Top > Seed-Ace_579氏_第02話
HTML convert time to 0.005 sec.


Seed-Ace_579氏_第02話

Last-modified: 2013-12-25 (水) 22:27:49

『極西の飛行隊~とあるコックの一日~』

今朝は一部のパイロットは元気が無い。
何時もスクランブルエッグを食べ損ねる一等空士も今日はスクランブルエッグを確保できたのに喜べないようだ。
当然だ。昨日、仲間が『国籍不明機』に撃墜されて死んだんだからな。
死者8名、生存者は隊長と隊長機に同乗していたカメラマン、そして訓練生の女性少尉が1名…
昨日の騒ぎの事はパイロットや兵士だけではなく、俺達バイトにも緘口令が敷かれた。
肥満体の司令官殿はこういうことに関しては手際はいいらしい。大佐まで昇進できたのはそのお陰なのだろう。

パイロットにブリーフィングルームに集まるようにという放送が流れる。
どうやらこの基地から出撃しなくちゃならなくなったらしい。
パイロットたちが慌しく朝食を掻きこみ、ブリーフィングルームに向かおうとする。
その中に一人の女性を見つける。昨日の戦闘の生き残りの少尉だ。
彼女の座ってた席の皿に盛った朝食にはほとんど手をつけていないようだ。
食事を取ってないのはまずい。俺は冷蔵庫からウ○ダーi○ゼリーを一つ出すと彼女に声をかけた。
「ナガセさん、飯食って無いときついからこれを」
「ありがとう、コックさん」
放り投げたそれを東洋系のケイ・ナガセ少尉はキャッチするとクールに微笑んで礼を言い、食堂から出て行く。
さて、パイロットたちの食事を片付けるか。

パイロットたちの食事を片付け、食器を洗い終えた俺は砂浜に座り、ぼけぇっと海を眺めていた。
この砂浜は一年前に俺が流れ着き、ハイネと再開した場所だ。隠れていた草むらには着ていたパイロットスーツが埋められている。
ディスティニーが沈んでいる辺りを眺めながら無意識の内にズボンのポケットから3年前に死んだ妹の携帯電話を取り出していた。
今の自分に残された数少ない元の世界の名残の一つだ。
「ここに居たのか、シン」
後から声がかけられる。ハイネだ。戦闘に直接は関わらない主計科は今の所、暇らしい。
「ああ、あの辺りにディスティニーが沈んでるからな。
 直接見ることはできないけどこうやって居ると側にいるように気がするんだ]
そこまで言うと俺は一旦、言葉を切った。
「ハイネ、この世界もまた戦争になるのか?」
「…分からん。15年前ならともかく、今はこの国が他の国から攻撃を受ける要素はない。
 ハーリング大統領は元軍人だが融和主義者だ。戦争が始まるよりも早く、話し合いでケリをつけるはずだ」
ビンセント・ハーリング…オーシア連邦第48代大統領でベルカ戦争では海兵隊の指揮官として前線に立った事のある人物だ。
「俺、一度テレビで大統領の演説を聞いたことがあるけどさ、ハーリング大統領みたいな人が俺たちの世界に居たら戦争なんて起きなかったんじゃないかなって思うんだ」
「シン、それは違うな」
「?」
「ハーリング大統領ならコーディネーターとナチュラルの垣根を平和的に取っ払えるだろう。
 ユークの首相もいれば間違いなくな」
ハイネの言うとおりだ。ハーリング大統領と同じくユークトバニアのニカノール首相も融和主義者だ。
この二人が向こうの世界に居ればロゴスも何もできなかっただろう。

「なあ、ハイネ。この世界に来ているのは俺たちだけなのかな?」
しばらく、話していて俺は前々から気になっていたことを話した。
二人とも、死んだと思ったら別の世界に居た…なら、向こうの世界で死んだ連中もこの世界に来ているのだろうか?
「分からん。もしかしたら俺たち以外にもこの世界に来てしまった人間は居るだろう。まあ、死んだ人間が必ずこっちに来るわけじゃないらしいがな」
そのとおりだ。元の世界では数え切れないぐらいに人が死んだ。コーディネーターもナチュラルも大勢…だ。
もし、死んだ人間が必ず、この世界に来るのならこの世界では大騒ぎになっているはずだ。
「シン、お前…妹さんやガイアのパイロットもこの世界に来ていると思うのか?」
ハイネにそう言われて、俺はポケットからステラから貰った貝殻の入ったガラスの小瓶を取り出してマユの携帯電話と共に握り締めた。
「この世界にマユとステラは来ていないかも知れない。でも、この世界の何処かにいるかも知れない」
「見つけるのに何年掛かるか分からないぞ?」
「何年かかってもいい。例え、俺がおっさんや爺さんって年になっても探し続けるつもりだ」
俺はそう言って真剣な目でハイネを見る。ハイネはしばらく、何かを考えてから口を開いた。
「…妹さんとガイアのパイロット、こんな男に探してもらえるなんて幸せ者だな。
 お前の決意、良く分かった。お前の戸籍は必ず取ってやるよ」
ハイネはそう言い爽やかな笑みを浮かべた。

俺とハイネはその後も砂浜で会話していたが俺が昼の準備の時間になったので二人とも職場に戻る事になった。
厨房に戻る途中、主計科の事務室に戻ろうとしていたハイネはタムラ料理長に捕まった。
タムラ料理長は「料理は塩が命」な男で料理の腕はいいのだが塩にはうるさいのだ。
どうやら、塩の備蓄が少なくなったのでハイネに今度の本土からの便で食用塩を持ってきてくれと頼みに来たらしい。
何とかタムラ料理長をなだめるハイネを尻目に俺は厨房へと戻った。

今日、サンド島から戦闘機隊『ウォードック』が発進したのは領空侵犯した偵察機を捕捉、強制着陸させる為だったそうだ。
しかし、沿岸防衛隊の発射したミサイルで損傷した偵察機を捕捉した時、偵察機の帰還援護に現れた国籍不明の戦闘機と交戦。
国籍不明機は戦闘機は全機、ウォードック隊によって撃墜されて偵察機は力尽き、墜落した。
それが俺が整備隊から聞きだした今日の戦闘の内容だった。

「譴責なんて珍しくもねえ。万年大尉さ」
出撃した機体の整備に忙しい整備隊に夕食のサンドイッチを渡した俺は厨房へ戻ろうとした所でウォードック隊隊長と取材に来ていたフリーのカメラマンが会話をしてるのに出くわした。
アルベール・ジェネット…フリーのカメラマンで運悪く、隊長機の後席から演習を取材中に戦闘に巻き込まれ、目撃者となった彼はこの島から出ることが出来ないで居た。
まあ、運が悪いがタフらしく、戦闘中に激しい機動をする隊長機の後席で失神せずに居たらしい。
俺はそのまま厨房に戻るよりはと思い、格納庫の壁に背中を預けて二人の会話を聞くことにした。
まあ、悪く言えば盗み聞きだけど。
「戦闘のあったことを伏せるのは何者でしょうか?」
「あのな、この海の向こうっていや…ユークはムルスカの航空基地っきゃねえんだぜ」
ジェネットの問いに万年大尉は答える。
ジャック・バートレット大尉…口が悪いが底意地の優しい目で歳は40を過ぎており、髪の毛には白い物が混じり始めているこの男は15年間、昇進から見放されているので皆からは『万年大尉』と言われている。
おやじさんから聞いた話では、彼も15年前のベルカ戦争でおやじさんと共に撃墜されたそうだ。
「ユークトバニアは…ベルカ戦争以来の友好国じゃないですか」
ユークトバニア連邦共和国…サンド島が浮かぶこのセレス海の西のベルーサ大陸の大国であり、ジェネットの言うとおり、15年前のベルカ戦争以来の友好国。
そして、国家元首のセリョージャ・ヴィクトロヴィッチ・ニカノール首相はハーリング大統領と同じく、
融和主義者で簡単に戦争を起こすような人ではない…それが俺が今まで得た知識や情報のニカノール首相だ。
「だからよ、あっちの中で何が起こってるのか、今ごろ釈迦力になって確かめようとしてる連中もいる。
 ホットラインがじゃんじゃか鳴ってるはずだぜ、この国のどこかでは。
 いたずらに庶民の敵愾心煽るのが政治の仕事じゃねえのさ。ただな、軍人の石頭に理想は通じねえ。
 奴らが口を噤めと一言いやぁ、この情けねえ秘密主義だ。あんたにはすまねえことだけど」
「いや、あなた達と居られるからいい」
「いちばん撃ちたくないのは隊長なんだよ」
「え?」
会話に別の声が加わる。格納庫でC-1 トレーダー輸送機を整備していたおやじさんだ。
「隊長にはユークに恋人がいたのさ」
「なあに、古い戦争の傷跡さ」
隊長にはユークに恋人が居たのか…そこまで考えて俺はあることに気がついた。
「だから、ハートブレイクワンなんて言うTACネームなんだ」
俺は万年大尉のTACネームの由来が分かり、そう小さく漏らした。
…はずだった。
「ん? お前、バイトの小僧じゃないか?」
どうやら、俺の声は万年大尉殿に聞こえていたらしい。
「あ、いえ…たまたま通りかかったら話をしているのが聞こえて…」
「こんにゃろう、盗み聞きしやがって!」
言い訳して逃げようとする俺の首根っこを捕まえると、万年大尉は素早くヘッドロックをかましてきやがった。
「イテイテぇ!! ギブギブ! ギブって言ってるだろうがこの万年大尉!」
「誰が万年大尉だぁ!」
万年大尉、笑いながらヘッドロックするな。

その後、何とか許してもらうまでヘッドロックをかまされ続けられた。
頭がまだ、ズキズキしやがる…
「悪いな、小僧」
「ちょっとは手加減しろよ…おっさん」
悪びれた様子見なく万円大尉は謝る。
「確か、アスカだったっけ? ビーグルから聞いているぜ。シミュレーターでかなりいい成績だそうだな?」
「シミュレーターだけですよ。実際に乗って戦闘なんて…」
「だが、いい成績なのは変わらないだろう? この騒ぎが収まったら一度、後席に乗せて飛んでやるよ」
「いいのかよ?」
「訓練飛行でなら問題ないさ。ただし、お前のTACネームは俺が決める条件付だがな」
TACネームを決められるのは少し癪だ。でも、実際に飛べるのは面白そうだしずっとその名前で呼ばれるわけではない。
因みにTACネームとは戦闘中でも呼びやすいよう愛称みたいな物だ。
「…じゃあ、決めていいから必ず乗せてください。でも、変なのは付けんなよ?」
「よーし、じゃあ決めるとするか」
俺はカメラマンの隣に座らされ、俺の前に立った万年大尉は腕を組んで俺に付けるTACネームを考え始めた。
「ブービーはブレイズに使ったから…紅い目だからバーニングアイ…だめだ、暑っ苦しい」
何となく、嫌な予感がした。もしかしたら、とんでもないTACネームを付けられてしまうのではないのだろうか?
「ファイアアイも暑っ苦しいな。クリムソンアイ…ちょっと長いな。
 レッドアイ…うん、短くてシンプルだ。シン、お前のTACネームは『レッドアイ』だ」
「ま、マシなのだ」
嫌な予感がしていたのにまともなのを付けられ、俺は安堵した。
「確か…カクテルにレッドアイと言うのがあったね」
「ええ、トマトジュースとビールを混ぜるのがありますよ」
「俺のTACネーム、カクテルかよ!?」
おやじさんとカメラマン、俺はトマトジュースとビールの混合物かよ…
「今日のよき日を記念に今後、この基地に居る間はお前の事をレッドアイと呼ぶ。いいな、分かったな?。
 では、レッドアイ。この良き日をもう一つ記念してビールを奢れ」
「…それが目的かよ!」
ビール目的の万年大尉に俺は呆れた表情を浮かべた。
だが、心の中では楽しい思いだった。

それから数日は国籍不明機も表れる事無く、島は平和な時を過ごしていた。
俺もパイロットたちもきっと、政治家たちの会話によって秘密裏にケリがつき、この平和がそのまま続くと思った。
また、出撃命令が出されるまでは…

】【戻る】【