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Sin-Jule-IF_101氏_第09話

Last-modified: 2007-12-28 (金) 03:26:55

「――できれば事前にアポの一つでも取ってくれると有難かったのだがね」

 

 数分前に立ったばかりの椅子に再び腰を下ろしながら、ギルバート・デュランダルは
穏やかに言った。多忙の塊がようやくひと段落し、僅かな時間の休息を得るべく帰宅し
ようとした折の出来事だ。ドアを急に開けて現れた二人組に、デュランダルは思わず面
食らった。現れたのは銃を手にした浅黒い男と、日常のひとときであるかのようにたお
やかな微笑を浮かべた少女だった。
 内心は表情に出さず、乱暴な来訪者に語りかける。声に震えはなかった。

 

「そんなことをしたら、こんな会い方は出来ないでしょう?」

 

 押し入った時から持っていた鉄の筒を向けながら、隻眼の男は唇を吊り上げる。今を
ときめく議長殿と正式な手順で顔を合わせるならば、膨大な手続きを経、その上で護衛
やセキュリティの監視、あるいは多数のカメラの下で会うことになる。当然腹を割った
話など出来ようはずもない。
 相手には会話の意思があるらしい。ならば、この場で撃たれることはない。デュラン
ダルは生命の危機がないことを理解する。若干だが、声が強くなった。

 

「確かにその通りだが、いささか礼にかけるとは思わなかったのかね?」
「無礼は承知の上ですわ」

 

 少女は急に笑みを消す。語調は、強かった。
 デュランダルは短く返事し、椅子から立った。部屋の向かい合ったソファの一方にか
けるように促し、自らは反対側のソファに座る。対等の目線での話し合いを受諾した二
人は、言葉通りにソファに座った。
 会う方法としては最悪の部類だが、無下に扱っていいゲストではない。

 

「用件を伺おうか、ラクス・クライン」

 

 隠遁していた彼女がプラントまで赴くこと自体が既にリスクを伴う行為なのだ。相応
の覚悟を背負った行為であることを察し、デュランダルは口を開く。
 アンドリュー・バルトフェルドは銃口を下げた。もともと目的は接触であり、脅迫で
はない。相手が撥ね付けるような態度をとらないのならば、銃などは必要のない代物だ。

 

「では、単刀直入に申し上げましょう。地球から軍を引き、続く争いを止めてください」

 

 言われたデュランダルは一瞬呆け、次に首を傾げた。話の飛び具合もさることながら、
まるでプラントが侵略者の側のような物言いだ。

 

「ザフトが引けば争いは止まると?」
「少なくとも、たった今、亡くなろうとしている方々は助かります」

 

 端を発するのはユニウスセブンの落下だが、セカンドステージ奪取など手を出してき
たのは連合が先だ。やられっ放しで手を打っては、もともと不利なプラントの地位を更
に貶めることになるだろう。そもそも、コーディネーターそのものを憎む連中が納得す
るとは思えない。
 デュランダルは困惑した。話にならないと思ったが、簡単に意見を曲げるような相手
ではないことは百も承知だった。

 

 

「そういえば、アスラン・ザラについては聞いているかい?」

 

 仕方無しに話題を切り替える。これはラクスと接触をとれた場合に真っ先に聞いてみ
たいことでもあった。ラクスは短い返事とともに頷く。話が早い、とデュランダルは疑
問をラクスにぶつけてみることにした。

 

「彼は一体どういう人間なのか、それを伺いたい」
「ミネルバでお会いになったのではないのですか?」
「あれは短すぎる時間だったのだよ。人を知るにはね」

 

 実際、偽名を使って自身を戒めていたためか、デュランダルの彼自身に対する印象は
かなり薄い。かと言ってユニウスセブンの落下阻止に手を貸すことを名乗り出たのも彼
だ。前大戦を収めた立役者の一人でもある。本来ならば平和を愛する人間なのだろう、
そう彼は考えていた。
 それが今では平和を乱す連中と手を組み、どこから調達したのかNJCを搭載したM
Sまで持ち出してザフトの正規隊に楯突いている。風評からはおよそ考えられない蛮行
だ。何か考えがあってのことだというのなら、彼が友とする人間ならばその手がかりが
掴めるかもしれない。それがデュランダルの考えだ。
 期待はあっさりと裏切られた。

 

「彼のことは、彼自身にしかわかりませんわ」

 

 小さく被りを振りながら、ラクスはきっぱりと言う。

 

「何も彼の凶行の理由を教えてくれと言ってるわけではないよ。彼の性格や嗜好、そう
いったものにヒントがあるのかもしれない」
「あー、言わせて貰ってもいいでしょうかねえ?」

 

 黙っていたバルトフェルドが僅かに挙手をしながら言う。デュランダルはそれを許諾
した。口調は砕けたものになり、流暢に台詞が続く。

 

「アスランの行動にはあなたが噛んでる可能性、それもこちらは考えていたんだが」
「私が? なぜそう思うのだね」
「あなたはクライン寄りではあるが、本来は穏健派にも過激派にも属していない。真実
を探ろうにも、今はちょうど戦争のゴタゴタなんて状態にある」
「なるほど、私が地位を磐石にするために両者の同士討ちを狙っていると」

 

 デュランダルは頭脳の働きを張り巡らせる。砂漠の虎とまで呼ばれた将が突飛な意見
を出したのは意外なことだったが、納得の出来ない話ではなかった。そうまでしてアス
ランのことを信じたいとする考えの表れなのだろう。即ち、それがそのまま仲間たちか
ら彼への評価に繋がる。
 否定の証明は簡単だ。撃墜されたばかりのミネルバの艦長がタリア・グラディスであ
ることこそが身の潔白をそのまま表す。
 品のない武勇伝を語るようで昔の関係を口にするのは憚られるが、そうも言ってはい
られなかった。

 

 

 アスランの凶行についての潔白を晴らしたところで、デュランダルは話を最初のそれ
に戻した。考える時間を与えるつもりでもあったのだが、ラクスの視線は変わらない。
溜息混じりに、彼は一つ観念した。

 

「先に断っておくが、決して気を悪くしないで頂きたい」

 

 念を押し、机の上の電話に手をかける。バルトフェルドは一度銃を構えたが、護衛を
呼ぶ気配ではないことを感じ取り、再び銃を仕舞った。

 

「こんな時間ですまないが、彼女を呼んでもらえないか。そう、ラクス・クラインを」

 

 ただならぬ単語が飛び出したことで、二人は思わず面食らう。ラクス本人ならばすぐ
傍らに存在している。なのに呼び出すとはいかなることか、何かの罠かと警戒し、バル
トフェルドはデュランダルを睨めつけた。
 一方のデュランダルは短い電話を終え、再びソファの方に座る。穏やかな視線をたた
えながら、口を開く。二人の疑念を含んだ眼差しに対し、全て解っていると言うような
素振りだった。

 

「彼女が来たら説明しよう」

 

 無礼な突入に対しての少しばかりの反撃をしてやろうという意図も含んでいたが、そ
れは口にはしないでおいた。

 

 呼び出されたミーア・キャンベルは、到着した途端に泣きそうになった。
 彼女は思わず半生を振り返ってしまう。思い返せば、近年の自分は不運の連続に見舞
われ続けていた。歌手としてのオーディションに落選し、落ち込んだところをプラント
の議長に拾われた。天の助けかと思ったら、彼の要求はラクス・クラインの代わりを務
めて欲しいというものだった。顔を変え、名を変え、幾度となく続いたレッスンの間は
情報の漏洩を防ぐために社会とは殆ど断絶された。
 プラントの人々全てを纏め上げるためには仕方がないと割り切ったが、回ってくるは
ずの出番は開戦とともに後回しである。ザフトの団結力を増させるにはむしろ出るべき
ではないのかとも考えたが、議長はミーアを表に出そうとは決してしなかった。
 本物のラクスを目の当たりにし、ミーアは思考を停止し硬直する。本物が見つかった
のならば、最早偽者の自分は不要なものだ。捨てられるのではないかという恐怖が先行
し、膝がガタガタと震えた。
 デュランダルはミーアを座らせ、噛み砕いて説明する。最初は隠遁していたラクスの
代わりにするつもりだったが、アッシュたちの侵入によって姿を消した浮沈艦や聖女の
行方が明らかになった。ここでミーアをお披露目してしまえば、アークエンジェルは自
分に疑念を抱く可能性が高い。たった一隻の戦艦だが、デュランダルは危惧の念を抱い
ていた。戦艦一隻すら恐れる男が、戦争を望む真似などするだろうか。身振りを加えな
がら、目の前の二人に訴える。

 

「――確かに、戦いなどあっていいものではない。しかし実際に我々を憎んだり、ある
いは自分らの同胞を利用するものがいる。それらを放ってはおけないだろう。それらを
捕らえずして争いの手を止めることなど、不可能だ」

 

 結果として、この場では口頭ではあったがアークエンジェルとの不戦の約束が交わさ
れた。ただし、もし作戦行動を再び妨げるのであれば敵と認識するという条件を添えて。

 
 

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