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W-DESTINY_第16話2

Last-modified: 2007-11-10 (土) 21:58:57

ディオキアの基地に到着したアスランに、凶報が待っていた。

「マハムール基地が落ちたか……やられたな」

上手く行かないものだと、アスランは溜息を付く。これで、当初予定していた作戦は潰されたも同然だ。
そのため、作戦の変更について話し合うために、慰問と称してデュランダルが、地球に降りる事になった。

「情けないな。ここに来て議長を煩わすとは……」

アスランは、ほぼ正確に敵の意図…ジブリールの考えを読み、そして対抗策が無い事を理解する。

「ディオキアからは、どの程度ガルナハンへ回せます?」

アスランの質問に、基地指令は質問の意味を理解しかねて問いただす。
基地指令は、マハムール基地の奪還か静観かを聞きたいと質問したのにアスランの答えは何故かガルナハンへの増援である。
その質問に対するアスランの回答は、ネオに対するジブリールの返答とほぼ同等のものだった。

「基本的には、スエズを落とす事を重視していただきたい。ですが、ガルナハンを落とされるわけにはいかないのです」
「なるほど……申し訳ありません。思慮が足りなかった様です」

基地指令は、先に己の見落としを恥じる。そして、回答に移った。

「この基地の大部分を回す事が可能ですが、そうすると今度はスエズ攻略の部隊が減る事になります」
「でしたら、当面の間。そうですね1ヶ月弱、派遣していただきたい。その後は、再び呼び戻してスエズ攻めに参加してもらいたい」
「では、スエズ攻略は1ヶ月後と?」

アスランは頷く。それが限界だろう。ミネルバの修復や、レイとルナマリアが新型のMSグフに慣れるために時間は欲しいが、それ以上伸ばせば連合はスエズを放棄してでも攻勢に出るだろう。
そうなった時はガルナハンが最初の目標となるだろう。
そしてガルナハンを落とせば、ユーラシア連邦の本拠地まで補給ラインが繋がる。

「なるほど、連合としては防衛力の高いスエズ基地で迎え撃ちたいが、ジリ貧になる前に打って出ると」
「そして、ザフトとしても、それを承知でスエズで戦いたい。厳しい戦いになるでしょうが、この機を逃すと泥沼の長期戦になってしまう」

基地指令は頷く。スエズを落とせばユーラシア大陸の西半分はザフト側になるだろう。
だが、失敗すれば、ザフト軍の被害状況によっては、向こうが攻勢をかけて来る。
そこで、ふと疑問に思った。アスランは長期戦を嫌がっている事に。

「では、停戦をお考えで?……いや、失礼しました!」

基地指令は慌てて、質問を打ち消す。停戦かどうかは軍人の領分を越えていると思ったからだ。
だが、アスランは元軍人だ。彼の気持ちは良く分かる。
だから、不安を解消するために必要最小限の情報を漏らす事にした。

「気にしなくて構いません。ちなみに、これから私が言う事は独り言です。
 スエズを落として有利な条件で停戦した方が、この先の事を考えると何かと便利だ。まず、ザフトには全世界を覆う軍事力は無い、数の問題でね。つまり世界中で独立を叫ばれてもザフトには助けようが無いんだ。下手したらザフトに期待して独立運動をしたのに、助けが来なくて鎮圧されるケースが多く出てくる。そうなったらザフトを逆恨みをしかねない」

基地指令は、その意味を理解した。せっかく憎しみの方向をずらしたのに、また恨まれる事になる。
そうなっては元の木阿弥だと。

「それよりも、今回は中東とヨーロッパの独立した国々と手を結び、彼等に利用される。
 コーディネーターを受け入れると、豊かになれると理解させるんだ。そうすれば、おのずと……」

アスランは、そこで話を切る。実際にそこから先は未知数だ。さらに政治の領分で基地指令には無縁の事だ。
しかし、基地指令にとっては、今度のスエズに勝てば、やがてコーディネータが受け入れられる世界が来ると言う事は理解できたし、希望が持てる。

「お任せくださいザラ大使!必ずや万全を期してスエズへと向かいます!」
「宜しくお願いします」

アスランは、そう言うと席を立ち、ディオキア基地本部を後にした。
アスランは、その後ミネルバに戻るべく、ジープの後部座席に座った。その横にゼクスが腰を掛ける。
そして、ハンドルを握るシンが車を発進させながら興奮気味に話しかける。

「いや、何かカッコ良かったですね。別人かと思いましたよ」

今回から護衛する事になり、シンは初めて、アスランがザラ大使として話す姿を見たのだ。

「カッコ良くて別人とは、普段はどう思っているのだ?」

ゼクスが苦笑しながら質問する。もっともアスランは自分でもシンの前では、情けない姿が多いとは自覚している。

「ええと、それは……」

シンが本気で返答に困っているのを見て、アスランとゼクスは、からかいながらミネルバへと戻った。
そしてミネルバに到着し、デッキに上がると、新しいMSが置いてあった。

「戻ってくる途中も飛んでましたけど、これがグフですか?」
「らしいな。という事はレイとルナマリアは戻ってるのか」

3人がミネルバを出る時、同時にレイとルナマリアは基地に新型のMSグフを受け取りに向かっていた。
今回の戦争のため飛行型のMSが必要になり、支援型のバビに続いて量産された格闘型のMSだ。

「多分、食堂でしょう。行きますか?」
「そうだな。ゼクスも良いか?」
「はい。お供します」

シンたち3人が、食堂に入ると、先客としてレイとルナマリアの他にメイリン、ヴィーノ、ヨウランもいた。

「何だ。みんな揃ってたんだ。新型の調子はどうだ?」

シンが声を掛けると、ルナマリアが不貞腐れた様に返答する。

「どうって、まだ動かしていないの!せっかく整備も終わってるのに、明日からじゃないと場所が無いって言われて」

シンは帰る途中も、飛んでいるのを見かけたのを思い出す。その予想が正しいと言わんばかりにレイが補足する。

「基地の人間に配られた分のパイロットも、訓練しなければならないからな」
「なるほどね。なんか運転免許の路上講習みたいだな」
「空くのを待ってるってやつね。ねえ、アスランさん。アスランさんの権力でミネルバ組みを優先させるって出来ません?」
「無茶を言うな。子供みたいに」
「う~ん、そう言われましても、ザクとグフでは似て非なると言うか、兎に角シミュレーターでは、慣れにくいんです。動かないと」
「それは、分かるけどダメだ」

アスランがルナマリアの我侭に苦笑しながら返事する。もっともルナマリアも本気で言ってるわけじゃないから怒りはしなかった。

「ところで、何してたんだ? まさかMSに乗れないって愚痴言い合ってたとか?」
「そんなわけ無いでしょ。これよ」

シンの質問を否定しながら、ルナマリアはメイリンの見ている雑誌を指差す。

「これって、アスランさん?」
「基地の売店に売ってたの。凄いよね」
「実際に街で売ってあるらしいですよ」

そこには、何冊かの週刊誌等の雑誌があり、その全てに大きく『解放者アスラン・ザラ』と記載されていた。

「本当だ。へぇ~……」
「なんだか恥ずかしいな」

感心するシンから、アスランが照れながら雑誌を取り上げる。

「別に良いじゃないですか、それにしても随分と昔の写真が多いな」
「え?」

シンの言葉にメイリンが反応し、今まで見た分を思い出す。

「そう言えば、ほとんどが昔の写真だったね」
「他の雑誌も?」
「うん。確かにそうだった」

デュランダルは2人の客人を笑顔で迎えると、席に座らせる。

「わざわざ来て貰って、すまないね。話はハイネから聞いていると思うが」
「地球に行くアンタを護衛しろって事だろ。俺は構わねえぜ」

デュオは笑顔で返事する。だが隣に座る張五飛は黙ったままだった。

「君は不服かね? 五飛」
「必要あるのか?」

五飛は単刀直入に質問する。五飛はデュランダルに護衛が必要だとは思えなかった。
今はデュランダルよりもアスランの方が、連合には恐ろしい相手だろう。

「私は必要だとは思わんよ。ただハイネが煩くてね。別に断ってくれても構わんよ」

デュランダルは苦笑しながら返事を返す。普段はデュランダルが移動するときはハイネが護衛に付くが、今の彼は、ビルゴの探索を優先するように命令されているので、今回は護衛から外されたのだ。
さらに、ハイネ以外の信頼できる者は皆ビルゴの探索に関っていた。
だからこそ、代わりに信頼できて腕が立ち、さらにはビルゴの探索に表立って関れない彼等に護衛を依頼してきたのだ。

「別に俺は貴様の護衛が嫌だとは言わない。それなりに恩義も感じている。だが断らせてもらう」

デュランダルは微笑み、デュオは珍しいものを見る目で五飛を見た。彼が断るのに前振りを入れるのは意外だと感じていた。彼なら単刀直入にNOと言う気がしていたのだ。

「気にする事は無い。こちらはこちらの都合でやっている事だ」
「そうか……だが、一応は言い訳をしておく。その方がハイネにも伝えやすいのだろ?」
「そうだな」
「もし、俺たちが地球に行っている間にビルゴが起動したら、トロワと怪我をしたカトルだけでは、対処が難しい。アレに最も有効に対応できるのは、俺のナタクだ」
「ああ……そう言えば」

デュオは手を叩きながら同意する。ヘビーアームズの銃弾だけでは、ビルゴを全機叩く前に弾切れを起こすだろう。そしてカトルも本調子では無い。
さらに補足するなら、デスサイズのビームシザーズよりアルトロンのドラゴンハングの方がビルゴを倒すのに向いている。プラネットディフェンサーは、ビームへの耐久力に異常に優れているからだ。
もっとも例外はある。その耐久力を遥かに超える出力を当てれば良いのだ。それが可能な機体もあるが、1機は行方不明、もう1機は封印状態の上に扱えるパイロットは地球に降りている。

「なるほどね。そういう事なら仕方があるまい」

デュランダルは、あっさりと同意する。そもそもデュオの護衛さえ必要ないと思っているのだ。
すると話は終わりだと言わんばかりに、デュオが別の話を振る。

「ところでよ。いっそラクスとキラを仕留める方向に行けないのかよ?」

デュオは真剣だった。キラの力は想像以上だったのだ。もし、この世界のMSに乗ってキラと戦ったら勝てる自信は無かった。デュオの得意分野は接近戦での斬り合いだが、この世界のMSでは、近付く前に落とされる可能性が高い。

「今のやりかたじゃあ、ビルゴが起動する前に、ハイネたちはキラに殺られてしまうぜ?」
「だから、君たちを使えと?キラを殺したらラクスの説得は不可能だと分かっているのだろ?」
「だから、ラクスは諦めろよ。アスランなら大丈夫だろ」

デュランダルは溜息を付くと、手元のリモコンを操作し、モニターに幾つかの雑誌を映しださせた。

「何だよ? これってアスランか?」

そこには、アスランが写った写真を載せた雑誌が、幾つか紹介されていた。ただ、それのほとんどが2年前の軍服、またはパイロットスーツ姿だった。

「どう思うかね?」
「どうって……」

デュオが言葉に詰まっていると、五飛はリモコンを勝手に操作し、雑誌の内容を調べていく。

「フン、なるほど。随分と血生臭い英雄だな」
「は?」
「残念だが、これがこの世界のアスランの認識だよ」

全ての雑誌で、アスランの紹介はザフトのエースパイロット、最強の戦士と紹介されていた。

「こういった雑誌は、人に売れることを目的にしている。では、どうすれば売れると思うかね?」
「そいつは……」
「事実は二の次、民衆がこうなって欲しいと思う事を載せれば良い。この場合だと、アスランに連合を倒して欲しい奴らに売れているのだろ?」

五飛は嘲笑しながら答える。本人は平和的に行こうとしても、世間は許してくれないようだ。

「その通りだ。そして最近はこの手の雑誌が売れている」
「つまり、それだけ連合を倒して欲しい人間がいるという事か。随分と憎しみに溢れた世界だな」
「情けないがね。だが、それを覆せる人間もいるのだよ」
「それがラクス・クラインか」
「その通りだ。逆に言えば、今はラクスがアスランの側に居ないために、余計、そう取られている部分があるのだよ」

デュオは2人の会話を聞きながら、あの人の良さそうなアスランが、この事実をどう受け止めているかを想像した。苦悩しているであろうアスランのために溜息を付きながら決意を声にする。

「もうラクスを殺そうなんて言わねえ。必ずラクスをアスランの前に連れてきてやる」

アスランは、他のメンバーがアスランの2年前の写真を見て騒いでいるのを尻目に溜息を付いた。
パトリックの影、いや自分自身の過去がアスランを縛り付けていた。

「アスランさん、どうしたんですか?」

シンが心配そうに声を掛けるのを見て、苦笑しながら首を振る。

「何でもないよ。気にしないでくれ」
「でも……」

言いよどむシンを見ながら悪い事をしたと思う。シンだけでは無い。全員がアスランを注視していた。
それほど分かりやすく落ち込んでいたのだろう。
だからと言って、ショックは隠せなかった。この雑誌に写っているのは、ほとんどが2年前のザフトレッドのアスラン・ザラだった。多くの連合兵を憎しみに任せて殺していた頃のアスランだ。
逆に、憎しみ合う事を止めろと言ったアスラン・ザラ親善大使の写真は、ほとんど載っていなかった。
その理由は分かっている。雑誌にも書いてある。みんなは望んでいるのだ。連合の圧政から開放すると同時に圧政者に復讐しろと叫んでいるのだ。

「何で、こうなったんだろうな……」
「自分でも気付いてたんですか?」
「それは気付くさ。自分の事だからな」

後悔しても始らないのは分かっている。実際にアスランの手は血塗れなのだ。それでも嘆かずにはいられない。

「あんまり気にしないで下さいよ」
「そうは言っても、こうやって現実を突き付けられては嘆きたくもなるさ」

ルナマリアがフォローしようとするが、アスランは更に落ち込んでしまう。

「この現状を何とか、したいんだが」

それは、アスランにとっては重要な事だった。このままでは、ガルナハンの二の舞になる。それだけは避けたかった。
この世界には平和への希望だけでなく、憎しみが多く渦巻いている。そこで、ふとゼクスを見つめる。

「ザラ大使?……何か?」
「いや、羨んだって仕方が無いとは分かっているんだが……」

彼等のいたAC世界にはリリーナとゼクスの兄妹がいた。2人は妹が平和への希望を、そして兄が憎しみを受け持ったと言える。意図したわけでは無いだろうが、見事な連携だった。
兄は憎しみを忘れられない人間を率いて滅びの道を歩み、妹は平和の希望を持つ者の象徴となり平和を築く。妹が平和を築きだした時は、すでに憎しみを持つ人間は兄と共に滅んでいるのだ。
そして自分はと言えば、やはりリリーナよりゼクス役になるだろう。
だからこそリリーナ役が必要だった。その役を請け負える人物もいる。
今は、離れ離れだが、ラクスが戻ってくれば現状を打破出来るだろう。彼女の平和への訴えは、アスランとは比べ物にならない。

「やっぱり必要だな」
「そ、そうですか?」

シンは、悩みながら返事するが、アスランは絶対にラクスが必要だと確信していた。自分では平和の象徴など不可能だと実感する。

「今は、まだ良いが、先の事を考えると、絶対に必要だ」
「それは……そうかもしれませんが」
「ですが、俺たちが知っているのは、今の貴方です」
「レイ?」
「ですから、俺は気にしません」
「ありがとう」

アスランは、レイの言葉が嬉しかった。彼は過去に囚われず、今の自分を、ありのままに受け止めてくれるのだから。

「アスランさんは悩みすぎです。そんなんじゃ逆効果ですよ」
「ルナマリア」
「今からでも遅くありませんよ。みんなで対策を考えましょう」
「さんせ~!」
「いいね。どんな方法がある?」
「そうだな……」
「お前等……」

アスランは胸が熱くなった。自分の事を思ってくれる人間が、こんなに居るのだ。
アスランが言葉に詰まっていると、メイリンが手を挙げる。何時の間にか仕切る役になっていたルナマリアがメイリンを指名する。

「はい、メイリン。何かアイディアはある?」
「うん。前から気になってたんだけど、アスランさんってワカメ取りすぎです」
「へ?……何でワカメが出てくる?」

アスランは呆然としながら聞き返す。平和とワカメ、あまりにも関係が思い浮かばない。

「栄養はバランス良く取らないと、ワカメで髪の毛がフサフサになるって迷信ですよ」
「へぇ~、そうなんだ。アスランさん、分かりました?」

アスランは、自分が異世界に紛れ込んだ気になった。メイリンもルナマリアも何の話をしているのか分からない。
平和とフサフサの関係が掴めない。

「………あれ?……お前等、何の話をしてるんだ?」
「何って、アスランさんが髪の毛の進行を気にしてるみたいだから、みんなで相談を…」
「ちょっと待てぇ!な、何で髪の毛の話になっている!?」
「何でって……アスランさん2年前の写真を見てから落ち込んだじゃないですか」
「だから、てっきり髪の毛の進行を気にしてると思ったんですけど……もしかすると別の理由?」
「違う!俺が気にしているのは髪の毛の事じゃない!」

ルナマリアとメイリンが不思議そうに答えるのを聞いて、アスランは机を叩きながら否定する。
先程の感動を返せと叫びたいくらいだ。

「だったら、何を悩んでたんですか?」
「俺は平和的に行きたいのに、こう戦士のイメージが強い事を悩んでたんだよ!」
「え! そんな真面目な事を……」
「だって、隊長の頭見ながら羨ましいって」

まさか、こっちが真剣に悩んでいるのに、そんな目で見られているのは心外だった。たしかにゼクスの髪の毛は羨ましいが、今回は違うのだ。

「って、そんな前から!?お前等、その時から髪の毛の事って思ってたのか?」

しかもゼクスを見ていたのは、悩み始めてすぐの事だった。だとすると、彼等は随分と前から誤解している事になる。

「最初からですが」
「それで何で、話が噛みあってるんだよ!?」
「不思議ですね」
「不思議すぎるよ!」
「でも、実際に進行してるんだし……」

ルナマリアが聞き捨てならない事を言う。それは認める訳にはいかない事だ。

「どこがだ!良く見ろ!大して変わってないだろ!?」
「え~と…………」
「目を逸らすな!」

だがアスランは、叫びながらも、さっきまでの悩みをバカらしく思い始めた。
少なくとも彼等は、自分が血塗られた存在だとは思っていないのだ。それならば、時間をかければ世間のイメージも変わるかもしれない。
アスランは、彼等と話していると何時の間にか、そんな希望も持てる様になっていた。
もっとも別の心配の種が大きくはなったが……

「なあ、そんなに俺ってやばいか?」
「はっきり言って良いんですか?」
「……言わなくていい」

アウルは、その建物に入ると荷物を置き、辺りを見回しながら、嬉しそうに話す。

「ここが僕達の泊まるとこか……狭いけど、何だか普通の家っぽいな」
「コテージだからな、自炊しなきゃならねえが、ホテルよりか良いだろ」
「うん♪」

ファントムペインのメンバーは、ディオキアでの宿泊地となるコテージに到着していた。
そして、これからの予定を話し合おうとしていると、マユは上着とジーンズを脱ぐと、ベッドに潜り込む。それを見たスティングは、呆れた様にマユに話しかける。

「おい、また寝る気か?」
「うん」
「来る途中も、ずっと寝てたろ。寝すぎだぞ」
「いいの」
「身体の調子……悪いの?」

ステラも心配そうに尋ねるがマユは、それを無視する。

「マユ、返事ぐらいしたら…」
「うるさい!」

マユはベッドから上半身を起こすと一喝する。そしてスティングを睨みながら、笑顔で言い放つ。

「もし起こしたら、アウルの頭を尻の穴に、ぶ・ち・込・む……OK?」

その光景を想像して、スティングとアウルの表情が青ざめる。マユだったら本気でやりかねない。

「納得してくれた様だし、お休み」

そう言うとマユは再びベッドに潜り込み寝息をたて始めた。

「……話し合いは、違う部屋でするぞ」
「おう……行くよステラ」
「う、うん」

3人は、別の部屋に行って、今後の予定を話し合う。

「もう夕方に近いし、今日は遠くには行けないよな」
「そうだな。取り合えず晩飯だが……近くに何か買いに行くか?」
「たしか、途中にパン屋があった。そこに行こうよ」
「遊びには…行かないの?」
「他にも買い物があるし……明日、朝から必要な物を買出しに行くから、そん時にこの辺に何があるか調べような」

不満そうなステラの頭を撫でながらスティングが提案する。
ステラは少しだけ寂しそうに頷いた。明日は街に出られると思いながら。