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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第48話

Last-modified: 2010-12-07 (火) 12:40:40
 

ディバインSEED DESTINY
第四十八話 四神覚醒我ラニ敵ナシ

 
 

 鋼の翼を広げて舞い降りたヴァルク・バアルを前に、四体の超機人はわずかな怯えを含む猛烈な闘志を発していた。
 古代中国の歴史が存在を物語る神獣を模した超機人達は、その全身から降り注ぐ陽光さえも燃やす苛烈な炎を発しているかのよう。
 常人ならモニター越しの光景であっても、肌を打つ剛体の質量を持った気迫を受けて、全身を硬直させてしまうだろう。
 ならば、龍王機、虎王機、雀王機、武王機の敵意の集中を針の筵の上に座らされたように浴びせられてなお、余裕と自信が形作る嘲笑を浮かべるこの男は如何に形容するべきであろうか。

 

「ただ唸るだけなら誰にもできる。人界の守護者を自負するならばこのおれに敵と認められる位の気概と力を示すがいい」

 

 ヴァルク・バアルの右手に携えたショット・シザーを、武将が握る軍配のごとく掲げると、超機人の周囲をメギロート、ゼカリア、エスリムの三機種が取り囲む。
 十重二十重に円陣を組み、威容を誇る超機人達を前にしても無人機ゆえになんら恐れる様子もためらう動作も見せず、ずん、と重く響く足音を立てて歩を進める。

 

「人形どもを蹴散らし、気力を貯め込み、戦意を高め、血を滾らせろ。震える体を抑え込み精神を振るいたたせろ。萎縮しきった雑魚を踏み潰した所で、なんの感慨もない」

 

 一糸乱れる事もなく、ゼカリアとエスリムはそれぞれライフルとスピアの切っ先を突き出し、メギロートは甲虫のモノに酷似した翼を広げて重力の鎖を引きちぎり飛翔する。
 大地をゼカリアとエスリムが、空をメギロートが埋め尽くしたことで超機人達に逃げる場所はない。
 ヴァルク・バアルとそこに宿るディス・レヴ、さらにその両方を完璧に把握して使いこなすキャリコの放つ、無色不可視の絶望の重圧。
 物理的にも精神的にも超機人達とその主たちが諦めの境地に身を置いていてもなんらおかしくはなかった。
 そしてキャリコは、ひどく愉快なものを見たとばかりに、嘲笑の中に極僅かながら愉快気な成分を混入する。

 

「ほう?」

 

 ライフルを構えていたゼカリア数機が一斉に爆発し、またダカル・スピアを構えて突撃を仕掛けんとしていたエスリムが、鋭い爪牙によって無惨なまでに引き裂かれ、噛み砕かれ、踏み潰されたたからだ。
 人間の可聴領域をはるかに超えた超振動波と機動兵器の装甲も容易く融解させる超高熱の火炎によって、十機近いゼカリアとエスリムを破壊したのは雀王機と龍王機。
 猛々しい咆哮と山そのものが崩れたかのような迫力で襲い掛かり、装甲をものともしない爪と牙、そして超重量による体当たりで破砕せしめたのは武王機と虎王機。
 気性荒く誇り高き白虎を駆るブリットは、虎王機と共にキャリコへと吠えた。

 

「お前はいったい何様のつもりだ! これだけの事をして、なにが目的だ」

 

 ブリットに続いたのは彼同様に強い正義感と怒りを燃料にして、激しく感情を燃焼させているリオだ。
大山のごとく重厚な威圧と共にヴァルク・バアルを睨む武王機も、主と変わらぬ意志を抱いているのは明白であった。

 

「これ以上の非道は私達が許さない!」

 

 自身の機体を激しく旋回させて巨大なドリルのごとく突貫する虎王機に合わせ、リオの乗る武王機も手足を甲羅の中にしまいこみ、超機人達の中でも一際目立つ巨体に横回転を加えて突撃する。
 数世紀前の怪獣映画で主役を張っていた亀の大怪獣を彷彿とさせる武王機の巨体に対し、キャリコは焦る調子を一欠けらも見せることなく、下方から上方への縦一文字を描くショット・シザーの一振りで、呆気なく弾き飛ばす。
 陸上艦艇なら駆逐艦どころか戦艦級でも一撃で船体をくの字にへし折られるだろう、武王機の超重量を最大限に生かした攻撃を、これほど容易く弾くヴァルク・バアル。
 パーソナルトルーパーの系統に近い機体デザインと20m級のサイズを考慮すれば、これは同サイズのスーパーロボットクラスをも上回る馬力を誇っているのは間違いない。

 

「きゃあああっ!!」

 

「そんな悲鳴を挙げるとは、幾ら強がろうが所詮女だな」

 

 嘲笑というよりは淡々と事実を語る口調のキャリコに、武王機とわずかにタイミングをずらした虎王機が横合いから襲い掛かる。
 いかに機体性能を劇的に向上させたヴァルク・バアルといえども、振り上げたショット・シザーを振り下ろすのが間に合うはずもない絶妙のタイミングであった。
 ごく短期間の付き合いであるブリットとリオが行ったと考えれば、なかなか見事なタイミングでの連携といえよう。
 武王機よりも重量では劣るが激しい旋回運動と高速を活かしての一撃の攻撃力は、けして劣るものではない。
 タイミングとしては悪くないブリットと虎王機の不意を突いた一撃であったが、であるがゆえに、そのタイミングを計る事は今のキャリコにはそう難しい事ではなかった。
 ヴァルク・バアルの左側から渦を巻いて襲い来る虎王機を、あろうことかヴァルク・バアルはその左手で、牙をむき出しにして大顎を開く虎王機の顔面を掴み止め、わずかに機体を後退させるだけで、猛る白虎の突撃を押し止めて見せたのだ。

 

「な、なんてパワーなんだ、こいつ!?」

 

「チャージ(突撃)などさせん」

 

 どこか楽しげにつぶやくキャリコの唇が冷たい三日月の形に歪むのと、虎王機の頭が高速で大地に叩きつけられ、激突点を中心に巨大な蜘蛛の巣状の罅が大地に広がったのはほぼ同時であった。
 特機に分類されるであろう超機人達の重装甲なればこそ粉砕は免れたが、これがMSやPTの類であったら、原形を保てぬほど粉々に砕けていたのは間違いない。

 

「ぐああああっ」

 

「頑丈さだけか、取り柄は?」

 

 大地に叩きつけられたダメージがどれほどのものであったか、あるいは人間で言う脳しんとうを起こしたのか、虎王機の意識は稲穂の様に呆気なく刈り取られて。巨大な白虎は身じろぎ一つする様子もない。
 更に一撃を加えれば虎王機の機能に大打撃を与える事が出来ただろうが、キャリコはヴァルク・バアルにディフレクトフィールドを展開させた。
 ヴァルク・バアルをめがけて襲い掛かったのは、武王機と虎王機それぞれの対となる超機人、雀王機と龍王機の放った超音波の弾丸と超高熱の火炎だ。
 並みの機動兵器ならば十機くらいは簡単に破壊して見せる同時攻撃に、流石に万能の防御壁たるディフレクトフィールドも抗しえたのはものの数秒。
 ガラス片が砕かれるのとよく似た崩壊現象を起こして、ヴァルク・バアルを守護していたエネルギー障壁が砕け散り、紅蓮の焔と不可視の超音波が容赦なく黒と金で飾った魔人へと襲い掛かる。
 そのディフレクトフィールドの崩壊から着弾までのわずかもないと見える隙間を、金色を散らばせた漆黒の風――ヴァルク・バアルが駆け抜ける。
 防御壁の無い状況で受ければヴァルク・バアルも無視できないダメージを負う攻撃をまるで恐れる素振りもなく、ウィング・バインダー内部に搭載したテスラ・ドライヴのスロットルを一気に引き上げる。
 地を舐める様な軌道で飛翔していたヴァルク・バアルが、鋭く角度を変えて空に翼を広げていた雀王機と龍王機へと襲い掛かった。
 友人機としては有りえないといってよい鋭角的な動きは、テスラ・ドライブの恩恵があるとはいえ搭乗者の臓器や骨格をスープの様に変えてもおかしくないものだったが、キャリコにはまるで堪えた様子はない。
 第三者からすれば、天空の支配者たるに相応しい悠然たる威容を誇る二体の超機人へと挑む様は、太陽を目指して地に墜ちたイカロスのごとく、次の瞬間には叩き伏せられているものと思えたことだろう。
 超機人達に比して標準的な人型機動兵器に留まる大きさのヴァルク・バアルでは、あまりに無謀な行いとしか見えないものだからだ。
 しかし、この戦場に置いてもっとも残虐なる支配者足り得る力と、言い知れぬ迫力と重圧を纏っているのは、紛れもなくこのヴァルク・バアルとそのパイロットであるキャリコ・マクレディに他ならない。
 古より人類を守り続けてきた超機人こそ強力であるが、まだパイロットとしての経験がまるでないクスハとリョウトは、リオとブリットを一蹴したキャリコがこちらに迫りくる恐怖に飲まれて、数瞬もの間反応を遅らせた。
 装甲を透過してコックピットの中にまで放射されているかのような、ヴァルク・バアルの放つ目に見えない圧倒的な凶の気配。
 霊的な面を存在の根幹に備える超機人の操者となったことで、感覚を鋭敏化されたクスハ達にとっては、ディス・レヴを搭載したヴァルク・バアルは初陣で戦うにはパイロットとしての力量差と彼我の戦力差以上に不運な相手と言えた。
 クスハとリョウトが認識したのは、自分達の身体を横殴りに襲い掛かってきた強烈なGであった。
 わずかな虚を突かれ、ヴァルク・バアルが手にしたショット・シザーによって雀王機と龍王機、それぞれの翼の根元に深い斬痕が刻み込まれている。

 

――そんな、まるで

 

――見えなかった!?

 

 リョウトとクスハが異口同音・異心同考に陥らざるを得ない、視認不可能なヴァルク・バアルの圧倒的な速度に反応する事が出来るとするなら、まずはSEEDを開花させたキラ・ヤマトやアスラン・ザラ。
 同じくSEED保持者でパイロットとしても生身の人間としても人外の化け物になったシン・アスカ、将来的に潜在能力を開花させた刹那・F・セイエイ、サイコドライバーとしての覚醒を迎えたリュウセイ・ダテらといったごく一部だけだろう。
 咽喉の奥から零れる苦痛の声を堪えて超機人達が、全身に走る痛みに襲われながらそれでもなお瞳に戦意の炎を燃やして、翼を広げてやや上空で滞空しているヴァルク・バアルを睨みあげる。
 龍王機と雀王機は決して鈍重な機体ではない。天空の支配者たるに相応しい威厳溢れるその姿に相応しく、大型MA並みの巨体でありながらその運動性能は、生物的な外見に見合った多様性と優秀さを誇る。
 加速性能や最高速度では現行の戦闘機を上回り、運動性能では現実の鳥獣以上と、世界中の機動兵器に関係している技術者たちを発狂させかねないものだ。
 であるからこそこれほどの性能を誇る超機人達を、操者が機動兵器戦闘に置いて素人とはいえ、こうも簡単に一蹴してのけるヴァルク・バアルとキャリコこそが異常極まりない存在なのである。
 自分の足元で這い蹲る四体の超機人達を傲然と見下ろすキャリコの口からは、ひどく冷たい笑い声が零れ始める。
 もし地獄に落ちた事のある人間がこの場に居たなら、地獄で罪人を責め苛める獄卒が挙げる笑い声を想起したかもしれない。
 それほどにキャリコの心には他者に恐怖を抱かせる何かが満ちているのだと分かる笑い声であった。

 

「ふははははは、人界の守護者と大言を吐いてこれか。開花しなければどんな才能も無駄でしかない。五行器と貴様らの脳髄だけあれば十分。貴様らの無用な肉体から摘出したのち永久機関も人工魂魄も強念の力も“私”がその真価を引きだしてやろう」

 

 貴重な実験動物を目の前にした科学者の暗く残酷な愉悦。
 純粋な興味と探求心に突き動かされ、それを抑える理性が存在しないためにどこまでその手を血に染める事が出来る、この上なく罪深い人種の瞳をキャリコはしていた。
 そしてそれは決してキャリコ・マクレディの浮かべる笑みではなかった。
 単なる実験動物程度にしか見られず、敵とさえ認識されていない事を理解した超機人達は、それぞれの矜持を傷つけられた怒りに震え、動力炉たる五行器を激しく回転させ、損傷を厭わず打ちすえられた巨躯を起こす。
 超機人達の衰えぬ闘志に操者であるブリットやリョウト達も強大に過ぎ、凶悪に過ぎる敵を前にして怯え竦む心をなんとか鼓舞し、ある種の宗教的な祭壇を思わせるコックピットの中で、自分達を嘲笑するキャリコの悪意へ立ち向かおうとしていた。
 根性、気合い、闘志、不屈――諦めに屈せぬ彼らを支えるのはそういった脆くも儚く、しかし爆発的な力を生む精神的な力である。
だがそれもさんざん見飽きたと言わんばかりにキャリコはショット・シザーの切っ先を再び、超機人達へと向ける。
人間ならではの弱者を甚振る残虐な遊びにも飽きが来たのだろう。キャリコは戦いを、や、彼にとっては戦いというには及ばない遊びを終わらせる事に決めたようであった。
 処刑宣告を告げるキャリコの言葉は、しかし、彼の唇から零れる事はなかった。代わりに戦場に響き渡ったのは――

 

「てめえが死ねえええ!!!!」

 

 自らを縛る鎖を引きちぎり、獲物の喉笛に食らいつく獰猛な獣を思わせる蛮声と、それと共にヴァルク・バアルめがけて降り注ぐ無数のミサイルと連射される超高初徹甲弾。
 一見乱雑に見えるそれらが、あらゆる方角に逃れても着弾を免れ得ぬ計算され尽くした包囲網を形成している事に咄嗟に気づけるのは、一流以上の実力を持つベテランかエースパイロットくらいのものだ。
 放たれた銃弾やミサイルの源を辿った先には、太陽を背にしたあらゆる箇所が奇妙に痩せ細った有翼の人影を見つける事が出来ただろう。
 先日、軍本部から頂武から回されてきた、東アジア共和国軍が誇る最新の機動兵器ミロンガが、その人影の正体であった。
頂武所属のMSパイロットである超兵ハレルヤ・ハプティズムがテストパイロットを務める、多少いわくつきの機体である。
 頂武人員の脱出路確保のために、空間転移による奇襲を図ってきたゼカリアやエスリム、メギロート部隊の掃討に奔走していたはずのハレルヤ・ハプティズムの駆るミロンガは、ちょうどヴァルク・バアルを足元に見下ろす位置にあった。
 敵機掃討を終え、基地の地下から出現した超機人達の苦戦を目にしたハレルヤが、以前決着を着けられなかったヴァルク・バアルと、再び相まみえる為に駆け付けたのである。
 そして、ハレルヤはミロンガの機動兵器としてほとんど最低限の頑強性だけを備えた華奢な右腕に構えたストレイトマシンガンと、両肘をはじめ機体各所に内蔵した小型ミサイルを超機人に意識を集中させていたヴァルク・バアルに雲霞のごとく見舞った。
 おそらくはハレルヤに超機人とそのパイロット達を助けるという意図があったとは思い難いが、結果的には少なくとも超機人達の寿命をわずかなりとも先延ばしにする事は出来たと言えるだろう。
 ひとつひとつの威力はごく小さいものとは言え数を伴って降り注ぐミロンガの火器を前にして、キャリコが抱いたのはわずかな苛立ちであった。
 夕暮れの路地で行く先に渦を巻く雲霞の群れを前にした人間の反応、と言えばよいか。

 

「稚拙な技術が生み出した欠陥品か」

 

 機動性を重視したがために装甲を犠牲にし、パイロットに多大な負荷を強いし、大した火器を運用する事も出来ないミロンガと、東アジア共和国が独自に生み出した強化人間であるハレルヤ双方への、淡々とした侮蔑の言葉である。
 超機人達に対して振り下ろすはずだったショット・シザーに下弦の月を描かせて、その刃先からエネルギーの刃を放出し、キャリコは自分に襲い掛かる銃弾とミサイルの事ごとくを原子レベルにまで分解させ、崩壊させる。

 

「手品師か、てめえ」

 

 Eフィールドや重力障壁での防御はともかく、かような方法での攻撃回避は想定していなかったのか、ハレルヤの寧猛な瞳には警戒の色がうっすらと滲んでいた。

 

「戦闘用AIの基幹データとするにも、貴様はムラが有り過ぎる。私には不要だ」

 

 超機人達がいまだダメージからの回復に手間取っている事を確認し、キャリコは第一に落とす対象をハレルヤとミロンガへと移す。
 超機人の有する再生能力を考慮すれば、二分か三分ほどで決着を着けなければまた面倒を見る事となるだろう。
 それを厭う程度の人間的な感性は、まだキャリコの中にも残っていた。

 

「上等!」

 

 ミロンガとヴァルク・バアルの間に通信回線が開かれているわけではなかったが、なんとなくヴァルク・バアルのパイロットが不快感を抱いている事を察し、ハレルヤは警戒の成分を残しつつも凶悪な形に唇を吊り上げて挑みかかる。
 最低限の装甲しか持たないため積載量が多いとは言えないミロンガであるが、火器の弾薬の小型高性能化に成功したことで、それなりの数を内蔵することに成功している。
 東アジア共和国が開発に成功した新型テスラ・ドライヴの性能を最大限に発揮し、ミロンガの放出する光の粒子が、空中に美しい軌跡を幾重にも織り重ねて描き、多量のミサイルを発射しながらヴァルク・バアルとの距離を見る間に近付けてゆく。
 NJやミノフスキー粒子、GN粒子の登場によって電波障害の度合いが悲惨を極めた昨今、旧来の誘導兵器の類は完全に絶息したも同然である。
 DCで採用されたプラーナ感知式の様な魔術的な側面を備えた特殊なタイプならまだしも、ミロンガに搭載されているミサイルは直線の軌道を描くものと予めプログラミングした軌道を描くものの二種である。
 キャリコは直線と曲線を描きながら迫るミサイル群に対し、曲線型のミサイルはハッキングによってプログラムを即座に書き換えて、ミロンガへと目標を変えさせる。
 直線の軌道を描くミサイルに関しては、回避機動を取って悠々と左右に動くだけで事足りる。わざわざ迎撃のために弾薬やエネルギーを無駄に消耗する事もないという判断であった。
 重量など欠片もないのかと錯覚しそうなヴァルク・バアルの動きを正確に追い続け、ハレルヤはストレイトマシンガンの銃口を、ぴたりとヴァルク・バアルに張り付けた様に追従させる。
 ミロンガの性能にさして目を魅かれる所もなかったキャリコであったが、超機人達に多少時間を掛け過ぎた様で、ヴァルク・バアルのセンサーがミロンガ以外の機体からの砲撃を感知して警告を発する。
 ハレルヤと同じく基地員の脱出のために奮闘を重ねていたはずのアレルヤのティエレンタオツー、ピーマ・ソーリスのタオツー、マリー・パーファシーのタオツー、セルゲイ・スミルノフのティエレン高機動型指揮官機の四機による砲撃だ。
 部隊員の脱出をセルゲイの副官であるミン中尉に任せて、クスハ達の救出に駆けつけたのである。
 各ティエレンが装備したビームライフルの照準は、それぞれのパイロットの高い技量と相まって、ヴァルク・バアルの至近へと着弾を重ねてゆく。

 

「ミズハ少尉、ヒカワ少尉、メイロン少尉、ラックフィールド少尉、全員無事か?」

 

 東アジア共和国有数の技量を誇る超兵であるアレルヤ達の集中砲火を浴びても、至近弾こそあれ被弾の無いヴァルク・バアルに、内心脅威の念を抱きながらセルゲイは素早く超機人のパイロット達の安否を問う。

 

「こ、こちらブリット、虎王機も自分もまだ戦えます」

 

「武王機もまだ動けます。この程度なら!」

 

 ブリットとリオがセルゲイに返答するのにわずかに遅れてクスハとリョウトも、機体共々無事であることを告げる。
 超機人達には外から見た限りでは大したダメージは見られなかったが、パイロットの方も問題はないようだ。
 セルゲイは自身もビームライフルの引き金を引き続けながら、ヴァルク・バアルの動向に要警戒の眼差しを向ける。
 超兵専用にチューンされている三機のタオツーが脳量子波を用いた、迅速な連携によって絶え間ない光の矢を放ち続け、その隙間を縫ったハレルヤがミロンガの機動性を活かしたヒットアンドアウェイを繰り返す。
 常に全方向に対して警戒の意識網を広げるキャリコは、常人どころか並大抵のエースではものの十数秒ほどで撃墜されてしかるべき超兵達の連携攻撃の中心に居ながら、焦る様子も見せずに機械的に捌き続けていた。

 

「脳量子波か。意識拡張を果たしたニュータイプや強化人間とはまた異なる方向へのアプローチ……。思ったよりも優秀だったかもしれんな」

 

 鞭の様にビームの刃をしならせて大上段からヴァルク・バアルの左頸部をめがけて振り下ろしてきたミロンガのビームサーベルを、ヴァルク・バアルはその発信基部を内蔵した柄を握るミロンガの右手を掴んで止めて見せる。

 

「多少の欠陥に目を瞑っても運用するだけの価値はあると、訂正しておこう。しかし、それでもまだ力が足りんよ。貴様らではな」

 

 紙をくしゃりと握り潰すのとそう変わらぬ要領で、ヴァルク・バアルに掴み取られたミロンガの右手は、ビームサーベルの柄ごと握り潰されて外装と内装をまとめて砕かれる。
 脳量子波の感知したキャリコの悪意に加えて生物的な直感に突き動かされて、ハレルヤはミロンガに残るミサイルをありったけ吐きだしてその場を離脱する。
 一刻でも一瞬でもはやくヴァルク・バアルから遠ざからなければならない。理屈を超越した予感が、ハレルヤの身体を支配していた。

 

「こいつ!?」

 

「ハレルヤ!」

 

 半身の危機に真っ先に反応したのはアレルヤであった。ミロンガの右手を握りつぶしたヴァルク・バアルのツイン・アイが凶暴に輝くのを見た瞬間に、その頭部めがけて電光石火の速さで照準を合わせてトリガーを引き絞る。

 

 いかに人知を超越した力を得たキャリコとはいえども、流石に光の速さには反応しきれず、放たれたビームは見事にヴァルク・バアルの頭部を貫く。
 だがアレルヤの瞳は強敵を倒した事への安どではなく、不理解による驚愕に開かれていた。
 頭部をビームによって貫かれたはずのヴァルク・バアルは水に溶いた絵の具の様にその姿を薄めるや、陽炎の様に消え去る。

 

「なに……ぐああ!?」

 

 驚愕の言葉は背後から襲ってきた衝撃によって遮られ、アレルヤは痛みに眉を顰め、自分が背後に現れたヴァルク・バアルによって一撃を与えられた事を理解する。

 

「センサーには実体としか映らなかったのに!」

 

 さしずめ質量をもった分身といった所だろうか。あるいはタオツーをハッキングしてセンサー類に欺瞞を施したのかもしれない。
 重厚なタオツーの背部装甲が深く抉られて、一瞬、アレルヤの制御の手を離れる。堅牢さに関しては随一を誇るティエレン系列のタオツーは、それでもまだ戦闘能力を維持していたが、一撃を受けた隙を逃すほどキャリコが温い相手であるはずもない。

 

「そう簡単に行くと思うなあ!」

 

「アレルヤはやらせない」

 

 止めの一撃を加えるべくショット・シザーを振り上げるヴァルク・バアルを左右に挟み、マリーの赤いタオツーとソーマのピンクのタオツーがビームサーベルを挟みの刃のように交差させて振るう。
 回避する間もないはずの挟撃であったが、今度もまたヴァルク・バアルの前には通じず防がれる結果に繋がる。
 マリーとソーマのタオツーそれぞれをヴァルク・バアルの左拳と右足が容赦なく叩き、大きく弾き飛ばしたのである。
 あまりに早すぎる挙動。既に斬撃のモーションに入っていたタオツーより後に動き出したにもかかわらず、先に一撃を見舞う異常な速さ。
 タオツーとヴァルク・バアルに用いられている機動兵器開発技術の差は、決して小さくはないが、それを考慮してもあまりに違いすぎる。
 挟撃こそ失敗に終わったが、アレルヤがその場から離脱するだけの時間を作る事には成功し、アレルヤ達のタオツーはヴァルク・バアルから距離を置きながらビームライフルを連射して、ヴァルク・バアルの足を止める。
 右拳を失ったミロンガもセルゲイのティエレンもただ傍観するだけには終わらず、絶妙なタイミングを狙って援護のビームやミサイルを放っている。
 地球人類全体を見回しても上から数えた方が速い面々の、息の合った連携攻撃はあらゆるものを洗い流す奔流の様に激しく絶え間なかったが、どれだけ攻撃を重ねてもヴァルク・バアルに有効打を与えるまでには至らない。
 救援に現れたセルゲイ達とキャリコの戦いを目に映しながら、なんとか体勢を整え直していた超機人とそのパイロット達は、いまのままの自分達ではあの漆黒の機体に勝てないという無力感と事実に臍を噛む思いであった。
 超機人達の秘める力を引き出す事が出来ず、むざむざと地を舐め去られて仲間達が紅蓮の炎に飲まれる様や、苦戦しているのをただ指を咥えて見ている自分達の不甲斐なさが、クスハやリオ達の心を苛む。
 自分の無力を呪うリョウト達の脳裏に、超機人達の声が響く。

 

――汝ら、力を欲するや? 力を欲するならば念じるべし。

 

――されど留意せよ。我らは人界の守護神。

 

――我らが守護せしは人界そのもの。道を誤りし時、汝らが我らの力を得る事叶わじ。

 

――心せよ。強き力にはそれゆえに重き枷と使命がある事を。

 

 そして四体の超機人達は唱和し、クスハに、ブリットに、リョウトに、リオに問いかける。

 

――人界を守る意思、強き力を手にし、世界を背負う覚悟あるならば唱えよ。

 

 強い意志を求める超機人達の声は、クスハ達に迷う事を許さぬ威圧感を伴っていた。一時の感情に流されて、安易に手にするには超機人達の力は強大に過ぎる。
 使い方によっては戦局をも左右するほどの強大な力。それを手にする機会を与えられてクスハ達は一瞬、キャリコの存在を忘れた。
 ごくり、と誰かが生唾を飲む音がひと際大きく響いた。

 

「私は、戦います」

 

 一番最初に答えたのは、リオでもリョウトでもブリットもなく龍王機のパイロットであるクスハだった。
 普段はおとなしく内気な所もある少女であったが、芯の強さは折り紙つきで一度決めた事は頑なに貫き通す面もある。
 意思を表すのは最後になるかと思われていたクスハが真っ先に覚悟を示した事に、他の三人達は大なり小なり驚きの味を噛み締めていた。その間にもクスハの言葉は続く。

 

「もう目の前で知っている人たちが死んでゆくのをただ見ているだけなんて嫌なの。もし私に誰かを助ける力を手に入れる事が出来るのなら、私はそれを望みます。どんなに強い力も誰かを守るために使って見せます!」

 

 凛と告げるクスハの言葉を受けて、超機人達の意識に暖かなものが灯った。
 恐怖はあろう。大きな力を手にする事への恐怖。それを振るい誰かを守るために別の誰かと戦い傷つける事への恐怖。傷つけられる事への恐怖。戦うこそそれ自体への恐怖。
 どれだけ正義と大義を掲げる言葉を並べ立てて、理性を納得させた所で本能的に根差す死と闘争への忌避感。
 それらを確かに胸の中に抱きながらもなお、力を手にし戦う事を宣言するクスハの強さを、超機人達は肯定しているのだ。
 クスハの言葉を受けてリョウトやブリット達も吹っ切れた様に笑みを浮かべて、同じく超機人という強すぎる力を手にする事を受け入れる言葉を口にした。

 

「クスハにばかり重荷を背負わせるわけにはゆかないな。虎王機、おれもお前達と共に戦う! おれもお前達も一人じゃない。道を誤まればそれを正してくれる仲間が居る。それはお前達も同じだろう。おれは、おれ達は力に振り回れたりはしない!」

 

「私もよ、武王機。私の信じる正義の為に、人々を苦しめる悪を断つための力を私に貸してちょうだい。貴方達が人界を守る守護神だというのなら、私は人々を苦しめる悪を断つ力となる」

 

「行こう、雀王機。世界を守ることを使命とする君がぼくを選んでくれたというのなら、ぼくはその期待に応えたい。戦いなんてない方がいいけれど、それでも戦う力が必要な時もある。いまがその時なんだ」

 

――是。汝らの覚悟しかと見届けたり。汝らに我らの力をいま与えん。我らと汝らはこれより共に在り、共に生き、共に戦い、共に死せん。汝らの志高く清くある限り我らは、汝らの友となり、刃となり、盾となる。唱えよ。

 

――必神炎帝。

 

「必神炎帝」

 

――天魔降伏。

 

「天魔降伏」

 

――龍虎合体。

 

「龍虎合体」

 

――雀武合体。

 

「雀武合体」

 

 それは誓いの聖句。
 人が生み出した魂を持つ造り物の機神と正しき心持つ人とが交わす契約。
 魂と魂とが交感し認め合い信じあう事によってのみ成立する盟約。
 四体の超機人の足元に巨大な光の陣形が浮かび上がり、続いて虚空に乱舞する無数の呪符と光といずこからともなく出現して、超機人の巨体を球形に包み込む。
 光と呪符とが作り上げた光の卵殻に包まれた超機人達の姿に、激化の一途を辿っていた戦いの手を休めて、キャリコとセルゲイ達が言い知れぬ力の波動を放つ超機人達の姿をモニターに映し、目を奪われる。
 セルゲイ達は未知の現象を起こす超機人とそのパイロット達の安否を案じ、キャリコはようやく本領を発揮せんとする超機人達に、三日月の様に鋭く冷たい笑みを浮かべる。
 超機人達を中心に清浄な気配とでも言うべきものが溢れだし、ディス・レヴとキャリコの悪意によって穢されていた世界が、瞬く間に本来の清廉さを取り戻してゆく。
 戦闘によって生じた黒煙や異臭は消えなかったが、それでも無数の死の集合体の発する名状しがたい負の気配は払われて、在るべき正の世界へと戻る。
 そして光の卵殻は無数の光輝く破片へと砕け散り、秘めていた人造の機神達の姿を露わにする。
 蒼き鱗を纏い刃のごとく鋭い羽を背から伸ばし、胸には猛る白き虎を抱く東方の守護龍神。

 

「龍虎王!!」

 

 天を舞う陽の色に染まった翼を広げ、この世で最も堅固な甲羅を纏う亀と蛇を胸に抱いた南方の守護鳥神。

 

「雀武王!!」

 

 それまでの幻想の霊獣を模した姿から、対となる四神の同胞と合体を果たして人型の武神へと姿を変えた超機人達は、ただそこに在るだけで世の邪悪を払うかの如き神聖な雰囲気を纏う。
 古の神話から突如現実の世界へと飛び出してきたような存在を前にして、セルゲイやアレルヤ達は言葉を忘れ、キャリコはこれから本番の開幕と少しばかり心地よい緊張感を纏った。
 強力な念動力を持つ操者を得た事で、五行器は激しくしかし完全に制御されて唸りを挙げて回転し、龍虎王と雀武王の四肢に行き渡り、コックピットに居る四人のパイロット達の心身に新たな活力を与えてゆく。
 細胞の一つ一つがまるで生まれ変わったかのように力に満ち溢れ、覚悟と決意を固めた心はより堅固な意思に支えられてゆく。

 

「これ以上貴様の好きにはさせない!!」

 

「スミルノフ中佐、私達がアンノウンを押さえます。後退してください」

 

 気炎を吐くブリットに触発されてか、セルゲイと通信を繋げたクスハは常になく言葉に力を込めていた。

 

「行くよ、リオ。一気にここで決着を着けるんだ!!」

 

「任せるわ、リョウト君。武王機も私も本当に怒っているんだから」

 

 武王機の尾であった蛇の変化した黒蛇刀を片手に、リョウトの駆る雀武王もまた40mを超す巨体より目に見えぬ闘神のごとき気迫を立ち昇らせている。
 遂に合体を果たし人界の守護神としての真の力を発揮した四神の超機人達。古より数多の災いから人類と地球を守り抜いてきた守護神を前に、ヴァルク・バアルは背の翼を広げて急速に上昇する。

 

「まだ操者こそ未熟だが、覚醒を果たした超機人相手ではさほど手は抜けんか。出でよ」

 

 低く告げられたキャリコの命に従い、ヴァルク・バアルは再び胸部の装甲を開き、その奥に隠し抱いていた白い闇を纏う忌まわしき心臓を露わにする。

 

「呪え、ディス・レヴ」

 

 オオオおおおおおおおおおをををWOWOWOWOWOOOOOおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお大丕おおおおおおおおおおおおおおおおおおおお000000000000000000000――――――――――――――

 

 ディス・レヴは歌う。
 空間を越え、次元を越え、時を越え、因果地平の果てまでも届く呪いの歌を。生ある者すべてを憎み、呪い、忌み、妬み、嫌う死者の叫びを、亡者の怨嗟を、負の感情に塗れた悪霊の咆哮を。
 世界は再び暗く黒く汚れた。

 
 

――つづく

 
 

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