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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第37話

Last-modified: 2010-05-06 (木) 13:49:09
 

ディバインSEED DESTINY
第三十七話 群れなす魔王

 
 

 外輪陣形というのは第二次世界大戦時、米国が取った艦隊の陣形の一つだ。空母を中心に置いて、その周囲を戦艦や巡洋艦をはじめとした各種艦艇が輪を作る様に守る。
 戦艦による砲撃から艦載機による攻撃へと対艦攻撃の主要な手段が変わった時代に考案された陣形だ。
 短距離誘導兵器はともかく、旧世紀以来戦争の中核をなした長距離誘導兵器の類が一切通用しなくなった昨今の戦闘では、類似した有視界戦闘が行われていた第二次世界大戦前後の戦闘を模倣し、実用されているケースが多い。
 三輪艦隊が外輪陣形を取って航行していたのも、かような事情による所が大きい。
 艦隊司令を務める三輪防人の乗艦であるクラップ級巡洋艦と機動空母を中心として護衛艦艇群で構築される大西洋連邦の艦隊を、セプタ級四隻とそこから発艦したミネルバ、ストーク級三隻がちょうど四方から囲い込んでいた。
 輪を描く三輪艦隊を、DC・ザフト艦隊が四角形を構成して外側から囲い込む形だ。
 八隻の空中戦艦と海面下の潜水母艦艦隊、さらに高高度から襲いかかった空戦部隊の連携攻撃は、三輪艦隊の意表をついて動きを止めることには成功していた。ただし、それは、作戦を立案したDC軍部の予想をやや下回る形であったが。
 空戦部隊の第一撃はリヴァイヴとヒリングの妨害こそあったもののまずまずの成果を上げたが、海面下の戦闘ではエクシアによる第二撃が予定数値の七割ほどしか成果を挙げられなかった。
 本来、三輪艦隊の水上艦をすべて氷原のなかに閉じ込めて動きを完封し、数の少ない飛行能力を有した艦艇を集中砲火で順次撃墜してゆく予定だったが、凍結範囲が海面上までは及ばずに水上艦が行動可能な状態だ。
 三輪艦隊の艦艇からは次々とMS、そして大型MAが出撃し、同じように機動兵器の発進を急がせているDC・ザフトの部隊と砲火をかわしている。
 艦方の連射の合間を縫い、出撃の機会を狙っていた両陣営の機体が徐々にその数を増す中で、クライ・ウルブズ艦となったセプタ級シグロードから真っ先に飛びだしたアサルトバスターインパルスは、近づく敵機に対し弾幕を展開して守りについていた。 
 MSとして最高級の火力と運動性、防御能力を併せ持ち、超人的な技量と肉体を有するパイロットの組み合わせゆえに、攻勢に出れば瞬く間に敵の数を減らすのは明らかであったが、まだ出撃していない味方が多く、そちらの守りを優先している。
 射撃兵装の充実ぶりでは最高のシルエットであるABインパルスを駆るシン・アスカは、背中のスプレービームポッドから数十の細い光線を放って、散開させた敵機をまとめてロングレンジキャノンとメガビームライフルで撃墜してみせる。
 一般的なビームライフルは一撃でMSを撃墜する威力を有するに至ったが、ABシルエットが装備する各ビーム兵器は、一機のみならずまとめて二機、三どころか狙い次第では十機前後を撃墜する高出力高威力を誇る。
 オノゴロ島で組み立てを終えたばかりの為、まだ不安定な個所を残していたものの、コズミック・イラの純軍事技術の数十年は先を行く性能から、セプタ級に各種弾薬や予備のパーツと一緒に送られていたのである。
 火器管制に若干の未調整部分があるが、カルケリア・パルス・ティルゲムが増幅した念による照準補正を持って補い、シンの第六感による敵機の捕捉を主とした射撃システムを場当たり的に構築して対処している。
 機械による補正が受けられない分、パイロットであるシンにかかる負担は大きいが、もともと肉体・精神面共に常人の領域を超えた少年である。
 アドレナリンをはじめ脳内麻薬の分泌位はお手の物だし、自律神経の調整によって数分の睡眠で、数時間分の休息を得る術も学んで久しい。
 一般的な人間どころか鍛えぬいた軍人の規格でさえ、身の安全を考慮する必要がないからこそ、エペソはパイロットにかかる負荷の大きいABシルエット投入の決定を下したのだろう。
 そしてその決定は、今のところ正しい判断といえた。シンの操るABインパルスは、立ちはだかる敵に対し、生と死の境に立つ番人の如く絶対の存在と化していたからだ。
 すなわち、ABインパルスに挑む者は、ことごとく死出の旅路への切符を賜る事となっていた。
 ABインパルスの背中のロングレンジキャノンと右手のメガビームライフルから放たれる通常のビームライフルに数倍する太さのビームは、直撃した機体のみに留まらず、その周囲を飛んでいた機体をもまとめて爆発させた。
 コアスプレンダーに内蔵されたプラズマ・リアクターと、ABシルエット内のミノフスキー粒子技術による熱核反応炉が生み出す莫大なエネルギーは、単純なエネルギー量でいえば本家V2ガンダムの数値を上回る。
 周囲の空間に伝播した膨大なエネルギーは、直撃を受けていない機体の機体中枢にまでダメージを及ぼし、水飴のように融けた装甲の内側から盛大な炎を噴出させ、二つの光条を数珠繋がりに爆発の光が飾ってゆく。
 二条のビームの周囲にいた機体でさえ、余波でこれほどの被害を発生させたのだ。直撃を受けた機体は、まさしく悲惨以外の何物でもなかった。
 それぞれのビームの直撃を受けた機体の表面が真っ赤に赤熱したと見えた次の瞬間には、巨大な穴があいて機体を千切り、つづく爆発がさらに数百数千の破片へと爆散させる。パイロットの生存の可能性など、億に一つもあり得ない一方的な一撃であった。
 グルンガスト飛鳥をはじめ飛鳥インパルスと、極めて強力な機体を愛機とし、超常的な破壊力をたびたび眼の当たりにしてきたシンだが、あくまでMSとして開発されている筈の機体が、ここまでの力を見せるとは、と驚きを隠せない。
 それがシンの偽らざる本音であった。MSやPTがサイズをそのままに特機級の打撃力・攻撃力を持つ時代の到来は、そう遠くはないのかもしれない。

 

「なんて威力だ。ティエリアのヴァーチェよりも火力が上なんじゃないのか」

 

 シミュレーターで分かってはいたものの、下手な戦艦の主砲が可愛らしく思えるABシルエットの圧倒的な火力に、おもわずシンは息を呑んで驚いた。
 前大戦のフリーダムも砲戦機として目覚ましい戦果を残した機体であるが、ABインパルスならばそれ以上の戦果を残せると、シンはこの時はっきりと確信した。
 シンのABインパルスが近づく敵機をことごとく排除し、隔絶した戦闘能力を発揮する背後で、つぎつぎとセプタ級プリエスタ、ハイラングール、トラテペスから友軍機が飛び立ち、クライ・ウルブズの面々の雁首もそろい始めた。
 ステラが乗り換えたグルンガスト弐式をはじめ、アウルのレッドファイター91、スティングのスペリオルドラゴンに、バルゴラ一、二、三号機からなるグローリー・スターの面々が既に戦闘を開始している。
 ジェットウィンダムが浴びせ掛けてくるビームを、スペリオルドラゴンは金色の騎士鎧で防ぎ、魔法の掛けられた鏡であるかのように、命中したビームをそっくりそのまま反射して、黄金の騎士に対する無礼の報いとした。

 

「スペリオルにビームは禁物だぜ。シン、待たせたな!」
「スティング、遅いじゃないか。結構待ったぞ」
「言ってな。おれ達が楽をさせてやるからよ、お前は格納庫に戻ってミルクでも飲んでろ」
「スティングこそ、機体に頼り過ぎてヘマするなよ」
「お前の機体の性能をよく考えてから言うんだな、そういう台詞はよ!」

 

 スペリオルドラゴンがABインパルスの傍らを通り過ぎ、両手にダブルソードを構えて三輪艦隊の機動兵器部隊へと斬り込んで行く。
 天まで焦がす炎が変じたような赤の翼は風を鋭く切り裂き、鋼の光沢を帯びる騎士剣は陽光を映して刀身を白く染めている。見る者の目を奪うあまりにも美しい黄金機の飛翔。
 瞳と記憶に鮮烈に焼き付くその勇姿を前に、己の命を賭けた闘いの場である事を一瞬とはいえ忘れて、凝視した者は決して少なくはなかった。
 ビーム兵器に対してほぼ無敵の防御性能を誇る機体ならではの、無鉄砲に近い戦いぶりは見ている方の肝を冷やすことこの上ないが、スティングとても前大戦を戦い抜いた生え抜きのMSパイロットである。
 自分の機体の限界と自身の技量を把握している上での戦い方だ。それを分かっているから周囲の面子もそれをサポートする戦い方というものを心得ていて、孤立させる様な事はしない。
 アウルのRF91は格闘戦重視の機体で、スペリオルドラゴンが引きつけた機体の横から後ろから上から、と方向を問わず驚くほど大胆に接近して斬り掛かっている。
RF91の両腰アーマーからビームサーベルが抜き放たれて、ビーム刃発生基部から鈍い音と共にピンク色の光輝があふれ出て刃を形作る。アウルの瞳にはRF91によって切り裂かれた敵の姿が、すでに見えていた事であろう。
ガンダムF91のカスタマイズ機であるRF91の基本性能は、現在の軍事技術で考えれば極めて高いものと言える。その性能を十分に引き出せば、DCを含めて各国の主力量産機は敵ではない。
 RF91の接近に気づき、ビームの通じないスペリオルドラゴンの対処に苦慮していた周囲の敵機が、攻撃の矛先を急速に変じ、ビームライフルやジェットストライカーのミサイルが白煙の尾を引いてRF91へと殺到した。
 機体色、装甲特性から極めて目立つスペリオルドラゴンに引き付けられていた視線を引き剥がした分、反応が遅れた攻撃の中へと、アウルは怯む様子もなく機体を突撃させた。
 もともとアウルは敵の攻撃が激しければ激しいほど戦意を滾らせるタイプだ。紙一重の回避行動と、かわしきれない攻撃をビームシールドで防ぐ事を繰り返し、アウルは一気に肉薄したジェットウィンダムの胴へとビームサーベルをはしらせる。
 ビームライフルを掲げた右腕をかいくぐる様にしてRF91が体当たりに近い勢いで切迫し、振り抜いた左手のビームサーベルが一秒とかからずに胴体の装甲と内部のフレーム、コード類を含めて焼き切り、水を斬る様にして背中から抜けた。
 プラズマ・ジェネレーターから供給されるエネルギーを刃状に形成したビームサーベルは、たとえ対ビームコーティングを施したシールドであろうと、ものの数秒で焼き斬る熱量を持つ。
 ミラージュコロイドで刃を成型したコズミック・イラ製のビームサーベルでは、根本的な出力の点から見て受ける事さえ叶わない。そもそもC.E.技術系のビームサーベルは鍔競りあいのできない代物ではあったが。
 味方の死に激昂したか、周囲の三輪艦隊機が放つ四方からのビームがRF91を幾重もの光の格子の中へと囲い込むが、同士討ちを避けるためにその密度はさほどのものではない。
 全天周囲モニターに映し出される後方、下方映像に瞬時に目を走らせアラート音が告げる迫る危険に素早く優先順位をつけて、行うべき行動の選択を始め、そしてほぼ時を置かずして終了させる

 

「ぬるいんだよ、バァカ!」

 

 RF91の両手に握らせたビームサーベルを縦横無尽に振るっていくつかの光線を弾き、射撃の間隙を狙ってアウルは操縦桿に設けられたスイッチの一つを押し込む。
 鳥の頭部を模したRF91の胸部装甲の嘴がパカリと開かれて、内蔵されていたアンカーが勢いよく放たれる。アンカーの先端はブーメランの形をしており、そのまま敵機の切断や相手を絡め取るような使い方が出来た。
 パイロットの機転次第で攻撃・回避・防御と様々な用途に使用できる武装だ。射出されたアンカーは薄い紫色のフラッグの胴へと巻き付き、ウィンチが勢いよくワイヤーを巻き込むのに合わせてRF91へと引き寄せられる。
 海魔の触手に囚われた哀れな船乗りのように、無抵抗のままアンカーに囚われたフラッグは、その胸から上と下をRF91の背中に伸びる赤い翼によって切り裂かれる。
 重量の三割ほどを喪失したフラッグは、アンカーに巻き取られたまま勢いよく砲丸投げの要領で回転させられ、たっぷりと遠心力を乗せた状態で、眼下の水上艦艦橋へと叩放り投げられる。
 四十トン弱の重量を残していたフラッグと水上艦がけたたましい音を立てて激突するその寸前でアンカーを巻き戻し、アウルは次の獲物を狙い定めて唇を一舐めしてうるおいを与えた。
 アウルが視線を外した時には、RF91の足元で艦橋をフラッグによって叩き潰された水上艦が、内蔵していた砲弾、ミサイルを誘爆させてひときわ巨大な炎を吹き上げていた。
 噴き上げる黒煙と赤い炎がRF91のもとより赤い装甲に、鮮血をぶちまけた様に毒々しい赤色を重ねる。卵の殻と共に母の腹を嘴で突き破り、他の生き物の肉を貪り、血を浴びて育った魔鳥の如きなんと恐ろしい姿である事か。
 RF91は原形となったガンダムF91がヴェスバーをはじめとした射撃兵装を所持していたのに反して、とことん格闘兵装ばかりを装備した機体である。
 胸部に隠したアンカーをはじめ、F91最強の火力を誇っていたヴェスバーを排して、特機の装甲を切り裂く切断力を付与されたウイングカッターを装備するほど徹底されている。
 一応胸部にイーグルバルカン二門を備え、今回はオクスタン・ライフルを携えてはいるが、普通のパイロットだったら首を捻りそうな偏重ぶりだ。ただ、相手を斃す手ごたえを好むアウルにとっては実に好もしい機体であった。
 エムリオンリターンズ・カスタムのように単独で数機分の弾幕を展開する戦い方を行う事は不可能だが、一対一での戦闘では無類の戦闘能力を発揮するのも事実。
 いい機体であった事は認めるが――エムリオンタイプ以外の機体、しかもガンダムタイプの新型という事もあり、アウルの気迫は並みならぬものであった。

 

 * * *

 

 エペソが乗艦しているセプタ級シグロードの格納式超電磁カタパルトでは最後の出撃機となったニルヴァーシュが、所定位置について発艦許可を待っていた。
 MSの一般規格より一回りほど小さい躯体は、頼りなく華奢に見えるが、一度戦場の波に乗れば言葉通り縦横無尽の軽快で、行動の予測が経たない不規則な動きで敵を討つ勇猛な戦士となる。
 今、その背に設けられた横並びの複座式コックピットの中で、レントン・サーストンは操縦桿を握りしめ、じっと顔を俯かせていた。
 出撃を直前に控えた今でさえ戦いへの恐怖は消えず、足手まといになる事への恐怖は消えず、好きな人の横で無様な真似をする事への恐怖は消えず、それらはすべて不安と共にあった。
 思春期真っただ中、いやさ思春期ドまっただ中の健全な青少年たるレントンの精神には相当な負担と言えるだろう。
 すでに戦士として、兵士としての覚悟を確たるものにしたシンや、破壊する事しか知らない人間にされてしまった刹那とは決定的に違う、ごくありふれた少年であるレントンだからこそ、その恐怖と不安は計り知れないほどに大きく重く厳しい。
 しかし、それゆえに、それでも前に進めた時、屈した膝を再び伸ばした時、折れた心を繋ぎ直した時、少年は強く逞しく成長する。
 軽減されているとはいえLFOの超機動によってかかる負荷からパイロットを守り、バイタルデータなどを記録する特製のパイロットスーツに身を包んでいたレントンは、ひとつ息を大きく吸う。なにか、覚悟を決めた男の顔をしていた。

 

「エウレカ、聞こえてる?」
「なに、レントン」

 

 レントンにちらりとよく磨かれた硝子玉に似た瞳を向けて、エウレカが応える。出撃を直前に控えて、メインパイロットであるエウレカは神経を鋭敏化させていたが、それでもレントンにだけはきちんと受け答えをするようだ。
 それだけエウレカにとってレントンが特別視される存在であるという事だが、いまのレントンにはその事に気付く余裕はない。

 

「おれ、おれ、とにかくやれるだけやるよ。君の隣に座っているくせに碌にできる事なんてないけど、それでもやる。がむしゃらにやるから!」
「うん、分かった。でもシートは汚さないでね」
「う……うん。がんばるよ」

 

 素っ気ないエウレカの答えはレントンの意気を幾分挫いたが、その声音がいつもよりも柔らかなものであったと気付けていたら、もう少し発奮もしただろうになんとも間の悪い少年だ。
 レントンが軍に入隊した時以上の覚悟で話しかけている間に、オペレーターから発艦の合図が出て、エウレカは即座に思考を戦闘へと切り替えた。すこし凹んだ様子を見せていたレントンも新たに気力を補充して、目に光が宿る。

 

「行くよ、レントン、ニルヴァーシュ」

 

 レントンは思い切り息を吸い込み、加速のGが全身にかかるのを感じながら思い切り叫んだ。体の隅々に行き渡って、心を再び折ろうとする恐怖を吹き飛ばす為に。

 

「アーイキャーーーーン…………フラ~~~~~~イ!!!!」

 

 * * *

 

 最後にニルヴァーシュが出撃したのを確認したABインパルスが攻勢に回ったことで、先に出撃していたクライ・ウルブズの機体の圧力が一段上がり、三輪艦隊の動きに鈍重さが生じて、恐怖が垣間見える様になる。
 特機であるグルンガスト弐式の存在もあるが、火力重視に編成された今回のクライ・ウルブズ各機の怒涛の猛攻が、対峙する連合諸兵の心境に色濃い死の影を落としている。
 これまで機動力重視の装備が多かったレオナのガーリオン・カスタムは、ヴァルシオンの腕部を流用したギガンティック・アームド・ユニット形態となっている。
 ガーリオン・カスタムの腕部に被せる様にして巨大なヴァルシオンの腕が肩上部に接続され、胸部にはミサイルポッド付きの増加装甲、超重量の機体を支える為に脚部にもフレーレム補強の為にスラスター内臓の追加装甲が施されている。
 本来ヴァルシオンの左腕部に装備されるクロスマッシャーの発射機構を右腕部にも内蔵し、なおかつディバイン・アームを二刀流に構えるなど、運動性を犠牲にしつつも大型MA、特機を小細工なしに破壊できる破格の攻撃力を誇る。
 ギガンティック・アームド・ユニットの特性を考えて、ティエリアのヴァーチェと同様に母艦からはあまり離れず、機動砲台としてギガンティック・アームド・ユニットの絶大な火力を遠方広域に展開する形で戦っていた。
 レオナの正確無比という他ないオクスタン・ライフルEモードの光の弾幕に加えて、陽電子リフレクターもぶち抜く破壊力のクロスマッシャーが連射され、ABインパルスに勝るとも劣らぬ獅子奮迅の活躍ぶりだ。
 防御に関してももともとガーリオン・カスタムにEフィールド発生器が組み込まれていたが、これに改良型カルケリア・パルス・ティルゲムによって増幅されたレオナの念が、念動フィールドとして機能し二重の防御場を持つ。
 攻撃・防御の両面において、レオナの乗るガーリオン・カスタム・ギガンティック・アームド・ユニットはある種の完成系に到達した機体と言えるだろう。ただしコストが高いやら操縦が困難やら整備が面倒といった諸問題のある機体だが。
 ガーリオン・カスタム本来の腕に比べて何倍も太いヴァルシオンの腕から放たれるクロスマッシャーは、威力こそ本家と遜色はなかったが、速射性も本家とさして変わっていないため、連射の利く武装ではない。
 そこを両腕にクロスマッシャーを装備して次射にいたるまでの空白の時間を埋め、さらにガーリオン・カスタムの武装でカバーする形となっている。
 ただクロスマッシャーの圧倒的な破壊力を前に萎縮しないパイロットはごく稀であり、クロスマッシャーを掻い潜ってまで接近し、死中に活を見出す者はさらに少なく、迎撃のためにオクスタン・ライフルが火を噴く事は少なかった。
 念動力の扱いに関して一通り受けたゼ・バルマリィ帝国系のレクチャーの内容を思い出しながら、レオナは秀麗な美貌をぴくりとも震わさず、冷徹な瞳で画面の向こうの敵を狙い続ける。
 狙う――と記したがレオナが行っていたのは、より感覚に委ねた行動だった。敵に狙いをつけるのではなく、敵をこちらに引き寄せる感覚、額にある第三の瞳で見る感覚、見えざる手を伸ばして敵を包み込み捕える感覚。
 カルケリア・パルス・ティルゲムによって増幅された念を戦闘の主軸に置く戦い方だ。以前なら一笑に伏していたはずのオカルティックな感覚に慣れ親しんだのは、いつの頃からだったか、レオナは正確には覚えていなかった。
 クロスマッシャー二門に加えてオクスタン・ライフルBモードの、威力を重視した実弾の狙いをコンマ0秒以下の速さで定め、見えない手の中に包み込んだ敵へむけてレオナのたおやかな指が引き金を引く。
 ガーリオン・カスタムGAUの巨腕部から放たれた破滅の赤と鏖殺の青と消滅の白によって構成される光の螺旋は、機動空母から出撃したばかりのゲルズゲーとザムザザーを容赦なく飲み込み、膨大なエネルギーは重厚な大型MAの機体を徹底的に破壊し尽す。
 両手保持したオクスタン・ライフルから放たれた低初速高威力の実弾は、半身を隠していたシールドからわずかに覗いたジェットウィンダムの頭部を、狙い過たず貫通し粉砕する。
 ボッ、という粉砕音と共に実弾がジャットウィンダムの後頭部から抜けて、脳漿や頭蓋骨、血液の代わりに繊細な内部機器や、カメラ・アイのレンズが微塵に砕けて噴出する。
 センサー類の集中する頭部を失って挙動に大きな隙を生んだジェットウィンダムに、非情な第二弾が襲いかかり、敵意の炎を噴出していたコックピットに射入口を穿ち、バックパックのジェットストライカーも貫いた。
 頭部を失って一秒とかからずにパイロットの命を奪われ、戦闘能力を完全に奪われて、ジェットウィンダムは即座に爆発を起こし、炎の牙に群がられた四肢が爆炎の中から千切れ飛んでゆく。
 一度に三機の撃墜。GAUの性能もさるものながら、その性能を引き出すレオナの技量あればこその戦果である
 見る者がいたならばその大部分は陽電子リフレクターをものともしないクロスマッシャーの破壊力と派手さに目を奪われようが、わずかな隙を逃さずにジェットウィンダムの頭部を狙撃したレオナの技量もまた称賛に値する。

 

「この前の部隊より錬度が低いのは助かるわね」

 

 色艶のよいレオナの唇からは、かすかに安堵の成分を含んだ吐息が零れた。
 敵機動艦隊の主戦力をわずかに八隻の空中母艦で包囲しての戦闘は、先だってのロアノーク艦隊との戦いの時同様に数の不利を抱えてはいたが、質という点では三輪艦隊の方が劣っており、少なからずクライ・ウルブズの面々には救いであった。
 オクスタン・ライフルのカートリッジ交換が終わる数秒間、Eフィールドの展開に機体出力を割いて、周囲の敵機の動きに澄んだ湖の青色をした瞳を巡らすレオナの横に、いつものようにタスクが機体を横付ける。
 タスクは今回の戦闘で外装の全面交換をはじめ堅牢なシールドとそれを支える腕部関節をはじめ、機体中枢にまで手を入れて修理する必要の出たジガンスクードから、別の機体に乗り換えていた。
 ジガンスクードの修理が終わるまでの繋ぎの機体としてタスクにあてがわれたのは、セプタンに積まれて持ち込まれたヒュッケバインMk-Ⅱのカスタム機である。
 かつてはクライ・ウルブズに在籍していたジャン・キャリーが、パーソナルカラーの白に染めて乗機とし、ヤキン・ドゥーエ戦役を戦い抜いて戦果を上げた非常に優秀なパーソナルトルーパーだ。
 ジャンが工学博士としての技術と知識を活かす道を選んだために、パイロット不在となってヒュッケバインMk-Ⅱの量産型や後継機の開発に、オノゴロ島の軍事工廠に預けられていたものである。
 トダカ艦隊およびクライ・ウルブズへの補給物資の一つとして運び込まれたものだが、最新の機動兵器技術を盛り込み、カルケリア・パルス・ティルゲムをはじめ念動力系のシステムを組み込み、性能は前大戦時を大きく上回る。
 後継機であるヒュッケバインMk-Ⅲの試作装備や改良型テスラ・ドライヴなどが試験的に搭載されており、機体の外部装甲などもMk-ⅡからMk-Ⅲよりのモノに変えられていて、わずかながら外見が変化している。
 背にはマルチトレースミサイルを内蔵したコンテナを装備し、ビームソードはより高出力のロシュセイバーに、チャクラムシューターはファングスラッシャーに換装されている。
 カルケリア・パルス・ティルゲムの搭載によって、ガーリオン・カスタムGAU同様に念動フィールドが展開可能で、またグラビコン・システムによってGテリトリーの同時展開も可能だ。
 ヒュッケバインMk-ⅡからヒュッケバインMk-Ⅲへの過渡期にある機体であり、その事からヒュッケバイン・ハーフMk-Ⅲ、省略してハーフMk-Ⅲと開発者達からは呼ばれている。
 ジガンスクードに乗り続けたタスクにとって特機からPTへの急な機種転換は難儀な話に思えたが、カルケリア・パルス・ティルゲムによって脳にダイレクトに操縦システムがダウンロードされ、短時間で操縦が可能となった。
 新西暦世界でクスハ・ミズハが初めてグルンガスト弐式に搭乗した際に、民間人であったにも関わらず、あしゅら男爵の機械獣と戦えたが、ハーフMk-Ⅲに搭載されているシステムも弐式に搭載されていたものと同じ代物だ。
 パイロットが念動者である事を前提とした機能である為、パイロットを選んでしまう事が大きな欠点ではあるが、機動兵器のパイロットを二十四時間にも満たない時間で調達できるので画期的ではある。
 ハーフMk-Ⅲはシグロードを狙うフラッグに向けて、オクスタン・ライフルで牽制し、シグロードの後付け対空火器である76mmレーザー対空砲座の雨の中へと誘導し、瞬く間に紫のフラッグは青いレーザー雨に穿孔だらけにされる。
 運動神経は悲しいが視野の広さや追い込まれた状況での頭の回転の速さには定評のあるタスクは、周囲の状況を吟味してマルチトレースミサイルを、放射状に射出されるプラグラムを選択して発射した。
 ハーフMk-Ⅲとガーリオン・カスタムGAUの周囲に円形に広がったマルチトレースミサイルは、水上艦からの砲撃やクラップ級巡洋艦から発射されたミサイルへと向かい、ことごとく撃ち落として見せる。
 動体視力その他はそこそことはいえ、念動力者としては地球全体の規模で見ても類稀な素養を持つタスクは、カルケリア・パルス・ティルゲムの助けもあり、繊細かつ大胆な操縦を可能としていた。
 紺碧と濃い青を基調としたカラーリングのハーフMk-Ⅲの颯爽とした登場に、レオナはわずかに目を見張ったが、すぐにんん、と子猫の様に喉を鳴らして意識を切り替えた。

 

「新しい機体の調子は悪くないようね、タスク」
「へへ、ジガンとあんまり違うもんでどうしようかとおれも参ったけど、さっすがにヒュッケバインタイプの新型、動きが違うぜ。ジガンの整備にこき使われた疲れも吹っ飛ぶってもんだよ」

 

 そう笑って答えるタスクの眼の下や頬はかすかに窪み、長時間に渡ってジガンスクードの修理に駆り出された疲労のわずかな残滓がある。
 それでも出撃が決まった時から整備のローテーションから外されて、高カロリーの栄養剤を腹に入れ、睡眠を取っているからコンディションは充分戦闘に耐えられる状態に持ち直してはいる。
 ブラックホールエンジンを搭載した初代ヒュッケバインはステラの操縦のもと、ヤキン・ドゥーエ戦役を戦い、最後には失われたもののBHエンジンがもたらす膨大なエネルギーに支えられた性能を遺憾なく発揮した。
 出力機関こそプラズマ・ジェネレーターに換装されているが、その他の装備や機体のパーツのグレードが一段階向上したハーフMk-Ⅲの性能が存分に発揮されたならば、その戦果は敵陣営に恐怖をもたらすものとなるだろう。

 

「私はこのままシグロードとミネルバを守る位置に着くけれど、あなたはアルベロ少佐のサポートではなくって?」
「その少佐からの命令だよん。MAと艦艇の迎撃にレオナちゃんを専念させて、MSはおれが叩けってさ。いやあ~おれ達の仲を応援してくれているのかねえ」
「馬鹿な事を言っていないで戦闘に集中しなさい。ただでさえあなたはそそっかしいんだから」
「そんな危なっかしいおれは放っておけない? なんちゃって~」

 

 コックピットの中のタスクが首を傾げるのに合わせてハーフMk-Ⅲも小首を傾げた。無駄な所で細かな技術を披露するタスクに、レオナは呆れて、勝手に言っていなさいと言い返す事しかできなかった。
 この二人の付き合いももうそれなりの長さになるのだが、決定打になる出来事には欠けているのか、レオナがタスクを相手に正直な態度と気持ちを表す事は、相変わらず少ないままだった。

 

「二人とも甘酸っぱい恋のやり取りはそこまでにして置いてくれよ」

 

 無粋かな、と思いつつ、タスクと一緒にレオナのサポートに回されたロックオンが、苦笑を浮かべて二人に声を掛ける。
 フルシールドを装備したガンダムデュナメスは、ハーフMk-Ⅲとガーリオン・カスタムGAUより六百メートルほど後方に位置し、すでに額に隠されているセンサーを露出して狙撃態勢を取っている。
 二人がデュナメスに目を向けた瞬間、金属を引き裂くような音が響き渡り、GNスナイパーライフルから高圧縮されたGN粒子が一条の光線を描いて、遥か遠方の空を舞っていたフラッグのドライフレームを貫き爆散させた。
 突貫工事でコックピット内に増設されたスペースに収納されたハロが耳をパタパタと開閉させながら、命中、命中と囃し立てる。
 ようやく見慣れた風景になったデュナメスのコックピットの中で、ロックオンは小さく笑ってハロにウィンクを返した。

 

「ろ、ロックオン・ストラトス!? こ、恋のやり取りだなんて、何を」
「傍から聞いているとそんな風にしか聞こえないって事さ」
「お、オープンチャンネルだったの?」
「安心しなよ、敵さんにゃ聞こえていないさ」

 

 おれらにはまる聞こえだったけどな、とは言わないでおく。戦闘に支障が出るほど動揺しそうだったからだ。タスクはレオナの狼狽ににこにこと笑みを浮かべ、レオナはお人形さんみたいに整った頬をうっすら紅色に染めているに違いない。
 そう言いあう間も数で勝る三輪艦隊の水上艦艇が主砲や対空ミサイルを絶え間なく発射し、それに狙われるレオナやロックオン達はEセンサーや念動力によって感知した攻撃に対し、防御ないしは回避行動を取っていた。
 ロックオンの場合はいわずもがな、ハロにフルシールドの展開角度と機体の制御を預け、自身は狙撃に専念する為に、ライフル型スコープの先に映る敵機に対して電子義眼となった右目の眼差しを注ぐ。
 スコープ越しに敵機を操るパイロットの呼吸を感じ取る様に、集中力を針の先よりも細く研ぎ澄まし、研ぎ澄ました集中力が呼吸と共に指先に行き渡り、それがスコープに設置された引き金を通して機体に伝播してゆく。
 息を吸い、肺が膨らむ。膨らんだ肺から息を細く鋭く吐く。相手のパイロットの呼吸が、感情が、焦りが、高揚が、ロックオンの思考に鮮明に反映される。

 

――捕まえたぜ。

 

 口の中でそう呟いた時には、すでにロックオンの指はトリガーを引ききっている。光の速さで射出されたGN粒子は、一瞬の煌めきと共にジェットウィンダムの左胴体から入り、右の肩の付け根へと抜ける。
 コックピットを巻き込みつつ機体内部を高熱と高エネルギーで融解させ、破壊し、爆砕させ、噴水の様に噴出する血液の代わりに紅蓮の炎が噴き出した。
 ジェットストライカーを装備し、大気の影響を受けてパイロットが意図しない不規則な動きを交えた回避機動を敵機がとる中、正確無比な狙撃で着実にロックオンは戦果を積み重ねる。
 ふと、デュナメスとトリオを組んで戦闘を再開させたタスクが、デュナメスの狙撃の先に、必ずと言っていいほど、緑の光跡を描いて空を舞うニルヴァーシュの姿がある事に気付く。
 エウレカが操縦桿を握り、レントンがサポートするDC初のLFOは、テスラ・ドライヴ搭載機を凌駕する三次元機動をもって多くの敵を撹乱し、時にブーメラン型ナイフで切り裂き、時にミサイルと銃弾の弾幕を形成している。
 そのニルヴァーシュを囲い、狩りたてようとする動きを見せるジェットウィンダムに向けて絶妙なタイミングでデュナメスの狙撃が放たれ、ニルヴァーシュは思うさま波に乗るサーファーの様に動き続ける。

 

「焚きつけた責任は取らないとな」
「ロックオン、ナニカイッタ?」
「いや、何でもないさ」

 

 そう、何でもない。自分の言った事に責任をとるなんてのは、大人なら当たり前のことなのだから。

 

 * * *

 

「メガビームライフル!」

 

 シンが武装の名前を叫ぶのは、音声認識による武器選択システムを搭載していたグルンガスト飛鳥に乗っていた時についた癖だ。ABインパルスには音声認証のシステムはないが、時折口走ってしまう。
 ABインパルスの右腕に携えられたメガビームライフルから放たれる眩いという言葉では足りぬ圧倒的な光量の一撃は、イージスシステムが無力化され木偶の坊に等しくなってしまった水上艦のど真ん中に直撃する。
 船底まで容易く貫き、超高熱量で膨大な量の海水が蒸発して、一瞬、イージス艦を真白い霧が包み込む。瞬間的に海面が沸騰し、水蒸気爆発を起こす寸前で艦艇の機関や弾薬が一気に爆発を起こして、直径百メートルを超す大爆炎へと変わる。
 今の一撃で百単位の人間が死んだ、とシンの心の片隅で囁く声がし、磨き抜かれ鋭敏化された感性は死者の断末魔の声を、最後に思い浮かべた父母の、恋人の、子供の、友人の顔を朧気ながらに感じ取る。
 まばたき一回にも満たない時間、シンの脳裏を占めた死者たちの優しい記憶と死への恐怖に、胸に痛みを覚える。
 わずかな痛みでしかないことが、シンには悲しかった。
 もう人を殺す事に、すっかり慣れてしまった。自分が手にかけた人間が死にたくないと叫ぶ声に動揺する事も、今ではほとんどない。
 どれだけ自分の手は血で濡れたのか、シンは戦闘中には決して自分が自分の手を見ようとしない事に、ずいぶんと前から気付いていた。

 

「……っ!」

 

 感傷に浸る暇があるのか? 耳の内側から聞こえてきた囁きに、シンは反射的に機体を操る。アサルトパーツ両肩内部のEフィールド発生器が作動し、ABインパルス目掛けて放たれた「点」ではなく「面」を構成するミサイルの雨を遮断する。
 薄く加工したエメラルド片を組み合わせたように美しいEフィールドが、不遜なミサイルをことごとく防ぎ切り、ブルーを主体とするABインパルスの装甲に傷一つ刻まれる事はなかった。
 本来Iフィールドを発生させるアサルトパーツであるが、エネルギー兵器と実弾兵器に対する防御性と、プラズマ・リアクターの生む高出力を利用した標準のEフィールドを上回る強固さから、Eフィールドが採択されている。

 

「艦とMSが連携してきたかよ」

 

 そう吐き捨てるシンの脳裏を突き刺す殺意の針。思考速度よりもはやく肉体が反応した時、ABインパルスへと脚部の超振動クローを振り下ろさんと巨体を動かしていたザムザザーの頭部に、ロングレンジキャノンの砲口が向けられていた。
 彼我の距離二百メートル、ザムザザーの落とす影がABインパルスにかかっていたのは、わずかに数秒の事であった。
 長砲身の奥で凶暴に輝く重金属粒子は、コズミック・イラの技術が生み出した異形の魔獣をあざ笑いながら解き放たれる。
 ぎゅおぉぉおううう、と荒れ狂う獣の喉から放たれるのが相応しい咆哮は、太いピンク色の光とともにザムザザーを貫いた。
 直径にして五メートルを超す大穴は、メガ粒子砲の莫大なエネルギー・熱量によって、溶鉱炉の中の鉄と同様にどろりとザムザザーの機体全体を融解させてから後、爆発飛散する。
 ザムザザーを貫いたロングレンジキャノンの一撃は、幾分か減衰しながらもさらに天高くへと走り、大いなる神が放った雷のようにそのまま複数の敵機を火球へと変える。
 シンは一秒前までザムザザーの形をしていた融けた鉄塊を避け、機体に天空を向けさせたまま上昇させて、全知覚器官を導入して三百六十度の気配を探知。
 背後、左斜め前上方、直上から複数の殺意。放たれる前が五つ、放たれた後が三つ。それらを脳内で言語化する前にシンの肉体は生存に必要な行動に動いていた。
 背後からの攻撃――七発のビームライフルを、機体を捻らせて躱すと同時に右腕だけ背後に向け、相手を視認する事無くメガビームライフルを二射する。
 七つのビームのうち、三発がABインパルスの装甲をわずかにかすめ、振動を与えるのとほぼ時を同じくして、メガビームライフルの銃口から比較にならないほど強力なエネルギーが解き放たれる。
 視覚ではなく第六感と気配探知によって捉えた敵影への射撃は、本来当たる筈もない無造作かつ乱雑な動作だというのに、ABインパルスの背後を取った五機のジェットウィンダムをメガ粒子の濁流の中へと飲み込む。
 真上を取ったフラッグが放った六基のミサイルは、機体を三メートルほど右方向にスライドしてから砲身を上方向にはね上げたロングレンジキャノンを発射し、その余波で爆散させ、ミサイルを放ったフラッグの下半身が本命のビームに消し飛ばされる。
 直撃させる必要もなく敵機を撃破できるABシルエットの圧倒的な攻撃力に、シンは畏怖の念を強くし、自らの力の絶対性に酔いしれそうになる自身の感覚を是正しなければならなかった。
 この戦果は自分の力ではない。アサルトバスターシルエットの性能に頼ったものだと、そう思わなければ自分の心は慢心の鎖に囚われるだろう。
 新たな敵機の接近を告げるアラートと、心臓をちくちくと刺す殺気の針の刺激によって、シンの意識はすぐさま戦場に引き戻される。ABインパルスの左右から挟撃を仕掛けるフラッグ六機に、シンは素早く反応した。
 人体の神経伝達の限界をはるかに超えた反応速度は、これまでシンが耐え抜いてきた激烈な時間を暗示していたが、トリガーに掛けられたシンの指が引き絞られる事はなかった。
 左右のフラッグの後方に、ちょうど友軍機の姿があり、威力のあり過ぎるABインパルスのビーム兵器ではフレンドリーファイアを招きかねないと、即座に判断したためだ。

 

「だったら、こいつで! マイクロ・ミサイル!」

 

 ABインパルス機体各所に設置された六基のミサイルポッドから小型のミサイルが、一息に十八発、推進剤を底部から噴出させながら発射される。
 流石にビームほど破壊力は見込めず、また迎撃も容易ではあろうが、これなら後方の味方に流れ弾が行く可能性も少ない。
 案の定、放ったミサイルの半数はフラッグの携帯火器によって撃ち落とされ、残りも回避されるかディフェンスロッドによって直撃を防がれる。
 ミサイルの爆発によって生じた煙が、それぞれのフラッグの装甲に纏わりついて離れるよりも早く、シンは次の行動に移っていた。
 背のウィングバーニアから盛大にテスラ・ドライヴの粒子を放出し、機体を加速させつつ上昇してフラッグを眼下に見下ろす位置取りを行う。これなら外れたビームも、海面に直撃するだけで済む。
 シンの左手の指がわずかな抵抗を感じながらトリガーを引き絞り、スプレービームポッドから二十近いビームが、眼下に捉えたフラッグ達へと一直線に輝跡を描く。
 滝の様に降り注いだ拡散ビームは、メガビームライフルやロングレンジキャノンに比べれば一発一発の威力は低かったが、一機に対して五射六射と命中し、フラッグが糸の切れた傀儡人形の様に壊れて行く。
 ABインパルスの左側に回り込んできたフラッグをスプレービームポッドで一掃したシンは、右側に来たフラッグへと腰両側のヴェスバーの銃口を向ける。視覚的には真下を向いているシンの右目の上端の辺りにフラッグの機影が映る。
 友軍機の撃墜と同時に三方向に散開し、高度をこちらに合わせてきたフラッグらの一機を照準内に素早くとらえるが、シンはまたしてもトリガーに指を添えるに留めた。
 フラッグ達は、ザフトのザクやDCのエルアインスを背後に置いてABインパルスへとビームを射かけてきていた。
 ヴェスバーの銃口を向けたまま、シンはフラッグのパイロット達が飛ばしてくる殺意を感知し、攻撃されるよりも早く悠々と回避行動をとって、乱射されるビームの全てを回避している。

 

「こいつら、狙ってやっているのか?」

 

 強力すぎるABインパルスの武装をある程度封じるために、背後を突かれる危険を冒してまでDCやザフトの機体を背後に背負うなり近接させた状態を維持している。
 それをやってのける度胸と技量は称賛に値するが、よくもそんな危険な真似を実行したものだ。ABインパルスの攻撃にある程度枷をかける事が出来るにせよ、他の敵機への警戒と集中が途切れやすくなろうものだというのに。

 

「なら接近戦で片付ければ何も問題はないさ」

 

 メガビームシールドを左腕の外側に固定し、代わりにビームサーベルを握らせたその瞬間に顔面を、灼熱の殺気がおもいきり叩いてきた。強靭な意志に支えられた殺意は、焼き鏝を当てられた様な苦痛をシンにもたらす。
 眉を顰めながらも、シンは脊髄反射でメガビームシールドのビットを展開し、UC150年代の戦艦のビームシールドに匹敵する堅牢な光の盾が出現する。
 ABインパルスの全身をカバーしてもなお余りある巨大なビームシールドは、クラップ級巡洋艦の主砲の直撃にも耐えて見せ、ABインパルスのモニターを埋め尽くす光の砲撃は徐々に細いものへと変わってゆく。
 絞られたとはいえ目を焼く光の強さに目を細め、シンは苛立たしく歯を食い縛る。

 

「……戦艦のメガ粒子砲か。主砲の前に誘い込まれたかよっ!」

 

 ABインパルスの武装使用を牽制しつつ、クラップ級巡洋艦の主砲が狙いやすい位置に誘い込み、動きを束縛する。最後のABインパルスの動きを束縛する事は叶わなかったが、向こうのに手に乗ってしまった形だ。
 まだ数の少ないクラップ級を使ってまで撃墜しようとしてくるとは、なかなかこちらの事を高く評価してくれているようだ。

 

「なら、その評価に返礼してやるさ。最悪の形でな!」

 

 ふ、と浅くシンは息を吸う。万分の一秒ほどの集中で、シンは己の内面へ意識を深く深く潜り込ませ、ソレを見つける。
 星明かり一つない暗黒の空間に、波紋を浮かべながら弾ける真っ赤な種子。弾けた種子の内側からは色とりどりの粉雪の様に儚い光が、わずかな時間だけひかり輝いて暗黒の世界を照らし出す。
 同時にシンの体内の全細胞、全神経に波紋が起こした不可視の波が広がり、降り積もっていた疲労や加えられていた負荷が一時払拭され、肌を剥がされたように痛いほど鋭敏化する。
 放たれた殺意を感知し、攻撃される前から回避する事を可能とする領域にまで高められたシンの知覚能力が、さらに肉体的に一段階昇華され、シンは機体の装甲を撫でる風の流れさえ明敏に察知していた。
 前大戦時、ステラが撃墜されたと勘違いした事をきっかけに目覚めたシンの力。DCの戦士たちの中でも、現在、シンだけが有するSEEDの力。
 この力との付き合いも長く、自力で発動できるようになったのもかなり前の話だ。赤から昏く沈んだ真紅の色へと、シンの瞳が変色し、少年の幼さを残した顔から表情がぬぐい去られて、能面のような印象を強くする。
 その戦闘能力を全開放し、三輪艦隊を壊滅させんと、シンの冷徹な闘志と業火のごとき闘気がエネルギー・マルチプライヤーを通してABインパルスの機体を陽炎のように包み込んだ。

 

「すぐに終わらせてやるさ、こんな戦い」

 

 静かなシンの言葉であったが、その実、響きの一つ一つに煮えたぎる烈々とした感情が込められていた。

 

 * * *

 

 睨んだ通りに攻撃の手を緩めたABインパルスに、メガ粒子砲が直撃するもビームシールドが展開されて防がれた光景を、三輪は忌々しげに見つめていた。鬼の形相を連想するほど険しい顔は、その視線だけで人を殺してしまえそうだ。

 

「強力な兵器は称賛されてしかるべきだ。しかし、強力すぎる兵器と強力な兵器は違うものなのだ。馬鹿者め」

 

 それは味方を巻き込みかねないほど強力な武装で固められたABインパルスを開発したDCに向けられたようにも、あるいはオブザーバーシートに座す狂気科学者に向けられているようでもあった。
 ミノフスキー粒子によるジャマー効果が見込めなかった動揺はすでに三輪にはなく、艦隊各員に対し激を飛ばし、クライ・ウルブズの猛攻にしり込みする諸兵の士気をよく支えていた。

 

「コッホ博士、いい加減貴様のおもちゃも出してもらうぞ」

 

 この状況でさえ断るようならば、銃殺も止む無しと、三輪はこの時、腰のホルスターに収めていた拳銃に右手を掛けていた。
 三輪の殺意に気付いているのかいないのか、元DC副総帥アードラー・コッホは、けひけひと耳障りな笑い声をあげながら、鷹揚に頷く。

 

「よかろう。わしの作り上げた完璧な無人機動兵器の力、ビアンめに教えてやるには、ちょうど良い手合いよ」

 

 自分の作品達の絶対勝利を疑わぬアードラーの笑みは、ただただ深まるばかりで、狂気と欲望とがどろりと絡まり合った瞳には、世界を統べる存在となった自分の栄光の未来ばかりが映し出されていた。
 そして、アードラーが完成させたゲイム・システムを搭載したヴァルシオン改(さらにそのデチューン機なのでヴァルシオン改・改とでも言うべきか)部隊の出撃を承認し、深い青を纏う魔王の軍団が戦場に姿を現し始める。
 戦闘空域に急速に接近する大型熱源を一番に察知したのはセプタ級シグロードのレーダー観測員だった。

 

「艦長、司令、戦闘空域に急速接近する機影あり、数は二十、機種は……ヴァルシオン改です。所属は地球連合軍と思われます!!」
「な、ヴァルシオン、だと! しかも、二十機!?」

 

 動揺を隠せないシグロード艦長をはじめとしたブリッジクルー達の中で、ただ一人エペソだけはやや目を細めただけだ。
 ジェネシスをめぐる攻防で地球連合軍が運用するヴァルシオン改と戦った経験から、このような事態もあり得ると以前から踏んでいたのだろう。
 ヤキン・ドゥーエやボアズで交戦したヴァルシオン改にはさまざまな装備が施され、ニュータイプ能力に目覚めたグレース・ウリジンの操縦技術とあいまって、サイレント・ウルブズらの各精鋭達が複数がかりでようやく互角だった。
 二十機すべてのヴァルシオン改が、あの時のヴァルシオン改ほどの性能を持っているとは考えにくいが、DCのフラッグシップたる機体を量産しこちらにぶつけて来た生産力は脅威だ。
 その圧倒的性能の恩恵に少なからずあずかってきたDCの諸兵にとって、量産されたヴヴァルシオン改の部隊は、大きな衝撃を与えるには十分すぎる。
 それに量産型とは言えヴァルシオン改の性能は決して侮って良いものではない。となれば対特機との戦闘経験を持ち、突出した戦闘能力を誇るクライ・ウルブズが対処するのが最善手だろう。
 クライ・ウルブズの各機が抜ける事で戦闘のバランスが崩れてこちらに不利な形に天秤が傾く可能性もあったが、通常部隊では到底太刀打ちできない相手に違いない以上、他に策もなし。

 

「クライ・ウルブズ全機に通達。地球連合のヴァルシオン改はクライ・ウルブズの戦力を持って撃滅する。シン・アスカ、アクセル・アルマー、レオナ・ガーシュタイン、ステラ・ルーシェ、貴公らの機体なら正面からでも当たり負けはせぬ。
 汝らを主軸に連携を持ってヴァルシオン改部隊と事に当たれ。メカゴジラとケロン部隊は継続して敵艦隊の攻撃に努めよ。ただしヴァルシオン改がこちらに抜けてきた場合は即座に迎撃にあたらせよ」

 

 エペソの指示がせわしく飛ぶ頃、全長687メートル、全幅1400メートル、自重9650トンの原子力空中空母二隻から出撃した二十機ものヴァルシオン改部隊は、四つのカメラ・アイに鈍い光を宿し、戦闘空域へと突入を開始する。
 すべては創造主たるアードラー・コッホの命令を果たす為に。魔王と称されるヴァルシオンシリーズの圧倒的戦闘能力が、今、DCとザフトに牙を剥かんと吼え猛っていた。

 
 

――つづく。

 
 

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