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W-DESTINY_第08話1

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:55:02

ゼクスはトロワを自室に案内すると、自分がこの世界に来た時の状況、そしてザフトに入った動機を説明し終えた。

「そうか、やはりヒイロだったか」
「どういうことだ?」
「正確な情報としては流れていないが、噂レベルでユニウス7を砕いた天使の話がある」
「そうだったのか……」
「では、俺たちの状況だが……」

トロワの話によると、彼らはリーブラの破壊をヒイロに託し、見守っているた。
そして、ゼロがツインバスターライフルを発射すると同時に空間がブレだし、リーブラとユニウス7の破壊の光景がダブったという。その歪みは、異世界にきた状況で安定していた。

「では、この世界に飛ばされたのは……」
「リーブラの破壊作業を寸前までしていた俺達と破壊したヒイロ……お前の場合は…」
「リーブラの動力炉を破壊した後、その大きな破片と同じ方向に飛ばされたのだろうな……」
「おそらくな」
「だが、リリーナが来てないのは間違いないのか?」
「それに関しては間違い無い、ここに来てから、ずっと調べていたが、もし、リリーナ達が来ていたらとっくに見つけている。彼女は俺たちとは違う」

それに関しては同感だった。人は集団や社会に属する生物だ。異世界に来て、それらからはぐれて生きるには、相当の能力が必要だろう。ゼクスでも無理だった。
それを考えると、目の前の少年等の能力に感嘆を禁じえなかった。すでに、この世界についても自分より高い情報を得ている。

「それにしても……」
「何だ?」
「余計な事かもしれんが、少しはノインのことも心配したらどうだ?」
「……彼女は私など忘れるべきだ」
「……なるほど、お前の判断は正しい。確かにヒイロも同じ事を思っているだろう」
「―!」
「つまり俺は、お前がザフトに入ったのを認める。そういうことだ」

ゼクスはトロワの痛烈な皮肉に俯いた。身勝手な自分の考えに苦しんでいるとトロワが別の質問をしてくる。

「ところでデュランダルという男、お前から見てどうだ?信用出来るのか?」
「……貴様らしく無い質問だな。信用など何の保証になる。彼との関係は利害の一致だ」
「言い方が悪かった。異世界の力を見て野心を持つような男か?」
「……それは無さそうだな……私の話には興味を持ってるようだが……どうかしたのか?」
「実は…」
「トロワ、そっちはどうだ?」
「ああ、やはり例の噂、ヒイロだったらしい。それでゼクスが餌になってくれるそうだ」

突然扉が開き長髪を三つ編みにした少年が入ってきた。そのままゼクスの状況と目的を聞かせる。
何故、ここが判ったのかゼクスは不審に思ったが、よく見ると発信機のような物をお互い付けていた。
これがOZを翻弄した少年の能力かと改めて驚く。

「マジかよ……アイツ問答無用で殺したりしねえか?俺だったら絶対に餌なんてしねえぞ」
「リリーナの兄という身分に期待しよう」
「……貴様は」
「こうやって会うのは初めてだったかな。俺の名前はデュオ・マックスウェルだ。お前さん方の言うガンダム02のパイロットだ。よろしくな」
「ああ、ゼクス・マーキスだ。よろしく」
「それでデュオ、どうだった?」
「ああ、デュランダルは白だな」
「何故そう思う?」
「エピオンがあった。厳重に保管してたぜ…つーか、ありゃ封印だな。ゼロシステムは兎も角ガンダニュウム合金にすら興味が無いらしい」
「なるほど…力の怖さを知る人物か……」
「俺も、そう思うぜ」
「待て、話が見えんのだが?」
「ああ、さっき見せようとした所で、デュオが来たからな…」

トロワはそう言いながら、胸のポケットから数枚の写真を出して、ゼクスに渡した。

「見覚えは無いか?」

ゼクスは手渡された写真を見た。それは宇宙空間に漂うリーブラの残骸の写真だった。そして、それがどの部分だったかを思い出し驚愕の声を上げる。

「これはどうした!?」
「ここに来てから、帰る方法を探ろうと最初に来た場所の状況を調べていたんだが…」
「で、全員のガンダムのカメラの記録を見てたらコイツが映ってたってわけ」
「この世界では、俺たちの科学技術は危険だ。それがどの部分かは知らんが帰る前に排除しようという話になってな」
「ところが、いざぶっ壊しに行ってみれば影も形も見当たらなねぇ」
「重力に捉まったとも思えんし、おそらく何者かが手に入れたのだろう。それでデュランダルが怪しいと思ったんだが……」
「つーか、ゼクスはこれが何か判るのか?」
「……ああ」
「あまり、良い答えでは無さそうだが、教えてもらおうか」
「……MSの格納庫…機動設定をしていないがビルゴが60機ほど収納されていたはずだ」

最悪の答えにトロワは俯き、デュオは頭を抱える。ゼクスの説明によるとビルゴⅡが量産されたので、途中で使用しなくなったプログラムを入力する前のビルゴを格納庫に置いたままにしていたという。ビルゴは地上用と言っても機動性は低いが宇宙空間でも戦闘可能で、60機もあれば、充分この世界の最大の軍事勢力となれるだろう。

「機動設定がまだって言ったが、どういうことだよ?」
「MDは目的別に設定を変えるが、これにはまだ初期設定さえしていない」
「と言う事は、これは動かないのか?」
「今の所はな、だが少し調べればアレが無人機で設定しだいで動かせる事くらい誰でも判る。今すぐに機動させるのは無理だろうが、時間を掛けて調べれば……」
「ここの連中、ソフト面に関しては俺達以上に思えるしな……やべえぞトロワ」
「ゆっくりもしていられんか……この際だ、デュランダルに協力を仰ぐか」
「マジかよ!」
「本気だ。奴にとっても排除したい代物だろう。それにカトルの事もある」
「カトルがどうかしたのか?」
「ああ、最後の戦いでドロシーと戦って、腹に穴開けられてな……治療しようにも……」
「そういう訳だ。デュランダルに会わせてもらえるか?」

ウナト・エマ・セイランはオーブの行政府内にある私室で書類に目を通していると、息子のユウナ・ロマ・セイランが入ってきた。彼の訪問を受けると単刀直入に問いかける。

「カガリ様は?」
「病院へ残してきた。カガリも酷いが子供たちがね……」
「無理もあるまい……一緒にいてやれば、お互い少しは楽になろう」

孤児院の異変を付近の住民が見つけ、その内容がカガリの耳に入った時は、すでに子供たちが病院に収容された後の事だった。子供たちは誰一人怪我はしていないものの全員が心理的外傷を負っていた。
カガリとユウナは凄惨極まる犯行現場を確認すると、病院に子供たちを見舞った。子供らにとっても、カガリは優しい姉のような存在で、泣きながら恐怖を訴えると共にしがみ付き、手を離さなかった。
カガリもかつて、共に戦った仲間の死と、キラとラクスの行方不明にダメージを負っていたので、ユウナは彼女に子供たちといるように言い残し、自分だけが戻ってきていた。

「それで、少しは分かったか?」
「錯乱しているけど子供達が言うには、眼の紅い女の子が右手を銃やノコギリに代えて、バルトフェルドとマリューを殺害し、ラクスとキラを連れ去ったらしい」
「……何だそれは?」
「さあ?……それとデュランダル議長って言ってたって……一番年上の子が聞いたらしい」
「……どう思う?」
「不可解の一言さ……赤い瞳の女の子って事からコーディネーターらしいが、裏でザフトが絡んでいると思うのは短絡的だろ」
「たしかにな……実際、今のザフトにとってラクスは、それほど重要な人物でもあるまい」
「まあ、協力はして欲しいだろうけど……それに邪魔になる可能性は残ってるだろ?」
「……だとしても行動がおかしかろう」
「それなんだよね……協力して欲しいなら、こんな真似はしないし、邪魔なら誘拐せずに……」
「だとするとザフトに見せかけた連合の?」
「それも変だろ?」
「何故だ?オーブに本格的に戦わせようと思えば……」
「父上は、今回の話を聞いてザフトに怒りを覚えた?連合だって、オーブが馬鹿の集まりだと思ってる訳じゃ無いだろ。こんな子供だまし使うとは思えないよ。やはり目的はラクスとキラの身柄だろうけど……何のためにって聞かれると正直分からないね……」

それっきり、二人は沈黙した。あまりにも情報が少なすぎる。結局、今は様子を見るしか無いというのが二人の出した結論だった。

ゼクスに紹介された新たな異世界からの来訪者の話にデュランダルは顔をしかめた。
同席したアスランも呆然としている。圧倒的な力を持つ異世界の兵器を何者かが手に入れたと言うのだ。

「議長、彼らの世界の兵器はそれほど強力なのですか?」
「そうだな……私は専門家では無いから、詳しくは言えんが、我々の既存の兵器が全く通用しない装甲と水中でも使えるらしい高出力のビーム兵器、さらにMSの重量が10分の1と聞いた時は呆れたね」
「……それ、本当ですか?……」
「議長は本当に、ご存知無いのですね?」
「残念ながら……もし知っていたら君に訊ねるさ」
「では連合が?」

デュランダルがゼクスの質問を否定すると、続けてアスランが質問した。だが、それにも頭をふる。

「あの空域はザフトの勢力下にある。それほどの巨大な物体を、我々に知られずに運び出す事など出来んよ」
「では、誰が?」
「誰か?と聞かれれば、やはりザフト軍人の誰かだろうね」
「ですが議長は知らないのでは?」
「ああ、それを手に入れた後、私に伝えなかったのだろうな……」
「はぁ?何だよそれは?」
「犯人の心当たりがあるのか?」

デュオを制してトロワが質問する。デュランダルはトロワの顔を見ると、情けなそうに苦笑し、犯人の心当たりを告げる。

「おそらくはクライン派の連中だろう」
「どういうことだ?俺たちもこの世界の情報は、ある程度知っている。クライン派と言えば、お前もその1人だろう?」
「そうなのだが、ここで言うクライン派とは彼らの自称で……そうだなラクス教と言えばいいかな」
「どういうことです!?」

アスランが驚いて質問してきた。

「アスラン、君には言ったはずだよ。私の影響は小さいと、何故そうなったと思う?」
「それは……」
「彼等にとって、私のいる場所は本来ラクス・クラインが存在するべき場所なのだよ」

「なるほど、つまりお前は不当にもラクス・クラインの居場所を奪っている。そう思われているわけか?」
「察しが早いな」

トロワの問いにデュランダルは苦笑しながら肯定する。頭の切れる男だと思った。

「……俺には分かりません」
「君はラクス・クラインの事を良く知っているからね。ではリリーナ・ピースクラフトは、どう思う?」
「え?」
「彼女は異世界で完全平和主義という途方も無い事をやってのけた。何故そんな事が出来たと思う?」
「……………」
「私が、君に異世界の話を聞かせたのは、色々と理由が有ってね、だが、根本的には物事の考え方を多角的に見て欲しいからなのだよ。そうだな、これは課題にしよう。何故リリーナ・ピースクラフトは完全平和主義を成し遂げられたのか?これが分かれば、今回のクライン派の行動が理解出来ると共に君が今感じている地上での使命へのプレッシャーを和らげる事が出来るだろう」
「それは……」

言いかけるアスランを無視してデュランダルはトロワに顔を向ける。

「トロワと言ったね。君の仲間の治療を引き受けよう。ただし条件がある」
「何だ?」
「私と契約をして欲しい。内容は異世界の…おそらくはクライン派の手にした兵器を破壊して欲しい。
 これは、手にしたのが誰かは問わない。あくまで兵器の破壊が最優先だ。それも、この世界に関らせない内にやってくれるのが望ましい」
「そりゃあ、こっちもそうしたいがな」
「分かった。では、その交換条件としてカトルの治療を…」
「それと、こちらからの情報の提供と君たちが動きやすい様に色々と用意しよう」
「随分と俺たちに都合が良いな」
「……そうか、だが俺達のリーダーはカトルだ。アイツに相談してから決めるが、おそらく問題は無いだろう」
「良い返事を待っているよ」
「決まったら連絡する」

あまりの好条件をデュオは不審に思ったが、トロワが納得して出て行こうとするので、黙って従った。
そして、出る際にアスランを覗き見ると彼は自分の考えに没頭しているようだった。

ラクスはネオに連れられた先で一人の男性と対面していた。あの凄惨な場所から逃れ、キラを大きな病院で治療してもらい、随分と気が緩んでいた。

「お初にお目にかかる。私の名はロード・ジブリールといいます」
「ラクス・クラインです……連合の方でしょうか?」
「いえ、少し違いますな、ブルーコスモスの盟主を務めている者ですよ」
「―!」
「慌てなくて結構ですよ。ブルーコスモスと言っても色々いましてね、例えばアスラン・ザラが言ったような卑劣漢もいれば、貴女のお父上のような人もいます」
「……父が……ブルーコスモス?」
「言い方が悪かったかも知れませんな。ブルーコスモスとは別にカルト集団の様に上の命令を聞く人間の集まりでは無いのですよ。それぞれが少しでも地球を本来の在りうべき姿にしたい、そう願う者の総称と言ったが良いのでしょう」
「在りうべき姿……」
「たしかに私個人的にもコーディネーターの存在には反対です。ですが既に存在する者の命まで奪おうとは思っておりません」
「そうなのですか」
「はい……ただ以前はどうすれば良いのか悩んでいたところ、貴女方親子の存在を知ったのです」
「わたくし達の?」
「その通りです!貴女が仰られたのではないですか?このままではコーディネーターに未来は無いと!ナチュラルと共に道を探そうと!」
「それは!」
「貴女がプラントでザフトの暴走を止めようとなさった演説、私はそれを聞いて感動したのです!貴女方親娘が目指した共存への道、私がブルーコスモスの盟主になってから、何時の日か是非とも貴女と手を結べる。そう願っておりました!……ですが今のプラントは……」
「わたくしの声は届きませんでした」
「そのような事はありません!先のアスラン・ザラの演説は貴女が植えた種に水を撒いただけの様なものです……ただ、彼の場合はコーディネーターによるナチュラルの支配へと移り変わっていた様ですが……」
「アスランが?」
「お気づきになりませんでしたか?彼の言い分は、NJCを餌にコーディネーターに従えという内容に他なりません。そして、それを邪魔する者は排除すると言ってるも同じです!」

ラクスは息を呑んだ。アスランの演説で何故か感じた憤りの正体が分かった気がした。

「私は貴女こそがプラントの議長になるべきだと、そう思っているのですよ」
「わたくしは……」
「確かに今は無理でしょう、ですが期待しているのは私だけでは無い、それだけは覚えておいていただきたいのです」
「………はい………」
「貴女がお望みなら、その為の力を貸す…と言いたいところですが、そういうわけにも行かないでしょう……無念です」

俯き残念そうな表情をするジブリールにラクスは笑って答える。

「お気になさらないで下さい。本来ならブルーコスモスの盟主がコーディネータのわたくしと、こうして会話しているのさえ許せないと言う者も多くいるでしょう……ナチュラルの中にも、そしてコーディネーターの中にも……」
「遺憾な事ですな……」
「はい……ですが、貴方とこうして話せたことを大変嬉しく思えますわ、ロード・ジブリール殿」
「私もです。何か御用があれば何時でも申し付け下さい」
「……では、早速お願いがあるのですが……」
「何なりと」
「宇宙へ行くシャトルをご用意していただけないでしょうか」
「シャトル!…まさかプラントへ行かれるお積もりですか?」
「はい」
「危険です!貴女にもしもの事があれば!」
「ご安心ください、わたくしに協力してくださる方々は大勢います」
「本当ですか?」
「はい、無理を言って申し訳無いとは思いますが…」
「いえ、お気になさらずに……ですが、言われてみれば貴女に協力する者がいるのは当然の様な気もいたします。私がコーディネーターで、プラントで住んでいればデュランダルでは無く貴女を支持するでしょうから」
「ありがとうございます」

握手を交わすと、ジブリールはラクスの退出を玄関まで見送り、彼女の機嫌を取った。
そして、部屋に戻るとマユの仕事に満足する。今のラクスに正常な判断は出来ないだろう。心の奥底にザフトへの不審と怒りを植えつけられ、ちょっとした事でもマイナスに考える。そういう心理状態になっていた。かつての婚約者で共に戦った男の言葉さえ、悪く捉えるのだ。

ラクスを見送った後、部屋で作業を続けると、ラクスを宿泊先のホテルまで送ったネオが戻ってくる。

「随分と上手く行きましたな」
「まったくだ。やはりクライン派の存在は本当だったらしい」
「それにしても良く言いますな」
「何をだね?」
「明るい共存、まさか本気で言ってるわけは無いでしょう?」
「……いけないかね?」
「は?」
「コーディネーターを全て殺せば、反発が来るのは当然だろう?」
「それはまあ…」
「それにコーディネーター無しでは、今の世の中は動かん、アスラン・ザラの言った通りさ」
「……ではアスラン・ザラに同調すると?」
「まさか!……私の言う共存とは効率の良い支配の事だよ。危険なコーディネーターを上手く監視する。
 以前は、それが失敗したから反乱が起きたのだよ」
「……なるほどね」
「理想的な支配とは、支配されている者が、支配されている事に気付かん事だよ」

ジッとネオを見つめるが、ネオにその視線の意味は分からなかった。ネオは居心地が悪くなり話題を変える。

「それより大丈夫ですかね?」
「今度は何だね?」
「クライン派ですよ。藪を突付いて出てくるのが蛇で済めば良いのですが」
「君も心配性だな……だが、確かに気を付けるとしよう」
「余計な事を言って申し訳ありません」
「気にするな。ところでマリュー・ラミアスの死に様は聞いたかね?」
「ああ、聞きましたよ。流石と言うか……本気で怖い娘っ子ですな」
「……そうだな」
「そんな事より、子供を1人も殺していない事に驚いたんですが?」
「それには私も驚いている。てっきり皆殺しにして帰って来ると思ってたからな」
「盟主の命令では無かったのですか?」
「何故、そう思う?」
「あの娘っ子、盟主が言わなければ殺すでしょう?」
「普通はそうだな」
「だから、てっきり生き残りにラクスと同じ情報を与え、それがオーブに伝わるように…」
「確かに最初は、それも検討したがね…オーブは代表は兎も角、裏にいるセイラン親子、特に息子の方は、意外と切れ者でな……今回の件も馬鹿正直にザフトの仕業とは思ってないだろう」
「なるほどね……では連合を疑う可能性も?」
「当然、疑っているだろう……だが、証拠は無い、マユは存在しない人間だからね。だから君は…」
「わかってます。以後オーブと関る時は注意しましょう」
「それで良い、さて、ラクスが宇宙へ上がったら、君には戦場へ戻ってもらう事になる」
「それが仕事ですからね。それに今回の仕事よりは気が楽です」
「ああ、すまなかったな」
「いえいえ、では失礼します」
(かつての恋人の死を、そんなこと…か)

ネオが退出すると、手元の資料を見ながら、再びマユの事を思う。ネオにははぐらかしたが、ジブリールは今回のマユの異変に心当たりがあった。
その資料は1人のパイロットの事を詳細に書かれていた。

「ミネルバ所属のインパルス……そのパイロットがシン・アスカとは」

マユがラクスの誘拐任務を実行していたのと同じ時間、少し離れた海で戦闘が起きていた。カーペンタリア攻略の連合艦隊と迎撃に出たザフト軍との戦い、連合は新型MAザムザザーを使用したのだが、たった一機のMSに全滅させられたのだ。
そのパイロットがマユの兄と聞いて詳細を調べたのだが、妹を含めた家族を全て失ったと思った彼は、最初は荒れ気味だったが、最近では友人もおり、軍人としても優秀で、とりわけ異常な性格では無かったはずだ。しかし……

「戦いぶりも脅威だが、最初に撃墜したザムザザーといい、その後も……」

シンは撃墜する際、ことさら相手を怯えさせる様な事を言っている事が通信記録に残っていたのだ。
まるで、マユを思わせる言動があり、これが本性かとも思ったが、マユ自体あんな性格になったのは、後天的なものだ。

「兄は妹が乗り移ったように凶暴になり、妹は普段は見られない甘さを見せたか……」

その後、ジブリールはMSを製作している工場に移動した。

「わざわざお越しいただき恐縮です」
「かまわん、それよりアレはどうなっている?」
「こちらです」

案内された先には建造中のMSが一台あった。マユが乗りたいと希望したMS……最初はフリーダムを希望し、それが無理だと知ると次に出たのがこの機体だった……それをただ再現するだけでなくセカンドシリーズから得た技術で強化させた機体だった。

「GAT-X131-2 カラミティMk-2です。カラミティの弱点の格闘戦を補うため、ソードカラミティと同様に2本の対艦刀を装備していますが、ソードカラミティと異なり、シュラークは付けてますし、スキュラの威力も以前の物より、パワーアップしています」

その外見はGAT-X131カラミティに比べ、腰に2本の対艦刀を取り付けるパーツが追加された以外は殆ど変わらない物だった。

「ただ、欠点として手持ちの武器が対艦刀以外の使用が……」
「武器の持ち替えが出来んのか?」
「いえ、全くではありません。腕の機動は問題無いのですから、ナイフや実弾兵器なら使えます。ただ元々燃費があまり良くありません……それでトーデスブロックとケーファー・ツヴァイは……」
「なるほど、燃費の悪さを改修するために武器を絞ったのか?」
「はい、その通りです」
「NJCの装備が上手く行けば良かったのだがな……」
「申し訳ありません」
「まあ良い、それより追加で依頼がしたい、この機体の外部マイクの使用と特別な機体以外との通信が出来ない様にしろ」
「は?」
「特別な機体とは所属する隊長機等だ。分かったな?」
「はい!それなら通信する側に別の通信機能を取り付ければ……」
「それで良い」

指示を終えると再びカラミティを見上げる。災厄を意味する名前を持つMS、かつてマユから全てを奪った事件の共犯者。今度はどのような災厄を撒き散らすのか…ジブリールは黙って見続けた。その心の内を誰にも見せないように。