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W-DESTINY_第24話2

Last-modified: 2007-11-10 (土) 22:03:29

ジョゼフ・コープランドは大西洋連邦の大統領として多忙を極めていた。まして現在は戦時中、しかも圧倒的に不利な状況にあるのだ。
その多忙な中、待たせていた来客に会うため少し早足で客人の居る部屋へと向かっていた。
「すまない。待たせてしまった」
「いえ、御気になさらずに、察してはいますよ」
ロード・ジブリールは、大統領が入室すると席を立ち謝罪を受け入れる。
そして、互いに向かい合わせに座ると開口一番ジブリールは訪ねる。
「進行状況は?」
「戦闘継続に傾いたよ。やはり負けは困るからね」
苦笑しながらコープランドは告げる。彼自身は開戦に消極的であったが、一度開戦してしまえば目指すは勝利である。
「それにしても、何なんだねアレは?」
マユが持ち帰ったビルゴは、それを見たものに大きな衝撃を与えていた。
「不可解の一言ですな……議員らの反応は?」
「こちらも様々だよ。フッ、君が見ていたら笑えただろうな。あんなものを開発したコーディネーターはやはり危険だから滅ぼせと言う者もいれば、逆に怯えてしまって従うしかないと言い出す者まで」
「目に浮かびますな」
「で、君の見解は?」
「先程も言った通り不可解の一言ですよ。実際に多くの議員はそのような反応だったのでは?」
「ああ、大方は信じられんと言ったところか。実際に私も信じられんよ。核融合なら分かる。自動操縦も。
 よくもまあ実現出来た物だと驚きはするが、所詮はその程度だ。だがな、何だあの材質は?」
「科学者の意見は?」
「解析不能。そもそも科学技術と言うやつは日進月歩。例えば核分裂が出来れば次は核融合。Nジャマーが出来たら当然それを克服するNJCが完成するのは自然の理だ。だが材質と言うヤツは硬くするにも軽くするにも次の段階は数パーセント、倍や半分と言った数値は奇跡的な発明になる。しかしあれは軽さは10分の1、硬さは比較にならんそうだ。この後も科学と言うヤツのレクチャーを延々と聞かされたが、聞きたいかね?」
「遠慮します。ついでに御心中お察ししますよ」
ジブリールが苦笑すると大統領は溜息を付いた。
「ジブリール、私には信じられんよ。だが現実にそれは存在する」
「その通りです」
「君は先程からはぐらかしているが、私は君の考えを聞きたいのだ。予想でも構わん」
「憶測でものを言うのは…」
「それでもだ」
コープランドの真剣な眼差しにジブリールは見捨てる事が出来なかった。
ジブリールが盟主になって以来の付き合いで、ブルーコスモスのメンバーより親近感を感じてもいた。
「正直私にも分からないのですよ。アレがザフトの開発したものだとすれば不自然なのです。
 現状でのザフトの主力はザクになります。そして我々が強奪したセカンドシリーズ。共にザフトの最新鋭と言う触れ込みですが、2年前に開発されたフリーダムとジャスティスに比べエンジンの差を抜きにしても、それ程の進歩はありません。それがセカンドシリーズが完成して、わずか数ヶ月の間に全く新しい技術の塊と言える機体が現れた。先程の科学者の言ったように有り得ないでしょう。
 普通なら遅くともスエズ戦には先行機が投入されるはずです」
「だが、事実存在しているのだ」
「そこですよ。もしかしたらザフトが開発した物では無いかもしれません。もちろんクライン派でも」
「まさか外宇宙から来たとでも?」
大統領の脳裏に宇宙クジラと呼ばれるものの存在が浮かんだ。
「あるいは発掘でもされたか……ところでユニウス7の事を覚えておいでで?」
「忘れるわけが無かろう。あれの件で戦争になったのだ。君も賛成しただろ」
「ええ、私の目的は打倒コーディネーターの達成が必要ですから」
「フッ、殲滅では無く打倒ね」
「まあ、この話は置いておいて、私が言いたいのは本来ならアレは地球に重大な被害を与える筈でした。
 ですが実際には被害は出たものの壊滅的な被害はありません。何故です?」
「それは……」
「あの時は有耶無耶になりました。それに妙な噂が流れてましたが気にもしませんでした」
「噂?」
「ユニウス7を破壊したのは天使だと……今では信じたくなりますよ」
「馬鹿な……正気かね?」
「大統領、正気とは何でしょう? 常識に縛られる事でしょうか?」
「だとしても天使を探すわけには行くまい」
「その通りです。探すわけには行かない。人には出来る事と出来ない事があります。だから出来る事をしましょう。現状ではあのMSの事は何も分かりません。ですが存在する。しかも敵の手にある。
 でしたら……」
「なるほど、そうだな。アレの正体を考えても今は無意味だ。だったらアレをどう使うか……」
「いいえ。違います」
「では使うなと?」
「それも違います。そもそも何のために使うのか? アレの正体は不明ですが敵の可能性が高いのです。
 ですから今は、どうやってアレを倒すか!」

コープランドは唖然としてジブリールを見詰めた。完全なオーバーテクノロジーを前にして、それを倒す方法を算段している男が目の前に居る。
それに比べ正体の分からぬモノの対応に悩んでいた自分が馬鹿らしくなってくる。
やがてコープランドは腹を抱えて笑い始めた。
「如何に大統領とは言え失礼な反応では?」
「いやスマン……それにしてもアレを倒すか、その気概は見習わねばな」
「どうも」
「それにしてもアレを倒すのは……」
「何も核は砂時計を壊すために作っているのでは無いでしょうに」
「あ……」
大統領は呆然としてしまった。CE1年、最後の核が撃たれて以来、その後はプラントへの攻撃に使用されただけであった。
「大統領も毒されてますな……我々に」
「君は少し違うと思うがね。前にも言ったはずだが私はブルーコスモスの過激派は嫌いだが、君は違う」
そう言った上で、今後の戦略を思い描く。確かにアレを破壊するには通常の兵器は通じないだろう。
ビームもレールガンも通じない。だが、核の放つ単純かつ膨大な熱だったら話は別だ。
ならば戦闘は核を使用出来るフィールドで戦わねばならない。
「月のダイダロス基地のMS製造工場を増築させる。そこでデストロイとカオスを」
「名案です。先行型はエクステンデッドに与えてなるべく早いうちに実戦データーを組ませましょう」
「では決戦は宇宙で、その間は出来るだけ時間稼ぎだな」
「はい、戦闘だけでなく外交でのらりくらりとかわす事も」
「分かってるさ。それにしても……」
「何です?」
「負けているのに、決戦を相手の陣地でやるのは不思議なものだな」
「それは攻めるか守るかの戦闘での事でしょう。その場合は攻める側は負けても次がありますが、守る側には負けたら終わりの場合です。ですが今回は勝機がある。そう言う事でしょう」
「確かに……それでは次の公務がある。この辺で」
やるべき事は決まった。謎のMSが現れた。それはザフトの可能性が高いのだ。ならば勝たねばならない。コープランドは一国の大統領として、ジブリールは己の主義のため、得体の知れぬMSを徹底的に解析して、それに打ち勝つ準備をしなければならなかった。

ルナマリアはタリアに復帰の挨拶を終えると、ミネルバの現状を彼女が居ない間に起きた出来事を全て伝えられた。ゼクスの正体もシンに起こった事も。
あまりの内容に呆然としていると、タリアの厳しい声が響く。
「ショックなのは分かるけど、しっかりして頂戴。それに貴女にはインパルスを任せる事になるわ。
 ゼクスとレイには新型が届く事になってるから」
ルナもザフトが新型を2機開発している事をディオキアに居た時アスランとシンから聞いていた。
だが、それに乗るのはゼクスとシンだと思っていたのだが、1機はレイに、しかもインパルスは自分に与えられるという。これではシンの居場所が無くなると彼女は憤った。
「そんな! じゃあシンは戻ってこないと!」
「私の方こそ聞きたいわ。彼の事は私より貴女が詳しいわよね……どう?」
「それは……分かりません」
ルナは力無く呟く。おそらくシンから妹の自慢話を聞かされた回数はレイより多いくらいだろう。
その妹が生きていた。それがシンを殺そうとし、しかも重傷を負わせた。そのショックは計り知れない。
「そんな訳で、シンには期待しないで。もし彼のためを思うなら彼が安心して休める様に貴女はインパルスを乗りこなして頂戴」
「はい……やってみせます!」
もっともタリアにとってはインパルスのパイロットがシンで無くなるのは助かる部分もあった。スエズ以来、メイリンがシンの声を聞くと変に緊張する様になったのだ。脇でシンの声が聞こえていたタリアはメイリンの気持も理解出来るし、シンには悪いがルナマリアの方が助かる。
問題は戦力の低下だが、文句は言ってられない。今までが恵まれすぎたのだと前向きに考えていた。
「それと肝心な事だけどゼクスの事、あまり気にしないであげて」
「え?……ああ! 異世界から来たって」
「貴女ねシンの事しか考えていないの?……まあ詳しい内容までは聞かされてないけど、彼、向こうでは妹さんに恨まれる事をしたらしくシンに自分を重ねて少し元気が無いのよ」
「だったら元気付けてあげた方が?」
「そうなんだけど……」
「もしかして、異世界の話って聞いたら拙いんですか?」
「……貴女、もう1つの重要な事、忘れてない?」
「重要?」
「彼……ナチュラルなのよ」
「はあ……それが?」
「え~と……彼、凄く優秀よね?」
「ええ、凄いですよね。尊敬します……異世界って、どんな訓練してるんですかね?」
「そ、そうね……ところで、その凄い人がナチュラルなのよ?」

タリアとしてはナチュラルのゼクスに劣る事を知ったルナのショックを和らげようと思っていたのだが、
あまりにも予想外の反応に困惑してしまった。
対応を考えていると、突然ルナが大声を上げる。
「ああぁ!……そうか」
ルナは1人納得した顔で、何度も頷く。
「私って、ミネルバのMS部隊一の天才パイロットなんだ……」
「え!」
ルナの衝撃発言にタリアが硬直する。
「ナチュラル2、凡才1、仮にも戦闘に適したのが私。でも、実際は一番弱いのよね……ダメよ……
 これじゃあ間抜けだわ……て言うか先に気づけよ私。シンとレイに負けてるのって努力が足りないって事じゃない……シンに怠慢な女って思われてたかも?……」
何を言ってるかは聞こえないがブツブツと呟くルナマリアに、タリアはどう声を掛けるか迷っていた。
「ル、ルナマリア?」
「あのぉ、隊長に訓練の方法聞いたら拙いですかね、異世界の?」
「はぁ?」
「シンの分まで頑張らなきゃいけない訳ですし、今の私に出来る事って強くなる事じゃないですか?
 それに、ずっと病院のベッドに居たから衰えてるかも知れないですし」
「そ、そうね……別に構わないと思うけど……」
「ありがとうございます! では早速隊長のところへ行ってまいります!」
「え、ええ……」
そして敬礼をすると、ルナは踵を返し、部屋を出ようとする。だが、ドアを開けたところで後ろを振り返り、自信有り気な笑みを漏らす。
「あ、艦長、先程シンが戻ってこれるか分からないって言いましたけど訂正です」
「え?」
「シンは絶対に戻ってきます。絶対に」
そう言うとドアを潜り部屋を後にする。その姿を見送り部屋に1人残されたタリアは唖然と呟いた。
「なんなの……あの子は?」

カトルはデュランダルの話を聞き終えると、暫く黙っていたが、ゆっくりと喋りだす。
「条件があります」
「何だね?」
「その剣は、モビルドール、もしくは核融合搭載型のMS以外に使用しない事を約束して下さい」
「元よりそのつもりだ。ついでに解析もしない。それゆえにデスティニーに……シンだけに与えるのだよ」
「分かりました。作ります」
「感謝するよ」
「いいえ、それよりも大丈夫なのですか? 彼は今……」
カトルは言葉を飲み込む。彼はシンの様子を知っているのだから。
「シンは今まで懸命に戦い続けた。今は休息が必要なのだよ」
「正直、このまま休ませてあげたい気もしますが……」
「そうだね。私は自分を酷い人間だと思うよ。彼の妹がデストロイに搭乗する可能性は大いにあるのだ。
 それなのにデストロイを破壊する武器を用意している」
「貴方の夢を壊した彼を恨んでるのですか?」
カトルは、そんな事は有り得ないと分かりつつ尋ねた。デュランダルの口から聞きたかったから。
「まさか、感謝してるくらいさ。それに彼だったら妹を救い出せると思ってる。いや、信じたいのだよ。
 そんな彼にだからこそデスティニーの名を付けたMSを彼に乗せるために作った。私の夢を託してね。
 笑ってくれて構わんよ。未練がましい男だと」
「運命……ですか。僕がアルトロンの修復にここに来たこと……アルトロンは彼の妹に破壊された」
この剣を作る状況でアルトロンが手元にあるのは有りがたいと思える。この世界で剣を作るのだったら、材料はビルゴから取るとしても加工が厳しすぎる。だが、その点アルトロンのビームトライデントがあれば切断は容易になるし、ドラゴンハングで曲げたりプレス加工する事も出来る。五飛に伝えると怒り出しそうな使用方法だが、作ってしまえば後で言い訳はいくらでもきく。
「それに僕は元の世界でゼロを作りました。コロニーの民を恨みながら。
 ずっと引っ掛かっていたんですよ。そんな僕が誰かを救える武器を作れる。嬉しく思います」
「そう言ってくれると助かる」
デュランダルが礼を言うと、カトルは頭を下げ自らの仕事に戻った。その後姿を見送ると、デュランダルはシンに思いを馳せる。
「小さな翼で飛び続けて来たのだ。今は休むが良いさ……だが直ぐに目覚めてもらう。君の力は大きすぎる翼に翻弄された若者と、借り物の翼を自らのものと勘違いし自分では飛べなくなった娘を救えるはずなのだ……」

シンは病室のベッドで携帯を弄っていた。それはゼクスに止めろと言われた行為、過去の自分に帰り家族と幸せな日々に興じる行為だった。
「具合はどうですかぁ?」
その行為を看護師の声に遮られる。少し前までは誰に話しかけられても気にならなかったが、最近は上手く行かない。何時までも自分の殻に閉じ篭っていたいのだが、だんだんと周りの事が気になり始めていた。
「さてと体温は」
シンが返事を返さない事に慣れた看護師は黙々と体調を調べ始める。そして一連の作業を終えると車椅子を引っ張り出す。
「さあ、散歩に行きましょう」
「別に良いです」
「そんな事言わずにぃ、そんなんじゃ何時まで経っても歩けないわよ」
「構いませんよ」
シンの体は殆ど完治していた。砕かれた骨も金属を代わりに入れる事で直っている。顔と胸の傷跡は残っているが、それもシンの体力が回復したら手術をして消す事になっている。
しかし問題はシンが食事をろくに取らず、更にリハビリを拒否しているため先に進めないのだ。
「まあまあ、外の空気を吸えば気持も変わるって」
「しつこいですね」
シンはウンザリしながら頭を振る。だが、この看護師に何を言っても無駄だと悟っていた。
今日も強引に車椅子に乗せられる。その途中その看護師の豊満すぎる胸が当たって赤面した。
「おお! 反応があった!」
「な、何がです?」
「ふふ~ん……スケベ♪」
「な!……知りません」
「でも、昨日までは反応無かったし……うんうん、回復してるよ」
嬉しそうに笑う看護師に半ば呆れながら、黙って車椅子で連れ回される事にする。
そして何時もの様に看護師は鼻歌を歌いだす。全く気にならなかった声が今日はラクス・クラインに似ていると気付いた。
(どうしてるんだろう?……ミネルバの皆は……それにマユとステラは)
それまで気にしない様にしていた事が、だんだんと気になり出す。
(もう嫌だ……)
だが、考えたところで名案が出るわけでは無かった。思い出すたびに胸が痛くなる。
取り返しの付かない行為、償える術などあるとは思えなかった。だったら何も考えずにいたいのに、頭の中ではマユとステラの影が呼びかけてくる。過去では無く、今の彼女たちが。
シン・アスカは、2年前もそうだった様に、絶望の海に沈んだままでは、いられそうになかった。