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W-DESTINY_第25話1

Last-modified: 2007-11-10 (土) 22:03:45

マユはステラに呼ばれて、そちらに向かった。ステラに抱きしめられるのは嬉しい。暖かいからだ。
基本的には寒い方が好きだったが、それとこれとは別だと思ってる。
「マユ♪」
そしてステラが嬉しそうに抱きしめる。恥ずかしいが嬉しいのは自分の方だ。
暫く、抱きしめらているとステラが小さく呟く。
「ちがう……マユじゃ無い」
「え?……ステラ」
「ステラ好きなのマユじゃ無い」
「そんな!」
ステラに突然突き飛ばされ、唖然とすると、離れた場所から良く知る声が聞こえた。
「ステラ、こっちだよ」
「シン♪」
ステラはマユを無視して、嬉しそうにシンの方へと向かった。
「なんで?……なんでマユじゃダメなの……」
ステラが兄に抱きしめられている。嬉しそうに、昔の自分の様に。兄とステラはマユが居ないかの様に
振る舞い、親しくしている。
「ねえ! こっち見て!」
そして2人同時にマユに視線を向ける。それは暖かさの欠片も無い冷たい視線。
「マユ……乱暴だからキライ」
「マユは死んでなきゃダメだろ」
冷たい拒絶。慣れてるはずだったのに、こんなに苦しい。それでも手を伸ばそうとすると、目の前から
2人が消え、同時に周りの風景も変わる。
「ここは……」
焼け爛れた大地に、空を飛ぶ蒼い翼のMSと大地を走る多数の銃口を備えたMS。
それは2年前の、マユが全てを失った場所。呆然としていると殺気を感じ振り向く。
「あなたは……」
銃を構える少年。冷たい殺人マシンが自分を狙っていた。
「た、助け……」
彼との戦いを楽しみにしていたのに、今は違う。恐ろしい。逃げようと後ろを向くと、そこには今まで
マユが手に掛けた者が全員マユを睨んでいた。
「お前を殺す」
少年は、そう呟くと引き金を引き、マユは目覚めた。
「……夢?……あの人……久しぶりに会えた」
そう呟くマユの表情は夢の中とは違い安らぎに満ちていた。

目覚めた後、マユはヘブンズベースの基地を出た所で海を眺めていた。
「おい、そんな所で、んな格好で寒く無えのか?」
「ん?……スティング?」
マユが振り向くとスティングが防寒着を着て立っていた。一方のマユは普段のシャツとスパッツに軍服を
肩にかけただけの格好だ。
「ううん涼しくて気持良いよ。最初はアイスランドって言うくらいだから、もっと寒いかと思ってた」
「そりゃあ、思ってたよりはマシだったが……周り雪積もってんぞ」
アイスランドは島国で、その周りを囲むように暖流のメキシコ湾流が流れているため、この緯度では
信じられない事に冬でも-10度は下らず、オーロラを観測出来る地域で最も暖かい。
しかし決して南国より暖かいわけでは無く、夏でも10度ほどにしかならない。マユの格好は常識外れの
誹りを受けても仕方が無かった。
「それより、なんか用?」
「いや、ステラが探してたからさ」
「……後で行く」
少し寂しげに呟くと再び海を眺める。
「なあ、何かあったか? 最近はステラにくっつかれるの嫌ってなかったろ」
「嫌いじゃ無いよ。たださ……自分が、あの人の代わりって思うと……」
ステラの温もりは好きだが、ステラの愛情が本来ならシンに向かっているのだとマユは知ってしまった。
それを考えると辛くなる。
「ああ、それか……お前さ、俺たちがディオキアで会ってたこと…」
「ストップ! スティング達があの人に会ってた事を責める気も、黙ってた事に文句を言う気も無いの。
 でも、その事には触れないで」
スティングは頭を掻いて黙り込んだ。マユがシンの事を知った以上、ディオキアでの事を説明しようと
したが、マユは頑なに聞くのを拒んでいた。
「まあ良いか……でもさ、これだけは聞いておいてくれや」
「聞きたくない」
「我慢しろ。ステラがシンに懐いた切欠は、シンとそっくりな目をした誰かさんと仲良くしたかった
 からだ」
「え?」
「ステラのやつ、その誰かさんに何か苦手意識持っててな、それを克服したかったんだよ」
「じゃあ……」
「テメエは代わりなんかじゃ無えよ。アイツな俺達の事、羨ましがってたんだ」
「俺達って……?」
「俺とアウルだよ」
マユは胸が痛むのを感じた。一緒に居ると、スティングとアウルがどれだけ親しかったか分かる。
だが、アウルは死んだ。最後に自分を守って、兄のシンに殺された。
「俺達がカードやバスケしてるのをアイツ黙って見てるんだよ。きっと欲しかったんだろうなダチをさ」
「マユが……トモダチ?」
「そうなりたかったんだろ?……イヤか?」
「ううん……」
「だったら問題ないな」
「でもね……トモダチって何?」
「は?」
「この前もネオが言った普通の生活って言葉、良く分からなかった」
「それは……」
スティングは口篭る。スティングにはエクステンデッドとしての記憶しか無かった。言わばスティングの
普通とは戦闘に勝つために訓練し戦闘することである。そして休暇とは次の戦闘の準備期間なのだ。
その意味では過去の記憶があるマユの方が分かるはずなのだが、スティングはマユが過去を思い出す時、
他人事のように話すのを知っている。
「……すまねえ。わからん」
「ううん、気にしないで良いよ。それより…」
マユはアウルの事を謝りたい気持だったが、それを口にするのは躊躇われた。逆にスティングを怒らせ
かねない。彼自身、態度に表さないがアウルを守れなかったと、自責の念を持っているのが感じられた
からだ。だから別の事を伝える。
「…この前、助けてくれて嬉しかった」
「は?」
「ミネルバから逃げ出した後。正直、ダメだと思った。そんな時にスティングが来てくれた……あの人と
 違って……だから、アリガト」
スティングは思ってもいなかった暫く唖然とすると、頭を掻いて踵を返す。後ろを向いて手を挙げると、
そっけなく呟く。
「借りにしとく」
スティングらしい態度にマユは微笑みを浮かべ、何時ものマユらしく不敵な喋り方をする。
「直ぐに返すよ。だから少しくらいドジっても構わないから」
「言ってろ」
「ルナ! 右へ回り込め!」
「了解!……今日こそ一矢報いてやる!」
ルナは、そう叫ぶとフォースインパルスのバーニアを吹かし、インフィニットジャスティスの右側へと
回る。
「う…うう……!」
フォースのGにルナは顔を顰める。グフより遥かに上だが、今までシンは自在に操っていたのだ。
泣き言を言うわけには行かない。
そして、インフィニットジャスティスに向けビームライフルを構える。
「さあ……」
レイの考えは事前に聞いていた。レイのレジェンドが放つビームの雨を避けた時が狙い目。
「来た!……」
レジェンドが背部のドラグーンシステムを切り離さずに、その6門のビーム砲を一斉に前面へと向け
同時にビームを放つ。
「……そこっ!」
急降下したインフィニットジャスティスにビームライフルを放つ。だがビームが当たる直前に目標が
2つに分離して、その間をビームが通り抜ける。
「え?……ちょっと!」
分離した片方、ファトゥム01が先端からビームの刃を展開し向かってきた。
「正気ですか! もう!」
毒づきながら、慌てて回避する。だがインフィニットジャスティスがファトゥムを切り離した以上、
本体に飛行能力は無くなる。まずはファトゥムを戻さない様に気を付けなければ……
「ルナ! 拙い!」
レイが慌てて叫ぶ。だがレイの言葉の真意が分からずインパルスに向かってきたグラップルスティンガー
を回避するとワイヤーが脇を通り抜けた。
そしてワイヤーに繋がれた爪はファトゥムの背面に設置されたグリップをしっかりと掴んだ。
「あ!」
ようやくルナはレイの叫びの意味を悟ったが、すでにジャスティスの落下は無くなってしまった。
「チッ、ルナ! 隊長を上がらせるな!」
レイはインフィニットジャスティスがファトゥムの方へ上がるのを警戒して、ルナに注意する。
「OK!」
ルナが返事と共にファトゥムにぶら下がる格好のインフィニットジャスティスに注意を向けると
ゼクスの冷たい声が聞こえた。
「貴様等、私を甘く見すぎだ」
ゼクスは、そう呟くとファトゥムを全速で旋回させ始めた。
その動作は、ファトゥムとインフィニットジャスティスの間に居るインパルスの身体を、ワイヤーで
巻きつける事になり、インパルスを拘束したところでグラップルスティンガーの爪をファトゥムから
外すとシールドを捨てる。
「は?……ちょっ! 女の子縛るなんてへんた~い!」
「黙れ!」
ワイヤーで、グルグル巻きにされて落下するインパルスの中で叫びながら、ルナはレジェンドが追い
詰められ、やがて撃墜されたのをモニター越しに見ていた。

「また負けた……」
「今日はいけると思ったのだが……」
模擬戦を終えると、レイとルナはMSを降り、今日の戦闘を振り返った。
「だいたい何なの! あのビックリドッキリメカは! 作った奴の顔を拝んでみたいわ」
「反対はせんが、知らずに済ませたくはあるな……それより、良く使いこなせるものだ」
「前回はソードで接近したら蹴りで斬られたし……」
「接近戦は危険だと分かってはいるが、ビームシールド展開して突っ込んでくるからな」
話していると、ゼクスがインフィニットジャスティスから降りてきて、2人に声を掛ける。
「さて、今日の戦闘の注意点だが、ルナマリア、貴様は注意力が散漫すぎる。もっと気を配れ」
「はい……気をつけます」
「だが、随分とインパルスに慣れてきている。この調子で頑張れ」
「はい!」
「そしてレイだが、貴様はレジェンドをもっと上手く使え。あれを遠距離戦用のMSと思うな」
「ですが、レジェンドは遠距離戦がメインの機体ですが?」
「それは宇宙での話だ。ドラグーンを使えない以上、遠距離戦は出来んだろう。それにだ私が
 ドラグーンを持つ機体と戦えば如何に接近するかを考える。だが接近しても強いとなれば死角が
 無い……これは脅威だぞ」
レイは敵の立場から考えると、確かにそうだと思った。近接装備も充実しているレジェンドは接近を
嫌がった敵をドラグーンで沈める事も出来る機体なのだ。
「そう言えば、隊長の世界では似たものがあったのですか?」
「いや、無かったな。だからこそ厄介なMSだと思う。それこそ斬り合いをしていたら後ろから
 いきなり撃たれる事もあるのだからな」
「そうですね……了解です。もっとレジェンドの能力を引き出して見せます」
「ああ、貴様なら出来る。それでは今日の訓練は以上だ。解散する」
レイとルナはゼクスに敬礼をするとゼクスが去るのを見送った。
「う~ん、やっぱり元気無いね。隊長」
ルナはゼクスの注意点が甘い事を感じ取る。もっと厳しく言われても仕方が無い成績だった。
「仕方があるまい。それより戦闘には全く影響が出ないことの方が驚きだ」
「分かってるなら見習いなさいよ。隊長は言わないけど、今のレイ、ヘボいよ。レジェンドの性能が
 宝の持ち腐れ」
「わかってる」
レイは俯いて自分の弱さを詰った。だが、あの時の光景が忘れられない。あの憎しみに満ちた、シンと
同じ赤い瞳が自分に敵意を向けてきたのが、脳裏に焼きついていた。
そしてシンの最後に見た姿、まるで抜け殻の様で何も出来ない自分が辛かった。そこはゼクスの様に割り
切るか、ルナの様に前向きに考えるかしないとは分かっているが、頭で分かっていても上手く行くか
どうかは別だった。
「シンは戻ってくるよ……もし、ここで潰れる人間だったら私達は出会っていなかった」
「そうだな……2年前もアイツが家族を失った苦しみを超えたからこそ、俺達は出会えたんだな」
「そうよ。だから今回も……今回は出会いじゃ無く再会だけど」
「ああ……そう言えばルナ、お前は決心したのか?」
「え~と、怪我が治るまでに考えろって言ってたアレ?」
それはスエズで入院しているルナに出された宿題。
この関係を維持して、自分の気持が変わるかシンの気持が変わるのを待つか、更なる苦しみを覚悟して
思い切って気持を伝えるか。
「そうだ……って、野暮だったか」
「気にしないで。レイには伝えた方が良いよね……まあ、それなりに決め台詞を考えて突撃するつもり
 だったんだけど」
「肝心のシンが居なかったと?」
「へこんだわ……」
「だったら、なおさら戻ってきてもらわんとな」
「うん。それより立ち話もなんだし食堂に行こうか」
「ああ、そうだな」
「じゃあ、シャワーを浴びて30分後に」
「了解だ」

レイとルナはシャワーを浴びて着替えた後、食堂の前で合流し、そのまま食堂へと入った。
すると、そこにはアスランが1人でコーヒーを飲んで黄昏ているのを見つけた。
「あれ、アスランさん」
「ああ、レイとルナか。訓練は終わったのか?」
「はい、今日も完敗でした。レイの所為です」
「待て、最初にやられたのはお前だ」
アスランは2人のやり取りに笑いながら、MSの調子を尋ねる。
「2人とも新しい機体には慣れたか?」
「少しは、ってとこですね」
「同じく……やはり、まだ続くのでしょうか?」
「停戦交渉は続いているが、態度がコロコロと変わる。あれは明らかに時間稼ぎだな」
アスランの表情に苦いものが浮かぶ。
「やはり、モビルドールを解析して使うつもりですか」
「だろうな……かと言って、コチラから何かアクションをかけようにもな」
「どうせ、何の事でしょう? と返されるのがオチですね」
「そうだ。本気で厄介な事になったよ」
「ロドニアのデーターを公開すると脅してみては?」
「無駄さ、それこそ時間稼ぎを手伝うだけだ。だからアレは次の戦闘前に公開する」
「戦意高揚のためですね」
政治向きの話に割り込めなかったルナが、次の戦闘と聞いて質問してくる。
「次の戦闘は何時になるんです?」
「こちらもスエズでのダメージが大きいし、回復を考えれば後一月くらいは動けないな」
「一ヶ月か……それまでに何とかインパルスを扱えるようにしないと」
「俺もだな」
「隊長が異世界の良いトレーニング方法を伝えてくれれば」
「だから、そんなもの無いと言われただろ」
「まあね……結局は地道な訓練こそが身を結ぶんだよね」
「向うは機体からして違うから、それに慣れるんだろう……何しろゼクスは15Gのモンスターに
 乗ってたらしいぞ。おまけに後になると、それが物足りないと感じたって」
「吐く、絶対に吐く」
「それだけで済めば御の字だな」
「まあ、最初は肋骨を折ったらしいが」
そこまで言ってアスランは2人の反応に疑問を持った。2人はザフトのレッド。トップエリートなのだ。
例えばゼクスがナチュラルだとイザーク辺りが知れば、良い顔はしないだろう。なにしろ殆どの
コーディネーターはナチュラルを見下しているのだ。
「お前等はゼクスがナチュラルと知っても動じないんだな」
「え?……つーか、普通は異世界の方がビックリするでしょ? ぶっちゃげ有り得ないッス」
「そうなんだが、俺が言いたいのは、お前等はナチュラルを見下していないだろ? それを疑問に
 思ったんだ。もし理由があるなら教えて欲しいな。参考にしたい」
アスランの態度は真摯だった。彼の目的がナチュラルとコーディネーターの共存であり、なおかつ先日、
ラクスに言われたコーディネーターがナチュラルを支配する世界になる現状を否定するには、レイと
ルナの態度が参考になるかもしれない。
「え?……いや、別に私だって戦闘中とかナチュラルめぇ~って、なりますよ」
「それは戦闘中だろ。戦闘中は相手を同じ人間と思っていたらやっていられない部分はあるし、
 褒められた事では無いが、仕方が無いとは思うさ。
 だが、お前等はゼクスの部下って立場に不満を持っていない。殆どのコーディネーターはお前等の立場、ナチュラルの
 ナチュラルの部下になったら不満を持つはずだ」
「え~と……だ、だって隊長って実際に強いし……そ、それに…」
ルナが口篭っているとレイが苦笑しながら会話に割り込む。
「ルナはすでにナチュラルの俺に負けていますから」
「ああ、なるほ……え? 今、何て言った?」
「ですから、俺はナチュラルなんです。もっともナチュラルと言うのがコーディネーター以外を差す言葉
 の場合ですが」
ルナが心配そうな表情で2人を見詰める。彼女だって多くのコーディネーターがナチュラルを蔑視して
いるのは承知している。アスランに限って、そんな事は無いと思うが、レイの秘密はそれだけでは、
無かった。
そして、アスランの口から出た言葉はルナの心を大きく揺さぶるものだった。
「コーディネーター以外……クローンか?」
「な! なんでそれを?」
ルナがアスランの言葉に驚く。レイの秘密を知る者はミネルバにはルナの他にはシンだけだった。
メイリンにでさえ教えてはいなかった。
それをアスランは口に出した。しかし言われた本人、レイは至って冷静だった。
「やはり気付いていましたか」
「気付いてはいないさ……ただ似てるとは思っていた」
「ええ、俺はラウ・ル・クルーゼ、正確に言えば、彼と同様、アル・ダ・フラガのクローンです」
ルナの表情が怯えを含み始める。クルーゼはある意味パトリック・ザラ以上に憎しみの対象として、
歴史に名を刻んでいる。アスランが悪い印象を抱いても仕方が無いと言える人間だ。
ルナはアスランにレイを嫌って欲しくは無かった。

「そうだったのか……じゃあ身体は大丈夫なのか?」
「え?……と言いますと?」
「聞いた話だとテロメアの関係で……」
アスランは言い難そうに口篭る。気にはなるが、自分でも無神経な質問だと自覚はしていた。
「ああ、残念ながら、長生きは出来ません」
だが、レイはさらりと答える。それは全てを受け入れ、それでいて決して自棄にはなっていない。強い
眼差しを伴っていた。
「そうか……変な事を聞いた。すまない」
「気にしないで下さい。それより有難う御座います」
「え? 何がだ?」
「俺を受け入れてくれたと思っても良いんですよね?」
「ああ! そうか、気にしてたのか」
「正直、恐ろしかったです……貴方に憎まれても文句は言えない立場ですから」
レイはアスランに拒絶される可能性は考慮していた。クルーゼの事は今でも慕ってはいるが、彼の行為に
賛成している訳では無い。ましてやアスランはクルーゼと敵対し、ある意味では父親のパトリックも
クルーゼの被害者だった。
アスランがクルーゼを、そのクローンのレイを憎んでも仕方が無いと思っていた。
「遺伝子が同じと言っても、お前とクルーゼ隊長は別人だろ。それに俺は、あの人の事を憎んでいないと
 言えば嘘になるが、だからと言って否定する気もしない。
 2年前はあの人に限らず皆が憎悪のままに進み、暴走した。その過ちを繰り返さないためには、あの時
 もっとも強い憎しみを抱いていたあの人の気持を理解できればと考えてはいる。
 まあ、他にも考える事が多すぎて答えは出てないがな」
「それは……俺も知りたい事です」
「だったら、お前も考えるのを手伝ってくれ。過ちを繰り返さないためにも」
「はい」
「それにしても助かったよ。お前等とゼクスの関係が変になったらって心配してたから」
「それに関しては問題ありません。今は居ませんがシンも」
「アイツも知ってるのか?」
「ええ、そもそもシンは最初からナチュラルを見下す人間ではありません」
「それはまあ、オーブに居たんだし……」
「そんなレベルじゃありませんよ。俺の場合はナチュラルと言っても、優秀だと自惚れ、事実そう思って
 も仕方が無い男のクローンですから才能はあります。
 ですが、アイツは元々、戦闘には不向きなんですよ。親は科学者でした。そっち方面に調整された
 コーディネーターの子供ですから」

ジブリールはヘブンズベースに到着すると、ネオの訪問を受けていた。
「お久しぶりです。盟主殿」
「ああ、ロドニアの件、ご苦労だったな」
「いえ、私は何も出来ませんでしたよ。それどころか下手すれば全滅の憂き目に合っていたでしょう。
 アレの件はマユの功績です」
「違うな。貴様の決断が、その結果を呼んだのだ。凡庸な男ならザフトのロドニア攻めを聞いても
 何も出来ずに終わっていた。
 そして今頃は、連合が圧倒的に不利な条件で停戦条約が結ばれていたやも知れぬ。そうならなかった
 のは貴様の功績だ。改めて礼を言う」
「は! 光栄です」
ジブリールはネオを労うと、少し辺りを見回す。
「ところでマユは?」
ジブリールは自分が来たら、マユは必ず来るだろうと思っていたのだが、一向に姿を見せる様子が
無いので、疑問に思っていた。
「マユでしたら、ステラと温泉に行っていますが」
「お、温泉?」
「はい、アイスランドは温泉が多いので……」
「いや、そうでは無くだ。何故あの子が?」
「何故と言われましても……ステラが興味を示して、マユを誘った模様ですが」
「だが、誘われて付いて行く娘では、あるまい」
ジブリールが知る限り、マユは誰にも心を開かず、唯一、モルモットとして監禁されていたところを
外へ連れ出したジブリールに気を許しているだけで、それ以外は全て敵と見なしていた。
「最近ではステラの言う事なら大抵は聞きますが」
「ま、まさかマユが私以外の人間に懐くとは……」
「え~……嫉妬ですか?」
「ち、違う! 驚いただけだ!」
「そうですか。まあ、なんでしたら私共も後で行きませんか? 怪我にも良いらしいので、私も
 行きたかったんですよ」
「貴様とか?」
「そんな嫌そうな顔をせんでも……」
「まあ、良いが……それより貴様の怪我は完治したと聞いたが?」
「少し肋骨が……軽い肋軟骨骨折ですから、すぐに治りますが」
「ん?……そんな怪我が何故完治していないのだ?」
肋軟骨は骨折しやすいが、同時に回復しやすい部位だから、真っ先に完治するはずだった。
それなのに未だに続いているのを不思議に思った。
「いえスエズ戦の怪我では無く、マユに突っ込みを受けて……」
「それは、まあ……それより兄に再会したと聞いたが?」
「それよりって、やはり俺の肋骨はそんな扱いですか……まあ、ミネルバで再会した模様ですが、
 今のマユにとっては、兄よりステラとスティングの方が重要なようです。まあ、本人がそう思い込んで
 兄の事を考えない様にしてる節がありますが」
「そうか……」
「その、ところで例の件ですが」
「うむ。すでに指示は出しているが」
ジブリールは最初からネオの訪問の理由を察していた。先日、ネオがスティング等に言った言葉。普通の
生活を送らせるには、彼等に重大な問題があった。
それはエクステンデッドとして肉体を改造されたため、常に薬物を摂取する必要があり、更にはそれを
続けても、そう遅くない内に肉体が崩壊してしまうリスクを背負っている事だった。
「命じはした。だからと言って完成は……」
ジブリールらしく無く、言葉を濁す。
だが、ジブリールにも、どうしようもなかった。ネオの希望であるスティング達を普通の人間の生活が
出来る身体に戻すには、これまで強化に費やしたのと同じくらいの熱意を持って取り組まなくては、実現
出来そうにも無い。だが、連合の強化人間計画はコーディネータを倒さんと、ブルーコスモスのメンバー
がコーディネーターに嫌悪感を持ち、それを倒す事に名誉を感じる科学者を集めて行われた研究なのだ。
そんな彼等が強化人間を普通の人間に戻す研究に熱心になる理由は薄い。
しかも研究の内容から決して表には出せないから世間の喝采を浴びる事も出来ず、そのため外部から
新たな研究者を集うのも難しかった。
「ですが、彼等の境遇に同情する者がいても……」
「仁医……過去の遺物だ。今の世にそんな奇特な人間はおらんよ。いたとしても我々の情報に懸からん。
 世界はとっくに歪んでるのだよ!」
ジブリールの言葉には、彼がコーディネーターを倒さんとする思想の原点が含まれていて、その気迫に
ネオは圧倒される。
「だが、手はある。おそらくザフトは全力で解明してるだろうさ。なにしろ奴等は解明すれば、自分達を
 正義と世間に分かりやすく見せ付けられる」
「では?」
「この戦争に勝てば、奴等の研究成果を奪うのも可能だ」
「……なるほど、勝たねばならない理由が、また1つ増えましたな」