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SRW-SEED_660氏_ディバインSEED DESTINY_第49話

Last-modified: 2011-02-21 (月) 16:25:03
 

ディバインSEED DESTINY
第四十九話 因果の紡ぐ縁

 
 

 それは視認することさえ出来るほど圧倒的な気配であった。
 ヴァルク・バアルの開かれた胸部から覗く赤黒い光は、物理的な圧力を伴った漆黒の波を全方位へと放ち、取り囲むセルゲイやハレルヤ、クスハやリョウト達に世界が闇に覆われたのかと錯覚させる。
 非科学的な、と嘆きたくなるような出鱈目な現象が続いていたが、ついにその現象も終わりだ、とセルゲイに強制的に意識させた。
 それは自分達か目の前の敵かどちらかが終わるのだ、という意識の故であった。

 

「行くよ!」

 

 対峙する両者の間に満ちる空気を変えたのは、高まった戦意のままに吠えたリョウトの一声。雀武王は左手の武鱗甲という武王機の甲羅が変化した盾に内蔵されている黒蛇刀を抜き放ち、ヴァルク・バアルへと紅の疾風と変わって襲い掛かる。
 全高五十mはあろうかという巨躯と天を翔ける朱雀を模した雀武王であったが、大地を踏みしめて疾駆するその姿は、地上に置いてもその武威が欠ける事はないと保証していた。
 雀武王に合わせて龍虎王も動きを見せ、クスハは龍虎王から直接精神に伝えられる知識と技術に従って、龍虎王の保有する術式の中から攻撃的なものを選択する。
 ヴァルク・バアルの倍近い雀武王の巨体から振り下ろされる黒蛇刀を、悠と構えたショット・シザーで受けた。
 展開された胸部装甲から露わになったディス・レヴから放出される漆黒の波動は、先ほどまでのそれよりもはるかに暗く冷たい。
 その波動を纏うショット・シザーは黒蛇刀の一撃を受けても刃毀れ一つする様子もない。

 

「ふん」

 

 キャリコは淡々と一つ呟いて、ヴァルク・バアルのウィング・バインダーの装甲の一部を展開し、内蔵されていたミサイルを雀武王へと一斉に発射する。
 至近距離でのミサイル攻撃は自機への被害を招きかねないものであったが、キャリコにとってはそれはなんら問題となりえなかったのであろう。
 刃を交わしていた黒蛇刀を突っぱずして後方へ跳躍し様に、雀武王の黒蛇刀がその名の通りに生ける黒蛇の様に代わり、こちらを追尾してくるミサイルを残らず薙ぎ払う。
 ミサイル迎撃の隙を突くだろうヴァルク・バアルに備え、超機人の中でも最硬を誇る武鱗甲を構える。
 雀武王を操るリョウトの予想通りに追撃を考えていたキャリコであったが、ヴァルク・バアルの周囲を取り囲む紅蓮の火炎に気付き、踏み込む一足を止めていた。
 龍虎王とクスハが発動させたマグマ・バサールの、物理法則に左右されぬ龍のごとき火炎流が、雀武王への進路を阻み灼熱の牙をヴァルク・バアルへ煌々と向ける。
 MSに使われている複合装甲のみならずスーパーロボットクラスの装甲の耐熱限界を超えかねぬ超高温の火炎だ。飲み込まれる事は地球の核か太陽に突っ込むのと、そう大差のないものだ。

 

「行って!」

 

 人差し指と中指を揃えた剣指を縦に振り下ろし、クスハの意思に従う火炎流は容赦なくヴァルク・バアルを大顎の中へと飲み込む。
 触れる大気を焼き舐めた大地を融解させ、空間に満ちるエーテルさえも灼熱させ、黒と金に彩られたヴァルク・バアルさえも霊的な炎は焼き焦がすかと思われた。
 いや、術式を発動させたクスハも、それを見守るブリットも、リョウトも、リンも、そして超機人達も、思ってはいなかった。目の前の魔人を倒せたなどと。
 とぐろを巻く蛇の様にヴァルク・バアルを燃やす火炎に、一筋の銀光が走る。目にも捉えられぬ、光かと見間違う斬撃。
 銀閃に沿って二つに割れ始める火炎を、更に銀閃の後を追う様に発生した漆黒の光が数百万の炎の花弁と変えて散らす。
 やはり、という他ないだろう。
 ヴァルク・バアルの装甲表面にさえ熱による損害は見受けられず、焦げ目一つ見受けられない。

 

「さあ、そろそろ“私”も力を入れて行くとしようか」

 

 顔の上半分を覆う金属製の仮面から零れるキャリコの青い長髪が、根元から眩い銀色に変わっていた。冴え冴えと天空に座す月よりも冷たく美しい銀色に。
 ヴァルク・バアルのウィング・バインダーが悪魔の備える蝙蝠の翼の様に広げられ、内蔵されるテスラ・ドライヴが出力を一気に最大値へと跳ねあげる。
 テスラ・ドライヴ特有の翡翠色の粒子に加えて、ディス・レヴの波動を取り込んでか、漆黒の粒子が混じっている。

 

「来るわよ、リョウト君、みんな!」

 

 優れた念動力に加えて武道を嗜む者として研ぎ澄まされた直感によるものか、ヴァルク・バアルの始動のタイミングを最も早く把握したのはリンであった。
 動く――動いた。ヴァルク・バアルの姿は、武鱗甲と黒蛇刀を構える雀武王の背後に!
 ヴァルク・バアルとの戦闘が始まってから、何度も味あわされた視認不可能な常識外にある機動。
 流石に何度も目の当りにされた事によって驚きはなかったが、それでもなお反応できない事実は、超機人を駆る四人の若者達にとっては屈辱でさえあり、苛立ちを招くものだった。
 ショット・シザーによる一撃が雀武王の背に浅くはない斬痕を刻み、すかさずフォローに入った龍虎王を、ヴァルク・バアルは既に視認していた。
 攻撃速度も機体速度もパイロットの反応速度もなにもかもが彼らの理解を超えている。

 

「気付かれたからって!」

 

「行け、クスハ!!」

 

 尾の先に持っていた龍珠が変化した龍王破山剣を振り上げて、闘気を迸らせる龍虎王に怯む事もなく、キャリコは小さく呟いた。

 

「来い、ジュデッカ」

 

 ヴァルク・バアルの首に龍王破山剣の刃が食い込む寸前に、何の前触れもなく虚空から伸びてきた何ものかの黒い腕が、龍虎王の腕を掴み止める。
 これ以上ないほど大きく冷たい氷の針に首筋を貫かれて、クスハとブリットは一瞬、息をする事さえも忘れた。
 不意に腕の伸びる先に目をやれば、そこには巌のごとく険しい人を模した顔があり、赤色の瞳が龍虎王を睨み据えている。
 不意に瞳が交差した時、クスハとブリットのみならず龍王機と虎王機もまた全身が氷に変わるのに気づいた。五行器と心臓を氷の手で握り締められている様な恐怖とおそましさが、体中の細胞に広がる。
 クスハ達が声にならぬ悲鳴を咽喉の奥から、そして心から発するのと同時に、ヴァルク・バアルのショット・シザーが龍虎王の胸部へと紫電と変わって突きこまれる。
 ちょうど龍虎王の胸部に位置する虎王機の顔面へと突きこまれるショット・シザーの切っ先を、偶然の要素が強いがかろうじて虎王機がかろうじて咬み止めて、龍虎王は串刺しの運命を逃れることに成功する。

 

「いい反応だが、予想の範囲内。ましてや以前戦った貴様らよりも未熟とあってはな」

 

 虚空から招かれたジュデッカの腕が大きく振りあげられて、龍虎王はそのまま大地に叩きつけられる。大地との激突で生じた破砕音は誰が聞いても、惨状を予想するに値するものだった。
 直径百m以上のクレーターを造り上げ、クレーターの中心であおむけに倒れたまま動けぬ龍虎王の腕を、手放したジュデッカはいつまにかヴァルク・バアルの後方へと伸びている。

 

「なり振りは構わんか。それ位でなくてはな」

 

 そこには黒蛇刀を構える雀武王の姿があった。刃を大地と平行に倒して、矢をつがえるようにして構えており、切先の黒蛇が大きく口を開けて刀身内部に莫大なエネルギーを貯め込んでいるのが見てとれる。
 雀武王の砲撃“五行獄”を放つ体勢である。近接・砲撃兵装どちらをとっても雀武王の技の中では、最強を争う威力を誇る。
 後方へと伸ばされたジュデッカの腕は、その黒蛇刀の開こうとしていた口を掴み止め、更に新たな腕を出現させる。
 巨人の手と見えたジュデッカのものと異なり、瞳のない巨大な蛇の頭を思わせる腕であった。いや、実際に腕ではなく地獄の底から顕現した異形の蛇の頭部であったとしても、おかしくはない。

 

「くっ、あと少しで撃てたのに!?」

 

「ジュデッカの動作がわずかに遅れてはいるが、許容範囲内か。受けるがいい、雀武王。第一地獄カイーナ」

 

「ぐっぐあああああ!!!」

 

 新たに出現した蛇頭のジュデッカの腕の口腔が開かれて、そこから並大抵のスーパーロボットでは一撃で戦闘不能に追い込まれるほどの莫大なエネルギーが雀武王へと叩きこまれる。
 勢い激しく数百メートルを、巨躯から黒煙を吐きながら雀武王は吹き飛ばされて、思い切りよく蹴り飛ばされた石ころの様に大地を転がり回る。
 キャリコ――キャリコの顔を被った何ものかは、雀武王への攻撃の成果を観察し、予測通りの結果に終わったことを確認する。
 予測通りの結果が出た事は喜ばしいかもしれないが、予測とまるで外れることがないというのも、いささか興の冷める所がある。
 思いがけぬアクシデントというものも刺激として必要なものだ。
 もっとも足元で蹲っていた龍虎王がこちらの不意を突いて龍王破山剣を振るう程度の事は

 

「刺激にもならんがな」

 

 龍王破山剣の斬撃の動作の出掛りを、ヴァルク・バアルの足で龍虎王の右腕の付け根を抑え込んで容易く止める。

 

「どうした? 前回のお前達はもっと歯応えがあったぞ。いや、ゼントラーディやSTMC共との戦いを経験していないのなら無理もない」

 

 キャリコの侮蔑を隠さぬ声と共に龍虎王の付け根を抑え込んでいたヴァルク・バアルの左足が、龍虎王の顎を蹴りあげて空中に浮かび挙げて、拳を握り込んだヴァルク・バアルの左腕が龍虎王の腹部を殴り飛ばして、先ほどの雀武王同様にはるか彼方へと殴り飛ばす。

 

「さてどちらから息の根を止めるか。脳髄の摘出と保存、五行器の摘出と凍結、どちらも十分もあれば終わる。なるべく形を残しておくべきだが…………さてどういうつもりだ?」

 

 龍虎王と雀武王を見比べてどちらから手に掛けるかを思案していたキャリコの前に、ようやく修復を終えたペルゼイン・リヒカイトが立ちはだかっていた。
 おどろおどろしく青い炎を纏う鬼菩薩を従え、白刃を手に傷ついた超機人達を守るべく、アインストに生み出された出来そこないの少女は、頑として動こうとはしない。

 

「今更お前達の力で私に何かできると思うのか。アインストがどのような思惑で超機人に肩入れしているのか私の知った事ではないが、邪魔をするのであればお前達の思惑など構わずに踏み潰すぞ?」

 

「それはとても怖い事ですのね」

 

 答えるアルフィミィの声は、普段と変わらぬ愉快そうなものではあったが、場合によってはキャリコが言葉通りの事を実現するだろう、という確かな思いもあった事は否定できない。
 ディス・レヴの波動を機体の全身に纏い、更にその背後に漆黒の影を切り抜いた様な巨大な影が浮かび上がっている。
 下半身は巨大な蛇であり、上半身には左右二本ずつ、計四本の腕を持っており、右の上
腕は雀武王に一撃を浴びせた蛇頭の形状をしたものだ。
 目の前のヴァルク・バアルもその背に存在している謎の影のどちらともが、アルフィミィに言葉にするも恐ろしい重圧を与えている。
 本来であればアインスト達が最も警戒しているのは、南極に眠る破滅の王の完全な形での顕現であるのだが、いざ目の前に対峙すればキャリコとヴァルク・バアルらもまた決して破滅の王にひけを取らない存在であるように感じられる。
 ペルゼイン・リヒカイトの胸部に在る球形状のパーツの中で、アルフィミィは常と変わらぬ神秘的な微笑をこそ浮かべていたが、その胸中では言い知れぬ恐怖の波に襲われていたのである。

 

「あまり女の子を脅かすものではありませんのよ。珠のお肌がストレスで荒れてしまいますの」

 

「二度と気にする必要がない様に存在を消し去ってやろう」

 

「まあ、怖い事を仰られますのね。か弱い女の子の私では貴方にとても勝てそうにありませんの」

 

「実力の差が分かるのなら、さっさと退く事だな。アインストが人間を模して作り上げた貴様は興味深いサンプルでもある。この場で確保する予定はなかったが、そうしても良いのだからな」

 

「ええ。貴方達が超機人を見逃すと言うのならそうしても良いのですけれど、そうも行きませんでしょう? ですから私、貴方と互角に戦える人をお招きいたしましたの。正確には、こちらへの入口を開いただけですけれど」

 

「なに? いや、そう言う事か、アインストの力ならば!」

 

 にっこりと笑むアルフィミィは悪戯が成功した子供の顔そのものだった。キャリコは龍虎王や雀武王、目の前のペルゼイン・リヒカイトさえも意識から外して、自らの上空の画像をモニターに表示する。
 アルフィミィの言葉にやや遅れてヴァルク・バアルのセンサー系が、一斉に次元境界線の変化と重力異常を伝え始める。
 深い紫色の電光が上空で激しく乱れ始め、空間そのものが歪んで周辺の光景を異常なものに変える。

 

「来るか。因果律の番人、イングラムの使命を継ぎし残り滓が」

 

 忌々しさを交えながらも、キャリコはどこか愉快気に唇を吊り上げて、いよいよ空間の歪みの向こうから、こちら側の世界に存在を定着させたソレに視線を注いだ。
 ああ、歪んでいた空間は砕かれた硝子の様に陽光に輝きながら砕け散り、世界の向こう側から現れたソレを、煌びやかに照らし出す。
 ほう、とキャリコの唇を借りて、キャリコを支配する者は嘘偽りのない感嘆の吐息を零した。
キャリコの記憶から、その姿と性能は知識として得ていたが、いざ目のあたりにすればイングラムがこの世に残した存在の凄まじさは認めざるを得ない。
 体を覆うのは砕けた空間が歪曲させている光を浴びながらなお、その光をも吸い込んでしまいそうな無窮の闇を思わせる漆黒の装甲。
その隙間から覗く黄金の関節部位が形成す四肢はどこか歪で背に折り畳んだ翼は天界に弓引く魔王の背に在るのが相応しいもの。
 瞳の部分だけをくり抜いた漆黒の仮面を被っているかのような頭部の意匠は、無機質な存在であるはずのなのに、明確な意思の様なものを感じさせる神秘的な雰囲気を纏っている。
 そしてなにより、出現した瞬間から世界のすべてを新しく塗り替えてしまう様な、圧倒的な存在感があった。
この機体だけで世界すべてと同等以上の存在の密度があるかのような、そんな存在感である。
 無残に大地に倒れ伏していた超機人達とアルフィミィが見つめるその先で、漆黒の悪魔王のごとき威容を誇る機体は、背に折り畳んでいた翼を大きく広げ、デスマスクを連想させる頭部の瞳を、足元のヴァルク・バアルへと向ける。

 

「その機体、キャリコ・マクレディか。それに、ディスの心臓だと?」

 

 若い少年の声が漆黒の悪魔王――ディス・アストラナガンより外部に広がる。いささか鋭すぎるきらいのある瞳に、ウェーブがかった柔らかな髪質の銀髪を持った少年は、クォヴレー・ゴードンに相違ない。

 

「久しぶりだな、アイン。そして初めましてと言っておこう。クォヴレー・ゴードン。イングラムの残影よ」

 

 答えるキャリコの声には怨敵を前にした負の感情はなく、ディス・アストラナガンを前にしてもなお余裕ある態度を崩しもしない。
 アインと呼び、クォヴレーとも呼ぶキャリコ・マクレディを、クォヴレーは訝しさを隠せぬ顔を浮かべて見つめていた。
 この男は本当に自分の知るキャリコ・マクレディなのかどうか。わずか一言を交わしただけで、その疑問をクォヴレーは抱いていた。
 次元と次元の狭間で何重にも自分とディス・アストラナガンを待ち構えていた無人機の大群と、次元断層や次元隔壁を仕掛けたのもおそらくはキャリコかその背後にある組織、ないしは勢力なのだろう。
 おそらくはシヴァー・ゴッツォが創設し、キャリコが隊長を務めていたゴラー・ゴレム隊かゼ・バルマリィ帝国系の敵とクォヴレーは想定していたが、はたしてそれだけなのか?
 ゆっくりとディス・アストラナガンを地上へ向けて降下させながら、クォヴレーは攻撃を仕掛けるにしても受けるにしても、即座に対応できるように警戒の意識を引き上げながら、キャリコに問いかける。
 既にヴァルク・バアルの背後に位置していたジュデッカの姿はない。まだ本調子ではないのか、長時間呼び続けることはできないのだろうか。
 ディス・アストラナガンに興味をそそられて、キャリコは仔細にその姿を観察していた。

 

「アストラナガンに比べて余計なものが混じったせいで機体の性能それ自体は低下している様だが、ディス・レヴの搭載による出力強化もあってか、総合的には互角といったところか」

 

「貴様は、本当にあのキャリコ・マクレディなのか?」

 

 眼差し鋭く問うクォヴレーに、キャリコは何と愚かな事を聞くのかと言わんばかりに淡々と答えた。

 

「器はな。貴様もイングラムの映し身ならばその意味が分かろう?」

 

 からかうようなキャリコの言葉に、クォヴレーの眉がぴくりと動いて反応し、端正と言っていい顔立ちに苦い感情が濃密に広がる。

 

「“どの世界のお前”かは知らないが、イングラムとSDFに敗れたからと言って全てのお前が因果地平の果てに消え去ったわけではないのが、道理か」

 

「ふ、そもそも因果地平の果ては、決して戻ってこれぬ場所ではない。もっとも二年前に貴様が現れた時にお前が私に気付いていたなら、私に対抗する術はまだなかったがな。
そういう意味ではいまここで私とお前が対峙しているのはお前の落ち度だな、クォヴレーよ。それともアインと呼んだ方が良いか?」

 

「……好きに呼ぶがいい。おれの落ち度というのなら、この場でお前を処断して取り返す事としよう」

 

 クォヴレーの戦闘意欲の発露に応じて、ディス・アストラナガンはショットガンと一体化した巨大な鎌を虚空から取り出す。
 ディス・アストラナガンとヴァルク・バアルの対峙が生み出す途方もない重圧と緊張感に晒されて、アルフィミィやクスハ、リョウトらは言葉を発する事も出来ずに息を呑んでいた。

 

「私に関する限りは性急な所はイングラムと同じだな。だが生憎と私の方の準備が整っていなくてな。お前との因果に一つの決着をつけるのはこの場ではない」

 

「おれが逃がすと思うか」

 

「思いはせん。だが結果としては逃がすことになる。お前達は自分以外のものを優先するからな」

 

 ヴァルク・バアルのウィング・バインダーが幾重にも展開されて、同時にヴァルク・バアルの放出するエネルギーが急速に高まる。

 

「このヴァルク・バアル……そうだな、ディス・ヴァルク・バアルとでも名付けるか。これにはアストラナガンをはじめとした機体のデータを新たに組み込んである。アストラナガンで複数の敵を同時に攻撃する時ならば、T-LINKフェザーか」

 

「貴様!」

 

「修復の終わったアインストはともかくそれ以外の者達は耐えられんぞ? ちゃんと守ってやる事だ」

 

 言うや否やディス・ヴァルク・バアルの背からは念動フィールドを固定化し、更にディス・レヴの供給するエネルギーを加えた無数の光の羽が、瞬く間に数百の単位に変わって上空に放物線を描いてから、一斉に降り注いだ。
 T-LINKフェザーの着弾と同時に多量の砂埃と爆発の光とが、辺り一帯を分厚く覆った。
 地形を変えるほどの圧倒的なエネルギーの暴虐は十秒間続き、その結果として膨大な数の小規模なクレーターが重なる様にして造られて、つい先ほどまでそこが東アジア共和国の基地であったことを証明する建造物は何一つ残ってはいなかった。
 天井を破壊された地下施設が一部を崩落させた状態で、青空に晒されているが地上施設は地盤ごと破壊されて、赤茶けた土を露出させている。
 T-LINKフェザーの着弾と同時に、キャリコは姿を消していたようで、土煙の中にはディス・ヴァルク・バアルの機影はなかった。
 ディス・アストラナガンならば十分に助けられるように調整されたT-LINKフェザーの猛攻の跡地には、ディス・アストラナガンのほか二体の超機人達も、健在な姿を晒していた。
 ディス・ヴァルク・バアルの攻撃を受けていたとはいえ、流石の超機人であるから十分に戦闘は可能な状態であったし、念動フィールドを展開して防御していたのである。
 更にディス・アストラナガンの自律攻撃ユニットであるガン・スレイヴ六基が、放たれたT-LINKフェザーの迎撃と、間に合わなかった場合には盾となって可能な限り超機人達への被弾を防いでいた。
 ディス・アストラナガン本体はZOサイズの柄側にあるラアム・ショットガンの連続発射や、ディフレクトフィールドの広域展開を持って降り注ぐ破壊の翼に抵抗していた。
 センサーとモニターを確認して超機人達の無事を確認して、クォヴレーはかすかに安堵の吐息を吐いた。
 こちらの世界では何の縁故もない者たちではあるが、別の世界で見知った者たちでもある。彼らの身を守れた事に対して安堵を感じるのは確かであった。
 戦闘区域から離れていた東アジア共和国の機体が、戦闘の終息を見計らってこちらに接近しつつある事に気付き、クォヴレーは離脱しようとディス・アストラナガンを動かそうとし、そこにアルフィミィから通信が繋がれた。

 

「お待ちくださいですの」

 

「お前は、この世界のアインストもお前を創造したのか」

 

「あら? 貴方は私とどこかでお会いした事がありますのね。でも少しだけ間違いですの。私を創造したのはこの世界のアインストではありません。私を拾って、傷を治してくださったのは、この世界のアインストですけれど」

 

「なるほど。お前もまた別世界からの来訪者という事か。それでおれに何か用があるのか」

 

「はい。貴方のお力をお借りしたいんですの。今現在の私の主たるレジセイアとイルイ・ガンエデンも貴方との友誼を結ぶことを望んでおりますの。貴方にとってもアインストとサイコドライバーの助力を得られる事は有益であるはず」

 

 確かに人類種の監視者たるアインストと、宇宙に刻まれた運命アカシックレコードにアクセスできる最高の念動者サイコドライバーの力と情報を得られる事は、こちらの世界に来たばかりのクォヴレーには実のある話だ。
 わずかな思考の後に、クォヴレーはアルフィミィの申し出を受け入れて、ペルゼイン・リヒカイトと共にバラルの園へと転移した。
 後に残されていたのは膝を屈し倒れることを拒絶していた超機人達と、無残な破壊の痕跡ばかりであった。
 東アジア共和国の精鋭部隊“頂武”がキャリコ・マクレディによって大きな打撃を受けている間、ディバイン・クルセイダーズとそこに所属するシン・アスカはといえば、こちらもいまだ闘争の渦中に在った。
 三輪艦隊との熾烈極まる戦いを繰り広げてからわずかな休暇を与えられて以降、クライ・ウルブズは母艦タマハガネの修理を待たずして、新たな戦線に投入されていた。
 東アジア共和国に属していたウィルキア王国の独立宣言およびDCや大洋州連合、赤道連合などとの同盟の宣言によって、開かれた対東アジア共和国との戦闘に、クライ・ウルブズの姿があった。
 地球圏全土に鳴り響く現行最強とされる戦闘能力をいかんなく発揮し、ウィルキア王国の投入した超兵器と呼ばれる異形の戦闘兵器群の力もあって、戦闘は時を経るにつれてDC・ウィルキア王国側が優勢なものとなっている。
 およそ一ヶ月の間、地球圏一、二を争うウルトラエース、シン・アスカはおおむねこのような日々を過ごした。
 朝起きて牛乳飲んで出撃して朝メシ食べて牛乳飲んでステラのスカートの中に頭を突っ込んで出撃して昼メシ食べて牛乳飲んで出撃してセツコの胸に顔を埋めて風呂入って出撃して夕メシ食べてシャワー浴びて木刀振って寝る。
 というようなものだが、ステラとセツコに関してはそのほかいろいろな事を、シンは不本意ながら行っていた事を付け加えねばなるまい。
 トイレのドアを開いたらステラが居たとか、ガンルームに向かったら着替えの途中だったセツコが居ただとか、廊下の曲がり角でぶつかって倒れそうになったステラを助けようと思ったらお尻を揉んでいたとか、躓いて思わずセツコを押し倒したなど。
 とかくラッキースケベの称号に相応しい行為を毎日繰り返したのだが、それ以上に共闘したウィルキア王国の諸兵や、DC一般兵を驚愕させたのはやはりシンの人外としか形容のしようがない戦闘能力と戦果であった。
 DC謹製のプラズマ・リアクターやTCGジョイントをはじめとした挑戦的なシステムを数多搭載したインパルスガンダムを駆って、縦横無尽の大活躍を見せた。
 他人が乗ると一歩歩く事さえおぼつかない機体で、戦闘車両、飛行機、MS、MAを目に映る端から斬って斬って斬って斬って斬りまくり、一ヶ月の間に上記した兵器を二百以上破壊しつくしたのである。
 ウィルキア王国・DCと東アジア共和国との戦闘に投入された機動兵器の、実に四分の一がシンの手によってクズ鉄へと姿を変えたのである。
 日本列島における東アジア共和国との戦闘を終えて、現在は朝鮮半島に橋頭保を築くべく、ウィルキア王国の超巨大氷山空母ハボクックや超兵器水上要塞ヘル・アーチェを日本海に投入している。
 シン達もセプタ級を母艦代わりにして日夜機体を駆って出撃していたのであるが、とりあえず日本列島とウィルキア王国とのシーレーンの確保に成功した事もあって、別の戦線に投入される事となったのである。
 超巨大強襲揚陸艦デュアルクレイター、超巨大双胴戦艦ハリマ、超巨大レーザー戦艦グロースシュトラール、ウィルキア王国の航空戦力ハウニブーシリーズとアヘッド、カプルからなるハワイ攻略部隊の出港を、シンは夕暮れの横浜港から見送った。
 紫水晶の塊と見えるセプタ級『シリニーグ』とスレイプニル級ドック艦二番艦『メイマイ』が、現在のシン達クライ・ウルブズの仮母艦となっている。
 テンザンのガンキラーを加えたが、それ以外には特に戦力的な増強は行われなかったが、連日連夜の戦闘によって所属員達の戦闘技術や経験値が、見る間に上昇していったのは確かである。
 白波の航跡を残しながらハワイへと向かうウィルキア・DC合同艦隊から視線を外して、シンはブリーフィングルームへと向かった。休む間もなく新たな任務に赴かねばならない。
 ブリーフィングルームには既にシン以外の隊員が顔を揃えていて、MS部隊の隊長を務めるアルベロと補佐役に就いたジニンとが正面大型ホロモニターの前で、全員の到着を待っていた。
 指定の時刻に遅れたというわけではないが、シンは一礼してから空いていたステラの左横の席に腰かける。
 シンの到着を待って、アルベロはやや時間は早かったが、ブリーフィングの始まりを告げた。

 

「では全員揃ったな。まずこれまでの東アジア共和国との戦い、ご苦労だった。お前達の働きだけが戦闘の結果に繋がったわけではないが、お前達の奮闘が少なからず戦果に繋がったのも確かだ。だがその事に驕らずにこれからも己の職務に励め。
 さてこれから我々クライ・ウルブズは東アジア地域中央部を抜けてユーラシア地域で活動中のサイレント・ウルブズとの合流を図る」

 

 ホロモニターにインド洋側から上陸してそのまま内陸部を一気に突きぬけて、現在は地中海近辺でユーラシア連邦と交戦中の、サイレント・ウルブズとの合流を図る進路が表示される。
 友軍勢力であるアフリカ大陸を経由してではなく敵地を強行突破しての、自殺願望があるのかと言いたくなる進路選択である。
 あるいは一度宇宙に上がってから軌道上を移動して地上に降下する選択肢もあるのだろうが、十中八九敢えてこの強行軍を選択したのだろう。
 新人組であるレントンや刹那辺りが質疑を投げかけるかとシンは考えたが、流石にクライ・ウルブズの流儀と扱われ方に馴染んだのか、特に何かを言う様子は見られなかった。
 全員が黙ったまま話の続きを待っていることを確認して、アルベロは説明を再開する。

 

「この進路は、おれ達が一種のデコイとなって東アジア共和国側の動きを誘導し、日本海側から侵攻するウィルキア・DCを動きやすくする為でもある。おれ達クライ・ウルブズは既に地球連合にとって無視できない戦力だからな」

 

 アルベロの言う事ももっともである。先の三輪艦隊でのヴァルシオン改を相手にした激戦での戦いぶりもさることながら、ヤキン・ドゥーエ戦役の頃から地球連合にとっては厄病神のごとく戦果をあげた部隊なのだ。

 

「おれ達が動けば否応なしにおれ達を警戒せざるを得ん。その為に戦略的価値の低い大陸中央部におれ達が向かい、連合側の動きを牽制しつつユーラシアまで向かう。ルート上および近辺に存在する地球連合の軍事基地は全て攻撃対象だ。
途中でタマハガネ及び補給物資を受け取る手はずになっているが、基本的には友軍からの支援や補給を受けないものと思え。メイマイの艤装が終わり次第、出航する。予定では三日後となっている。それまで各自英気を養い体調を整えておくように」

 

 世界の裏側で真実を知る者達の戦いが激化するのに比例するかのようにして、地球の表側の戦いもまた徐々に激しさを増し、終息へ向けて加速し始めていた。
 しかし、世界にはまだ表に出ていないだけで地球人類にとって途方もない脅威となりうる存在が、いくつも存在しているのだった。
 地球圏が戦から遠い静謐を取り戻すのは、まだはるかな未来の事であるだろう。

 
 

――つづく

 
 

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