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W-DESTINY_第12話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:57:10

アスランは島の代表との会談を終え、ゼクスと共に車に乗り込んだ。

「ご苦労様です」
「ああ~疲れたぁ~」

アスランは脱力してシートに倒れこむ。体力的には平気だが、やはり慣れない事をすると精神的に疲れるものがあった。
おまけに今回の件は不測の事態なのだ。準備も何もしていなかった。

「大したものですよ。最初の仕事が不測の事態で有りながら、ここまで上手く纏めたのですから」
「いや、状況に恵まれただけだよ」

アスランは謙遜で無く、本気でそう思っていた。
この基地が完成したら、カーペンタリアの目の前に敵の前線基地が出来るのだから、ザフトとしても本腰を上げて防がなくてはならない。
さらに連合軍は完成を急ぐあまり、必要以上に島の住民を酷使していたのだ。
よって、島の住民の反連合の感情とザフトの利益が上手く重なった状況だった。

「ところでシンの事ですが……」
「ああ、やはり気になっていたか、実は……」

アスランは車の防音システムを確かめ、この会話が2人以外に聞こえない事を確認すると、まずシンの境遇を語りだした。

「……なるほど家族を」
「実は俺もゼクスに相談したかったんだ。貴方はシンと近い気がする。
 戦争で家族を失った事、さらに故郷も失っている。妹さんの生死の違いがあるが……」
「貴方が相談したい内容というのは、シンがオーブを憎む理由でしょうか?」
「……ああ、身勝手な感情とは思うが、ずっと気になっていた」
「私には分かる気がします……シンが憎んでいるのはオーブという国では無いでしょう」
「だったら……」
「シンが憎悪しているのは……オーブの理念、というよりそれを信じた過去の自分自身です」
「過去の自分自身?」
「ミネルバに戻ったら、シンと話したいと思います」
「……ああ、よろしく頼む」

ミネルバの甲板に座り、シンはアスランの帰りを、ずっと待っていた。
後ろから、その姿を見つめるルナマリアは、その姿が親の帰りを待つ子供のように見えて、母性本能を刺激されていた。

(くっ!可愛い!このまま部屋に飾っておきたい!)
「ん?何か言ったか?」
「な、何も!」

少し声に出ていたらしい事に気付いて焦ったが、シンは気にした様子も無く、再びアスランの戻ってくる方向を見つめる。
ルナマリアは気を取り直して、シンを慰めようと声を掛ける。

「シン、あまり気にしたらダメよ」
「……でも、隊長の言った事は事実だよ。俺があっちに逃げなければ、あの人達は死なずに済んだんだ」
「でも、ワザとやったんじゃ…」
「アイツも、そうなんだろうな」
「うっ……」

シンが最初に憶えた…いや、脳裏に刷り込まれたMSが2機ある。
フリーダム……ラクス・クラインの元で戦い戦争を終結に導いた最強のMSカラミティ……連合が開発し、多くのザフト兵の命を奪った大量の火気を持つ攻撃的なMSその2機の争いに巻き込まれて、シンの家族は死んだ。その瞬間を見た訳では無かったが、ザフト軍に入り、アカデミーでMSの事を習っている時に気付いた。フリーダムは飛行できカラミティは出来ない。
だったらシンの家族を撃ったのが、どちらかはバカでも分かる事だ。

「アイツは一応はオーブを守ろうとしていた。その結果がコレさ」
「……うん」
「アイツは許せないと思っていた。フリーダムのパイロットは正規の軍人じゃ無かったらしい。
 だから、あんな避難民を収容しようとしてる場所で平気で撃ち合っていたんだ。無茶苦茶だよ」

シンの家族が撃たれたのは、避難してくる人を収容している船の目の前だった。
本来ならその様な場所に近付いたら、敵が避難民を直接攻撃でもしない限り、離れるのが普通だ。
そして、国はその様な場所での戦闘を避けるように指示をする義務がある。当然オーブ軍はその指示を受けていただろうし、現にシンの家族が撃たれた時は、正規のオーブ軍のMSはいなかった。

「だが、アイツは正規の軍人でも無いのに、身勝手な正義感を振り回して、文字通り『自由』に暴れまわった!そして俺の家族を撃った!」

シンはルナマリアに背中を向けたまま、なお怒りの思いをぶちまける。

「それで、何処が違う!俺が今回やった事と!しかも俺は軍人だぞ!知らなかったじゃ済まされない!」
「それは……」
「俺が殺したも同然だ…―!」

ルナは膝を付き、背後からシンを抱きしめた。そのまま、あやすようにシンの頭を撫でる。

「シン、あまり自分を責めないで」
「ルナ?……うん…でも」
「反省してるんでしょ?」
「そうだけど……」
「過去は取り戻せない、やってしまった事は反省して、2度と繰り返さないようにする」
「……そんな都合良く……」
「するの!」
「うっ…うん」
「よし!良い子だ」

ルナマリアも、そんなのは気休めに過ぎない事は充分承知の上だ。
しかし、シンがいくら苦しんでも、現状は何も変わらないのも、また事実なのだ。
そして、自分に出来る事も限られている。人は無力であり、何でも思い通りに行く神様では無いのだから、だからこそ人は、自分に出来る限りの事をしなければならないとルナマリアは思ってる。

「ねえ、シン」
「ん?」
「私に出来ることがあれば言ってね。シンの頼みなら何でもするから」
「ルナ……」
「シン…私、本気だから……」
「……え~と……あ!アスランさん!」
「あぇっ!」

シンはアスランの乗る車が見えると、いきなり立ち上がり、後ろから抱き付いていたルナマリアが倒れたのにも気付かず、デッキの方へと走っていった。
ルナマリアは倒れたままワナワナと震えながら呟く。

「ハゲに負けた……更にまたもや邪魔された……」

シンがデッキに辿り着くと、最初からそこにいたレイが声をかけてきた。

「シン、アスランさんが戻ってきたのか?」
「ああ、もうすぐ来るはずだ」
「そうか……」

レイは内心、シンにはここにいて欲しく無かった。アスランが戻ってくるという事はゼクスも一緒だろう。
ゼクスにはシンの事を説明しておきたかったのだ。
レイは今回の件はゼクスが正しいとは思っているが、それでも言い方がきつ過ぎる。
少なくともシンの生い立ちを知っていれば、あんな言い方はしないはずだ。
だからこそ、シンと会う前に先に説明しようと待っていたのだが、このままでは直接会って、また説教が始るかもしれなかった。
だからといって、シンに下がれとも言えない。今のシンが、どれ程アスランの成果を聞きたがっているか分かるからだ。
そして、迷っている内にアスランの乗った車が戻り、中からアスランとゼクスが降りてきた。

「アスランさん!」
「シンか、大丈夫。上手くいったぞ」

アスランが笑いながら成果を伝える。シンは、それを聞き安堵で涙を零しそうになっていた。

「シン、それとだ。島の住民が、助けてくれたMSのパイロットに礼を伝えておいて欲しいとさ」
「え?……それって……」
「お前の事だよ。よくやったな」
「……う……う……」

シンがなんとか涙を流すのを堪えていると、ゼクスの鉄のような声がかかる。

「シン、私について来い」
「あ、……はい」
「隊長!シンは充分に反省してます!だから…」
「そんなものは顔を見れば分かる。いいから来い」

レイが慌てて止めるが、ゼクスは聞く気配が無い。さらに言い募ろうとすると、アスランが肩に手を置きそれを遮った。

「アスランさん」
「大丈夫だよ。ゼクスに任せろ」

アスランは笑いながら、そう言うが、レイは心配だった。
シンは黙ってゼクスに付いて行っているが、あまりにも元気が無い。おそらくゼクスの顔を見た事で、自分の過ちを再確認したのだろう。

「ですが!」
「お前だって分かってるだろ?このままじゃ、シンがダメになるって事は」
「…………はい」
「ゼクスなら大丈夫さ、おそらく彼が1番シンの気持を理解できる」
「え?」
「彼は、お前が思ってるより、遥かに色んな経験をしている。俺なんかより、ずっとな」

レイには、アスランの言葉が正しいと思えた。ゼクスは人間としての重みが自分の知っている者の中でも群を抜いて高い。レイの最も敬愛するデュランダルよりもだ。
あの若さで、一体どんな人生を送れば、ああ成れるのかレイには疑問だった。

「分かりました。たしかに俺には無理ですから……」
「俺もだよ。情けないが、今シンを救えるのは彼だけだ」

アスランは寂しそうに笑う。だが、同時に仕方ないとも思う。ゼクスに比べれば自分の経験など、本当に子供だと分かるのだ。
レイと違い、ゼクスの人生を知っている分、余計にそう思える。
だからシンの事は、ゼクスに任せれば良いと安心していた。
そして、今は別の不安を片付けようと判断する。

「なあ、ルナ……何で、さっきから俺を睨んでいる?」
「……べ・つ・に~~」
「いや……睨んでるって、怖いんだよ!」
「………凄いですね~流石はザラ大使ですこと」
(……………………なあ…俺、何かしたか?)
(あの状態のルナマリアと目を合わせてはダメです。スルーして下さい)
(わ、わかった……)

シンはゼクスに付いて行き、彼の部屋に案内された。
ゼクスの部屋は、隊長としての職務やアスランの政務の手伝いをしてるため、テーブルが在り、シンは、そのテーブルを挟んで、ゼクスの向かい側に座らされた。

「さてと、貴様の過去をザラ大使に聞いた」
「あ……はい」
「私の言葉が貴様の古傷を傷つけたのは判った……それで今後、私は改めるべきなのかな?」
「……いえ……隊長の言った事は間違っていません……それに…」
「もう良い。充分に反省している様だし、私も部下の事を把握していなかった責任がある。
 忙しかった等、言い訳はしない。すまなかったな。以後は気をつける」
「いえ!……そんな事…無いです…俺のほうこそ…」
「その件はお互いに終わりにしよう。それで良いか?」
「はい!」
「よし……それで、今日はザラ大使からで無く、貴様から直接聞きたい事があってな」
「何でしょう?」
「……貴様、妹に何を言った?」
「え?」
「大方、オーブは中立国だから、戦争は無いとでも言ったのだろう?」
「―っ!」

シンは青ざめて絶句した。その姿を見たゼクスは溜息を付く。

「やはりな……それにしても同じだな」
「え?……何がですか?」
「私の過去とだ。私の家族構成も両親と妹だ……そして、戦争で両親と国を失っている」
「え!?」
「貴様と違って妹は生きてるがな」
「あ……そうですか……」

シンは、それを聞き、微かな嫉妬をしている事を自覚していた。
シンにとって、両親の死もショックだが、やはり自分より若い妹の死の方が辛かったからだ。
守りたいものを守れなかった苦しみは言語を絶するものがある。
その様子を見て、ゼクスは笑みを浮かべる。苦笑でも優しい笑顔でも無い。狂気と呼ぶに相応しい冷酷な笑みを。

「それと、最も違うところは、貴様が未だに達成出来ていない事を私はやり遂げた」
「え?…お、俺が出来てない事?」
「ああ、復讐だよ」

そう呟いたゼクスを見て、シンは背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

「復讐って……」
「両親を殺し、国を奪った奴を殺したのさ。この手でな」
「あ……」
「そこに辿り着くまで苦労したぞ。軍に入り力を求めた。そして手に入れた。復讐する力をな。
 さらには、その機会も訪れた。私はMSのパイロットなのにも関らず、自ら赴き銃で直接撃ったよ」
「あ…う……」
「その時の気持が判るか?長年夢見てきた瞬間を成し遂げた時の気持が?」

シンはゼクスに圧倒されていた。これまでも威圧感のある人間だと思っていたが、今日のこれは違う。
今までのは風格と言えるものだが、これは狂気だ。まるで獣を目の前にしている気分だった。

「空しいぞ」
「……え?」

突然、先程までとは打って変って、寂しげな表情になる。

「殺した後に気付くのさ……自分の行為に意味が無いとな。そして憎かったのが敵では無いことに」
「敵?」
「憎かったのは自分自身さ。大切なものを守れなかった自分。それに気付いた時は、すでに手遅れだ」

シンは気付いた。自分が憎んでいるのはオーブとその理念では無く、それを信じ、妹を守る努力を何もしてなかった自分だと。だからこそ、それを悔いて力を求めたのだ。
だが、ゼクスの言う手遅れの意味が分からなかった。

「……手遅れって…何が?……」
「自分の身が血塗れになっている事に気付き、死んだ両親にも、まだ生きている妹にも顔向け出来ん。
 ……辛いぞ。妹と会って他人のふりをするのも、抱きしめてやれん事も」
「あ…それは…」

シンは、その状況を想像して震えた。マユに会っても隠れなくてはならない人生。想像するだけでも耐えられない。

「貴様も、このままでは私の様になる」
「そ、それは…ですが……」
「貴様の望みは知っている。復讐では無く、力の無いものを全て守りたいのだな?」
「……そうです…」
「だが貴様も、もう分かっているのだろ?…それが不可能な事くらい」
「……はい」

シンは力なく呟いた。自分でも分かっているのだ。人の手が届く範囲は、あまりにも小さいと。

「ずっと願ってました。マユを守れなかった代わりに、同じような平和に暮らしたい人達を守ろうって。
 でも、どうすれば良いのか分からないんです」
「残念ながら不可能だ。人には出来る事と、出来ない事がある」
「だからと言って、諦めたくは無いんです!……だって変じゃないですか!平和に暮らしたいだけなのに戦争に巻き込まれて力の無い人が死ぬなんて!……俺はこの世界から戦争を無くしたい!」

ゼクスはシンの真っ直ぐな瞳を見つめた。純粋で力強い眼差し。それは見る者を心地よくするが、同時に危険な兆候でもあった。

「……そうだな、では良い事を教えてやろう」
「え?」
「ある人間が考えた、この世界から戦争を無くす手段だ」
「そんなの有るんですか!?」
「ああ、簡単だ……戦争なんか出来ない状態にすれば良いのさ」
「は?」
「例えば、ジェネシスや核を使う、隕石を落とすでも良い。そうして地球を徹底的にボロボロにすれば、地球に住む人間に戦争をする余裕は無くなる。
 地球だけでは不足だから、勿論プラントにも同等の被害を与える。
 そうして、人が生きるだけで精一杯の状態にするのだ。名案だと思わんか?」
「ちょっ!…何、言ってるんですか!そんなのダメに決まってます!」
「そうか?だが、貴様は戦争を無くすのが目的なのだろう?」
「そ、それはそうですけど…」
「違うな。貴様の目的は平和に暮らしたい人が、戦争に巻き込まれない様にしたいのだろ?」
「あ?」
「早速、目的を見失っているではないか」

ゼクスは笑いながらシンを見ている。そこには先程までと違い、からかう様な雰囲気がある。

「うっ……ズルイです」
「ザラ大使が演説で言われた言葉、貴様が考えてるより、よほど深いぞ。人は容易く道を見失う。決して他人事と思うな」
「……はい」
「貴様は、まだ若い。無理に答えを急ぐな。無理に急ぐと道を見失って、先程言ったような極端な方向に進む恐れがある。
 この戦争中に貴様が出来る事は限られている。まずは、それをやれ。分かるだろう?」

シンは力強く頷く。自分に見えない道を見ている人間が側にいる。それだけでも幸福なのだ。

「俺は、アスランさんを守ります」
「それで良い。貴様の真っ直ぐさは長所でもあるが、そういう人間は往々にして道を見失いやすい。
 自重することも忘れるな。焦ったら簡単に道を踏み外すぞ」
「は、はい……」

先程の問答があるため反論の余地が無かった。

「ただ、急に自重しろと言われても難しかろう」
「……ええ、その…何かコツがあります?自分でも分かってるんですが、俺って短気で…」
「そうだな……短気なのは自分で治していくしか無いな」
「やっぱり……」
「だが、反省の仕方なら教えておこうか」
「どんなのです?」
「……貴様は家族の事を思い出すか?」
「え?……はい」

シンは赤面しながら答える。シンは今でも妹の形見の携帯を見て、思い出に耽っている事が多い。

「そこには過去の自分もいるのでは無いか?」
「へ?……え~と…」
「貴様自身が過去に帰って楽しい思い出に耽っているのだろ?」
「あ……そ、そうです…」
「それを止めて、今の自分の事を家族に報告しろ。今ならそれも出来る。出来なくなる様な人生は送るな」
「……それって…」
「私のような人間には成るな…という事だ。今日は下がれ。そして家族に今までの事を報告してこい」
「あ……はい!失礼します」

部屋を立ち去るシンを見ながら溜息を付いた。そして、自分がシンに嫉妬している事に気付く。
彼は、まだ間に合うのだ。家族と別れてから今までの思い出を、死んだ家族に語っても自分のように後ろめたい事も無いだろう。

「嫉妬するとは情けないな…私も……」

ネオは今回の一連の作戦の失敗をロード・ジブリールに報告していた。さらに現状では追撃不可能で、アスラン・ザラが確実にマハムール基地まで到着するであろう予測も添えて。

『そうか、残念だが仕方あるまい』
「申し訳ありません」
『気にするな…とは言えんが、今後は怠るなよ』
「はい、承知しております」
『それにしてもミネルバの戦力がそれ程に高いとはな』
「完全に、こちらの予測を上回りました」
『フッ、そんな君に朗報だ。私が直々に援軍を用意した』
「え、援軍ですか……」

ネオは嫌な予感に囚われた。ジブリールの言う援軍の内容に心当たりがあるのだ。
ネオは何とか辞退しようと試みる。

「いえ、お気遣いには及びません。我々だけでなんとか…」
『そう、遠慮するな。援軍は1人だが一騎当千の兵だ』

ネオは心の中で、予感の的中を悟った。辞退するために知恵を振り絞る。

「え~と、実はですね……家には3人の子供がいまして…」
『そうか、では4人目も可愛がってくれ』

ジブリールはこちらの意図を正確に察しているらしい、流石とは思うが、今は憎らしい。

「いや!それがですね。実は長男が反抗期を迎えてまして…」
『ん?スティングがどうかしたのか?』

ジブリールは興味深げに聞いた。スティングはエクステンデッドの中で最も精神が安定していて、1人で作戦を任せられるレベルだった。残念だがアウルとステラでは戦闘能力は高くても、細かい作戦に従事するのは不可能だ。
だからジブリールは、スティングに期待していた。その内、部下を持たせても良いと思っていたのである。

「……話が噛みあっていて光栄です。実はですね……」

ネオはスティングが、戦闘が終わっても最適化のカプセルに入らず、整備士と話し込んでるのを聞き、スティングの元へ向かった。

「スティング、何してる?」
「ネオ!良いところに来た。この分からず屋に言ってくれ」
「無茶を言ってるのはオークレー少尉の方です!」
「まあ、落ち着け……で、何なんだ?」

その後の説明を聞いて、ネオは呆れる思いだった。スティングはカオスの機動力アップのアイディアとしてメインバーニアを兼ねる兵装ポッドを、ワイヤーで固定しフレキシブルバーニアにすると言うのだ。

「良いアイディアだろうが、兵装ポッドはドラグーンシステムで自由に動くんだ。こいつを使えばどの方向にも自由自在に動ける」
「……バカかお前は?」
「何でだよ!?」
「確かに、それならいきなり機体が横に行ったり、方向転換も容易だ。更に急激に止まる事も出来るだろう。
 だがな、そんな事したら内蔵吐き出すぞ!いくら強化されてるとは言え限度がある!」
「……奴の動きを忘れたのか?あん時、俺が助けなきゃテメェ死んでたぞ」
「―っ!…それは…」

ネオは前回の戦いで、自分の操るウィンダムの腕を斬られた場面を思い出していた。
セイバーは別のウィンダムに体当たりし、その反動でネオの元へ向かってきたのだ。
その時の衝撃は冷静に考えると、人の限界を超えている。

「奴は明らかに人間離れした体の持ち主だ……だったら奴を倒すには、こっちも人間の限界を超えるしか無え!」
「お前……」
「俺は誰にも負けたくない……俺が強くならなくちゃ…」
「もう良い……分かった。好きにしろ」

ネオはスティングの気持を知っていた。スティング達が、ここまで来るのに多くの実験体や過酷なトレーニングで死んだ者が大勢いるのだ。その中には自分が生き残るためスティング達が自らの手で殺した者もいる。だからこそスティングは誰よりも強くあろうとするのだ。

「すまねえ……ついでに記憶の方も……」
「……分かってる」

ジブリールは聞き終えると溜息を付いていた。

『で、スティングは今、肋骨を痛めてベッドの上か…』
「すぐに直るそうですが……」
『ふむ、実際に使えるのか、その改造は?』
「……ワイヤーも有線式のガンバレルの物を補強したものを使用していますし、動きには問題ありません。
 乗りこなせれば、誰よりも強くなれるでしょう……それで、その~それに関して、お願いが……」
『スティングの記憶の事か?』
「はい」
『消していないのだな?』
「申し訳ありません。ですが!」
『かまわん。今後も問題無ければ、スティングの記憶を消す必要は無い』
「あ、ありがとうございます!」
『フッ、気にするな。元々記憶の消去はストレスが戦闘力を低下させるという意見から採用しているのだ。下がらなければ問題無い』
「はい」
『それにだ……マユは記憶を消したりしていない』
「………………………………………」

ネオは今出てきた名前に再び冷や汗が流れるのを感じた。

『ところで、増援の件だが近日中に出発させる』
「ゲッ!」
『ガルナハンを経由して、そちらに向かわせるからよろしく頼む』
「……その…一縷の望みを託してお尋ねしますが……援軍とは?」
『ん?とっくに気付いてるのだろ?』
「……一応、ハズレる事を期待しながら確認を……」
『フッ、では、はっきりと名前で言ってやろうか?』
「……お願いします」
『マユ・アスカだ』

ネオは膝を付いて蹲る。あの娘が来ると思うと頭が痛くなってきた。
ジブリールは勝手に通信を終え、モニターは真っ暗になっていた。

「どうするかなぁ~……って、どうにもならんか」

ネオは溜息を付いて、悲劇の中間管理職の気分を嫌々満喫していた。

スティングはベッドの上で、動けない自分に苛立っていた。
最適化のカプセルに入っていないから、ストレスも溜まっているが、もし入れば、今回の改造の記憶を消されるかもしれないと思っている。
ネオは一応は認めてくれているが、危険な行動であるのは間違いない。認めるフリをして、気付かない内に記憶を消されているかもしれないのだ。ネオを疑いたくは無いが、今回は譲れなかった。

「やっほぉ~生きてるか?」
「……スティング…元気?」
「おう、お前等か」

そこにアウルとステラが見舞いにやってきた。2人と話しているとストレスが減っていく気がする。

「それにしても何で訓練なんかで怪我してるんだよ。バッカじゃねぇ?」
「うっせぇよ!特訓してるんだよ!」
「は?何でさ?」
「このままじゃ、あの赤い奴には勝てないからな」
「そんなに…強いの?」
「……情けねえが、今のままじゃ勝てない。これまで2回、戦りあったが生きてるのが不思議なくらいさ」
「だったら、僕に任せりゃ良いだろ」
「奴が水中に行けば任せるがな」

苦笑しながら答える。もしアウルが、この前の戦いでインパルスを倒していたら、そうなっていただろう。
だが、アウルとステラはワザとインパルスを見逃した。
そして、その事を2人とも憶えていない。敵に好感を抱いた以上、エクステンデッドの彼等は、その様な記憶は消されてしまうのだ。

「よう、スティング。調子はどうだ?」
「テメェの面見たから最悪」

ネオが入って来て調子を尋ねると、スティングは笑いながら答える。

「口の減らない奴だな、まったく」
「テメェにだけは言われたくない台詞だな」
「フッ、まあ良いさ……ところで良く勝てたな」
「……あくまでシュミレーションだろ」
「それでも勝てた。あの赤いのにな」

ネオは関心したように呟いた。ジブリールとの通信後にスティングの戦闘記録を見に行ってみると、シュミレーションとは言え、最後はセイバーに勝っていたのだ。
しかもシュミレーション内容も、実際に機体を動かしてやる実戦に近い方法でだ。
MSのカメラは直接映像と言っても、ガラス越しに見てるわけでは無く、あくまでカメラに映った映像をデジタル処理したものがモニターに映るのだから、そのモニターに戦闘シュミレーションの映像を送ればほとんど実戦と同じ感覚でやれる。

「お前の考えは成功だな」
「まあ、その代償として、この有様だがな……だが、すぐに克服してやる」
「そうか……ところで、盟主に連絡したら許可が出たぞ」
「ってことは……」
「思う存分にやれよ」

喜ぶスティングを、訳が分からないという表情でアウルとステラが見ている。
そしてネオは、この機に増援の件も伝えようと決断する。

「そ、それとだ……近日中に我々に新しい仲間が増える事になった」
「ん?」
「仲間って……使えんのかよ?足手まといはいらねえよ」
「心配するな。腕は確かだぞ」
「…………まさか」
「おい、ネオ………そいつの名前をはっきりと言ってみろ」
「…………マユちゃんでぇす♪」
「ア、アホかテメェ!断ってこい!」
「いや、俺も断りたかったんだがな……」
「使えねえ奴!マジで役に立たねぇな!」
「そう言うなよ!俺だって……」
「ねえねえ……」

その時、1人冷静だったステラが質問してきた。

「…マユって誰?」
「「「あ?」」」
(そういやステラはアイツの記憶を消されてるんだっけ?)
(よし、それを理由に、もう1度断ってこい)
(い、一応は言ってみるか……無理だと思うが)
(死力を尽くせ!)
「ん?…ステラ…聞いてるのに…なんで答えてくれないの?」

ジブリールは再びネオから連絡を受け、その件で動いていた。
マユの部屋に行き、軽くノックすると返事も聞かずにドアを開ける。

「マユ、いるか?」
「ん?ジブ……どうしたの?」
「寝ていたのか……スマンが話がある」

マユは寝ていたところを起こされ、目を擦りながら上体を起こし、ジブリールはベッドに腰掛けて話しかける。

「今後、君にはファントムペインと合流してもらう事になるのは伝えたな」
「うん、聞いた。気に入らない連中だけど、戦えるのなら我慢する」
「それだ。何故そんなに気に入らないのだ?…以前は硬く口を閉ざしていたが、もう教えてくれてもいいのではないか?」
「う……言いたくない」
「それでは困るのだよ。ステラは君の記憶を消している。何故かは分かるね?」

ガンダム強奪任務には、マユも参加する予定だったのだが、その前の顔合わせで、マユは突然ステラを攻撃しだしたのだ。
それも、軽いケンカでは無い。ステラは大怪我を負わされ、マユにトラウマを持つまでに痛めつけられたのだ。

「………だって…優しい目をしてた……」
「ん?……どういう事かね?」
「マユは楽しみにしてたの!今までの暗殺なんかと違って、派手な戦いが出来るって聞いてたし、ファントムペインって、マユの実験データーを使って完成した兵士だって聞いてたから、きっと強くて怖くて、凄い連中だろうってさ……胸ときめかせ、ワクワクしながら行ったのに……」
「……それで?」
「そしたら、会ってみるとチャラチャラした軽い連中で、まるで兄妹みたいに仲良くて……」
「―っ!」
「おまけにステラはマユの顔を見て、心配そうに…本気で優しい眼でマユに怪我痛くないって、聞いてきて……何か嫌い……気分が悪くなった」
「そうか……」
「あんな目でマユを見るのは許せなかった。だから徹底的に痛めつけて、目を抉り抜いてやろうとしたらスティングとアウルに邪魔された……」

ジブリールはマユの心情を理解した。マユはステラに嫉妬したのだ。甘えられる兄のような存在を持つステラに対して。また、純粋な心のままでいられる事にも。
そして、もう1つの疑問、マユがスティングとアウルに負けた理由も。如何にスティングとアウルが強化されてるとはいえ、生身でマユと戦り合ったら2対1とは言え、良くて引き分けだろう。
マユはスティングとアウルに妹を守る兄の姿を見たのだろうと判断する。

「そうか、気持は分かった。だが、これからは我慢してくれ」
「……うん」
「それと、君とステラは初対面という事になる。これも良いね?」
「……わかってる」
「うむ、もうケンカもいけないぞ」
「それは大丈夫」
「そうか、自信がありそうだな」
「うん、だって……アイツはマユを見ても、以前のように優しい眼は出来ないから、絶対に怯えるに決まってる♪」

ジブリールは、笑顔で語るマユを見ながら、恐れられる事で自分を保とうとするマユの心情を複雑な気持で考えていた。
自分にとってマユの存在は何なのかと。最も危険で、最も役に立つ兵器。そのはずだったが……

「ジブ…どうしたの?」
「いや、何でも…ところで顔の傷は直さなくて良いのか?」
「ん?…面倒くさいからいい」

ジブリールは咄嗟に出た自分の質問に愕然としていた。何を余計な気遣いをしているのかと自分を叱咤する。

「それでは、準備が終わりしだい君には出発してもらう。それまではゆっくりと休むがいい」
「うん♪おやすみ」
「ああ、おやすみ」

ジブリールは部屋を出ると、気を引き締める。
マユを兄のシンと戦わせるのは躊躇われたが、そうも言ってられなくなった。
接触は危険だがカラミティの通信機能は効かなくしてある。だからインパルスのパイロットが兄と気付く事も無く、仕留めてくれるだろう。
ジブリールは、自分の躊躇いの理由が、マユの兄との接触による変化を恐れているのか、それとも兄を殺める事を知られないための気遣いなのか、自分でも判断しかねていた。

シンはゼクスに言われた通り、オーブを出てから、これまでの事を家族に報告していた。
報告の内容は、やはりレイやルナマリア達との事が多くなる。

「やっぱり、助かったよな……」

そして、改めて気付くのだ。あのまま心を閉ざし、孤独のままに進まなくて良かったと。
もし、そうなっていたら、こうして報告する事も躊躇われただろう。おそらくゼクスは、そういった事も踏まえて、自分に伝えたのではないかと考える。

「…て訳でさ、とんでもない人が上官になっちまったよ。敵わねえってぇの」

苦笑しながら呟くとレイが部屋に入ってきた。レイはここ最近、毎日の光景に笑いながら質問する。

「今日も報告か?」
「ああ、今までサボってたからな、報告する事が溜まってる」
「そうだな」
「うん、でもさ、こうして話してると父さんや母さんが返事してくれる事があるんだ」
「返事?」
「ああ、別に幽霊がいるとは思わないけど、何ていうか……俺がこう言ったら、父さんはこう言うってのがあるんだよ……どう言えば良いのかな……」
「……お前に残っているからだろ。ご両親の言葉が……それがお前の中で生きているのだろう」
「ああ……なるほどね…」

頷くシンを見ながらレイは、何時か自分もその中に入れて貰うと心の中で呟いた。

「ん?何か言ったか?」
「―!……いや、何も言ってない」
「そうか……」

レイは口に出ていたかと驚くが、聞き取れなかった事に安堵する。するとシンも小さく呟いた。

「当分は遠慮するからな」
「……わかった」

そうして、夜は更けていく。だが、そんな営みにも関らずミネルバは先へ先へと進んでいく。
マハムール基地へと……さらにその先にあるガルナハンの地へと……