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W-DESTINY_第19話

Last-modified: 2007-11-10 (土) 22:00:40

シンはディオキアの基地にある電話の前で立ち尽くしていた。もうすぐ出港するという直前に電話を掛けたのだが、受話器からは留守電にも切り替わらず、延々と呼び出し中の音が聞こえてくる。
諦めて受話器を置くと残念そうに呟いた。

「まだ帰ってきてないって事かな?」

その手にはアウルから貰ったカードが握り締められていた。

紅い瞳が自分を優しく見詰めてくれる。ステラは例えようの無い安らぎと、ときめきを感じていた。

「シン」

聞くだけでも、口にするだけでも嬉しくなる単語を呟き、胸のペンダントを握り締める。
災いから守ってくれるというペンダントは、ステラを「守る」と言った言葉と共に、今は居ない彼を感じさせた。
やがて安らぎに包まれながら意識は空白に染まっていく。

「……ん」

ステラは目を覚ますと、そこが最適化のカプセルだということを理解する。身体を起こし、立ち上がった瞬間、首に違和感を感じた。

「……何、コレ?」

違和感の正体を探るべく首に手をやると、憶えの無い物が首に巻きついている。それを引き千切るべく、指に取り力を入れた。

「似合ってるぜ、それ」

だが、スティングの声に腕の動きを静止させる。スティングはドアの横で壁に背を預け立っていた。

「ほらよ」

スティングが近付き、カプセルのガラスに映るステラの姿を指差す。
ガラスの中では見慣れない物が自分の首に巻きついていた。目の様な模様の石。それは綺麗なだけでは無く、何故か温かみを感じさせた。

「良いだろ?」
「うん♪」
ステラが上機嫌になったのを確認すると、スティングは少しだけ眉を顰める。あのまま引き千切らせた方が良かったかと、弱冠の後悔がスティングを襲っていたが、憶えていないとは言え、あのペンダントがステラにとってどれだけ大切な物か分かっていたため、思わず止めてしまっていた。
ステラは、ペンダントを握り締め、少しだけ顔を赤く染めていた。記憶が無くても心の何処かにシンの存在が根付いているのだろう。
それを横目で見ながら、スティングはまだ開いていないカプセルに意識を移した。
何時もならアウルの方が、ステラより早く最適化を終わらせる。それは戦闘のストレスがステラに比べ、アウルの方が遥かに少ない事を意味していた。
だが、今回の休暇明けの最適化は、ステラは非常に安定していたため短時間で終わり、逆に余計な事を知ってしまったアウルは長く掛かっていた。

「まだ終わらないの?変態オジサンがブリーフィングルームに集合だって」

その時、マユが顔を出し、ネオからの伝言を伝える。

「少し時間が掛かってるな」
「何かあったの?コイツ、変だったよ」

マユが不審そうにカプセルの中のアウルを指差す。休暇の最後の方はアウルはマユの顔をまともに見れない状態が続いていた。それでも優しくしようとしていたのをマユは不思議がっていた。

「まあ、もっとも……」
「マユ♪」
「コイツほどじゃ無いけど」

嬉しそうに寄ってくるステラを見て溜息を付いた。休暇の間、マユはスティングに料理を教えるのに夢中で気付かなかったが、何時の間にか自分を見つめるステラの瞳から恐怖が消え、それどころか好意が見えるようになっていた。前の様に同情めいた表情はしてないから、腹立たしくはならないが、それでも鬱陶しいと感じてた。

「……マユ」
「なにさ?」

ステラはマユの眼を見ると、何故か胸が高鳴る。その表情にマユは危険なものを感じた。

「なんか……ちょっ!」
「ん~~~♪」
「……何やってんだテメエら」

突然マユに抱きついたステラを見ながらスティングは溜息を付く。おそらく記憶の奥底に眠るシンと勘違いしてるのだろうが、人違いとも言えない。

「放せ!犬女!」
「ステラのこと、きらい?」
「嫌い!つーか、さっさと放さないと痛い目に合わせる!」

スティングはここでマユが暴れるのは不味いと判断し、ネオに聞いたマユの操作方法を実行する。

「ステラに怪我させたら次の出撃無しな」
「うっ!」

スティングの言葉にマユは硬直する。

「何やってんだよアイツ等?」

唖然としたアウルの言葉にスティングが反応する。そこにはカプセルから身を起こそうとするアウルの姿があった。

「よう、起きた…」「ガキ面!この犬女を何とかしろ!アンタが何時までも寝てるから!」

スティングの挨拶をマユの悲鳴にも似た声が遮る。アウルはマユに抱き付くステラを見て呆れながら呟く。

「知らないよ。だいたい何で僕が何時までも寝てる所為なんだよ?」
「ああ、ネオが呼んでるんだ。ブリーフィングらしい」
「なるほどね」
「先に行くから!放せ!」

マユはステラを振りほどくと、ブリーフィングルームへと走って向かった。
ステラはマユに振りほどかれても、諦めずにマユを追いかける。アウルは、その奇妙な光景に呆然としていた。

「何なんだ……あれ?」
「さあな」

スティングは、その言葉にアウルの記憶の消去が上手く行ったのを実感していた。アウルの方こそステラの変化の秘密を、より実感しているのだから。

「それより行くぞ」
「ああ、でもブリーフィングってザフトが近付いてきたって事かな?」
「多分な……今度こそ赤い奴、セイバーを倒してやる」
「頑張れよ。どうせ僕の相手はインパルスだろうな」

その台詞にスティングは顔を顰める。アウルに頼まれてはいたが、言うか言うまいか悩んでいたのだ。
しかし、アウルは言われずとも、インパルスは自分の獲物だと認識していた。
それが、これまでの戦闘経験から来る当然の予測か、それとも最適化のカプセルでも消せなかったアウルの決意かは分からないが、アウルの決意だった場合を尊重して後押しをする。

「そうか、せいぜいマユやステラに獲物を奪われないようにな」
「分かってるって」

ブリーフィングルームに集まった4人を見て、ネオは上機嫌だった。

「仲良くなれたみたいで、なによりだ」
「煩い変態!」

ステラにくっ付かれたマユの悪態にもネオは笑ってやり過ごして、そのまま説明を開始する。

「ジブラルラルを出航したザフト軍がダーダネルス海峡の手前で停止した。その少し前にディオキアからも艦隊が出発している」
「ダーダネルス?随分と慎重だな。普通だったらクレタ島とロードス島の中間当たりで合流しねえか」

スティングが疑問を挟む。スエズに進行するなら、ジブラルタルからならクレタ島を経由して南東だがダーダネルス海峡はクレタ島から北東に位置するのだ。わざわざ北上せずともクレタ島の東部で南下するディオキア艦隊を待って合流する方が自然だと思えた。

「それだけディオキアから出てくる艦隊が大事なんだろ」
「なるほど……アスラン・ザラが出てくるか」

スティングはザフト軍の慎重すぎるほどの合流場所に納得した。
各個撃破を防ぐと言うより、ジブラルタルの艦隊を足止めされてる間に迂回してディオキアの部隊を襲撃されるのを恐れたのだろう。

「そんなわけで、俺達はアスラン・ザラが率いるザフトの大艦隊を迎え撃つ事になるんだが、我がファントム・ペインの任務はと言うと…」
「ミネルバだろ。もっと正確に言うならアスラン・ザラの首」

スティングの指摘にネオは頷く。

「そうだ。おそらくアスラン・ザラはミネルバに乗艦している」
「でもさ、そう思わせといて別の船に乗ることだってあるんじゃ?」

アウルの質問にネオは首を振りながら、アスランが何故前線に出てくる必要があるかを掻い摘んで話した。

「つまり、解放者アスラン・ザラここにあり!って感じに宣伝してるんだ?」
「そういう事。つまり奴さん小細工が出来ないって訳よ」
「だが、護衛が半端じゃ無えだろうな……アイツ等だって居るし」
「アイツ等?」

マユが興味を持ったようなので、ミネルバのMS部隊の説明をする。
それを聞いたマユはガルナハンで戦った事を思い出す。

「ああ!あの混戦慣れしたウザイのとへぼパイロットか」

そのまま、ガルナハンでの戦闘の事を伝える。

「へぼって……」

スティングは頭を押さえた。最初に会った日、喫茶店で妹の可愛さを熱弁するシンを思い出しながら、シンが聞いたら間違いなく泣くだろうと思った。何しろ言ったのは最愛の妹なのだから。
スティングの表情にも気づかずマユはシンが聞けばさらに傷付く事を言い放つ。

「赤いのは兎も角、もう1機だったら楽勝だけど?」
「頼もしい言葉で嬉しいが、マユにはミネルバに集中してもらう」
「なんで?別にミネルバの護衛してるんなら先に片付ければ良いじゃない?」
「奴が水中にいてもか?」
「う!……無理」

アウルを見ながら諦める。以前、アウルと戦った時、水中の敵の倒しにくさを痛感していた。

「そこでセイバーはスティングに押さえてもらう」
「分かってる」
「そしてアウルにはインパルスを押さえてもらうが……まあ、奴が空中にいるようだったらマユに任せてアウルがミネルバを…」
「ダメだ!」

突然のアウルの大声に全員が息を呑む。だがアウル本人が驚いた表情をしていた。

「あれ?……ゴメン」
「どうしたんだ?アウル……お前そんなにインパルスに拘ってたか?」

ネオが不審に思い声を掛けるが、アウルは自分でも、何故マユにインパルスを落とさせたくないか分からなかった。

「気にしないで良いって、ただアイツは自分で倒したいと思っただけだよ」
「そうか……だったら続けるぞ。インパルスの出方によって、アウルかマユが押さえて、残った方がミネルバを叩く。ステラはJPジョーンズの甲板で待機だ。場合によっては空母で前に出る事もある」
「は?正気かよ?」
「正気だ。アスラン・ザラの首を採れるなら、空母一隻くらい惜しくは無い。それこそミネルバに体当たりをして、ガイアに斬り込ませる事も視野に入れているぞ」
「正しく決戦ってわけか」
「そうだ。何か質問はあるか?」

ネオは4人を見渡すが、誰も質問はしてこなかった。

「では以上だ!さあ、派手にやるぞ!」

ネオが気合を入れると、それぞれのMSの元へと向かった。

ミネルバのブリーフィングルームでは、ゼクスを中心にブリーフィングが行われていた。

「最初に言っておく。ミネルバ隊の最大の目的は艦の防衛だ。敵を討つことでは無い。
 そして、ミネルバは旗艦ではあるが事実上の指揮官はウィラード隊長になる」

名目上の指揮官はアスランだが、実際のスエズ攻撃部隊を引き受けるのはウィラードだった。
既に、その事を全員が理解しているのでレイが代表して確認を取る。

「つまり、我々はウィラード隊長が率いる部隊がスエズを落とす間、こちらを攻撃してくるであろう連合の部隊を迎撃するのですね?」
「そうだ。なにしろミネルバにはザラ大使が乗艦しているのだ。全力を挙げて叩きにくるぞ」
「アイツ等も来るでしょうか?」
「ほぼ間違いなく……おそらくはガルナハンで交戦したカラミティもな。マハムール基地を落とした時はカオス等と共にいたらしい」

シンの眼に怒りの炎が灯る。あの屈辱は忘れられなかった。その表情を見たゼクスは諭すようにシンに指示を下す。

「シン、気持は分かるが貴様はアビスを抑えて貰わなくては困る」
「で、ですがアイツを抑えられるのは…」
「ミネルバの護衛は我々だけでは無い。グフやバビ、さらにはアッシュも大勢居る。幸いカラミティは飛行能力は無いから、上空からの集中砲火を浴びせる事になっている。避けられてもミネルバには近付けさせん」

シンも納得するしか無かった。アビスの場合は集中砲火も魚雷がメインになるため回避される可能性が海上のカラミティよりも高くなる。

「それとレイ、貴様には例の隊長機を優先して落として貰いたい。出来るか?」
「やります」

レイは、戦場で最も厄介なのはカオスやカラミティよりも指揮官のネオだろうと思っていたので、喜んで命令を受諾する。あの男さえ先に落とせば、大量に来るであろうウィンダムの部隊の戦力は激減するはずだった。

「そしてルナマリアは遊軍だ。基本的にはレイのサポートになると思え。だが最優先はミネルバの防衛だ。もし近付く敵が居たら、そちらを優先しろ」
「了解です」
「それでは各自、MSで待機だ!」

シン達はゼクスに敬礼すると、それぞれの機体へと向かった。

そして、ついにスエズ運河の連合基地に対して、ザフト軍の攻撃という形で先端が開かれた。
ザフトと連合の将来を決めると言っても過言では無い、重要な決戦が。
ザフト軍の総大将アスランはミネルバのブリッジにシートを与えられ、そこに腰を落ち着けていた。
ミネルバのブリッジで戦況を見守るのは、アーモリーワンを出てガンダム強奪犯を追撃したとき以来だったが、あの時と今回では立場が大きく違う。

「大使、先鋒が敵部隊と交戦状態に入りました。本艦はこの場で待機します」

タリアが戦況を報告してくれる。アスランは一応の指揮官である自分に気を使ったのだろうと苦笑した。
だが、今は良くてもミネルバに敵が襲ってくればタリアにはそんな余裕は無くなるのは明らかだった。

「艦長。今後は細かい報告は不要です。モニターでおおよその戦況の理解は出来ますから」
「了解です」

タリアは笑みを漏らすと指揮に集中しだした。それを見てアスランは自分がこう答えるだろうとタリアは予測していたのだと理解した。
アスランの見守る中、戦闘空域は広がりを見せ、ミネルバの防衛部隊にも連合軍が襲いかかり始めた。
しばらくは膠着状態が続いていたが、アスランの眼は一部押され始めているのを確認していた。
それはメイリンの報告で確定となる。

「10時の方向、ミネルバ防衛部隊が連合軍に押されてます!」
「敵が何者かは判る!?」
「ジャマーの干渉が強すぎて、まだ機種は判明出来ません!」
(アイツ等が来たな)

アスランの心の中では敵が判明していた。おそらくタリアも同様の答えを出してるだろう。

「MS発進準備!10時方向の敵の迎撃に向かわせて!」
「了解!」

突出したマユはカラミティで海上に立ち往生していた。

「数が多すぎ! 武器の選択間違ったか」

今回はターゲットがミネルバという事もあり、左右の手、両方共にバズーカーを持たせていた。
だが、予想以上に防衛のMSがいて、上空から集中砲火を浴び、避けるのがやっとだった。

「マユ! いったん下がれ。俺とスティングで制空権を取る!」
「はぁ~い」
「行くぞスティング!」
「おうよ!」

ネオはカラミティを下がらせ、カオスとウィンダム部隊を率いて、ザフトの空中戦MS部隊へ攻撃に向かう。

「コイツ等、ザクじゃ無えな」
「新型か?気を付けろよ!」

グフの姿を確認するとネオはビームライフルを放つ。しかし目の前のグフは予想以上の機動性を発揮しライフルを避けながら中距離で4連装ビームガンを放ってくる。

「さすがは新型。良い動きだ……だが!」

ネオはグフの性能をウィンダム以上と認識するが、遠距離用の装備が無い事を見抜き、長距離戦に移る。

「温い事をやってんじゃ無えよ!」

だがスティングは一声吼えると、カオスを突進させグフの部隊に切り掛った。

「スティング! 無茶は止せ!」
「馬鹿言ってんじゃ無え!今回の勝負は時間も重要だろうが!」

スティングは叫びながらグフをビームサーベルで切り裂く。そして別のグフのスレイヤーウィップを避けるとシールドに内臓された近接防御機関砲、ピクウスを放って撃墜した。

「第一、こんな連中に何時までも手間取っていたら奴等相手にどう対応するつもりだ!?」

スティングの意見は強引だが正論でもあった。ネオは今回の戦闘を決戦だと思っておきながら、いざ戦場に出ると、普段どおり味方の被害を抑えることに集中しだしているのに気付く。
だが今回は、それではダメなのだ。この機会にアスラン・ザラを討たねば連合が勝利するのは不可能に等しい。

「よし!前に出るぞ!」

ネオは部隊を率いて強引な突破を試みる。スティングが前で暴れているので隙を突いて攻撃する事が可能となっていた。やがてザフト軍は押され始め、海上に気を回す余裕は無くなっていた。

「行けるかな?……良し」

マユはカラミティを前進させる。ミネルバの船体にありったけの弾丸を叩き付けることを考えながら。

セイバーで戦場へ向かうゼクスの眼に、押されて崩壊し始めるザフト軍と圧倒的な機動力で敵を蹴散らすカオスの姿が映った。

「やはり腕を上げたな……だが、これ以上は好きはやらせん!」

セイバーのアムフォルタスをカオスに向け放つ。元より当たるとは思っていなかったが、予想通りカオスは避けると、こちらに向かってきた。

「来たな!今日こそ仕留めさせてもらうぞ」

ゼクスはセイバーをMS形態に変えるとカオスを迎え撃つべくライフルを構える。
スティングは、銃口を向けられながら、まるで恋人に手を差し伸べられている様な感覚を覚える。
ずっと待ちわびていたのだ。セイバーと再び戦える日を。2度に渡り自分に敗北の味を教えた相手を倒す事を。
そしてセイバーがビームライフルを放ってきた。

「今までの俺と思うな!」

スティングは吼えながら兵装ポッドを展開させ機体を上昇させる。

「何!」

ゼクスはビームライフルを撃った瞬間に、カオスが信じられない勢いで上昇した事に驚きを禁じえなかった。
さらにカオスは上空から猛禽の如く襲い掛かってくる。その動きは以前の比では無い。

「腕を上げたとは思っていたが、私の予想を上回るか!」
「今日こそテメエを倒してみせる!」

スティングとゼクスが交戦状態に入った事はネオの眼にも入った。スティングの好きにやらせたい気持はあるが、スティングが落とされた場合を考えて支援をしようと近付く。
だが、近付いた時、身体を電気が流れるような感覚が奔り、意識をその感覚が流れてきた方向に向ける。

「白い坊主君か、君も新型に変えたようだな」

ネオは自分に向かって真っ直ぐに突っ込んでくる白いグフに言った。通信機も使わずに言ったその言葉は何故か白いグフのパイロット、レイの耳に届く。

「……何故、お前の言葉が届くのか、何故、お前の存在を感じるのか、不思議ではある」

レイは静かに呟くが、すぐに自らの言葉を今度は力強く否定する。

「だが、今はどうでもいいことだ!何故なら、お前の存在はザフトにとって危険だからな!お前はここで倒す!」
「いい覚悟だ!」

ルナマリアは少し離れた位置でレイが目標の隊長機に取り付いた事を確認していた。
支援を考えたが、上空での戦闘が激化している隙にミネルバに向かって海上をホバー走行しているMSを見つけてしまった。

「レイ、悪いけど支援はしてあげられない。何とか1人で頑張って」

返事は期待せずに一方的な通信を入れると、海上を走るMS、カラミティへと進路を向けた。
ルナマリアは上空のバビの編隊に合流し、カラミティへと集中砲火を浴びせる。

「はん! この程度で!」

だが、多くの戦力がネオの率いる空戦部隊との戦闘に割かれているため充分な弾幕を形成出来なかった。

「これじゃあ、ミネルバの射程に届いてしまう」

ルナマリアは焦燥を感じるが、瞬時に次の作戦を思いつく。もっとも作戦と言っても賭けに近いものだったが。

「アンタが私の読み通りの性格でありますように!」

祈りに近い言葉を大声で叫ぶと、ルナマリアは高度を落としカラミティの背後に回った。
ルナマリアはカラミティのガルナハンでの戦闘の様子を聞いて、パイロットは非常に好戦的な人物だと分析していた。そうでも無ければ、ワザワザ敵の真ん中に突っ込んだり、敵のMSを盾にはしないはずだ。
そして好戦的な人物なら背後から攻撃されて黙っているはずが無いと考えた。

「当たって!」

ルナマリアは背後から4連装ビームガンを放つ。だがカラミティは後ろに眼があるかの様に、あっさりと回避してしまう。

「だったらコレで!」

ルナマリアはさらに近付くとスレイヤーウィップを背中に叩き付ける。カラミティもこの回避至難の武器まではかわせず、背中を打たれ、中のパイロットを電撃が襲う。

「このぉ!よくもやったわね!」

ルナマリアの予想通り、好戦的なカラミティのパイロットのマユは、ルナマリアのグフに向けバズーカーを放ってきた。

「釣れた!」

ルナマリアは一声上げると高度を上げ、カラミティと距離を開ける。

「逃すもんか!」

マユは釣られたとも気付かずに目標をミネルバからルナマリアのグフへと変え、その後を追い始める。

「上手く釣れたんだけど、ここで当たったらシャレになんないわね」

周りを優れたパイロットに囲まれているルナマリアは、自分の力を過信する事は無く、シンを圧倒したカラミティを自分以上の戦力と計算し、周りに援護を要請する。

「バビ部隊、カラミティは背後から攻撃して下さい!」
『了解した!』

ガルナハンやマハムールでのカラミティの噂を聞いていたバビのパイロットは、ルナマリアの指示に素直に従い、背後から攻撃を開始した。

「どいつもこいつも鬱陶しい!」

集中砲火を避けながらバビに攻撃するカラミティを見ながらルナマリアは長くは持たないと予測した。

「やばいわね……レイは互角だろうし、隊長がカオスを片付けるのを待って……って、ウソ!」

ルナマリアはゼクスならカオスに勝てると信じきっていたが、カオスは兵装ポッドを利用した変則的な動きをみせ、ゼクスのセイバーと互角の戦いを繰り広げていた。

「グゥゥゥゥ!」

スティングはコクピット内で獣の様な唸り声を上げていた。そうでもしないとGに押しつぶされ意識を失いそうだからだ。

「これでも、届かねえのかよ!?」

そして、スティングは苛立ちの声を上げる。随分と鍛えてきたし、狙い通りカオスの機動力はセイバーの動きを上回っている。かつて、今のカオスほど動けるMSは無かったはずだ。ヤキンで名を知らしめた
フリーダムよりも高い機動力を誇っているのだ。
それでもセイバーはカオスの攻撃を避け、更には反撃も加えてくる。

「兵装ポッドを、あのように使うとはな」

しかし、ゼクスもまたカオスの動きに半ば翻弄されていた。これまでセイバーでも避けれたのは、元の世界で高機動のMSとの戦闘経験のおかげだった。
そして、自分自身がかつて無い高機動型MSトールギスに乗った事を思い出す。あらゆる常識から逸したMSだった。そのため最初に操縦した時は自らの身体を壊し、さらには部下まで失った。
だが、常識を超えるとはそういうものだ。そしてカオスのパイロットに過去の自分を重ねる。
おそらく彼は、かつて自分がガンダムを倒すためにトールギスを手に入れた様に、自分を倒すためにカオスを改造したのだろう。そして常軌を逸した動きに苦しんだであろう。
ゼクスは盾を構えて突っ込みビームサーベルで斬りかかる。カオスもまたビームサーベルをシールドで受けビームサーベルで斬りかかってくる。それをゼクスがシールドで受けると互いのMSが密着した。

「貴様の名は!?」

接触回線を開き、ゼクスが問いかける。ゼクスは知りたかった。過去の自分と同じ道を歩みだした男の名を。

「は?」

だが、スティングは素っ頓狂な声を上げる。まさか戦闘中に名を聞いてくる時代掛かった人間がいるとは思っていなかった。
だが、ゼクスは勘違いをして先に名を告げる。

「すまなかった。確かにこちらから名乗るのが筋と言うものだ。私の名はゼクス、ゼクス・マーキスだ!」

スティングは理解した。これが自分が目指した男なのだと。まるで軍人と言うより、時代劇のドラマから抜け出してきた騎士ではないか。
そして身体中を歓喜が奔り抜ける。自分は、この男に戦士として認められたのだと。遠かった男の目の前に届いたのだと。

「スティング……スティング・オークレーだ!」

その若い猛りに満ちた声にゼクスは満足した。思っていた通りの男だと。
この男の前で、機体の動きが重いなど言い訳はしない。例えセイバーが稼動に耐えられずに砕けたとしても後悔は無い。

「良くぞここまで強くなった!だがスティング・オークレー!貴様はここで倒す!」
「いいや!落ちるのはテメエの方だ!ゼクス・マーキス!」

両機は少し距離を離すと、セイバーがビームサーベルを振り下ろす。それをカオスは強引に横に移動してかわすと、ビームサーベルを横薙ぎに払ってセイバーを狙う。

「させるか!」

ゼクスは蹴りでカオスにダメージを与えるのと同時に距離を取る。だが、スティングも今の攻撃でゼクスを倒せるとは思っていないし、蹴りの衝撃程度、今のスティングには何の影響も与えなかった。
そして、お返しとばかりにビームライフルを放つ。

「……凄い」

ゼクスとスティングの戦いにルナマリアは息を呑んでいた。この戦場において、あの2機は別格だと思えた。

「でも、私だって」

ルナマリアは自分の使命を思い出し、カラミティの牽制に向かおうとする。カラミティは再びバビ部隊に囲まれ、立ち往生している。上手く行けばバッテリー切れを起こすだろう。
そう思ってカラミティに進路を向けたとき、眼の端に異形の影が差し込む。

「アレって!?……悪趣味1号!」

それはザムザザーの編隊だった。向かう先は考えるまでも無くミネルバだった。

「ミネルバ!聞こえますか!?」
『お姉ちゃん?』
「メイリン、ザムザザーの編隊が向かって来てる!艦長に指示を出させて!」
『指示って……』
「バビの部隊はそのままカラミティを! グフは出来る限り連合のMAに向かえって!」
『は、はい!』

ルナマリアは返事を聞かずに自分のグフをザムザザーに向ける。あの機体ならスレイヤーウィップが有効だと認識していた。

「私だって、やれるんだから!」

シンは海中から海上の戦況を見守っていた。特にカラミティには借りを返したい気持が強い。
先程、カラミティがミネルバに近付いたときは迎撃しようとしたが、ルナマリアが上手く引き寄せて、現在はバビが抑えていた。
その様に激しい攻防を見せる海上に比べ海中は静かなものだった。

「何をしてるんだよ?」

シンはアビスが一向に近付いて来ないことを不審に思っていた。何時もならカオスらと同時に襲撃してくるのに、今回はゼクスがカオスと交戦してから、かなりの時間が経過していた。

「もう少し前に出るか?……それより一度上に上がるか」

シンはアビスが来るまでは、フォースに換装して上空での迎撃に参加しようと思い立ちミネルバに通信を入れる。

「メイリン、アビスは来る気配が無い。一度フォースで上空に出るぞ」
『了解!フォースシルエットを…って、下から!』

シンはメイリンの狼狽した声に驚き、状況を問いただす。

「メイリン!どうした!?」
『アビスがミネルバの真下から攻撃を仕掛けてきてるの!』

アビスはかなりの深海から近付き、ミネルバの真下で上昇を開始していた。そしてレーダーにかかった時は、すでに魚雷の射程内だった。

『シン!急いで戻って!魚雷くらいなら耐えられるけど』

ミネルバの頑丈な装甲なら魚雷では簡単に落ちないが、海面に上がられビーム兵器の攻撃を至近距離で喰らえば、いくらミネルバでも撃沈されるだろう。
シンは舌打ちを打つとミネルバに急いで戻る。上手く誘われたと憤っていたが、ミネルバの方向からアビスが近付いてきた。

「どういうことだ?何故ミネルバへの攻撃を続けない!?」
「これで……」

アウルは魚雷でミネルバを落とす事は難しいと分かっていたし、海面に出れば他の護衛のMS、さらには戻ってきたインパルスとも交戦しなければならないのも分かっていた。
そうなれば、いくらアビスでも持たないだろう。

「途中のズルは無しだぜ!」

だからインパルスとミネルバの間に入り、デュートリオンビームでのエネルギー補充を絶ってから、確実にインパルスを落とす作戦に出たのだ。

「喰らえよ!」

アウルが魚雷を放つ。だがシンは、高速で襲ってくる魚雷をバズーカーの弾で撃墜する。

「嘘だろ!」
「今までの俺と思うなぁ!」

シンはガルナハンでの戦闘の後から、ゼクスにインパルスを限界点まで操れると言われるほどまで鍛え込まれていた。以前、インド洋で交戦した時のシンとは違うのだ。
さらに、今のシンには負けられない理由が出来た。

「必ず勝って停戦に導いてやる!」

ここで勝てばアスランが停戦に漕ぎ着けてくれると信じていた。彼ならコーディネーターとナチュラルが共存できる世界を築くだろう。そして、やがては今回支配圏にしたヨーロッパ以外でも共存の利点に気付くはずだ。それは今のように憎しみ合う世界より、よほど素晴らしい未来とシンは確信する。

「そして、ステラと!」

シンは手に入れてしまった。ステラという決して無くしたくはない存在を。彼女がマユの様に戦争の犠牲になっては耐えられないと気付いてしまった。
だからこそ戦争は終わらせなくてはならない。ステラだけでは無い。彼女の友人のアウルやスティング、ガルナハンで出会ったコニール等のためにも。彼女達を守りたいという意思とアスランへの信頼がシンの力と成り、インパルスに強大な力を与えていた。

「落ちろよ!」

アビスの魚雷を避け、バズーカーを放ちながら接近する。バズーカーは避けられたが、接近しての対艦刀の一撃がアビスを叩いた。

「ぐっ! クソッ!」

PS装甲の性能で破壊は免れたが、衝撃がアウルを襲い、エネルギーを奪っていた。

「コイツ……なんで!?」

アウルはインパルスの動きが良くなっている事に驚きを禁じえなかった。
ミネルバより先に確実に仕留めるつもりだったが、そう簡単には行かないと理解した。
しかし、引くわけには行かない。何故なら、ここで自分が仕留めなければ、ステラとマユが戦う可能性があるからだ。アウルには何故2人とインパルスを戦わせたくないかは分からなかったが、理由を考えるのは
止めていた。
だが、アウルは自分の直感を信じていた。記憶を消される彼の運命なのか、この感覚に逆らうと何故か大切なものを失っていく感じがしてきたのだ。
否、それは感じだけでは無い。エクステンデッドの記憶操作は完璧では無かった。何かの拍子に思い出す事が、これまで幾度かあった。それは訓練で友人を失ったり、或いは自らの手で殺めたりと、決して思い出したくは無いものばかりだ。
そして今、直感が訴えている。ここで自らの手でインパルスを倒さないと苦い思いをする事になると。

「負けるわけには……いかないんだよ!」

アウルはアビスをMA形態にすると、インパルスに体当たりを敢行し、組み付いて浮上を開始した。

その頃、宇宙でも先端が開かれていた。ハイネの率いる探索部隊がクライン派の秘密工場ファクトリーを発見したのだった。

「全機、逃げろ!」

だが、その発見を喜ぶ事は出来なかった。何故ならハイネの前に動いてはならないはずのMSが立ち塞がっていたのだ。

「コイツがビルゴ……化け物め!」

ビルゴは、そこら中を自由自在に飛び回り何機いるかも判明しない。ただビルゴのビームキャノンが火を噴くたびに、味方のMSから手足が失われていく。それは逃げ出す事さえ不可能な戦闘力だった。

「逃げるのが無理なら!」

ハイネは死中に活を求め、戦闘を仕掛ける。4連装ビームガンを放つが、ビルゴは最小の動きでかわすとビームキャノンを放ちグフのビームを放った右腕を奪った。

「まだだ!」

しかしハイネはビームガンを放ちながら接近していた。そこはスレイヤーウィップの射程内であった。

「コイツなら!」

ハイネはスレイヤーウィップをビルゴに巻き付ける事に成功していた。スレイヤーウィップの電撃なら装甲は関係なく内部に損害を与えられると踏んでいた。それが例え生身のパイロットでなくとも精密なコンピューターなら、ただでは済まない。
しかし、ビルゴはハイネの予想を上回る速さでスレイヤーウィップをビームを放って撃ち切り、続けてグフ本体に銃口を向ける。

「これまでか」

ハイネは回避不可能を悟り、諦めたが、目の前のビルゴは沈黙を保っていた。
それは、ほんの一瞬の時間であったろう。不審に思ったハイネの前でビルゴが真っ二つに裂け、続いて爆散していた。

「わりぃわりぃ♪あんまりウロチョロすっから手こずっちまった」

その陽気な声にハイネは自分を守った人物の正体を知った。

「わりぃじゃ無え!こいつ等はお前等の相手だろうが」

ハイネは自然とこぼれてくる笑みを隠せずに悪態を付いた。だが、その時ハイネの視界にデスサイズの背後に回ったビルゴが映った。慌ててデュオに伝えようとするが。

「んなこと言ってもよぉ~」

デュオは愚痴りながら、ハイネに言われずとも、背後に回ったビルゴに襲い掛かる。

「こいつ等……」

デュオはビームシザーズを一閃させると、ビルゴは後ろに少し下がって斬撃をかわす。デスサイズは勢いが余ったように体勢を流すが、デュオはその勢いを殺さずに一回転すると再びビームシザーズを一閃させ、今度はビルゴを切り裂くのに成功していた。
ハイネは、その素早く流れる様な動きに眼を見張っていたが、それを成したデュオは、とても戦闘中とは思えない口調で愚痴を続ける。

「……動きが変なんだよ。俺達が知ってるビルゴの動きとは何か違うんだよな」
「違うとは?」
「何か派手な動きするんだけど、地味って言うか」
「は?」
「上手くは言えねえが、俺の知ってるビルゴってえのは、もっと偉そうなんだよ」
「……訳が分からん」

ハイネはデュオの説明に呆れたように呟く。それに助け舟を出したのは、何時の間にか近付いていたトロワだった。

「俺達の世界ではMSは、力の象徴、どちらかと言うと支配の象徴だ。ビルゴの動きには、その意思が特に顕著に現れている。高い機動力を持ちながらPDによる防御を前面に出し、ことさら相手を威圧する様に動いていた」
「おう、それそれ!」
「後は力=数とでも言わんばかりに編隊を組み、お前達の言う『ナチュラル』の戦い方に近いやりかたをしていた」
「この戦力で編隊行動ね……最悪」

ハイネは編隊行動で威圧するように進んでくるビルゴを想像して毒づいた。

「でも、俺はこっちの方がやりにくいぜ」
「そうか?俺は背後の死角を庇いあわない分、こちらがやりやすいがな」
「トロワは良くても。俺は追っ駆けなきゃならねえんだぞ」
「2人とも、何時まで無駄話をしてるんです。まだ10機しか落としてませんよ」

カトルが会話に割り込み注意を促す。計算上は、あと50機のビルゴを落とさなくてはならなかった。

「ああ面倒臭えなぁ!アイツらウロチョロしすぎなんだよ!」
「それ、五飛にも言えます。彼も僕たちと同じ条件ですよ」
「同じじゃ無えだろ!絶対、アイツの武器の方が射程も長いし便利だって!」
「そんな事よりカトル、敵は見えるか?」
「それが……」

カトルも不審に感じていた。先程デュオが落としたのが10機目のビルゴだった。それなのに敵の増援は来ない。

「入って確かめれば済む事だ」

近付いてきた五飛が提案と言うより断言するように言ってきた。実際それしか無いだろう。

「そうですね。行きますよ。ハイネさんはここで待っていて下さい」
「待てよ。俺も行くぜ」

ハイネは拒否は認めないという口調で反対する。カトルはハイネの身を心配したが、この部隊の隊長は彼だし、内部の探索にはこの世界のハイネがいる方が良いと判断し、ハイネを守りながらファクトリーに
侵入した。

結果的に、カトルの心配は杞憂に終わった。何故なら危険を与えるべき敵がビルゴはおろか、ドムすら無かったのだ。
ハイネはカトルにファクトリーの探索の指揮を任せ、自分はトロワと引き連れてきた部下と共に、僅かに残っていたクライン派の技師たちを捕え詰問する。

「何故だ!ここがファクトリーのはずだろ!?」

いくらハイネが叫ぼうと、そこには隠蔽されていると思われたMSビルゴ、フリーダム、ドムの姿も戦艦のアークエンジェルとエターナルの姿も無かった。
そして捕えられた技師達は口を割ろうとはしない。ラクスへの歪んだ忠誠の賜物だろう。

「逃げたというより、場所を変えたと考えた方が良いだろうな」

トロワの答えは分かりきった事だった。ハイネはその拒否していた考えをはっきりと言われ膝を付く。

「じゃあ、なにか?俺達は任務に失敗したって事か?」
「そうだ。残念ながらビルゴは起動し、そしてラクス・クラインの身柄は未だに確保されていない。
 それどころか、何処に居るかも不明のままだ。認めなくてはなるまい。任務が達成出来なかった事を」
「……いや、まだだ」

トロワの冷静な返答を静かに否定する。その眼は怒りに染まっていた。

「こいつ等に洗いざらい喋ってもらうとする」

ハイネは技師達を睨みつける。捕えられた当初は、狂信者らしく自分たちの正しさを疑っていない態度で堂々としていたが、ハイネの狂気に満ちた眼に震え始めた。

「おい!こいつ等を連行しろ。絶対に自害などさせるな!」

ハイネは部下に指示を出すと、自分もファクトリーの内部の点検に移る。コンピューターからデーターは消されているが、何らかの情報が残っているかも知れなかった。

「まったく、世話かけやがる」
「おい、ハイネ、トロワ、見て欲しいものがあるんだ」

点検を始めたハイネとトロワにカトルの指揮でファクトリーの内部を探していたデュオが声を掛けてくる。

「何か見つかったか」

ハイネの期待に満ちた眼にデュオは否定するように手を振る。

「悪いが、期待には添えないと思うぜ。どっちかてぇと頭が痛くなるものを見っけた」

ハイネは露骨にガッカリした表情を見せるが、無視するわけにもいかない。

「イヤとは言えんだろ。案内してくれ」
「こっちだ」

デュオの案内で先に進むと、そこには左腕を外されたMSが置いてあった。

「コイツは!」

ザフトの、否、MSのパイロットなら全員が見覚えのあるシルエットにハイネは愕然とする。
そのMSにはフリーダムと並び称される最強クラスのMS『ジャスティス』の面影があった。

「知ってるのか?」
「多分ジャスティスの改良型だろう。フリーダムが居たんだ。こいつがあっても不思議じゃ無いな」

ハイネが頭を掻きながら答える。

「ジャスティスって言えば確か」
「ああ、アスランが乗ってたMSだ……それより左腕が付いてないのは何故だ」
「そいつが、また問題でよ」

デュオが呆れた口調で指差した方向を見ると、そこには2本のMSの腕があった。1つは盾の付いた腕で、グレーの色はPS装甲なのだろうと判断されるが、問題はもう1つの方だ。

「……何か見覚えのある色だな」

弱冠小型で、鞭のような物を装備されたシールドが付いていた。だがハイネは、その色に見覚えがあった。

「エピオンの腕か」

トロワの声にも呆れた口調がみえる。

「まさかとは思うが、この世界のMSに付けようとしていたのか?」
「どうやら、そうらしいぜ」
「理解出来んな。この世界のMSと俺達の世界のMSでは重量が違いすぎる」

トロワのMSヘビーアームズは、最初は左腕にだけビームガトリングガンを装備していた。それだけでも重量バランスが悪く、操縦に高度な技術を要求されるのだ。
しかし、それでもビームガトリングガンは左腕の10倍の重さは無い。もしジャスティスにエピオンの腕を付けてもバランスが悪いだけの出来損ないにしかならない。

「そんな事は馬鹿でも分かるだろ」
「それが分からねえ馬鹿だから狂信者って言われるんだろ」

ハイネも呆れた様に吐き捨てる。まるで自分たちの世界の住人が全員バカにされた気分だった。

「それで、どうする?」
「どうって……持って帰るしか無いだろ。エピオンの腕は本体と一緒に封印して、ジャスティスの方は元の腕付けて……その辺は議長に相談だな」

ハイネは指示を出すとジャスティスを見詰め、アスランの事を考えた。
今頃はスエズ攻略に専念しているだろう。そこにラクスが来ないことを今は祈るしかなかった。