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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第40話

Last-modified: 2014-01-03 (金) 00:03:48
 

ディバインSEED DESTINY
第四十話 黒衣の総統

 
 

 通常の地球連合の戦力ではまるで相手にもならないクライ・ウルブズを翻弄し、巨大な水晶の怪物としか見えない異様な敵戦艦に砲火を浴びせる深青の魔王たちの姿は、地球連合の諸兵達にとってまさしく希望そのものであった。
 とはいえさすがにDC最精鋭にして現在地球圏最強の遊撃部隊と内外で高い評価を受けるクライ・ウルブズは、敵対者の背筋に冷たいものを流させるほどの底力を発揮して、数機のヴァルシオン改を撃破している。
 しかし、その戦果をもってしても戦いの天秤は大きく三輪艦隊に傾きつつあった。
 クライ・ウルブズ以外にもミネルバの機動兵器部隊が勇ましい活躍を見せてはいるが、MS至上主義のザフトらしくほとんどMSだけで構成されているために、特機であるヴァルシオン改の猛攻を前にして火力が足りず、徐々に押し込まれつつある。
 ミネルバMS隊の中で異彩を放つ四本の腕と天使の翼をもった青い鎧の騎士然とした外見のヒュポクリシスは、単独でヴァルシオン改と互角以上に渡り合うポテンシャルを有していたが、三輪艦隊のテュガテールに食らいつかれ動きを封じられている。
 テュガテールはヒュポクリシスがザフトの中で浮いているように、地球連合が運用している機体の中でもひときわ異様な風体の外見をしている。
 手持ちの武装は銃火器はもちろん刀槍といった類の武器を持っていない。人面の少女らしいシルエットだが、頭部から四枚の翼が生えた奇妙極まる意匠だ。
 仔細に観察すればザフトのヒュポクリシス、DCのエレオスと共通したディテールを見出すこともできるだろう。
 ピンク髪を綺麗に切りそろえた活発な印象の強い少女ティスは、愛機テュガテールと親子ロボと自称しているパテールを呼び出して、ヒュポクリシスに対してめったやたらと殴りかかっている。
 戦闘というよりは癇癪を起した子供の喧嘩のような戦い方だ。テュガテールの三倍かそれ以上のサイズのパテールが振り回す拳を、あわてた様子のヒュポクリシスが回避し、それを見越したテュガテールがドロップキックを放つ。
 ヒュポクリシスのコックピットに座るラリアーは、普段の落ち着いた利発そうな雰囲気はかけらも残さず、うわ、と慌てた声をあげてヒュポクリシスを操らねばならなかった。
 ヒュポクリシスの下二本の腕が握る両刃剣を交差させてテュガテールのドロップキックを受け止めるが、小柄なテュガテールのどこに秘められていたのか、ヒュポクリシスはそのまま後方に吹き飛ばされる。
 崩れた機体の体勢を立て直しながら、ラリアーは自分たちデュナミスに生み出された者たちの間でのみ通じる秘匿回線を開き、手加減の手の字も知らぬ様子で攻撃してくるティスに困惑の強い文句を飛ばす。

 

「ちょ、ちょっとティス、いくら見られていて手加減できないからって、やりすぎだよ」

 

「気にしない、気にしない。ほらほら、あんたも反撃しないと怪しまれるよ! パテール!」

 

「え、う、うわ!?」

 

 ティスの掛け声とともにヒュポクリシスに降りかかった巨大な影に気付き、ラリアーは慌ててヒュポクリシスを右方向に飛び退かせる。青い残像をパテールが組み合わせた巨大な拳がぶち抜く。
 あれが当たってたらタダじゃすまないよ、とラリアーは口まで出かかった文句を飲み込んだ。デュナミスからはお互いを傷付け合うほど真剣に戦わなくていいと言われていたのだが、ティスはどう考えても本気に近い闘志を見せている。
 前にティスが楽しみに冷蔵庫にとっておいたプリンを黙って食べてしまったことを、まだ根に持っていたのだろうか。甘さが絶妙で新鮮な卵をふんだんに使った一品で実においしかった。
 いや、それともお風呂に入っているのに気付かず、着替え途中だったティスのいかにも子供子供している裸身を見たときのことか。見てもうれしくも何ともなかったのだが、それを言うと余計に怒り出してひどく殴られた。
 いくらなんでもそれはないだろうと思うのだが、ティスの場合本当に有り得そうで、むしろ怖い。
 二人というか、ティスばかりが本気を出す戦いに気が咎めて、アルベロのビルトシュバインとペアを組んでヴァルシオン改と戦っていたデスピニスが、見かねた様子でティスを諌める。

 

「ティス、あんまりラリアーを困らせないで」

 

「ここで変に手加減したらあとでデュミナスさまに迷惑をかけちゃうかもしれないでしょーが。同じ迷惑かけるのなら、デュミナスさまよりもラリアーに決まってる!」

 

「ええーー!? そりゃデュミナスさまのほうが僕より大切なのはわかるけれど、もう少し僕にも迷惑がかからないようになにか方法を考えてよ!」

 

「お黙り! 男ならうだうだ文句を言わないの! あんた、ちゃんとついてんの!!」

 

「は、はしたないよ、ティス」

 

「デスピニスも、さっさと戦いに集中しなさいって。それじゃね」

 

「あ、もう……。ティスったら」

 

 実の姉妹も同然のティスに対しても、デスピニスはいかにも病弱な深窓の令嬢を思わせる気弱な態度は変わらない。
 笑顔を浮かべればどんなに偏屈で子供嫌いの大人でも、つられて微笑を浮かべてしまいそうなくらいに愛らしく整った顔立ちなのだが、普段からどこか世界中に責められているかのように翳を帯びた表情をしている。
 誰も異論を挟まぬくらいの美少女であるというのに、纏う雰囲気のせいで、周囲の人間は将来何か良くないことがこの少女の華奢な体に降りかかる予感に襲われていらぬ心配を覚える。
 デスピニスに対して姉を自称するティスにとっては、デスピニスのそんな態度も作りだされた時から慣れっこなので、まるで気にとめた様子もなく変わらずヒュポクリシスに怒涛の連撃を仕掛ける。
 デスピニスは、はあ、ともう数えることを諦めた溜息を吐きだした。

 

「ラリアー、がんばって」

 

「デスピニス!?」

 

 ぶつん、と無機質な音を立てて消えたモニターに向けて、ラリアーはそんな無情な、と叫ぶものの、前後をパテールとテュガテールに挟まれて、そちらに意識を振り戻さなければならなかった。
 デスピニスが楽しみに取っておいたアイスクリームを黙って食べてしまったことを、まだ根に持っていたのだろうか。
 いや、あるいは階段を上っているときに間違って足を滑らせて、先に階段を上っていたデスピニスのスカートの中に頭を突っ込ませたことを怒っているのだろうか?
 ラリアーはデスピニスに恨みを買うような記憶を自分の記憶の地層から、掘り返してみるが、思い当たることが多すぎて明確な答えは出なかった。
 エレオスを操ってビルトシュバインと共にヴァルシオン改と切り結びながら、デスピニスは、半ベソをかいているラリアーの声を聞こえない、聞こえない、と何度もつぶやいて聞かなかったことにする。
 ヴァルシオン改を相手に戦わなければならず、仕方ない、ラリアーを見捨てたわけではなくて私のしなければならないことをするんだ、と自分に言い聞かせていた。

 

 * * *

 

 三輪艦隊旗艦クラップ級戦闘用艦橋で、アードラーは各モニターに映し出された自分の作品たちの勇壮な活躍に、瞳を光がこぼれんばかりに輝かせ、罅だらけの唇を三日月のように吊り上げていた。
 純粋な歓喜に浮かされて浮かべた笑みだが、目撃した者に問うたら一万人が一万人全員、二度と見たくないと眉間をしかめて答えることは間違いない、気色悪く邪悪さをにじませた笑みであった。
 それはアードラーの隣で艦隊の指揮を執る三輪も同様なようで、一度アードラーの笑みを見たときに、ろくでもないものを見たとあからさまに顔を顰めてからは、極力アードラーを振り返らぬように努めている。

 

「かぁかぁかぁ、きぃきぃきぃ、くぅくぅくぅ、けぇけぇけぇ、こぉこぉこぉ、どうじゃ、わしのゲイム・システムの威力は! ビアンが集めたおもちゃどもなんぞ、わしの頭脳にかかれば木偶よ!!」

 

 わけのわからない笑い声をあげるアードラーを、オペレーターをはじめ管制官などブリッジスタッフがぎょっと振り返るも、醜さをいやますアードラーの醜悪な笑みに、顔色を青くして視線を引きはがす。
 耳を引きちぎりたい衝動をこらえながら三輪は指揮を執り続ける。あまりの忌々しさに腰の拳銃に延びた手を止めるのには、たいへんな労力が必要だった。
 作戦が成功に終わったら、二度とこのアードラーと顔を突き合わせることにならないようありとあらゆる手を尽くすことを、三輪はこれまでの人生で覚えがないほど堅く誓う。
 そこじゃ、叩きつぶせ、ええい容赦なんぞせずにぶっ壊してしまえ、とオブザーバーシートから立ち上がったアードラーは口角から黄色みがかった唾を飛ばしながら、ヴァルシオン改部隊に檄を飛ばす。
 熱狂的なスポーツファンに似た様子ではあったが、アードラーの視線の先で繰り広げられているのは技術と技術を競い合う健全な運動などではなく、国家の安全と未来をかけて行われる命がけの戦争である。
 少なくとも軍人としての気骨と矜持ばかりは持ち合わせている三輪にとって、自分の隣に立つ老人は、汚物以外の何物でもなかった。
 三輪が傾倒しているブルーコスモス盟主ロード・ジブリールに、この男の意を最大限汲むようにと言明されていなければ、航海の途中で営倉に放り込んでいる。
 三輪艦隊は八隻のDC・ザフト艦隊に四方を囲まれた状態であったが、ヴァルシオン改部隊の投入と、それによる敵機動兵器部隊の大きな後退によって包囲網を突破すべく動いていた。
 海面下では直曵に残していたフォビドゥン・ヴォーテクス部隊が激闘を演じ続け、空でもウィンダムを中核とした部隊が勢いを取り戻しつつある。
 残っている艦艇とMS部隊を一本の矢のごとく戦力を集中させて、艦隊前方に布陣していたセプタ級とストーク級に砲火を集中して、二隻の敵艦の船体から盛大な黒煙を噴出させることに成功している。

 

「主砲、一番、二番、撃てい! 対空砲座、一機も艦に近づけるな!! 対空砲火では艦は落ちん。密集して対空砲火の密度を上げろ」

 

 ストーク級はエネルギー・フィールドの出力を強化して三輪艦隊の砲火を耐え忍び、セプタ級は自己修復機能とEフィールドを頼りに、船体に誂られたミサイル発射管、対空レーザー、対空機銃の火勢を強めている。
 さすがにいくら自己修復機能があるとはいえ、船体を構成する素材を直接射出するクリスタル・マスメルの頻繁な使用は控えているようだ。
 水上艦艇を含む艦隊の猛火を小うるさいセプタ級に浴びせ、三輪艦隊はじりじりと足元に火がついたような焦燥に煽られながらも、根気強く包囲網突破と砲火の返礼に専念しつづけていた。
 ストーク級が撃墜の危機をしのぐことに手を塞がれ、セプタ級は搭載機と残っていた航空部隊のリオン、VF-19Aエクスカリバーと連携してなんとか三輪艦隊の頭数を減らさんとこちらも執念を燃やす。
 だがすでにセプタ級に取り付いていたヴァルシオン改のクロスマッシャーの嵐を受け、容赦なくEフィールドを突破した破壊エネルギーに船体を抉られれば、執念の炎も勢いを弱めざるを得ない。
 船体を構成する赤紫の水晶片を無数にこぼしながら、さすがに勢いを殺がれたセプタ級が徐々に三輪艦隊の力押しの戦い方に押され、ついには三輪艦隊に包囲網の突破を許してしまう。
 包囲網の突破を確認し、背中への砲火を受ける時間を極力減らすべく、三輪はすぐさま艦隊の艦首をめぐらすべく新たな指示を飛ばさねばならなかった。
 先行して出撃したネオ・ロアノーク大佐率いる機動兵器部隊第一陣は、現在もDC・ザフト・大洋州連合の部隊と互角の戦いを繰り広げており、三輪艦隊へ帰還するまではまだ時間があるだろう。
 願わくば敵機動兵器部隊を突破し、後方の機動空母タケミカズチ、タケミナカタを中核とする三国連合の母艦に、なんとしても打撃を与えてもらわねば困る。
 数で勝り、ヴァルシオン改の投入で士気の向上が計られた三輪艦隊の威勢は、確実にDC・ザフト艦隊にその牙を深く食い込ませつつある。
 なんとかなるか、ではなく、なんとかなる、と三輪のみならず艦のクルー一同の心中が好ましい方向に変化しつつあることに、全く気付いていないのか、アードラーは大きく目を見開いて三輪を振り返る。
 限界まで見開かれ血走った瞳、悪魔的につりあがり口の端に泡を浮かべた狂笑、正気の名残を一片たりとも窺えぬアードラーの相貌は、幼子ならば見た瞬間に引付を起こすに間違いないものに歪んでいる。

 

「いぃっひひひひひ!! わしの才能、わしの采配、わしの技術があればこの結果も当たり前よ。ゲイム・システムが大量量産の暁には、宇宙の砂時計もビアンの居座るちっぽけな島も、すべて蹂躙しつくしてくれる。
 わしが、このアードラー・コッホこそが真にこの地球に必要な才能なのじゃ! くひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

 

 背骨が折れんばかりに胸をそらし、鼓膜が腐り果てる狂い笑いを艦橋に木霊させるアードラーへの抑えがたい殺意に、三輪の手が動きかけその瞬間、豊かな茶髪を結いあげたモンゴロイド系の若い女性オペレーターが大声をあげた。

 

「ゲイム07反応消失! 撃墜された模様。ゲイム15の反応も消失しました!?」

 

「ひゃひゃひゃ…………なんじゃと? わしのヴァルシオン改が? 落とされた? 撃墜された? 貴様、なにかの間違いではないのか!!!!」

 

 その白い喉を噛み破るぞとばかりに黄色い歯と薄汚れた歯茎をむき出しにするアードラーの怒気とおぞましさに、うなじに鳥肌を浮かばせながら女性オペレーターは懸命に自らの仕事を果たそうと努力する。
 三輪はアードラーほどの狂態は見せなかったものの、現在の戦況を支えるもっとも大きなな要因であるヴァルシオン改の撃墜は、到底歓迎できず厳しい表情を浮かべて詰問する。

 

「コッホ博士、少しは口を閉ざさんか! 必要な情報が手に入らん。オペレーター、状況を正確に伝えろ」

 

 身内に対しても高圧的で傲慢極まりない三輪であったが、この時ばかりは彼以上に不興を買うアードラーを黙らせたとあって、艦橋のスタッフから若干高評価を得た。
 もっとも本人は周りから普段はうとまれていることや、コッホへの叱責で若干株をあげたことなど露とも知らぬが。

 

「DCのインパルスです。ライブラリに照合しない武装を用いて、ゲイム07、15を撃墜した模様。すでにゲイム11と戦闘を行っています」

 

「ちい、DCのガンダムかっ。強奪したセカンドステージなんぞよりよほど厄介だな。アムロ・レイが乗っているわけでもあるまいが!」

 

 あまたの機動兵器とスーパーロボットが混在する新西暦世界でもなお生きた伝説のエースとして知られる白い悪魔、白い流星の異名を持つニュータイプの名前を挙げて、三輪は忌々しいとばかりに口元を怒りに歪める。

 

「司令、10時方向より接近する熱源を確認しました。大型戦艦と思しき反応1、機動兵器2、時速700km以上で戦闘空域に急速接近。
 ライブラリに照合ありません。ミノフスキー粒子、GN粒子、ニュートロン・ジャマーの妨害作用で探知が遅れました!」

 

 別の東南アジア系の健康的な褐色の肌をもった黒髪の美人オペレーターが、簡潔かつ要点のみを三輪に告げる。

 

「ここまできてか!? スペースノア級ではないのだな?」

 

「はい」

 

 地球連合のライブラリには、三輪が乗ってきたクラップ級に登録されていたラー・カイラムをはじめ、エクセリオン級、マクロス級、また各異星人や地下勢力の用いていた艦艇のデータもある。
 それらにも該当しないということは三輪が――少なくとも所属していた新西暦世界の地球連邦軍が接触したことのない勢力の艦か、この異物の混ざりに混ざった混沌たるC.E.世界独自の新型艦艇ということか。
 いずれにせよ頭を悩ます種が向こうから飛び込んできた形となる。三輪が眉間にナイフで刻まれたのかと見間違うほど深い皺を作る横で、アードラーは茶髪のオペレーターに詰め寄って、DCインパルスとヴァルシオン改との戦闘を中継するよう要求していた。

 

「はやくゲイム11の姿を映さんか! わしのゲイム・システムを搭載したヴァルシオン改が、たかがMSなんぞに、ビアンの手の者なんぞに負けるはずがないじゃろうがあ、ああん!?」

 

「ひ、え、映像を回します」

 

 モニターに噛みつかんばかりに身を乗り出したアードラーの目に、アサルトバスターシルエットを装備し、ヴァルシオン改と無数の光芒を煌めかせるDCインパルスの雄姿が飛び込んでくる。

 

 * * *

 

 シン・アスカの駆るアサルトバスターインパルスガンダムは、DCの保有するEOTとビアンの持てる技術と技術者魂の粋を凝らされたMSということを踏まえてもなお、その戦闘能力は言語を絶するものがあった。
 アードラーが完成と判断するにまで至ったゲイム・システムの戦闘能力は、これまでクライ・ウルブズの精鋭たちを苦しめてきたことでも十分にわかる。
 いかに宇宙世紀最高峰の装備を搭載したアサルトバスターシルエットといえど、その根本的な性能を支えるミノフスキードライブは備えてはおらず、インパルスの基本性能が高次元でまとめられてはいても、MSの域を超えてはいない。
 基本的にパーソナルトルーパーやモビルスーツでは対抗するのが難しい強敵・状況と打破するのが特機すなわちスーパーロボットの存在意義である。
 搭乗者の技量、状況によってはまれにPT・MSなどが特機を撃破することもあるだろう。しかし、二機立て続けに撃墜し、さらに三機目の特機撃破に猛進するABインパルスの姿は決して偶然やまぐれで片づけられるものではない。
 先だってのハレルヤ・アレルヤの超兵二人とセルゲイ・スミルノフというベテランパイロットとの死闘が、シンの潜在能力のさらなる開花につながり、パイロットとしての力を更なる高次の領域へと押し上げたのだろう。
 戦闘用人工知能として最高峰にランクされるにふさわしい能力を備えたゲイム・システムを相手に、そしてMSで特機を相手に圧倒に近い勢いで戦って見せているのだから。
 ヴァルシオン改の深い青に比べて、晴れ渡った空の色に近い青と美しい金色の装甲をもったABインパルスが、牙を剥いて絡み合う二匹の毒蛇の様な軌跡を残して激突を重ねていた。
 数十度目になる交差点で一瞬の光芒のさなか、ABインパルスのメガビームライフルを握る腕が、垂れた状態から神速の速さで動き、その長砲身の砲口が対峙していたヴァルシオン改の頭部へと向けられる。
 彼我の距離は対峙した状態からわずかに十メートル。
 射撃武装で固められているというのに、シンが最も得意とする接近戦の間合いに無理やり詰めるABインパルスから逃れようとヴァルシオン改が逃げ惑っていたのを、遂に追いつめたのだ。
 ゲイム・システムの認識外の速度で動いたABインパルスの挙動に、ヴァルシオン改を制御するゲイム・システムは、人間で言うところの動揺に近い反応を見せたが、それも即座に消去。
 メガビームライフルの砲口の奥に高エネルギーの魔物が牙をむき出しにする寸前、ヴァルシオン改の右手が動いた。
 左腰を斜め下から切り上げてくるディバイン・アームを一瞥するまでもなく、チリ、と体の一部が熱を持ったと感じた瞬間に、シンの肉体は反射的に動く。
 ディバイン・アームの刀身をABインパルスの左足が蹴り飛ばし、その反動でぶれるメガビームライフルの照準補正を電光石火の速さで行いながら、シンの指がトリガーを一気に引き絞る。
 シンの暗く濁った紅の瞳に、左頭部を膨大なビームの奔流に飲み込まれるヴァルシオン改の姿が映る。
 左の複眼よりやや外側に命中したメガビームライフルは、繊細な電子機器を満載した頭部への一撃とあって、ヴァルシオン改の左側頭部から伸びる湾曲した角を吹き飛ばしていた。
 モニターの向こうにクロスマッシャーの光の明滅が始まるのを、目ではなく直感で把握したシンは、すぐさまヴァルシオン改背部ユニットのクロスマッシャー発射口へとロングレンジキャノンとビームスプレーポッドを発射する。
 いかに重厚な特機の装甲といえど光学兵器を発射するための射出口にまで分厚い装甲の保護を施せるものではない。
 ゲイム・システムが機体に回避行動をとらせるよりも0.01秒早く、インパルスとABシルエットに内蔵されたプラズマ・リアクターのエネルギーが、破壊的な志向性を持たされて、ABインパルスの背中から光の竜となって荒れ狂う。
 ロングレンジキャノンの桜色のビームは、青い空を切り裂く一文字の軌跡を残してヴァルシオン改の背部ユニットを貫き、BSポッドから雨のごとく放たれた光の糸は背部ユニットをはじめ次々とヴァルシオン改の装甲を撃つ。
 一射一射の威力はけして高くはないが、数多のビームが命中しヴァルシオン改の青い装甲も、わずかずつではあるが劣化してゆく。
 蓄えていたクロスマッシャーのエネルギーが放たれる先を求めて荒れ狂い、ヴァルシオン改の背中で直径百メートルに届こうかという巨大な爆発が生じる。
 ロングレンジキャノンとBSポッドの発射を認識するのと同時に、ヴァルシオン改から距離をとっていたシンは、糸の切れた操り人形のように海面に落下してゆくヴァルシオン改を放置し、すぐに次の敵へと狙いを定める。
 通常の指揮系統とは別の所属のようで、先ほどまで相手にしていたMS部隊との連携を見せないヴァルシオン改のおかげで、シンは強力すぎるABシルエットの武装の使用を躊躇することは格段に少なくなっていた。
 射線軸上に友軍機がいる状態を維持されることは少なくなったし、またそうなったとしてもビームサーベルを片手にヴァルシオン改と至近距離で斬り結ぶだけの技量がシンにはある。
 三輪艦隊のMS部隊には、ヴァルシオン改の戦いの中に割り込む度胸と技量がないようで、ヴァルシオン改が交戦しているクライ・ウルブズの機体に対しては傍観に徹し、艦を落としにかかるか、遠巻きに撃ちかけてくる程度だ。

 

「味方が落とされるよりも早くヴァルシオン改を片づけないとか」

 

 とはいえ、DCのフラッグシップ機の量産型を地球連合に使われているという衝撃と、気を抜けばこちらの首をあっという間に掻き切られるほどの力を見せるヴァルシオン改を、手強いと思うシンの気持ちに偽りはない。
 忌々しさを交えて吐き出した言葉には激情の熱こそなかったが、腰まで血の海に浸かる修羅の戦場を生き抜いた戦人の冷徹があった。
 三機のヴァルシオン改を連続して撃墜した戦果の手応えをわずかに心の片隅に感じながら、シンは思考と切り離した直感が左手を動かすのを視界の端で認めていた。
 メガビームシールドの表面上に収納されていたバリアビットが展開され光で構成された三角形の盾を構築し、四機目のヴァルシオン改が放ったクロスマッシャーを受け止める。
 シンの指先から頭の先、全細胞にまで行き渡った超人そのものの超感覚が動かし、認識外にあった攻撃にさえ肉体が思考よりも早く反応している。
 あくまで対人戦闘を想定してプログラミングを行い、ゲイム・システムを完成させたアードラーの見込みが甘かったというべきか。
 それともスクールでの人体実験やテンザン・ナカジマ、リョウト・ヒカワといったアドバンストチルドレンのデータを見越したうえで作り上げられたというのに、そのデータを超越するシン・アスカが異常な存在なのか。
 バリアビットが展開した光の盾とクロスマッシャーの衝突点で激しいスパークが生じるのを見守りながら、シンは一度だけ深く肺に酸素を取り込み、体の下から上へと太陽が昇るのを脳裏にイメージする。
 一瞬でシンの体内のリズムが整えられ、脳の表面を羽毛でなでられるような奇妙な感覚が、機体と自分をつなぐのを確認する。
 リミッターつきではあるがカルケリア・パルス・ティルゲムとのリンク係数を、意図的に増したときに発生する一種の副作用だ。

 

「カルケリア・パルス・ティルゲム、フル・リンク。ズフィルード・クリスタル・ブレードモードに組成変換。レンジ内ターゲット捕捉……12……15……22。フェザー展開!!」

 

 本来の完成形態アサルトバスターV2インパルスならば、ミノフスキードライヴが搭載されるウィング・バーニアから、増幅されたシンの念に導かれて、充填されていた流体フィルード・クリスタルが刃の形をとりいくつも射出される。
 四方から撃ちかけられるクロスマッシャーとジェットウィンダム部隊のビームの檻の中を飛翔し、余剰エネルギーによって構築された光の翼から、次々と赤紫の水晶が舞い散り、ABインパルスに追従してゆく。
 ヴァルシオン改一機を含む全二十二機の敵機をすべて超自然的な知覚の網に絡み取ったシンは、脳裏に鮮明に結像した敵へと自分につき従う水晶たちに襲撃を命じた。
 赤紫の水晶の刃が太陽の光を乱反射しながら描いた光の軌跡は、慣性の法則を無視しているように直角の動きを見せて、ドラグーンシステム以上に柔軟な動きに対応しきれぬ三輪艦隊のMS部隊がなすすべもなく貫かれてゆく。
 使用前後で若干機体機動が鈍るものの、広範囲の敵機に対して同時多数多角攻撃が可能なこの装備は、ヴァイクルの持つカナフ・スレイヴやアストラナガンの使用したT-LINKフェザーを応用した結果である。
 コックピットや胸部、腹部を貫かれ、致命的なダメージに次々と落下、爆発してゆく通常のMSを無視して、シンはABインパルスを爆煙のひとつへと飛翔させる。
 二十機以上の敵を同時撃墜したことへの感慨はかけらもない。ウォーダンやムラタの様な剣の道を行く強敵以外との戦いで心を躍らせることはなくなっていた。
 すでに撃墜スコアが三桁を超え、DCのみならず地球圏内でも屈指のウルトラエースとなって久しい少年は、ヘルメットの奥で頬に張り付く黒髪の感触を煩わしく思いながら、脳裏に描く水晶刃の操作に意識の多くを割く。
 モニターの向こうで黒々と広がる煙から、放たれた念動フィールドでコーティングされたズフィルード・クリスタルの刃を、ディバイン・アームの一振りによって粉砕したヴァルシオン改が57メートルの巨体をあらわす。
 撃墜された同型機や戦闘中の機体とのデータリンクで、眼前のABインパルスを最大の危険要素と判断したゲイム・システムは、真っ向から挑みかかってくるABインパルスをこちらもまた威風堂々と迎え撃つ。
 ABインパルスのサイドアーマーに接続されているヴェスバーから、弾速を重視した調整を受けたビームが放たれる。簡単に折れてしまいそうな薄い板きれとしか見えないヴェスバーからのビームを、ヴァルシオン改はひらりと超の様な優雅な動きでかわした。
 単純な一つ一つの動作が正確で無駄がなく俊敏であるため、機動兵器操縦の教本に乗せたいほど洗練された動作に見える。
 ある程度無駄の省かれた動作というものは、同等前後の経験を持つ相手からすれば先の動きの予測が立てやすくなり、そのために相手の目を騙す技術が磨かれるものだ。
 ヴァルシオン改の動きはベテラン以上の熟練度と、アドバンスドチルドレンなどの先天的な機動兵器操縦への適性を兼ね備えた稀有なパイロットのそれだ。
 そのヴァルシオン改の動きを完全に捕捉したシンは、ヴェスバーのビームをかわしたその先にあらかじめ設置されていたようにロングレンジキャノン、メガビームライフルの二条の光を放つ。
 どちらもシルエットと機体に搭載された二基のプラズマ・リアクターの大出力に支えられ、グルンガストシリーズのブラスタークラスに匹敵するかあるいは凌駕する威力の化け物砲である。
 おそらくはオリジナルである宇宙世紀の武装よりも単純な出力ならば上回っているだろう。アークエンジェル級のラミネート装甲も一撃でぐずぐずの屑鉄に変える威力の二撃は、いかにヴァルシオン改でも許容の範囲を超えている。
 オリジナルのヴァルシオンにあった空間歪曲フィールドを搭載していればともかく、デチューン機であるヴァルシオン改には高望であろう。
 青い鎧が桜色の光に艶やかに照らされた距離でヴァルシオン改は、またひらり、と風に流された花弁の軽やかさでかわすや、ディバイン・アームからエネルギー刃を飛ばす。
 通常のビーム兵器に比べれば格段に遅いとはいえ、音速の数倍で飛来するエネルギーの斬孤は、ヴァルシオン改にむかうABインパルスの左肩をわずかにかすめに終わる。
 ズフィルード・クリスタル・フェザー使用後の機体機動の鈍化が終わり、本来の敏捷さを取り戻したABインパルスは、ヴァルシオン改が二撃目を送る間もなく懐へと潜り込み、左手から光華を煌めかせていた。
 いつ左手を動かしたのか。この戦場の誰に問うても明確な答えを得られぬ速さで、ABインパルスの左手は光の半月を描いてヴァルシオン改の右頸部にビームサーベルを叩き込んでいた。
 右側頭部の角を両断し、深々と食い込んだビームサーベルはヴァルシオン改の内部をその莫大な熱量で焼き尽くす。
 行動不能に陥る前に左手を握り込むヴァルシオン改よりもはやく、シンは出力リミッターを解除したビームサーベルを手放し、ゴッ、と小さな音を立ててメガビームライフルの砲口がヴァルシオン改の左肘関節部に押し当てていた。
 ビームサーベル発生基部が内側から膨大なエネルギーによって炸裂するのと、ヴァルシオン改の左肘の関節部が、メガビームライフルによって吹き飛ばされるのは同時だった。
 駄目押しに二門のヴェスバーがヴァルシオン改の胸部に叩きこまれ、ABインパルスとヴァルシオン改に距離が空くや、ダメージから機体を立て直すのに手間取るヴァルシオン改に向けて、ABインパルスの全火砲が火を噴いた。
 大部分がビームによって占められるABインパルスの武装の一斉射撃を浴びたヴァルシオン改は、大熱量によって即座に装甲表面を融解させ、守る殻を失った機体深部に更なる攻撃が叩きこまれて機能を完全に消失させた。
 一時間以内に何度となくみた特機が撃墜される瞬間に、シンは雨粒ほどの興味を示さず、更なる獲物の所在を求めて、ABインパルスのセンサーと増幅されている自身の知覚能力を頼みにする。
 と、三種のジャマーの影響で本来の性能がまったく発揮できていないレーダーが、急接近する熱源三つと、シン自身の感覚がどこかで見知っているような気配が近づいてくるのに気付く。

 

「……このヌメヌメ、ギラギラ、ヌラヌラしていてなんとなくチョコ菓子みたいな甘ったるい気配は、テンザン大尉か?」

 

 モニターの向こうでまだ芥子粒ほどの大きさでしかない黒い影から放たれる気配に、敵意は感じられないが、こう、なんというかむわっとくる不快な気配に懐かしいものを覚え、シンは思わずテンザンの名前を口にする。
 アーモリーワンへの訪問以前に、ヴァイクルとともにアメノミハシラの防衛任務に回されたかつての上官が、なぜこの場に姿を見せるのか。またなぜ搭乗している機体がヴァイクルでないのか。
 気になることはあったが、テンザンの人を食った自己中心的な人柄はともかくとして、その確かな技量はこの場では頼りになることは間違いない。
 アメノミハシラにいるロンド・ギナ・サハク副総帥が気を回しては……くれないだろうからマイヤー宇宙軍総司令あたりが、手を回してくれたのだろう。
 芥子粒から小指の爪の先くらいに大きさを増したテンザンの搭乗機――ライブラリに照合したデータからガンキラーという機体であることが分かる――からなにか小さな円盤の様なものが射出される。
 二つの円盤の正体が、三枚の刃がついた輪であり、それが高速で回転していることを、シンの異常なまでの精度を誇る動体視力が看破した。

 

「ヒュッケバインMk-Ⅱのチャクラムシューター系の装備か?」

 

 シンがテンザンの機体にわずかに注意を惹かれる一方で、シンの注目など知らぬ当のテンザンは、地獄の黙示録を鼻歌で歌いながら、ガンキラーに気付いたゲルズゲーを最初の獲物と狙い定める。

 

「はっはあ! そのデザインは嫌いじゃねえがよ、おれとガンキラーのデビュー戦の贐になってもらうぜえ。ギロチン・バグだぁ!!」

 

 ガンキラーの周囲で高速回転を続けていた刃付きの輪“ギロチン・バグ”が、テンザンの操作に従って、二丁のビームライフルを連射するゲルズゲーへと風を切り裂きながら襲いかかった。
 鼓膜を劈く甲高い音とともに瞬く間に距離を詰めてくるギロチン・バグをかわせぬと悟ったゲルズゲーは、機体前面に陽電子リフレクターを展開した。
 ジグザグと稲妻で襲いかかったギロチン・バグはわずかに陽電子リフレクターの光に刃を食いこませが、切り裂くまでには至らない。
 ゲルズゲーのパイロットがかすかに安どした瞬間、ギロチン・バグは陽電子リフレクターから刃を抜き、回転を止めたためにそのまま落下するかと思われたが、再び回転を始めて飛翔力を取り戻す。

 

「前にしか展開できねえバリアじゃ、役に立たねえなあ!」

 

 ゲルズゲーが回避機動をとる間もなく、ゲルズゲーの無防備な背中へと回り込んだギロチン・バグが、蜘蛛の下半身と人型の上半身を横一文字に分断し、斬り飛ばされた上半身をさらに縦一文字に切り裂く。
 ゲルズゲーを瞬殺したギロチン・バグを再び両肩の先端に回収したガンキラーの後方から、グリーンカラーのヒュッケバインが放ったレクタングルランチャーの砲弾が、三輪艦隊の水上艦艇に命中してゆく。

 

「ほっ、この距離でよく当てるじゃねえの。金髪牛乳」

 

 本人としては褒めているつもりなのかもしれないが、褒められた相手はとてもそうは受け取らなかったようで、ガンキラーのコックピットにはしかめ面をした金髪の青年の顔が映し出される。
 動力をプラズマ・ジェネレーターに交換したグリーンヒュッケバインのパイロット、ミルヒー・ホルスタインである。二十歳前後のいかにも欧州的な目鼻の堀が深く端正な顔立ちの青年だ。

 

「誰が金髪牛乳だ、テンザン」

 

「おめえだっての、ミ・ル・ヒー?」

 

「ぐっ」

 

 考える時間がなかったとはいえ、牛乳と乳牛というなんぼなんでも、と思わずにはいられない偽名に、生真面目なミルヒーは反論の言葉を失ってしまう。
 けけけ、と耳障りなテンザンの笑い声に募らせた苛立ちを、ミルヒーは三輪艦隊にぶつけることにしたようで、ゲルズゲーを撃破した場所で滞空していたガンキラーをヒュッケバインが抜き去り、積極的な砲火を展開し始める。
 右肩に担ぐようにしてレクタングルランチャーを持ち、左手にはフォトンライフル。実弾と紫がかった光子の弾丸が、突然の強襲に対応の遅れる三輪艦隊へと無慈悲に降り注ぐ。

 

「八当たりはよくねえぜぇ、ミルヒー?」

 

「好きと勝手に呼べ。ただし自分の役目は果たせよ、テンザン」

 

 言われるまでもねえやな、とテンザンは吐き捨て、ガンキラーに組ませていた腕をほどき、おもむろにジェットウィンダムの一段へと襲いかかる。
 一見すると遠距離対応の武装が見当たらないガンキラーに向け、ジェットウィンダムから ビームライフルとトーデスシュレッケンをはじめとする火線が集中する。
 装甲性能がいかほどのものか明確なところは不明だが、機動性や運動性はまずまずのものがあるようで、ガンキラーはテンザンの技量も相まって一発の被弾も許さない。
 まるでガンキラーの周囲でだけ時間の流れる速度が遅くなっているのかと、馬鹿な考えにとらわれてしまいそうなほど軽快な動きであった。ここが戦いの場でなかったら、見惚れる者もいたことだろう。

 

「もっと目ん玉見開いて狙いをつけやがれっての。こんな風になあ!」

 

 太陽の光を逆に食いつくすほど強烈な光がガンキラーの瞳に宿るや、その光はふた筋の高熱量のビームと変わり、正面きって撃ちかけてきたジェットウィンダムの上半身を溶けた飴細工に変える。
 内側からの爆発によってジェットウィンダムが四散するよりもはやく、五指を開いたガンキラーの両掌に空いた穴か針とも、先端の尖った鞭とも見れる形状の物体が伸びるとそれは生きた蛇のようにしなりくねりながら他の機体へと襲いかかる。
 しゅるしゅると音を立ててライフルを握る腕に巻きついた針は、そのままウィンダムの装甲を貫いて、内臓を好む蛇のようにウィンダムの内部を貫き切り裂き破壊し始める。

 

「らああああ!!」

 

 ガンキラーの両掌の先に捉えられたジェットウィンダムはそのままハンマー投げの要領で勢いよく振り回され、遠心力がたっぷりと乗った瞬間に解放されて友軍機めがけて放り投げられる。
 一機は友軍機に激突してそのまま爆発をし、もう一機は受け止める味方もなく完成の働くままに彼方へと飛んでゆき、じきに海面へと落下して数十ものパーツに砕けながら爆発する。
 ガンキラーは機体の内部にいくつものギミックを内蔵し、トリッキーな戦い方を得意とする機体のようで、変則的な戦い方にすぐさま対応できるだけの気力と技量をもったパイロットは少ない。
 掌の針を警戒し距離を取ろうとした動きを見せたウィンダムに、ガンキラーの腕が伸び、足が伸び、頭部を叩きつぶすはつかんだ腕を振り回すは、爪先についたブレードで胴を切り裂き首を切り飛ばすの八面六臂の活躍ぶりである。
 そのすべてにテンザンの相手を見下しきった不愉快な笑い声がついてきており、これを聞いた者は深く冷たい海の底に突き落とされたような気分に陥ることだろう。
 事前になんの通知もなく戦闘空域に姿を現して三輪艦隊に攻撃を仕掛け始めた二機の機動兵器と、一隻の戦艦のどちらもがライブラリに該当するものであったことから、エペソはすぐに連絡を取らせた。
 戦闘参加は知らされていなかったが、ガンキラー、ヒュッケバイン、そしてフューラーザタリオン・トロンベが誰の手に渡ったかは知らされていたため、エペソの胸に動揺はなかった。
 前大戦ではザフトに所属して敵対したこともあった人間たちであったが、信用を置くに値する人格と武力の主であることは、口には出さないがエペソも認めるところである。

 

「レーツェル・ファインシュメッカーだな?」

 

「いかにも。遅くなってしまったが、我らもこの戦いに微力を尽くそう」

 

「そのような機体を与えられているのだ。相応に働いて見せればかまわぬ。こちらに張り付いている青蠅は無視してかまわん。連合艦隊を早急に駆逐せよ」

 

「貴方の目の前で無様な姿は見せられんな。了承した。遅れた分の失態は取り戻して見せよう」

 

 まるで気負った様子もなく、小さな笑みと共に応えてからレーツェルは通信を切り、デストロイドアグレッサー形態のフューラーザタリオンを一気に上昇させ、はるか眼下に戦闘の光芒を置いてゆく。
 アークエンジェル級にも匹敵する巨体ながら、どこか有機的な印象も与える奇妙な戦艦の高速の機動に、追従する瞳こそあるものの、ビームやミサイルの砲火を浴びせられるものは少なく、瞬く間に姿を変えてゆく光景をただ見守る者がほとんどであった。
 船首を青空に向けたデストロイドアグレッサーの各部分が動き始め、折りたたまれていた肩アーマーが開き、収納されていた銛や万力状のパーツがつけられた腕部が伸びて三本爪が開く。
 ザフト系列のMSの特徴であるモノアイに光がともり、二頭身の巨大MSがそこに姿を現す。マイヤー・V・ブランシュタインの乗艦となったジェネラルガンダムと同格の巨大MSの名を、外部スピーカーを通じて高らかにレーツェルが叫ぶ。

 

「フューラーザタリオン・トロンベェ!!」

 

 戦艦からMSへの変形機能を持った全高400メートルを超す機体の存在に、その場にいた各諸勢力の人間たちがさまざまな感情を喚起する中、ゲスト三将軍の一人セティを驚愕させた機体が姿を現す。
 黒を主に、金と赤の二色をアクセントにしたカラーリングに変わったフューラーザタリオン・トロンベが満を持して降臨した瞬間であった。
 それにしてもサングラスをかけたこの謎の食通、ノリノリである。

 
 

――つづく

 
 

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