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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第42話

Last-modified: 2010-05-06 (木) 15:00:53
 

ディバインSEED DESTINY
第四十二話 月の騎士 地球の守護神 破滅の尖兵(前篇)

 
 

 後方の母艦群からの通達に、黒い金属の仮面に顔を覆った三十路前後の男が、忌々しげに舌打ちを一つこぼした。
 黒に染めた地球連合の改造軍服に身を包んだネオ・ロアノーク大佐は、自分専用のマゼンタカラーのジェットウィンダムを駆り、DC、ザフト、大洋州連合の混合同盟との激闘に身を浸していたところだ。
 性能的にはこちらのウィンダムを上回るものをもったDCのエルアインスやアヘッド、大洋州の量産型ガンアークを相手に、友軍の旗色は悪い。
 ネオに預けられたガイアガンダム、カオスガンダム、アビスガンダムは、搭乗者であるブーステッドマン三人の力量もあって、この戦場では頭一つ抜けた力をもっていたが、紅白のガンアークに手間取り、手が塞がれてフォローに回る余裕がなかった。
 紅白のガンアークを駆るのは、大洋州連合軍所属の、マリナ・カーソン少尉とタック・ケプフォード中尉である。
 オーストラリア大陸に建造されていた謎の勢力ルイーナの地下基地攻略の際には、クライ・ウルブズの猛者連中と轡を並べて、ルイーナ幹部のメリオルエッセと戦った経験をもつ。
 常識外れの敵と戦った経験もあって、タックとマリナはもともとの高い技量と連携技術を発揮して、数で勝るネオ達と互角の戦いをしていた。
 流石にザフトの最新鋭MSセカンドステージの機体とブーステッドマンの組み合わせとあって、タックとマリナそれぞれのガンアークは無傷とゆかず、滑らかな曲線を描く装甲のあちこちに損傷の跡がうかがえる。
 激戦の証拠に合計百発は撃ったであろうアークライフルの銃身は、冷却しきれずに熱をはらんでいるままだ。
 無論、連合が強奪しそのまま運用している三機の新型ガンダムも無傷では済まず、ネオの専用ウィンダムも、直撃弾はないがかすめたビームや至近でのミサイルの爆発によって、表出していないだけでダメージが重なっている。
 ヘルメットに内蔵されている吸引器が頬に珠となって浮かぶ汗を吸いこむ音に鼓膜を揺さぶられながら、タックとマリナは信号弾を撃ちあげて、撤退のための弾幕を張るネオのジェットウィンダムを見ていた。

 

「撤退する、てことはシンたちがやってくれたみたいだな!」

 

「そうなるわね。タック、だからって油断しちゃだめよ。叩けるときに叩いておくのがセオリーなんだから」

 

「わ、わかってるよ……」

 

 語尾を尻つぼみにするタックだったが、率先してガンアークを突出させるマリナにあわてて追従してゆく。おおむね軍と軍との衝突で最も大きな被害が出るのは撤退戦とそれに続く追撃戦だ。
 マリナの言うとおり、叩けるときに叩かず取り零しが大きくなればなるほど、後で自分たちに手痛く返ってくることになる。
 無論それは逃げる者も負う者もそれは理解している。二人のガンアークのみならず量産タイプのガンアーク、エルアインス、バビ、ザクウォーリアと国境を選ばぬ機体達が退く連合機に銃火を浴びせ始める。
 オルガやクロト、シャニらは彼ららしく決着のつかない中途半端な状況での撤退に、文句の一つどころか五つも六つも口にしたが、なんとかネオがそれを宥めすかして撤退の指示を守らせてはいる。
 それでも果敢に撃たれた数の倍は撃ち返して、返り討ちにしているのが三人らしい。
 三輪艦隊本隊とエペソ率いるセプタ級を中核とする艦隊との戦いが、追撃戦を行わなかったのに対し、三国艦隊とロアノーク先行機動兵器部隊との戦いでは熾烈な戦闘が、長時間に渡って続くこととなった。

 

 * * *

 

 ソロモン諸島にほどちかい南洋での今後の地球圏の戦局を占う規模の戦いが終幕をようやくに迎えるころ、同時刻、これまで地球圏の騒乱を静観していた一部の勢力が闇夜に紛れるようにして暗闘を繰り広げていた。
 そこはただただ月光を思わせる青白い光に満ちていた。一年前も十年前も百年前も、千年前も一万年前も億年前も。その空間ばかりは時間が流れることをやめたのかもしれない。
 空間を構成する構造材の中にそっと佇む六枚の翼をもった巨大な天使像と、その足元で指を組み、なにかの間違いでこの世界に降りてきてしまった美の女神かと見まごうほどに美しい女を見守るために。
 星の命運が尽きるまで変わらず優しく降り注ぐ月光のような光は、さえぎるものもなく空間の中を満たしている。闇がこの空間のどこかにあれば、闇の粒子の重さが計れるかもしれない。
 どんな色の服を纏っていても、光の中に溶けてしまいそうな空間は、地球が燃え滾る岩の世界だったころから今日にいたるまでわずかな変化もなくありつづけたのだろう。
 この世界に光以外の色は存在することを禁じられていたのかもしれない。唯一この青白い光に満ちる世界で息吹く命を除いては。
 床に投影される影は、豊かに零れる髪が凹凸を生み、妙齢の女性であることを証明している。
 毛先に行くにつれ虹色の輝きを帯びる金色の髪は踝に届くまで長く、完璧といっても何の問題もないプロポーションを誇る肉体は、惜しげもなく裸身でさらされている。
 両の手では足りず掌から零れ落ちるほど豊かな乳房は、女性としての性的な魅力にとどまらず、どんな人間にも分けへだてなく慈愛の情を注ぐ絶対的な母性もまた持ち合わせている。
 片手で簡単に抱き寄せられ、抱え込めるほど細い腰は、胸元で揺れる乳房としっとりと女性の脂と肉が適度に乗り健康美そのものの尻をつないでいるのがすこし信じられないほど華奢で、硝子細工の様な繊細さだ。
 なにも隠すものがない太ももから、うっすらとピンク色の綺麗に整えられた爪が美しい足の指先に至るまでの、脚の描くラインもやはり美しい。
 髪も顔も胸も腰も尻も脚も、すべてが神々しいまでに美しい。人とは思えぬほどに神々しいから美しいのか、人とは思えぬほどに美しいから神々しいのか。
 まだ二十歳になったかどうかという若さのなかに、あどけなさを見出せるほど幼く、同時に人の崇高さも愚かさも、美しさも醜さもすべてその目で見てきたような達観さも同時に存在していた。
 矛盾した雰囲気をその美しさの中に秘めているのは、アインスト・アルフィミィとこの星の守護者となるべき剣の選定について話し言葉をかわしたバラルの園の主、イルイ・ガンエデンだ。
 背後に聳えるナシム・ガンエデンに仕える人造神の巫女であり、同時に世界最強の念動力者でもある。
 イルイ自身の意識とナシムとしての意識を併せ持ったこの少女は、世界の運命にさえ干渉を可能とする神の領域の力で、何を見、何を聞いていたのだろう。
 銀河規模で見ても片手の指に届かぬほどの人間しか到達できていないサイコドライバーであるイルイならば、視界に移らぬはるか遠方の地も、風が運べぬほど遠い人々のささやきも、すべてを把握できてもおかしくはない。
 指を組んだまま、イルイがうっすらと閉じていた瞼を開いた。その動きで揺らいだ大気が、わずかに静寂を乱したようであった。分子一つ一つの動きでさえ、この世界の静寂を乱すには十分にすぎる。
 夜の暗闇を払拭しようと太陽が地平線を黄金に染め上げるのに似て開かれたイルイの瞳の先に、恐ろしく巨大な獣の影が映された。
 その瞳の折の中に閉じ込められてもかまわない、そう思う人間が何人いてもおかしくはない。それほど美しい瞳であった。地球が生み出すどんな宝石を加工したとしても、イルイの瞳ほど美しい輝きを宿すことはできまい。
 ぐるるる……、と密林では決して出会いたくない猛獣の唸りを何十倍にも巨大化し、はるかに豊かな知性をもっているとわかる不可思議な唸り声が、イルイに向けられる。
 問い、であろう。
 イルイは愛しい我が子に向ける愛慕と絶対の信頼を置く友に送る友愛の眼差しを獣の影に向け、ゆっくりとその細い頤を縦に動かす。さらさらと揺れる髪から光の粒が虹色に煌めきながら虚空に広がる。

 

「ザナヴ、いまはまだ私が動くことはできません。ですから代わりにお願いできますか?」

 

 琴の弦を爪弾くことしか知らぬ指が、水晶の弦を張った琴で短く儚い楽曲を爪弾いた――そんな声。
 答えは、轟くような大きさだが、どこか子猫のように甘える声。

 

 ぐる、ぐるる。

 

「ありがとう。いずれ私も剣たちのところへ赴かねばなりませんが、まだ動くことができず、貴方達にばかり苦労をかけてしまってごめんなさい」

 

 また、ぐる、と一声。気にしないで、だろうか、それとも大丈夫だよ、か。
 少なくともイルイとこのザナヴとの間には単なる主従などといった関係以上の絆が、確かに存在しているのは間違いない。
 標準的ないMSどころか、特機よりもさらに巨大と見えたザナヴの影は、音もなく猫科の猛獣のようなしなやかな足取りでその場を後にしていった。
 背後のナシム・ガンエデンと自分以外の気配が絶えた世界で、イルイは開いたままの瞳で虚空を見つめる。その瞳には何が映る? 破滅の理に飲み込まれて崩壊する宇宙の様か。それを防ぎ命を明日へと紡いでゆく黄金の明日か。

 

「……」

 

 人が造りし神の巫女はなにも語らず、新たに唇を動かすこともなく再び瞼を閉じ、静かに瞑目しはじめた。この宇宙に生きるすべての命のために、ただ、祈る。

 
* * * 
 

 インド洋沖上空。アフリカ、東アジア、オーストラリアどの勢力の監視網にも触れず、彼らはそこで争っていた。たった二機の機動兵器を十倍の戦力で追い込み、獲物を逃がさぬ絶対の包囲網を築きあげている。
 追い込まれているのは濃い群青の色を纏う機体と、いくつもの氷が集まって人の形をなしたような機体。ストゥディウム、そしてファービュラリス。
 ルイーナより離反した反逆のメリオルエッセ達が操る人外の手からなる機体である。世界の滅びを目的に行動するルイーナと袂を分かち、処断すべく放たれた追手との戦いをたびたび繰り広げていたが、今回ばかりは決着をつけるべくルイーナの側が息を巻いたようだ。
 これまでの戦いの中で機体もパイロットも消耗していたためでもあるが、ファービュラリスとストゥディウムは完全に包囲され、絶え間なく放たれる砲火を浴びて機体に刻まれた傷をより深いものに変えている。
 互いの背中を合わて死角を庇いながら戦っていたそれぞれの機体のパイロット達、グラキエースとウェントスの涼やかな美貌にも、焦燥のもたらす黒い影がうっすらと濃さを増し始めている。

 

「流石にこれは厳しくなってきたね、グラキエース」

 

「ああ。修理も補給も、ほとんどろくにできなかったからな」

 

 声音の柔らかさは変わらぬウェントスであったが、呼吸は荒く休む間もなく戦いを強いられて消耗した体力がまるで回復していない様子だ。
 答えるグラキエースは美女の氷像を思わせる冷たいまでの涼やかな声の調子は変わらないのだが、ウェントスへの返事の後に鳴り響いたくぅ~、という可愛らしい音が、彼女の本音を語っていた。

 

「食事もちゃんとしたものはほとんど取れなかったな……」

 

 こころなし、覇気に乏しいグラキエースの呟きに、ウェントスは小さく苦笑したようだった。まだ笑みを浮かべるだけの余裕はあるというべきか、それとも諦めに屈してしまったのか。

 

「そうだね、ぼくもリムの淹れてくれたココアが飲みたいな」

 

「あれは、私には甘すぎる。ジョシュアも進んでは飲みたがらなかった」

 

 歯が解けそうになるくらい甘いココアの味を思い出して、グラキエースが流麗なラインを描く青白い眉を寄せる。一瞬舌に想起されたリムのココアの味は、その甘すぎるほどの味に反して苦い思い出となっているようだ。

 

筆をふるう職にある人間が嫉妬の念にかられそうなくらいに美しいラインを描く眉は、もとの形に戻る寸前で、その形を固定された。
 それまで周囲を取り囲んで遠巻きに射撃に専念していたルイーナの機体が、近接戦闘に切り替えて、ストゥディウムとファービュラリスへと一挙に殺到してきたからだ。
 反応が鈍り、運動性が落ち、耐久性が危険領域にまで落ち込んだ機体、休むことも新たな活力を取り込むこともできず、万全とは言い難い体調のパイロットで、どこまで戦えるか。

 

「グラキエース、ウェントス、お前たちはここで破棄する。王の命だ。粛々と受け入れろ」

 

 ポールハンマーを構えたベルグランデやビームソードを煌めかすアルゲンスをかろうじて捌きながら、グラキエースとウェントスの視線は、声を発したメリオルエッセ――アクイラへと向けられる。
 赤銅の肌に右半顔を覆う黒い眼帯が特徴の男は、事実を通達するだけの淡々とした口調で元同輩へ告げ、冷徹な態度を崩さない。
 振り下ろされたポールハンマーの柄を斬り飛ばし、返す刃で首をはねたベルグランデを蹴り飛ばしながら、ウェントスが問う。流石にいつも口元に浮かべている柔和な笑みは消している。

 

「いつもならグラキエースを追いかけてくるイグニスはどうしたんだい?」

 

「あいつはお前たちと戦う際に本調子を発揮することが出来ん。これ以上失態を続ければ、あいつも欠陥品として破棄せねばならなくなるのでな」

 

 確かにイグニスは同時に誕生したグラキエースに対して、メリオルエッセとしては例外として執着し、自覚はないだろうが感情をむき出しにしてしまう。
 そのような様子は確かにメリオルエッセとしては異常なもので、欠陥品の烙印を押されて破棄されても仕方あるまい。
 もっともアクイラとしてはイグニスの身を案じて、というよりもまだ戦力の整わぬルイーナの希少な指揮官クラスの人材を失うことによるデメリットを嫌って、というのが本音であろう。

 

「そうか」

 

 短く答えるグラキエースは、どこか安堵したようにも見える。イグニスがメリオルエッセの中でグラキエースを特別視するのと同じように、グラキエースもまたイグニスのことを特別な存在として見ているのだ。
 戦わずに済む安堵、自分たちと同じように欠陥品として処分されてはいないということを確認できた安堵。敵対しながらも、その身を案ずるという矛盾を、グラキエースは不思議には思わなかった。
 グラキエースはジョシュアと共に過ごした三年間で、人間というものが矛盾と二律背反によってできた生き物であることを十分に学び、自分が少しだけ人間の心に近づいた、と思っていたからだ。
 アクイラの言葉に耳を傾けながら、グラキエースはファービュラリスのシールドから伸びるウィリテグラディウスと右手のサギッタルーメンを発射する槍状パーツをふるい、全周囲を埋め尽くす敵機を切り裂く。
 本調子ではない機体に組みつかれたが最後、振り払う間もなく次々と攻撃を浴びせかけられて、軋むフレームやひび割れた装甲をあっという間に粉砕されて、自分たちの二度目の命も潰えることとなるだろう。
 ワイバーン形態に変形したウェントスのストゥディウムは、その高機動性を生かした一撃離脱戦法で組みつかれるのを阻止してはいるが、視界を埋める砲撃の雨に時折つかまっては羽ばたきを弱弱しいものに変えている。
 反撃に放つファービュラリスのサギッタルーメンの出力も徐々に低下しており、エネルギー切れも間近といったところ。
 以前のようにシン・アスカを筆頭とするクライ・ウルブズといった援軍が来てくれればともかく、二機だけの状況では厳しいというほかない状況になっている。
 シールドで受けたポールハンマーに吹き飛ばされた勢いを利用して距離を取りながら、グラキエースは、ファービュラリスの背に伸びる五枚の氷水晶の翼を広げる。
 周囲の大気を急速的に冷却し、翼から無数の氷の破片が伸びて、ファービュラリスに肉薄するベルグランデ、アルゲンスを串刺しにすべく氷の雨となって降り注ぐ。
 氷を司るファービュラリスの最大攻撃コンゲラティオーであるが、万全の状態から繰り出された時と比べれば、放たれる氷の数は半分ほどにすぎず、襲いかかる氷の速さもはるかに遅い。
 必殺といえる大技も威力を十全に発揮できぬ状態では、さしたる戦果をあげることはできない。三機ほど氷の矢に串刺しにされて機能不全に陥らせることに成功するも、そのほかの機体は被弾するものも少ない。
 迫ってくる機体の後ろあこちらの死角側からチェイサーミサイルやビームがファービュラリスへ襲いかかり、かわしきれぬ攻撃の数発がファービュラリスの華奢な機体を大きく揺らして、グラキエースに振動を伝える。

 

「グラキエース!」

 

 黒煙に包まれてゆくファービュラリスの苦境を見てとったウェントスが、慌ててストゥディウムの機首を巡らし、ファービュラリスを囲むルイーナの機体に砲火を叩き込み、巨大な爪で切り裂いて散らす。
 しかしグラキエースの窮地を救うストゥディウムも、大きく広げられた翼の所々が欠け零れ、表面装甲に蜘蛛の巣状の罅が大きく伸びて積み重なったダメージが表出している。
 神話の中で語られるワイバーンを思わせる空の支配者たる威厳や雄々しさ、風を撃ちすえる力強い羽ばたきも失われていて、たちまち背後を取られてファービュラリス同様に数多のビームを撃ちかけられる。
 アクイラが状況の傍観に徹しているからこそここまで戦えていたが、大火力を誇るフォティス・アーラが本格的に攻勢を加えてくれば、グラキエースとウェントスは瞬く間に塵と灰に変わるだろう。
 敗北に身をゆだねて破滅の王へと還るつもりはないが、グラキエースとウェントスの意識に反して、状況は二人に破滅への道しるべばかりを示している。

 

「このままミーレスたちだけでもお前達を磨り潰すのは大した問題ではない。が、人間にはせめてもの情け、という言葉があるらしいな。せめてもの情けだ。同じメリオルエッセであるこの俺の手で王のもとへ還してやろう」

 

「やはり動くか、アクイラ!」

 

「そのまま見物しているだけでよかったんだけどな」

 

 物々しい音を立てて胸部や肩の装甲を展開し、数えるのがばからしい数のミサイルの弾頭をのぞかせるフォルティス・アーラの姿に、グラキエースとウェントスの米神に冷たい汗の珠が一つ新たに浮かぶ。
 周囲のミーレス達が操る機体が一斉にファービュラリスとストゥディウムに組み付こうと、小隊単位で数をそろえて二機の周囲を取り囲み始める。
 ストゥディウムとファービュラリスにとりついたミーレス達の機体ごと、フォルティス・アーラの火器でまとめて吹き飛ばすつもりなのは明白だ。
 アクイラの意図が明白であるだけに、グラキエースとウェントスはアクイラを注視せねばならず機体の挙動にある程度制約と傾向がうまれてしまう。
 集中を欠いたパイロットと万全でない機体では時間の経過はそのまま敗色を濃厚なものに変えてゆく。

 

「終わりだ。ウェントス、グラキエース。いずれ世界のすべては王の名のもとに滅びゆく定め。所詮は遅いか早いかの違いにすぎん。諦めろ」

 

 フォルティス・アーラの上半身各所から同時に放たれる無数のミサイル――カリドゥム・サギッタの向かう先は、ミーレス達の操る機体に四方を囲まれ逃げる先を失ったストゥディウムとファービュラリス。
 センサーとモニターの向こうで大きさを増し着弾まで間もないということを告げるミサイルの群れを前に、ウェントスとグラキエースは最後の一瞬まで回避可能な空間、それが無理ならば損害を最小限に抑えられる方法を模索し続けていた。
 もう少しウェントスとグラキエースに余裕があったならば、アクイラの諦めろ、という言葉に諦めない、と言い返していただろう。

 

「抗うだけ無駄というもの……むっ?」

 

 アクイラが義務感にも似た気持ちで、ミサイルの着弾が生む爆煙の向こうで同輩の消滅するのを見つめていた瞬間、青く晴れ渡っている天空から降り注いだ稲妻が、カリドゥム・サギッタのミサイルすべてを撃ち落としていた。

 

「晴れた空から雷だと? グレートマジンガーか?」

 

「いや、なにか巨大な転移反応があるよ。それが起こしたものじゃないかな」

 

 稲妻は変わらず降り注ぎ、カリドゥム・サギッタのミサイル群だけでなくストゥディウムとファービュラリス周囲のミーレス達の機体にも直撃し、瞬く間にその数を減らしていった。
 天空には渦巻く黒雲などなく、澄み切った青い空ばかりが広がっているにも関わらず、稲妻は空間そのものから放たれている。
 いつ終わるとも知れず続く雷の雨が何の前兆もなく止まるや、一か所に雷が集中し始めた。巨木の枝葉が重なるようにして渦を巻いた雷は、巨大な獣の形となりグラキエース達の目の前で集束する。

 

 ぐるおおおおおおお!!!

 

いかなる原理によってか水面の上に立つ四足の獣は、猫科の猛獣の姿に酷似していた。豹と思しい巨躯は全身が白い装甲で覆われ、尻から伸びる鞭の様な尻尾が何本も生え、頭には赤い宝石を中心部にはめ込んだ王冠に似た装飾が施されていることだろう。
 ガンエデンの三体の僕の一体、豹を模した半生体兵器ザナヴである。
 古代より人造神に仕える機械仕掛けの獣がこの場に顕現したのは、主であるイルイの命令によるものであろう。
 グラキエースとウェントスを助けるようにして現れた白い鋼の獣を、アクイラばかりでなく助けられた形となったグラキエース達もどう判断すべきか困惑の眼差しを向けている。
 グラキエース達とアクイラ、敵味方に分かれたどちらのメリオルエッセ達にとっても未知の存在であるザナヴを、敵と判断すべきか味方と判断すべきか、ほんのわずかの間戦場の空気が動くことをやめた。
 首を巡らして周囲の状況を把握したザナヴは、ちょうどストゥディウムとファービュラリスを背後に庇った位置にあり、背後を振り返り上空の二機の無事を確認したザナヴは、ぐる、と喉奥で一声吠えてから一挙に跳躍。

 

「ぬっ!」

 

 胸部と肩部の装甲を展開し、ミサイル発射の体勢を維持していたアクイラのフォルティス・アーラの喉笛を噛みちぎるべく、白い稲妻となって襲いかかる。
 息を潜めて獲物の近くまで近づいた肉食獣の一撃。特機の装甲にも穴を穿つ鋭い牙がずらりと並ぶ口を開き、前脚からは三日月のごとき爪がすらりと伸びている。
 なまじフォルティス・アーラが人型に近い形状をしているだけに、生身の人間が本物の猛獣に襲いかかられているかのような生の迫力があった。
 むき出しの牙で襲いかかるザナヴに、アクイラは反射的な回避動作で機体を後退させて、至近距離で胸部に内蔵されたミサイルを炸裂させた。
 自身の機体の堅牢さを信じての一撃であったが、ザナヴの吐息が届く距離まで詰められていた両者の距離をいったん離すことには成功する。少なくない数のミサイルの爆発は、それぞれの機体の各所から黒い煙を噴き出しながら吹き飛んだ。
 再び海面へと着地し大きな波紋を作り、ザナヴは四肢をやや広げていつでも跳躍できる体勢をとる。その喉の奥からは敵対する者へ敵意に満ちた猛々しい唸り声がこぼれ出る。

 

「この獣……」

 

 ザナヴの獣の姿にたがわぬ敏捷さと意外な装甲の厚みに、アクイラは警戒の度合いを深くし、フォルティス・アーラの両腕部を展開してサギッタルーメンの光を連射し、光の紗幕のごとくザナヴへと降り注がせる。
 それをザナヴは右へ左へと軽妙極まりない調子で跳躍してかわし、フォルティス・アーラとの距離を詰めてゆく。
 降り注ぐサギッタルーメンに応じてザナヴも海面を蹴る四肢から稲妻――サンダー・ラアムを海から天空へと迸らせ、フォルティス・アーラにただ追いつめられるだけでは終わらせない。
 ザナヴの放つサンダー・ラアムはフォルティス・アーラをかすめつつ、その周囲に展開しているアンゲルスやベルグランデ、またそれぞれのSタイプの何機かを飲み込んで消し飛ばしてゆく。
 サギッタルーメンを撃つだけでは終わらぬと悟ったか、アクイラが再びフォルティス・アーラの胸部、肩部の装甲を展開してカリドゥム・サギッタの発射態勢を整え始める。
 ザナヴが跳躍した直後、空中で進行方向を変えるすべのない状態になった一瞬を狙い澄まし、アクイラは稲妻と共に現れた白い獣へを破滅へ導くトリガーを引き絞る。

 

「滅びよ、我らルイーナの糧となるために」

 

 ぐるおおああああ!!

 

 人造ながらも獣の勘を宿していたのか、ザナヴはアクイラの破壊の意思を敏感に察知し、こちらもまた戦闘意欲を高めて、全身からサンダー・ラアムを上回る世界を約規模の大量の稲妻を発し始める。
 アクイラのカリドゥム・サギッタとザナヴのシャイニング・ツァアク。
 破滅の王の尖兵と地球の守護神の僕と、はたしてどちらの力が勝るか。

 

「グラキエース、あの猫はどうやら僕たちの味方をしてくれているみたいだね」

 

「だが我々に与するものがこの星にいるとは考えにくいな。そもそもルイーナの存在を知っているものは、前に一緒に戦ったシンたちくらいのものだろう」

 

「それもそうだけれど、正直なところ助かったというのが本音だしね」

 

 ザナヴとアクイラが戦闘を再開し始めた傍らで、残ったミーレス達の相手をしながら、ウェントスとグラキエースは、ザナヴの正体について意見をかわす程度の余裕は持ち直していた。

 

「たしかにな。……ウェントス、12時方向から接近する熱源が四つ。さらに後方に大型の陸戦艇らしい熱源一つだ」

 

「地球の勢力かな? 光学映像捉えたよ」

 

 ストゥディウムのモニターに映し出されたのは、先頭を濃い青色の人型が行き、その後方にガンダムタイプに酷似した青い機体と、薄い紫色の武装を何も持っていない人型、それに白を基調とした特機と思しい機体の四機の姿であった。
 ストゥディウムとグラキエースのライブラリに該当するものはなく、また二人の記憶に該当する機体でもない。ということはゲッター線やインベーダー、プロトデビルンの脅威に襲われていたあの地球とも異なる大系に属する兵器ということだ。
 一方で交戦しているザナヴやルイーナ指揮官アクイラの様子を、新たに姿を見せた機動兵器のパイロット達も察知し対応を急きょ協議していた。
 青いガンダムモドキの機体ベルゼルートに乗る黒髪をショートに切りそろえたカティア・グリニャールが、先頭の濃い青の人型ヴォルレントのトーヤ・セルダ・シューンに通信をつなぐ。
 あっちこっちにはねた赤茶色の髪をもった少年トーヤは、ヴォルレントのコックピットモニターに映し出された従順な従者である少女に、ちら、と視線を一つ向けた。

 

「トーヤさん、あれが破滅の王の軍勢ですよね。どうやら仲間割れを起こしたのか、あの二機の指揮官機を落とそうとしているみたいですけれど、どうなっているんでしょう?」

 

「総代からお預かりした過去のデータでは、破滅の王の軍勢で離反が発生するなど有り得ないということだったから、カティアの言うとおり内部での抗争だというのならおかしな話だが……」

 

「ねえ、トーヤ。破滅の王の部下同士の戦いも変だけど、あの白い猫はなんなの? あんなの聞いてないよ。DCとかザフトとか地球連合でもあんなの開発しているって話も少なくとも私は聞いてない」

 

 カティアとトーヤに割り込んだのは、赤い髪に八重歯にくりくりと動く瞳が活発な印象を与えるフェステニア・ミューズだ。搭乗しているのは徒手空拳と見えるMSサイズのクストウェル。
 年頃はカティアやトーヤよりもやや下といったところだろうか。モニターに映し出されるバストアップ映像から見てとれる体の発育具合も、外見年齢相応でトーヤの頑張り次第でこれから大きくなることだろう。

 

「あちらは該当するデータがある。どうやら前大戦でフューリア聖騎士団が共闘した地球人の生体兵器みたいだ。名称はザナヴ。第一接触目標であるナシム・ガンエデンの下僕らしい」

 

「へえ。あとワシとサメがいたら太陽に向かって走っていきそうだねえ。でもよかったね、地球に降りてから散々探し回った相手にようやく会えそうだよ」

 

 テニアの言ったことが何を指すのか、あいにくとトーヤには分からなかったが、地球連合の監視網などかいくぐって地上を駆けずり回る苦労に終わりが見えそうになったことは歓迎すべきだ。
 ここでこれまで黙っていた四人目、メルア・メルナ・メイアが口を開いた。綺麗な金色の髪をボブカットにした、少し内気そうでおっとりとした印象を受ける可愛らしい女の子だ。
 ただその印象を裏切るように、唯一の30m級特機グランティードのパイロットを務めており、その戦闘能力を軽んじれば大きなやけどを負わされることになるだろう。

 

「じゃあ、あのザナヴっていう猫ちゃんを援護して、ほかの破滅の王の軍勢は全部落としちゃうんですか?」

 

「……あの二機の指揮官機の動きは気になるが確証が持てない以上、敵と見た方がいいだろう」

 

 ヴォルレントの右手に握らせたビームライフルを意識しながら、トーヤは拡大したファービュラリスとストゥディウムの映像に向けて、厳しい眼差しを向ける。
 敵とみなした相手へ向ける戦士の眼差しである。まだ十七、八と見える少年ながら、その精神は戦士として鍛えられていることがその目を見ればわかる。
 トーヤが息をのむ音を耳にし、険しく変わる表情を見て、カティア、テニア、メルアたち三人娘も操縦桿を握る指に我知らず力を込める。
 これまで散発的な戦闘に巻き込まれたことはあったが、これほど本格的な戦闘のさなかに乱入するのは初めてのことだ。
 シミュレーターならば嫌というほど訓練を重ねたが、所詮はシミュレーター。命まで奪われるわけでもない。トーヤを含め、四人が緊張の電流が全身に流れたとき、不意に頭の中に美しい金の鈴を鳴らしたような声が聞こえた。

 

『待ってください。誇り高き月の騎士たちよ』

 

「!? 直接、頭の中に声が?」
「え、オルゴンを媒介にサイトロンに干渉している? 違う、これは……」
「わわわ、トーヤ、どうしよう、まさかテレパシーに目覚めちゃったの、私たち!?」
「女の人の声ですね」

 

 順にトーヤ、カティア、テニア、メルアであるが、妙にメルアだけ冷静だが、たぶん、おっとりとした地の性格による反応だろう。
 そんな様子が声を伝えてきた向こう側にも伝播したのか、次に四人の脳裏に聞こえてきたのは小さな品の良い笑い声だった。蝶よ花よ、と掌中の珠のごとく愛でられながら育った少女の笑みに相応しい。

 

『私はイルイ。地球の守護者ナシム・ガンエデンに仕える巫女です』
「貴方が。おれ……私はフューリア聖騎士団準騎士トーヤ・セルダ・シューンです。騎士総代グ=ランドン・ゴーツ様の命によりバラルの園の協力するため、この星に参りました」

 

 姿の見えぬ声の主が探していた古代の協力者ガンエデンの巫女であることに、慌ててトーヤは居佇まいを直して名前を告げ、カティア達もそれに続く。

 

「準騎士トーヤ・セルダ・シューンの従士筆頭カティア・グリニャールです」
「同じくフェステニア・ミューズだよ……じゃなくて、です!」

 

 カティアに睨まれてテニアが慌てて言い直す横で、メルアが行儀よくお辞儀しながら自分の名前を口にする。

 

「私は、メルア・メルナ・マイアです」

 

 同盟国の国主に接するのと同じように、聖騎士団の誇りと威厳、そして品格を貶めぬ態度で臨むように、と散々上役であるアル=ヴァンやフー・ムールーから言い聞かされていたこともあって、四人の緊張はかなりものになっていた。
 その緊張が届いているだろうに、イルイは、ひいてはナシムはさして気にとめた様子もなく人類すべてを愛する慈母を思わせる暖かく柔らかな声をかけた。

 

『あの白と青の機体は敵ではありません。彼らは確かに破滅の王に生み出されたメリオルエッセですが、その心はとても人間に近く、破滅の王を倒そうとしているのです』
「以前の戦いではそのようなことはなかったと、伺っておりますが?」
『はい、かつて門が開かれた時に破滅の王が生み出したメリオルエッセ達にはなかったことです。ですが、あの二人は例外なのです。詳しい話をする暇はありませんが、ここは私の言うことを信じ、ザナヴと共にあの二人を助けてはいただけませんか?』

 

 トーヤに、どうするの、と問いかけている三人娘の視線を感じながら、トーヤはサイトロンの流れに身を任せるのも一興かと、腹をくくる。要するにその場の流れに身を任せるということなのだが。このトーヤという少年、若干優柔不断であるらしい。

 

「分かりました。我らはこれより二機の指揮官機を守るため、ガンエデンの僕であるザナヴと共に破滅の王の軍勢と刃を交えましょう」
『信じてくださってありがとうございます、若き騎士よ』
「行くぞ、カティア、テニア、メルア! フー・ムールー様に散々叩き込まれたことを実戦の場で生かす機会だ。遅れをとるなよ!」
「はい、トーヤさん」
「うう、嫌なこと思い出しちゃった」
「厳しかったから、フー様の訓練……」

 

 息を巻くトーヤであったが、どうにもテニアとメルアにとってトラウマに当たる思い出を呼び起こしてしまったらしく、二人の気力はあまり高揚してはいなかった。
こけかけるのをこらえて、トーヤはヴォルレントのスラスターを全開にし、二機の指揮官機――ファービュラリスとストゥディウムを追いまわすミーレス達へと勢い激しく挑みかかる。
 トーヤ達に思念で話しかけていた一方で、イルイは同時にグラキエースとウェントス達にも話しかけていた。トーヤ達と要らぬ諍いを起こさせないために、最低限の事情は話しておく必要があったためである。

 

『聞こえますか? 私はイルイ。破滅の王に仇なすものです』

 

「ほう、これがテレパシーというやつか。シュンパティアとはまた違った感覚だな」

 

「シュンパティアは意識の共有って感覚だからね。言葉が直接頭に響くのとは違うよ。イルイだっけ? ぼくはウェントス」

 

「ふむ。私はグラキエース・ラドクリフだ」

 

 どこかとぼけているというか、焦点のずれている二人に、イルイは小さく笑んだようだった。なんとも味のある連中と出会う一日である。

 

『貴方達が破滅の王のもとから袂を分かったことは知っています。私はかつて破滅の王と戦い封じた人間達の末裔。そしてあなた方のもとへと向かっているのは、太古の戦いで私たちに協力してくれた異星の騎士たちです』

 

「過去にこの世界で門が開かれたことがあるということか。よく世界が滅びなかったものだな」

 

『世界の滅びは免れましたが、多くの尊い命と文明が滅びてしまいました。かつての悲劇をもう一度繰り返すわけには参りません。
そのためには別の世界のこととはいえ、破滅の王の出現を封じた貴方達の協力が必要なのです。どうか私たちバラルの園、そしてフューリア聖騎士団にご助力願えませんでしょうか?』

 

 どうやら、このイルイは自分たちが別世界の記憶と人格をもってこちら側の世界に転生したことを知っているらしい、とグラキエースとウェントスは互いの視線を交差させて確認する。
 このままルイーナの追手に追いかけまわされて消耗しつくした果てに王のもとへ還元されるよりは、ここで罠かもしれないがイルイの元に身を寄せる方が得策だろう、と二人は結論付けた。それ以外に選択肢がなかったせいでもあるが。

 

「分かった。私達で出来ることがあるのならば協力しよう。きっと、ジョシュアもそうするだろうか」

 

「だね」

 

『ありがとうございます。ある程度戦ったら王の軍勢から距離をとってください。私の力で皆さんを転移させましょう』

 

「ちょうど一休みしたかったからな。そうしてもらえると助かる」

 

「じゃあもうひと踏ん張りがんばろうか、グラキエース」

 

 依るすがをもたぬグラキエースとウェントスにとっては、魅力的である一方信用するには不安要素の大きいイルイの提案であったが、二人はそれを快諾するほかない。
猛然とミーレス達の操る機体に襲いかかるトーヤ達に合わせるべく、鉛の様な疲労が溜まった体に叱咤を入れ、グラキエースとウェントスは気力を振り絞って愛機を操った。
ベルグランデの首を横一文字にはねたトーヤは、サイトロンの副作用か高揚する戦意に突き動かされて、ビームソードの切っ先はザナヴと一進一退の攻防を繰り広げるアクイラへと向けて口上をあげた。

 

「フューリア聖騎士団準騎士トーヤ・セルダ・シューン! 推して参る!!」

 

 切っ先と共に叩きつけられた気迫を堂々と受け止めて、アクイラもまた相手には届かぬと知りつつも、答えるように言葉を紡ぐ。

 

「また抗う意思をもつものが現れたか……。抗うことはすべて無為としれ、人間」

 

 その口元には強き者との戦いを楽しむように、ほんの小さな笑みが刻まれていた。

 
 

――つづく

 
 

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