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W-DESTINY_第27話1

Last-modified: 2007-11-10 (土) 22:04:57

ザフト軍がジブラルタル基地を出港し、オーブ軍がヘブンズベース基地に到着した頃、ヒイロ・ユイはテレビに映るニュースを見て、顔を顰めた。
「明日は豪雨か……漁は厳しいな」
必要な情報、天気予報を見るとテレビのスイッチを切る。最近では戦争のニュースが多いが、ヒイロはあえて見ないように努めていた。
だが、何故そうしてるかは、戦争という響きに戦いたがる戦士としての自分が出るのを恐れているのか、それとも自分から戦争の匂いを消したいと願う稚拙な願いからなのか、自分でも判断出来なかった。
もっとも、ニュースを見なくても宿屋の手伝いをしていれば、客の会話である程度の情報は入ってくる。
以前、オーブで出会ったアスランが、今や英雄として民衆の期待を背負っている事には感慨深いものがあった。そして、彼の口座から勝手に金を拝借したままだと思い出す。最近では手に職が付き、使い道の無い給金もそこそこ入ってる。近いうちに返そうかと考えてると、宿の女主人に声を掛けられた。
「漁の手伝いは無しかい?」
彼女は話しかけながらも作業の手を休めない。今はヒイロの遅めの朝食を準備していた。
「これではな……簡単なやつなら船を出せるだろうが」
「簡単な漁ならアンタに手伝いを頼んだりはしないか」
「ああ、遠出の予定だった」
「そりゃあ、仕方が無いね。はいスープは余り物だけど」
そう言って、パンとチーズに野菜スープが出される。
「問題無い」
「まあ、チーズは美味いから安心しなよ」
からかうようにチーズを薦める。それはヒイロが作ったものだった。酪農の手伝いを始めるようになって始めたものだが、意外な手間に最初は戸惑っていた。人数がいれば簡単でも、力仕事が出来る人間が少ないため、ほとんど1人でやらなければならない。そのため上手く行った自信は無かった。
「店での評判は?」
「上々。本当に器用な子だね」
「教えられた通りにやっただけだ」
謙遜しながらも、内心では安堵していた。意外と上手くやれたらしい。
「それで上手く行くんだったら誰も苦労はしないさ。みんな喜んでるよ」
「何故だ?」
「良い子が、この街に来たってさ。ずっと居てくれるんだろ?」
その言葉に、嬉しい気分と共に、言いようの無い寂しさを自覚していた。
「……帰る所が無いからな」
改めて、自分はリリーナとは会えないのだと確認せずにはいられなかった。
「ふ~、寒い寒い」
ユウナはオーブ軍の簡易司令室となってる輸送機に入ると、出されたコーヒーを手に取り口にした。
先程までヘブンズベースにいたのだが、移動中の車内でさえ冷たい外気が感じられた。
「さすがにオーブに比べ、アイスランドは寒いね」
「何を悠長な! あれでは、まるで脅しでは無いかですか!」
落ち着いてるユウナに、これまで黙っていたアマギが先程のヘブンズベースでの会話を思い出しながら怒りを爆発させる。
案内を担当した仮面を被った大佐は、彼等にデストロイを見せ、その性能を説明したのだ。
「まるでって、あれは本気の脅しだよ」
このデストロイなら都市どころか国すらも焦土に変えてみせると。
「だったら何故、その様に悠長に構えていられるのです!?」
「慎め! アマギ!」
先程から黙っていたキサカが一喝して、アマギを抑えるがユウナは手を振って気にしないとジェスチャーを送る。
「気持は分かるよ。でも、今回は完全にやられたって認めようよ。核融合って餌と、デストロイって鞭。
 こちらは従うしか無いね」
協力すれば核融合の設計図を教えると示唆され、暗に拒否すればオーブにデストロイを送り込むと脅迫されたのだ。
ユウナがいくら頭を悩ませても、逃れる術は無かった。
「なんかさ、今までサボってた分、頑張って取り戻せって事なんだろうけど…」
「すまない」
オーブが、これまで戦闘を避けてきた理由は建前にも使ったブレイク・ザ・ワールドでの被災地の支援復興と共にスエズ等の大戦を避けたかったのがある。だが、同時にオーブの理念を内心では守りたいと願うカガリに慮っての事でもあった。
それにキサカにとっては、それこそが最大の理由であったため、自分がカガリの代わりに責任を感じて謝罪してきたのだ。
「だから保護者気分は止めようよ」
その態度にはユウナも苦笑するしか無かった。だが、これまで伸ばしたのは自分の決断だとユウナは思っていたし、すでに手遅れな事を嘆いても仕方が無かった。
「それよりさ、あの女の子だけど、やっぱりアレかな?」
デストロイを紹介してる時に、同時に紹介されたパイロットの少女は紅い瞳を持ち、顔に傷があった。
「間違いあるまい。バルトフェルドとマリューを殺害したのは……そしてアレも脅しの1つだ」
「なんでさ?」
「私は個人の人間をあれほど恐ろしいと思った事は無い。アレの前では多少の警備など無駄に終る。
 それ程の強さを感じた。アレに狙われては2年前のようにカガリを脱出させるのも不可能だろう」
「まあ、戦場から離れて長いとは言っても、あの砂漠の虎を仕留めた相手だからね」
「それに、あれだけの特徴だ。あの少女が例の事件の犯人だと我々が感付くのを承知で紹介している。
 抜け抜けと、最近ザフトを脱走してきたパイロットを保護したなどと偽って」
「確かに、あれだけバレバレな嘘を吐くって事は、こちらを舐めてるんでも無い限りは脅しって事だろうね。同じ目に合わせるって言う」
「その通りだ」
「う~ん、それで他に気付いた事は?」
「イヤ、何も無かったが……何か不自然な事でもあったか?」
「それなんだけどさ、確かに核融合もデストロイも凄いけど、あれだけ頭の回る連中が、それだけでザフトに逆転出来るって考えてるのは、ちょっと弱すぎない」
「何故だ? 1機では無理だろうが、量産すれば…」
「誰が乗るのさ?」
ネオがこの会話を聞いてれば己の失態を悔やんだであろう。最初はマユを隠しておくつもりだったが、より脅しを完全にするために、パイロットのマユをワザワザ紹介したのだ。
ネオは完全にユウナを手玉に取ったつもりだが、逆に不自然さを感ずかれてしまっていた。
「ザフトの脱走兵は嘘でも、彼女はコーディネーター、しかも子供だ。そんな人間をパイロットに選ぶ機体って事は、誰にでも扱える代物では無いんだろ?」
「では、他にも切り札が?」
「その前提で行こう。僕とキサカは、そっちに気を回すから、アマギ、指揮は頼んだよ。まあ、最初からその予定だったんだけど」
部隊の指揮が不得手な2人に代わり、トダカが廻してくれたアマギ一尉が指揮する事になっていた。
「承知しております」
「で、現在の状況は?」
「すでにムラサメは装備を長距離飛行用のプロペラントタンクから対艦ミサイルに変更、戦闘モードに代わっております。それに…」
現状の確認をアマギの口から聞くと、ユウナは頷いた後、空を見上げて呟く。
「さあ、アスラン。久しぶりの再会を楽しみにしてるよ」

アスランはミネルバのブリッジから、ヘブンズベースの包囲を完了するのをジッと見つめていた。
シンは、未だ到着していないが、彼を待って開戦を遅らせるわけにも行かなかった。
すでに降伏勧告は出してあるが、元より聞くとは思っていない。それよりもオーブの存在が色んな意味で悩みの種になっていた。
「良い動きをしそうですな。あれがムラサメですか?」
アーサーがタリアに話しかけているのが耳に入った。アーサーの言う通り、ヘブンズベース上空を飛行するムラサメの動きは滑らかで、敵に廻すのは厄介だと思わせるものがあった。
元よりオーブ軍は、その理念から自国を守る事に主眼を置いてるため、そのMSも大気圏内での戦闘をメインに造られている。どちらかと言えば宇宙空間での戦闘を得意とするザフトのMSより、この場では有利に動ける。
「メイリン、オーブ軍との回線を開いてくれ、周りに聞こえる様にだ。少しは戦意を下げられるかもしれない」
「え?……は、はい!」
意外そうな表情をするタリアとアーサーに笑って見せる。
「オーブにも事情はあるだろうが、基本的にあの国は理念に縛られているので、そこを突いてみます。
 ユウナには無理でも、兵を動揺させてみる価値はある」
アスランは自分で言いながら、足が震えそうになるのを抑えた。あまり正々堂々とした戦い方では無い。
それどころか、自分は相手の弱みにつけ込む方法を、第2の故郷と言えるオーブに取ろうとしている。
「な、なるほど」
「回線、繋がりました」
「回してくれ」
アスランが呼吸を落ち着けてると、モニターにユウナの姿が映った。戦場にありながら、気負いを感じさせない相変わらずの姿があった。
「私はプラント…」
『止めようよアスラン、そんな堅苦しい挨拶はさ。久しぶりだね』
「……はい。お久しぶりです。お元気そうで」
『まあね♪ 君の活躍は耳にしてるから心配はしてなかったけど、一応はアスランも元気そうで何より」
「はい」
『うん。ところで何か用かな?』
アスランは、すでにユウナのペースに嵌っている事を感じながら、気力を奮わせ声を上げる。
「撤退して下さい」
『それは難しい事だね。こっちにも、しがらみってものがあってさ」
「オーブの理念は、他国を侵略さず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介しない、のはずです。
 しかし、今のオーブの行動はそれから外れている。こんな戦争をカガリは望んでないはずです」

アスランは自分の言葉に通信を聞いていたオーブ兵が動揺しただろうと感じた。
カガリの名を持ち出す自分が矮小に感じられたが、やらねばならない事だ。
『そりゃあ、当然カガリは望んでいないさ』
「え?」
アスランはユウナが否定するだろうと思っていた。カガリが望んでいない事を知ればオーブの将兵の士気は激減する。指揮官の立場としては絶対に避けるべき事のはずだ。
しかし、ユウナはあっさりと認める。
『何を驚いてるんだい? カガリがオーブの理念を、亡きウズミ様の意思をどれだけ大切に思っているか君だって、いや、ここに参戦しているオーブの将兵の全てが知っている事だろう?
 でもね、それでも参戦しなければならないと思ったからこそ、僕達はここにいる。カガリに嫌な思いをさせてまでね。いや、ちょっと違うな。カガリは、オーブのために、オーブの国民のために自分の感情を押し殺して、参戦を承知したんだよ』
これでオーブの将兵の動揺は収まったとアスランは見て取った。さすがはユウナと賞賛しながらも、完全にやられたと、アスランは表情に出さずに悔やんだ。自分は、これまで政治面ではかなりの激務を重ね、随分と成長したつもりだったが、未だにユウナに届かないと感じた。
『それにね。僕が臆病者だって事も知ってるだろ? 僕は君みたいな勇敢でも優秀な戦士でも無い。
 中将の地位も単なる看板にすぎない。
 だから分かるんだよ。誰だって戦争は望んでいないってさ。それでもやらなきゃダメなんだよね。
 これがさ……そっちこそ何とかなんない?』
アスランは負けたと感じると、今度は逆に楽になった気がしていた。ユウナに口で勝とう等、随分と自惚れが過ぎたと反省し、素直な気持で応える。
「何とかと言われましても……こちらも下がる訳にはいかないんですよ。随分と期待されてまして」
『あ~、分かる分かる。今や時代のヒーローだもんね。そっちも大変だ』
「お互いに難儀な立場に立ってしまいましたが……この戦争が終れば、また向き合って笑い会える日が来るのを願っています。少なくとも俺は、そんな世界にするのが目的ですから」
『……そうだね。応援は出来ないけど、何時か会いたいとは思ってる』
「はい。それでは失礼します。お元気で」
『うん。そっちも……って、やはり不味いか?』
「そうですね。これから俺達は互いに討ちあう間柄でした」
『それじゃ』
ユウナが画面の中で手を上げると通信が切れユウナの姿が見えなくなった。
「まいったな……本当に」
アスランは敗北感と同時に、カガリを支える者がいる事に安心感を感じていた。
そんな微妙な安堵と嫉妬と失敗を胸にウィラードに命じる。
「時間だ。攻撃開始」

「いや、参った……アレ本当にアスラン?」
ユウナはへたり込むように椅子に身を任せ、キサカに愚痴る。
最初は堅苦しい雰囲気だったが、途中から穏やかに変わった。しかし穏やかになった途端、逆に凄まじいプレッシャーを与えてきたのだ。
本人は意図どころか気付いてさえいないだろうが、そこには、紛れも無く英雄と称されている人物の姿があった。
「あれほどの支持を集めてる人間だ。人間の重みが変わるのも当然とは言えるが……」
「だからって……」
ユウナは画面越しに伝わるアスランのプレッシャーから開放されて、安堵の息を漏らしている。
それを見ながらキサカは無理も無いと思っていた。横で見ていただけの自分でさえアスランから威圧感を受け、背中に汗をかいているのだ。よくも普段通りの態度を取れたと感心すらしていた。
「本当に変わったな……」
「ほんの少し前までは、ザフトのエースってのが信じられないくらいの頼りない坊やだったのにね。
 まあ、僕に言えた事では無いか」
「お前の場合は、頼りない坊やに見える食わせ者だろうが」
「酷いな。それにしたって、王道を歩む人間のプレッシャーを感じられたのは良い経験かな」
「王道? どちらかと言えば覇道の方だろう」
「そんな事は無いさ。本人の資質が戦士だとしてもアスランの場合は多くの支持を背景にした強さだ。
 強引に従わせるやり方は取ってないからね」
ユウナの基準では、正しいと思われる未来のために、民衆の心の代弁者として突き進むものを王道、その場の民衆の感情を無視して改革を進めるのを覇道だと思っている。
そして、今の混迷の時代は民衆の欲望が起こしている部分が大きいので覇道も仕方が無いと考えていた。
「なるほどな……」
「おっと、時間だ。始ったよ」
降伏勧告の刻限が過ぎて、ザフト軍の攻撃が開始されていた。すでに幾つかの戦場で戦闘が開始されてMSが飛び回っていた。
「それじゃあ、アマギ。戦闘の指揮はよろしく」
「了解です!」
「それとキサカは戦場の様子をしっかりと確認。何が出てくるか、何も出なくても不自然な所を絶対に見逃さないでよ」
「承知した」
そう言いながら、ユウナは戦場の様子を映すモニターを見つめだした。全ての神経を動員して、何が起ころうが、それを見逃さないと決意しながら。