Top > SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第44話
HTML convert time to 0.009 sec.


SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第44話

Last-modified: 2010-06-22 (火) 15:27:46
 

ディバインSEED DESTINY
第四十四話 破滅の会合と別れ

 
 

 共に破滅の名を冠する存在であるルイーナとイディクス。究極的な目的が全宇宙規模での全生命のみならずあらゆる存在の破滅であり、そのために地球人類を贄とすべく行動している点もほぼ共通といえる。
 破滅に至るまでの過程も、ル=コボルの完全な復活による破壊と、ペルフェクティオが本来存在する別次元の扉を開く事によってペルフェクティオ本体を招聘し、世界に破滅の幕を下ろす、と自分達の勢力の指導者を頼みにするなど酷似している。
 目的のために手段を選ばぬのであれば共に手を携えて目的を果たそうとしてもおかしくはない。
 本来は、である。
 しかし首領であるペルフェクティオが健在であり、行動指針に迷いのないルイーナの軍勢に比べて、指導者であるル=コボルを欠いている上にこの世界に順応した生活を送って存在意義を半ば忘れていたイディクスとでは、相容れることは難しいようであった。
 その事を証明するように元いた次元へ帰還するために収集していたマイナスエネルギーを、ルイーナによって半分近くを奪われた怒りにイディクス幹部イスペイルは突き動かされて、イディクスの全戦力を投じている。
 離反したメリオルエッセ、フューリア聖騎士団、ガンエデンの下僕との戦いで消耗したルイーナの幹部アクイラと彼がひきつれる損傷だらけのルイーナ機を、好機を狙って待ち伏せしていた事に成功したイディクス軍団総数二十七機が取り囲む。
 上位クラスの特機とも真正面から戦えるほどの戦闘能力を誇るイディクス指揮官機三機が相手では、戦闘に特化したメリオルエッセ・アクイラと愛機フォルティス・アーラが健在であったとしても、互角以上に戦うことは不可能であったろう。
 イディクスの幹部三名はどこか人間臭い所のある愛嬌のある性格をしているが、実力の方もちゃんと備えているし、千年単位の存在時間の間にいくつもの文明を滅ぼしてきた実績は、かろうじて伊達ではなかった。
 ガズム、ヴェリニーは久々に破壊衝動に身をゆだねる快楽に口元を暗い影の這う笑みを浮かべ、前者二人に比べて汗水垂れ流して収集していたマイナスエネルギーを奪われた恨みの分、頭に血が上っているイスペイルはいまにも飛びかからんばかりの勢いだ。
 イスペイルの乗機エンダークが持つミナール・ハンマーが唸りを上げながら、肩に担がれて最大出力で振り下ろすための予備動作を終える。
 絶体絶命の窮地以外の何物でもない状況の渦中にありながら、アクイラの心中に焦燥の火種も存在していなかった。もとよりペルフェクティオの生みだした人造生命メリオルエッセには思考能力こそあれ、感情などという余分なものは持たされてはいない。
 ただ冷徹なまでの判断力で状況を精密に把握して、自身の終焉を認識していただけだ。目の前に立ちふさがるイディクスの軍勢の戦闘能力は不明だが、センサーで感知できるエネルギー量は大したものといえた。
 酷似した存在であるためか、こうして対峙しているだけでもイスペイル達の戦闘能力をおおよそではあるが、アクイラは感覚的に把握することができた。万全の状態で戦っても大きな代償を払わねば勝利を望めぬ強敵であると。
 アクイラにとってプラスとなる要素が一欠けらもないこの状況では、どうあがいた所で勝利をおさめるないしは、生き延びる手立てはない。そうアクイラは結論していた。
 存在が消滅するその時まで戦って戦って戦い抜く。アクイラの選択肢はただそれ一つだけであった。

 

「かかれええええいいいいい!!」

 

 イスペイルが旅のご老公に悪事を暴かれた悪代官のような叫び声をあげるのに合わせ、周囲のイスペイル兵のメトラとヴェリニー兵のデスエラ合わせて二十四機が、損傷機だらけのルイーナの軍勢に襲いかかる。
 ダークグリーンの戦闘ポッド型機動兵器メトラは、腹部のビーム砲と頭部のガトリング砲、ミサイルランチャーを景気よく発射し、ヴェリニーのビクトーラの簡易量産機といえるデスエラは狼面の口を開いて高出力のビームを放ちはじめる。
 三勢力との連続戦闘によって推進剤や弾薬を消耗し、機体にも損傷を負っているアンゲルスやペルグランデは満足な回避運動を取れず、釣瓶打ちのように次々と撃墜されてゆく。
 総戦力二十七機という悲しい超零細勢力であるイディクスの戦力を目減りしないように、状況の把握に血道をあげたイスペイルが、戦闘に踏み切るほどいまのルイーナの戦闘能力は削り尽くされた状態だ。
 片腕を落とされ機体全面の装甲に損傷の跡をむざむざと刻むフォルティス・アーラだけは萎えぬアクイラの闘争の意思に支えられて、負のエネルギーを転換して生成するミサイルとサギッタ・ルーメンで反撃を試みる。
 しかし雑魚をまとめて落とさんと放つ雲霞のごときミサイルの雨は動きに精彩を欠き、弾速も音速の半分も出てはいまい。
さらに思考を怒りで沸騰させてはいるものの、部下達を倒されることを嫌ったイスペイルが、エンダークの左腕部を中心に機体各所のミサイルを放つミナール・スパイカーで迎撃して見せる。

 

「悪意の欠片が存在しない以上、存在の密度を上げる事も兵を増やすこともできんのでね! こやつらをむざむざとやらせはせんよ」

 

 まさに悪のサイボーグという風体ではあるものの、科学者の悪意の集合体というだけあり、合理的な思考形態を持つイスペイルは思考の一部をあくまでニュートラルな状態にしてある。
 そのイスペイルの黒光りするメタルヘッドの中の平静な思考の一部が、あくまでもエンダークの操縦を無駄を削ぎ落とした冷徹なものに固定し、戦術的に最大効果を発揮する選択肢を優先的に取らせている。
 ミサイル発射に伴う白煙を歪な巨躯に纏いながら、ミナール・ハンマーを振り上げて、イスペイルはエンダークをフォルティス・アーラへと突貫させる。

 

「このような力任せの技は私の性には合わないのだがね、威力は折り紙つきだ!!」

 

 数多の異文明の技術を完全に活かしきれていないとはいえ、イスペイルの持つ技術力の高さは紛れもない本物である。その精髄を凝らしたエンダークの戦闘能力は、対峙するものがどの勢力であろうとも侮ってよいものではない。
 建築現場の重機の様なマニュピレーターで両手保持したミナール・ハンマーを大上段に振り上げ、MSやPT程度などアルミ缶のように押し潰してしまう大質量を乗せた一撃が、フォルティス・アーラの頭頂部へ!
 鈍重なエンダークに懐にまで接近されてしまったのは、やはりフォルティス・アーラの中破状態と、超人種といえるメリオルエッセとはいえ流石に疲労の山を体内に築いたアクイラの不調による。
 イスペイルの無策に等しい突撃は、むろん、フォルティス・アーラの機体状況を看破した上での判断だ。もっとも、フォルティス・アーラが万全と呼ぶには程遠い状態にあるなどと、誰が見ても一目瞭然ではあるけれど。

 

「ふんんんぬううう!!!!」

 

 ルイーナに対して積もりに積もらせた怒りと、ヴェリニーとガズムに虐げられて貯め込んだ鬱憤を八つ当たり気味にミナール・ハンマーに詰め込んで、イスペイルは躊躇なく振り下ろす!

 

「…………かすめたか」

 

 かすかな音を立ててフォルティス・アーラの残っている左腕の外側装甲をミナール・ハンマーがかすめて、それだけでどれほどの衝撃が伝わったものか、瞬く間に左腕の装甲は剥落してゆく。
 振り下ろしきった位置から、ミナール・ハンマーを振り上げてフォルティス・アーラを左足から胴体にかけて叩き潰さんとしたイスペイルの思惑は、エンダークの首がほとんどない頭部が、フォルティス・アーラの左足に蹴り飛ばされたことで中断された。

 

「こいつ、恐怖がないのか!?」

 

「血に染まりながら我らの王の血肉となるがいい」

 

 体勢を崩すエンダークに撃ちこまれる紫色の光線の束。フォルティス・アーラに残るエネルギーの大半を注ぎ込んだサギッタ・ルーメンの連射である。
 イスペイルが愛機の体勢を立て直し、回避か防御の選択肢を選ぶよりも早く連射されたサギッタ・ルーメンは、次々とエンダークの頭部を中心に着弾して光の粒子の中にエンダークを閉じ込める。
 攻撃の効果を確かめるべく隻眼を凝らすアクイラに、光の煙を割いて迫りくるミナール・ハンマーが迫る!
 かろうじて神がかり的なアクイラの反応速度に、フォルティス・アーラは一度だけ答える事ができた。横殴りにフォルティス・アーラの頭部を砕きに来たミナール・ハンマーは虚しく空を切り、鉄槌に砕かれた風がフォルティス・アーラの胸を打つ。

 

「ぬうっ」

 

「甘く見てもらっては困る。このエンダーク、これまで滅ぼしてきた文明の技術は全て取り込んである。貴様らの機体も万全ならば十分に脅威といえたが、そのザマでは我がエンダークの敵ではないのだよ! ふうっははははははっはははははははは!!」

 

 サギッタ・ルーメンの出力も低下していたものか、継ぎ接ぎの機体外見から重厚さの割に脆弱そうにも感じられるエンダークであるが、それでもサギッタ・ルーメンの連射に損傷を負わぬ頑健さを有しているようだ。
 久々に我が世の春が来た、とばかりに哄笑するイスペイルは瞼のないぼう、と夜空に輝く黄金の満月の様な瞳に、傷つき弱ったフォルティス・アーラの哀れな姿を映して自分の勝利の予感に酔いしれる。

 

「ちょっとちょっと、私らの分は残してあるんでしょうねえ? イスペイル」

 

「ふ、この程度の有象無象どもでは肩慣らしにもならんではないか。そこの指揮官は少しはましなのだろうな」

 

「ヴェリニーにガズムか。雑魚の掃除はもう終わったようだな。普段から私任せにしないでそれくらいには働け」

 

 愚痴をこぼしながらイスペイルが周囲を見渡せば、メトラとデスエラがぐるりと周囲を囲み、ビクトーラとゼナディーエが凶の気配を纏いながらフォルティス・アーラの背後に悠然と立たずむ。
 アクイラが引き連れていたルイーナの軍勢の残りは、すべて切り裂かれ、撃ち抜かれ、破壊されてはるか彼方の海面へと黒煙を噴きながら落下して、無数の残骸と変わって青い海を汚している。
 三方からフォルティス・アーラを束縛するイディクス幹部のプレッシャーに、アクイラは機体を動かせず最後の一撃をどの機体にぶつけて、自らの存在に終焉を打つかのみを考えて始めていた。

 

「あ~あ、ここまでぼろぼろじゃ首を刎ねるか動力炉を抉るくらいしかできる事ないじゃない」

 

「あまりやり過ぎるなよ、ヴェリニー。こいつにはいろいろと背後関係について聞かねばならぬ事が多い。面倒ではあっても、ル=コボル様のもとへと戻るためには堪えるべき時だ」

 

「分かっているわよ。私達の存在は全てル=コボル様に帰結するんですもの。あの方のためになす事が私たち自身の為でもあるのだから」

 

「……」

 

 欠片と呼ばれる悪意の精神エネルギー結晶によってその存在を成り立たせているイディクス構成員は、ル=コボルを頂点に指揮官クラスほど欠片の密度をより濃いものにする。
 その存在の根源が同一であるために、イディクスの構成員すべてが同一の個体と言えなくもないのだ。しかしながら、三人の指揮官の中でイスペイルだけは比較的存在の密度が薄いためにか、ル=コボルに対し反逆の意図を持っている。
 そのイスペイルからすれば、あくまでもル=コボルへの忠誠篤いヴェリニーとガズムの言葉は、いずれ敵対する未来を予感させるものであったろう。
 ヴェリニーとガズム、そしてヴェリニー兵を滅ぼして彼女らを構成する欠片を自らに取り込むことでより強大な存在へと進化し、この世界の軍事技術を取り込んでエンダークもまた強化してル=コボルをも打倒する力を手にする事。
 それがイスペイルの秘めたる野望。己の存在を確立させ、ル=コボルの呪縛にとらわれぬ自由なる存在となる事。ある種、究極的な自由を求めるシュウ・シラカワと同じように、イスペイルもまた自分を縛る存在からの脱却を願っているのだ。
 感傷に浸る心を無視し、イスペイルは完全に包囲したフォルティス・アーラへ意識を集中し直す。
 フォルティス・アーラがなけなしのエネルギーを蓄え、爆発させる時を待っている事はこちらのセンサーとこれまでの戦闘経験から理解できる。
 だがこの場で自滅されるわけにはゆかない。フォルティス・アーラが次のアクションを具体的に起こすよりも早く、こちらの手によって無力化して情報源になってもらわねば、わざわざ危険を冒してまで戦いに踏み切った甲斐がないというもの。

 

「ヴェリニー、ガズム、奴に自滅などさせるな! 撃墜もするなよ、聞かねばならん事はいくらもあるのだからなあ!!」

 

「何回同じ事を私達に聞かせる気!? あんまりしつこいとそのカブトムシとゴキブリを足したような顔を後で引っ掻くわよ!!」

 

「な、せ、せめてカブトムシ一本にせんか! Gは無かろう、Gは!!」

 

 イスペイルは、夏場に三角巾とゴム手袋、前掛けの完全装備で事務所の給湯室の掃除などをしていた時に、わずかな隙間から顔をのぞかせた黒みがかった茶色の虫が大いに苦手になっていた。

 

「言い合う暇があれば手を動かせ、手を」

 

 呆れる声を出すガズムに注意されて、ようやくヴェリニーとイスペイルは口論を止めて、それぞれの機体の携える武器を構える。エンダークはミナール・ハンマーを、ビクトーラは左の腕先に輝かせる巨大な爪を。
 ガズムは半身と呼んでも差し支えないゼナディーエの傍らに暗黒空間より招いた巨大な棺を呼び出し、封じ込められている悪意の渦を放つ時を待つ。
 もっとも破壊しやすいのは運動性に特化しているために装甲を犠牲にしたビクトーラだが、一撃を当てやすいのは鈍重なエンダーク。
二撃目を思慮に入れない片道限りの万歳アタックならば、いまの機体状況でもエンダークをかろうじて粉砕することはできるだろう。道連れに選ばれたとは気づかず、イスペイルは破壊の衝動に身を任せてミナール・ハンマーに凶暴な唸り声を上げさせる。
 おれの最後の戦いの相手というには、いささか物足りぬが――アクイラが胸中でいくばくかの物足りなさを噛み締めて、残ったエネルギーと共にフォルティス・アーラを内部から崩壊させる。
 だが、それを、唐突に出現した同胞の気配を感じたことでアクイラは止めた。肩すかしを食らった様な脱力感が胸中に染みのように広がった。だがアクイラの苦闘を感じて窮地を救いに来たという事ではあるまいが、助かったのは事実。
 フォルティス・アーラに迫っていた三機のイディクス指揮官機を、天から降り注いだ黒い雷が打ちすえて吹き飛ばす。
 黒い情念を内包した雷はそれほど大量のエネルギーを内包していたわけではないが、ゼナディーエらを吹き飛ばすには十分なだけの威力は有り、それぞれが三百メートルほどフォルティス・アーラと距離を取る。
 吹き飛ばされた各指揮官機に目立った損傷はない。あくまで牽制のための雷であったという事か。
 半径三百メートルの空白地帯に、黒い雷と共にいくつもの機影が出現してフォルティス・アーラとアクイラを守るように円形に陣を敷いていた。
 真っ白い鰻のような凹凸のないつるりと滑らかな表面は生物の皮膚の様な質感を持ち、開かれた口には肉食獣や大型の肉食鮫を連想させる牙がずらりと並んで生え揃っている。
 アンゲルス、ペルグランデに続くルイーナ第三の主力機動兵器スカルプルムだ。その上位機種であるSタイプと共に、ひと際異様な、より禍々しく有機的なフォルムの機体が降臨していた。
 二足歩行の恐竜の体に何本もの食虫植物の蔦が絡みついているかのような、見る者に困惑と不理解を与える異形の機体で、フォルティス・アーラやファービュラリスの様な他のメリオルエッセの機体とは一線を画している。
 名をウィオラーケウム。ラテン語で菫色の、という意味を持つ。
 機体同様に操り手もまた人間ではないと一目でわかる異様な風態の男であった。植物の緑とおなじ色彩の肌を持ち、爬虫類のような印象を受ける冷たい瞳と大きく開かれた口から覗く、血が溢れているような真っ赤な口腔。

 

「コンターギオか。まさか貴様が出張ってくるとはな。ご苦労な事だ」

 

「くかかかかか、お前ほどの男がこうまで追いつめられるとは私も驚きだよ。我らの軍備はいまだ整っておらぬ。お前を欠く事は今後の活動に支障をきたすと判断してな、こうして参ったのだ」

 

「ふむ、確かにおれの代わりを作るよりはその方が効率的ではあるか」

 

 自分自身の生死にまるで拘泥せず無頓着なアクイラの事は、尋常な精神の持ち主には到底理解し得ぬものであったろうが、この場で彼らに対峙しているのは彼ら同様に破滅を関する異形軍勢。
 アクイラとコンターギオと呼ばれた男の会話など元より念頭に置かず、驚きに襲われる事もなく、ただ敵意の炎を大火へとより大きく燃え上がらせるのみ。

 

「ちい、このタイミングで援軍か。あいつらを思い起こさせる連中だな」

 

「ビビってんじゃないわよ、イスペイル。質問に答える口が一つ増えたって考えればむしろラッキーよ。それに暴れ足りない鬱憤を晴らせそうなのがごろごろ来たじゃない?」

 

「余計な手間をかける事になったな。お前達、兵をやられんように気をつけろよ。エネルギーが補充できればおれが無人機を作り出すこともできるが、あいにくと今の状態では無理なんでな」

 

「バイオゾイドとかオーバーマンあたり? 装甲と特殊能力がえげつないから、使えたならかなり楽ができたかもしれないわね」

 

「ガズムがコピーを作るためのエネルギーもマイナスエネルギーで賄う予定だったからな。それを奪ったのは連中だ。つまるところ我らの兵力不足も奴らルイーナとかいう輩のせいだ」

 

 さりげなくルイーナに対する敵対意識を募らせるようにイスペイルは誘導する。もっともそうせずとも彼らは、自分達と類似するがゆえに目的達成の過程で衝突する可能性の高いルイーナを壊滅させる腹積もりだ。
 イスペイルの言動にさほど効果があるわけでもない。
 特に敵意の放射が激しいヴェリニーに反応したのか、コンターギオの命令によるものか、真新しいスカルプルム達が口を開き爪を戦慄かせ、奇声を上げながらビクトーラへと踊りかかる。
 忠誠篤いヴェリニー兵達は、それぞれのデスエラでビクトーラに襲いかかる不届きもの達を阻む壁とならんと動こうとするも、それを激しい語調のヴェリニーの一喝が留める。

 

「お前達、余計なまねはするんじゃないよ! こいつらはね、私の獲物さ」

 

 ヴェリニーとビクトーラ双方の唇が実に凶悪な角度に吊りあがり、悪意に満ちた三日月がそこに姿を現した。
 ビクトーラはまさしく四足の獣のごとく身を屈め、腕先から伸びる長大な爪が注ぐ陽光をことごとく切り裂いて、命を刈り取る時はまだかまだかと喉を鳴らして待っている。
 スカルプルムの首が伸び、脚が伸び、手が伸び、ビクトーラの野生美に溢れる機体に食らいつかんとし、ことごとくがその半ばほどから断ち切られ、紫とも緑ともつかぬ見る者が不快感を催す汚穢な体液が噴水のごとく噴き出す。
 巨大な機動兵器でありながら野生の獣の俊敏さで、迫りくるスカルプルム達の間を駆け抜けたビクトーラの仕業であった。
 絶命の叫びをあげて崩れ落ちてゆくスカルプルムの死に様を背景に、スカルプルムの体液に妖しく濡れる爪を一振りして、ヴェリニーは破壊の喜びに背筋の獣毛がちりちりと焼かれるような感覚を覚えた。
 スカルプルムとてその異様な外見を裏切らぬ戦闘能力を保持し、地球人類が主力とする機動兵器MS相手ならば、一体で複数機を相手取ることも可能だったろう。
 しかし、スカルプルムの初陣の相手として迎えたのは、いくつもの文明と惑星を破滅させてその存在をより強固凶悪なものへと変え続けたもう一つの破滅“イディクス”の幹部達。その事だけがスカルプルム達の不幸であった。
 ゼナディーエも手に携えたままだった棺の蓋を改めて開き、その奥に無限に広がる暗黒の魔性世界からさながら怨霊のごときマイナスのベクトルを持った精神エネルギーが次々と放たれて、生ある者を呪う死者の念のごとくスカルプルム達へと食らいつく。
 仕切り直しか、と小さく吐き捨てたイスペイルも、あまり好きではないと言ったミナール・ハンマーを風を千切りながら振り回して、スカルプルム達の軟体質の外部装甲をものともせずに叩きつぶしている。

 

「これまで蓄えに蓄えた我らのストレスと持ち腐らせていた実力のほどを、その身で存分に味わえい!」

 

 新たな援軍に肝を冷やしたイスペイルであったが、スカルプルム達を圧倒する同僚達の姿に勇気づけられ、兵士達の援護射撃を受けながら勇壮無双の働きを見せてウィケラーティオとフォルティス・アーラを目指して猛進する。
 言っている事はなにやら情けなくて涙を誘うものであったが、実際に振るわれる暴力は侮った相手を木端微塵に砕いてあまりある威力を誇る。
 エンダークに数機のスカルプルムが食らいつき、その蔦の様な手足や牙を重厚な装甲に突きたてようと足掻くのを、イスペイル兵達が抜群のコンビネーションで、各搭乗機のガトリング砲、ミサイルランチャーで弾幕を展開して主の道を開く。

 

「くくく、アクイラ、お前を手古摺らせたこ奴らの実力、確かめるとするか?」

 

「侮るなよ、コンターギオ」

 

 エンダークの真正面に動いたウィケラーティオは、エンダークの上半身を飲み込むほど巨大なビームを放つ。同時に両腕の先にある爬虫類と植物を足したような頭部が口を開いて、がちがちと牙を打ち鳴らす。
 ビームの直撃を受けてなおこちらに向かって襲いくるようであれば、左右の両腕で食らいつき、動きを止めて追撃の手を加える腹積もりか。
 コンターギオの未来予想図はほぼ過つことなく現実に変わる。ビームの直撃にも怯まずイスペイルはエンダークの機動をそのままに、ミナール・ハンマーを盾にしながらウィケラーティオへ鋼の弾丸と化して襲いかかった。

 

「貴様も叩きつぶしてくれようかぁ!!」

 

「これはこれは、活きの良いことだ」

 

 アクイラが感じたのと同じようにコンターギオもまた目の前の正体不明の連中が、破滅の王に似たエネルギーが意思を持った存在であると判断していた。こやつらの意識を絶望と恐怖に染めたうえで倒せば、王のよき糧となるだろう。
 びゅる、と生々しい音を立てながらウィケラーティオの両腕が生ける鞭、あるいは鋼の硬度を持つ蛇となってエンダークに絡みつくが、それらをイスペイルは複数あるエンダークのマニュピレーターで握りしめる。
 ぴんと張り詰めたウィケラーティオの腕がいまにも引き千切れそうに震えるが、コンターギオに焦燥の色はわずかもない。

 

「この距離であのミサイル攻撃はできまい? 貴様らは自分達に被害が出る事をひどく嫌っているようであるしな」

 

「ぬぐ、エンダークと同等に近いパワーか。だがしかし、それでもまだ我らイディクスの方が有利よ! ヴェリニー!!」

 

「気安く呼ぶんじゃないよ」

 

 どこぞの闇モスの様なセリフと共に、エンダークの背後から疾風の獣と化して颯爽と飛び込んできたビクトーラがその爪を閃かせれば、エンダークをからめ捕るウィケラーティオの両腕に斬痕がいくつも刻み込まれる。
 生物の皮膚と変わらぬようなウィケラーティオの腕であるが、実際の硬度はフォルティス・アーラやインペストゥスを守る装甲と比較して遜色のあるものではない。
 それを切り裂いたビクトーラの爪の鋭さをこそ褒めるべきだろう。さらに追撃の一手にウィケラーティオの背にビクトーラの左腕から放たれたスパークリングゲイザーが直撃し、生体装甲の破片を街き散らし、エンダークの拘束が緩む。

 

「もらったああああ!!!!」

 

 ミナール・ハンマーを振るうのに必要な最小限の動作で、エンダークのマニュピレーターは旋回してウィケラーティオの右側頭部を容赦なく捉え、植物と爬虫類の混合生物の様な機体を吹き飛ばす。
 目でかろうじて終えるかどうかという速度で吹き飛んだウィケーラティオは、巨大な水柱を打ちあげながら海面へと激突する。ミナール・ハンマーの一撃がどれほどのものであったか、ウィケラーティオはそのまま沈み浮かび上がってくる様子はない。
 イスペイルはウィケラーティオの反撃を予想し、ミナール・ハンマーを構えた体勢のまま油断なく待ち構えていたが、暫く経っても動きがない事にわずかに警戒を緩める。

 

「ふふん、私のエンダークのパワーの前には歯も立たんかったか」

 

 いささか気を良くしたイスペイルは、顔面の構造上表情の変化が分かりにくいが、声の調子からして喜んでいるらしいが、小中学生が目の前にいたら顔を引き攣らせて泣き出す事請け合いである。
 と、そのイスペイルの鼓膜……があるかどうかは不明だが、とにかく聴覚器官をヴェリニーの怒声が揺さぶった。すぐ隣に雷でも落ちたのかと勘違いしそうな大声量に、イスペイルはぎゃっと叫び声を上げる。
 悪意の欠片の集合生命体と言う割にはなんとも肝の小さい御仁だが、まあそこらへんも含めて兵士達は付いていっているようだし、それがイスペイルの人徳というものなのだろう。

 

「なに悦に浸っているのよ! アンタのご自慢の継ぎ接ぎトンカチで倒したんじゃなくて、攻撃を利用されて逃げられたのよ!! こんのドアホッ!!!」

 

「……なぬ?」

 

 妙な発音でイスペイルはヴェリニーに聞き返す。思考の一部がおかしな反応をしている傍ら、冷静な思考個所はイスペイルの指と目を動かして、エンダークにウィケラーティオの反応を追跡させている。
 結果を見てイスペイルは絶句という言葉の見本にしたいくらい、黄ばんだ牙の並ぶ口を開いて言葉を失う。なるほど勢いよく吹き飛ばし、敵を海面に叩きつけた瞬間までは良かった。
 ここまでならヴェリニーもイスペイルを責めはしなかっただろう。しかしイスペイルが様子見に徹する間にウィケラーティオは海中でも不自由しないのか、さっさと深海へと潜り込み、戦闘空域から離脱してしまっていたではないか。

 

「んな、なあ!? だ、だがおま、お前達とて先ほどまで戦っていた奴はどうした!! ととと取り逃がしたのか!」

 

「あんたの援護している間に逃げられちゃったのよ。あの鰻もどき、あいつを逃がすためだけに連れてこられたみたいでね。追おうとするこっちの邪魔ばっかりしてきたのよ。仕方ないでしょうが」

 

 セリフだけを並べてみれば強気なヴェリニーであるが、実際には自分達の失態であると認めている証拠に、反論の声はさほど大きなものではなかった。
 ビクトーラの後ろの方では、ガズムのゼナディーエがビクトーラの半分ほどのサイズになって、スカルプルムの残骸をもてあそんでいた。機体サイズを大幅に変更できるゼナディーエの特性を活かして、反省の態度を取っているつもりらしい。
 胸中に千単位の罵声の言葉が浮かび上がってきたが、イスペイルは五回ほど深呼吸をしてなんとか喉までこみあげてきたそれらを飲み下す。
いま、この場で言い争ってもヴェリニーがヒステリーを起こし、それに乗じてガズムがこちらを言い負かせようとしてくるに決まっている。
となればいまここでしおらしくへこたれている二人に、簡単な説教と注意をする程度に留めた方が結局は、自分の為になるのではないかとイスペイルは結論付けた。

 

「まあ、連中の新たな戦力については判明したし、こちらに損害もなかった。最近地球人どもが戦争を再開させたおかげでマイナスエネルギーも徐々に蓄積できてはいるからな。ここで焦っても仕方あるまい。私にも非は有った」

 

「次はこんな無様なまねはしないわよ」

 

「ヴェリニーと同じく、な。そろそろこの場を離れよう。地球の軍に捕捉されては面倒だ」

 

「そうだな。とりあえず適当な無人島にでも降り立って休憩にするとしよう。久々にエンダークを動かしたから、具合を見ておきたいのでな」

 

 そういってくるりとエンダークの踵を返すイスペイルの背後で、ヴェリニーとガズムが顔を見合わせて笑った。

 

――ちょろい

 
 

――つづく

 
 

  戻る