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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第43話

Last-modified: 2010-06-02 (水) 18:10:44
 

ディバインSEED DESTINY
第四十三話 月の騎士 地球の守護神 破滅の尖兵(後篇)

 
 

 彼方まで広がる青い海に燃えるような夕陽がゆっくりと沈みはじめる世界の中で、空中に白い竜が絡み合っているかのような稲妻の塊が、黒い爆煙と共に弾けるや世界を一瞬黒白に染め上げる。
 稲妻と煙がまだ薄い靄のように漂う中から二つの巨大な質量をもった物体が飛び出し、それぞれ空と海面上に着地し、夕暮れの光を浴びて血塗れ色に変わる。
 天に立つはカリドゥム・サギッタとシャイニング・ツァアクの激突による爆発の余波を浴び、装甲表面に劣化の跡が見えるフォルティス・アーラ。
 広げた四肢で波の上に立つのは、白い体躯の各所に焦げた跡をいくつも作った人造の魔豹、ザナヴ。
 破滅の王の軍勢を率いる数少ないメリオルエッセであるアクイラと、地球の守護神たるガンエデンの下僕であるザナヴとの一度目の激突は、双方にそれなりの手傷を負わせた結果に終わったようであった。
 だが、その結果をいちいち確認するような余裕と暇は、両者ともに持ち合わせてはいない。隙あらば喉笛に食らいつき脛骨ごと噛み砕かんばかりの気勢のザナヴと、敵対者への容赦など元より持ち合わせていないアクイラだ。
 眼前の敵の粉砕。これが現在両者の思考において最優先事項となっている。
 フォルティス・アーラの涙滴かアーモンドにも見える特徴的な両腕部が動くのに合わせ、ザナヴは海面に大きな波紋を起こしてその場から大きく跳躍してはなれた。
 密林の中で出くわしたら背を向ける暇もなく喉笛を噛み千切られるに違いない敏捷さだ。
 ザナヴの跳躍にわずかに遅れて降り注ぐサギッタ・ルーメンの光線が、海面に命中して白い煙をいくつも噴き上げてはザナヴの後を追う。
 海という地球で最も広大な世界を自在に疾駆するザナヴを正確に狙い続けるのは、メリオルエッセであるアクイラにとっても容易い作業ではないようで、十射を数えても命中弾はなかった。
 ザナヴもただただ逃げ続けるだけでは終わらず、サギッタ・ルーメンを回避しながらアクイラの射撃の間隙を狙い、四肢から膨大な稲妻の奔流サンダー・ラアムを発生させフォルティス・アーラめがけて地上から天空へと逆に走る稲妻が襲いかかる。
 どちらもその場に一秒も留まらぬ戦闘機動を取りながらの破滅の光と神罰のごとき稲妻の応酬。中途半端な人の知恵が生み出した機動兵器程度では割って入ったところで、無残な鋼鉄の屍に変わるだけだろう。
 ルイーナとその離反者であるグラキエース、ウェントス、そしてガンエデンの下僕が一堂に介した戦場に参入した月の騎士達は、眼前で繰り広げられる戦いに臆することなく鬨の声をあげながら踊り込んだ。
 先陣を切る騎士型機動兵器ヴォルレントを、カティア・グリニャールは乗機であるベルゼルートが携行している長大なオルゴンライフルのセレクターを実弾を発射するNモードに合わせ、援護のために三連射した。
 トーヤ・セルダ・シューンのヴォルレントを追い越したオルゴンライフルの実弾は二発が外れ、唸りを上げた一発がアルゲンスの胸部に命中し、確たる質量をもった実弾が貫通力の高さを発揮して大きな穴を開ける。
 外れた二発もヴォルレントを迎え撃とうとしていたアルゲンスの至近距離をかすめて、回避動作に入ったアルゲンスの体勢を崩し、トーヤに先制の機会を作り出す。

 

「トーヤさん、今です!」

 

「分かった!」

 

 阿吽の呼吸、と言えばこれだろう、そんな呼吸でトーヤはカティアの作った機会を逃さず、ヴォルレントの右手に握らせたビームライフルのトリガーを四度引き、センターマーク内に捉えたアルゲンス二機へ二発ずつ光の矢が吸い込まれてゆく。
 異星人フューリーが技術を用いられたヴォルレントの武装の威力は総じて地球製の一般的な代物より高出力で、そのことを証明するようにアルゲンスに命中したビームは見事二射きっかりでアルゲンスを破壊して見せる。
 かなり濃密な訓練を長い時間積んだと見え、先制の一撃が見事な戦果をあげたのを皮切りに、カティアの援護を受けたトーヤは大胆なまでの動きで戦場の空を飛びまわり、ビームライフルとエネルギーソードで縦横無尽の働きを見せる。
 ぴったりと息の合った二人の動きに、余裕をもちなおしたグラキエースとウェントスも、ほう、とそれぞれ偽りのない感嘆の念を覚えていた。
 彼らの知己の中にはトーヤやカティアを上回るコンビネーションを持つペアやチームもあったが、イルイに知らされた新たな援軍達は十分な練度と信頼を併せ持ったペアであることが見ているだけでも分かったからだ。
 グラキエースとウェントスが好転し始めた状況に、安堵の二歩手前ほどの感情を抱く一方で、そんなカティアとトーヤを見て面白くないものもいた。
 敵対者であるアクイラはザナヴの猛攻を凌ぎながらではあるが、油断できぬ敵の出現を認めていたし、またトーヤ達ともに現れた二人の少女もアクイラとは違った意味で面白くないと感じていたのである。
 もっともその理由は、戦場には到底似つかわしくない嫉妬というには薄い感情であったが。

 

「トーヤとカティアばっかりにやらせないよ!」

 

「いっきまーす!!」

 

 八重歯と赤い髪の毛という外見的特徴に、周囲にいる人間を元気づけるような闊達な雰囲気のテニアは、サイトロンとの連結を強化するフューリー謹製のパイロットスーツに包まれた小ぶりな胸を揺らしながらクストウェルを走らせる。
 さながら古代の闘技場で闘技奴隷や百獣と命がけの戦いを強制された拳闘士のようなクストウェルの両拳に、眩いまでのオルゴンエネルギーが集中し、光のグローブを作り上げた。
 拳型のエネルギーを放つオルゴンショットを時折交えながら、迎撃に放たれるチェイサーミサイルをの弾幕をかいくぐり、テニアは肉薄したアルゲンスSの胸部に打撃を叩き込む。
 右胸部、左脇腹、下腹部、頭部――と瞬く間もない四連打の後、虚空を跳躍してから爪先のブレードに新たにエネルギーを集中させて、動くこともままならないアルゲンスの左警部から右脇腹までを一足刀にて切裂く。
 機体中枢部にまで達したクストウェル爪先のブレードの一撃によって、装甲・内部機器をまとめて断たれたアルゲンスは、秒瞬後には黒と橙色の入り混じる爆炎花へと変わる。
 機体サイズはMSやルイーナの量産機とそう変わらぬものではあったが、熟達の格闘巧者の動きを見せるクストウェルの連撃は、一度飲み込まれれば連続打撃の終わるまで逃れられぬ拳と足の嵐だ。
 おそらくクストウェルの駆動系にはDCで特機などに使用されている人工筋肉と類似したものが用いられているのだろう。動作の剛柔の幅が広く、人間が装甲を纏って戦っていると言われれば思わず信じてしまいそうだ。
 テニアは本格的な実戦の渦中にあっても、生来の活発さを損なわず積極的な攻撃姿勢を見せる。そしてトーヤとカティアのコンビネーション戦闘に触発されて発奮しているのはテニアだけではない。
 約三十メートルとケロンシリーズと同サイズの準特機にカテゴライズされるグランティードを操るメルアもまた、フューリーの技術を祖とする機体の性能を十分に引き出して破滅の王の軍勢を蹴散らしている。
 特機としては小型のグランティードではあったが、保有する火力の最大値は高くクストウェルが複数回の打撃を持ってようやく敵機を撃破するのに対し、繰り出す一撃で敵機が落ちてゆくのはいっそ爽快とさえいえた。

 

「これで、落ちてくださーい!」

 

 メルアのどこか人の良さそうな不二機の頼み込むような叫びと共に放ったフィンガークラッシャーは、ぺルグランデのポールハンマーの柄をへし折りながらその頭部を貫通し、破砕する。
 ようするにグランティードの大質量と堅固な装甲、馬力を活かしたシンプル極まりない貫手の事である。
 しかしてその威力は馬鹿に出来たものではない。その証拠に頭部を粉砕された二機のぺルグランでは、すでに撃墜された機体の破片と推進剤などで薄汚れた海面へと落下していっている。

 

「やるじゃん、メルア!」

 

「トーヤさん達に負けてられません!」

 

 クストウェルとグランティードの周囲を囲んでいたルイーナの兵力は、徐々にではあるが確かにその数を減らし始めていた。
 四人それぞれの保有する戦闘経験値はけして高いとはいえぬものであったが、グラキエース達との追撃戦でルイーナ側の機体が消耗していたことがトーヤ達にうまく働いているようだ。
 トーヤ達四人の歯車がかみ合い、互いの戦闘能力を向上させて実力以上のものを発揮する中、再びそよいだ風に鳴らされた金鈴の響きを思わせる声がウェントス達を含めた六人の頭の中に響く。

 

『ザナヴが隙を作ります。みなさん、後方の艦艇まで退いてください』

 

 距離で言えば数千キロ以上離れた遠隔地にいながら、イルイは鮮明にトーヤとグラキエース達の戦いを知覚しているらしい。流石は現在地球圏唯一のサイコドライバーと賞賛すべきだろう。
 イルイの言う後方の艦艇とはトーヤ達が共に月から地球へと降下してきた地球人の協力者が搭乗し、彼らの生活の場としての役割をひととき果たしている。
 イルイの声にすかさずグラキエースとウェントスが反応し、トーヤ達は二、三拍ほど遅れる。自分達がうまく戦えていることに気分を高揚させていたトーヤ達は、転移でこの場を退くことよりもこのまま敵を殲滅することを考えてしまったからだ。
 いずれ戦う敵ならばいまこの場で倒してしまった方がいい。そうだろう? それに、自分たちなら倒せる。だったら!
 立場的には三人の主であるトーヤも、三人の中では比較的冷静な性格でほかの二人を諌める立場にあるカティアでさえ、だ。上出来と言える戦闘の成果を前にして、思考が熱に浮かされた状態にある。
 そして、ヴォルレント、ベルゼルート、クストウェル、グランティードの四機の挙動がわずかに硬直した瞬間を見逃すアクイラではなかった。
 ザナヴがイルイの指示に従っていまだに周囲を囲む三十余機の軍勢に、雷を走らせるべく構えていたために、わずかにアクイラへの攻撃的な拘束が解かれていたのだ。

 

「未熟」

 

 アクイラの呟きがトーヤ達への正当な評価であろう。

 

「くそ、動きを鈍らせたか!?」

 

「みんな、回避して!」

 

 己を罵るトーヤ。全員へ回避を指示するカティア。二人は自分の口を動かす間もサイトロンコントロールで簡略化された機体操縦を手早く行い、フォルティス・アーラの機体各所から放たれたミサイルの雨を回避すべく動き出している。

 

「や、ヤバ! クストウェルじゃあっという間に壊れちゃうよ」

 

「カルディナさんに怒られちゃいますね……」

 

 機体の収納容量をはるかに超えているに違いないミサイルは、文字通り雨のごとき密度でもって降り注ぎ、外れたミサイルが海面に着弾と同時に爆発を起こし、汚濁の海に爆発の水しぶきを上げさせている。
 そんな中をかろうじて、といった有り様ではあるがいまだ機体の原形を保ったまま回避しているテニアやメルアの技量は新兵のレベルではない。
 絶望的な殲滅の光景を前にして恐怖を露わにしているが、操縦桿を操る腕の動きやディスプレイに表示される各種データを視認する瞳の動きも、認識したデータの取捨選択にも悪影響は及んでいない。
 実戦経験の有無はともかくとして月から舞い降りてきた騎士達四人は、壮絶と評すべきレベルの訓練を積み重ねてきたのだろう。二十本の指先から瞳孔、髪の毛の先に至るまで自分の意思が通っている。
 四人それぞれの経験値を考えれば驚嘆的な回避機動の連続ではあったが、射撃兵装による迎撃の手も間に合わず、一発二発と着弾が生まれる。
 グランティードはともかく、他の三機、特にベルゼルートは装甲が心許なくメルアがグランティードの背に庇うように前に出る。

 

「ベルゼルートはグランティードの後ろに。当たったら、ベルゼルートじゃひとたまりもないから!」

 

「ごめんなさい、メルア」

 

 フューリーの苦戦にすぐさまザナヴとグラキエース達が動く。
 ストゥディウムとファービュラリスを囲むアルゲンスとペルグランデを、サギッタルーメンの連射で散らして突破。
 威力ではなく速射性を優先して調整し放った猛烈な勢いの吹雪と風がフォルティス・アーラの放つカリドゥム・サギッタのミサイル群れを横殴りに直撃し、数珠つながりに爆発が起き、駄目押しにザナヴの放った雷の奔流が飲み込んでさらに脅威を半減させる。

 

「兵では抑えきれんか、腐ってもメリオルエッセだな。グラキエース、ウェントス」

 

 感心しているようにも聞こえるアクイラの呟きであったが、グラキエース達にとっては無価値な言葉であったろう。二人が選んだのはメリオエッセとして生きる道ではないのだから。
 止まぬかと見えたカリドゥム・サギッタではあったが、これまでの戦闘による消耗もあって、ミサイルの雨が途切れるのは常よりもやや早かった。
 展開されていたフォルティス・アーラの首回りの装甲などが再び閉じるのにあわせ、ザナヴは虚空を踏みしめながら跳躍を繰り返し、フォルティス・アーラの真正面と踊りあがる。
 白い弾丸とでも評すべき速さでフォルティス・アーラに迫ったザナヴは、全身からシャイニング・ツァクの稲妻を迸らせて半分をフォルティス・アーラへ、残りを周囲の敵機へと散らす。
 攻撃という役割ではなく牽制し距離を取るための広範囲への雷撃だ。散らされたとはいえ半分近い稲妻を叩き込まれたフォルティス・アーラは、全身から微細に砕けた装甲の破片を散らしながら大きく後方へと吹き飛ばされる。

 

「この獣、油断できんな!」

 

 その隙に後方に待機させている艦へと向かい、ファービュラリスらが踵を返して現在出しうる最高速度で戦闘空域から離脱する。
 追えるか否か。アクイラが隻眼に逡巡の迷いを浮かべたとき、きら、と彼方の距離まで離れたヴォルレントの手元で大きな光が瞬き、とっさの反応で傾かせたフォルティス・アーラを強い衝撃が襲う。
 置き土産とばかりにトーヤがヴォルレントに撃たせたロングレンジビームが、装甲に大打撃を受けたフォルティス・アーラの左腕部を根元から吹き飛ばしていた。
 度重なる戦闘によって負っていたダメージに加えて、四肢の一つを失うという損傷にアクイラは追撃を諦める判断を下した。確認すれば連れてきていた兵の残数は二十機前後にまで減っている。
 手負いのグラキエースとウェントスを片づけるには十分すぎるほどの戦力であったが、ガンエデンの下僕と月の聖騎士団の介入があっては、目的を果たすには不十分だったようだ。
 まだまだルイーナの戦力は整っているとは言い難く、これだけの損失を被ったのはけして軽視できない事態だ。
 近頃は根拠地のある南極に人間達の勢力がまだ小規模ではあるが調査隊を送り込んできており、ルイーナは根拠地の防衛と遠征の二勢力に部隊を分けていて、それぞれの指揮官が保有する部隊の総数は少ない。
 アクイラに預けられた兵士達は、グラキエース達やクライ・ウルブズと関わったことで半数を切っておりしばらくは積極的な攻勢に出るのは慎むべきかもしれない。
 フォルティス・アーラの左腕を吹き飛ばしたのを確認し、トーヤは撃墜はできなかったかと、悔しさを臍を噛むことで抑え込み、地球での活動拠点となっていた艦を視認する。
 グランティードやベルゼルート、クストウェルのほかにファービュラリス、ストゥディウム、ザナヴも同じように艦を目指して後退しているのを確認してから、ようやくトーヤは安堵の溜息を吐いた。
 あとはイルイが自分達を彼女の本拠地であるバラルの園まで空間転移を行ってくれるのを待てばいい。
 トーヤ達が使用している船は、アシュアリー・クロイツェル社のロゴが入ったレセップス級陸船戦艇である。
 フューリーが隠れ蓑として月に設けた軍事企業であるアシュアリー・クロイツェル社が、ザフトが地上戦力を引き上げる際に廃艦とする予定だったレセップス級の一隻を買い取り、回収を施した船である。
新型試験機の重力下での試験運用のための母艦として、地球連合をはじめとした地球上勢力には通達しており、準特機級の巨体を誇るグランティードの整備・格納の為に船体中央が大幅に回収が施されている。
DCから流出したEOTやオーバーテクノロジーも流用されており、Eフィールドの発生装置に加えて低速ではあるが飛行の可能、また徹底的に航行機能の自動機構化が進んでおり、極めて少数の人員だけで運用も可能となっている。
 艦橋に映る人影からトーヤに向けて通信がつなげられた。ヴォルレントの正面モニターの左側に投影されたのは、トーヤ達よりいくらか年上の十分に美女と呼べる女性であった。
 腰に届くまで延ばされた銀に近い白髪に、意思の強さがありありと浮かんでいる青の瞳。目鼻の造作はくっきりと凹凸を刻んでおり、戦艦の艦橋にいるよりも舞台の上かレンズの向こう側で写真のモデルとして活動している方がよほど似合うと見える。
 地球でトーヤ達の教官と水先案内人を兼ねているカルヴィナ・クーランジュだ。表向きの肩書は、アシュアリー・クロイツェル社預かりの新型兵器運用係兼教官である。
 元は地球連合の少尉で、先のヤキン・ドゥーエ戦役でストライクガンダムを駆り、ザフト・DC相手に戦果をあげたエース級の腕前を持つ優秀なパイロットであり、養成学校では教官相手に全勝記録を打ち立て、ホワイト・リンクスの異名をとった女傑だ。
 しかし邪神と一体化し支配下に置いたルオゾールが猛威をふるった最終決戦において戦傷を負って一線を退き、いまはアシュアリー・クロイツェル社の契約社員となっている。
 月に本拠地を置くフューリア聖騎士団の活動と、地球人類との関係を知っている数少ない純粋な地球人でもある。

 

『統夜、どういうわけで艦に戻っているのか、手短に』

 

「あ、ああ。じつは……」

 

 悲しいかな、統夜はフーと並び鬼軍曹さながらに扱かれた為に、詰問に近い口調でカルヴィナに問いただされると反射的に体がびくりと震えてしまう。
 フューリーの誇りある歴史を担う時代の騎士として、凛々しく戦いに臨んだ際の気迫ははるか遠方にほうり捨ててしまったような顔だ。
 厳しい規律と伝統を重んじる騎士団とはまた違い、合理性を求めた軍隊式の生活に親しんだカルヴィナの統夜達に対する厳しさというものに、統夜をはじめ三人娘達はいまだに慣れてはいなかった。
 かいつまんだ説明を行い、これからメリオルエッセを伴う形でイルイ・ガンエデンの元まで空間転移する、という旨を告げるとカルヴィナは半信半疑といった顔を拵えた。
 前大戦時にジェネシスを取り込んだ狂女や神を気取った異形の生物など、既存の常識を覆す存在との邂逅には多少なりとも慣れてはいたが、空間転移という半現実的な単語はいまいち信じられないらしい。
 なまじ一般的な常識の世界の範囲に含まれる言葉だから、地球圏では現状確立されていない技術を、超能力で実行するという事がカルヴィナの脳裏では噛み合わないのだろう。

 

『まあ、いいわ。とりあえずは戦闘は中止ということでいいのね?』

 

「そうなる。着艦の用意を頼むよ」

 

『OK。ああ、それとデブリーフィングでいろいろと詰めるところもあるから、ひと段落したら覚悟しておきなさい。カティア、テニア、メルアもよ。いいわね?』

 

 きっかり統夜以外の三人にも釘を刺したカルヴィナに、三人がそれぞれうぇ~、そんなぁ、などと分かりやすい不満の声を上げたが、それだけ元気があるという事だから、戦闘の直後だというのになかなか体力があるとここは褒めておくとしよう。
 ほどなくしてレセップス級の甲板にヴォルレントをはじめとした六機の機動兵器と、ザナヴが降り立つ。従来MSの運用を前提とした艦であるから、回収を施してあるとはいえ、大型特機クラスのサイズであるザナヴが降り立つとどうにも窮屈である。
 それにファービュラリスとストゥディウムのどちらとも平均的な特機に匹敵する巨体だ。ほとんどレセップス級の甲板上はすし詰め状態に近い。

 

「流石に狭いな」

 

「おっと、ごめんよ」

 

 相変わらず淡々としたグラキエースが素直な感想を述べ、間違ってザナヴの尻尾を踏んでしまったウェントスが、ストゥディウムの頭を下げながら誤る場面も見られた。
 ルイーナの軍勢の追手がかかっていないことを改めてセンサー類で確認し、一息をつけるな、とトーヤが思った時、イルイの声が再び心を震わせた。

 

『お待たせいたしました。これから皆さんをバラルの園へと転移させます。肩から力を抜いて、リラックスしていてください。すぐに終わります』

 

 ようやく騎士総代と姫から賜った役目を遂行できる、とトーヤが意気込むのと目の前に光が溢れて体が不可思議な浮遊感に襲われるのはほとんど同時だった。

 

 * * *

 

 残っていたミーレス達に四方を探索させた結果が空振りに終わり、アクイラはようやく完全にグラキエース達をロストした、と判断した。
 機体の中心部近くにまで及んだダメージによって、フォルティス・アーラの調子が今一つ振るわず、これ以上この空域に留まっては人間の軍勢に捕捉される危険性もあるから、アクイラは仕方なしに南極への帰還を決めた。
 現在のルイーナの状況は、二人の指揮官クラスのメリオルエッセが離脱しその追撃に戦力を割いた影響もあって、活発に活動しているとは言い難い。
 ユニウス・セブン落下の際に地球を完全に覆い尽くした次元断層を発生させた時に、本来であるならば地球に生息している人類を大量に殺戮し、破滅の王と軍勢の糧となる負のエネルギーを大量に入手する予定が狂ってしまった事も大きな要因だ。
 以前まみえた人間達の部隊の事を思い出し、アクイラは自軍の戦力強化の必要性と、胸の内に湧きおこる高揚に身をゆだねる。
 後者はメリオルエッセにはあり得ぬ“心の動き”であったかもしれぬが、アクイラはそれを肯定も否定もしなかった。
 どうするにせよ、いずれは王のもとへと還る身。自身の情動への感慨など、この隻眼の男には欠片もなかったのかもしれない。
 グラキエースやウェントス達がシェンパティアの共鳴によって心を得てしまったことに、大きく動揺を見せたのに反し、極めて落ち着いた反応と言えるがそれもアクイラのパーソナリティによるものだろう。
 しかし、グラキエース達の消去には失敗し引き連れた戦力は大幅に削られるとは。せめて新たな敵勢力の出現を確認できたことが収穫と言えるが、これではまるで採算が取れていないのが現実だ。
 いまは地球の人類同士での戦闘が繰り広げられているから、ルイーナが自ら手を下さずとも負のエネルギーの回収が行えるのは僥倖であるが、王は迅速な目的遂行を望んでいる以上、ただ戦力増強を待つわけにもゆくまい。
 南極にいるコンターギオやウンブラらとなにか策を一つ講じた方がよいかもしれぬ、とアクイラが厳めしい顔の内で思慮に耽っていると、海中から出現する巨大な熱量を複数、フォルティス・アーラのセンサーが捉える。

 

「何だ?」

 

 突然の事態にも動じた様子を見せないアクイラとその配下であるミーレス達が操る機体の周囲を、海中に潜伏していた三十弱の機影が取り囲む。
 待ち伏せか? と訝しむアクイラの瞳が映したのは、手に入れた地球圏の一般的な兵器とは規格が明らかに異なるものばかりである。
 まずもっとも多いのが、旧世代の兵器であるメビウスに似たダークグリーンのMAもどきと、人間の除隊に似た柔らかなラインと獣のかんばせを持った二機種。おそらくこれが主力の量産機なのだろう。それぞれ十二機ずついる。
 さらにフォルティス・アーラの正面に、これらの指揮官機らしき特異な風貌の機体が三機種。モニター五指にもはっきりと感じ取れる威圧感を放ちながら立ちはだかっていた。

 

(なんだ。こいつらは? 我らメリオルエッセに、いや、王の放つ波動に近い何かを持っているだと?)

 

 アクイラが感じ取った既視感に似た感覚は、けして間違いなどではなかった。アクイラの目の前に現れたのは、ルイーナに似た特性を持ったイディクスと呼ばれる特殊な存在の徒党である。
 惑星一つ分の生命の悪意がそれぞれ科学者や獣、女性など別々に結集して人格を宿した幹部を中心に、このコズミック・イラに出現した彼らの一時的な目的が、ルイーナ同様に負のエネルギーの収集である事は、さすがにアクイラの預かり知らぬ事であるが。
 フォルティス・アーラにも負けぬ巨躯を誇る三幹部の内、中央に位置し腰から下を海の中に沈めている妙に継ぎ接ぎの機体がずい、と一歩前に出る。
 建築現場などで見かける重機をいくつもむりやり接合して人型にしたような、機能美ともデザイン性ともかけ離れた外見である。パイロットであるイスペイルみずから千年をかけて作り上げた機体でエンダークという。
 イディクスが長い歴史の中で滅ぼしてきた無数の惑星の技術を取り込んでいるのだが、すべての技術を盛り込むという発想自体に無理があるために、完全には各種の技術を活かせていないという微妙に悲しい機体だ。
 エンダークのコックピットの中で、黒光りする一本角を額のあたりからカブトムシよろしく生やしている金属的な光沢をもった顔のイスペイルが息も荒く、外部スピーカーをオンにしてフォルティス・アーラに食ってかかる。

 

「見つけたぞ! 貴様らの後を追いはじめてから今日にいたるまで貴様らに奪われたマイナスエネルギーの補充と、人間どもに見つからぬように海底をひっそりと行かねばならぬ暗く冷たく淋しい潜伏生活の苦労!!
 ようやく軌道に乗り始めた魔法少女と特撮の撮影を放り捨ててこつこつと貯めておいた資金を費やし、あ、これはこれでありかもと思っていた生活を捨てざるを得なかった我らの苦渋、すべて貴様らのせいだああああ!!!!」

 

「……」

 

 おそらくは涙なしには語れぬ鬱憤を貯め込んでいたのだろうイスペイルは、最初から建前も何もない私情を全開にした文句を叩きつけるが、何を言っているのだこいつは? 程度にしかアクイラは反応を返さない。
 それはそうだろう。アクイラにとってはイスペイル達は初見の相手である。これまでに何度か遭遇した人間の軍隊を殲滅した事はあったが、目の前のこいつらは明らかに地球圏の技術とは異なる存在だ。
 だが聞き逃せぬ単語に、アクイラはかすかに目を細める。

 

(奪われたマイナスエネルギー、か。どうやらこいつらも我々と似たような存在であるらしいな。であれば見逃すことはできんが……)

 

 アクイラが率いるミーレスのほとんどは損傷を負った機体で、フォルティス・アーラも片腕を失った状態であり、他にも大小さまざまなダメージが言えぬままだ。状況が状況だけに容易く兵を引く事も出来まい。

 

「ここで会ったが、百年目。貴様はどうやら指揮官クラスらしいな。四肢を捥いで動きを封じてからいろいろと話を聞かせてもらおうか? 収集装置を使った地道な収集活動では必要量を確保できぬのでな!」

 

 さらにずい、と一歩を踏み出すエンダークに呼応するようにしてその両サイドに立っていた他の二機も動き出す。
 人狼型の量産機と酷似した機体は約二十メートル前後で名称をビクトーラ。長い金の髪を風になびかせ、より女性的で豊かなラインの目立つ機体である。
 エンダークとは逆に滅ぼした惑星に生息していた生物の生体構造を活かし、さらに徹底的に無駄を省いて再構成した機体であるため獣の俊敏性と生命力を活かした性能となっている。
 同じように滅ぼした惑星に由来する生物や技術を糧としているにも拘らず、エンダークとは逆に機体性能に反映できているのだが、これは果たしていかなる理由によるものかは本人達にも不明である。
 本来イスペイルは科学者たちの悪意が集合して誕生たした存在であるし、一千年も存在していたのだから、少なくとも短所のない機体くらいには仕上げられそうなものなのに、とは禁句かもしれない。
 ビクトーラのパイロットで、褐色の肌に結いあげたピンクの髪から零れる獣耳が特徴の美女ヴェリニーが口を開く。

 

「イスペイル、ちょっとやかましいわよ。まあ今回は異存がないし、久しぶりに暴れたいからね。たっくさん切り刻んであげるわよ」

 

 おそらくは舌舐めずりしたのだろう。濡れた音が一つし、狼面のビクトーラの口元が歪んで、ずらりと並んでいる牙が数本むき出しになる。
 数千万ないしは数億単位の女性と獣の悪意の集合体であるヴェリニーの所作としては、これ以上似合うものもそうはあるまい。かちりかちり、とビクトーラの手から伸びる爪が音を立て、獲物の肉を抉る時を今か今かと待ち望んでいる。
 エンダークを挟んでビクトーラの反対側に立っているのは、ビクトーラの三倍少々に及ぶ標準の特機を超えた大きさを誇るゼナディーエ。
 機体の半分を実態を持った精神的物質で構成する特殊な機体で、パイロットは幼い少女の外見だが、イスペイルやヴェリニーを一段上回る悪意の集合体であるガズムが務めている。
 ゼナディーエの死者の肌のそれに近い白色のボディは、悪魔か死神を思わせる禍々しさに満ちた外見をしている。前大戦の最終決戦に参戦したものがいたなら、真ナグツァートを連想して顔色を悪くしたかもしれない。
 人類に最後の審判を下す役割りを天使から奪った悪魔のごとく出現したかの邪神は、いまもその姿を目撃した多くの者たちにとって深刻な精神的外傷となって残っている事がほとんどだ。

 

「左団扇の生活も悪くなかったが、ル=コボル様の御許へ一刻も早く馳せ参じねばならぬのでな。貴様らの正体、マイナスエネルギーを集める理由、それだけの戦力をどのように用意しているのか、我らイディクスの為に諸々聞かせてもらおうか?」

 

 幼い少女の声と分かるガズムの声だが、精神的には男性人格であるため、ガズムの口調と声の調子は成人男性のそれだ。かなりのギャップを感じさせるガズムのセリフに対して、アクイラは反応する様子はない。
 むしろ三人の中でもっとも強大な威圧感を放つガズムとゼナディーエをもっとも警戒し、一挙手一挙動を見逃さないように注意を払っているほどだ。
 先ほどまで戦っていたトーヤ達との戦闘を継続するよりも、気力充溢し機体の状態も万全のイディクスらと交戦するほうが、アクイラにとってははるかに分の悪い選択肢に違いない。
 南極まではまだはるかに遠くこの包囲網を突破して逃げ伸びる目は、まずゼロに近い。かといって今手元にある戦力で、イディクスを名乗る敵の殲滅などより一層無理というもの。
 手詰まりか、とアクイラは淡々と状況を正確に把握した。負のエネルギーを糧とするメリオルエッセという身の上のため、アクイラはイディクスの指揮官クラスの保有する膨大なエネルギーを敏感に感じ取っていた。
 一人ひとりがメリオルエッセにも劣らぬ強大さで、またよく似た性質のように感じられることと彼らの言からすれば負のエネルギーを、イディクスもまた糧としているのだろう。
 厳密にいえばイディクスの兵員達の直接的な糧となるのは『欠片』と呼ばれる、去る惑星の生物の悪意が凝縮したものであり、マイナスエネルギーは空間の壁に穴を穿つ転移システムの稼働に必要なものとして収集している。
 いずれにせよ両者が憎悪や怒り、恨み、妬み、侮蔑など負の思念を必要としているのは確か、その力の独占をはかっている以上衝突は避けられなかっただろうし、ルイーナとイディクスの双方がまかり間違っても協力し合う選択を選ぶ勢力ではない。

 

「この身が朽ちようと朽るまいといずれは王へと還るが我が運命。心行くまで、貴様らを悲嘆と苦痛に苛んでくれよう」

 
 

――つづく

 
 

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