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Sin-Jule-IF_101氏_第05話

Last-modified: 2007-12-28 (金) 03:48:46

 件名:(無題)

 

 そちらに変わりは無いだろうか。ミネルバはディオキアに着いたばかりだ。
 今日は議長自ら休暇を下さったのでこのようなメールを送らせてもらった。
 休める時に休んでおけ、とのことだ。
 それだけ期待されているのだろうな。だからこそ応えたいと思う。

 

 お前の活躍はこちらにも届いている。
 あの連合のMAには俺たちも手を焼いた。
 それを時間をかけずに三機も落とすとは……正直、驚かされた。

 

 それと、先日のガルナハン補給隊の護衛の映像は見せてもらった。
 感想を言わせてもらえば、あまり芳しくはないな。お前らしくもない。

 

 次に会うときにはもっと大きくなっていることを期待している。
 俺もお前のライバルとして腕を磨いておくつもりだ。

 
 

 

 件名:久しぶり♪

 

 シン、元気にやってる?
 こっちは相変わらず大変よ。
 艦長はちょっと厳しいしレイは相変わらずだしヨウランとヴィーノは機体の扱いが乱
暴だってぼやくし…。
 あと、アーサーさんもこっそり艦橋を私用に使ってるみたい。いったい何やってるん
だか。メイリンに探ってもらおうかしら。
 って、なんか愚痴っぽくなっちゃったわね。やめやめ。

 

 気を取り直して今日は休暇一日目っ!
 メイリンとハイネ(あ、呼び捨てなのはこう呼ばないと怒るから)とレイとディオキ
アの観光に行ってきたの。
 レイは俺はいいって言ってたんだけどハイネが無理やり首根っこ掴んで引っ張ってっ
たり、面白かった~。シンも見たかったでしょ?
 ガルナハンは砂ばっかで埃っぽかったけどこっちは黒海沿岸だけあってずいぶん過ご
しやすい感じ。

 

 そうそう、こっちで友達ができちゃった。
 ステラって子でね、ふわふわしてる感じで見てて危なっかしいんだけどかわいいんだ
これがもう。

 

 写真も添付しておきます♪

 
 

 

 ある日届いたメールの内容に、シンはほうと息をつく。無愛想な親友からの手痛い指
摘は無視し、次に毛色の全く違う二つの文章に苦笑した。
 二人とも、なんか普段と雰囲気が違くないか。小さなツッコミを入れながらシンは添
付ファイルを開く。画像ファイルは何枚か撮影したものから選び抜いたものらしい。や
けにカメラ映りがいいものばかりが揃っていた。
 一つ一つ、スライドショーのように画像を送っていく。楽しそうに笑っている赤毛の
姉妹と、その間で柔らかな笑みを浮かべている金髪の少女。おそらく彼女がステラとや
らなのだろう。画像の端っこに『ほれるなよ~』とか女の子らしい文字で書いてあった
りする。これはメイリンの悪乗りだろうか。
 次のファイルは海をバックにポーズを決めているハイネだった。しかも一枚じゃなく
複数枚だ。そんなもん渡されてどうしろっていうんだ。心の底から思ったが、ここで抗
議したところで画像ファイルが変化する訳でもない。
 シンは他の何枚かのファイルを順次見ていく。最後の写真は、全員が集合しているら
しい写真だった。青い髪の少年に無理やりに肩を組まれ困惑しているレイ。目つきの鋭
い緑の髪の青年と楽しそうに肩を並べるハイネ。ホーク姉妹とステラ。
 みんな、幸せそうだ。

 

「どうした? 画面見てニヤニヤしたりして」
「フォンドゥヴァオゥ!! ……って、そんな、ニヤニヤなんてっ!」

 

 不意に背後から声をかけられ、奇声をあげて驚くシン。見事な驚きっぷりに声をかけ
たディアッカのほうがびっくりだ。

 

「あー、ミネルバの友達からか。みんな無事で何よりじゃないの」
「はい。ミネルバのみんなは強いですから」
「――なんか、こっちはちょっと頼りないみたいな言い分だな?」
「別に、そんな意味じゃ……」

 

 強引にヘッドロックをかまされ、弁解すらまともに出来なくなる。

 

「ディアッカさんの方はどうなんですかっ! 隊長以外にも友達はいるんでしょう!」

 

 腕の力の緩んだ瞬間、シンは反撃に出る。思わず言い返してから、しまったと表情を
堅くした。その“友達”の一人こそ、自分たちが追っているアスラン・ザラに他ならな
いのだ。
 シンはディアッカやイザークの辛さを全く考えていなかったことに初めて思い当った。
自分はただ命令に従ってアスランを討たんとしていたが、二人は違う。
 たとえば、レイやルナマリアが敵に回ったとしたら。想像すらできない事態を思い浮
かべ、シンは小さく身震いした。

 

 

「話にならんな」

 

 ほぼ日課となっているトレーニングに対する評価は冷たく下された。集中ができなく
なっているのが自分でも理解できている。正体のわからないわだかまりに対し、シンは
握り拳を可能な限り固めることしかできなかった。

 

 ディアッカへの失言は、他の誰でもなくシン自身を強く打ちのめしていた。
 憎しみを糧に、強くなってきたつもりだった。それなのに、オーブが敵となった時に
は僅かに動揺し、イザークやディアッカの立場に自分が立たされたらというifを思考
に織り込むだけでその身を震わせている。本人が強く咎めることはしなかったのが幸い
だったろうか。

 

「隊長、質問してもいいですか」
「何だ」

 

 イザークの視線はシンを射抜くように鋭い。砂漠の失態以降、イザークとはまともに
話してさえいなかった。そこにきて腑抜けたような結果である。あまり刺激するような
質問はしてはいけないとシンの頭は警鐘を鳴らす。
 その一方で、シンは聞かずにはいられなかった。

 

「どうしてアスラン・ザラを討とうと決めたんですか」

 

 イザークからの答えはない。

 

「友達だったんでしょう! どうして討てるんですか!」
「奴を見極めるためだ」

 

 語調の荒くなったシンに向けて、短くも鋭いナイフのような一言が切り込む。
 あまりにあっさりとした答えだったからか、シンは荒ぶる勢いを失った。

 

「アスランは地球へ降りると俺たちに告げて消えた。何か考えがあってテロリストなど
に身を窶しているのかもしれん」

 

 シンは言葉を発せなかった。イザークとて何も考えずにアスランを追っている訳では
ない。思考を停滞させず、歩く足並みを止めず、可能な限り最善の手を考え、イザーク
はそれを躊躇せずに行っている。
 自分と隊長の差を感じると同時に、“英雄”に対する疑問はさらに募った。

 

 ――アンタは、アンタは一体なんなんだ……。

 

 

 シンの抱いていた思いは、後日さらに深まることとなる。
 ミネルバの一行がディオキアでの休暇を終えた後の戦闘でのことだ。ダーダネルス海
峡における戦闘は、停滞していたジュール隊を震撼させるものとなった。

 

「ミネルバが……?」
「被害はそう大きくないそうだがな」

 

 報告を聞いたシンは瞳を見開く。対するイザークは、瞼を伏せたまま記録映像を再生
させた。
 映像の最初のうちは、ただの記録だった。カオスの機動力に対抗すべくオレンジのグ
フが縦横無尽にスレイヤーウィップを振るう。海底から獲物を狙うアビスに対し、セイ
バーは水面に出てくる時を伺うかのようにぴったりと水の上から追跡した。飛び掛らん
と駆けるガイアの脚は、赤いザクの砲撃が止める。各々が役割を分担していながら、決
して集団を破棄しているわけでもない。手が空けば、他の機体への援護にも手を回して
いる。
 善戦としか言いようがない。MS隊を含めダメージを受けたという先の報告さえなけ
れば、シンも心躍らせていたことだろう。
 映像の中のミネルバがタンホイザーを敵に向ける。それで勝負はつくはずだった。

 

 次の瞬間、光の流星が降り注いだ。

 

 最高威力の陽電子砲は、黒煙を上げて無惨に変形していた。連合とオーブのMSが嬉
嬉としてミネルバに襲い掛かる。超高速の突風が、それらの翼や腕をもいだ。
 現れた“それ”が両軍に対して戦闘行為を停止しろと迫る。突然の襲来に対し、真っ
先に対応したのはレイのセイバーだった。現存する機体の中でも最高の機動力を持つ真
紅の機体は、アムフォルタスの光を放ち“それ”に突撃する。
 虫でも払うかのように“それ”はセイバーの翼を裂いた。機体はバランスを失い、高
度を急速に落とす。落ちた先は岩礁であり、海の藻屑とはならなかった。運がよかった
のか、それとも落ちる先さえ計算していたというのか、シンは震え上がる。

 

「問題はこれから先だ」
「えっ?」

 

 シンは思わず聞き返した。闖入者の存在だけでも大問題だというのに、さらに問題が
待ち構えているという。
 陣営を問わず次々に蹂躙していく“それ”に、ビームが次々に撃ち込まれる。それら
攻撃を盾で防ぎ、“それ”は青い翼を広げて攻撃の方向へと向き直る――とともに、び
くりと動きを止めた。
 フリーダムに牙を剥いていたのは、他でもない自分らの標的――ジャスティスだった。

 

 

 修理のために留まるミネルバの一室で、レイは一人塞ぎこんでいた。
 グフやザクに比べて、PS装甲を備えるセイバーのダメージは浅い。本来ならば、今
は手負いのミネルバを狙う敵から防衛すべくMSに乗れるよう準備しておかねばならな
い。レイ自身もそれは理解している。だというのに、彼がいる場所は自室のベッドの上
だった。

 

 何も出来なかった。

 

 ただそれだけの事実が、彼にとってはとてつもなく重い。
 落下した先から彼のできることは、フリーダムとジャスティスのやりとりを傍観する
しかなかった。剣を抜くジャスティス、対照的に武装を解くフリーダム、二機はぶつか
り合うように空中で何度も交差していた。何事か言葉も交わしていたようだったが、無
力感に打ちひしがれたレイの耳には届いていない。
 地上から空中までの距離は、そのまま実力の差に等しく思えた。呆然とレイは戦いを
眺める。連合から信号弾が上がらなければ、海中で難を逃れたアビスの餌食になってい
たことだろう。

 

 冷静さを欠いたのは事実だったが、それを言い訳にするつもりはなかった。言い訳を
いくら並べても、結果は決して覆らない。むしろ逆に実力差を浮き彫りにする。フリー
ダムにも匹敵する機体を操っていた慢心もあったのだろう。
 偉そうにシンに意見した割に、自分はこれである。自嘲の笑いすら出てこない。秀麗
な眉間は歪んだが、きめ細かい金糸の髪には揺れの一つも生じない。

 

 親友を思い出したからか、ふとディオキアで出会った三人組を思い出す。連合寄りの
人間だろうと見抜いたハイネは、レイにそれを打ち明けながらも何故か彼らとあっさり
打ち解けていた。レイも多少は疑惑を持っていたが、彼ほど器用には立ち回れないので
警戒の姿勢を崩せない。
 そんな中、一団の一人アウル・ニーダはやけにレイにつっかかってきていた。性格的
に真逆のようなものだが、自然と不快感はなかった。
 余ったもの同士だからだろうか、とレイは思う。相手のリーダー格のスティングはハ
イネとよく言葉を交わしていたし、紅一点のステラは同性であるホーク姉妹と仲良くし
ていた。否、とすぐに疑問を打ち消した。過ごした時間は短かったが、アウルは残った
レイを気遣うような性格ではなかっただろう。残ったのは、むしろレイの方から距離を
置いていたからだ。好き好んで話しかけるなど、おかしいとしか思えない。

 

 フリーダムのことは、いつの間にか頭から消え去っていた。

 

 

 本日もユウナ・ロマは平素のように静けさの中でエレガントなティータイムを楽しむ
はずだった。

 

「どういうつもりです!」

 

 響くのは優雅なクラシックではなく、似つかわしくない机を叩く荒っぽい音と、がな
る怒鳴り声だ。参謀という名の監視役であるトダカは、ユウナが口にしたアスランとの
同盟関係を聞き、思わず声を荒げた。

 

「あまり大声を上げないでほしいな。これは父上にも秘密にするつもりなんだ」

 

 怒りを露にするトダカとは対照的に、ユウナは冷静なままティーカップを煽る。

 

「僕なりの譲歩なんだけどなあ。君ら、オーブ軍を使うことに反対でしょ?」
「それとこれとは話が別です!」

 

 オーブ軍の人間はカガリを“救い出した”アークエンジェルを撃つことに、特に躊躇
いを持っている。さらに相手は前大戦を終わらせ、平和を作り上げたフリーダムだ。非
戦を謳うオーブ人にとっては、殊更銃口を向けたくないものだろう。
 ユウナはトダカが自分に不審を抱いていることを承知している。ここで腹を割って話
すのは危険を孕んでいたが、自分の腹の内を明かしておかなければ、いつぶん殴られる
か解ったものではない。武の人ではないというのに、痛い思いをするのはごめんだ。

 

「アスラン・ザラは有用なんだよ。今や彼はラクス・クラインを憎んでいるしね」

 

 ユウナは説明を続けた。
 プラントの腐り具合を聞くにつけ、防げたはずの地球の大被害を起こしたクライン派
に対する失望は募っていた。プラントが勝つにしろ負けるにしろ、よりザラ派の力が大
きくなることは想像に難くない。
 いくらかつてのパトリック・ザラに殉ずるといっても、地球全てを敵に回すほど馬鹿
でもないだろう。

 

「ですが、もしこれが連合に知れたら……」
「やり方次第でなんとかなるでしょ。連中、ユニウスだって落とすんだからね」

 

 何せオーブは数年前に崩壊寸前にまで追い込まれている。脅されたことにでもしてア
スランの一派の情報を引き渡し、後は根回しさえ上手くやれば最悪の結果は免れること
ができるはずだ。
 もっとも、それでも甚大な被害を被るだろうが――、

 

「――真っ先に人死にを出すよりはよっぽどマシだよねえ?」

 

 

 セイランの息のかかったホテルが現在のアスランの拠点である。オーブで盛を極める
セイラン家に相応しい見事なまでの厚待遇に、自他共に認めるテロリストである彼らは
戸惑わざるを得なかった。サトーなどは未だに悪態をついてはいるものの、拠点を得た
ことで悪い気はしていない様子だ。
 曰く、ゲストを大事にするのは当たり前でしょ、とのことである。カガリの専属の部
下だった時分に比べての扱いの変貌に、アスランは苦笑しながら礼を述べていた。

 

 ひとまずの休息を得た彼らだったが、元々の空気も手伝って雰囲気は重い。
 最大の障害になるだろうフリーダムを落とす最大の機会を失ったのは、紛れもない事
実だ。本来ならば相手が油断と戸惑いに囚われているうちに無力化、もしくは撃破せね
ばならなかった。
 敵と認識された場合、いかに厄介かは前大戦で思い知っている。

 

 さらに、彼らの戦力はそう多くない。満足に動けるMSはジャスティスだけだ。補給
すらままならなかったため、他のジンはジュール隊との戦い以降、満足な修復をなされ
ていない。
 そんな中で、ユウナは技術力の提供をアスランに持ちかけた。一騎当千の猛威を振る
う核搭載MSを所持しているとはいえ、多勢に無勢では心許ない。

 

「ずいぶん都合のいい話だな」
『君らにも頑張ってほしいからね。持ちつ持たれつってトコロかな』
「ただで、という訳ではないのだろう」
『話が早くて助かるよ』

 

 応対したのはアスランではなくサトーだった。喧嘩を吹っかけるのではとアスランは
気が気でなかったが、意外にも繰り広げられたのは真っ当な対話だった。通信画面の端
に映った間抜け面は、後々までユウナにからかわれるものになる。
 ユウナの持ちかけた条件は一つだけだ。フリーダム、アークエンジェルが戦場にいる
際は、最優先でそちらを狙うこと。

 

「ふてぶてしい悪人だ」

 

 通信の終わった後、サトーはアスランに言う。言葉とは裏腹に、含有している悪意は
少なかった。ほとんど呆けていたアスランは疑問符を頭上に浮かべる。

 

「どういうことだ?」
「ジンを直す代わりにドムトルーパーのデータを渡せと言ってきた」
「つまり、ユウナはドムを作るつもりだと?」
「それだけで、済めばいいがな」

 
 

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