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W-DESTINY_第21話1

Last-modified: 2007-11-10 (土) 22:01:33

「ラクスが?」
ウィラードは自ら追撃戦の結果をアスランに報告していた。その眼には怒りが見える。
それもそのはず。追撃をラクス・クラインに、目の前にいる男の婚約者に邪魔されたのだから。
「やってくれたな!」
しかし、アスランが狼狽どころか、彼の外見や噂からは予想も出来なかった怒りの声をあげ、拳を テーブルに叩きつけた。その様子にウィラードの方が息を呑んだ。
「詳しく状況を聞かせてもらいましょう」
アスランは呼吸を落ち着けながらウィラードを促す。
説明の最中、ウィラードは気が気では無かった。話を進めるたびに、目の前の上司から殺気とも思える怒りが湧き上がってきてくるのだ。とても軍から身を引いた人間には見えなかった。
「とうとう使ったか……馬鹿なマネを」
追撃の最中に戦いを止めろと呼びかけながら、撤退する連合を庇うように立ち塞がるアークエンジェルと見たことも無い黒い小型のMS。確認されたのは、たったの5機だが、それだけでザフトの部隊を1人の死者を出す事も無く退けてしまった。
「知っておられるのですか?」
「……この事は他言無用に願います。そしてザフトの最重要機密と心得てください」
そうして、アスランは語り始めた。ラクスが姿を現した以上、自分たちだけでは対処不可能と悟り、ラクスを信奉していないウィラードだからこそ、語れる秘密を明かす。
「そんなバカな!」
話を聞き終えたウィラードは当然の反応をする。異世界から来た兵器など、マトモな頭の人間から出る言葉では無かった。
「ですが見たのでしょう?」
「……ビルゴ」
ウィラードは俯くしかなかった。言われてみれば納得も出来る。それ程、あのMSは異常だと言えた。
「それで、今後の対応ですが、基本的には予定通り、連合との停戦を進めます」
「はい」
「それに際して、各地で小競り合いが起きないように慎重に行動していただきたい」
「つまりは、ラクス・クラインの所有するビルゴの存在が、これ以上公に成らないように?」
もし戦闘が起これば、ラクスが出てくるだろう。そうなれば連合にもザフトに楯突く第3者の存在が知れ渡り、停戦が難航するのは目に見えていた。手を組まずとも敵の敵が味方なのは違いが無い。
しかも、それがラクスだと知ればザフトからも造反する者が現れるかも知れなかった。
「では、ヘブンズベースは如何します?」
「それも当初の予定通りに」

それは、停戦を早く、かつ有利に運ぶために攻撃が検討されている基地だった。
大西洋連邦の本土と言うべきアメリカ大陸とヨーロッパ大陸の間に位置する巨大な基地。
これを下すか、下さずとも包囲するだけでも、この次は本土を攻撃されるという事は誰にでも分かる。
「もし、そこに来ても対応は出来る」
「デュランダル議長の元に居る異世界の戦士ですね」
「ええ。兎に角、我々としては与り知らぬ所で戦闘を起こしたくは無い」
「了解しました」
ウィラードが敬礼すると、ドアがノックされ何者かの来訪を告げた。そしてアスランには、その人物の検討が付いていたので、入室を促す。
「失礼します。例の資料をお持ちしました」
ゼクスが入室すると、ウィラードは息を呑んだ。これまでは胡散臭いが、優秀なパイロットであり、プラントを救ってくれた恩人だと思っていたが、今はその正体を知っている。
異世界から来たコーディネータ以上の戦闘力を持つナチュラル。
「ゼクス。ラクスが現れた。ウィラードの率いる追撃部隊を退けている……ビルゴを使ってな」
ウィラードは2人の会話を黙って聞いていた。やがてゼクスがウィラードに向き直り、改めて自己紹介をする。
「何かと迷惑をおかけします」
「いや、こちらこそ当てにさせてもらう。異世界から来た戦士よ」
ゼクスは恰幅の良い、重厚そうな人物にアスランが事実を話した事を納得していた。この状況にも動じる様子は見られない。
「ところで、今もって来た資料の中身は関係があるのでしょうか?」
ウィラードが尋ねる。少しでも情報を集めたがるのは軍人としても理解できた。
「あると言えばあるかな……」
アスランは、その資料を広げながら呟く。
「今回の戦闘で拿捕した空母に、奇妙な物があった。その件なのですが」
「奇妙な物?」
「人が1人入れるサイズのカプセルが3つ、どうやら記憶などを操作できる模様です」
ゼクスの説明にウィラードは首を傾げる。何故そんな物が空母にあるのか。
「停戦に向けての大きなカードになるはずだ」
そう呟くアスランの眼は力強く輝いていた。その姿は、他にも理由があるとウィラードには思えたが、黙って資料を覗き込む。そこには“エクステンデッド”と書かれていた。

メイリンは、スエズ基地の病院の一室で、姉が目覚めるのを待っていた。
至る所に包帯を巻かれた姿は見ていて痛々しいが、それでも時々聞こえる寝言に安堵していた。
「それにしても、どんな夢見てるのよ?」
時々聞こえる単語には不穏な響きがあった。「靴をお舐め」とか「シンは私のペット」とか危うくツッコミを入れそうになるのを我慢していた。
「う~ん……あれ?」
「お姉ちゃん!」
ルナが目を覚まし、当たりの様子を伺う。
「あれ?……私、何か楽しい夢を見てた気が……」
「多分、思い出さない方が良いよ」
「メイリン?……ここ何処?」
「スエズ基地の病院。お姉ちゃん、酷い怪我したから」
「え?……ってことは勝ったんだ」
「うん」
ルナは、思考が定まらないまま、記憶を掘り起こす。ガイアの攻撃を受けた後、ミネルバに戻り……
「そうだ…… ザクに乗り換えようと思ったら、ヴィーノがドリンクを渡してきて……ストローが無いからヘルメットを取ったところで」
ルナは状況を理解して頭を抑えようとしたが、苦痛に顔を顰める。
「イタタタ……まいった。ヴィーノに一杯食わされたか」
「動いちゃダメよ! 何箇所も骨折してるんだから。それにヴィーノが機転を利かせてくれなかったら、本当に死んでたんだよ!」
「ごめん」
涙交じりのメイリンの声にルナは素直に謝った。軽口を叩いたが、ヴィーノの行動は理解していた。
ワザとストローの付いてないドリンクを渡し、ヘルメットを取ろうとした瞬間に麻酔を打ったのだろう。
「本当に驚いたんだから……あの時って、何か飲み物を飲むだけでも死んでしまってたそうなんだよ」
「うわぁ~~脳内麻薬出しすぎだね」
「お姉ちゃんが活躍してくれるのは嬉しいけど、もし死んじゃったら」
「うん……気を付ける」
「うん。それとヴィーノにもお礼言わないと」
「分かってるって……そう言えば、皆は無事?」
「う、うん……怪我は無いよ」
その態度にルナは違和感を感じた。
「メイリン、何があったの? 正直に話して」

「シン、少しは落ち着いたか?」
「あ、ああ」
レイが話しかけてくるが、シンは俯いたまま生返事を返すだけだった。
シンは戦闘が終結した後、他のパイロット同様、休息が与えられていた。本来ならゼクスと共にアスランの護衛として、付いて行かなくてはならないのだが、今のシンにはとても護衛任務などは務まりそうにもないと判断された。
「前に言ったかな?」
「何をだ?」
「ガイアのパイロットが女だったって」
「……聞いた」
インド洋での戦闘で、シンはマイク越しとは言え、ガイアのパイロットの声を聞いていた。

――守ってくれた…ありがとう――
――ばいばい――

たったそれだけだが、その喋り方は、ある人物を連想させた。
更には、ゼクスからの情報にカオスのパイロットの名がスティング・オークレーだという事、そして何よりもアビスのパイロット、シンが笑いながら殺した人物は、紛れも無くアウル・ニーダ。友人になれたと思っていた少年だった。
「俺……殺しちゃったよ」
シンが頭を抱えて蹲る。レイはどう言葉を掛ければ良いか分からなかった。
「良い奴だったんだ。何か気が合ってさ……2度目に会った時なんて、俺ステラよりアウルと何時までも話してたんだ。そうしてたら、ステラが……」
「シン。お前は知らなかったんだ。彼等が連合の兵士だとは」
「そんなこと言ったって! それにアウルだけじゃ無い。ステラまで……俺、守るって約束したのに、守るどころか殺そうとしたんだ! 俺の方こそ守られたのに!」
「シン……」
「俺……楽しんでた」
シンは、戦闘中に流れてくる苦痛を紛らわすために、楽しんでアウルとステラを攻撃していた事に、身を震わす。あれが自分の本性だと思うと、自分の命を絶ちたいとまで思っていた。
「シン、今は休め」
レイにもそれだけしか言えなかった。ルナやゼクスだったら、もっと上手く言えるだろうと思いながら、自分の不甲斐なさを詰っていた。
「シン……いるかな?」
その時、ドアの外からメイリンの尋ねる声が聞こえてきた。

シンは1人で病院の廊下を歩いていた。メイリンからルナが目を覚ましたことを聞いたので見舞いに向かう最中だった。
レイも一緒に行くと思っていたのだが、彼は用があるからと後で行くと言って、シンを1人で先に行かせていた。
そして、ルナの病室の前に着き、ドアをノックする。
「ルナ……シンだけど」
「どうぞ」
中から聞こえた返事に従い、シンはドアを開けると、ベッドに横たわったルナが優しく微笑んでいた。
「ルナ……大丈夫?」
「平気」
「良かった……それとゴメン」
「何が?」
「俺……ルナが撃墜された後、助けにも行かずに」
「なんだ。気にしないで良いよ」
シンは、その言葉に黙り込む。今は誰でも良いから、自分を責めて欲しい気分だった。
「それよりも聞いたよ」
「え?」
「敵だったんだって」
シンは頷くだけで精一杯だった。
「これから……どうする?」
「これから?」
シンは意味が分からずに問い返した。それに対し、ルナは微笑みながら告げる。
「前にも言ったよね。過去は取り戻せない、やってしまった事は反省して、2度と繰り返さないようにするって、憶えてる?」
「あ?」
それはインド洋の基地を勝手に攻撃した事をゼクスに責められ、落ち込んでるシンにルナが言ってくれた言葉。
「他にも、私は何があってもシンの味方だって」
「うん……憶えてる」
世界はこんなにも暖かくて優しかった。それなのに自分は、何故かあの時、世界は冷たくて残酷なものだと信じて疑わなかった。
「変だよな……俺」
「どうかしたの?」
「何でも無い……ありがと」

「もう忘れたころかな?」
マユは最適化のカプセルに入ったステラを見ながら、隣にいるスティングに声を掛ける。
「ああ……そうだな」
スティングも頷く。目が覚めたらステラはアウルの事を忘れ去っているだろう。
「……なんか、羨ましい」
「マユ?」
「今回、初めてそう思った。嫌な記憶なんて忘れてしまった方が楽だって」
「そうだな」
「アンタは消せるでしょ? それなのに何で?」
行き過ぎた強化を受けたマユと違い、スティングは、まだ充分に最適化を受ければ、苦しみから逃れられるのだ。
「苦しくはあっても、絶対に忘れたくは無い。俺にとってアウルは、そんな奴なんだ」
「……そっか」
そのままマユは自嘲めいた笑みを浮かべる。
「その内に慣れるよ。どんな苦しさも」
「マユ?」
スティングが戸惑いながいながら、マユを伺うが、マユはその真意を誰にも悟らせはしなかった。
彼等と居ると、その暖かさがマユを苦しめる。2年前、九死に一生を得た後、ずっと人体実験の被験者として、地獄の日々を生きてきたのだ。
誰も助けてはくれない。やがて、マユはその日々を日常と思い定め、その冷たくて残酷な世界こそが 人の生きる世の中だと割り切っていた。
それゆえに、狂気に奔り、苦しみから逃避し続けてきた。
「……それなのに」
しかし、戦闘中に突然流れてきた感情がマユを再び狂わした。狂ってるものが、更に狂った結果、マユは、その暖かくて優しい世界を知ってしまった。
その上、決して自分を助ける者はいないと信じていたのに、アウルによって命を救われてしまったのだ。
そして彼等の優しさが、更なる苦しみを産むとしても、もうその温もりを否定することは出来ない。
だが、それでも狂気の炎は決して消えない。それゆえに、ぶつける相手を選ぶ。
「アイツが居る」
隣に居るスティングにも聞こえない小さな声で呟く。狂気の炎を憎しみへと変えてぶつけるに相応しい相手が居る。アウルを殺した相手が。
「アウルの仇は絶対に取るから」
マユを救ってくれた人物。彼が何故、自らの命を削ってまで自分を助けてくれたかは分からない。
しかし、アウルの命を奪った人間を絶対に許せないと思っていた。

その決意は、先程より大きな声で漏れたため、スティングの耳にも入っていた。
「悪いが、それは譲れねえな。奴を殺すのは俺だ」
その瞬間、スティングとマユの視線が交錯する。互いの憎しみを確認しながら。
「じゃあ、早い者勝ちだね」
「ああ」
互いに譲れないと思いながらも、スティングは自分の意思の方が強いと信じていた。
(マユとステラには、殺らせない。それがアウルの意思だった)
そう思っていると、ステラの最適化が終了し、ゆっくりとカプセルが開いていった。
「じゃあ、マユは行くから」
マユは、そう呟くと部屋を出る。アウルの事を憶えていないステラと会うのは辛かった。
それにまだステラの放つ温もりに身を委ねるのに抵抗があったから、何時もの様に抱きしめられたくは無かった。
「ああ、またな」
スティングも、それを察していたのか、別の理由か、何も言わずにマユを行かせた。
そして、黙ってカプセルの上で、目覚めようとするステラを見詰めていた。
「……ん?」
ステラは起き上がると当たりを、ゆっくりと見渡した。そしてスティングに目が留まる。
「スティング……あれ?」
そう口に出して、違和感を感じた。何かが足りないと。
そして、1つだけのカプセルを見る。自分が入るだけで、スティングとマユは薬を飲むだけで良い。
だから、問題は無いはずだった。
しかし、今までも1人で寝ていたのだろうかと首を傾げる。
「ねえ……他に誰かいなかった?」
ステラの質問に、スティングの顔がこわばった。
「ん?……どうしたの?」
「ああ……実はネオが怪我しちまってさ」
「うぇ! 大丈夫なの?」
「ああ、杖ついて歩いてるが、すぐに良くなるってよ。今から行くか?」
「うん……マユは?」
「どっかに居るだろ。なんせ猫みたいに気まぐれな奴だから」
「そう」
少しだけ寂しそうに頷くと、首に巻きつくペンダントに気付く。
「何……コレ?」
それを不思議そうにステラは摘んだ。

「……変なの付けてるな」
それは、シンからの……アウルを殺した奴からの贈り物だとスティングは知っている。
「取っちまえよ」
「ダメェ!」
突然、血相を変えて叫ぶステラにスティングは絶句していた。
「あれ?……ごめん、スティング」
「いや、良いって」
スティングは苦笑しながら頭を掻く。
「ごめんね……でも、これ……ステラの大切なものなの」
「知らないんだろ?」
「うん……でもね……なんか暖かい……きっとステラを守る」
ステラは、そう呟くと愛しそうにペンダントを両手で包み込み抱きしめた。
「そうか」
スティングは、その姿を見ながら、ペンダントを引きちぎりたい衝動を懸命に堪えた。
「それじゃあ、行くか」
「うん」
ステラは軍服の上着を着て、スティングに続く。
「ネオって、何処を怪我したの?」
「ああ、足を骨折したのが一番の重傷で、後は軽い打撲だそうだ」
「痛がってる?」
「そうでも無いぜ。アイツも頑丈だからな」
そして、出口に辿り着くと、もう一度振り返る。やはり何かが足りないとステラは感じていた。

『それにしても……アウルが死んだか』
「はい……申し訳ありません」
ネオが戦闘の報告を終えると、真っ先にジブリールはアウルの離脱の件を口にした。
すでに敗北したことは別のルートから聞いているだろうから、関心はファントムペインの戦闘にあったのだろう。
ゆえに、ネオは今回の敗北の理由が彼等には無く、自分がレイに抑えられたからだと伝えなくてはならない。間違っても彼等が働かなかったなどとは思わせたくなかった。
「私のミスです」
『貴様の?』
「はい。全ては私が敵に抑えられ、当初の予定通りマユをフリーに出来なかった事にあります」
『……なるほど。つまりは貴様が超人的な力を発揮し、抑えに来た敵を瞬時に打ち倒せば良かったと?』
「え?」
『自惚れるなよネオ。そんな理屈が通じるならマユは一瞬で敵を蹴散らし、ミネルバに向かえば良かった。
 スティングも、アウルもだ。それとも私が、そんな馬鹿げた注文をしてくる無能と思ってたか?」
「そ、そんなわけでは」
『貴様の考えは解っておる。大方、スティング達を庇いたかったのであろう?』
「はい」
ネオは観念するしか無かった。例え自分が罰せられようと、アウルを失い、その上残りの2人まで欠陥品扱いで処分されたらという恐れから、ジブリールの根本的な思想を考えずに口を開いた事を認めた。
『スティング達が大事か?』
「はい! それだけは断言出来ます!」
『ふむ。随分とアウルの死が堪えたようだな』
「これほど苦しいとは思っていませんでしたよ。あの子たちは戦いの道具と聞いていたのですが、俺には無理です。そうは見えません」
『そんな貴様だからこそ彼等を託した。そして貴様以外では使いこなせん事は実証済だ』
「ありがとうございます……それで彼等の処分は?」
『するわけが無かろう。彼等を育てるのにどれだけの労力を費やしたと思うのだ? 今回の件は、単に相手が一枚上だから負けた……もっとも、それが重要なのだがな』
「これで終わりなのですか?」
そう。それが重要なのだ。今回はただの戦闘では無い。言わば連合とザフトの決着を付ける決戦として挑んだ戦いだった。だからこそ敗北した以上、戦闘兵器であるスティングたちの処分を恐れたのだ。
『すでに停戦の交渉が水面下で進みだした』
「では俺達はアウルの仇も討てずに黙って見てろと!?」
ネオは相手の立場も忘れ怒鳴っていた。

「大声を出して申し訳ありません……ですが」
『ネオ、貴様は聞いたか?』
「は?」
話が噛み合っていないとネオは思ったが、ジブリールが無関係な事を言うわけが無いと思考を巡らす。
そして、1つの回答に辿り着く。言わばネオとジブリールが共犯して企てた事を。
「ラクス・クラインのことで?」
連合の撤退を手助けしたのはラクス・クラインだった。確証は無いし、ネオは病室のベッドの上にいたから、声も聞いていない。
しかし、ラクス・クラインと名乗る者がアークエンジェルに乗って現れた事は報告を受けている。
『そうだ。随分と登場が遅れたし、必ず現れる確証も無いから、計算から外していたが、彼女が予想通りザフトに敵対行動を取ってくれれば話は違ってくる』
「混乱は、まだ続くと?」
『他人しだいというのは気に喰わんが、贅沢は言っておれんよ』
「そうですね」
今になっては、藪を突付きようも無かった。すでに突付いたのだから。後は何が出てくるか、或いは何も出ないかは天に委ねるしか無かった。
『それでは貴様等の今後の予定は分かったな?』
「はい。次に戦闘をあると信じて、訓練を開始します。ミネルバのMSを倒すための」
今回は力及ばずに敗れたが、次こそは勝つ。そのために力をつけなければ成らない。
『戯け! 貴様は、まずは怪我の治療に専念しろ。そのままでは足手纏いだ』
「は……申し訳ありません」
『それに忘れるな。私は先の様な考え方が嫌いだと』
それは何も考えずに、ネオが言ってしまった言葉。ジブリールの思想を知っておきながら、迂闊だったとネオは悔やんだ。否、自分も心の中ではジブリールの嫌う安易な力の求め方をしていると気付く。
単純に力があればと嘆き、碌に解決策も考えず楽な方法を求める。それこそが……
『良いな! まずは先の戦闘から敵の戦力をもう一度計算しなおせ。特にインパルスのパイロットは
 予想していたものより遥かに上だ。今回は、それが最大のミスだった。解るな?」
思考を中断されたが、ジブリールの言わんとすることは充分に承知していた。
「了解です……そして、今出来る事を成します」
『それで良い。今後は怠るなよ』
最後に、それだけ言うとジブリールは画面から消えた。
「承知しております。盟主殿」
ネオは画面が消えてるにも関らず、己の主に決意を示しながら頭を下げた。