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W-DESTINY_第21話2

Last-modified: 2007-11-10 (土) 22:01:54

ハイネは自分の指揮するナスカ級のブリッジで、唇を噛んでいた。
「あんまりカッカすんなよ」
デュオが明るく声を掛けてくる。どのような状況でも態度を崩さない姿勢は見習いたいとは思うが、それほど上手くは行かないものだった。
「わかってるさ……だが、どうしてこうも後手後手にまわるかね」
ハイネは4隻のナスカ級を用意して、衛星軌道上に待機していた。それぞれに異世界から来たガンダムとそのパイロットを乗せている。ちなみに旗艦とも言えるハイネの搭乗艦にはデュオが乗っていた。
「地球に降りる前にケリをつけたかったのにさ」
そうして、地球に降下するであろうラクスを待ち構えていたのだが、配備が終わったときには、すでにラクスを乗せたアークエンジェルが地球に降下した後だったと、スエズ戦の追撃部隊が破れたことで知った。
「情報が漏れてるって事は?」
「案外、その方が良いような気もするがね。お前等の存在知ったら、無茶はしねえだろ」
ハイネはデュオの疑問を一蹴する。ラクスにはデュオたちの存在はまだばれていないと確信していた。
「いや、俺達の事じゃ無くてさ……俺だって、おめえ等が選んだ人間から情報が漏れるなんて思っちゃ
 いないさ」
そう言いながらブリッジのメンバーを見渡す。デュランダル、カナーバ、そしてハイネが信用出来ると選んだ人物たちだ。
彼等はデュオたちの存在を知り、それを誰にも漏らす事無く、この静かな戦いに参加している。
「すまねえな。そう言ってくれると助かる」
「別に世辞を言ったわけじゃ無えよ。それよりもラクスたちの情報網は、ハイネの動きを追ってるんじゃ無えか?」
「だとしたら、好都合だ」
「ん? 何でだ?」
「これだけやったんだ。少しは痛い目に合わせないとな……あの無鉄砲なお嬢様にな」
「少しね……だったら俺やカトルに当たる事を願ってろよ」
「どういうことだ?」
ハイネは現在、ヨーロッパ全土を覆う形で艦を配備している。それは地球への増援を防ぐのは勿論、地上にアークエンジェルが現れたら、1番近い者が降下するためだった。
そして、それはアークエンジェルが現れた時、誰が近くに居るか解らない事を意味していた。
「トロワと五飛は俺たちほど優しく無えぞ。少しじゃ済まねえ」
不敵に笑うデュオを見ながら、ハイネはこいつも危ないと感じていた。
(頼みの綱はカトルだけか……)

シンが病室から退室した後、ルナは涙が零れるのを我慢出来なかった。
「やっぱり振られたんだな……わたし」
シンの態度で判った。彼はステラを想っていると。
そして、ステラが敵だったと分かった今でも、シンに対して忘れろと言えず、かと言って素直に応援も出来ない中途半端な自分の態度が情けなかった。
その時、ドアがノックされて、メイリンの声が聞こえてきた。
「お姉ちゃん。入るよ……って、どうしたの!?」
涙を流している姉を見て、メイリンは驚きの声を上げる。
「シンに何かされた!? やっぱりシンって凶悪だったんだよ! 悪魔だったんだよ!」
オペレーターとして、シンの狂気に触れてしまったメイリンは、戦闘後からシンに苦手意識を持ち始めていた。
「ちょっとメイリン」
「カーペンタリアの時から変だとは思ってたのよ。偉そうなだけで無く、無駄に残酷で残忍で変態で……」
「だから待て! 特に最後の単語!」
ルナは、何とか誤解を解こうとすると、レイがメイリンの後ろから、彼女の頭を抑える。
「ちょっと、レイ」
「言いすぎだぞメイリン。それにシンはルナを苛めたりはしない……そうだな?」
「うん」
ルナが微笑みながら肯定したので、メイリンは何も言えなくなってしまった。
「それよりレイも来てくれたんだ」
「ああ、タイミングが悪かったがな」
「ゴメンね。変なとこ見せて」
「いや、俺の方こそ気が回らなかった。スマン」
レイは大凡の状況を理解していた。ルナはシンがステラに好意を抱いていると確認したのだろうと。
シンを元気付けて欲しくて自分は遅れて来たのだが、シンに好意を抱いているルナが、今の彼をどのような気持で見るかを考えなかった事を後悔していた。
「良いよ。前も言ったけど分かってた事だし」
「えぇ~と……何か飲み物買って来るね」
重くなり出した空気から逃げるようにメイリンが外に出て行った。
「あの子にも変な気遣いさせてるね」
「気にするな。それより本当に良いのか?」
「何が?」
「俺にはシンの気持が、まだ分からん。ただステラに死んだ妹を重ねてるだけの様な気もする」
「そうかな?」

ルナの期待を込めた視線に苦笑する。
「お前も諦めがつかん様だな」
「……そうかも」
「だったらシンに思い切って気持を伝えたらどうだ?」
「怖いな……それに、この状態じゃあね」
ルナは包帯だらけの自分を見つめる。ロマンの欠片も無いし、この格好で告白は脅迫してる様にも思える。
「ならば怪我が治るまでに答えを出したらどうだ。何時までも今の関係を続ける訳にも行くまい。
 考える時間が出来たと思え」
「そうだね……何時かは人の関係って、変わって行くんだろうし」
ルナは心の何処かで、今の関係がずっと続くのを願っていた。しかし、そろそろ答えを出すときが来たのかもしれない。
そんな事を考えていると、ドアがノックされ、新たな来訪を告げる。ルナの返事を聞くと、その人物は長身を室内に進める。
「隊長?」
「元気そうで何よりだ」
「わざわざ、すいません」
「気にするな。それより怪我の具合は?」
「大丈夫です! って言っても、暫くはお役に立てませんが」
「構わん。今は怪我を治す事に専念しろ」
「はい」
「ところでシンは一緒じゃ無いのか?」
「ええ、先に帰りまして…」
「お姉ちゃん。ヴィーノとヨウランもお見舞いに……って、隊長!?」
メイリンが売店で会ったヴィーノとヨウランを連れて戻るとゼクスの姿に驚く。
「賑やかになってきたな」
「これで、シンとアスランさんが居れば完璧だな」
「シン、呼んでこようか? ここに来れば少しは元気になるだろうし」
「シンは、もう先に帰ったぞ」
「ああ、それが来る途中に見かけたぜ。屋上に居るのを……やっぱりダメージ大きそうだな」
ヴィーノとヨウランが病院に来た時、屋上のフェンスにもたれるシンを見かけた事を伝えた。
「隊長、シンを元気付けてやってくれませんか……私たちじゃ無理だったんです」
ルナが懇願するようにゼクスを見詰める。
「ちょうど良い。奴には伝えねばならん事もある」
そう言うとゼクスは部屋を出て行った。残された者たちの期待の視線を感じながら。

シンは長い間、何を見るでも無しに、何も考える事も出来ずに、ただぼんやりとしていた。
「さまになっているな。まるで悩める詩人だぞ」
「え?……隊長?」
ゼクスの珍しい冗談にも反応出来ずに、シンは呆然としたままだった。
そして、先程まで優しげな笑みを浮かべていたゼクスは、一転上官として厳しい表情を見せる。
「貴様に伝える事がある」
「は、はい」
「時期に我が軍は、スエズの駐留部隊を残し、ディオキアとジブラルタル基地へと帰還する部隊に別れる。そしてミネルバはジブタルタルへの帰還組に同行する」
「ジブラルタルへ行くんですね?」
「いや、そう見せかけるが、ミネルバの真の目的は別だ。途中、単機である施設に強襲を仕掛ける」
「施設? 基地では無いんですか?」
「ロドニアにある研究所だ。そこでエクステンデッドの研究が行われているらしい」
「エクステンデッド?……何なんですか、それ?」
「連合がコーディネーターに対抗するために生み出した強化人間だ。先の大戦で投入されたというブーステッドマンの発展型らしい」
シンにも聞き覚えがあった。連合が強化人間という非人道的な行為に着手している噂を。
「そして、貴様が戦った空母を拿捕した結果、中に奇妙なものがあった。それを調べた結果、例の空母はエクステンデッドの部隊を運用していたらしい。消去されたデーターの復元に手間取ったが、施設の場所がロドニアにあること、そしてエクステンデッドの名前が判明した」
「エクステンデッドの名前って……まさか!?」
「スティング・オークレー、アウル・ニーダ、そしてステラ・ルーシェの3名だ。彼等は薬物により肉体を強化され、さらには記憶までも操られている」
シンはゼクスの説明を震えながら聞いていた。ステラたちのあの笑顔の裏側で、その様な非道が行われていた事。そしてそれに気付けなかった愚かな自分。
もし、ディオキアで気付いていたなら、彼等を救う事が出来たのでは無いかと、後悔の念がシンを襲っていた。
「シン、今回の作戦。貴様は参加を拒否する権限を与えられる」
「え?」
ゼクスの言葉の意味を理解しかねた。ザフトの軍人である自分に、作戦の参加を拒否出来るはずが無い。
そう思っていた。
「つまり、貴様には2つの道が用意されている。1つは作戦に参加せず彼女達の事を忘れてしまう事。そして、もう1つは彼女達を救う僅かな可能性に自らの身で挑む事。好きな方を選べ」

「救える可能性?」
そんなものがあるのかとシンは疑問に思い口に出す。
「今回の作戦の意味は、停戦に向けて有利なカードを手にする事にある。つまり強化人間などと言う非道を白日の下に晒されたくなければと言う脅しに使える。また晒してしまって世論を味方に付ける事も可能になる。
 そして、どちらにしろ現在生きている強化人間は連合から開放させねばなるまい。人間兵器などを敵陣営に残してはおけんからな」
「じゃあ、上手くやれば……」
シンに希望の火が灯り始めた。しかしゼクス・マーキスという人間は優しいだけの人間では無い。
「だが、その場合は彼女に何と言う? 貴様は彼女の仲間を殺しているのだろ?」
ゼクスはあえて伝える。シンの先にある未来図を、忘れればそれで済むが、彼女を救ったところで待っているのは憎悪を受ける事だという事実を。
シンも想像する。もう2度と彼女を抱きしめて、その温もりを感じる事を出来なくなるかもしれない。
それどころか、あの気持の安らぐ暖かい笑みを向けてもくれないかもしれない。
「それでも……それでも俺はステラを救いたい。守るって約束したんです!……それでステラに憎まれても」
「愛しい者に顔向け出来ん日々。その苦しみを貴様に分かるのか!?」
ゼクスは思っていた。何故こうもシンは自分と似ていくのだろうと。
誰も望まぬ復讐に酔い、ようやく復讐の呪縛から逃れても、妹が復興させた祖国を再び失い……リリーナに顔向け出来ない自分とステラに顔向け出来ずに苦しむシンが重なる。
「―っ!」
そして、ゼクスの脳裏にリーブラで多くの人々を殺害しようとした自分とシンの姿が重なる。
シンにはゼクスの様な権限が与えられる事は来ないだろう。それゆえシンが引き金を引く事はありえない。
だが、誰かが…ゼクスの様な人間が現れたらシンはどうする?
(シンはその手助けをする)
平和を唱え、戦争を無くすためだと言い訳し、何のための平和かを忘れ、戦う事しか知らずに、リーブラ砲を撃てと命じるシンの姿が見えた。
「忘れる事は出来んか?」
懇願の気持を込めて言う。今なら間に合う。シンには自分の様には成ってほしくない。
「以前、隊長にに教えられた過去。妹に顔向け出来ない人生を送ってきた罰。その苦しみは俺なんかに想像も付きません。
 でも、例え苦しくっても、ステラのためだったら何でもやります!」
そして、シンは予想通りの答えを出した。ならば迷うまい。シンに自分の様に成ってほしくないのなら、願うだけでは無く、自ら導いてみせようと。
過去の自分に戻って、人生をやり直すといった物語があるが、自分の場合は過去の自分と良く似た少年を自分の様にはさせない役かと苦笑した。

「わかった。では作戦には参加するのだな?」
「ハイ! お願いします!」
シンは決意を込めて返事する。どうやってもアウルを殺めた罪は決して消えないだろう。自分の考えが偽善の類だとは充分に承知している。
だが、ステラを人間兵器の立場から開放したかった。その気持は偽りようが無かった。
そして、その機会を与えてくれた事に感謝する。
「隊長、ありがとうございます」
「そうか、言い忘れていたな」
「え?」
「今回の件、私では無く、ザラ大使に礼を言っておけ」
「アスランさんに?」
「そうだ。ロドニアを調べ上げたのは、あの方だ。確かに先程伝えたようにロドニア攻めは、政治的な理由がある。
 しかし、最初から不確かな事に軍の解析能力は使えん。それでも優先的に調べさせた。何故か解るか?」
スエズ基地という最大の難所を落としたのだ。やるべき事は幾らでもあったであろう。だがアスランはエクステンデッドの解析を優先させた。何が出るか分からないものを調べるのに全力をあげたのだ。
「まさか?」
「貴様には約束したのだろ? 貴様が救いたい人間がいれば伝えろと」
それはインド洋で言われた言葉。シンがアスランを崇拝し始めた日。
「私も貴様も無力だ。所詮軍人など出来る事は高が知れている。
 だが、あの方は違う。私たちに出来ない事を成し遂げる力を持っている。
 無論、全てが可能な訳では無いが……まあ良い」
ゼクスは途中で言葉を切ると苦笑して屋上から立ち去るため背中を見せる。
「ルナマリアの病室にヨウランとヴィーノも来てる。後で顔を出せ」
最後にそう言い残し、屋上から立ち去った。
シンは返事も出来ずに黙って見送った。いや言葉を発せられなかったのだ。その目からは涙が溢れ、
声を出そうにも嗚咽しか出そうになかった。
シンにとって世界は、間違いなく暖かくて優しいものだった。

マハムール基地の屋上でも、スエズのシンと同じようにフェンスにもたれ、外を眺めている者がいた。
兄と同じように外を眺めながら、マユは自分の変化に戸惑っていた。
「あの人……来なくなった」
あの戦闘以降、ヒイロ・ユイの夢を見ていない。それ以外にも戦いたいと願う気持が少なくなっている。
そんな事を考えていると、聞き覚えのある足音に反応する。それに感覚を研ぎ澄ませると、強化された聴力が足音を、そして嗅覚が彼女の体臭を嗅ぎ分け、こちらに近付いているのに気付いた。
「ステラ?」
足音は走って階段を登っている。目的地は屋上、しかも自分だろうと思う。
逃げようと周りを見渡す。出入り口は1つだけ、しかしマユの身体能力を持ってすれば階段などの正規の手段に頼らずとも、地上に降りる手段は幾らでもある。
「マユ♪」
ドアが開き、後ろから明るい声が聞こえる。
それを振り払う様にフェンスに手を掛け、フェンスの外側に身を出すと次の足場を物色する。
「マユ! あぶない!」
自分を心配する声が聞こえる。助けを求めたときには来なかった声。もういらないと、吹っ切った後に来られても困る。
「危なくない。これくらい」
だが返事を返す自分に戸惑う。何故無視しないのか? 一緒に居ても苦しみは消えない。それどころか、苦しみを癒す唯一の手段である狂気に奔る衝動を抑えられてしまう。
マユ・アスカは狂っていなければならない。2年前のあの日、助けを求めた兄は手を差し伸べてくれず、それ以降は薬物のモルモット、それから抜け出せたのは戦闘に役立つからだ。
それゆえに捨てた。人の持つ道徳や優しさ。その代わりに得た。狂気という人格。
そうしなければ幼い少女の身と心には耐えられない日々だった。
その葛藤に苦しんでいる間、苦しめている張本人はフェンスを越えて来てマユを後ろから抱きしめる。
「つかまえた♪……もう危なくない」
来るのに気付いていた。だが逃げなかった。
振りほどく事など簡単だ。だが振りほどこうとしない。
身体が自分の思いを裏切る。気持と裏腹に温もりを求めている。柔らかく温かなステラの胸に包まれ、全身の力が抜けていく。
苦しみを上回る心地よさに、涙が出そうになった。
「痛い」
それが精一杯の抵抗。搾り出すようにようやく言えた。
「ごめん……当たった?」

ステラはマユの強がりを真剣に取り、ペンダントを摘んだ。
それが当たったのだろうと考えたのだ。
「それって……」
マユは、それを見てディオキアでの休日の記憶が蘇る。ステラが街で出会った少年に一目惚れしたらしい。
興味の無かったマユは、その程度の事しか知らない。プレゼントを喜ぶステラにも、少し元気の無くなったアウルにも何の感慨も湧かなかった。
「もう一度……」
「ん?……何が?」
マユは首を振って言葉を飲み込み、ステラの質問にも答えなかった。
何故なら、マユが考えたのは決して叶わぬ願いだからだ。もう一度、皆でディオキアへ行きたいなどと。
どれだけ望んでも、もうアウルは居ない。すでに欠けてしまった。
「マユ、泣いてるの?」
「ううん……似合ってるね、それ」
マユは誤魔化すようにペンダントを指差す。嬉しそうに喜ぶステラを見ながら、その送り主にステラが再会出来る事を願った。
(そう言えば、同じものをペアで買ったって言ってた)
マユに最初に出合った時、ステラを傷つけた記憶が蘇ってくる。
「ごめん」
「うぇ?」
そんな事で贖罪には成らないだろう。でもステラの想い人を探してやるのも良いかと考え始めた。
だが、マユは“まだ”知る由が無い。
ステラの想い人が、マユの兄のシンであり、アウルを殺害した最も憎む相手である事を。
そして、マユは“永遠に”知る由が無い。
アウルの最期の呟きが、マユと同様、皆でディオキアへ行きたい事と、そのマユが兄と争わない事だと。
そのアウルの願いも空しく、シンとマユは再び対峙することになる。それも、もう時期に。

その様子を地上から見上げる2人の男が居た。
「なるほどね。随分と変わったもんだ」
ネオはマユの様子に笑みを漏らす。
「アウルが残してくれた置き土産か?」
「さあな、アイツがマユをどう思ってたかなんて、もうわからねえしよ」
スティングは溜息を付きながら答える。
アウルはマユを嫌っていたはずだった。だがステラだけで無く、マユにもシンを殺させないと決意していた。
本気で嫌いな相手なら、そんな事は思わない。もっともこれは、友人のシンが実の妹の手で殺されるのを避けるためだったのかもしれない。
ただ、はっきりしてるのは、アウルの最期はマユを救った後に力尽きたという事実だった。
「それよりもどうなんだ?」
スティングは、ある疑問をネオにぶつけていた。アウルの最期と、その前のブリーフィングで見せたシンを倒すという決意。さらにステラのアウルを失った喪失感に感付いている事と、ペンダントに対する執着。
そしてスティング自身が、以前にも消された記憶が何かの拍子に蘇ることを経験していた。
だからこそ確認したかったのだ。彼等の受ける記憶操作の限界を。
「スティング、お前はコンピューターのデーターをどうやって消すか知ってるか?」
「は?……どうって、入れてたデーターを消すんだろ」
「それなら情報の復元なんて出来ないよな。実際あれは消すのでは無く、何も入ってないという偽りの情報を入れるだけらしい。まあ、詳しくは俺も知らんがね」
「じゃあ……」
「お前等の記憶も同じようなものらしい。記憶を完全に消すなんて不可能だ。なにしろ既に経験したものなんだからな。だからシナプスとやらを弄って、データーの整理が出来なくなる……つまり消すんではなく、思い出せないようにしてるそうだ」
「なるほどね……って事はだ。あまり繰り返すのは不味いんじゃ無えか?」
「わからん……俺にはってだけじゃ無く、なにしろ人の記憶を操作するなんて実績が少なすぎる。
 先の事は何とも言えんよ」
「いい加減だな……まあ、所詮俺たち生体CPUか」
「……すまない」
「テメエが気にする事じゃねえ。教えてくれただけでもありがたい」
そう呟くとスティングは一抹の不安を感じながら、無邪気に微笑むステラを見詰めた。
「ただ、アイツが全部を知ってしまったら……きつ過ぎるぞ」
「何がだ?」
「何でもない」
スティングは、ネオにもシンの事を伝えはしなかった。知るには重過ぎる事実。ステラの好きな相手、マユの兄、そしてアウルを殺害した人間が同一人物など、自分以外は知らないほうが良いと思えた。

「コードAC195……ですか?」
メイリンはアスランに指示された暗号コードを復唱していた。
「そうだ。俺が指示したら、そのコードを発信してくれ」
「何処に?……とかも無いんですよね?」
「ああ、発信するだけでいいんだ。その意味が分かるのは極一部だからな。それを受けた方が勝手に行動してくれる」
「はあ……詳しくは教えて貰えないんですか?」
メイリンは詳細の分からない指示に弱冠の不満を持っていた。
「すまないが……出来れば使いたくは無い代物だからね」
「き、危険なんですか!?」
自分の発信したものが危険を起こすと考えると、メイリンは戸惑いを覚えた。アスランに限って、そんな事は無いと信じたいが、もしかしたら核やジェネシスの様な大量破壊兵器の使用許可と思うと、関りたくは無い。
「いや、危険な事は……あるかな?」
アスランはメイリンの誤解を解こうとするが、説明しずらい。そして余計に顔色が悪くなったメイリンを見て、困ったように頭を掻いた。
「え~と、そうだな……あえて言うなら、こちらが手も足も出ないモンスターが現れた時に死神や龍を助っ人に呼べる呪文って事で」
「はい?……モンスター? 死神? 龍?」
あまりにも奇妙な説明にメイリンは毒気を抜かれる。何かのゲームかとも思えるが、さすがにそれは無いだろうと頭を振る。
アスランは唖然としているメイリンに苦笑しているとシンがやってきた。
「アスランさん。出港の準備が完了しました」
アスランはシンの表情に笑みを漏らす。その瞳には再び力強さが戻ってきている。
「そうか。じゃあメイリン頼んだぞ」
「は、はい」
そう言って背中を見せるアスランと、それに付き従うシンを見ながら、メイリンは笑みを浮かべた。
「大丈夫……だよね」
少しでもアスランを疑った自分を嗜めていた。アスランが酷い事をするはずが無い。そう思いながら、再び死神や龍を呼び出すという呪文を唱える。
「コードAC195」

シンと共に歩みながら、アスランは今回の作戦についてシンに問いただす。
「シン、お前が参加してくれるのは嬉しいが、来るかもしれないんだぞ」
誰が、とは言わない。そんな事は言わなくてもお互いに分かっている。
「それで、他人に任せて怯えているってのは性に合いません」
「そうだな。まあ、来る可能性は低いとは思うが」
正確に言えば来る余裕は少ないと言える。今回の作戦は電撃戦だった。ロドニアの軍事施設では無く、研究所が目的だから、足の速いミネルバが一隻で強襲を掛ける。
MSの配備もしていない施設を落とすのは容易いだろう。
しかし、問題は施設からデーターを奪い、証拠の品を集めている間に敵が襲ってくる事だ。
「今回はルナもいないし、ゼクスもセイバーでなくグフになるから戦力が落ちる。他にも優秀なパイロットを招集しているが、生憎とお前等ほどはな」
アスランは、そう言いながら苦笑する。何時の間にかミネルバのMS部隊はザフトの最精鋭となっていてそれも頭1つ抜きん出た強さを誇っている。
「本当に強くなったな。お前たちは」
「ザフト軍の総大将の直轄部隊ですから無様なマネは出来ませんからね……おまけに隊長は鬼ですし」
「まあな、だが、その鬼を落した奴がいることを忘れるな」
「……はい」
シンはスティングを思い出す。彼も自分を恨んでいるだろう。シンの目にもアウルとスティングは、気の合った友人だという事は明らかだった。
もし、レイが誰かに殺されたら、やはり許せないだろう。
「背負え……どれだけ辛くても逃げるなよ。それが出来ないなら忘れろ」
アスランが、シンの気持を察して口を挟む。
「もっとも、俺が偉そうに言えた義理では無いがな……俺は多分、逃げていた」
「アスランさん?」
「俺も友人と戦った。そして、お互いに相手の友人を殺し、憎悪からキラと殺し合いを演じた」
「……フリーダムのパイロットですね」
シンはアスランの戦いを事細かに聞いていた。その中には、カガリの事もフリーダムのパイロット、キラ・ヤマトの事も入っていた。
「そうだ。お前の家族を殺した人間だ」
「そして俺と同じで、目の前の苦しんでいる人を助けようと足掻く。後先考えずに」
「ああ、何故お前に教えたか分かるか?」
シンがアスランに礼を述べに来た時、アスランはシンに全てを伝えた。2年前の戦争の裏側を。
「俺に同じ過ちを辿らせないため……ですよね」
「そうだ」

アスランが復讐を胸に戦争へ参加した事。そこでかつての親友キラと敵として出会った事。
シンが憎んでも仕方が無いカガリの罪。そして何故ザフトを裏切ったかを。
「お前は俺たちと同じ過ちを犯して欲しくない。俺たちみたいになってはダメなんだ」
「隊長と同じことを言いますね」
シンは苦笑してしまう。何故、こうも自分の尊敬する人は、揃って同じことを言うのか。
「お前を見てると不安なんだよ」
「そんなに危なっかしいですか?」
「酷いもんだ。俺たちより余程な」
アスランは冗談交じりに答える。だが、冗談を言えるようになっただけでも進歩している。
今のシンは人の意見に耳を傾けることが出来る。自分の限界をイヤと言うほど知らされてしまったから。
「大丈夫ですよ。多分」
「不安だな」
「でも、不思議とアスハやフリーダムのパイロットに対する憎しみはありません。薄情な気もしますが。
 それに……一度会ってみたいです。フリーダムのパイロットに」
「そうか……そうだな」
アスランは、そのキラが敵として現れない事を願っていた。
そして、ラクスの事を思う。彼女が今のシンのように自分の限界を知る時が来るのだろうかと。
今の彼女は、人の意見に耳を貸そうとはしないだろう。何故なら、彼女は今、自分が最強の力を持ってると錯覚しているはずだから。
「ザラ大使、準備は整っています」
そんな事を考えていると、ゼクスが声を掛けてくる。準備とは帰還する兵と、残る兵に向けての演説のことだった。
「分かった。行こうか」
そう返事を返すと、アスランはシンとゼクスを従え、待ち構える兵の下へと向かっていった。
これで大きな戦闘がもう無いと思いながらも、心の何処かで、その読みを甘いと苦笑する自分の姿を感じていた。