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W-DESTINY_第10話2

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:56:14

JPジョーンズの指揮官ネオ・ロアノークはミネルバを補足するとスティングとアウルを呼び出した。
この位置ならカーペンタリアからの援軍が来る前に片付けられると判断していた。

「喜べ、お前ら……我等がザラ大使殿との面会の時間が近付いてきたぞ!」
「やっとかよ!待ちくたびれたぁ」
「その分、たっぷりと素敵なプレゼントを叩き込んでやらなくちゃな」
「気合入ってるね~お前ら……ところで何でステラがいる?」

ネオは呼んでいないステラがいることを問いただした。今回の行動では彼女の活躍の場は無かったからだ。

「……ステラも…あいさつに行く…おデコの広い人に」
「う~ん、大使は人気者だな……でもなステラ、お前はお留守番だ」
「……イヤ、ステラも行く……お留守番は嫌い」
「ステラ、今回は諦めろ。ネオも意地悪で言ってんじゃ無いだろ」
「……なんで?」
「だからさっきから言ってんだろ、ガイアは空飛べないし、泳げないじゃん」
「……う……」
「今回は海のど真ん中だから、ガイアは無理なんだ。分かってくれよ」
「……うん」

ネオは項垂れるステラの頭を撫でながら、今回の作戦の主役のアウルに向き直る。

「そういうわけだ。アウル…お前の出番だぞ」
「オ~ケェ~、ついでにミネルバのMSも全部潰してやるよ」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ。そいつ等は俺の獲物だ」
「良いじゃんよ、別に」
「お前ら、少しは俺の話聞こうという気にならないのか?」
「はぁ?話なんかあんの?」
「ああ、向うはミネルバ1隻って事だが、実際は潜水艦の護衛も付いてるはずだ」
「そりゃあ、そうだな」

ネオの言葉に納得したようにスティングが頷く。アスランは実質上の地上におけるプラントの総大将である。いかに本人の目的が戦う事で無いとは明言してても、それが建前で実際は各地での開放戦の支援だというのは明白だった。

「だから、アウルはそいつ等をやってからミネルバを落とせ、出来るだろ?」
「当然じゃん」

アウルは自信ありげに断言する。実際に自信があった。彼のMSアビスは水中戦用のMSで、おまけにPS装甲が装備されている。ビームの使えない水中でビームでしか破壊できない装甲、事実上無敵だと思える。
実際は通常弾でも何発も攻撃が当たればエネルギー切れでPSがダウンするので万全とは言えないが、要は当たらなければ良いのだとアウルは思っている。
今やアビスは完全にアウルの愛機と成っており、ザフトのMSの攻撃など易々とは当たらないはずだ。

「で、俺達は空から攻撃、ミネルバのMS部隊はこっちに来るぞ!」
「任せろ。カーペンタリア沖では、活躍したらしいが、ザコを幾らやったって俺の敵じゃねぇ」
「強気だねぇ……だが油断するなよ。あいつ等も今まで寝てた訳じゃ無いだろ?」
「だが、俺達だってそうだぜ」

そのスティングの様子を見てネオは苦笑する。スティングは気の強い男だった。普段はアウルとステラの兄の様に2人のフォローに回っているが、実際は誰よりも強くあろうと自分を鍛えている。
先のカーペンタリア沖の戦いでは、アウルがラクス誘拐の任務の支援を行ったため出番が無く、その間に因縁の敵のミネルバのMS隊、特に奪取しそこねたインパルスが活躍した事に、腹を立てていた。

「まあ気負うなよ2人とも、今回は相手の戦力を計る意味合いもあるんだ。無理する事は無い」
「分かってるって、だけど落としちゃうよ」
「だな、あんまりデカイ顔されても目障りだ」
「よし、そいじゃあ行きますかね。ステラ、留守番頼むぞ」
「うん、いってらっしゃい…スティングとアウルも…」
「良い子にしてろよ」
「そいじゃあねぇ~」

スティングはステラの頭を軽く撫で、アウルは手を振ると、ネオの後に付いてブリッジを出る。
ステラはそれを寂しそうに見守っていた。

「随分と爽やかですね……」
「そりゃあそうさ、やっとカーペンタリア基地から出港出来たんだ」

ジブラルタルへ向け出港したミネルバの甲板で、アスランが嬉しそうに歩いているのを見つけたシンは、呆れた様に声をかけた。
そのまま2人して海を眺める。

「シンとは、前もここで話したな……」
「ああ!…そう言えば、あの天使MS!どうなったんでしょうか!?」

シンは今まで忘れていた事を思い出す。ユニウス7を破壊したMS、明らかなオーバーテクノロジーの機体は、その後行方を眩ましたままだった。
シンとアスランが、こうして親密に話せる様になったのも、あの異質な姿を見た者同士になったからだ。
その前は、どちらかと言えば険悪な関係だったのだ。

「え、え~と……どうなったんだろうな?」

そして、アスランは今はそのMSの正体を知っている。その名はウイングガンダムゼロ、異世界のMSで、単機で複数を倒す事を前提に作られた機体。さらに彼の護衛であり、シンの上官を勤めるゼクス・マーキスのかつての愛機であり、同時に因縁の相手の愛機だった。

「どうって、もしアレが連合のだったら大変ですよ!俺達を襲ってくるのは連合の最精鋭ですよ!」
「それは無いさ、もしアレが連合のだったら核なんか使わない、アレを一機投入するだけで、この前のプラント攻めでケリが付いてたろ?」
「え?……なんでそう思うんです?」
「え?……」
「確かに攻撃力は凄かったけど、それだけで勝てるなんて……」
「あ!」

アスランは失言を悟った。アスランはゼロの正体を知っているから、あの機体にこちらの攻撃が通じない事も、そちらの常識では考えられない軽量ゆえの機動性も聞いているが、シンにとっては攻撃力の高い変なMSでしか無いのだ。

「……何か知ってます?」
「…イヤ!知らない!…そんな気がしたんだ。だいたい考えてみろ。あんな攻撃をするMSを常識で考えたらダメだろ!」

「そう言われれば……」
「だろ!それに……」

アスランは畳み掛ける様に、あのMSの非常識さを訴える。こんな場合は相手に呆れさせてマトモな思考を放棄させるのが1番良いと判断したからだ。

「……ホント…変なMSですよね……」
「分かってくれたか!」

アスランは、こうやって相手を丸め込んでる自分を見てると、特訓の成果が出ているのを感じた。
どのような状況でも、自分の意思を伝える。それがアスランに課せられた特訓だった。

(最初の実践をこんな形で行うなんて……)

思考するのを放棄して、ボーとしてるシンを見ながら自分に呆れる思いだった。

「あ!そうだ。俺アスランさんに聞きたい事があったんですよ」
「ん?なんだ?」
「隊長に乱戦の経験不足を指摘されたんですけど、アスランさんはヤキンで経験してますよね?」
「ああ、結構あるな」
「隊長って浮世離れしてる感じで、言ってることが分かり辛いんですけど、アスランさんは何に気を付けました?」
「そうだな……」

後輩に助言するため、アスランは自分の過去の戦いを思い出す。

「……あ~、基本的に俺達は連携が下手だった。お前たちと違って」
「は?」
「その……俺達って常に少数で多数を相手しなきゃいけないだろ?」
「ええ、人数が向うは多いですから、こっちは質でカバーですもんね」
「だから、取り合えず周りの敵を打ち落とす。そんな感じだったな」
「……え~と」
「連合から強奪した機体、ディアッカなんか支援砲撃用のMSだったのに敵に突っ込んでたし…」
「それ、ダメな人じゃないですか?」
「そうとも言うけど、そうでも無い」
「は?」

アスランは頭をかきながら苦笑する。

「実際にそれで生き残ってるからな、アイツは……一回敵に捕まったけど」
「え~と……」
「俺なんかが面倒見なくても大丈夫だった…てことさ」
「それって……」
「仲間を信じろよ。乱戦で下手に仲間を救おうと焦ったら、逆に味方に当たりかねない。ルナマリアはそれをやったんだろ?」
「そうですけど……」
「まあ、俺の行動は参考にならないけど…そう言えば1人凄い人を知っている」
「誰です?」
「ムウ・ラ・フラガ……俺達は4人でストライクを攻撃していた時、この人がストライクをカバーしていたんだ。空間認識能力に優れているから、周りの状況を捉えていてさ、フォローが上手いんだよ。
 でも、後で冷静になってみると、この人の凄さを理解できる様になるんだが、戦っている最中はストライクしか目に入っていなかった。何故か分かるか?」

ムウ・ラ・フラガの名はシンも知っていた。ナチュラルのMA乗りでありながら、ザフトのMSパイロットと互角以上に戦った人物で、後にストライクに乗り、ヤキン・ドゥーエの戦いで最後は戦死した人物だ。

「え~と、その人ってエンデュミオンの鷹ですよね……だったらMAに乗ってたし、脅威と思えなかったとか?」
「半分正解かな、もう半分は行動が目立たないんだよ。無理して攻撃してこないし、実際にストライクの方が強いからな。だから最初にこの人を落としていれば、その後のストライクを落としやすかったんだろうな……」
「つまり、闇雲に敵を落とすより、落とす順番を考えろと?」
「そう取っても良い…それと、無理にフォローせずに、ある程度は仲間の腕を信じろ。ルナマリアだって、お前やレイには劣ると言っても、彼女を落とせる連合のパイロットは、そう多くはいない。ましてや、あっさりとやられる女じゃ無いだろ」
「なるほど……それにしても…」
「ん?」
「やっぱり戦闘の事は凄いですね。それに生き生きしてる」
「え?…そうか……」
「はい、なんだ…」

言いかけたシンを遮る様に警報が鳴り響く。続いてメイリンの放送がシンに事態の急を告げた。

『コンディションレッド、コンディションレッド!連合軍空母が一隻接近中、各員戦闘配置へ!』

「空母!?…アスランさん!」
「分かってる。俺は部屋へ戻るから、後は頼むぞ」
「はい!」

シンは返事をすると、途中で合流したレイと話しながら愛機の元へ駆けつける。

「空母って詳細は?」
「分からん、MSに乗り込んでから指示を待つ」
「了解」

レイとハンガーで別れると、コアスプレンダーに乗り込み計器をチェックする。そして終了すると同時にメイリンの報告が入ってくる。

『空母よりMSの発進を確認、機体の種類はウィンダム9機……それとカオスです!」
「―!」
「……来たか」

シンの背に緊張が奔る。想定していたとはいえ、やはり強敵の襲撃に身が引き締まった。

「隊長……アビスの警戒を呼びかけましょう」
「そうだな、メイリン!特務隊ゼクス・マーキスの名で護衛の潜水艦に通達、アビスも来る可能性が高い。厳重に警戒をさせろ。ついでにミネルバ所属レイ・ザ・バレルの指揮に従えとな!」
『え!……りょ、了解です』
「隊長……」
「やれ!私にはカオスを任せるのだろ」
「はい!」
「……ところで、俺がアビスに当たるんじゃ?」
「……レイ、シンが質問してるぞ」
「あ!ま、まずはアッシュに任せる。彼等にも面子があるからな…もっとも本当に落としてくれるか、ダメでも足止めくらいは期待したい……だが、無理と判断したら、すぐに水中へ行ってもらう、だからその間にお前は出来るだけウィンダムを落とせ」
「了解!」
「メイリンは聞いての通りだ。シンがフォースで出たら、すぐにソードシルエットとバズーカーの射出準備をしておいてくれ」
『了解!』

シンにとって、レイが指示するのは嬉しいが弱冠の硬さが感じられるのが気になった。おそらく相手の強さを感じ取っているのだろうと心配する。
それにシンも緊張していた。いや恐怖していた。

「では、隊長として一言だけ貴様等に言っておく。敵はカオスがいる……」
「はい」
「強敵ですね」
「そうだ。しかし今回カオスが来たという事は、奴が連合トップの実力者という証拠だ。よって奴等相手のシュミレーションをしてきた貴様等は充分に対応出来る。自信を持て!」
「「「了解!」」」

シンは緊張が解れるのを感じた。そして自分の恐怖の正体を悟る。シンはあの天使型のMSが連合のMSとの可能性をまだ捨ててなかったのだ。
そして、もしアレが出てきたらと恐れていたのだった。だが、その可能性は無くなったと言える。

『シルエットハンガー1号を開放します。フォースシルエットスタンバイ、シルエットフライヤーを中央カタパルトにセットします。気密シャッター閉鎖、非常要員は待機してください。中央カタパルトオンライン、発進位置にリフトアップします。コアスプレンダー全システムオンライン、発進待機願います。
 ザク、レイ・ザ・バレル機発進スタンバイ、全システムオンライン。発進シークエンスを開始します。
 ルナマリア機発進スタンバイ。ウィザードは両機ともガナーを装備します。
 セイバー、ゼクス機、発進スタンバイ。全システムオンラインを確認しました。気密シャッターを閉鎖します。カタパルトスタンバイ確認』

メイリンの声に反応し各自発進体制を整え、順次出撃する。

『射出システムのエンゲージを確認。カタパルト推力正常。進路クリアー。コアスプレンダー発進、どうぞ!』
「シン・アスカ、コアスプレンダー行きます!」
「レイ・ザ・バレル、ザク、発進する!」
「ルナマリア・ホーク、ザク、出るわよ!」
「ゼクス・マーキス、セイバー、出るぞ!」

前をセイバー、後ろにインパルス、その両脇をグゥルに乗ったザクが並び、飛行して距離を縮める。

「敵が射程に入ると同時に、セイバーのアムフォルタスとザクのオルトロスを同時に放つ!」
「了解!」
「射撃後はインパルスが前衛に!」
「了解!」

そして、敵機が射程に入ると一斉にそれぞれの長距離砲を放つ。

「いけ!」

4本の巨大なビーム光が連合のMS部隊に向かうが、相手はそれらを全て交わして前進してきた。

「全部かわすなんてね……」
「覚悟はしていたが……シン!前を頼むぞ。見ての通り、今までの敵とは違うから気を付けろ!」
「分かってる!」

シンはインパルスのスラスターを全開にして前へ出る。すると、それを狙っていたかの様にカオスが単独で突進してきた。

「カオスか!」
「今度こそ決着付けようぜ!」

カオスはビームライフルを乱射しながら、接近してくるが、インパルスは左に向きを変え、カオスと距離を取ろうとする。

「逃がすかよ!」

スティングはインパルスを落とすべく追撃を試みるが、突然の横合いからの攻撃に慌てて機体を回避させた。

「何ぃ!?」
「アレを避けたか…脇が開いたと思ったんだが……良い腕だカオスのパイロット!」
「新型か!」

スティングは見慣れないMAに標的を変えライフルを撃つ。そして、見事にかわして行くMAを見ながら、その性能を把握していく。

「……その形状…こっちと同じくMSに変わりそうだな……だったら!」

カオスをMA形態にすると、カリドゥス改複相ビーム砲を放つ。避けられるが関係無い、これは相手に接近戦をさせるための呼び水だ。

「どうした!どうした!近づけないのかよ!」
「そんなに接近戦が望みなら!」

ゼクスは機首の向きを変えると、カオスに急速に接近する。そしてカオスも迎え撃つ様にMS形態に戻るとビームサーベルを抜いた。

「さぁあ!来いよっ!新型ァァァ!」
「いいだろう!」

ゼクスも直前でMS形態になるとビームサーベルを抜き、そのままの勢いで斬りかかる。

予定通りゼクスがカオスを引き付けている間に、シンたちはウィンダムを落としに掛かるが、相手の実力は高く、思ったようには行かないでいた。

「ちょろちょろと!コイツ等ぁ!」

シンが苛立ちの声を上げながらビームライフルを撃つが、ウィンダムは高速で回避し、的を絞らせてくれなかった。
その時、ルナのオルトロスを避けてバランスを崩したウィンダムが目に止まり攻撃を仕掛けるが…

「また、コイツかよ!」

…タイミング良く、色違いのウィンダムの牽制の攻撃を受け、落としそこなっていた。
先程からこうして、落とせそうなチャンスが来ても、この隊長機と思える機体の牽制で全て潰されていた。

「さっきから、コイツは……あっ!」

紫にカラーリングされたウィンダムを睨んだ時、以前戦ったガンバレル装備のMAを思い出した。
そして同時に、出撃前に交わしたアスランとの会話を思い出す。

「レイ!あの隊長機、アイツだ!…以前アーモリーワンで襲ってきたガンバレルを使う奴!」
「何?……(そうか、この感じ)」
「アイツの空間認識能力だ!その所為でこっちの…いや、全体の動きを把握している!」
「それでか……ルナマリア!お前はあの隊長機を狙え!無理して当てなくても良いから、絶対に休ませるな!」
「オーケェっと!」

ルナマリアのオルトロスが連続で襲ってきてネオは動揺した。

「何、考えてんだコイツ?そんな適当に撃ったら当たるわけ…―!」

ネオはルナのザクに意識を集中してる間に、後方でウィンダムが落とされたのを感じた。

「……なるほど…やるもんだ。各機!悪いが一々面倒を見ていられなくなった!各自で対応してくれ!
 ただ、無理して攻撃する必要は無い。以上!……さて…」

ネオは指示を終えるとルナマリアをターゲットに定める。

「…そんな重いもの背負っていたら、近付かれたとき困るだろ!」

急速に距離を縮めるネオのウィンダムを見ながら、ルナマリアはオルトロスを収納し、ビーム突撃銃を構えて放つ。

「こっちだって、対応済みなのよ!」
「ルナマリア!…シン援護に…」
「ルナを信じろ!やれるなルナ!」
「当然!…私が引き付けるから、さっさと他の奴を!」
「……分かった!シン!多少強引でも構わん!行くぞ!」

レイは、そう叫ぶとビーム突撃銃とビームトマホークを構え、敵の真ん中へ突進して行った。

「クッ!…ホントにやるねぇ~こいつ等」

ネオの表情に焦りが浮かぶ。すでにウィンダムは4機落とされている。それに比べ自分は赤いザクを落とせずにいるのだ。
このままでは自分が落とす前に味方のウィンダムが全滅してしまう。

「アウル!どうしてる!?」

丁度その時、ミネルバの船体に激しい衝撃を加えられ、タリアが確認を取っていた。

「メイリン!被害を報告!」
「水中からの魚雷です!すでにアッシュは5機撃沈、残りは3機しかいません!」
「何、やってるのよ!……仕方ないわね!シンを呼び戻して!」
「了解です!こちらミネルバ!シン…」

シンが5機目のウィンダムを落としたとき、メイリンからの連絡が入った。

「クソッ!…レイ?」
「シンは戻れ!最初の予定通りだ。俺はルナマリアと合流する。アイツも限界だ」
「分かった!ここは任せる」

シンはこの場を離脱し、ミネルバまで戻るとメイリンに通信する。

「メイリン、予定通りソードとバズーカーを…それとデュートリオンビーム」
「了解、デュートリオンビーム照射。続けてソードシルエット発進どうぞ!」

インパルスはデュートリオンビームを受けながら、シルエットをソードに換装した。そしてエネルギーの回復を確認すると、バズーカーを受け取り水中へと潜った。

「アビスは?……あそこか」

アビスは海中を自由自在に動き回り、周りのアッシュを完全に翻弄していた。

「マジで強そうだな……クソッ!やるしかないか!」

シンはアビスを狙いバズーカのトリガーを引く。だがアビスは簡単に避けると、進路をインパルスに変え魚雷を撃ちながら接近してきた。

「何?僕とやろうっていうの?」

魚雷は何とか避けたが、擦れ違い様にM68連装砲が放たれ、インパルスに命中した。

「ぐあっ!…この野郎ぉ!!」

コクピットを襲う振動を歯を食いしばって耐え、再びバズーカーを放つ。立て続けに4発撃って、当たったのは1発だけだった。
しかし、それでも被弾させたのは間違い無い、気を取り直して再度アビスと対峙した。

「向うにだって、水中じゃ一発でインパルスを落とせる武器は無いんだ。やれる!」
「ちょっと当たったくらいでさ!」

接近するアビスにバズーカーを打ち込むが、今度は弾丸を避けずに近付き直前でMS形態に変形するとビームランスを突きつけてきた。

「接近戦をしてくれるなら!」

シンも対艦刀を抜いて対応し、ビームランスを弾いた。その勢いにアビスが体勢を崩し横に流される。

「甘いね」
「なっ!?」

対艦刀の斬撃にバランスを崩したと思ったのだが、左肩のシールドの先端、M68連装砲の銃口がインパルスに向けられている事に気付いた。

「しまっ…―!」

反応しようにも、すでに手遅れで、連装砲の連射を喰らってしまっていた。
シンは完全にアビスに押されっぱなしになっていた。こちらの攻撃も当たりはするが、それを遥かに上回る攻撃を受けている。そして、衝撃は歯を食いしばって耐えれるが、バッテリーの残量が目に見えて
減っていくのを焦りの目で見つめていた。

「そろそろヤバイか……メイリン!レイに伝えてくれ、そろそろバッテリーがヤバイ!」
『了解!』

シンはメイリンからの連絡まで、バッテリーの消費を抑えるべく、防御に徹し時間を稼ぐことにした。

「急に大人しくなって何だよコイツ?びびったの?」

一向に攻撃してこないインパルスに向け挑発的な笑みを浮かべながら、アウルはビームランスを叩きつけた。インパルスは対艦刀を構えて防御するが、アビスの猛攻は一向に収まらない。

「―クッ!……メイリン、まだか?」
『シン!今からアッシュが牽制をかけるから、その間に浮上して!』
「分かった!」

アウルは今まで大人しく下がっていたアッシュが突然攻撃してきた事に、一瞬だけ驚いたが、すぐに気を取り直し、反撃に移る。

「何だよ?死にたいの?……だったらさ!」

アビスをMA形態に変形させるとアッシュに向かう。だがアッシュはアビスが近付いてくると途端に逃げ始めた。

「は?…何なんだよ、コイツ等?……ん?」

そして、インパルスが海面で停止しているのに気付く。逃げるだけのアッシュよりインパルスを落とそうと向きを変えると、またアッシュが攻撃してきた。

「あ~ぁ!もう!鬱陶しいっ!」

毒づきながらアッシュを攻撃するが、相手は攻撃する意思が稀薄なため、すぐに下がって行った。

「上手くやってるな……こっちは?」

デュートリオンビームの照射を受けるシンは、牽制に徹するアッシュを見ながら、バッテリーのゲージを見守る。
アッシュの動きはレイの指示だった。インパルスのバッテリーが回復するまでの時間稼ぎ。アスランの護衛に選ばれた程のパイロットだからプライドも有るだろう。しかし今はアビスの性能を認め、無理をしてこなかった。

「辛いだろうな……アンタ等の無念、俺が晴らす!メイリン、バズーカ射出!」

バッテリーの回復を確認すると、残弾の少ないバズーカーをミネルバに引っ掛け新しいバスーカーを受け取り、再び海中に潜った。

「さあ、第2ラウンドの開始だ!」

シンは叫びながらバズーカーをアビスに向けトリガーを引いた。

「この野郎!」
「まさか、これ程とは……私の見積もりが甘かったか」

ゼクスはカオスを押してはいたが、決定打を当てられずに苦戦していた。強奪された後からユニウス7破砕作業中までの戦闘記録を見ていたが、あの頃に比べ、かなり腕を上げている事が分かった。

「今の内に倒しておきたい相手だが……チッ!」

指揮官機、ネオのウィンダムの攻撃を避ける。シンが下がってからは再びネオが支援の上手さを発揮し、こちらのチャンスを潰していく。
先程まで1人で抑えていたルナマリア機はダメージを負っていて、レイの支援に回っていた。

「ここは少し無茶をするか」

ゼクスはセイバーをMAに変形させると、カオスを置き去りにして、別のウィンダムに突進していった。

「逃がすかよ!」

スティングが慌てて追うが加速性がセイバーに劣るため離されていく。さらに射撃を加えようにも射線の先には味方機がいるので撃つことも出来なかった。

「なっ!」

突っ込んでくるセイバーに気付いたウィンダムのパイロットはビームライフルで迎撃を試みるが、セイバーは回避しながら接近し、そのままの加速でMS形態に戻ると、盾を構えビームを弾きながら体当たりを加えた。

「ぬおぉぉぉぉぉ!!!」

ゼクスは気合を入れて衝撃に耐えながら、その反動を使い指揮官機…ネオの元へ機体を向ける。

「殺らせてもらう!」
「正気か!?―このパイロット!」

ネオ機に向けて、セイバーがビームサーベルを振るった。ネオは常識はずれな動きをするセイバーに戸惑いながらも、何とか下がって致命傷を避けるが、右腕を失ってしまった。

「まだだ!」
「チッ!」
「させるかぁ!」

ゼクスが2撃目を加えようとしたところで、スティングのカオスがビームライフルを放ち、ゼクスとネオの間に割って入る。

「カオス!」
「テメェ―!俺を無視してんじゃねぇよ!」
「スティング!そいつを頼む!」

ネオは危機を逃れ、気を落ち着けながら戦場を見回したが…

「あらら~~……もしかするとヤバイ?」

すでに戦場にはネオとスティング以外、ウィンダムは3機しか残っておらず、その内1機もレイとルナマリアに追われ絶体絶命だった。

「アウル!そっちはどうだ?」

レイとルナに牽制をかけながら、アウルに通信を入れる。

「うるせえよ!ボケェ!邪魔すんなよ!…チクショー何だよ?コイツ」

その頃アウルもインパルス相手に辟易していた。明らかに自分の方が優勢だし、すでにPSダウンを起こしても当然なほど砲撃を加えている。しかしインパルスは未だに健在だった。

「変だよコイツ……」

ネオは通信からアウルも上手く行っていない事を悟ると撤退を決断する。

「よし、今日のところは帰え…って、全機撤退!アウル、スティング帰るぞ!」

レイの砲撃でウィンダムが落ちたのを見て、ネオが慌てて撤退を促す。

「クソッ!…憶えてろよ赤いの!」
「ああムカツク!」

退却を始めるカオスを見ながら、ゼクスはセイバーのバッテリーの残量を確認して追撃を諦めた。おそらくレイも同意見なのか、追う気配を見せない。

「隊長、追撃したいところですがバッテリーが…」
「ああ、私も同じだ。ルナマリアは?」
「え?…あ、ハイ!こちらもです」
「……そうか、全機!ミネルバに戻るぞ」
「「了解!」」
「シン!聞こえたか?」
「聞こえてます。これよりミネルバに帰還します」

シンは苛立たしげな気分を抑え返事した。正直アビスの相手はウンザリしていた。

母艦に戻りながらネオは、予想以上の実力を持ったミネルバのMS部隊をどうするかで頭を抱えていた。
今回は連合から選りすぐりのパイロットを集めながら勝てなかったのだ。次は今回より質の低い部隊で戦わざるをえない。
やはりアビスに期待するしか無いが、それにはインパルスが邪魔だった。

「アウルの話からすると奴は着艦せずともバッテリーを回復する手段があるようだな」
「は?何だよ、それ?」
「お前らの機体にも何か、通常パターン以外のバッテリーの補充方法があるらしいんだ。俺には詳しく分からん。そのシステムも現状では使えないから気にするなって言われてるだけだからな」
「使えねぇ奴」
「そう言うなよ……でも対策は思いついたぞ」

ネオはインパルスさえ落とせば、アビスを邪魔できる敵はいないと踏んでいた。新型は明らかに空戦タイプだし、水中では武装を変えても機体のデザインから水中での抵抗は大きいだろう。おそらくインパルスに劣ると思える。
それにもし新型が水中に行っも、カオスがフリーになれる。

「今度はどうすんだよ?」
「要は母艦から引き離せば良いのさ。ついでに次はステラにも手伝って貰おう」
「ん?何すんだ?」
「戻ったら説明する。ステラも交えてな」

ネオは頭に、この辺りの地図を描く、そして開発中の前線基地の存在を思い出し、そこで戦おうと決めていた。

「まあ、作戦があるならいいや、それにステラも仲間に入れてあげないと可愛そうだしね」
「そういう事。スティングも分かったか?」
「……ああ」
「……ご機嫌斜めだね」
「あの新型……次は絶対に落としてやる」
「期待はするが……無茶はするなよ」

スティングの苛立ちが通信機ごしに伝わってくる気がした。

「結局、カオスもアビスも落とせませんでしたね……」

ゼクスはミネルバに着艦し、セイバーを降りるとレイに声を掛けられた。その表情は軽く沈んでいる。

「そうだな……すまなかったな任されたというのに」
「いえ、そんな!」
「言い訳がましいが、強かったよ。あのパイロット……シンと互角かそれ以上だろう」

そう言うとセイバーを見上げる。エピオンとは言わない、せめてトールギスだったらと思う。だが、それは相手も同じだ。逆に空中ではカオスよりセイバーの方が優れているのだ。不慣れな操作系や機体の特色の違いを言い訳にはしたくなかった。

(もっとこの世界の機体に慣れんと、これからが厳しいな……)

機体を壊さない様に、抑えて動かしていたが、それではカオスに勝てないだろう。だからと言って最後のような無理矢理な挙動を連続でさせると機体が持たなくなってしまう。ここはプラント本国でも基地でも無いのだ。壊れたからといって、すぐに新しい機体を持ってきてはくれない。
考え込んでいるとレイは自分の言葉を嫌味と捉えて落ち込んでると感違いしたのか、声を掛ける。

「正直、私もカオスがあれだけ強いとは思っていませんでした。それに隊長はカオスを相手にしながら私達の事も見てましたし……」
「一応は隊長だからな……それにしても今回の指揮は良かったな。ルナマリアの限界も見極めていたようだしな」
「それは……申し訳ありません……」
「ん?何がだ?」
「以前隊長に言われた仲間を死なせる覚悟……俺には難しいです」
「……そんな事か、すぐに出来ると思わんさ、それに死なせない努力をするのは当たり前だとも言ったはずだ。今回の貴様の動きは間違っていない」
「はい」
「それに私達の任務はザラ大使の護衛だ。ザラ大使が無事なら私達の勝ちだ」
「そうですね」
「さてと……私はこれから補充の件も含めて艦長と話し合ってくる。このまま進むのは危険だからな。
 貴様は2人のケアを頼む。シンはストレスが溜まってるだろうし、ルナマリアは自分より強いパイロットを1人で引き付けていたのだ。かなり参っているだろう」
「了解です」
「その後はゆっくりと休め、以上だ」

ルナマリアはMSから降りると、その場にへたり込んでいた。ホッとした途端、急に恐怖感が襲ってきたのだ。敵の隊長機は自分より強かった。その相手を懸命に引き付けた結果、何度も死ぬかと思った。

「ルナ、大丈夫か?」
「……シン…」

シンを見ると体が疼くのを感じた。ルナは、死の恐怖に襲われた者は子孫を残そうと体が反応し、簡単に欲情するという話を思い出した。実際、軍ではその手の行動に寛容だった。自分とシンがそんな関係になっても咎められる事は無いだろう。

「何か、顔が赤いぞ?本当に大丈夫かよ?」
「な、何でも無い!」

このまま抱きつきたい気分を抑えて、慌てて返事をする。ルナはシンが好きだったが、だからと言って簡単に関係を持つ事が出来ない理由があった。
プラントでは婚姻統制をしている。コーディネーターにとって恋愛と結婚は別のものだった。いくら相手の事が好きで結ばれても子供を作れるケースは稀で、ほとんどは遺伝子を操作した代償か子供が生まれないのだ。
だからコーディネーターにとって好きになった相手と子供が出来るかどうかは最大の関心事の1つだし、それで付き合ってもいないのに調べたがる人間は後を絶たない。
ルナもメイリンに頼み、シンとの相性を調べた結果、2人は稀なケースだと分かったのだ。あの時の嬉しさは今でも忘れられない。
だが逆に、恋愛だけや肉体だけの割り切った付き合いは出来ないのだ。

「そうか?……何か様子が変だし無理はするなよ」
「……そ、そうね……うん」

ルナはシンの様子を見て溜息をつく。多くの恋人達は遺伝子の壁に苦しむが、ルナの最大の敵は運命の人の鈍感さだった。ろくに恋愛経験も無いのに、この鈍感な人間相手に失敗の許されない戦い。それに比べれば連合のエースとの戦いなど軽いものだと気を取り直し立ち上がる。まだ恐怖感が消えずに足が震えるが、それを悟られないように我慢した。ちょうどその時、ゼクスと話し終えたレイが来た。

「2人とも大丈夫か?」
「俺は怪我は無いけど……アビスがむかつく」
「大変だったろうな……ルナは?」
「私は大丈夫…そうだ!シャワーを浴びたら食堂に集合!皆でシンの愚痴に付き合おう!」

体は疲れていたし、シンの愚痴を聞くというのも建前だ。ただ自分の中の恐怖感が消えるまでシンには近くにいて欲しい、ルナは2人の背中を叩くと震える足を抑えながらシャワールームへ向かった。

「強いな……ルナマリアは」
「ん?……そうだな」

シンはレイの言葉に良く分からないが反応する。実際にルナマリアは強い女性だと思っている。

「なあ、隊長でもカオスを落とせなかったのかよ?」
「ああ、俺たちが思っていた以上に強くなっている。アビスはどうだった?」
「こっちも…水中でこっちの動きが鈍かったってのも有るけど、俺が1発当てたら向うは3倍以上は当ててきた」
「そうか……おまけにガイアが残ってるしな、あの3機と例の隊長機がまとめて来たら厳しいな」

レイは敵の戦力とミネルバの戦力を比較すると、自分が敵の隊長と互角、ゼクスとシンはカオスとアビスと互角だと思っている。その事をシンに話すと…

「隊長はカオスに優勢だったんだろ?」
「そうなんだが、それでも簡単には勝たせてもらえんだろう。その間にルナがガイアを抑えられるか」
「ガイアの実力か……どんなパイロットかな?」
「……少なくとも前に戦った時は、カオスやアビスのパイロットと同レベルの腕だったな」

過去の戦いを思い出し、他の2機のパイロットと同様に強くなっている場合、こちらの不利を感じた。

「でも悩んでたって仕方ないさ、大体ガイアが出てくるとしたら、アビスも地上で戦うんだろ?」
「そうか……アビスは地上では支援用の機体か……」
「水中と違って動きは鈍くなるはずだし、地上で1対1なら、それほど怖い敵じゃ無いだろ?」
「……だが、甘く見ると痛い目に合うぞ」
「それは分かってるって、でも難しく考えすぎるのもマズイだろ?」
「そうだな……だがマズイと言えば……」
「ん?」
「早くシャワーを浴びて、食堂に急がなければルナマリアを待たせてしまう……」
「ゲッ!?……怒ってたりして……」
「急ぐぞ!」
「おう!」

ルナマリアを怒らせる方が敵のパイロットより恐ろしい……そう思いながらシンはシャワールームへ走った。