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W-DESTINY_第23話1

Last-modified: 2007-11-10 (土) 22:02:43

ミネルバのMSデッキに、6機のビルゴの残骸と捕獲したガイアとカラミティが運ばれていた。
「ガイアとカラミティは距離を離せ!……よし、そこで良い!」
シンは指示に従って、MSを運ぶ。その間も頭の中はガイアの中に居るステラのことで一杯だった。
そして指示通りに運び終わると、ガイアとカラミティの周りを歩兵部隊が包囲する。彼等はロドニアを攻略するためにアスランが選んだ精鋭だけあって、隙が無い。
「まずはガイアからだ!」
隊長が指示を出すと、数人が横たわるガイアのコクピット周辺に上がり、銃を向けた。
「ステラ……」
シンは、彼女の名前を呟きながら、ガイアの側でインパルスの膝を曲げ、コクピットから飛び降りる。
そして、シンの見てる前でコクピットが開けられ、中からステラが引きずりだされた。
「ステラ!」
その、周りに両腕を抱えられて、ぐったりとしたステラの姿に最悪の予想が湧き、慌ててステラに駆け寄った。
「ステラ! 返事をして!」
「おい! 何をする!」
周りの制止も聞かずにステラを揺する。
「止めんか! 安心しろ! 息はある!」
「え?」
「まったく……貴様はそれでも軍人、しかもレッドか!」
「申し訳ありません」
シンは恐縮してステラから手を放す。気を失っているだけなら、早く医務室で見せなくてはならない。
「ん……」
その時、ステラの口から呻き声が漏れ、目蓋が震える。
「ステラ!」
「……ん?……ここは?」
ステラは目を開くと、周りに視線を動かし、やがて自分が両脇を押さえられている事を理解する。
「くっ!……痛っ!」
だが、両脇を抱えていた者が、すかさず腕を抱えていただけだったのを、肩から肘までは地面と垂直に、肘から手首までを地面と水平に、そして手首と地面を垂直にして指の付け根を握り抱え込む。それも左右に付いた2人が同時に、つまり道具を使わずに身動き出来ないよう完全に拘束されていた。
「悪いな。お譲ちゃん……大人しくしていれば、どうって事は無い。だが少しでも暴れれば痛いぞ。
 俺達はサディストじゃ無いんだ。暴れないでくれ」
「は、放せ!……うっ!」
それでもステラは暴れようとするが、少しでも動くと手首に激痛が奔り、自由にならなかった。
シンは、その手際の良さに感心しながらも、ステラを心配して声を掛ける。
「ステラ、落ち着いて。大人しくしていれば何もしないから」
その声に反応してステラはシンに目を移す。そこにはディオキアで初めて会った時の怯えるような色も愛情を含んだ暖かい笑みも無い。ただ冷たく、そして敵意が篭っていた。
「誰だ?……おまえ」
シンは覚悟していた。その表情も、その言葉も。だが、やはり苦しい。
「シンだよ……憶えてないかな?」
「……知らない、お前なんか知らない!……なんで、泣いている?」
知らないうちに涙が零れていた。覚悟はしていてもステラに敵意を向けられるのは辛すぎる。
「これ……憶えてる?」
そして、パイロットスーツの胸元を開け、ペンダントを取り出す。
「え?」
それを見て、ステラの表情が変わる。そしてシンの顔をジッと見詰める。
紅い瞳、自分を優しく見詰めてる。まるで守るように……
「つうっ! 何?…いやぁっ!」
ステラは突然に頭を振って暴れだした。
「ステラ!」
「悪いが時間切れだ。坊主」
歩兵部隊の隊長が手に持った麻酔銃をステラの首筋に当てると引き金を引いた。
「あ……シン」
最後にシンを見ながら、名前を呟と、そのまま気を失った。
「ステラ!」
「だから落ち着け小僧!」
「は、はい……」
「大して怪我は無いから医務室からは直ぐに出される。続きは監禁室でやるんだな」
「わかりました」
ステラはシンの名前を呼んだ。もしかしたら思い出したかもしれない。そんな思いがシンを暖かく包んでいた。
「よし!次は カラミティの方だ!」
隊長の指示に、ステラを運んでいるもの以外の全員が向かった。
取り残されたシンは、ステラの連れて行かれる姿をジッと見続けていた。

「何なんだ、あの男は?」
五飛はシンの軍人らしくない行動に呆れながら溜息を漏らしていた。
「訳ありでな……知り合いなんだよ。先日…」
アスランが説明しようとするが、五飛は首を振る。
「興味は無い。あの男は軍人に向いていない。それだけは確かだ」
「厳しいな。だが、そうかもしれない……シンだけでなく」
アスランは力なく呟く。シンも自分も軍人に向いてるとは思えない。能力はあっても性格が軍人には向かないのだ。
そして、それは2人だけの問題では無いだろう。アスランは復讐心をプラントを守るという奇麗事に包んで軍に身を投じた。シンも似たようなものだ。だったら他にも自分たちのような人間は居ると考えて良いだろう。
「戦争は……色々な歪みを生み出す」
血のバレンタインの復讐を考えるコーディネーター、エイプリールクライシスの復讐を考えるナチュラル。
本来なら軍隊に入らないような人間にまで武器を持たせる。
「だが、歪みを浮き彫りにする事もある」
五飛が冷たく言い放つ。アスランは黙り込んだ。
「そして、すでに戦争は起きている。それを生かすも殺すも貴様等しだいだ」
「そうだな……心しておくよ」
そしてカラミティを見下ろす。2人が居る場所は、かつてカガリがデュランダルに詰め寄っている時、シンに罵倒された場所だった。
そしてカラミティが横たわる場所は、その時シンが妹を失った怒りをぶつけた場所。
アスランは後に運命の皮肉を感じる。
「よし、開けろ!」
コクピットの周りを銃を持った兵が取り囲みハッチを開く。アスランは中のパイロットの姿を確認すると突然コクピットが光に包まれた。
「何だ!」
「閃光弾だ! 下がれ!」
アスランは下の喧騒を耳にしながら、瞑った目を開くと信じられない光景を目の当たりにした。
その特徴的なパイロットスーツで分かる。カラミティのパイロットが自分の方に向かってきてるのだ。
それも、一瞬の内に直ぐ側まで近付いていた。

その少し前、マユはコクピット内で目覚めると、失神した事を毒づきながら、計器をチェックする。
「ダメか……外部の声も拾えないし……さっきの振動は何かに運ばれた様子だから……ミネルバかアークエンジェルの中かも」
呟きながらパイロットスーツの右袖を外し、シートの背もたれのカバーを開けて“右腕”を取り出す。
それは、異形の掌を持ち、人の身体を簡単に握りつぶす力を持った腕だった。
「ハッチも開かないし……ん?」
腕を取り替えながら、コクピットを弾き飛ばそうかと考えているとコクピットが外から開けられようとしていた。
素早く腰の銃を確認すると安全装置を解除し、閃光弾を手にする。そして閃光弾の光から目を守るためバイザーを遮光モードに切り替えるとバイザーが黒くなり、外から顔が見えなくなった。
やがて、コクピットが開いていく。その間マユは空いてる隙間から辺りを伺う。
(ザフトの制服。だったらミネルバか……アスラン・ザラが居るかも)
そして、開いた瞬間に上からの視線を感じる。
(アスラン・ザラ!)
たしかにアスラン・ザラが居る。2階からこちらを見下ろしていた。
瞬時に閃光弾を放り上げ、コクピットから出たところで爆発させる。
「何だ!」
「閃光弾だ! 下がれ!」
周りの喧騒から人の居る位置を確認してコクピットから飛び出す。そしてジャンプして壁を右手で掴むと壁に指先が埋まり、取っ手になる。
「もらった……」
そう呟きながら怪力の右手で思いっきり身体を上へと持ち上げる。
「何!」
アスラン・ザラが驚愕の表情で、一気に上へと上がってきたこちらを見ている。
「人質になってもらうよ」
そして首を掴もうと手を伸ばすが、アスランはとても政治家とは思えない、並の軍人を遥かに上回る反射神経でマユの手を避けると蹴りを放つ。
「え?…だったら」
意外な動きに一瞬だけ驚くが、すぐに体勢を立て直し、銃を抜き腕に狙いを付ける。多少は出来る様だが所詮は自分の敵では無い。
「下がってろ!」
だが、横にいた男がアスランの前に立ちはだかり、素早い蹴りで銃を弾くと、右の掌でマユの腹部を打撃を与えた。
マユは困惑していた。元軍人とは言え政治家のアスランがこれだけの動きをすることも、自分を一蹴する人間がいることにも。
「なんなのよ!このハゲは?」
「誰が!」「貴様は悪だ!」
「―っ!」
凄まじい怒声にマユが声を詰まらせると、巨大な掌、MSの手が2人とマユの間を遮る。
「インパルス!」
咄嗟の判断で床に伏せるが、その間に後方は銃を持った兵士が横一杯に並び、その上、前から床に伏せた体勢のプローン、肩膝立ちのニーリング、立った姿勢のスタンディングの3列が銃口を向けていた。
何人たりとも逃れられない必殺の構えだった。
『アスランさん! 大丈夫ですか!』
シンはアスランが襲われたのを見ると、階段を登っても間に合わないと判断し、ヘルメットも被らずに、インパルスに乗り込んでアスランの盾になっていた。
そして、歩兵部隊の包囲を確認すると、インパルスの手を少しさげ、それを伝ってアスランの元へと向かった。
「シン、良くやってくれた」
アスランの無事な姿を確認すると、大きく息を付き冷や汗を拭った。
「いえ、正直この人が居ないと間に合いませんでした」
そう言ってシンは五飛を見る。謎のMSに乗った男には興味があった。
「後で紹介す…」
「ウフフフ……アハハハハハハハ♪」
アスランがシンと話していると、突然、気の触れたような笑い声が響いた。
「何が可笑しいんだよ!」
シンが、笑い声の主、カラミティのパイロットに怒鳴る。
ガルナハンで住民を虐殺した相手。それが意外なほど小柄なのに驚く。
「だって…アハハ……もう最高♪」
俯いたまま顔だけを上げている。バイザーは黒くて顔が見えないが声と体躯から女の子と思えた。
「インパルスのパイロットが……アウルを殺した奴が……アハハ♪」
ゆっくりと身体を起こすと、周りから一斉に銃口を向けられる。だがそれを意に介さずヘルメットに手を掛けた。
「一番憎い相手と……ずっと殺したかった相手が……同じだなんて」
「え?」
シンは、その声に聞き覚えがある……否、懐かしいと感じた。
そしてヘルメットを脱ぐと傷だらけの顔に満面の笑みを浮かべていた。
「最高だと思わない? ねえ、お兄ちゃん♪」
「え……マユ?」
シンの思考が停止する。いや、動いているのだが、纏まらないと言った方が正しいだろう。
それは最愛の妹。だが死んだはず。でも生きてる。ずっと会いたかった。でもマユは殺したかったと言う。
ガルナハンの凶行。俺はアウルの仇。アスランを殺そうとした。カラミティと戦った。パイロットはマユ。
傷だらけの顔。奇怪な腕。笑ってる。睨んでる。恨んでる。喜んでる。
抱きしめたい。でも出来ない。隊長が言ってた。妹を抱きしめられない生き方をした罪と罰。
俺が悪いのか?身体が動かない。眼の前にマユが居る。
「お~い、戻ってこ~い」
陽気な声に少しだけ現実に引き戻される。
「マユ……なのか?」
「イエス♪」
「何で……生きてる?」
「死んでないから♪」
「だって……腕が?」
「義手だよ♪」
怪物の手を開いて見せる。
「本当に……マユ?」
「ああ~鬱陶しい……正気に戻ってくれないと殺し甲斐が無い!」
シンは顔に何かが当たったと感じる。痛い。鼻血が出てる。
「これでも目が覚めないか……」
ヘルメットを投げつけたのに、正気に戻る気配の無い兄を見て溜息をつく。
「こんな情けない奴に」
アウルは殺されたのかと怒りが湧いてくる。
「貴様は本物のマユ・アスカか?」
「ん?」
声の方向に振り向くと、長身の金髪の男が居た。
「誰?」
「シンの上官だ。ゼクス・マーキスという。それで私の質問への回答はどうした?」
「こんなのの妹ってぇのは、情けないけど本物」
「それが、何故シンを殺したがる?」
「え?」
マユは改めて考えると、兄を殺せば何故苦しみから抜け出せると思ったのか疑問に思う。
「あ~……ホント、何なんだろ。随分とトチ狂ってた……バカみたい」
ジブリールに兄を探すように頼んだ時は、たしかに兄を殺せば苦しみが無くなると思い込んでいた。
その前はキラだ。
だが、今は違う。そんな事で苦しみから解放される訳が無いと、はっきりと解る。
良くも悪くも自分を覆っていた狂気の闇が薄らいでいる事を実感する。そう思いながら、ゼクスの質問に答える。
「仇だから」
シンを殺す理由は1つ無くなった。しかし、マユから闇を払ったのは、あの3人だ。
「そいつがアウルを殺した」
狂気を上回る憎悪が身を焦がす。
「貴様の兄なのだろ?」
ゼクスの疑問にマユは笑って言い放つ。
「それがどうしたの?そいつの中でマユは、とっくの昔に死んだ。だから今のマユは他人でしょ?」
自分を見捨てた兄より、自分を救った仲間。マユにとっては当然の選択だった。
しかし、その言葉は2人の男の心を深く傷つけた。
ゼクスの脳裏にデュランダルの言葉が蘇る。弱冠15歳の少女に後始末を押し付けた。人類の大虐殺を目論んだ男を兄と認めるのか?
ゼクスとリリーナは一度兄妹の縁が切れている。否、自分から切ったのだ。そしてリリーナはゼクスを憎んでもおかしくは無い。彼女が地球圏の統一女王に就任し、平和に進もうとした矢先に、ゼクスはホワイトファングのリーダーとして、地球に宣戦布告を行い、リリーナの目論見を潰した。
それだけでは無く、なおも説得しに来た妹を突き放し、最初からリリーナに後の地球の事、デュランダルに言わせれば後始末を押し付けるつもりで、リーブラで地球を人類の住めない場所へしようとした。
ゼクスにとって、マユの兄に対する憎しみは他人事では無かった。リリーナに言われている気になる。
そして、シンにとっては、ずっと思い続けてきた、失った事を何より悲しんできた妹に憎悪を直接向けられているのだ。
ステラに憎まれるのは覚悟していた。だが、マユは……
「知らなかったんだ……アビスに乗っていたのがアウルだって事も……マユが生きてた事も」
見っとも無く言い訳を口にする。そんな事はマユだって知っているのは明らかなのに、言わずにはいられない。
そして、当然、マユは馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに首を振る。
「あのねぇ……どうでも良いのよ、そんな事はさ。マユはお兄ちゃんを殺したいから殺す。それだけ!」
マユは言葉を放つと同時に、一気にシンとの距離を詰める。
「撃て!」
それを見て、今まで成り行きを見守っていた歩兵部隊が銃の引き金を引いた。
だが、マユは巨大な掌で弾を弾くと、銃口がアスランの方向に向く位置を進みだした。
「クッ!大使!お下がりください!」
だが、アスランが動くより早くマユはシンとの間合いまで詰め寄った。
「さあて…」
「マユ?」
呆然とし続けるシンの身体を引き裂こうと右腕を振りかぶる。
アウルの仇。過去の決別。色んな思いが瞬時に頭を過ぎる。
「ハッ!」
だが、腕を振り下ろす前に横合いから気合と共に五飛の横蹴りが飛んできた。
「またアンタか!」
マユは五飛を睨みつける。見ただけでも、その男が強いのは理解できる。
「強いね。マユよりも……でも」
確かに強い。だが彼からは、あの人……ヒイロ・ユイに感じたものが、冷たい機械のイメージが無い。
「怖くない……だからキライ」
そう、五飛はマユにとって怖くは無かった。マユは知らないが、張五飛という男は女を殺さない。
五飛から感じるのは殺気では無く、純粋な闘気だった。ゆえに恐怖感が全く湧いてこない。
「それが……どうした!」
だが五飛には関係が無かった。ただ、この茶番を終わらせる。それだけだ。
「邪魔なのよ!」
そしてマユは妨害する五飛を攻撃する。相手が強くても退けない。すぐ眼の前に殺すべき相手、シンが居るのだ。
巨大な掌を一閃する。五飛は難なくそれをかわすと、首筋に手刀を打ち込んだ。
「~~っ!」
マユは痛みに顔を歪めるが、すぐさま腕を振り払い、力任せの攻撃を仕掛ける。
「……化け物め」
気絶させるつもりで放った手刀が効果が無かったことを知り、舌打を打つ。
すでに傷だらけだが女の子の顔は殴りたく無い。甘いと笑われようが、女性の顔に手を挙げと辛い過去が思い出される。
しかし、何時までもかわし続けるのは困難だ。それ程マユの攻撃は速い。動き自体は五飛の目からは無駄が多く、技術的には並の軍人程度だ。だが、それを補って余りある程のスピードとパワー、人間の規格から外れている。
「ちょろちょろと……このハゲ!」
「ハッ!」
五飛の拳がマユのアゴにヒットする。少しくらいは良いと考えを改めた。
「そんな攻撃!」
だが、マユは怯まない。当たったら軽い怪我ではすまない攻撃を休まずに繰り返す。
五飛は動きを観察しながら、如何に鎮圧するかを考えた。見たところ痛みに対する耐性が異常なまでに強い。よって、頭部や腹部への打撃で痛みのショックで気絶させるのは不可能。また、頚動脈を締めても落ちる前に腕を掴まれる。信じがたいが単純なパワーは少女の方が上だ。関節技も強引にパワーで外される可能性が高い。ならば残された方法は1つ。
「セイッ!」
五飛が押し込むように左手の突きをマユの鳩尾に入れる。
「くぅ!……」
強烈な打撃に息が詰まるが、マユは自分の鳩尾にささる腕を両手で握り締めると改心の笑みを浮かべた。
「……捕まえたぁ♪」
五飛の左腕を握りつぶそうと、そのまま力を入れる。だが……
「え?……」
五飛は左掌を右掌で掴むと、左肘を軸に反時計回り廻しながら一歩踏み込む。すると、梃子の原理でマユの拘束がするりと抜け、それだけでは無く、マユは五飛の腕に指だけが掛かった万歳する格好で無様に尻餅を付いた。
「……なんで?」
マユの知らない、武術の動きは彼女の意に反した動きを彼女にさせて、理解不能の事態に呆然とさせた。
「―うっ!…」
そして、無防備な腹部に五飛のつま先がメリ込む。その衝撃で咄嗟に腹を両手で押さえたため、今度は頭部がガラ空きになった。
「セアッ!」
五飛が気合と共に放った廻し蹴りはマユの頭頂部を掠め、脳を激しく揺さぶった。
「マユ!」
脳震盪を起こし、倒れたマユを見てシンが叫んだ。そして慌ててマユに駆け寄る。
「戯け!」
だが、五飛が一喝しながらシンに蹴りを放ち、吹き飛ばす。
シンは混乱した頭で五飛に詰め寄ろうとして彼を睨むと、視線の先でマユが幽鬼のように立ち上がった。
その目は焦点が合っておらず、呆然と当たりを見渡す。すると、ある一点で視線が止まり、喘ぐように呟いた。
「……ガイア?……ステラが……守らなきゃ……」
脳震盪で混乱し、シンを見ても反応しなかったマユが、ガイアを見て反応した。
ステラが何処かに捕まってると気付いたのだ。
マユの焦点がゆっくりと結ばれていく。
だが、それを黙って見てる五飛では無かった。
「寝ろ」
無防備なマユのアゴ先に、横から掌底を撃ちぬいた。そして先程の蹴り以上の振動が脳を襲う。おそらくマユの頭蓋の中で何度も脳がシェイクされただろう。
「あ……」
一声漏らすと崩れ落ち、ぐったりと床に横たわった。
「マユゥ!」
シンが駆け寄り、マユの手前で立ち止まる。
眼の前に居るのは最愛の妹だが、すでに拒絶されている。それなのに自分が触れて良いのかと心の中で葛藤が始っていた。
「何で?……こんなの……マユ……俺……」
シンは自分の頭を掻き毟り、次いで自分の腕に噛み付いていた。
典型的な自傷行為。混乱した思考は、マトモな行動を取れなくしていた。
「貴様も寝ろ」
そのシンの後ろから五飛は頚動脈を押さえながら呟く。
脳への血液の供給を止められ、シンは意識を失った。
「五飛、手間をかけてスマナイ」
アスランが礼を言うと、すぐに指示を出し始める。
「シンを医務室へ。そこで精神安定剤を打たせてくれ。この少女は義手を外した後、厳重に拘束をしてから運べ」
指示を出し終えると、再び五飛に向き直る。
「君も腕の治療を」
五飛の左腕はマユの拘束を逃れる際に、右手の爪で傷を負っていた。
「わかった」
そう返事するとゼクスに目を移す。アスランも気付いた。ゼクスが呆然としている事に。
「ゼクス、君が気にする事では無い」
「はい……わかっております」
ゼクスの脳裏には自分を詰るリリーナの声が聞こえていた。

「あまり効かないらしいが……」
「……謝謝」
そのまま無言で大量にワカメの入ったうどんを啜り始めたアスランと五飛を見ながら、レイはどう声を掛けるか迷っていた。
レイは、安定剤を打たれたシンを部屋まで運ぶんだ。しかし、シンが目覚めた時にどう言えば良いか分からず、ゼクスとアスランに相談に来たのだが、ゼクスは沈痛な面持ちで俯き、アスランは時折「だから子供は」等と呟く声は聞こえるが基本的に無口になり、声を掛け辛い雰囲気を作っていた。
「ん?レイ、来てたのか」
だが、アスランの方がレイの存在に気付き、声を掛けてきてくれた。
「シンは?」
「ハイ、指示通りに医務室で精神安定剤を打って頂いた後、私達の部屋へと運びました。今は寝ています」
「そうか……」
「その……今回は色々ありすぎて、何がどうなっているのか……」
レイは五飛とゼクスに目を移しながら、言葉を濁す。レイの言う通り、一度に事が起こりすぎてレイですら多少の混乱を起こしていた。
ラクス・クラインの謎の行動と強力なMS。それを撃破したアスランの知る謎のMS。そして死んだ筈のシンの妹が因縁のあるカラミティのパイロットだった。
タリアも聞きたがっているが、後回しにしてもらっている。タリアだけでは無い。皆が混乱しており、今はそれぞれの職務に没頭する事で目を背けている部分があった。
その中で、一番情報を知っているのがアスランだろう。
「ああ~……一応断っておくが、シンの妹の件は俺も知らなかったぞ」
「そうですか……」
「ああ、ラクスの件は手を打っているから良いんだが……お前が気になっているのはシンの事だろ?」
「ハイ……正直言って信じられません……それに何と言っていいのか」
シンから妹の話は、何度も聞かされていた。だからこそ解る。シンが如何に妹に愛情を持っていたかを。
正直、度が過ぎると感じていたし“死んだ妹”だから許せたが、もし妹が生きているなら気持悪い奴と思っていただろう。最悪、禁忌の関係に成りかねない。
それが生きていた。しかし、レイが想像していた最悪の事態にはなりそうにも無い。現実は、それを遥かに上回る悪夢を実現させていた。
「妹に命を狙われるか……ステラの件を覚悟して受け止めようと身構えている所を、後ろから殴られたみたいなものだからなぁ」
「的確な表現とは思いますが、不謹慎かと」
「すまない……だが、厳しいな。アウルだったか?……彼の件もある」
「その……アスランさんは似た経験があるのですよね?」
アスランもキラにニコルを殺されている。
「ああ……だが、俺の場合は……ん?」
アスランはジッとレイを見詰めた。
「な、何です?」
レイはアスランの真剣な眼差しに怯みながら言葉を促す。
「俺の場合は、殺されただけじゃ無い。キラの友人を殺した……だからと言って、変な気は起こすなよ」
「は、はい」
アスランはレイから危険なものを感じ取っていた。言うなればニコルと似たところがある。親しい者のためなら、平気で命を投げ出しかねない。そのため釘を刺しておいた。
「で、ですが、考えようによってはアスランさんの方が酷い状況では?」
「ん?……そうだな、俺達の場合は互いに殺し合ってテンパッテいたから行き着くとこまで行って、その後に冷静に考える事になったが、今回はマユの方だけか」
「その……復讐は意味が無いとか、上手く言えないでしょうか?」
「お前、誰かにシンか議長を殺されたとして、ソイツに同じ事言われたらどうする?」
「八つ裂きにします」
「ダメだろ、それじゃ」
「すいません……」
「だが、片方が冷静と言うのは利点ではあるな。それに気になる事を言ってたし」
「気になること?」
「最初は『ずっと殺したかった』そう言っていたんだ。おそらくシンに恨みを持っていたのだろう」
「恨み?」
レイは、ふとシンのシスコン癖を思い起こし、か弱い妹に不埒な振る舞いをしたのではと思ったが、あのシンが無理矢理するとは思えず、頭を振る。
「どうした?」
「何でもありません」
レイは自分の想像に、少し顔を赤くしながら答えた。
「まあ、今考えても判らん。マユが、この2年間どの様に過してきたか知りようも無いしな……あまり楽しい人生では無いだろうがな」
アスランの脳裏にロドニアの研究所で見たものが蘇る。無関係ではあるまい。
「取り合えず、彼女が目覚めたら、俺が話を聞こう」
「待って下さい。彼女はアスランさんの命を狙っていました。危険ですし、余計に刺激してしまいます。ここは俺にやらせて下さい」
「……そうだな。頼む」
「はい」