに死なれては困るというドライな感情が半分ずつ。
 インパルスはうつ伏せに置かれた姿勢だから、シンの体を固定しているベルトを外せば、後は落ちてくる体を受け止めるだけでいい。年齢から言えば標準的な体格のシンの体は、メカニックの腕にはさしたる負荷を与えない。
 赤いパイロットスーツの中の体にどれだけの負荷がかかったのか、シンの体はすっかり脱力していて、どうやら気絶しているらしかった。
 医療班が自分たちの出番か、と動く姿勢を見せ、ステラやアウル達がおい、と慌てる中、シンの口から大きな音が零れて格納庫の中に響く。
 ぐおおおお、と猛獣か何かの唸り声のようなそんな音である。

 

「……シン、寝てる?」

 

 と、痛々しいまでの沈黙が満ちる中、ステラが小首を傾げながらぽつりと言う。そこでまた、ぐうぐう、とシンの寝息が響いた。
 超兵二人と最高峰のベテランを相手に戦い抜いた事で蓄積した疲労と、極限まで削った神経が摩耗し、戦闘が終わったという事実によって張り詰めていた緊張の糸がぶつりと切れて、肉体がすぐさま疲労を癒しにかかったのだろう。
 メカニックに抱えられた姿勢のまま、シンは深い深い眠りの海の底に沈み、周囲の視線と雰囲気に気づく事もなく眠り続けた。
 気まずい沈黙はそのまましばらく続いたが、結局は無事だったことから、安堵した雰囲気に変わるのに、そう時間はかからなかった。

 

 * * *

 

 クライ・ウルブズとロアノーク艦隊、そして両陣営の本命の艦隊同士の戦闘の第一ラウンドが終り、DC側は旗艦タケミカズチを中心に、オノゴロから派遣されたドック艦に損傷艦を収容して陣営の立て直しを図った。
 四方に海ばかりが広がっている中に、工場をそのまま巨大な水晶の塊の上に乗せただけの様に見えるドック艦セプタが数隻あり、何隻もの船を収容して忙しなく自動修復機構とメカニックが動き回っている。
 海中からの奇襲に成功し、圧倒的な戦果を残したメカゴジラ三体もドック艦の手の中に包まれて、戦闘で一気に放出した弾薬の補給を受けている。
 最低でも60メートルもの二足歩行型恐竜の形をしているメカゴジラは、そのまま直立した姿勢を取っている。
 威力は強大だが、さすがに前例のない兵器であるために整備性などはあまり良い機体とはいえないのが欠点で、通常の特機に倍する時間を要している。
 波しぶきを受け陽光に煌めくその姿は、味方にすれば頼もしいことこの上ない守護獣であり、敵からすれば目にする事さえ呪わしい破壊神に他ならない。
 メカゴジラ同様に友軍からは万軍にも匹敵する信頼を寄せられているクライ・ウルブズが、合流地点に姿を見せた時、その姿を見た者はまず誰もが悲嘆の吐息を漏らした。
 前大戦でこの世の常識を覆す異常な戦いの様相を見せた最終決戦も無事に戦い抜いたクライ・ウルブズが、いまは航行するのもやっとという痛ましい姿が帰還してくるとは。
 二隻の僚艦どちらともそれ以上の被弾を受けており、この三隻はもう戦線に復帰するのは無理なのではないか、と目にした者全員の脳裏に悲観的な考えが浮かんだほどだ。
 やがてドック艦の中でもひときわ巨大な、まるで紫水晶の塊のような巨船セプタンに傷ついた体を預けたタマハガネ、カイゼルオーン、ジャピトスの船員たちはようやくに緊張に固まった体と精神をほぐし、安堵の息を吐く事が出来た。
 被った損害は許容範囲を超えているが、与えた被害はそれ以上の筈である。二、三日は地球連合も動く余裕はあるまい。よほどの強硬策を強引に推し進める様な輩がいなければ、少しだけ休む事が出来るだろう。
 また、窮地に駆けつけたミネルバほかザフト艦隊も同道している。大洋州連合を含むカーペンタリアのザフト艦隊も、この場所で合流する予定だったからだ。
 巨大ドック艦セプタンとDC艦隊旗艦空母タケミカズチ他、大洋州連合艦隊の空母ヘレジタッドやザフトのミネルバ、ボズゴロフ級各艦が合流を果たして、壮観な眺めがそこに出来上がった。
 ロアノーク艦隊との戦闘で被った被害の報告を行うべく、エペソはアルベロを伴ってセプタンの作戦室へと向かう事になった。本隊との合流からわずか三時間後の事である。
 セプタンの大本がなんであるか知っているエペソとしては、アレがこのような使われ方をしている事に皮肉めいた考えを抱いたものだが、陣営によっては使い方も異なるものであろうと考え直す。
 おそらく他にもズフィルード・クリスタルを分割し外部からデータを送り続ける事で、一定の方向性に形状を変化させた艦が、産声を上げつつある筈だ。このセプタンの姉妹艦も今後数を増やす事だろう。
 セプタンは内装外装一切をズフィルード・クリスタルで構成されていて、その上に地球系技術の施設を設け、DCの技術で制御できるように造り変えた船であり、全長は一キロメートルを越す。
 ドック船とはいうものの装甲材をそのまま弾丸として射出するクリスタル・マスメルや狭域に放射する改良型オメガ・ウェーブのほか、レーザー機銃やミサイル発射管も増設されていて下手な戦艦など歯牙にもかけない戦闘力を誇る。
 内部にズフィルード・クリスタルの自己修復機能と自己進化機能を応用した生産施設と工廠を備えて、ラビアンローズ級五隻分に相当する工業力も持っている。
 地球の七割以上を覆う海洋戦闘においては戦略拠点と呼べる代物であった。
 セプタンやセプタの大本となった『最後の審判者』やゼ・バルマリィ系技術の数々をどうしてDCに与える気になったのか、エペソは随分前から考えていたが、いまだに明確な答えは見つからずにいた。
 生前の世界でαナンバーズとの戦いの果てに至った、地球人の行く末を見てみたいという考えのせいだろうか? それだけだろうか、それではまだ足りない様な気がする。
 だが自問に対し自答に至る前に、エペソは目的の場所へとたどり着いていた。タケミカズチに乗船し司令を務めているトダカや主だった艦の艦長クラスが顔を揃えていた。
 総帥から対等の扱いを受ける緑の髪の武人に対し、これまでの壮絶なまでの戦果を知るDCの面々は畏怖の混じった眼差しを向ける。
 セプタン内部の作戦室は、広大な船体に相応しく大規模な大学の講堂のようだ。四方の壁全てがモニターに変わる仕様の室内の壁際に立っていたトダカが、エペソの入室を確認してひとつ頷き、会議の始まりを告げる。
 艦隊を退いた地球連合軍が、キャリフォルニアベースから出港した後続の艦隊と合流を果たすべく北東に針路を取って船足を急がせている事は確認されていて、クライ・ウルブズと一戦交えたロアノーク艦隊はかろうじて合流を果たしている。
 再度戦闘を試みるにしても再び交戦海域に到達するのは、一週間前後あとの事であろうと推測が立てられている。
 負傷者や損傷艦の受け渡しと損失した戦力の補充、ズタズタになった指揮系統の再構築を考慮の内に入れれば、一週間という時間はむしろ早過ぎるくらいかもしれない。
 もっとも、絶対的な数量において劣勢以外の何物でもないDCも、被った被害の再補充に要する時間を考えると可能な限り不利な状況での戦闘は避けたいのが本音だ。
 大洋州連合とザフトの増援と合わせた戦力ならば、まず数の上でも互角に戦えようが地球連合の船が一隻沈む事と、DCの船が一隻沈む事の意味は大きく違うのである。
 一通り現状の確認と報告を終えたトダカが、やや硬質の視線をエペソへと向ける。予定であったら不意を突いたクライ・ウルブズの突入によって、連合艦隊に大損害を与える筈だったのだ。
 それが相手の待ち伏せによって無効となり、想定が崩れる事となった。しかもロアノーク艦隊の戦力を抽出しながらも、連合艦隊はDC艦隊に倍する以上の戦力を整えて来た。
 前大戦から経過した時間は、DCだけでなく地球連合にとっても失った戦力と生産力を補うのに大きな意味を果たした時間だったということだ。いかんせん消耗戦となるとDCには厳しい目しかない。
 第二次世界大戦の頃からアメリカという国の工業力は化け物なのだ。カサブランカ級護衛空母を約一年間で五十隻も建造している。正規空母より小型とはいえ、一週間に一隻建造したペースになる。
 技術的にはさらに進歩した現在、AFCで人材を多く失いはしたが、赤道連合の併合や統一なったアフリカと南米と同盟関係を結んだとはいえ、DCでは到底望むべくもない工業力だ。

 

「タマハガネだが巡航速度も出せぬ。機動兵器部隊も全ての戦力を動かす事はできん。
 使えるのはバルゴラ三機、インパルス、スペリオルドラゴン、ガンダムエクシア、ガンダムデュナメス、ガンダムヴァーチェ、ビルトシュバイン、エレオス、ガーリオン・カスタムだ。
 予備機を当てて補充し、別の艦に乗せて運用するほかあるまい。幸いにしていかに地球連合といえども本土に侵攻する戦力を割く余力はない。南米と赤道連合の牽制が利いているであろうからな」

 

 そう断言するのはエペソである。今回の地球連合艦隊の主力は、地球連合の盟主たる大西洋連邦からなっている。
 ユーラシア連邦は前大戦時でのアラスカ戦で失った膨大な数の兵力がいまだ十分に補充できず、カタロンや親DC派の各国にザフトのジブラルタル基地と戦火を交える相手が多いことからさして戦力を回す事ができなかった。
 東アジア共和国はDC側に着いた赤道連合とDCの極東方面軍との睨みあい、さらに旧日本国、朝鮮半島、ウィルキア王国とDCの間で不穏な動きがあると察知し、むやみに軍を動かすことを嫌っている。
 オペレーション・フューリーを主導しながらなにも結果を残せなかった事の失点を取り戻そうとしていた大西洋連邦としては、面子回復と盟主としての地位確保のために自軍が戦果を上げる必要があり作戦を強行したのだ。
 すでに第二次オーブ解放作戦を失敗と見做すのに十分な損害を与えた筈であるが、おそらく大西洋連邦は、再度の攻撃を命じる筈で、それをDCは迎え撃たなければならない。
 本来、DCとしてはプラントが積極的自衛権の行使という名目のもと、地球圏各地に送り込んだザフトの降下部隊と連携し、ユーラシア連邦、東アジア共和国に政治的な揺さぶりを駆けて、地球連合の瓦解を誘う予定だった。
 地球連合からして最も大きな眼の上のタンコブであるDCの軍事力壊滅を目指して、地球上の戦力を動かす事は想定の範囲内だったので、迎え撃つための戦力を迅速に用意できた。
 とはいえこれだけの被害を被ったのは予想外であったが。その後も列席者各員から意見が交わされる。
 必然的に熱を帯びる議論ではあったが、異世界人であるうえに異星人でもあるエペソは極めて冷静な表情で、熱くなりがちな元オーブ国防軍現DCの軍人たちを観察している。

 

「とにかく、策敵網を広く密度も濃くしいて地球連合の動きを即座に感知できるようにする事だ。幸い衛星軌道上はアメノミハシラが制している。月の艦隊はザフトを警戒し動きが鈍いからな」

 

 大西洋連邦に海洋戦力を釘付けにされ、ユーラシア大陸方面に関する作戦行動が遅れに遅れている事が、DC軍上層部では問題視されている事を、この場にいる全員が知悉していた。
 一刻も早い決着を望まれる一方で、下手をすればDCの地球戦力の主力が喪失しかねない戦闘に対する危惧もまた、彼らの胸の内で根を広げていた。

 

 * * *

 

 セプタン内部に設けられたPXでは、つい三十分前からひっきりなしにメニューの注文が相次いでいた。PXでは消費税などが免除されるので一般のスーパーマーケットやレストランよりも価格が安い。
 注文主はたっぷりと睡眠を摂取し、疲労困憊状態から無事復活したシン・アスカである。激戦で失った体力を取り戻すべく、空っぽになった胃に栄養の塊をぶちこんでいるのだ。
 クロスボーンインパルスの損傷から重傷を負っている可能性も考えられたが、それはすべて杞憂だったようで、シンの体には小さな痣が少しできていた位で、骨折はおろか打撲の跡すらなかった。
 ほとんど傷を負わずに済んだのは、最近すっかりと人間の規格をはみ出してきた肉体のお陰だろう。
 建国の歴史から日本食と熱帯諸島の食文化の入り混じったオーブ系のメニューを、シンはとにかく片っ端から食べ続けている。
 空になった皿が次々と積み重ねられ、がしゃがしゃと勢い良い音を立ててシンのさほど大きいわけではない口の中に料理が消えて行く。
 隣にステラ、向い側にレントンやエウレカ、セツコ、スティングらがいるが、そちらには目もくれずに栗鼠(リス)よろしく頬を一杯に膨らませて口を動かしている。

 

「そんなにがっつかなくても飯は逃げねえぞ」
「おへのふひとふぁってばろ」
「ああもう、喋んなくていいから、さっさと食え」

 

 と、頬杖を突いた姿勢のスティング。一心不乱に食べ続けるシンに呆れた顔を隠せずにいる。おそらく既にシンの胃袋には5、6キロ相当の食料が消えている筈だが、一向に膨れる様子も満足する様子もない。
 シンはラーメンを味噌汁代わりに飲みほして、かっこんでいた中華丼を、喉ぼとけをぼこりと膨らませながら嚥下する。今に限ればシンにとってラーメンは飲み物らしい。
 スティングとそのほかの面々があきれ顔をする中、ステラだけはにこにこと嬉しそうにシンの横顔を見つめている。なにはともあれシンの元気な姿を見られれば嬉しいのだ。
 シンには話しかけても無駄と悟ったアウルが、いまだぐったりと顔色を青くしているレントンの方に目を向けた。こっちはこっちで泥の様に眠った後も疲れが取れずにいる。
 初陣としては現在もっとも苦しい激戦区に身を投じ、シンの初陣の時をはるかに上回る戦果を挙げている(ほとんどエウレカの功績だが)。
 だがレントンの体の方はまだまだ発展途上の青少年のモノに過ぎず、ニルヴァーシュで長時間の戦闘に耐えるのには、造りが足りないので時間が経っても回復しきれていないようだ。
 エウレカが気を遣って、ジュースなら飲める? 大丈夫? と声をかけてはいるが、レントンはかろうじて頷いているきりで、あーだの、うーだの、言葉にならない声を返すのが精一杯である。
 デカンタになみなみと注がれていた紅茶を一気に二リットル近く飲み下して、ようやくシンは一息を吐いたらしく、ふう、と満足げな声を出す。
 身体陳謝の活性化と満腹神経などの操作を行っているから、短期間での多量の食物摂取も一切の無駄なく効率的にエネルギーに変えられる体だ。あともう一眠りすれば完璧なコンディションになるだろう。
 余は満足じゃ、とでも言いたげな様子でシンは自分の腹をさすり、ギ、と背もたれに体重を預けている。この姿を見ると、とても地球圏最強の一角に名を連ねるスーパーエースであるとは信じられない。
 食後のコーヒーに口をつけ始めたシンは、ここでようやく机に額を当てているレントンと、心なし元気のないセツコの様子に気づく。

 

「レントンにセツコさん、元気ないですね。ちょっと疲れちゃいましたか」
「……」
「ちょっとっていうか、みんなすごいね。あれだけ戦ったのに、あんまり疲れている様に見えないし」

 

 答える気力が無いのがレントン、手の中のクリームソーダのストローをいじりながら返事をしたのがセツコだ。から、とグラスの中の氷が音を立てる。
 とけかかったバニラアイスと緑のメロンソーダがとろりと混ざって、甘く美味しそうな具合になっている。ストロベリークリームソーダとマンゴーフロートに続く三杯目である。
 クロスボーンインパルスを半気絶状態で着艦させた時の様子はどこへやら、今のシンはケロっとしていて、あの時の心配は何だったのだろうと、シンとステラ以外の全員がなんとも釈然としない気持ちになる。
 レントンほどではないにしろ、まだ新兵の域にあったセツコには、精鋭しかいないロアノーク艦隊との戦闘は荷が重く、機体とパイロットに目立った傷なしに戦い終える事で来たのは奇跡に近い。
 チーフと中尉には感謝してもしきれない、と危うい所を何度もカバーしてくれた二人に対して、セツコはあらためてお礼をしようと決めていた。

 

「ロックオンとティエリア」

 

 唐突な台詞はステラである。PXの入口にちょうど名前を挙げた二人の姿が見えたのを目撃したらしい。義眼のスナイパーと中性的な少年の二人もシン達の集団に気づき、足の向きを変えた。
 ロックオンが片手を上げ、よう、と挨拶をしがてら近くの椅子をひっぱってそれに腰かけた。ティエリアもロックオンと同じようにしてその隣に座る。
 二人は売店の方で買い物を終えていたようで、ロックオンの手には缶コーヒーが、ティエリアの手にはミネラルウォーターの500ml入りのボトルが握られている。

 

「おーっす、二人ともお疲れさん。特にロックオン、助かったぜ、いいタイミングで来てくれたからさ」

 

 だらしなく体を伸ばし、フルーツジュースをちゅーちゅー啜っていたアウルが、とても兵隊とは思えない砕け切った調子で声をかける。
 木安いという年長者に対する敬意が欠片もないようなものいいではあったが、刹那とロックオンが間に合った事で戦況の天秤が傾くのを防ぐ事が出来たのは事実であるので、アウルが感謝しているのは本当の事だ。

 

「いいさ、気にすんなよ。こんどおれがピンチになったら助けてくれればそれでチャラさ」
「なんだよ、ロハじゃねえの?」
「借りは借り、貸しは貸し、てな。ま、とにかく全員無事だったのは幸いだな。クルーの方にもけが人は出ても死人は出なかったんだろう?」
「被弾が艦首モジュールに集中してっかんね。あそこだけ取り換えりゃ比較的早く修理も終わるだろうけど。でも艦橋のクルーにも怪我人が出たってよ。代わりの用意も必要だし、結構大変なんじゃん」
「そりゃ、あれだけ追い込まれたからな」

 

 擬似太陽炉搭載機を投入した三大国との戦いを思い出したのか、ロックオンの声はいささか暗い。

 

「そういえばロックオンさん、デュナメスとエクシアのGN粒子の色が違いましたけど、どうかしたんですか?」

 

 ティエリアにもさんざん聞かれた質問をしてきたのはセツコだった。呼び捨てでいいと以前言っておいたのだが、遠慮しがちな性格とあってか敬称付けはしばらく続きそうだ。

 

「太陽炉を特別なのに取り換えたんでね。お陰で電力供給なしでも稼働するようになったし、おまけでグラビコン・システムがあるからな。いろいろと出来る事が増えたのさ。アヘッドの時よりも活躍するからよ」
「あまり調子に乗らない方がいい。それにエクシアとデュナメスは譲渡したとはいえ当社の機体だ。あまり傷モノにはして欲しくないな」
「分かっているって。そう釘を刺すなよ、ティエリア。それよりステラとアウルはどうするんだ。エルアインスとエムリオンはもう使い物にならないだろう?」
「あー、まあ適当になんか回してもらうよ。おれ的にはバルキリーとか興味あっけどね」
「ステラは何でもいい」
「おいおい自分の命を預けるんだぜ。もう少し真剣に考えた方がいいんじゃないか?」
「どんな機体に乗っても活躍して見せるって意気込みがあんだよ。それに睡眠学習受けてっから、バルキリーだろうがグルンガスト弐式だろうが機種転換訓練は必要ないしね。
 ま、もともとコクピットを共通規格で作るようになってるし、なに回されても壱日以内で乗りこなして見せるって。な、ステラ」
「うん。なんでも平気」
「それそれは、頼もしい事だけどな」

 

 かしゅ、とプルタブを開き、ロックオンは缶コーヒーに口をつける。おそらくはアウルとステラの言う通りなのだろうが、どうにも普段の様子が普通の少年少女とさして変わらぬから頼りにしにくい。

 

「そういうや刹那はどうしたん? 大抵ロックオンかデスピニスと一緒だろ?」
「ああ、刹那ならエクシアの所に居るぜ。サキガケ用のセブンソードの受領と装備に立ちあっているからな。それに、あいつはガンダム馬鹿だからなあ」
「ガンダム馬鹿か。らしいといえばらしいけど」

 

 ガンダム馬鹿という言葉に、シンは以前に刹那にインパルスはガンダムだ、などと声を掛けられた事を思い出し、なんとなく刹那らしいと納得できた。
 刹那はなにか自分達の知らない事情で、ガンダムタイプのMSに深い思い入れがあるらしい。
 それはまるで事情を知らないシン達からすると共感を得にくいものだが、刹那という人間の核を担う重要な因子である。その事をシン達が理解する日が来るのはまだしばらく先の事。
 半分ほど溶けたバニラアイスをひと掬いして口に運んでから、セツコが口を開いた。アウル達の新しい機体の事も気になるが、今度の戦闘の事がそれ以上に気になっている。
 力量的に見劣りする自分が次の戦闘で足手まといにならないか、という懸念もありさらに大規模になるだろう次の戦闘に、大きな重圧を感じているのだ。

 

「ところで、次は私達はどういう扱いになるのかしら? タマハガネが使えないから別の艦が回されるか、別々に違う部隊に配属になるのかな」
「母艦が使い物にならなくなったのは初めてだが、まあおれらはまとめて使う方が戦力になるからな。そこの所は総帥も上層部も分かっているから、ばらばらに扱われる事は無いだろうぜ」

 

 腕組みをしながらセツコに答えたスティングに、シンも続く言葉を出した。

 

「たぶんこのままセプタかセプタンを戦闘に持って行くと思いますよ。色々と装備が特殊な機体がおれ達には多いし、弾薬の補給はともかく修理にはセプタ並みの設備か改修を施した空母じゃないと効率悪いですから」
「そうかな。みんなと一緒なら心強いけれど」
「セツコさん、弱気な事を言っていますけど普通のパイロットじゃ相手にならないくらい強いんですから、もっと自信を持っていいと思いますよ」
「シン君に言われると、なんだかそうは思えない」
「ええ! おれ、目は節穴じゃないですよ」
「そういう意味じゃないけど」

 

 子供っぽく拗ねた調子のシンに、セツコはどういったものかなと少し困った様子を見せた。腕を褒められた事は嬉しいし、実際その位の実力は自分にあるのだろうとは思う。ただ自信を持てるかと言うと、少し難しい。
 シンは、普通のパイロットでは相手にならないような実力者が、まるで相手にならない規格外のパイロットだ。そのシンを前にして自分の腕に覚えがあるというような意識はとてもではないが持てない。
 シンほどの実力者に腕を認めてもらう事は普通、自信につながるものだが、互いの力量が隔絶し過ぎている事と、セツコの自虐の色をかすかに帯びた性格だと、素直には受け止められないものらしい。

 

 * * *

 

 さて、艦隊司令部との会合を終えたエペソは、セプタンとセプタ各艦と共に運び込まれたオノゴロからの補給物資の目録に目を通していた。
 アルベロやジニンら機動兵器部隊の隊長格と、機体を喪失したアウルらの乗機の選抜を行う為である。厳めしい顔つきの三人でセプタン内部に複数用意されている部屋の一つに籠って、相談中である。
 室内にある中央の大きな机に投影されていた各補充機体のリストとカタログスペック、外見のホログラフを見ていた三人の目と思考が、そこでぴたりと止まった。
 オノゴロから送られてきた準特機(?)五機のリストである。並み大抵の奇抜さにならすっかり慣れたアルベロとエペソはともかく、二人ほどには覚悟完了していないジニンなど頭痛を覚えてこめかみを押さえている。

 

「ビアンの趣味、であろうな」

 

 なにか、こう苦々しさを諦めという名の型に嵌め込んで、侮蔑という名の風で吐き出した様な呟きであった。要約すれば、ダメだコイツ、になる。ダメさが一回り足手逆に凄いとさえ思える。

 

「いや、流石にビアンでもこれは、技術屋の誰かのアイディアを間違えて開発してしまったのではないか?」
「どうだかな。しかし、これは。これを実戦に投入するとはな。カタログスペックは、まあ、大したものだ」
「……戦力にはなるのか」

 

 戦力になることを歓迎しているというよりは、『なってしまうのか』という逆の方向の思いが込められた重たいアルベロの一言だ。コレを運用する組織の一員である事がたまらなく恥ずかしい。
 後年、これを知った人々はDCをどのように評価する事だろうか。少なくとも笑い物になる事は間違いない。
 言葉を発する余裕のないジニンを置いて会話を進めるアルベロとエペソであったが、二人の間に、確たる共通の考えが生まれていた。
 この機体は絶対に自分達の部隊では使わない――だ。およそ戦力になるなら選り好みをしない二人にさえ使用を躊躇させたのは、かつてミナの判断によって封印されていたビアン印の五つの機体である。
 それは、かような名前を与えられていた。
 ケロロタママギロロクルルドロロ、と。
 それは地上・水中戦を主眼に置かれた準特機扱いの二頭身のカエル型機動兵器であった。とりあえず量産の予定は一切ない。

 
 

――つづく

 
 

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